説明

水溶性糖類の製造方法

【課題】多糖類を簡単に水溶性糖類に分解することができる水溶性糖類の製造方法を提供する。
【解決手段】多糖類を含有する処理物から水溶性糖類を製造する方法であって、前記処理物が封入された収容容器2内が超高温高圧水蒸気で満たされた状態としたのち、前記処理物tを爆砕処理する。処理物が封入された容器内を超高温高圧水蒸気で満たされた状態に調整した後、爆砕すれば、爆砕だけで処理物に含まれる多糖類から水溶性糖類を生成することができる。しかも、爆砕された際に、容器内の気体が急激に膨張するので、爆砕された物質が急激に冷却される。すると、生成された水溶性糖類に含まれる単糖類が過分解することも防ぐことができる。したがって、水溶性糖類を簡単かつ確実に製造し回収することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶性糖類の製造方法に関する。さらに詳しくは、セルロースなどの多糖類からグルコース等の水溶性糖類を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、化石燃料の消費に伴う地球温暖化を防止する観点から、バイオエタノールが注目されている。
バイオエタノールとは、バイオマスから生産されるエタノールのことであり、バイオマスから得られる糖を発酵させて生産される。具体的には、グルコースやその他の単糖を酵母等を用いて発酵させることによって、バイオエタノールを生成することができる。現在、バイオエタノールは、サトウキビやとうもろこしを原料としたものが多く生産されている。
しかしながら、サトウキビやとうもろこしなどは、従来、食料や家畜の飼料などとなっていたものであり、かかる原料からバイオエタノールを製造することによって、エタノールと食料の競合が生じており問題となっている。
【0003】
一方、バイオエタノールは単糖を発酵させて生産するものであるため、理論的には、単糖を生成することができる原料、つまり、多糖類を含有するものであれば、バイオエタノールの原料として採用することが可能である。現在も、多糖類の一種であるセルロースを含有するバイオマス原料、例えば、木材や稲わらなどからバイオエタノールを製造する方法の開発が進められている(例えば、特許文献1、2など)。
【0004】
木材や稲わらなどからバイオエタノールを製造する場合、まず、木材や稲わらなどに含まれるセルロースを分解して、グルコース等の単糖を生成する必要がある。
セルロースから単糖を生成するには、一般的に酵素(セルラーゼ)が使用される。しかし、酵素によってセルロースからグルコース等の単糖を生成する場合、処理時間が長くなるため、生産効率が低くなる。しかも、このような酵素は非常に高価であるため、酵素によって多糖類を分解し単糖を得る方法を採用した場合、製造されるバイオエタノールは非常に高価になり、経済性が低いという問題がある。
【0005】
かかる問題を解決する方法として、セルロースから酵素を用いずに単糖を得る技術が研究されている(例えば、非特許文献1、2など)。
【0006】
非特許文献1、2には、セルロースを亜臨界水処理することによって、セルロースを含有する原料(セルロース粉末)からグルコースなどの単糖を得る方法が開示されている。非特許文献1、2には、セルロース粉末と蒸留水とを反応器内に入れて、反応器内の気体を不活性ガスに置換したのち、反応器内を加熱して亜臨界水の状態とすることによって、セルロースを分解してグルコースなどの単糖を生成できる旨が記載されている。
しかるに、非特許文献1、2の技術では、セルロースを分解して単糖を生成した後も、反応器内が非常に高温高圧の状態になっているので、セルロースを分解して得られた単糖がさらに分解(過分解)されてしまい、実質的には単糖を回収することが困難である。言い換えれば、非特許文献1の技術では、セルロースを直接分解することにより単糖を得ることは、実質的には不可能であるといえる。
【0007】
また、セルロースなどの多糖類を含有する木片などを水蒸気爆砕することによって、物質が細かく破砕されるとともに、セルロースが単糖やオリゴ糖等の小糖に分解される可能性があることを記載した文献も存在する(特許文献4〜7)。
たしかに、水蒸気爆砕するだけで、セルロースから直接単糖や小糖が生成できれば、非常に有効である。
しかし、これらの文献では、水蒸気爆砕によって多糖類から単糖が生成された実施例は全く記載されておらず、多糖類から単糖が生成する条件に関しても全く記載も示唆もされていない。つまり、これらの文献は、あくまで水蒸気爆砕により多糖類から単糖や小糖を生成できるかもしれないという想像を述べたものにすぎず、水蒸気爆砕により多糖類から単糖や小糖などを生成できることを示唆するものとはいえない。
