説明

水溶性硬質カプセル剤

【課題】DHA、EPA、α−リポ酸、ローヤルゼリー、およびイソフラボンといった特定の成分を硬質カプセル内に充填しながらも、良好な水溶性を保持してなる硬質カプセル剤およびその調製方法を提供する。また、上記特定の成分を充填してなる硬質カプセル剤について、当該成分とカプセルフィルムとの反応によって生じるカプセル剤の水不溶化を防止するための方法を提供する。
【解決手段】DHA、EPA、α−リポ酸、ローヤルゼリーまたはイソフラボンを充填する硬質カプセルとして、水溶性セルロース誘導体を主成分とするフィルムからなる硬質カプセルを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸、α−リポ酸、ローヤルゼリー、およびイソフラボンといった特定の成分を硬質カプセル内に充填しながらも、良好な水溶性を保持してなる硬質カプセル剤およびその調製方法に関する。また、上記特定の成分を充填してなる硬質カプセル剤について、当該成分とカプセルフィルムとの反応によって生じるカプセル剤の水不溶化を防止するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品や食品などの固形製剤の一つとして硬質カプセル剤がある。このものは、通常ゼラチン被膜で形成された互いに一端の開いた帽状容体の内部に粉末、顆粒または液状(油状)の医薬成分または食品成分を所定量充填した後、それら容体を同軸的に結合して完成される。
【0003】
この硬質ゼラチンカプセル剤は、製剤化のしやすさと医薬成分や食品成分の矯味および/または矯臭作用による服用のし易さから汎用されている製剤である。
【0004】
しかし、当該硬質ゼラチンカプセル剤に使用されるゼラチンフィルム(皮膜)は、それに含まれる水分が少なくなると極端にその機械的強度が低下するといった欠点を有している。具体的には、硬質ゼラチンカプセル剤は、皮膜中に通常13〜15%程度の水分を保有しているが、これが10%以下になると皮膜の柔軟性が低下して極めて脆くなる。このため、内容物充填作業でのカプセルの機械的取り扱いに際して、ひび、割れまたは欠けなど、カプセルフィルム(皮膜)に損傷を生じることがある。かかる問題を解消するための方策として、ゼラチンにグリセリンまたはソルビトールなどの可塑剤を添加する方法;ゼラチンにグリセリン等の可塑剤に加えてポリオキシエチレンソルビトールおよび/またはポリエチレングリコールを添加する方法(例えば、特許文献1等参照);およびゼラチンに特定の分子量のポリエチレングリコールを添加して浸漬法により非フォーム状硬質カプセルを製造する方法(例えば、特許文献2または3等参照)が提案されている。
【特許文献1】特公昭33−5649号公報
【特許文献2】特開平11−60473号公報
【特許文献3】特開2004−35569号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者らの研究によると、硬質ゼラチンカプセルに、ドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸、α−リポ酸、ローヤルゼリー、またはイソフラボンといった特定の食品成分を充填すると、これらの成分とゼラチンフィルムとが相互作用して水不溶化物が生成し、硬質カプセル剤が溶解しなくなるという不都合が生じることが判明した。
【0006】
本発明は、かかる問題を解消するために開発されたものであり、ドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸、α−リポ酸、ローヤルゼリー、またはイソフラボンといった食品成分を充填した場合においても良好な水溶性を長期間にわたって保持してなる硬質カプセル剤およびその調製方法を提供することを目的とする。また、本発明は、ドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸、α−リポ酸、ローヤルゼリー、またはイソフラボンといった食品成分を充填した場合における硬質カプセル剤について、当該成分とカプセルフィルムとの相互作用による水不溶化を長期にわたって防止するための方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために日夜鋭意検討していたところ、ドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸、α−リポ酸、ローヤルゼリー、またはイソフラボンといった食品成分を充填する硬質カプセルとして水溶性セルロース誘導体を主成分として調製される硬質カプセルを用いることにより、当該成分とカプセルフィルムとの相互作用による水不溶化という問題が回避でき、長期保存によっても良好な水溶性を保持してなる硬質カプセル剤が提供できることを見出した。
【0008】
本発明はかかる知見に基づいて完成されたものであり、下記の態様を含むものである。
【0009】
(I)水溶性硬質カプセル剤
(I-1)硬質カプセル内にドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸、α−リポ酸、ローヤルゼリー、およびイソフラボンからなる群から選択される少なくとも1種を充填してなる硬質カプセル剤であって、上記硬質カプセルが水溶性セルロース誘導体を主成分とするフィルムからなることを特徴とする、水溶性硬質カプセル剤。
(I-2)上記硬質カプセルが、水溶性セルロース誘導体、ゲル化剤、および必要に応じてゲル化補助剤を含有するフィルムからなるものである、(I-1)記載の水溶性硬質カプセル剤。
(I-3)食品である、(I-1)または(I-2)に記載する水溶性硬質カプセル剤。
(I-4)60℃で少なくとも1週間またはそれと同等の条件下におかれてなる、(I-1)乃至(I-3)のいずれかに記載する水溶性硬質カプセル剤。
【0010】
