説明

水溶性物質を包含するカプセル状粒子の無電解めっき方法および無電解めっきされたカプセル状粒子

【課題】相変化物質などの水溶性物質を包含するカプセル状粒子に無電解めっきする方法を提供すること。
【解決手段】炭化水素溶媒およびハロゲン化炭化水素溶媒から選択される少なくとも1種と、アルコール溶媒およびエーテル溶媒から選択される少なくとも1種とを含む溶媒中、金属前駆体と有機酸系還元剤の存在下、水溶性物質を包含するカプセル状粒子表面に無電解めっきを行う。好ましくは、無電解めっきは2段階で行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無電解めっきの技術、特に相変化物質などの水溶性物質を包含するカプセル状粒子に無電解めっきする方法に関する。また、本発明は、該方法により得られる無電解めっきされたカプセル状粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
熱の授受により固化または液化する相変化物質を高分子物質等からなる殻の中に封入したカプセル状粒子が、蓄熱あるいは蓄冷材として利用可能であることが知られている。そのような相変化物質を包含するカプセル状粒子には、殻の強度が不十分である場合、粒子同士が連結してより大きな粒子を形成する合一が生じるという問題がある。従って、そのようなカプセル状粒子の殻の強度を高める方法が求められている。
【0003】
一方、高分子微球体表面にニッケルなどの金属をめっきする方法として、例えば特許文献1に記載の方法が知られている。特許文献1では、素材粒子にN,N−ジメチルホルムアミドのような水溶性有機溶媒でプリエッチングを行った後、苛性ソーダ水溶液でエッチング処理を行い、パラジウム触媒核を素材粒子に付与して、ニッケル無電解めっき液により高分子微球体表面にめっきを行っている。
【0004】
特許文献2では、ABS樹脂板を脱脂処理後に無水クロム酸および硫酸水溶液でエッチング処理し、三塩化ルテニウムを含む水溶液でルテニウムを素材表面に付着させ、水素化ホウ素ナトリウムを含む水溶液でルテニウムを還元した後に、銅無電解めっき液により素材表面にめっきを行っている。
【0005】
特許文献3には、ガラスビーズに銅、ニッケルなどの無電解めっきを行う方法が開示されている。特許文献3では、3−メルカプトプロピルトリメトキシシランをトルエンに溶解した溶液で、ガラスビーズ表面をシランカップリング剤で修飾し、濾過および洗浄後に金微粒子が分散したトルエン溶液に浸漬してガラスビーズ表面に金微粒子を固定化した後、無電解ニッケルホウ素めっき液によりガラスビーズ表面にニッケルめっきを行っている。
【0006】
特許文献4には、無電解めっき液に有機溶媒を用いる無電解めっき方法が開示されている。特許文献4では、両性溶媒であるホルムアミド、エタノールアミン、エチレングリコールなどに金属ハロゲン化合物を溶解し、次亜リン酸塩、ヒドラジン、水素化ホウ素化合物、ホルマリンなどを用いて、有機溶媒中で無電解めっきを行っている。
【0007】
特許文献5では、ポリスチレンビーズを非水系めっき触媒液であるエタノール系パラジウムコロイド分散液に浸漬し、非水溶性の無電解めっき液(硝酸ニッケル/ジメチルアミノボラン/エタノール=100/50/850)にて、ビーズ表面にニッケルめっきを行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−247974号公報
【特許文献2】特開2002−167675号公報
【特許文献3】特開2002−121679号公報
【特許文献4】特開平3−166383号公報
【特許文献5】特開2001−181853号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
カプセル状粒子の殻の強度を高める方法の一つとして、殻の表面に無電解めっきを行うことが考えられる。しかし、粒子に封入された物質、例えば相変化物質が水溶性のものである場合、無電解めっきを行うのは困難である。
【0010】
例えば、特許文献1および2の方法では、水溶性のエッチング処理液および無電解めっき液を使用しているため、それらが殻を透過して粒子内に侵入し、水溶性の内容物が溶解してしまう。また、前処理としてエッチングを行うと、粒子の殻が破れてしまう。特許文献3の方法では、金粒子をガラスビーズに固定化する前処理は非水溶性のトルエンを用いているものの、無電解めっき液は一般的な無電解ニッケルホウ素めっき液を用いており、水溶性の内容物が溶解してしまう。特許文献4および5の方法では、無電解めっき液の溶媒として有機溶媒を用いているものの、ホルムアミド、エタノールアミン、エチレングリコールやエタノールなども用いているため、やはり水溶性の内容物が溶解してしまう。