【0008】
現在のところ、セルロースなどの多糖類から、水蒸気爆砕によって、直接、単糖や小糖などの糖類を生成した例は見当たらず、かかる技術の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010−35446号公報
【特許文献2】特開2010−82620号公報
【特許文献3】特開2009−183264号公報
【特許文献4】特開2005−95728号公報
【特許文献5】特開2005−103415号公報
【特許文献6】特開2008−237164号公報
【特許文献7】特開2010−162498号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Sakaki et al,Energy&Fuels,10,684-688,1996
【非特許文献2】Sako et al,SCEJ 40th AutumnMeeting, Sendai,2008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記事情に鑑み、爆砕によって多糖類から水溶性糖類を生成することができる水溶性糖類の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
第1発明の水溶性糖類の製造方法は、多糖類を含有する処理物から水溶性糖類を製造する方法であって、前記処理物が封入された容器内が超高温高圧水蒸気で満たされた状態としたのち、前記処理物を爆砕処理することを特徴とする。
第2発明の水溶性糖類の製造方法は、第1発明において、前記爆砕処理する前に、前記容器内が超高温高圧水蒸気で満たされた状態を所定の時間維持することを特徴とする。
第3発明の水溶性糖類の製造方法は、第1または第2発明において、前記超高温高圧水蒸気の圧力が、5.0MPa〜6.5MPaであることを特徴とする。
第4発明の水溶性糖類の製造方法は、第1、第2または第3発明において、前記爆砕処理する前に、前記容器内が超高温高圧水蒸気で満たされた状態を、0.5分〜5分間維持することを特徴とする。
第5発明の水溶性糖類の製造方法は、第1、第2、第3または第4発明において、前記容器内に前記処理物を供給する処理物供給工程と、前記処理物を供給された前記容器に対して、超高温高圧水蒸気を供給する蒸気供給工程と、該蒸気供給工程において加熱された蒸気が供給された前記容器を外部から気密に密封し、該容器内を所定の時間維持する調整工程と、該調整工程ののち、該容器と外部との間を連通する爆砕処理工程と、を順に行うことを特徴とする。
第6発明の水溶性糖類の製造方法は、第1、第2、第3、第4または第5発明において、前記多糖類がセルロースであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
第1発明によれば、処理物が封入された容器内を超高温高圧水蒸気で満たされた状態に調整した後、爆砕すれば、爆砕だけで処理物に含まれる多糖類から水溶性糖類を生成することができる。しかも、爆砕された際に、容器内の気体が急激に膨張するので、爆砕された物質が急激に冷却される。すると、生成された水溶性糖類に含まれる単糖類が過分解することも防ぐことができる。したがって、水溶性糖類を簡単かつ確実に製造し回収することができる。また、高価な酵素を用いる必要がなく、また、酵素を用いて多糖類を糖化(以下、単に酵素糖化という)する工程が不要になる上、処理物の前処理がほとんど不要となるので、処理物に含まれる多糖類から水溶性糖類を効率よく製造することができる。
第2発明によれば、容器内が超高温高圧水蒸気で満たされた状態を所定の時間維持するので、爆砕したときに、処理物に含まれる多糖類から水溶性糖類を生成する効率を高くすることができる。
第3発明によれば、超高温高圧水蒸気の圧力が、5.0MPa〜6.5MPaであるので、爆砕したときに、確実に処理物に含まれる多糖類から水溶性糖類を生成することができる。
第4発明によれば、容器内が超高温高圧水蒸気で満たされた状態を、0.5分〜5分間維持するので、より確実に処理物に含まれる多糖類から水溶性糖類を生成する効率を高くすることができる。
第5発明によれば、処理物を供給された容器に対して超高温高圧水蒸気を供給しているので、処理物供給工程から調整工程が完了するまでの時間を短くすることができる。つまり、処理物を急加熱することができる。また、調整工程後に容器と外部との間を連通すれば、急激に容器内の圧力が低下し、処理物が爆砕されるとともに、爆砕によって製造された物質を急冷却することができる。したがって、処理物を加熱冷却する時間が短くなるので、処理物を爆砕処理する時間を短くでき、処理物に含まれる多糖類から水溶性糖類を効率よく製造することができる。そして、急冷却されるので、水溶性糖類に含まれる単糖類の過分解を防止することができる。