(II)水溶性硬質カプセル剤の調製方法
(II-1)硬質カプセル内にドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸、α−リポ酸、ローヤルゼリー、およびイソフラボンからなる群から選択される少なくとも1種を充填してなる水溶性の硬質カプセル剤を調製する方法であって、上記硬質カプセルとして水溶性セルロース誘導体を主成分とするフィルムからなる硬質カプセルを用いることを特徴とする方法。
(II-2)上記硬質カプセルとして、水溶性セルロース誘導体、ゲル化剤、および必要に応じてゲル化補助剤を含有するフィルムからなるカプセルを用いる、(II-1)に記載する調製方法。
(II-3)硬質カプセル剤が食品である、(II-1)または(II-2)に記載する調製方法。
(II-4)硬質カプセル剤を60℃で少なくとも1週間、またはそれと同等の条件下でおいた場合でも、水溶性が損なわれない硬質カプセル剤を調製する方法である、(II-1)乃至(II-3)のいずれかに記載する調製方法。
【0011】
(III)硬質カプセル剤の不溶化防止方法
(III-1)硬質カプセル内にドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸、α−リポ酸、ローヤルゼリー、およびイソフラボンからなる群から選択される少なくとも1種を充填してなる硬質カプセル剤の水不溶化を防止する方法であって、上記硬質カプセルとして水溶性セルロース誘導体を主成分とするフィルムからなる硬質カプセルを用いることを特徴とする方法。
(III-2)上記硬質カプセルとして、水溶性セルロース誘導体、ゲル化剤、および必要に応じてゲル化補助剤を含有するフィルムからなるものを用いる、(III-1)に記載する方法。
(III-3)硬質カプセル剤が食品である、(III-1)または(III-2)に記載する方法。
(III-4)60℃で少なくとも1週間またはそれと同等の条件下におかれる硬質カプセル剤の水不溶化防止方法である、(III-1)乃至(III-3)のいずれかに記載する方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の硬質カプセル剤は、硬質カプセル内にドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸、α−リポ酸、ローヤルゼリー、または大豆イソフラボンを充填していながらも、硬質ゼラチンカプセル剤とは異なり、上記成分とカプセルフィルムとの相互作用による不溶化が生じず、長期に亘って(例えば60℃で少なくとも1週間またはそれと同等の条件下で保存した場合であっても)良好な水溶解性を保持している。このため、本発明によれば、ドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸、α−リポ酸、ローヤルゼリー、またはイソフラボンを充填した安定した品質を保有した硬質カプセル剤を提供することができる。
【0013】
また本発明の水不溶化方法によれば、硬質カプセル内にドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸、α−リポ酸、ローヤルゼリー、またはイソフラボンを充填した場合における水不溶化という問題の発生を回避することができ、長期にわたって(例えば60℃で少なくとも1週間またはそれと同等の条件下で保存した場合であっても)良好な水溶解性を保持してなる硬質カプセル剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
I.水溶性硬質カプセル剤およびその調製方法
本発明の水溶性硬質カプセル剤は、硬質カプセル(カプセルフィルム)を形成する主成分として水溶性セルロース誘導体を用いることを特徴とする。
【0015】
本発明で用いられる水溶性セルロース誘導体としては、アルキル基またはヒドロキシアルキル基の少なくとも1つの基で置換されたセルロースエーテルを挙げることができる。ここで上記アルキル基またはヒドロキシアルキル基でいう「アルキル基」としては、炭素数1〜6、好ましくは1〜4の直鎖または分岐状の低級アルキル基、具体的にはメチル基、エチル基、ブチル基およびプロピル基を挙げることができる。水溶性セルロース誘導体として具体的には、メチルセルロースなどの低級アルキルセルロース;ヒドロキシエチルセルロースおよびヒドロキシプロピルセルロース等のヒドロキシ低級アルキルセルロース;ならびにヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシエチルエチルセルロースおよびヒドロキシプロピルメチルセルロース等のヒドロキシ低級アルキルアルキルセルロースなどを挙げることができる。なかでも、ヒドロキシプロピルメチルセルロースは皮膜成形性および低水分下での機械的強度が優れている点で、最適な水溶性セルロース誘導体である。
【0016】
本発明で用いる硬質カプセル(カプセルフィルム)中に含まれる上記水溶性セルロース誘導体の割合は、特に制限されないが、水分を除いたカプセルフィルムの重量を100重量%とした場合、通常70〜99.9重量%、好ましくは70.5〜99.8重量%、より好ましくは70.6〜99.7重量%の割合を挙げることができる。
【0017】
また本発明で用いる硬質カプセル(カプセルフィルム)には、上記成分に加えて、ゲル化剤を配合することもできる。ここで用いられるゲル化剤としては、カラギーナン、タマリンド種子多糖、ペクチン、キサンタンガム、ローカストビーンガム、カードラン、ゼラチン、ファーセレラン、寒天、およびジェランガムなどを例示することができる。これらは1種単独で使用しても、2種以上を任意に組み合わせて使用することもできる。
【0018】