【0011】
そこで、本発明は水溶性相変化物質のような水溶性物質を包含するカプセル状粒子に無電解めっきを行う方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上述したような問題を検討した結果、水溶性の内容物を溶解させずに、水溶性物質を包含するカプセル状粒子表面に無電解めっきを行うための方法を見出した。また、本発明者らは、当該方法を用いて、水溶性相変化物質を包含し、その表面が無電解めっきされたカプセル状粒子の製造に成功した。
【0013】
本発明の要旨は以下のとおりである。
(1)水溶性物質を包含するカプセル状粒子の無電解めっき方法であって、炭化水素溶媒およびハロゲン化炭化水素溶媒から選択される少なくとも1種と、アルコール溶媒およびエーテル溶媒から選択される少なくとも1種とを含む溶媒中、金属前駆体と有機酸系還元剤の存在下、水溶性物質を包含するカプセル状粒子表面に無電解めっきを行う、前記方法。
(2)前記カプセル状粒子の粒径が50μm以下であり、高分子化合物からなる殻を有し、該殻が粒径に対して5〜15%の厚みを有する、(1)に記載の方法。
(3)溶媒が炭化水素溶媒とアルコール溶媒とからなり、炭化水素溶媒とアルコール溶媒の体積比が20:80〜99:1の範囲である、(1)または(2)に記載の方法。
(4)無電解めっきを2段階で行い、1段階目の無電解めっきでAg、Pd、Pt、Rh、Ru、Ni、Auから選択される金属種の金属前駆体を使用する、(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
(5)2段階目の無電解めっきでCu、Zn、Ga、As、Cr、Se、Mn、Fe、Co、Ni、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Te、Ru、Rh、Pd、Au、Hg、Tl、Pb、Bi、W、Po、Re、Os、Ir、Ptから選択される金属種の金属前駆体を使用する、(4)に記載の方法。
(6)水溶性相変化物質を包含し、高分子化合物からなる殻を有するカプセル状粒子であって、該殻がCu、Zn、Ga、As、Cr、Se、Mn、Fe、Co、Ni、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Te、Ru、Rh、Pd、Au、Hg、Tl、Pb、Bi、W、Po、Re、Os、Ir、Ptから選択される金属によりめっきされている、前記カプセル状粒子。
(7)水溶性相変化物質を全質量に対して60〜90質量%の量で含む、(6)に記載のカプセル状粒子。
(8)めっき厚みが0.1μm以上である、(6)または(7)に記載のカプセル状粒子。
【発明の効果】
【0014】
本発明の方法によれば、十分な強度の殻を有し、粒子同士が合一することがない、水溶性物質を包含するカプセル状粒子を得ることができる。また、本発明により得られる、水溶性相変化物質を包含し、その表面が金属によりめっきされているカプセル状粒子は、蓄熱あるいは蓄冷剤として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例1により得られたカプセル状粒子の光学顕微鏡像である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(溶媒)
本発明の方法で用いる溶媒は、炭化水素溶媒およびハロゲン化炭化水素溶媒から選択される少なくとも1種と、アルコール溶媒およびエーテル溶媒から選択される少なくとも1種とを含む。炭化水素溶媒およびハロゲン化炭化水素溶媒は2種以上を混合して用いてもよい。また、アルコール溶媒およびエーテル溶媒は2種以上を混合して用いてもよい。本発明の方法で用いる溶媒は、無電解めっき反応温度以上の沸点を有することが好ましい。
【0017】
炭化水素溶媒としては、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、n−ノナン、n−デカン、n−ドデカン、2,2−ジメチルブタンなどの鎖式炭化水素類、シクロペンタン、メチルシクロペンタン、シクロヘキセン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、デカリンなどの脂環式炭化水素類、ベンゼン、エチルベンゼン、イソプロピルベンゼン、アミルベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、ジエチルベンゼン、ドデシルベンゼン、トルエン、スチレン、キシレン、ビフェニル、ナフタレンなどの芳香族炭化水素類、石油エーテル、石油ベンジン、ガソリン、灯油、流動パラフィンなどの混合溶媒などが挙げられる。
