説明

水溶性焼入液組成物

【課題】優れた抗乳化性能を有しており、従来公知の水溶性焼入液よりも効率良く、水溶性焼入液に混入した他油成分を分離でき、塩素分を低くすることで、防錆性能低下を防止できる抗乳化剤を含有する水溶性焼入液組成物を提供する。
【解決手段】ポリエチレンイミンとグリシジル基含有4級アンモニウム塩とを反応させることにより製造される、カチオン性ポリエチレンイミンの4級アンモニウム塩からなる抗乳化剤を含有する水溶性焼入液組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶性焼入液に添加して使用される抗乳化剤を含有する水溶性焼入液組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
金属の焼入れ工程において、水溶性焼入液は高周波焼入れやズブ焼入れに使用され、水溶性焼入液組成物(原液)を水で5〜25%に希釈して使用されているが、使用時に当該焼入液以外の混入物、例えば、油圧作動油や焼入れ材料に付着した防錆油成分、前工程の油溶性及び難溶性の加工油剤成分が、水溶性焼入液に混入し、乳化される。その結果、焼入液の冷却性能が変化し、硬度不足や焼割れ、歪が生じる。また、焼入液が微生物によって腐敗し易くなって、液寿命が短くなり、機械周りの汚れが生じ、作業環境にも悪影響を及ぼす。
【0003】
上記水溶性焼入液組成物には、従来から抗乳化剤を添加しておくことによって、該組成物の水希釈液から混入油を浮かせて、油水分離を容易とし、水溶性焼入液内を清浄に保ち、水溶性焼入液の寿命を向上させ、機械周りの作業環境の悪化を防止することが行われている。
【0004】
例えば、分野は違うが、水溶性加工油剤に塩基性窒素原子を有するポリアルキレンポリアミンとジハロゲン化エチルエーテルとの重縮合物、ポリエチレンイミン、脂肪酸第4級アンモニウム塩等のカチオン性抗乳化剤を添加したものがある(特許文献1参照)。そしてそれらのカチオン性抗乳化剤を水溶性焼入液組成物に添加したものもあるが、該水溶性焼入液の抗乳化性能が不十分であったり、塩素分が多いため防錆性能が低下したりする場合もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4−277598号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、優れた抗乳化性能を有しており、従来公知の抗乳化剤よりも効率良く、焼入液に混入した他油成分を分離でき、含有する塩素分を低くすることで、長期使用における塩素分の蓄積を抑え、防錆性能の低下を抑制できる抗乳化剤を含有する水溶性焼入液組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、水溶性焼入液に添加する抗乳化剤が下記一般式(1)で表わされるカチオン性ポリエチレンイミンの4級アンモニウム塩であることにより、課題を達成し得ることを見出し、これに基づいて、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明は、以下の抗乳化剤を含有する水溶性焼入液組成物を提供するものである。
【0009】
1.一般式(1)
【0010】
【化1】

【0011】
(式中、R1〜Rは、同一又は異なって、炭素数1〜10のアルキル基又はアルケニル基を示し、XはCl、F、Br、I、HSO又はCHSOを示す。また、m及びnは、それぞれ正の整数であり、m+n=2〜250である。)で表わされるカチオン性ポリエチレンイミンの4級アンモニウム塩からなる抗乳化剤を含有する水溶性焼入液組成物。
【0012】
2.R1〜Rがメチル基であり、XがClである上記項1に記載の抗乳化剤を含有する水溶性焼入液組成物。
【0013】
3. 抗乳化剤の含有量が、0.1〜10重量%である上記項1または2に記載の水溶性焼入液組成物。
【0014】
4.更に、防錆剤を含有する上記項1乃至3のいずれかに記載の水溶性焼入液組成物。
【0015】
5.更に、防腐剤を含有する上記項1乃至4のいずれかに記載の水溶性焼入液組成物。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、以下の如き顕著な効果を得ることが出来る。
【0017】
(1) 本発明の水溶性焼入液組成物は、優れた抗乳化性能を有しており、従来公知の水溶性焼入液よりも効率良く水溶性焼入液に混入した他油成分を分離できる。
【0018】
(2)また、本発明の水溶性焼入液組成物に含有されている抗乳化剤は、含有する塩素分を低くすることで、防錆性能の低下を防止でき、又長期使用における塩素分の蓄積を抑え、防錆性能の低下を抑制でき、長期間安定して使用できる。
【0019】
(3)従って、本発明の抗乳化剤を含有する水溶性焼入液組成物によれば、金属熱処理の工程において、その水溶性焼入液に混入した他油を浮かせて、容易に油水分離させることができ、水溶性焼入液寿命を著しく向上させることができ、水溶性焼入液内を清浄に保ち、機械周りの作業環境の悪化を有効に防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
抗乳化剤
本発明水溶性焼入液組成物に含有される抗乳化剤は、下記一般式(1)で表わされるカチオン性ポリエチレンイミンの4級アンモニウム塩である。
【0021】
【化2】