上記ゲル化剤のなかでもカラギーナンは、ゲル強度が高く、しかも特定イオンとの共存下で少量の使用で優れたゲル化性を示すことから最適なゲル化剤である。なお、カラギーナンには、一般にカッパ−カラギーナン、イオタ−カラギーナンおよびラムダ−カラギーナンの3種が知られている。本発明では、ゲル化能を有するカッパおよびイオタ−カラギーナンを好適に使用することができる。またペクチンはエステル化度の違いでLMペクチンとHMペクチンとに分類でき、ジェランガムもアシル化の有無によってアシル化ジェランガム(ネイティブジェランガム)と脱アシル化ジェランガムに分類することができるが、本発明ではいずれも区別することなく使用することができる。
【0019】
本発明の硬質カプセル(カプセルフィルム)には、使用するゲル化剤の種類に応じてゲル化補助剤を使用することもできる。ゲル化剤としてカラギーナンを使用する場合に組み合わせて用いることができるゲル化補助剤としては、カッパ−カラギーナンについては水中でカリウムイオン、アンモニウムイオンおよびカルシウムイオンの1種又は2種以上を与えることのできる化合物、例えば塩化カリウム、リン酸カリウム、塩化アンモニウム、酢酸アンモニウム、塩化カルシウムを挙げることができる。またイオタ−カラギーナンについては水中でカルシウムイオンを与えることのできる、例えば塩化カルシウムを挙げることができる。またゲル化剤としてジェランガムを使用する場合に組み合わせて用いることができるゲル化補助剤としては、水中でナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオンおよびマグネシウムイオンの1種又は2種以上を与えることのできる化合物、例えば塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、硫酸マグネシウムを挙げることができる。加えて有機酸やその水溶性塩としてクエン酸またはクエン酸ナトリウムを使用することもできる。
【0020】
水溶性セルロース誘導体としてヒドロキシプロピルメチルセルロースを用いる場合、併用するゲル化剤としてはカラギーナン、特にカッパ−カラギーナン、またこれと併用するゲル化補助剤としては塩化カリウムを好適に挙げることができる。
【0021】
なお、本発明で用いる硬質カプセル(カプセルフィルム)が上記ゲル化剤を含む場合、その含有量としては、水分を除いたカプセルフィルムの重量を100重量%とした場合、0.05〜10重量%、好ましくは0.1〜9.5重量%、より好ましくは0.2〜9重量、さらに好ましくは0.3〜8重量%を挙げることができる。さらに塩化カリウムなどのゲル化補助剤を含む場合、その含有量として2.2重量%以下の範囲、好ましくは0.1〜2.1重量%、より好ましくは0.2〜1.9重量%、さらに好ましくは0.3〜1.6重量%を挙げることができる。
【0022】
なお、硬質カプセル(カプセルフィルム)には、上記成分(水溶性セルロース誘導体、必要に応じてゲル化剤やゲル化補助剤)に加えて、必要に応じて、可塑剤、金属封鎖剤、不透明化剤、着色料または香料などを配合することもできる。
【0023】
ここで可塑剤としては、医薬品または食品に使用できるものであれば特に制限されないが、例えば、アジピン酸ジオクチル,アジピン酸ポリエステル,エポキシ化ダイズ油,エポキシヘキサヒドロフタル酸ジエステル,カオリン,クエン酸トリエチル,グリセリン,グリセリン脂肪酸エステル,ゴマ油,ジメチルポリシロキサン・二酸化ケイ素混合物,D-ソルビトール,中鎖脂肪酸トリグリセリド,トウモロコシデンプン由来糖アルコール液,トリアセチン,濃グリセリン,ヒマシ油,フィトステロール,フタル酸ジエチル,フタル酸ジオクチル,フタル酸ジブチル,ブチルフタリルブチルグリコレート,プロピレングリコール,ポリオキシエチレン(105)ポリオキシプロピレン(5)グリコール,ポリソルベート80,マクロゴール1500,マクロゴール400,マクロゴール4000,マクロゴール600,マクロゴール6000,ミリスチン酸イソプロピル,綿実油・ダイズ油混合物,モノステアリン酸グリセリン,リノール酸イソプロピルなどを挙げることができる。なお、可塑剤を用いる場合、本発明で用いる硬質カプセル(カプセルフィルム)中の含有量として、水分を除いたカプセルフィルムの重量を100重量%とした場合、通常15重量%以下の範囲を挙げることができる。好ましくは13重量%以下、より好ましくは11重量%以下、さらに好ましくは8重量%以下の範囲である。
【0024】
金属封鎖剤としては、エチレンジアミン四酢酸、酢酸、ホウ酸、クエン酸、グルコン酸、乳酸、リン酸、酒石酸、またはこれらの塩、メタホスフェート、ジヒドロキシエチルグリシン、レシチン、β−シクロデキストリン、またはこれらの組み合わせを挙げることができる。
【0025】
また不透明化剤および香料としては、医薬品または食品に使用できるものであれば特に制限されない。
【0026】
本発明で用いる硬質カプセルは、定法の浸漬法を利用して製造することができる、具体的には前述する成分を含有する水溶液(ここでは、以下「カプセル調製溶液」という)を浸漬液とし、これにカプセル成型用ピンを浸漬し、次いで引き上げてカプセル成型用ピンの外表面に形成されたカプセル調製溶液からなる皮膜を冷却してゲル化させる工程を経て製造することができる。
【0027】
カプセル調製溶液中に含まれる上記各成分の濃度は、前述するカプセルフィルム中の各成分の割合に従って適宜調整することができる。具体的には、水溶性セルロース誘導体については、5〜30重量%、好ましくは10〜28重量%、より好ましくは16〜24重量%を挙げることができる。またゲル化剤を用いる場合、そのカプセル調製溶液中の濃度として0.01〜0.5重量%、好ましくは0.02〜0.45重量%、より好ましくは0.03〜0.4重量%を挙げることができる。また、ゲル化補助剤を用いる場合は、そのカプセル調製溶液中の濃度として0.01〜0.5重量%、好ましくは0.02〜0.45重量%、より好ましくは0.03〜0.4重量%を挙げることができる。
【0028】
