説明

水溶性石油樹脂およびその製造方法

【課題】 撥水剤、乳化剤、分散剤等の原料として期待される新規な水溶性石油樹脂及びその製造方法を提供するものである。
【解決手段】2〜6mmol/gのカルボン酸塩の置換基を有する石油樹脂である水溶性石油樹脂。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親水性官能基であるカルボン酸塩の置換基を有する水溶性石油樹脂及びその製造方法に関するものであり、さらに、詳細には、撥水剤、乳化剤、分散剤の一原料として好適である、カルボン酸塩の置換基を有する石油樹脂からなる水溶性石油樹脂及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
石油樹脂としては、石油類の分解、精製の際に得られる不飽和炭化水素含有留分を原料として、フリーデルクラフツ型触媒の存在下に重合することにより得られる石油樹脂が良く知られており、その際の不飽和炭化水素含有留分としては、沸点範囲が20〜110℃の留分であるC5留分と沸点範囲が140〜280℃の留分であるC9留分が一般的であり、該C5留分から得られる石油樹脂を脂肪族石油樹脂、C9留分から得られる石油樹脂を芳香族石油樹脂、C5留分とC9留分とを共重合して得られる石油樹脂を脂肪族−芳香族共重合石油樹脂と称している。また、ジシクロペンタジエン類を熱重合することで得られる石油樹脂を脂環族石油樹脂とも称している。
【0003】
そして、石油樹脂は一般的には疎水性であるため、乳化剤を加えてエマルション化する方法が提案され、例えば(a)α−スルホ脂肪酸エステル又は塩、あるいはスルホコハク酸ジアルキルエステル又は塩、および(b)水溶性高分子またはポリマーラテックスを併用して、石油樹脂エマルジョン用乳化剤とする方法(例えば特許文献1参照。)、軟化点50〜100℃なるマレイン化石油樹脂をアルカリ金属水酸化物又はアルカノールアミンでケン化したものと特殊な乳化剤でエマルションを作る方法(例えば特許文献2参照。)、等の方法が提案されている。しかし、これらの方法により得られるエマルション溶液は、均一透明水溶液ではなく乳化分散したエマルションであり、利用にあたっては乳化剤が必須成分となる。また、ワックスなどの疎水性化合物と一緒に石油樹脂をエマルション化する場合、エマルションの粒子径が増加して保存安定性や機械的安定性が制約される。そこで、石油樹脂自体が水に溶ける水溶性石油樹脂が期待されている。
【0004】
また、例えば石油樹脂と無水マレイン酸を反応させた後、系内の温度を160〜170℃にし、1,1−ジエチルプロピレンジアミンを加え、180〜190℃で3時間反応させ、次いで、系内の温度を160〜170℃に調整し、エチレンクロルヒドリンを加え、160〜170℃で4時間反応させた後、系内温度110〜120℃に低下させ、60℃の温水を加え、固形分40%のカチオン系樹脂を含有する液とする方法(例えば特許文献3参照。)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平05−184900号公報(例えば特許請求の範囲参照。)
【特許文献2】特公昭63−039022号公報(例えば特許請求の範囲参照。)
【特許文献3】特開平06−269652号公報(例えば特許請求の範囲参照。)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献3に提案された方法においては、製造時にエチレンクロルヒドリンなどの強い毒性の原料を必要とし、安全面はもとより経済性にも課題を有するものであるばかりか、水溶性という面においてもまだ課題を有するものであった。
【0007】
そこで、本発明は、撥水剤、乳化剤、分散剤の一原料として期待される水溶性石油樹脂、安全に効率的に該水溶性石油樹脂を製造する新規な方法、を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定の範囲で特定の置換基を有する石油樹脂が優れた水溶性を示す新規な石油樹脂となることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
即ち、本発明は、2〜6mmol/gのカルボン酸塩の置換基を有する石油樹脂であることを特徴とする水溶性石油樹脂、及びその製造方法に関するものである。
【0010】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0011】