【0018】
ハロゲン化炭化水素溶媒としては、塩化ヘキシル、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、クロロトルエン、ジクロロトルエンなどが挙げられる。
【0019】
アルコール溶媒としては、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、ウンデカノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール、フルフリルアルコールなどの1価アルコール類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、シクロヘキサンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオールなどの多価アルコール類、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−ブトキシエタノール、1−メトキシ−2−プロパノール、2−ブトキシエトキシエタノールなどのエーテル結合を含んだアルコール類(グリコールエーテル類)などが挙げられる。
【0020】
エーテル溶媒としては、n−ブチルエーテル、ジオキサン、エチレングリコールモノエチルエーテル、テトラヒドロフランなどが挙げられる。
【0021】
炭化水素溶媒およびハロゲン化炭化水素溶媒から選択される溶媒としては、特に脂環式炭化水素類および芳香族炭化水素類、とりわけトルエンが好ましい。アルコール溶媒およびエーテル溶媒から選択される溶媒としては、特に2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−ブトキシエタノール、1−メトキシ−2−プロパノール、2−ブトキシエトキシエタノールのようなエーテル結合を含んだアルコール類、とりわけ2−エトキシエタノールが好ましい。
【0022】
本発明の方法で用いる溶媒は、好ましくは炭化水素溶媒とアルコール溶媒とを含み、より好ましくは炭化水素溶媒とアルコール溶媒とからなる。炭化水素溶媒としては、特にトルエンが好ましい。アルコール溶媒としては、特に2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−ブトキシエタノール、1−メトキシ−2−プロパノール、2−ブトキシエトキシエタノールのようなエーテル結合を含んだアルコール類(グリコールエーテル類)、とりわけ2−エトキシエタノールが好ましい。
【0023】
本発明の方法で用いる溶媒において、炭化水素溶媒およびハロゲン化炭化水素溶媒から選択される溶媒(特に炭化水素溶媒)と、アルコール溶媒およびエーテル溶媒から選択される溶媒(特にアルコール溶媒)との比は、混合前における体積比で20:80〜99:1の範囲、さらに30:70〜99:1の範囲、さらに40:60〜99:1の範囲、さらに40:60〜90:10の範囲、さらに45:55〜85:15の範囲、さらに50:50〜80:20の範囲であるのが好ましい。
【0024】
炭化水素溶媒およびハロゲン化炭化水素溶媒から選択される溶媒と、アルコール溶媒およびエーテル溶媒から選択される溶媒とを混合したものを溶媒として用いることにより、カプセル状粒子に包含される水溶性物質が溶解せず、かつ金属前駆体や有機酸系還元剤が溶解する無電解めっき反応用溶媒を調製することが可能となる。
【0025】
(金属前駆体)
本発明の方法で用いる金属前駆体としては、上記の溶媒に溶解し、かつ該溶媒中で金属に還元され得る化合物であれば、特に限定されるものではない。金属前駆体に含有され、従ってカプセル状粒子表面にめっきされることになる金属種としては、特に限定されるものではなく、例えばCu、Zn、Ga、As、Cr、Se、Mn、Fe、Co、Ni、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Te、Ru、Rh、Pd、Au、Hg、Tl、Pb、Bi、W、Po、Re、Os、Ir、Ptなどが挙げられる。特に、Au、Pd、Pt、Cuが好ましい。金属前駆体は2種以上を混合して用いてもよい。金属前駆体としては、酸、特に酢酸、乳酸、シュウ酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸などの有機酸との金属塩およびその水和物、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、イソプロポキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、イソペンチルオキシ基などのアルコキシド基を有する金属アルコキシド、ならびに有機金属錯体などが挙げられる。