【0022】
一般式(1)において、R1〜Rは、同一又は異なって、炭素数1〜10のアルキル基又はアルケニル基を示し、XはCl、F、Br、I、HSO又はCHSOを示す。また、m及びnは、それぞれ正の整数であり、m+n=2〜250である。
【0023】
一般式(1)において、R1〜Rで示される炭素数1〜10のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等を挙げることができ、又炭素数1〜10のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、オクテニル基、デセニル基等を挙げることができる。
【0024】
一般式(1)のカチオン性ポリエチレンイミンの4級アンモニウム塩は、重量平均分子量が、300〜10,000程度であるのが好ましい。この程度の分子量であれば、これを用いて得られる水溶性焼入液組成物の粘度が高くなり過ぎることがなく、取扱い性に優れる。また、Xが塩素である場合、塩素分を10重量%以下とすることが容易にできる。
【0025】
一般式(1)で表わされるカチオン性ポリエチレンイミンの4級アンモニウム塩としては、特にR1〜Rがメチル基であり、XがClであるものが、一般に合成が容易であり、コスト的にも有用である点から、好ましい。
【0026】
抗乳化剤の製造法
本発明の抗乳化剤である一般式(1)で表されるカチオン性ポリエチレンイミンの4級アンモニウム塩は、例えば、一般式(2)
【0027】
【化3】