カプセル調製溶液中に含まれる水の量は、制限されないが、カプセル成型用ピンの浸漬時に採用される温度(浸漬液の温度)条件下(30〜80℃、好ましくは40〜60℃)で、カプセル調製溶液の粘度が100〜20000mPa・s、好ましくは300〜10000mPa・sとなるような割合を挙げることができる。通常、水含有量として60〜90重量%、好ましくは70〜85重量%を挙げることができる。
【0029】
カプセル調製溶液(浸漬液)の調製方法は、特に制限されない。例えば約70〜80℃程度に加熱した精製水に、必要に応じてゲル化剤やゲル化補助剤を溶解した後、水溶性セルロース誘導体を分散させて、これを所望の浸漬液の温度(通常35〜60℃、より好ましくは40〜60℃)まで冷却して水溶性セルロース誘導体を溶解させて均一なカプセル調製溶液(浸漬液)を調製する方法;ならびに水溶性セルロース誘導体を約70〜80℃程度の熱水に分散し、これをいったん冷却して水溶性セルロース誘導体を溶解させた後に、必要に応じてゲル化剤やゲル化補助剤を添加し溶解し、再び加温して30〜50℃程度に調製して均一なカプセル調製溶液(浸漬液)を調製して、所望の浸漬液の温度に調整する方法などを制限なく使用することができる。
【0030】
本発明の硬質カプセルは、かかるカプセル調製溶液(浸漬液)にカプセル成型用ピンを浸漬した後、これを引き上げ、カプセル成型用ピンに付着した溶液をゲル化させ、その後、ゲル化した皮膜を20〜80℃で乾燥することによって製造される。具体的には、本発明で用いる硬質カプセルは下記の工程を経て製造することができる。
【0031】
(1)水溶性セルロース誘導体(また必要に応じてゲル化剤やゲル化補助剤)を含有するカプセル調製溶液(浸漬液)に、カプセル成型用ピンを浸漬する工程(浸漬工程)、
(2)カプセル調製溶液(浸漬液)からカプセル成型用ピンを引き上げて、当該ピンの外表面に付着したカプセル調製溶液をゲル化する工程(ゲル化工程)、
(3)カプセル成型用ピンの外表面に被覆形成されたゲル化カプセルフィルム(ゲル化皮膜)を乾燥する工程(乾燥工程)、
(4)乾燥したカプセルフィルム(皮膜)をカプセル成型用ピンから脱離する工程(脱離工程)。
【0032】
なお、必要に応じて上記(4)の工程後に下記の加熱工程を行なってもよい。
(5)上記のゲル化工程(2)後の、乾燥工程(3)の前後若しくは同時に、または脱離工程(4)後に、ゲル化カプセルフィルム(ゲル化皮膜)を50〜150℃で加熱処理する工程(加熱工程)。
【0033】
なお、カプセル調製溶液(浸漬液)としてカラギーナンなどのゲル化剤を配合しない溶液を用いる場合は、水溶性セルロース誘導体それ自体が60℃以上の温度でゲル化することを利用して、上記ゲル化工程(2)を60℃以上に加温したカプセル成型用ピンを用いて行なうことができる(熱ゲル法)。具体的には、浸漬工程(1)において、35〜50℃、好ましくは35〜45℃の一定温度に調整したカプセル調製溶液(浸漬液)に、その液温に応じて60〜150℃、好ましくは60〜120℃、より好ましくは70〜90℃に加温したカプセル成型用ピンを浸漬し、次いでゲル化工程(2)において、カプセル調製溶液(浸漬液)からカプセル成型用ピンを引き上げて、当該ピンの外表面に付着したカプセル基剤溶液をゲル化する。
【0034】
一方、カプセル調製溶液(浸漬液)としてカラギーナンなどのゲル化剤を配合した溶液を用いる場合は、当該溶液が50℃以下の温度でゲル化することを利用して、カプセル製造機周辺の温度を通常35℃以下、好ましくは30℃以下、好ましくは室温下に設定して、上記ゲル化工程(2)をカプセル成型用ピンの外表面に付着したカプセル調製溶液を放冷することによって行うことができる(冷ゲル法)。具体的には、浸漬工程(1)において、35〜60℃、好ましくは40〜60℃の一定温度に調整したカプセル調製溶液(浸漬液)に、その液温に応じて10〜30℃、好ましくは13〜28℃、より好ましくは15〜25℃に調整したカプセル成型用ピンを浸漬し、次いでゲル化工程(2)において、カプセル調製溶液(浸漬液)からカプセル成型用ピンを引き上げて、当該ピンの外表面に付着したカプセル調製溶液をゲル化する。
【0035】
乾燥工程(3)は室温で行うことができる。通常、室温の空気を送風することによって行なわれる。脱離工程(4)は、カプセル成型用ピン表面に形成された乾燥カプセルフィルムをカプセル成型用ピンから抜き出すことによって行われる。
【0036】
任意工程である加熱工程(5)は、ゲル化工程(2)後、すなわちカプセル調製溶液がゲル化(固化)した後に行なうことができる。加熱処理の時期は、ゲル化工程(2)後であればどの段階でもよく、乾燥工程(3)の前若しくは後、または加熱と乾燥を同時に行ってもよい。さらに脱離工程(4)後であってもよい。好ましくはゲル化工程(2)後、ゲル化カプセルフィルムを室温下での乾燥工程に供し、乾燥後または半乾きの段階で、加熱処理を行う。加熱温度は50〜150℃の範囲であれば特に制限されないが、好ましくは60〜100℃、より好ましくは60〜80℃の範囲である。加熱処理は、通常50〜150℃の空気を送風することによって行うことができる。
【0037】
斯くして調製されるカプセルフィルムは、所定の長さに切断調整された後、ボディ部とキャップ部を一対に嵌合した状態または嵌合しない状態で、硬質カプセルとして提供することができる。
【0038】
本発明の硬質カプセル剤は、上記の硬質カプセルの内部にドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸、α−リポ酸、ローヤルゼリー、またはイソフラボンが充填されてなる製剤、特に食品用の製剤である。なお、これらの成分は、上記の硬質カプセルの内部に1種単独で充填してもよいし、また2種以上を任意に組み合わせて充填してもよい。
【0039】