【0026】
本発明の方法で用いる金属前駆体としては、金属酢酸塩またはその水和物を用いるのが特に好ましい。金属酢酸塩およびその水和物は比較的安価であるため、それらを用いることで製造コストを低減させることができる。
【0027】
金属酢酸塩としては、例えばCu(I)CHCOO、Cu(II)(CHCOO)、Cu(II)(CHCOO)・HO、Ni(II)(CHCOO)・4HO、Pd(II)(CHCOO)、Zn(CHCOO)・2HO、Cr(II)(CHCOO)・HO、Cr(III)(CHCOO)(OH)、Mn(II)(CHCOO)・4HO、Mn(III)(CHCOO)・2HO、Fe(II)(CHCOO)、Co(II)(CHCOO)・4HO、Ag(CHCOO)、Cd(CHCOO)・2HO、In(III)(CHCOO)、Sb(CHCOO)、Hg(II)(CHCOO)、Tl(III)(CHCOO)・1.5HO、Tl(I)(CHCOO)、Pb(II)(CHCOO)・3HO、Pb(CHCOO)、Bi(III)(CHCOO)などが挙げられる。
【0028】
上述したような金属種のうち、例えばAg、Pd、Pt、Rh、Ru、Ni、Auなどは、無電解めっき反応において触媒活性を有する。従って、これらの金属種を用いた場合、還元反応を起こしやすいため無電解めっきを比較的容易に行うことができる。一方、その他の金属種を用いる場合、単体では還元反応はゆっくりとしか進まない。しかし、予め上記のような触媒活性を有する金属種でめっきしておくと、そのような金属の核が触媒として機能し、安定しためっき膜が早く形成される。
【0029】
そこで、本発明の方法では、無電解めっきは2段階で行うのがより好ましい。その場合、1段階目の無電解めっきでは、Ag、Pd、Pt、Rh、Ru、Ni、Auから選択される金属種の金属前駆体、特に塩またはその水和物を使用する。2段階目の無電解めっきでは、Cu、Zn、Ga、As、Cr、Se、Mn、Fe、Co、Ni、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Te、Ru、Rh、Pd、Au、Hg、Tl、Pb、Bi、W、Po、Re、Os、Ir、Ptから選択される金属種、特にCu、Zn、Ga、As、Cr、Se、Mn、Fe、Co、Cd、In、Sn、Sb、Te、Hg、Tl、Pb、Bi、W、Po、Re、Os、Ir、とりわけCu、Zn、Fe、Snから選択される金属種の金属前駆体、特に塩またはその水和物を使用する。
【0030】
1段階目で触媒活性を有するが高価であるAg、Pd、Pt、Rh、Ru、Ni、Auなどを少量めっきし、2段階目で安価な金属を1段階目でめっきした金属の触媒作用を利用してめっきすることにより、安定しためっき皮膜を安価に形成することが可能となる。より具体的には、1段階目の無電解めっきでは金属前駆体としてAg、Pd、Pt、Rh、Ru、Ni、Auの酢酸塩またはその水和物、特にPd酢酸塩またはその水和物を、2段階目の無電解めっきでは、金属前駆体としてCu、Zn、Fe、Snの酢酸塩またはその水和物、特にCuの酢酸塩またはその水和物を使用するのが好ましい。
【0031】
本発明の方法における金属前駆体の使用量は、無電解めっきの対象であるカプセル状粒子に包含される水溶性物質の質量に対して0.05〜50質量%、特に0.1〜30質量%、とりわけ0.1〜20質量%の範囲の量を用いるのが好ましい。無電解めっきを2段階で行う場合、金属前駆体の使用量はカプセル状粒子に包含される水溶性物質の質量に対して、1段階目では0.05〜50質量%、特に0.1〜20質量%、とりわけ0.1〜10質量%の範囲の量、2段階目では0.1〜50質量%、特に0.5〜30質量%、とりわけ1〜20質量%の範囲の量を用いるのが好ましい。
【0032】
また、本発明の方法における金属前駆体の使用量は、めっき反応溶液中の濃度が0.02〜10g/L、特に0.05〜5g/L、とりわけ0.1〜3g/Lの範囲となる量を用いるのが好ましい。無電解めっきを2段階で行う場合、金属前駆体の使用量は、めっき反応溶液中の濃度が1段階目では0.02〜1.0g/L、特に0.05〜0.5g/L、とりわけ0.1〜0.3g/Lの範囲となる量、2段階目では0.2〜10g/L、特に0.5〜5g/L、とりわけ1〜3g/Lの範囲となる量を用いるのが好ましい。
【0033】
金属前駆体の使用量が少なすぎると、カプセル状粒子表面のめっき皮膜が不均一になる場合がある。一方、金属前駆体の使用量が多すぎると、必要以上の金属が消費されるためコストの観点から好ましくない。