【0028】
(式中、m及びnは、それぞれ正の整数であり、m+n=2〜250である。)で表されるポリエチレンイミンと、一般式(3)
【0029】
【化4】

【0030】
(式中、R10〜R12は、同一又は異なって、炭素数1〜10のアルキル基又はアルケニル基を示し、XはCl、F、Br、I、HSO又はCHSOを示す。)で表されるグリシジル基含有4級アンモニウム塩とを、反応させることにより製造できる。
【0031】
一般式(2)のポリエチレンイミンとしては、重量平均分子量が100〜10,000程度であるのが好ましく、300〜2,000程度であるのがより好ましい。
【0032】
一方、一般式(3)のグリシジル基含有4級アンモニウム塩において、カウンターアニオンXは、Cl、F、Br、I、HSO又はCHSOである一価のアニオンであるが、これらの内、Clであるのが好ましい。R10〜R12で示される炭素数1〜10のアルキル基又はアルケニル基としては、前記のR〜Rで示される炭素数1〜10のアルキル基又はアルケニル基として例示したものと同様の基を挙げることができる。一般式(3)のグリシジル基含有4級アンモニウム塩としては、R10〜R12がメチル基であり、XがClであるものが好ましい。
【0033】
一般式(2)のポリエチレンイミンと、一般式(3)のグリシジル基含有4級アンモニウム塩とを、通常、50〜100℃程度の加熱下に、5〜15時間程度反応させることによって、一般式(1)で表されるカチオン性ポリエチレンイミンの4級アンモニウム塩を得ることができる。各原料化合物の反応割合としては、通常、一般式(2)のポリエチレンイミンと一般式(3)のグリシジル基含有4級アンモニウム塩との反応モル比で、前者:後者が約1:3〜1:6程度となる割合で、反応を行うのが好ましい。
【0034】
一般式(2)のポリエチレンイミンと一般式(3)のグリシジル基含有4級アンモニウム塩との反応においては、通常、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の強塩基を、反応触媒として用いるのが好ましい。触媒の使用量は、通常、各原料化合物の合計量に対して、0.1〜1.0重量%程度であるのが好ましい。また、一般式(2)のポリエチレンイミンと一般式(3)のグリシジル基含有4級アンモニウム塩との反応は、無溶媒で行っても良いが、反応性を抑制するために、水等の反応溶媒を用いて行ってもよい。
【0035】
水溶性焼入液組成物
本発明の水溶性焼入液組成物は、一般式(1)の抗乳化剤を含有することによって、特徴付けられる。本発明焼入液組成物は、通常、水中に、一般式(1)の抗乳化剤を、組成物全重量中、0.1〜10重量%程度含有することが好ましく、0.5〜5重量%程度含有することがより好ましく、0.5〜3重量%程度含有することが更に好ましい。
【0036】
本発明の水溶性焼入液組成物は、所望により、更に、水溶性高分子、防錆剤、界面活性剤、防腐剤、消泡剤等の添加剤を適宜配合してもよい。添加剤の配合量は、特に限定されず、常法に従って適宜決定すればよい。
【0037】
本発明の水溶性焼入液組成物中には、防錆剤を含有させることが望ましい。防錆剤としては、カルボン酸やアミンを用いることが好ましい。カルボン酸としては、特に限定はしないが、炭素数5〜18の直鎖及び分岐状の脂肪族カルボン酸又はジカルボン酸が好ましい。特に好ましくは炭素数8〜12の脂肪族カルボン酸である。これらカルボン酸は単独又は混合物でも用いることができる。これらカルボン酸としては、例えば、ジメチルオクタン酸、ペラルゴン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等を挙げることができる。また、アミンとしては、アルカノールアミン、アルキルアルカノールアミン、アルキルアミン等の中から任意に選択することができる。これらアミンは、単独でも2種以上の混合系でも用いることができる。これらアミンの中で好ましくは、モノイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、2−アミノ−2−メチルプロパノール、ブチルエタノールアミン等が用いられる。
【0038】
さらに、本発明の水溶性焼入液組成物中には、焼割れや歪防止の目的で、水溶性高分子等を用いることが好ましい。水溶性高分子としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールの共重合体等のポリオキシアルキレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸ソーダ、ポリイソブチレンマレイン酸ソーダ、等を挙げることができる。
【0039】
本発明の水溶性焼入液組成物は、これを原液として、水に希釈して使用されるが、希釈率は、一般に5〜25容量%程度に希釈して使用され、被焼入材の材質、形状等に応じて適宜選定すれば良い。
【実施例】
【0040】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明を更に具体的に説明する。但し、本発明は、これらの各例により限定されるものではない。
【0041】
実施例1 抗乳化剤1の合成及び水溶性焼入液組成物の調製
攪拌機を備えたフラスコに、分子量約300(一般式(2)において、m+nが約5)のポリエチレンイミン214.7g(0.716mol)と、グリシジルトリメチルアンモニウムクロライド525.8g(3.47mol)を投入した。
【0042】
更に、触媒として、NaOHを、各原料化合物の合計量に対して、重量換算で0.5重量%になるように添加し、攪拌下、反応温度70℃にて11時間反応して、下記一般式(4)において、m+nが約5であるカチオン性ポリエチレンイミンの4級アンモニウム塩(抗乳化剤1)を得た。得られたカチオン性ポリエチレンイミンの4級アンモニウム塩の重量平均分子量は、約1,000で、塩素分は8.4重量%であった。このカチオン性ポリエチレンイミンの4級アンモニウム塩は、粘ちょうな油状物であり、IRスペクトル(KBr錠剤法)において、3400cm−1、3030cm−1、2950cm−1、2850cm−1、1640cm−1、1480cm−1、1295cm−1、1095cm−1等に吸収を認めた。
【0043】
【化5】