本発明の水溶性石油樹脂は、置換基として2〜6mmol/g(水溶性石油樹脂1g当たりのカルボン酸塩の置換基mmol数)のカルボン酸塩を有する変性石油樹脂であり、該水溶性石油樹脂は、親水性であるカルボン酸塩である置換基により変性することにより水溶性を示すものである。ここで、カルボン酸塩の置換基が2mmol/g未満である場合、得られる石油樹脂は親水性官能基であるカルボン酸塩の置換基が少ないことから水溶性を示さないものとなる。一方、カルボン酸塩の置換基が6mmol/gを越える石油樹脂である場合、カルボン酸塩同士の相互作用が強くなるためか、溶解性に劣るものとなる傾向が強くなるばかりか、生産性の上でも大きな課題が発生するものとなる。
【0012】
そして、本発明におけるカルボン酸塩の置換基としては、カルボン酸塩の範疇に属するものであれば如何なる置換基であってもよく、例えばカルボン酸リチウム塩、カルボン酸カリウム塩、カルボン酸ナトリウム塩、カルボン酸ルビジウム塩、カルボン酸セシウム塩等のカルボン酸アルカリ金属塩の置換基が挙げられ、カルボン酸トリメチルアミン塩、カルボン酸トリエチルアミン塩、カルボン酸トリプロピルアミン塩、カルボン酸ジメチルエチルアミン塩らのカルボン酸アルキルアミン塩の置換基;カルボン酸トリメタノールアミン塩、カルボン酸トリエタノールアミン塩、カルボン酸ジエタノールアミン塩、カルボン酸モノエタノールアミン塩等のカルボン酸アルカノールアミン塩の置換基;等のカルボン酸アミン塩の置換基、等を挙げることができ、その中でも特に水溶性に優れる石油樹脂となることから、カルボン酸ナトリウム塩の置換基、カルボン酸カリウム塩の置換基、カルボン酸トリメタノールアミン塩の置換基、カルボン酸トリエタノールアミン塩の置換基であることが好ましい。
【0013】
本発明における石油樹脂としては、石油樹脂の範疇に属するものであれば如何なるものであってもよく、例えば石油類の熱分解により得られる、沸点範囲が20〜110℃のC5留分、沸点範囲が140〜280℃のC9留分、ジシクロペンタジエン類を含む留分、これらの混合物を原料油として用い、例えば三塩化アルミニウム、三臭化アルミニウム、三フッ化ホウ素、これらのフェノール錯体、これらのブタノール錯体等のフリーデルクラフツ型触媒により重合を行い得られる、脂肪族系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、脂肪族/芳香族共重合系石油樹脂、ジシクロペンタジエン樹脂、脂肪族/ジシクロペンタジエン共重合系石油樹脂、芳香族/ジシクロペンタジエン共重合系石油樹脂及び脂肪族/芳香族/ジシクロペンタジエン共重合系石油樹脂等を挙げることができ、これら石油樹脂は市販品として入手することもできる。
【0014】
そして、C5留分を構成する成分に特に限定はなく、例えばメチルブテン、ペンテン、イソプレン、ピペリレン、シクロペンテン、シクロペンタジエン等が挙げられ、C9留分を構成する成分に特に限定はなく、例えばスチレン、そのアルキル誘導体であるα−メチルスチレンやβ−メチルスチレン、ビニルトルエン、インデン及びそのアルキル誘導体などが挙げられ、また、ジシクロペンタジエン類としては、例えばシクロペンタジエンの2〜5量体、メチルシクロペンタジエンの2〜5量体、その誘導体などを挙げることができる。
【0015】
本発明の水溶性石油樹脂の製造方法としては、2〜6mmol/gのカルボン酸塩の置換基を有する石油樹脂である水溶性石油樹脂の製造が可能であれば如何なる方法も用いることが可能であり、その中でも効率的に水溶性石油樹脂を製造することが可能となることから、例えば少なくとも下記の2つの工程を経る製造方法により製造することが好ましい。
(1)工程;α,β−不飽和ジカルボン酸無水物と石油樹脂とを反応し、α,β−不飽和ジカルボン酸無水物変性石油樹脂とする工程。
(2)工程;(1)工程により得られたα,β−不飽和ジカルボン酸無水物変性石油樹脂と塩基性化合物とを反応し、水溶性石油樹脂とする工程。
【0016】
ここで、(1)工程は、α,β−不飽和ジカルボン酸無水物と石油樹脂とを反応し、α,β−不飽和ジカルボン酸無水物変性石油樹脂とする工程であり、該α,β−不飽和ジカルボン酸無水物としては、α,β−不飽和ジカルボン酸無水物の範疇に属するものであれば如何なるものも用いることが可能であり、その中でも炭素数3〜36のα,β−不飽和ジカルボン酸無水物が好ましく、炭素数3〜18のα,β−不飽和ジカルボン酸無水物が特に好ましい。そして、具体的には無水マレイン酸、無水シトラコン酸、クロル無水マレイン酸等が挙げられ、その中でも、反応効率に優れ、入手が容易であることから無水マレイン酸が好ましい。また、石油樹脂としては、上記したものを挙げることができる。
【0017】