【0034】
(有機酸系還元剤)
本発明の方法で用いる有機酸系還元剤とは、有機酸またはその塩からなる還元剤である。有機酸系還元剤としては、従来無電解めっきで使用されているものを使用することができ、本発明における溶媒中で金属前駆体を還元することができるのであれば特に限定されるものではない。
【0035】
有機酸系還元剤としては、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、マレイン酸、マロン酸、フマル酸、コハク酸、アスコルビン酸、タンニン酸、シュウ酸、ギ酸などの有機酸およびその塩を挙げることができる。これらの有機酸系還元剤は、2種以上を組み合わせて用いてもよい。本発明の方法において用いる有機酸系還元剤としては、特にクエン酸、アスコルビン酸およびそのナトリウム塩が好ましい。
【0036】
有機酸系還元剤は、用いる溶媒に溶解可能な範囲でその添加量を決定すればよい。例えば、有機酸系還元剤は金属前駆体に対して0.05〜30モル当量、より好ましくは0.1〜20モル当量、特に0.5〜10モル当量の範囲の量で使用するのが好ましい。無電解めっきを2段階で行う場合、有機酸系還元剤は金属前駆体に対して、1段階目では0.1〜30モル当量、より好ましくは0.5〜20モル当量、特に1〜10モル当量の範囲の量、2段階目では、0.05〜20モル当量、より好ましくは0.1〜10モル当量、特に0.5〜5モル当量の範囲の量で使用するのが好ましい。
【0037】
(水溶性物質)
本発明の方法で無電解めっきを行うカプセル状粒子は、水溶性物質を包含する。水溶性物質としては特に限定されるものではないが、水溶性物質が相変化物質であると、得られる無電解めっきされたカプセル状粒子は蓄熱および蓄冷材として利用可能である。本明細書において相変化物質とは、例えば固体−液体間の相変化(相転位)により熱を蓄えあるいは放出する性質を有する物質を意味する。相変化物質としては、常温で固体である無機塩水和物、糖、糖アルコール、尿素類などを用いることができる。
【0038】
相変化物質である無機塩水和物としては、例えば炭酸カリウム6水和物、硝酸リチウム3水和物、硫酸ナトリウム10水和物、炭酸ナトリウム10水和物、チオ硫酸ナトリウム5水和物、硝酸ニッケル6水和物、酢酸ナトリウム3水和物、硝酸鉄6水和物、硝酸アルミ9水和物、4ホウ酸ナトリウム10水和物、水酸化バリウム8水和物、水酸化ストロンチウム8水和物、硝酸マグネシウム6水和物、硫酸アルミニウム10水和物、塩化マグネシウム6水和物などが挙げられる。
【0039】
相変化物質である糖としては、例えばリボース、ガラクトース、グルコース、フルクトース、スクロース、マルトース、ラクトースなどが挙げられる。相変化物質である糖アルコールとしては、エリスリトール、スレイトール、リビトール、アラビトール、キシリトール、ソルビトール、マンニトール、マルチトール、イノシトール、ガラクチトール、イジトールなどが挙げられる。
【0040】
相変化物質である尿素類としては、例えば尿素、チオ尿素などが上げられる。
相変化物質は2種以上を混合して用いてもよく、また、水、メタノール、エタノール、エチレングリコール、グリセリンなどの常温で液体である低分子化合物と混合して用いてもよい。
【0041】
(カプセル状粒子)
本発明の方法で無電解めっきが行われるカプセル状粒子は、高分子化合物からなる殻を有する。水溶性物質が高分子化合物からなる殻により包含されたカプセル状粒子の製造方法は、当業者に公知である。殻を構成する高分子化合物は、例えばスチレン、ジビニルベンゼン、メタクリル酸エステル、アクリル酸エステル、アクリロニトリル、シアン化ビニリデンなどのアニオン重合性モノマー、ε−カプロラクタム、β−プロピオラクトン、エチレンイミン、テトラメチルシロキサンなどの開環重合性モノマー、ウレタンのモノマーあるいはプレポリマーを重合させることにより形成されたものである。
【0042】
本発明におけるカプセル状粒子は、好ましくはその粒径が50μm以下、特に40μm以下、とりわけ30μm以下である、微小な、マイクロカプセルともいうべき粒子である。本発明におけるカプセル状粒子において、高分子化合物からなる殻は、カプセル状粒子の粒径の半径に対して好ましくは5〜15%、特に5〜10%の厚みを有する。
【0043】
本発明の方法において、無電解めっきはカプセル状粒子の表面、すなわちカプセル状粒子の殻の表面に行われる。通常、高分子化合物からなる殻は無電解めっきの溶媒には不溶であるが、殻の厚みが薄い場合は殻を透過してカプセル内に溶媒が浸入し、内容物を溶解してしまう。しかしながら、殻に無電解めっきを行うことにより、殻の強度を高めて溶媒の浸入を防ぐ。その結果、カプセル状粒子が壊れたり、粒子同士が合一したりすることを防ぐことができ、より安定なカプセル状粒子を得ることができる。