ここでドコサヘキサエン酸((4Z,7Z,10Z,13Z,16Z,19Z)-docosa-4,7,10,13,16,19-hexanoic acid、以下「DHA」ともいう)は、6つの二重結合を含む22個の炭素鎖を含む無色油状のカルボン酸であり、血中の中性脂肪量を減少させて心臓病等の危険性を低減させたり、アルツハイマー型痴呆やうつ病の疾病の改善に有効であるとして、健康食品の成分として注目されている成分である。
【0040】
エイコサペンタエン酸(all-cis-icosa-5,8,11,14,17-pentaenoic acid、以下「EPA」ともいう)は、魚油に含まれるペンタ不飽和脂肪酸であり、中性脂肪低下作用と抗血小板作用があり、脂質降下薬や抗血小板剤として高脂血症と閉塞性動脈硬化症に有効であるほか、妊娠中の摂取で6ヶ月時の認知能力が増すため頭のよくなるサプリメントとして注目されている成分である。
【0041】
α−リポ酸(別名、チオクト酸)は、主として体内のミトコンドリアを活性化する作用があり、糖のエネルギー変換効率を上げる働きと活性酵素抑制による強力なアンチエイジング(老化防止)効果があることが知られている医薬品および食品成分である。特にアンチエイジングとしてα−リポ酸にはビタミンCやビタミンEの400倍もの抗酸化力があり、また、α−リポ酸には、コエンザイムQ10、ビタミンC、ビタミンE、グルタチオンなど他の抗酸化成分を再生して再利用する効果があるため、好適にはこれらの抗酸化成分と組み合わせて用いることができる。
【0042】
ローヤルゼリーは、ミツバチの働き蜂の咽頭腺からの分泌物で、多くのビタミン類、ミネラルおよびアミノ酸等の様々な栄養素を含むため、健康食品として広く服用されている成分である。
【0043】
イソフラボンは、大豆などのマメ科植物の胚芽に特に多く含まれるフラボノイドの一種である。今のところ、ダイゼイン、ゲニステインを始めとする15種類の大豆イソフラボンが確認されている。当該イソフラボンは、女性ホルモンのエストロゲンと似た働きがあり、骨粗鬆症や更年期障害の改善、乳癌の予防効果の他、血液中の善玉コレステロールを増やす効果を有することで注目されている成分である。
【0044】
これらの成分のうち、DHAとEPAは常温で液状(油状)であり、またα−リポ酸、ローヤルゼリーおよびイソフラボンは常温で固体(例えば、粉末状)であるが、硬質カプセルの内部に充填する場合の形状は特に制限されず、液状(油状)やゲル状等の形状、粉末状、顆粒状、ペレット状、錠剤状などの固形状態であってもよい。例えば、上記各成分は、100%単体を上記形状のままで硬質カプセル内に充填されていてもよいし、また、これに他成分(例えば、他の健康食品や増量剤など)を混合し、また必要な加工を施して、液状(油状)、ゲル状、粉末状、顆粒状、ペレット状、錠剤状、またはこれら2種以上のハイブリッドの状態で充填されていてもよい(例えば、図1参照のこと)。なお、上記増量剤としては、例えばデンプンや乳糖など、食品添加物として使用されるものを広く用いることができ、またその配合割合も特に制限されず、0.01〜99.9重量%の範囲で適宜使用することができる。
【0045】
こうした成分の上記硬質カプセル内への充填は、硬質カプセルにおける内容物充填の常法に従って行うことができる。具体的には、上記ボディとキャップとの対からなる硬質カプセルを自体公知のカプセル充填機にセットし、ボディとキャップとを分離した後、ボディ内に一定量の内容物を充填し、次いでキャップを結合するなどの方法により行うことができる。なお、カプセル充填機としては、例えば全自動カプセル充填機およびカプセル充填・シール機を用いることができる。前者の例として、クオリカプス(株)製の全自動カプセル充填機(型式名:LIQFIL super 80/150)を、後者の例としてクオリカプス(株)製のカプセル充填・シール機(型式名:LIQFIL super FS)を挙げることができるが、これに限定されることはない。また、必要に応じて、キャップとボディとの結合部に、当該硬質カプセルと同一成分からなるバンドシールを施すこともできる。
【0046】
斯くして調製される本発明の硬質カプセル剤は、DHA、EPA、α−リポ酸、ローヤルゼリーおよびイソフラボンが長期にわたり安定して硬質カプセル内に充填され、経時によるカプセルの割れが生じ難いものである。しかも本発明の硬質カプセル剤は、後述する実施例で示すように、硬質ゼラチンカプセル剤と異なって、硬質カプセルが経時的に内部に充填したDHA、EPA、α−リポ酸、ローヤルゼリーまたはイソフラボンと相互作用することによって不溶化とするという不都合がなく、長期にわたって良好な水溶解性を備えている。こうした本発明の硬質カプセル剤の特徴、特に硬質ゼラチンカプセル剤との相違は、特に硬質カプセル剤を60℃、相対湿度約80%の条件で、1週間以上保存した場合に顕著に現れる。
【0047】
かかる条件(60℃、約80%RHの条件下での1週間保存)は、医薬品または食品の品質(保存安定性)を評価する上で汎用される苛酷試験の条件であり、通常、医薬品または食品を40℃75%RHの条件下で3ヶ月以上、または室温で1.5年以上保存した状態に相当する。ゆえに、本発明の硬質カプセル剤は、内部にDHA、EPA、α−リポ酸、ローヤルゼリーまたはイソフラボンを充填しながらも、40℃75%RHの条件下で3ヶ月以上または室温で1.5年間もの長期にわたって水溶解性が損なわれず、体内に投与(または摂取)した場合に速やかに硬質カプセル内から内容物(DHA、EPA、α−リポ酸、ローヤルゼリーおよびイソフラボン)が溶出するという特性を保持している。
【0048】
また、本発明の硬質カプセル剤は、低水分条件下でも優れた強度(耐衝撃強度)を備えている。このため、乾燥条件下で保存することも可能であり、上記内容物の変質をより有効に防止することが可能である。
【0049】
II.硬質カプセル剤の水不溶化を防止する方法