第6発明によれば、多糖類がセルロースであるので、単糖としてグルコースだけを生成することができる。すると、高価なセルラーゼを使用しなくてもグルコースを生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の水溶性糖類の製造方法の概略フロー図である。
【図2】本発明の水溶性糖類の製造方法に使用される装置の概略説明図である。
【図3】実施例の実験結果を示した図である。
【図4】実施例の実験結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
本発明の水溶性糖類の製造方法は、多数の単糖類がグリコシド結合によってつながった化合物である多糖類を含む物質から水溶性糖類を製造する方法であって、多糖類を含む物質を爆砕することによって、酵素を使用することなくグリコシド結合を切断して水溶性糖類を製造するようにしたことに特徴を有するものである。
【0016】
本発明の水溶性糖類の製造方法の原料となる物質は、多糖類を含んでいるものであれば、とくに限定されない。例えば、セルロースなどから形成された木質材や、草本類の農業系廃棄物、古紙および綿繊維製品(例えば古着など)、綿繊維製品の廃棄物などを挙げることができる。
また、多糖類は、例えば、セルロースやヘミセルロース、デンプンなどを挙げることができるが、これらに限定されない。多糖類がセルロースの場合には、高価なセルラーゼを用いなくてもグルコースを生成できる点で好ましい。
【0017】
本発明でいう水溶性糖類とは、水にとける糖類をいい、グルコースなどの単糖類や単糖類が3〜6個結合した少糖やオリゴ糖などが含まれる。
【0018】
以下、本発明の水溶性糖類の製造方法の原料となる、多糖類を含む物質を処理物tという。
【0019】
(本発明の水溶性糖類の製造方法について)
本発明の水溶性糖類の製造方法では、処理物tを爆砕することによって、単糖類同士を結合する結合構造、例えばグリコシド結合などを切断して水溶性糖類を製造するのであるが、まず、水溶性糖類の製造方法に使用される装置を説明する。
【0020】
(爆砕装置1の説明)
図2に示すように、本発明の水溶性糖類の製造方法(以下、本発明の製造方法という)に使用される爆砕装置1は、処理物を収容する収容容器2と、この収容容器2に対して蒸気を供給する蒸気発生手段3と、収容容器2に連通された回収手段4と、排気を外部に排出する排気部5と、を備えている。
【0021】
(収容容器2)
まず、収容容器2は、内部に中空な収容空間2hを有するものであり、この収容空間2hを外部から気密に隔離することができるような構造を有している。
この収容容器2は、収容空間2h内に処理物を供給することができるように構成されている。例えば、収容容器2は、開口を有する有底円筒状の容器からなる本体部2aと、本体部2aの開口に着脱可能に取り付けられる蓋部2bと、によって形成することができる。
なお、後述するように、収容容器2は、その収容空間2h内が高圧高温(5MPa以上、240℃以上)の状態となるので、かかる状況でも両者間の連結および気密性を維持できるような構造に形成されている。例えば、本体部2aの開口にシール部材として機能する中蓋部を設けて、この中蓋部を本体部2aの上端と蓋部2bの両者間で挟みこめば、収容容器2の気密性を高めることができる。また、本体部2aと蓋部2bとがねじ結合により結合するようになっていれば、両者を強固に結合させることができる。
【0022】
また、収容容器2には、収容空間2h内の空間を加熱する加熱手段が設けられている。この加熱手段は、例えば、収容容器2に取り付けられたヒータなどであるが、収容容器2の気体や蒸気、処理物を所定の温度に加熱でき、または収容空間2h内を所定の状態に維持できるものであればよく、とくに限定されない。
【0023】
(蒸気発生手段3)
図2に示すように、収容容器2には、配管3pを介して、蒸気発生手段3が連通されている。この蒸気発生手段3は、水を加熱して、飽和状態の高温高圧の蒸気(以下、超高温高圧水蒸気という)を形成することができるものである。例えば、水を収容できる容器と、この容器内に収容された水に浸漬されて水を加熱できるヒータ等と、を備えた装置を、蒸気発生手段3として採用することができる。より具体的にいえば、蒸気発生手段3は、圧力が6.0MPa(275℃)の超高温高圧水蒸気を形成することができるものである。
【0024】
なお、蒸気発生手段3と収容容器2とを連通する配管3pには、弁3vが設けられており、この弁3vを開閉することによって、蒸気発生手段3と収容容器2との間を連通遮断することができるようになっている。