該(1)工程により、α,β−不飽和ジカルボン酸無水物変性石油樹脂を製造する際の石油樹脂とα,β−不飽和ジカルボン酸無水物の割合は任意であり、その中でもα,β−不飽和ジカルボン酸無水物変性石油樹脂を効率よく製造することが可能となることから、石油樹脂に対して、α,β−不飽和ジカルボン酸無水物を20〜100重量%の割合で用いることが好ましく、特に20〜70重量%であることが好ましい。その際の反応条件としては、例えば無触媒下または有機過酸化物等のラジカル開始剤の存在下、140〜270℃の温度範囲で0.5〜100時間の範囲を挙げることができる。また、無溶媒溶融下又はヘキサン、ヘプタン、トルエン、キシレンなどの脂肪族または芳香族炭化水素系溶剤などの不活性な溶剤の存在下で実施しても構わない。
【0018】
(1)工程により得られるα,β−不飽和ジカルボン酸無水物変性石油樹脂は、水溶性に優れる石油樹脂の原材料として特に適したものとなることから、酸価50〜300mg・KOH/gを有するものであることが好ましく、特に60〜200mg・KOH/gであるものが好ましい。
【0019】
(2)工程は、(1)工程により得られたα,β−不飽和ジカルボン酸無水物変性石油樹脂と塩基性化合物を反応し、水溶性石油樹脂とする工程である。
【0020】
該塩基性化合物としては、塩基性化合物の範疇に属するものであれば如何なるものも用いることが可能であり、例えば水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム等のアルカリ金属水酸化物が挙げられ、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、ジメチルエチルアミンらのアルキルアミン;トリメタノールアミン、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン等のアルカノールアミン;等のアミン化合物、等を挙げることができ、その中でも特に水溶性に優れる石油樹脂を容易に効率よく製造することが可能となる、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、トリメタノールアミン、トリエタノールアミンが好ましい。
【0021】
該(2)工程おけるα,β−不飽和カルボン酸無水物変性石油樹脂と塩基性化合物の割合は任意であり、その中でもより効率的な反応が可能となることから、α,β−不飽和カルボン酸無水物変性石油樹脂の酸無水物基1当量に対して、塩基性化合物1〜4当量を用いることが好ましく、特に1.8〜3当量で用いることが好ましい。又、反応の際に塩基性化合物としてアルカリ金属水酸化物を用いる際には1〜10%水溶液とすることが好ましく、アミン化合物、特にアルカノールアミンを用いる際には、そのままの状態で添加することが好ましい。反応条件としては、例えば0〜100℃の温度範囲、0.5〜200時間の反応を挙げることができる。
【0022】
また、(1)工程及び/又は(2)工程は、常圧または加圧反応装置を用いて製造することができる。さらに、(1)工程の前、(1)工程と(2)工程の間、(2)工程の後、等に付加的工程を付随することもできる。
【0023】
そして、本発明の水溶性石油樹脂は、水溶液として製造することも、水溶性石油樹脂として回収して製造することも可能である。
【発明の効果】
【0024】
本発明により、撥水剤、乳化剤、分散剤の一原料として好適である、カルボン酸塩の置換基を有する石油樹脂からなる水溶性石油樹脂を提供することが出来る。
【実施例】
【0025】
以下に、実施例および比較例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例において用いた原料、分析、試験法は下記の通りである。
【0026】
1.原料
(1)石油樹脂
石油樹脂A;脂肪族/芳香族共重合系石油樹脂(東ソー株式会社製、(商品名)ペトロタック70)。
石油樹脂B;芳香族/ジシクロペンダジエン共重合系石油樹脂(東ソー株式会社製、(商品名)ペトロタック1140)。
石油樹脂C;芳香族系石油樹脂(東ソー株式会社製、(商品名)ペトコールLX)。
(2)無水マレイン酸(和光純薬工業株式会社製、試薬特級)。
(3)水酸化カリウム(和光純薬工業株式会社製、試薬特級)。
(5)水酸化ナトリウム(和光純薬工業株式会社製、試薬特級)。
(4)トリエタノールアミン(和光純薬工業株式会社製、試薬特級)。
【0027】
2.分析方法
軟化点:JIS K−2207に従って測定。
酸価:JIS K−5902に従って測定。
重量平均分子量:ポリスチレンを標準物質としてゲル浸透クロマトグラフィーにより測定した。
【0028】
実施例1