本発明は、硬質カプセルの内部に、DHA、EPA、α−リポ酸、ローヤルゼリーおよびイソフラボンからなる群から選択される少なくとも1種を充填してなる硬質カプセル剤について、硬質カプセル剤の水不溶化を防止する方法を提供する。
【0050】
当該方法は、DHA、EPA、α−リポ酸、ローヤルゼリーまたはイソフラボンを充填する硬質カプセルとして、水溶性セルロース誘導体を主成分とするフィルムからなる硬質カプセルを用いることによって実施することができる。
【0051】
ここで用いる水溶性セルロース誘導体の種類およびその配合割合は、上記Iで説明したものを同様に挙げることができる。水溶性セルロース誘導体として、好ましくはヒドロキシプロピルメチルセルロースである。当該硬質カプセルに、Iで説明するように、水溶性セルロース誘導体に加えてゲル化剤を配合することもでき、さらに必要に応じてゲル化補助剤を配合することもできる。それらの種類および配合割合も、上記Iで説明したものを同様に挙げることができる。なお、水溶性セルロース誘導体としてヒドロキシプロピルメチルセルロースを用いる場合、併用するゲル化剤としてはカラギーナン、特にカッパ−カラギーナン、またこれと併用するゲル化補助剤としては塩化カリウムを好適に挙げることができる。
【0052】
また、硬質カプセルには、上記成分(水溶性セルロース誘導体、必要に応じてゲル化剤やゲル化補助剤)に加えて、さらに必要に応じて、可塑剤、金属封鎖剤、不透明化剤、着色料または香料などを配合することもできる。
【0053】
DHA、EPA、α−リポ酸、ローヤルゼリーまたはイソフラボンを充填する硬質カプセルとして、上記の硬質カプセルを用いることにより、硬質ゼラチンカプセル剤とは異なり、硬質カプセルが内容物と経時的に相互作用することによって不溶化する現象を防止することができ、硬質カプセル剤の水溶解性を長期にわたって良好に維持することができる。こうした本発明の効果は、特に硬質カプセル剤を60℃、相対湿度約80%の条件で1週間以上保存した場合に顕著に得ることができる。従って、本発明の方法は、60℃、約80%RHで少なくとも1週間またはこれと同等の条件下におかれる硬質カプセル剤に対して、その水不溶化防止方法として好適に使用することができる。
【0054】
なお、上記60℃、約80%RHでの1週間の保存条件は、医薬品や食品等の品質(保存安定性)評価に汎用される苛酷試験の条件であり、通常、医薬品などを40℃75%RHの条件下で3ヶ月以上、または室温で1.5年以上保存した状態に相当する。従って、本発明で「60℃、約80%RHで少なくとも1週間と同等の条件」とは、当該40℃75%RHの条件下で3ヶ月以上、または室温で1.5年間保存する状態を意味する。
【0055】
斯くして本発明の水不溶化防止方法を施すことによって得られる硬質カプセル剤は、内部にDHA、EPA、α−リポ酸、ローヤルゼリーまたはイソフラボンを充填しながらも、40℃75%RHの条件下で3ヶ月または室温で1.5年間もの長期にわたって水溶解性が損なわれず、体内に投与(または摂取)した場合に速やかに硬質カプセル内から内容物(DHA、EPA、α−リポ酸、ローヤルゼリーおよびイソフラボン)が溶出するという特性を保持しており、食品、特にサプリメントとして好適に用いることができる。
【実施例】
【0056】
以下、実験例および実施例を示して本発明を説明するが、本発明はかかる実施例などによって制限されるものではない。なお、特に言及しない限り、下記でいう「%」は重量%を意味する。
【0057】
実施例1〜5 硬質カプセル剤の調製
(1)硬質カプセルの調製
約70℃の精製水19.55Lに塩化カリウム18.4gとκカラギーナン39.1gを加えて溶解し、更にこれに、ヒドロキシプロピルメチルセルロース3.45kgを攪拌しながら分散させた。
【0058】
この分散液を55℃に下げて、攪拌しながらヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)を溶解し、その後7時間静置して脱泡した。斯くして調製した水溶液(カプセル調製溶液)を浸漬液として、浸漬法による慣用のカプセル製造装置に仕込み、浸漬液の温度を50〜52℃に保持しながら、常法に従ってサイズ1号または2号の硬質カプセル(キャップ、ボディ)を調製した。
【0059】
(2)内容物の充填
(2-1)ドコサヘキサエン酸(DHA)、エイコサペンタエン酸(EPA)の充填
全自動カプセル充填機(クオリカプス製、LIQFILSUPER 40)を用いて、上記で調製したサイズ1号の硬質カプセルに、油状のDHA(精製魚油99.7%および抽出ビタミンE0.3%、DHAを27%含有)(日本化学飼料(株)製)、または油状のEPA(精製魚油99.7%および抽出ビタミンE0.3%、EPAを18%含有)(マルハ(株)製)を各々400μL充填した。次いで、全自動カプセル充填・シール機(クオリカプス製、LIQFILSUPERFS)を用いて、上記でDHAまたはEPAを充填した硬質カプセルのキャップとボディの嵌合部に、バンドシール液(HPMC 16%、無水エタノール50.4%、純水33.5%、着色料(黄色5号)0.1%)を塗布し、乾燥させて、内部にDHAまたはEPAを充填してなる本発明の硬質カプセル剤を調製した(実施例1および2)。
【0060】
また比較のため、サイズ1号の硬質ゼラチンカプセル(クオリカプス(株)製)に、同様にしてDHAまたはEPAを400μLずつ充填し、キャップとボディの嵌合部にバンドシール(ゼラチン22%、純水77.9%、着色料(黄色5号)0.1%)を塗布し、乾燥させて、硬質ゼラチンカプセル剤を調製した(比較例1および2)。
【0061】
(2-2)α−リポ酸の充填
全自動カプセル充填機(クオリカプス製、LIQFILSUPER 40)を用いて、上記で調製したサイズ2号の硬質カプセルに、粉末状の100%α−リポ酸(三栄源エフ・エフ・アイ(株)製)を170mg充填し、内部にα−リポ酸を充填してなる本発明の硬質カプセル剤を調製した(実施例3)。また比較のため、サイズ2号の硬質ゼラチンカプセル(クオリカプス(株)製)に同様にして粉末状のα−リポ酸を170mg充填した(比較例3)。