【0044】
上記一般式(4)において、m及びnは、それぞれ正の整数であり、m+n=2〜250である。
【0045】
次に、上記で得られた抗乳化剤1を用いて、後記表1に示す配合(重量%)で、本発明の水溶性焼入液組成物を調製した。
【0046】
実施例2 抗乳化剤2の合成及び水溶性加工油剤組成物の調製
実施例1において、原料のポリエチレンイミンの分子量を約1,200に変更した以外は実施例1と同様の条件で、前記一般式(4)において、m+nが約21であるカチオン性ポリエチレンイミンの4級アンモニウム塩(抗乳化剤2)を得た。得られたカチオン性ポリエチレンイミンの4級アンモニウム塩の重量平均分子量は、約1,700で、塩素分は8.4重量%であった。このカチオン性ポリエチレンイミンの4級アンモニウム塩は、粘ちょうな油状物であり、IRスペクトル(KBr錠剤法)において、3400cm−1、3030cm−1、2950cm−1、2850cm−1、1640cm−1、1480cm−1、1295cm−1、1095cm−1等に吸収を認めた。
【0047】
次に、上記で得られた抗乳化剤2を用いて、後記表1に示す配合(重量%)で、本発明の水溶性焼入液組成物を調製した。
【0048】
比較例1
抗乳化剤として、「PAS−H−5L」(商品名、日東紡(株)製、ジアリルジアルキルアンモニウムハロゲン化物と(メタ)アクリルアミドとの共重合物、塩素分6.7重量%)を用いて、後記表1に示す配合(重量%)で、比較用の水溶性焼入液組成物を調製した。
【0049】
比較例2
抗乳化剤として、「ビューサン77」(商品名、三愛石油(株)製、テトラメチルアルキレンジアミンと2,2’−ジクロロエチルエーテルとの重合物、塩素分16.8重量%)を用いて、後記表1に示す配合(重量%)で、比較用の水溶性焼入液組成物を調製した。
【0050】
比較例3
抗乳化剤として、「エポミンP−1000」(商品名、(株)日本触媒製、分子量10,000のポリエチレンイミン、塩素分0重量%)を用いて、後記表1に示す配合(重量%)で、比較用の水溶性焼入液組成物を調製した。
【0051】
次に、実施例及び比較例で得られた各水溶性焼入液組成物を、原液として、水道水で5%に希釈したものを試験液として用いて、抗乳化性能試験1及び2を行った。試験方法は、下記の通りである。
【0052】
[抗乳化性能試験1]
300mlビーカーに、試験液190mlと潤滑油「モービルバクトラオイルNo.2 oilred」(商品名、モービル(株)製)10mlを採り、ホモミキサーにて6,000rpmで1分間攪拌した後、速やかに200mlのメスシリンダーに全量を移す。油分分離経時変化を目視により確認する。
【0053】
[抗乳化性能試験2]
抗乳化性能試験1の潤滑油を「テラス32」(商品名、昭和シェル(株)製)に変更した以外は抗乳化性能試験1と同様の条件で試験を行った。
【0054】
抗乳化性能試験1及び2における抗乳化性能の評価基準は、下記の通りである。
A:1時間でほぼ完全に潤滑油を上層に分離し、下層の試験液の外観は透明又は半透明である。
B:3時間でほぼ完全に潤滑油を上層に分離し、下層の試験液の外観は透明又は半透明である。
C:24時間経過後も下層の試験液が潤滑油を乳化しているため、その外観は白濁(エマルジョン化)している。
【0055】
各実施例及び比較例の配合並びに抗乳化性能試験結果を、表1に示した。
【0056】
【表1】