【0025】
ここで、本発明でいう超高温高圧水蒸気とは、水の飽和蒸気圧曲線の沸点と臨界点との両者間の飽和蒸気圧曲線上において、水蒸気が超高温高圧の状態になった状態をいう。具体的には、圧力が6.0MPaであれば、温度は275℃となるように、超高温高圧水蒸気は、その圧力と温度が一対一の関係になっている。つまり、超高温高圧水蒸気の状態になった水蒸気は、その圧力が小さくなれば、その小さくなった圧力に対応する温度の超高温高圧水蒸気となる。このため、その体積が大きくなれば、圧力が低くなるので、この圧力に対応する温度の超高温高圧水蒸気の状態となるのである。
【0026】
例えば、図2の装置では、上記配管3pの弁3vと、後述する配管4pの弁4vを閉じた状態における収容空間2h内の容積と、上記配管3pの弁を閉じた状態における蒸気発生手段3内で形成された超高温高圧水蒸気を保持しておく容器内の容積に基づいて、蒸気発生手段3から収容空間2h内に供給する超高温高圧水蒸気の圧力および温度を調整しておけば、弁3vを開いたときに収容空間2h内を所定の圧力および温度の超高温高圧水蒸気で満たされた状態に調整することができる。
【0027】
(回収手段4)
図2に示すように、収容容器2には、配管4pを介して、回収手段4の回収容器4aが連通されている。この回収容器4aは、収容容器2から配管4pを通って排出される物質を回収するものである。例えば、爆砕によって処理物が分解された物質や、蒸気の状態で蒸気発生手段3から収容容器2の収容空間2h内に供給されていた水が、回収容器4aに回収される。
なお、配管4pには、弁4vが設けられており、この弁4vを開閉することによって、収容容器2と回収容器4aとの間を連通遮断することができるようになっている。
【0028】
(排気部5)
この回収手段4の回収容器4aには、収容容器2から排出される気体(排気ガス)を外部に排出する排気部5を備えている。この排気部5は、排気ガスを外部に排出するための排気筒5aと、排気筒5aを通過する気体を冷却する冷却部5bとを備えている。
なお、冷却部5bは必ずしも設けなくてもよいが、かかる冷却部5bを設けておけば、処理物tに含まれていた有用な成分を回収することができる。例えば、処理物tが木材であれば、揮発性を有する有用物質(ポリフェノール類、有機酸など)が排気ガスに気体の状態として含まれていても、これらを冷却して液体の状態で回収することができる。
【0029】
(本発明の製造方法)
以上のごとき爆砕装置1を使用した本発明の製造方法による処理物tの爆砕処理を図1に示すフロー図に基づき説明する。なお、以下の説明は、蒸気発生手段3によって水蒸気を発生させる場合を説明する。
【0030】
まず、蒸気発生手段3を作動させて、所定の圧力の超高温高圧水蒸気を発生させておく。発生させておく超高温高圧水蒸気の圧力はとくに限定されないが、例えば、後述する調整工程の圧力(6.0MPa(275℃))よりも若干高い圧力の超高温高圧水蒸気を発生させておくことが好ましい。
なお、この状態では、配管3pの弁3vは閉じておき、収容容器2の収容空間2h内と蒸気発生手段3との間が遮断された状態にしておく。
【0031】
(処理物供給工程)
ついで、収容容器2の収容空間2h内に処理物tを供給し、収容空間2h内を気密に密封する。具体的には、収容容器2の本体部2aから蓋部2を取り外し、収容空間2h内に処理物tを投入したのち、蓋部2を本体部2aに取り付ける。
【0032】
(蒸気供給工程)
収容空間2h内を気密に密封すると、配管3pの弁3vを開いて、蒸気発生手段3から収容空間2h内に超高温高圧水蒸気を供給する。すると、収容空間2h内は、後述する調整工程における所定の圧力の状態になり、処理物tは、急加熱されるとともに水分を吸収する。
なお、蒸気発生手段3で発生させた超高温高圧水蒸気の圧力は、後述する調整工程の圧力よりも若干高い圧力に調整しているので、体積増加により圧力低下が生じることにより所定の圧力の状態にできる。
【0033】
(調整工程)
所定の時間経過後、配管3pの弁3vを閉じて、収容空間2h内を再度気密に密封する。具体的には、収容空間2h内の圧力が所定の値となった状態で弁3vを閉じる。なお、収容空間2h内に供給された超高温高圧水蒸気が所定の圧力に維持されるように、収容容器2の加熱手段を事前に加熱手段を作動させておく。
そして、収容空間2h内を所定の圧力に維持した状況で所定の時間維持する。例えば、収容空間2h内を圧力が6.0MPa(275℃)の状態に維持する。
すると、処理物t中に含まれる多糖類がセルロースの場合、セルロース間に形成された水素結合(いわゆる分子間水素結合)が開裂する。つまり、処理物t中のセルロースは、それぞれほぐれた状態となるのである。このほぐれたセルロース中では、セルロースを構成するグルコース間のβ−1,4−グリコシド結合が加水分解されて開裂するという化学反応が生じているものと推察される。