石油樹脂A(軟化点70℃、重量平均分子量(Mw)1490)1000gを攪拌機の付いたガラス製フラスコに入れて、250℃で加熱溶融させた後、無水マレイン酸250gを加えて、250℃、2時間反応させ無水マレイン酸変性石油樹脂を得た。得られた無水マレイン酸変性石油樹脂の軟化点、酸価、及び分子量の測定結果を表1に示す。
【0029】
得られた無水マレイン酸変性石油樹脂1000gに、5%水酸化カリウム水溶液4048gを加えて85℃還流下、10時間攪拌して反応を行い、水溶性石油樹脂を得た。
【0030】
得られた水溶液石油樹脂は、カルボン酸カリウム塩の置換基を3.3mmol/g有するものであり、褐色を有する均一透明な水溶性石油樹脂水溶液となるものであった。
【0031】
実施例2〜8
石油樹脂(A,B,C)、無水マレイン酸、塩基性化合物を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様の方法により水溶性石油樹脂を得た。
【0032】
得られた水溶性石油樹脂は、カルボン酸塩(カリウム塩、ナトリウム塩、トリエタノールアミン塩)の置換基を2.1〜5.7mmol/g有するものであり、褐色を有する均一透明な水溶性石油樹脂水溶液となるものであった。
【0033】
【表1】

比較例1〜4
石油樹脂(A,B)、無水マレイン酸、水酸化カリウムを表2に示すように変更した以外は、実施例1と同様の方法により水溶性石油樹脂の製造を試みた。
【0034】
比較例1〜3により得られた石油樹脂は、カルボン酸カリウム塩の置換基が1.4〜1.9mmol/gと少なく、水に溶解しないものであった。また、比較例4により得られた石油樹脂は、カルボン酸カリウム塩の置換基が7.5mmol/gと多いことからゲル化を示し、不溶性のものであった。
【0035】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の水溶性石油樹脂は、容易に水溶液化することが可能であり、従来の水に不溶の石油樹脂では展開できなかった用途で使用可能となり、又その製造方法はシンプルかつ安全で効率的に水溶性石油樹脂を製造することが可能となるものであり、その利用価値は極めて高いものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2〜6mmol/gのカルボン酸塩の置換基を有する石油樹脂であることを特徴とする水溶性石油樹脂。
【請求項2】
カルボン酸塩の置換基が、カルボン酸アルカリ金属塩及び/又はカルボン酸アミン塩の置換基であることを特徴とする請求項1に記載の水溶性石油樹脂。
【請求項3】
石油樹脂が、脂肪族系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、脂肪族/芳香族共重合系石油樹脂、ジシクロペンタジエン樹脂、脂肪族/ジシクロペンタジエン共重合系石油樹脂、芳香族/ジシクロペンタジエン共重合系石油樹脂及び脂肪族/芳香族/ジシクロペンタジエン共重合系石油樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種以上の石油樹脂であることを特徴とする請求項1又は2に記載の水溶性石油樹脂。
【請求項4】
少なくとも下記の2つの工程を経ることを特徴とする水溶性石油樹脂の製造方法。
(1)工程;α,β−不飽和ジカルボン酸無水物と石油樹脂とを反応し、α,β−不飽和ジカルボン酸無水物変性石油樹脂とする工程。
(2)工程;(1)工程により得られたα,β−不飽和ジカルボン酸無水物変性石油樹脂と塩基性化合物とを反応し、水溶性石油樹脂とする工程。
【請求項5】
(1)工程のα,β−不飽和ジカルボン酸無水物が無水マレイン酸、石油樹脂が脂肪族系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、脂肪族/芳香族共重合系石油樹脂、ジシクロペンタジエン樹脂、脂肪族/ジシクロペンタジエン共重合系石油樹脂、芳香族/ジシクロペンタジエン共重合系石油樹脂及び脂肪族/芳香族/ジシクロペンタジエン共重合系石油樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種以上の石油樹脂であり、(2)工程の塩基性化合物が、アルカリ金属水酸化物及び/又はアミン化合物であることを特徴とする請求項4に記載の水溶性石油樹脂の製造方法。

【公開番号】特開2013−112726(P2013−112726A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−258943(P2011−258943)
【出願日】平成23年11月28日(2011.11.28)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】