【0057】
次に、実施例及び比較例で得られた各水溶性焼入液組成物を、原液として、水道水で5容量%、10容量%、15容量%に希釈したものを試験液として用いて、防錆性能試験を行った。試験方法は、下記の通りである。
【0058】
[防錆性能試験]
上記で作成した試験液を用いて、次の様にして、防錆性能試験を行った。即ち、シャーレに直径7cmの濾紙を置き、中央に鋳物乾式切屑7gを直径約5cmの範囲で、均一に置き、試験液2mlを濾紙の縁に注ぎ蓋をする。3時間後、鋳物切屑を取り除いて濾紙上の発錆を判定する。
【0059】
防錆性能試験の評価基準は、下記の通りである。
○:発錆なし。
△:数点の発錆が認められた。
×:切屑コンタクト部分の1/3以上に発錆が認められた。
【0060】
各実施例及び比較例の防錆試験結果を表2に示した。
【0061】
【表2】

【0062】
[冷却性能試験]
試験片:SUS−310S(Φ20×30mm)

熱電対位置:試験片中心
試験片温度:800℃
試験液量:1000ml

試験液温度:30℃
攪拌:マグネチックスターラー450rpm
試験液及び濃度:表1に記載の実施例1、実施例2、比較例1、比較例2、比較例3の組成物各々10容量%希釈液1000mlおよび表1に記載の実施例1、実施例2、比較例1、比較例2、比較例3の組成物各々10容量%希釈液1425mlと潤滑油「テラス32」(商品名、昭和シェル(株)製)75mlを採り、ホモミキサーにて6,000rpmで1分間攪拌した後、速やかに2000mlの分液ロートに全量を移し、1時間後下層1000mlを採取し試験液とした。それぞれ実施例1−1、実施例2−1、比較例1−1、比較例2−1、比較例3−1で示す。
評価:30℃に調整した試験液を攪拌しながら、その中に800℃に加熱された試験片を浸漬し、レコーダーにて冷却曲線を測定し、800℃〜300℃迄の冷却時間及び300℃〜100℃迄の冷却時間を求めた。その結果を表3に示す。
【0063】
800℃〜300℃迄の冷却時間は焼入れ性に影響し、冷却時間が遅すぎると硬度不足になりやすく、早すぎると硬度過剰や歪等の問題が生ずる。また、300℃〜100℃迄の冷却時間は焼入れ時の焼割れ発生に影響する。即ち、冷却時間が長いとゆっくり冷却され、焼割れが防止される。反面、冷却時間が短いと焼割れの発生が大きくなる。
【0064】
本発明の抗乳化剤を用いた実施例1、実施例2は他油が混入した実施例1−1、実施例2−1と800℃〜300℃迄の冷却時間及び300℃〜100℃迄の冷却時間が同一であり、抗乳化性が良好であることが容易に推定できる。また、比較例1、比較例2、比較例3の800℃〜300℃迄の冷却時間及び300℃〜100℃迄の冷却時間は比較例1−1、比較例2−1、比較例3−1と異なり、他油混入の影響が残り、抗乳化性が悪いと推定できる。
【0065】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の水溶性焼入液組成物は、鉄鋼、クロム、ニッケル、アルミニュム、及びこれらのいずれかの合金等の鋼材を焼入れし冷却する工程において使用される水溶性焼入液として、好適に利用される。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】

(式中、R〜Rは、同一又は異なって、炭素数1〜10のアルキル基又はアルケニル基を示し、XはCl、F、Br、I、HSO又はCHSOを示す。また、m及びnは、それぞれ正の整数であり、m+n=2〜250である。)で表されるカチオン性ポリエチレンイミンの4級アンモニウム塩からなる抗乳化剤を含有する水溶性焼入液組成物。
【請求項2】
〜Rがメチル基であり、XがClである請求項1に記載の抗乳化剤を含有する水溶性焼入液組成物。
【請求項3】
抗乳化剤の含有量が、0.1〜10重量%である請求項1又は2に記載の水溶性焼入液組成物。
【請求項4】
更に、防錆剤を含有する請求項1乃至3のいずれかに記載の水溶性焼入液組成物。
【請求項5】
更に、防腐剤を含有する請求項1乃至4のいずれかに記載の水溶性焼入液組成物。


【公開番号】特開2012−153809(P2012−153809A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−14399(P2011−14399)
【出願日】平成23年1月26日(2011.1.26)
【出願人】(000207399)大同化学工業株式会社 (22)
【Fターム(参考)】