【0044】
(無電解めっき反応)
本発明の方法における無電解めっき反応の条件は、溶媒中で金属前駆体が還元される反応温度、雰囲気、圧力などであれば特に限定されるものではなく、溶媒、カプセル状粒子に包含される水溶性物質、カプセル状粒子の殻の材質、有機酸系還元剤の種類に応じて適宜調整することができる。例えば、反応温度は用いる溶媒の大気圧における沸点以下であることが好ましい。具体的には、溶媒として2−エトキシエタノールとトルエンの混合物を用いた場合、反応温度は80〜135℃の範囲、特に85〜100℃の範囲とするのが好ましい。
【0045】
本発明の無電解めっき反応においては、たとえば金属前駆体と有機酸系還元剤を予めアルコール溶媒およびエーテル溶媒から選択される溶媒に溶解させておき、それをカプセル状粒子が分散した炭化水素溶媒およびハロゲン化炭化水素溶媒から選択される溶媒に加えて反応を行ってもよい。すなわち、無電解めっき反応時に、炭化水素溶媒およびハロゲン化炭化水素溶媒から選択される溶媒とアルコール溶媒およびエーテル溶媒から選択される溶媒中に、金属前駆体、有機酸系還元剤およびカプセル状粒子が存在する状態となれば、それらを加える順番は特に問題とはならない。
【0046】
(水溶性相変化物質を包含するカプセル状粒子)
本発明は、上記の方法により得られる、水溶性相変化物質を包含するカプセル状粒子にも関する。本発明の水溶性相変化物質を包含するカプセル状粒子は、その全質量に対して60〜90質量%、好ましくは65〜85質量%の水溶性相変化物質を有する。この程度の量の相変化物質を包含することにより、本発明のカプセル状粒子は蓄熱および蓄冷材として十分機能することができる。
【0047】
また、本発明の水溶性相変化物質を包含するカプセル状粒子は、高分子化合物からなる殻を有し、該殻がCu、Zn、Ga、As、Cr、Se、Mn、Fe、Co、Ni、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Te、Ru、Rh、Pd、Au、Hg、Tl、Pb、Bi、W、Po、Re、Os、Ir、Ptから選択される金属によりめっきされている。このめっきの厚みは、0.1μm以上、特に0.2μm以上であると好ましい。また、本発明の水溶性相変化物質を包含するカプセル状粒子は、好ましくはその粒径が50μm以下、特に40μm以下、とりわけ30μm以下である。殻がめっきされていることにより、カプセル状粒子が壊れたり、粒子同士が合一したりすることがなく、蓄熱および蓄冷材として安定した性能を有するカプセル状粒子とすることができる。
【0048】
本発明により得られる水溶性相変化物質を包含したカプセル状粒子は、例えば自動車のエンジンまたは燃料電池用の冷却媒体、蓄熱システムの熱移送媒体に用いることができる。
【実施例】
【0049】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0050】
水溶性物質として、相変化物質であるスレイトール(D-threitol、エーピーアイ・コーポレーション社製)を用いた。また、カプセル化剤には水硬化性ウレタンを用いた。
【0051】
1.カプセル状粒子の調製
1段目のカプセル化反応では、カプセル化剤として、トリレンジイソシアネート系のウレタンプレポリマーであるタケネートM−408(三井化学社製)と、フッ素系ポリマーであるルミフロンLF−710F(旭硝子社製)とを混合して用いた。また、界面活性剤として、フッ素系界面活性剤であるKB−L110(ネオス社製)を用いた。
【0052】
モレキュラシーブ3A(ナカライテスク社製)で脱水したトルエン(ナカライテスク社製、試薬特級)に、スレイトールを13g、カプセル化剤を樹脂として4g(タケネートM−408を3g(樹脂として2g)およびルミフロンLF−710Fを2g)ならびに界面活性剤を1.3g加え、カプセル化剤濃度が16質量%であるトルエン溶液25gを調製した。得られたトルエン溶液を16000rpmの回転数でホモジナイザーにかけながら90℃まで加熱した。
【0053】
別途、スレイトール13gにイオン交換水1.3gを加えたものを90℃まで加熱してスレイトール溶融液を調製した。これを上記のトルエン溶液に加え、90℃に保ったまま20分間攪拌を続けた。反応終了後、反応液を室温まで急冷し、デカンテーションにより未反応のカプセル化剤を含むトルエン溶液を分離した。
【0054】