【0034】
(爆砕処理工程)
所定の時間が経過すると、配管4pの弁4vを開く。すると、収容空間2h内と回収容器4aとの間が連通される。このとき、回収容器4a内はほぼ大気圧であるが、収容空間2h内は上述したような高圧になっているので、急激に収容空間2h内の気体が回収容器4aに流出するとともに、収容空間2hは圧力が低下する。すると、処理物tに当初から含まれていた水分や処理物tに吸収された水蒸気などが、瞬間的に膨張するので、処理物tは破壊される。つまり、処理物tは水蒸気爆砕される。
処理物t自体が物理的に破砕されるとともに、収容容器2内に残存した処理物tに含有されたセルロースなどの多糖類は、多糖類同士の分子間水素結合や多糖類を構成する単糖類間の結合(β−1,4−グリコシド結合など)がさらに切断されるので、グルコースなどの単糖類や少糖またはオリゴ糖などの水溶性糖類をより生成することができる。
しかも、収容空間2h内の圧力が低下することによって水蒸気の温度も急激に低下して生成された水溶性糖類が急激に冷却されるので、多糖類から生成された水溶性糖類に含まれる単糖類がさらに熱分解(過分解)することにより生成される過分解生成物の生成を防ぐことができる。
【0035】
例えば、収容容器2の収容空間2hの容積が2.0Lの場合、収容空間2h内を圧力が6.0MPa(275℃)とした状態から弁4vを開いて爆砕が生じた後では、収容空間2h内および回収容器4a内は、0.1MPa(つまり、大気圧)程度かつ80℃以下、つまり、水溶性糖類に含まれる単糖類の過分解が生じない温度となる。
【0036】
爆砕処理工程における爆砕は、弁4vを開いた瞬間に生じ、処理物tが爆砕されて生成された液体または固体の生成物(以下、単に爆砕生成物という)は、配管4pを通って回収容器4a内に回収される。
そして、この爆砕生成物を遠心分離すれば、上澄み液からグルコースなどの単糖類や単糖類が3〜6個結合した少糖やオリゴ糖などの水にとける糖類(水溶性糖類)を回収することができる。
【0037】
以上のごとく、本発明の製造方法では、処理物tを爆砕処理するだけで処理物tに含まれる多糖類から水溶性糖類を生成することができるし、爆砕された物質が急激に冷却されるので製造された水溶性糖類に含まれる単糖類が過分解することも防ぐことができる。
したがって、本発明の製造方法によって多糖類を含む処理物tを爆砕処理すれば、多糖類から簡単かつ確実に水溶性糖類を生成して回収することができる。
【0038】
しかも、本発明の製造方法では、単糖類を含む水溶性糖類の生成に高価な酵素を用いる必要がなく、酵素糖化する工程が不要になる上、処理物tの前処理がほとんど不要となるから、処理物tに含まれる多糖類から単糖類を含む水溶性糖類を効率よく製造することができる。
【0039】
(処理条件)
爆砕処理工程を行う直前の収容空間2h内の状態は、水の飽和蒸気圧曲線の沸点と臨界点との間の飽和蒸気圧曲線上における、超高温高圧水蒸気で満たされた状態である。具体的には、圧力が5.0MPa〜6.5MPaの超高温高圧水蒸気であればよいが、5.5MPa〜6.5MPaがより好ましく、6.0MPaであればさらに好ましい。
収容空間2h内の圧力(温度)が5.0MPa(263℃)よりも低い場合には処理物tから水溶性糖類が生成されにくい。一方、収容空間2h内の圧力(温度)が、6.5MPa(280℃)よりも高い場合には水溶性糖類に含まれる単糖類の過分解が生じやすくなる。したがって、爆砕処理工程を行う直前の収容空間2h内の圧力(温度)は、5.0MPa(263℃)〜6.5MPa(280℃)、好ましくは5.5MPa(269℃)〜6.5MPa(280℃)、より好ましくは6.0MPa(275℃)である。
なお、超高温高圧水蒸気の温度は、上述したように圧力と一対一の関係にあり、圧力が5.0MPaのときは263℃、5.5MPaのときは269℃、6.0MPaのときは275℃、6.5MPaのときは280℃、である。
【0040】
また、爆砕処理工程を行う前に、収容空間2h内を上述したような状態に所定の時間保持しておくことが好ましい。すると、処理物t中の多糖類がセルロースの場合、収容空間2h内の処理物tは、水に浸透させた状態でセルロースを構成するグルコース間のβ−1,4−グリコシド結合が開裂される状態やセルロース間の水素結合が開裂、つまり、セルロース繊維間が解繊される状態となるので、爆砕されたときに、多糖類であるセルロースから水溶性糖類が生成される効率を高くすることができる。