【0062】
(2-3)ローヤルゼリーの充填
全自動カプセル充填機(クオリカプス製、LIQFILSUPER 40)を用いて、上記で調製したサイズ2号の硬質カプセルに、粉末状のローヤルゼリー((株)加藤美蜂園本舗)を300mg充填し、内部にローヤルゼリーを100%充填してなる本発明の硬質カプセル剤を調製した(実施例4)。また比較のため、サイズ2号の硬質ゼラチンカプセル(クオリカプス(株)製)、同様にして粉末状のローヤルゼリーを300mg充填した(比較例4)。
【0063】
(2-4)大豆イソフラボンの充填
全自動カプセル充填機(クオリカプス製、LIQFILSUPER 40)を用いて、上記で調製したサイズ2号の硬質カプセルに、粉末状の大豆イソフラボン(イソフラボンを40%含有)(フジッコ(株)製)を160mg充填し、内部に大豆イソフラボンを充填してなる本発明の硬質カプセル剤を調製した(実施例5)。また比較のため、サイズ2号の硬質ゼラチンカプセル(クオリカプス(株)製)に、同様にして粉末状の大豆イソフラボンを160mg充填した(比較例5)。
【0064】
実験例1 水溶性試験
上記実施例1〜4および比較例1〜4で調製した硬質カプセル剤(n=3)について、調製直後のものと、ガラス瓶にいれて閉栓した状態で60℃、相対湿度80%の状態で1週間保存したものについて、水への溶解性を調べた。水溶解性試験は、日本薬局方に規定する溶出試験法(第2法:パドル法)に準じて行った。具体的には、各硬質カプセル剤を日本薬局方規定のシンカーに入れ、純水(37±0.5℃)900mLを入れた容器の底に沈め、パドルを50rpmで回転させて、硬質カプセル剤のカプセルフィルムが開口するまでの時間を測定した。開口するまでに要する時間が30分を超えた場合に水不溶化が生じていると判断した。
【0065】
結果を表1に示す。
【0066】
【表1】

【0067】
表1に示すように、硬質ゼラチンカプセルにDHA,EPA、α−リポ酸またはローヤルゼリーを充填すると、調製直後は水溶性に優れるものの、60℃、80%RHで1週間保存した後は、カプセル皮膜が水に溶解しなくなり、内容物が溶出しなくなる現象が認められた。図1にDHAを充填した硬質ゼラチンカプセル剤(調製直後、60℃、80%RHで1週間保存後)について、溶出試験における開口の様子を示す写真画像を示す。この理由は明らかではないが、内容物(DHA,EPA、α−リポ酸またはローヤルゼリー)とゼラチンフィルムとが経時的に反応して水不溶化物が生成するためと考えられる。
【0068】
一方、DHA,EPA、α−リポ酸およびローヤルゼリーを充填した本発明の硬質カプセル剤は、60℃で1週間保存しても水に対する溶解性に影響はなく、調製直後と同様に良好な水溶性を示した。このことから本発明で用いた硬質カプセル(HPMC)は、DHA,EPA、α−リポ酸およびローヤルゼリーと反応することなく化学的に安定であることがわかる。図2にDHAを充填した本発明の硬質カプセル剤(調製直後、60℃80%RHで1週間保存後)について、溶出試験における開口の様子を示す写真画像を示す。
【0069】
実験例2 硬質カプセル剤の安定性評価
(1)充填物の漏出の有無
上記実施例1〜2および比較例1〜2で調製した中に油状成分(DHA、EPA)を充填した硬質カプセル剤(n=3)について、調製直後のものと、ガラス瓶にいれて閉栓した状態で60℃、相対湿度80%の状態で1週間保存したものについて、外観観察によりカプセル皮膜から内容物の漏出の有無を調べた。
【0070】
その結果、硬質ゼラチンカプセルにDHAまたはEPAを充填した比較例1と2の硬質カプセル剤は、60℃1週間の保存により内容物の漏出が認められたが、HPMCを主成分とする硬質カプセルにDHAまたはEPAを充填した実施例1と2の硬質カプセル剤は、60℃1週間の保存によっても内容物の漏出は認められなかった。このことから、フィルム成分としてHPMCを用いた本発明の硬質カプセルによれば、内部にDHAまたはEPAを充填した場合でも、長期に亘って漏出などの問題がなく、化学的および物理的に安定であり、保存安定性に優れていることがわかる。
【0071】
(2)充填物の色調変化
上記実施例5および比較例5で調製した硬質カプセル剤(n=3)について、調製直後のものと、ガラス瓶にいれて閉栓した状態で60℃、相対湿度80%の状態で1ヶ月間保存したものについて、内容物の色調の変化を調べた。具体的には、調製直後の硬質カプセル剤からとりだした内容物(大豆イソフラボン)と60℃で1ヶ月間保存後の硬質カプセル剤からとりだした内容物(大豆イソフラボン)の色を目視で比較した。結果を図4に示す。
【0072】
図4に示すように、硬質ゼラチンカプセル剤に充填した大豆イソフラボンは、60℃で1ヶ月保存することにより濃く変色し固化が認められたのに対して、硬質HPMCカプセル剤に充填した大豆イソフラボンは、固化は認められず、また着色が有意に抑制されていた。
【0073】
実験例3 硬質カプセル剤の強度評価
(1)機械的強度
上記実施例3〜5および比較例3〜5で調製した硬質カプセル剤(n=10)について、調製直後のものと、ガラス瓶にいれて閉栓した状態で60℃、80%RHの状態で1週間保存したもの、およびガラス瓶にいれて閉栓した状態で60℃、80%RHの状態で1週間保存したもの(dry)について、機械的強度を測定した。具体的には、各カプセル剤の横置にして5Kgの荷重を徐々に加え、割れたカプセル数から、下式に従って割れ率を算出した。
【0074】
【数1】

【0075】
(2)カプセル水分値