2段目のカプセル化反応では、カプセル化剤として、3−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン系のウレタンプレポリマーであるタケネートM−605N(三井化学社製)と、フッ素系ポリマーであるルミフロンLF−710F(旭硝子社製)とを混合して用いた。また、界面活性剤として、フッ素系界面活性剤であるKB−L110(ネオス社製)を用いた。
【0055】
1段目と同様に、モレキュラシーブ3Aで脱水したトルエンに、スレイトールを13g、カプセル化剤を樹脂として4g(タケネートM−605Nを5.7g(樹脂として2g)およびルミフロンLF−710Fを2g)、ならびに界面活性剤を0.65g加え、カプセル化剤の濃度が10質量%であるトルエン溶液40gを調製した。得られたトルエン溶液を8000rpmの回転数でホモジナイザーにかけながら90℃まで加熱した。
【0056】
別途、1段目のカプセル化反応で得られたカプセル状粒子を、90℃で攪拌されている上記のトルエン溶液に加え、90℃に保ったまま60分間攪拌を続けた。反応終了後、反応液を室温までゆっくりと放冷し、デカンテーションにより未反応のカプセル化剤を含むトルエン溶液を分離した。得られたカプセル状粒子は、さらにモレキュラシーブ3Aで脱水したトルエン50gで洗浄し、未反応のカプセル化剤を完全に除去した。得られたカプセル状粒子は、光学顕微鏡で観察したところ、粒子径が20μm程度の球形であることが確認された。
【0057】
2.カプセル状粒子の融解潜熱量の測定
融解潜熱量の測定を、示差熱分析計DSC3100(マックサイエンス社製)を用いて行った。調製したカプセル状粒子の融解潜熱量から、カプセル中に82質量%のスレイトールが含有され、カプセル壁体厚みは0.92μmであることがわかった。すなわち、カプセル粒子径20μm(半径10μm)に対してカプセル壁体の厚み比率は9.2%であることがわかった。
【0058】
3.カプセル状粒子の無電解めっき
[実施例1]
第1の金属前駆体として、Pd(II)(CHCOO)(ナカライテスク社製、一級)を使用した。第2の金属前駆体として、Cu(II)(CHCOO)・HO(ナカライテスク株式会社製、特級)を使用した。有機酸系還元剤として、L(+)−アスコルビン酸(ナカライテスク社製、特級)を用いた。無電解めっき時の溶媒として、2−エトキシエタノール(ナカライテスク社製、特級)とトルエン(ナカライテスク社製、特級)の混合物(体積比で20:80)を用いた。
【0059】
(1)第1の金属の還元
0.11gのPd(II)(CHCOO)を2−エトキシエタノールに溶解させ、全量を50mLとして第1の金属前駆体溶液とした。0.88gのL(+)−アスコルビン酸を2−エトキシエタノールに溶解させ、全量を100mLとして有機酸系還元剤溶液とした。
【0060】
カプセル状粒子のトルエン分散液48mL(20体積%のカプセル状粒子を含む)に、上記の第1の金属前駆体溶液6mLを添加し、90℃に加熱し攪拌した。さらに上記の有機酸系還元剤溶液6mLを添加し、90℃で10分間反応させ、Pdをカプセル状粒子表面に析出させた。反応終了後、反応液を室温まで急冷し、デカンテーションにて未反応の金属前駆体および有機酸系還元剤を分離した。
【0061】
(2)第2の金属の還元
2.00gのCu(II)(CHCOO)・HOを2−エトキシエタノールに溶解させ、全量を100mLとして第2の金属前駆体溶液とした。1.76gのL(+)−アスコルビン酸を2−エトキシエタノールに溶解させ、全量を100mLとして有機酸系還元剤溶液とした。
【0062】
Pdめっきされたカプセル状粒子のトルエン分散液48mL(20体積%のカプセル状粒子を含む)に、上記の第2の金属前駆体溶液6mLを添加し、90℃に加熱し攪拌した。さらに上記の有機酸系還元剤溶液6mLを添加し、90℃で10分間反応させ、Pdを触媒としてCuイオンを還元し、Cuをカプセル状粒子表面に析出させた。反応終了後、反応液を室温まで急冷し、トルエン300mLで洗浄して未反応の金属前駆体および有機酸系還元剤を完全に除去した。無電解Cuめっきが施された水溶性物質を包含するカプセル状粒子が得られた。得られたカプセル状粒子の光学顕微鏡像を図1に示す。得られたカプセル状粒子は、表面に金属光沢を示す球形粒子であることが確認された。
【0063】
(3)融解潜熱量の測定
得られたカプセル状粒子の融解潜熱量を測定した。その結果から、カプセル中に66質量%のスレイトールが含有され、めっき厚みは0.25μm、すなわちカプセル粒子径20μm(半径10μm)に対して、めっき厚み比率が2.5%であることがわかった。
【0064】
[実施例2]