収容空間2h内を上述したような状態に保持しておく時間は、例えば、1〜5分間、好ましくは1〜3分間、より好ましくは、1分間は維持しておく。上述したような状態に保持しておく時間が1分間よりも短いと処理物tへの水の浸透が不十分となるため、グルコースなどの単糖類を含む水溶性糖類の生成も不十分となる。一方、上述したような状態に保持しておく時間が5分間よりも長くなると水溶性糖類に含まれるグルコースなどの単糖類の過分解が生じることとなる。
したがって、爆砕処理工程を行う前に、収容空間2h内を上述したような状態に保持しておく時間は、1〜5分間、好ましくは1〜3分間、より好ましくは、1分間である。
【0041】
(冷却工程)
本発明の製造方法では、爆砕した際に、水蒸気の急激な膨張によって処理物tが急冷却されるが、回収容器4aに冷却機構を設けておき、爆砕処理工程後、爆砕生成物を冷却する冷却工程を行ってもよい。この場合、爆砕生成物をより低温まで冷却するので、より確実に水溶性糖類に含まれる単糖類の過分解を防止することができる。
【実施例】
【0042】
本発明の水溶性糖類の製造方法を用いて、多糖類を含む処理物から水溶性糖類を生成することができることを確認した。
実験では、本発明の水溶性糖類の製造方法において、爆砕処理工程を行う前の収容容器の収容空間内の超高温高圧水蒸気の圧力(温度)およびその保持時間が水溶性糖類の生成効率に与える影響を確認した。また、実験では、本発明の製造方法による単糖類の生成効率を、本発明の爆砕処理工程後の爆砕生成物かを用いて確認した。
【0043】
(処理物)
処理物は、セルロース100%で形成された布状の試料(旭化成株式会社製、型番:ベンコットM−3III)を2cm四方にカットしたものを使用した(以下、単に試料という)。収容容器の収容空間内に供給する試料の量は、50gとした。
【0044】
(装置)
本実験は、図1に示す構造を有する超高温高圧水蒸気爆砕装置(日本化学機械製造株式会社製、型番:NK−2L型)を使用した。
【0045】
(工程)
実験では、本体部の収容容器の収容空間内に処理物を投入したのち(処理物供給工程)、収容空間内を気密に密封した。その後、収容空間内に対して蒸気発生手段から超高温高圧水蒸気を供給して(蒸気供給工程)、収容空間内を所定の圧力(温度)の超高温高圧水蒸気を満たした状態にして、再度収容空間内を気密に密封した(調整工程)。所定時間経過したのち、収容容器内を回収容器に対して大気開放することにより処理物を水蒸気爆砕した(爆砕処理工程)。水蒸気爆砕された処理物、つまり爆砕生成物を回収容器内から回収したのち、この爆砕生成物から水溶性糖類および単糖類を定量した。
【0046】
以下に実験に使用した超高温高圧水蒸気爆砕装置について説明する。
超高温高圧水蒸気爆砕装置の収容容器の本体部は、上部に開口を有する円筒状の中空な収容空間が形成されたものを使用した。この円筒状の中空な収容空間は、直径9.7cm、高さが20cmであり、内底部がすり鉢状に形成されており、その容積が、2.0Lのものである。
本体部の開口には、雌ネジが形成されており、この開口には、雄ネジが形成された蓋が取り付けられている。なお、蓋と本体部との間には、シール部材として機能する中蓋が設けられている。
本体部の側面には、内径1.09cm、長さ121cmの配管を介して本体部内の中空な収容空間に対して超高温高圧水蒸気を供給するための蒸気発生手段が連通するように連結されている。この配管には、本体部側面から15cmの位置に弁が設けられており、この弁を開閉することにより本体部と蒸気発生手段との間を連通遮断することができる。
また、本体部の底部には、内径2.7cm、長さ64cmの配管を介して回収容器が連通するように連結されている。配管と本体部の底部との連結部には、電磁弁が設けられており、この弁を開閉することにより本体部と回収容器との間を連通遮断することができる。つまり、上述した2つの弁を閉じた状態において、本体部内には、気密かつ容積が約2.01Lの収容空間が形成される。
なお、この収容容器の外周には、ヒータが取り付けられている。このヒータは、収容容器内の温度が後述する処理条件の温度に保持されるように制御されるものである。
【0047】
蒸気発生手段は、発生させた超高温高圧水蒸気を保持するための容積20Lの容器を備えており、この容器には、水を供給するため水を収容する容器が連通されている。なお、水を収容する容器の容積は、18Lであるので、本実験の爆砕処理工程を約30回、略連続で行うことができる。
【0048】
なお、本装置の収容容器および蒸気発生手段は、内部の圧力および温度が高圧高温の状態となるので、かかる状況でも気密性を維持できるように、素材にはSUSが使用されている。
【0049】
本実験では、以上のごとき構造を有する超高温高圧水蒸気爆砕装置を使用して、以下の条件で爆砕処理を行った。
【0050】
(処理条件)