上記実施例3〜5および比較例3〜5で調製した硬質カプセル剤(n=10)について、調製直後のものと、ガラス瓶にいれて閉栓した状態で60℃、80%RHの状態で1週間保存したもの、およびガラス瓶にいれて閉栓した状態で60℃、80%RHの状態で1週間保存したもの(dry)について、カプセル水分値を求めた。具体的には、まず各カプセル剤から内容物をとりだし、空カプセルの重量(湿重量)を測定した後、空カプセルを105℃で2時間加熱乾燥し、再度各空カプセルの重量(乾燥重量)を測定した。次いで、乾燥前の重量(湿重量)と乾燥後の重量(乾燥重量)の差から、下式に従って、105℃で2時間加熱乾燥することによって減少する水分量の割合(空カプセル水分値%)を算出した。
【0076】
【数2】


結果を表2に示す。
【0077】
【表2】

【0078】
α−リポ酸を充填した硬質ゼラチンカプセル剤(比較例3)は、表2に示すように、カプセル水分値が約14%であるにもかかわらず、割れ率は70%であった。通常、カプセル水分値が14%のゼラチンカプセルは、割れ試験でカプセルが割れることはない。このことから、α−リポ酸とゼラチンとの相互作用により、硬質ゼラチンカプセル剤の強度が低下すると考えられた。これに対して、α−リポ酸を充填した本発明の硬質カプセル剤(実施例3)は、60℃1週間の過酷試験でもカプセル強度への影響はなかった。
【0079】
ローヤルゼリーを充填した硬質ゼラチンカプセル剤(比較例4)は、表2に示すように60℃1週間の過酷試験で割れが生じ、強度の低下が認められたが、ローヤルゼリーを充填した本発明の硬質カプセル剤(実施例4)は、60℃1週間の過酷試験でもカプセル強度への影響はなかった。また同様に、大豆イソフラボンを充填した本発明の硬質カプセル剤(実施例5)もまた60℃1週間の過酷試験によってもカプセル強度への影響はなかった。
【0080】
以上の実験結果より、本発明の硬質カプセル剤は、DHA、EPA、α−リポ酸、ローヤルゼリー、およびイソフラボンを充填した場合でも、硬質ゼラチンカプセル剤と比較して、化学的、物理的に安定であることが判明した。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】硬質カプセル内に充填される内容物の形状を示す。
【図2】DHAを充填した比較例1の硬質ゼラチンカプセル剤(調製直後、60℃1週間保存後)について、溶出試験における開口の様子を示す写真画像を示す。
【図3】DHAを充填した実施例1の硬質カプセル剤(調製直後、60℃1週間保存後)について、溶出試験における開口の様子を示す写真画像を示す。
【図4】実施例5と比較例5の硬質カプセル(大豆イソフラボン充填)を60℃で1ヶ月間保存した後の、内容物の性状(着色など)を観察した結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬質カプセル内にドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸、α−リポ酸、ローヤルゼリー、およびイソフラボンからなる群から選択される少なくとも1種を充填してなる硬質カプセル剤であって、上記硬質カプセルが水溶性セルロース誘導体を主成分とするフィルムからなることを特徴とする、水溶性硬質カプセル剤。
【請求項2】
上記硬質カプセルが、水溶性セルロース誘導体、ゲル化剤、および必要に応じてゲル化補助剤を含有するフィルムからなるものである、請求項1記載の水溶性硬質カプセル剤。
【請求項3】
食品である、請求項1または2に記載する水溶性硬質カプセル剤。
【請求項4】
60℃、相対湿度80%に少なくとも1週間、またはそれと同等の条件下におかれてなる、請求項1乃至3のいずれかに記載する水溶性硬質カプセル剤。
【請求項5】
硬質カプセル内にドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸、α−リポ酸、ローヤルゼリー、およびイソフラボンからなる群から選択される少なくとも1種を充填してなる水溶性の硬質カプセル剤を調製する方法であって、上記硬質カプセルとして水溶性セルロース誘導体を主成分とするフィルムからなる硬質カプセルを用いることを特徴とする方法。
【請求項6】
上記硬質カプセルとして、水溶性セルロース誘導体、ゲル化剤、および必要に応じてゲル化補助剤を含有するフィルムからなるカプセルを用いる、請求項5に記載する調製方法。
【請求項7】
硬質カプセル剤が食品である、請求項5または6に記載する調製方法。
【請求項8】
硬質カプセル剤を60℃で少なくとも1週間、またはそれと同等の条件下でおいた場合でも、水溶性が損なわれない硬質カプセル剤を調製する方法である、請求項5乃至7のいずれかに記載する調製方法。
【請求項9】
硬質カプセル内にドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸、α−リポ酸、ローヤルゼリー、およびイソフラボンからなる群から選択される少なくとも1種を充填してなる硬質カプセル剤の水不溶化を防止する方法であって、上記硬質カプセルとして水溶性セルロース誘導体を主成分とするフィルムからなる硬質カプセルを用いることを特徴とする方法。
【請求項10】
上記硬質カプセルとして、水溶性セルロース誘導体、ゲル化剤、および必要に応じてゲル化補助剤を含有するフィルムからなるものを用いる、請求項9に記載する方法。
【請求項11】
硬質カプセル剤が食品である、請求項9または10に記載する方法。
【請求項12】
60℃で少なくとも1週間またはそれと同等の条件下におかれる硬質カプセル剤の水不溶化防止方法である、請求項9乃至11のいずれかに記載する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−189585(P2008−189585A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−24859(P2007−24859)
【出願日】平成19年2月2日(2007.2.2)
【出願人】(000228110)クオリカプス株式会社 (22)
【Fターム(参考)】