無電解めっき時の溶媒として、2−エトキシエタノールとトルエンの体積比50:50の混合物を用いた以外は、実施例1と同様に無電解めっきを行った。光学顕微鏡で観察し、得られたカプセル状粒子は、表面に金属光沢を示す球形粒子であることを確認した。また、融解潜熱量の測定から、粒子中に70質量%のスレイトールが含有され、めっき厚みは0.20μm、すなわちカプセル粒子径20μm(半径10μm)に対してめっき厚み比率が2.0%であることがわかった。
【0065】
[比較例1]
無電解めっき時の溶媒として2−エトキシエタノールを用いた以外は、実施例1と同様の無電解めっきを試みた。しかし、無電解めっき反応後に得られたものは、もはや球形を維持しておらず、スレイトールが2−エトキシエタノールに溶解してしまっていた。
【0066】
[比較例2]
無電解めっき時の溶媒としてトルエンを用いた以外は、実施例1と同様の無電解めっきを試みた。しかし、いずれの金属前駆体もL(+)−アスコルビン酸もトルエンに溶解せず、無電解めっきを行うことはできなかった。
【0067】
[比較例3]
無電解めっき時の溶媒として、シクロヘキサノン(ナカライテスク社製、特級)とトルエンの混合物(体積比で50:50)を用いた以外は、実施例1と同様の無電解めっきを試みた。しかし、有機酸系還元剤の添加後に、無電解めっき反応液中に目的のめっきされたカプセル状粒子以外の不溶性物質が大量に析出してしまった。
【0068】
[比較例4]
無電解めっき時の溶媒として、酢酸イソブチル(ナカライテスク社製、一級)とトルエンの混合物(体積比で50:50)を用いた以外は、実施例1と同様の無電解めっきを試みた。しかし、金属が析出せず、めっきを行うことができなかった。
【0069】
実施例1〜2および比較例2〜4の結果を表1にまとめた。
【0070】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性物質を包含するカプセル状粒子の無電解めっき方法であって、炭化水素溶媒およびハロゲン化炭化水素溶媒から選択される少なくとも1種と、アルコール溶媒およびエーテル溶媒から選択される少なくとも1種とを含む溶媒中、金属前駆体と有機酸系還元剤の存在下、水溶性物質を包含するカプセル状粒子表面に無電解めっきを行う、前記方法。
【請求項2】
前記カプセル状粒子の粒径が50μm以下であり、高分子化合物からなる殻を有し、該殻が粒径に対して5〜15%の厚みを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
溶媒が炭化水素溶媒とアルコール溶媒とからなり、炭化水素溶媒とアルコール溶媒の体積比が20:80〜99:1の範囲である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
無電解めっきを2段階で行い、1段階目の無電解めっきでAg、Pd、Pt、Rh、Ru、Ni、Auから選択される金属種の金属前駆体を使用する、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
2段階目の無電解めっきでCu、Zn、Ga、As、Cr、Se、Mn、Fe、Co、Ni、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Te、Ru、Rh、Pd、Au、Hg、Tl、Pb、Bi、W、Po、Re、Os、Ir、Ptから選択される金属種の金属前駆体を使用する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
水溶性相変化物質を包含し、高分子化合物からなる殻を有するカプセル状粒子であって、該殻がCu、Zn、Ga、As、Cr、Se、Mn、Fe、Co、Ni、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Te、Ru、Rh、Pd、Au、Hg、Tl、Pb、Bi、W、Po、Re、Os、Ir、Ptから選択される金属によりめっきされている、前記カプセル状粒子。
【請求項7】
水溶性相変化物質を全質量に対して60〜90質量%の量で含む、請求項6に記載のカプセル状粒子。
【請求項8】
めっき厚みが0.1μm以上である、請求項6または7に記載のカプセル状粒子。

【図1】
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【公開番号】特開2012−67376(P2012−67376A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−215755(P2010−215755)
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】