超高温高圧水蒸気の圧力(温度)および保持時間の条件は、以下のとおりとした。
(保持時間変動試験)
圧力(温度):6.0MPa(275℃)
(圧力(温度)変動試験)
保持時間:1.0分間
【0051】
爆砕生成物は、以下の方法で分析した。
水蒸気爆砕された試料の爆砕生成物を回収容器内から回収したのち、爆砕生成物から、水溶性糖類を精製した。
水溶性糖類は、水にとけている単糖類、少糖およびオリゴ糖などを含む糖類全体を全糖としてフェノール硫酸法により定量した。
水溶性糖類のうち単糖類としてグルコースを高速液体クロマトグラフィーにより定量した。
【0052】
(水溶性糖類の精製・調整)
水蒸気爆砕された爆砕生成物を回収容器内から回収したのち、回収した爆砕生成物から、水溶性糖類を以下の方法で精製および調整を行った。
回収容器から回収した試料(50g)の爆砕生成物をプラスチック製チューブ(容積50ml)に移したのち、遠心分離機(久保田製作所社製、型番:KUBOTA−4000)で12000rpm、5分間、遠心分離した。遠心分離した後のプラスチック製チューブから水溶性糖類を含む上澄み液(約40ml)を回収した。この精製された水溶性糖類を含む上澄み液を、以下、調整溶液という。
【0053】
(全糖の定量)
試料(50g)中の水溶性糖類、つまり全糖の定量は、フェノール硫酸法で分析した。
まず、標準単糖を用いて作成した。そして、この検量線に基づいて試料(50g)中の全糖収率(%)を算出した。
【0054】
実験に使用した試薬や機器等を以下に示す。
反応希釈溶液:上記調整溶液から所定量を分取したのち、蒸留水を加えて、400〜1000倍に希釈して本分析に使用するための希釈溶液を作成した。
フェノール試薬:5%フェノール水溶液(和光純薬工業社製)
濃硫酸:硫酸(和光純薬工業社製)
標準単糖:グルコース(和光純薬工業社製)
検出器:吸光光度計(日立ハイテクノロジーズ社製、型番:U-1900)
検出波長:490nm
【0055】
(操作方法)
反応希釈溶液1.0mlと5%フェノール水溶液1.0mlを試験管に移したのち攪拌した。その後、濃硫酸5.0mlを勢いよく添加したのち、十分に攪拌した。その後、この試験管を室温にて20分間静置した。
20分間静置した試験管から所定量を吸光光度計用セルに移したのち、検出波長490nmで吸光度を測定した。
【0056】
上述した操作方法と同様に、標準単糖としたグルコースによる検量線を事前に作成しておき、この作成した検量線と反応希釈溶液の測定値から、試料(50g)中の全糖収率(%)を算出した。
なお、作成した検量線の相関係数(r)は、r=0.9974であり、良好な直線性を示していたことを確認した。
【0057】
(全糖の定量結果)
実験結果を図3および図4に示す。
【0058】
(保持時間)
図3は、超高温高圧水蒸気の圧力(温度)が6.0MPa(275℃)の状態において、保持時間が水溶性糖類の生成に与える影響を示したものである。
図3に示すように、保持時間が0.5〜5分間において、いずれの保持時間でも水溶性糖類が生成されていることを確認できた。
図3に示すように、全糖収率(%)は、保持時間が0.5分で10.5%、1分間の状態で最も高くなり67.7%、保持時間が3分間で51.8%、5分間で39.3%となっていた。
全糖収率(%)は、保持時間が1分間をピークに山形になることが確認された。これは保持時間が1分間よりも短い場合、試料への水の浸透が不十分となり水溶性糖類の生成も不十分となるため全糖収率(%)が低くなったと考えられた。また、保持時間が1分間よりも長くなれば、水溶性糖類に含まれるグルコースなどの単糖類の過分解が起こり始め、フェノール硫酸法では分析できないレベルまで単糖類の分解が生じるためる全糖収率(%)が低くなったものと考えられた。
したがって、保持時間は、1〜5分間、好ましくは1〜3分間、より好ましくは、1分間であることが確認できた。
【0059】
(圧力(温度))
図4は、保持時間を1分間とした状態において、超高温高圧水蒸気の圧力(温度)の変動が水溶性糖類の生成に与える影響を示したものである。
図4に示すように、超高温高圧水蒸気の圧力(温度)は、5MPa(263℃)〜6.2MPa(278℃)において、いずれの圧力(温度)でも水溶性糖類が生成されていることを確認できた。
図4に示すように、全糖収率(%)は、圧力(温度)が5.0MPa(263℃)で11.2%、5.5MPa(269℃)で24.8%、6.0MPa(275℃)の状態で最も高くなり67.7%、圧力(温度)が6.2MPa(278℃)で52.2%となっていた。
全糖収率(%)は、圧力(温度)が6.0MPa(275℃)をピークに山形になることが確認された。これは上述した保持時間の場合と同様に、圧力(温度)が6.0MPa(275℃)をさかいに、6.0MPa(275℃)よりも低い場合、溶性糖類の生成が不十分となり、圧力(温度)が6.0MPa(275℃)よりも高い場合、溶性糖類の一部が分析できないレベルまで分解されたためと考えられた。
したがって、超高温高圧水蒸気の圧力(温度)は、5.0MPa(263℃)〜6.2MPa(278℃)、好ましくは5.5MPa(269℃)〜6.2MPa(278℃)、より好ましくは、6.0MPa(275℃)であることが確認できた。
【0060】
以上の結果より、試料を本実験の超高温高圧水蒸気爆砕装置を使用して爆砕処理して試料から水溶性糖類を生成するための処理条件は、爆砕処理工程を行う前の収容空間内の圧力(温度)が、5.0MPa(263℃)〜6.2MPa(278℃)、好ましくは5.5MPa(269℃)〜6.2MPa(278℃)、より好ましくは6.0MPa(275℃)であるり、収容空間内を上述したような状態に保持しておく時間は、1〜5分間、好ましくは1〜2分間、より好ましくは、1分間であることが確認できた。
【0061】
(グルコースの定量)
試料(50g)中のグルコース量の定量は、上述した調整溶液を用いて高速液体クロマトグラフィーで分析した。
まず、標準となるグルコース(和光純薬工業社製)を使用して検量線を作成した。この作成した検量線に基づいて試料(50g)中のグルコース収率(%)を算出した。
【0062】
実験に使用した機器および分析条件を以下に示す。
高速液体クロマトグラフ:検出器、記録計、ポンプ、オーブンから構成されるHPLCシステム(島津製作所社製)
検出器:示差屈折計(島津製作所社製、型番:RID-10A)
カラム:Aminex(内径7.8mm、長さ30cm、Bio-Rad社製、型番:HPX-86H)
カラム温度:65℃
移動相:5.0mmol/Lの硫酸水溶液
流量:0.6ml/min
注入量:10μl
【0063】
検量線の作成
グルコースの標準品を使用して、所定の濃度のグルコース標準溶液を調整した。そして、調整したグルコース標準溶液の濃度と検出値に基づいて検量線を作成した。作成した検量線の相関係数(r)は、r=0.997であり、良好な直線性を示した。
なお、検量線の作成に使用したグルコース標準溶液の濃度は、0.0、1.0、2.0、3.0、4.0、5.0mg/mlであり、これら6点の各濃度と各濃度の検出値に基づいて検量線を作成した。
【0064】
(グルコースの定量結果)
実験結果を図3および図4に示す。
【0065】
(保持時間)
図3は、超高温高圧水蒸気の圧力(温度)が6.0MPa(275℃)の状態において、保持時間がグルコースの生成に与える影響を示したものである。
図3に示すように、保持時間が0.5〜5分間において、いずれの保持時間でもグルコースが生成されていることを確認できた。
図3に示すように、グルコース収率(%)は、保持時間が0.5分で2.08%、1分間の状態で最も高くなり41%、保持時間が3分間で31.7%、5分間で26.3%となっていた。
グルコース収率(%)は、保持時間が1分間をピークに山形になることが確認された。これは保持時間が1分間よりも短い場合、試料への水の浸透が不十分となりグルコースの生成も不十分となるためグルコース収率(%)が低くなったと考えられた。また、保持時間が1分間よりも長くなれば、グルコースの過分解が起こり始めるためグルコース収率(%)が低くなったものと考えられた。
したがって、保持時間は、1〜5分間、好ましくは1〜3分間、より好ましくは、1分間であることが確認できた。
【0066】
(圧力(温度))
図4は、保持時間を1分間とした状態において、超高温高圧水蒸気の圧力(温度)の変動がグルコースの生成に与える影響を示したものである。
図4に示すように、超高温高圧水蒸気の圧力(温度)は、5MPa(263℃)〜6.2MPa(278℃)において、いずれの圧力(温度)でもグルコースが生成されていることを確認できた。
図4に示すように、グルコース収率(%)は、圧力(温度)が5.0MPa(263℃)で3.03%、5.5MPa(269℃)で11.7%、6.0MPa(275℃)の状態で最も高くなり41%、圧力(温度)が6.2MPa(278℃)で31.1%となっていた。
グルコース収率(%)は、圧力(温度)が6.0MPa(275℃)をピークに山形になることが確認された。これは上述した保持時間の場合と同様に、圧力(温度)が6.0MPa(275℃)をさかいに、6.0MPa(275℃)よりも低い場合、グルコースの生成が不十分となり、圧力(温度)が6.0MPa(275℃)よりも高い場合、グルコースが過分解されたためと考えられた。
したがって、超高温高圧水蒸気の圧力(温度)は、5.0MPa(263℃)〜6.2MPa(278℃)、好ましくは5.5MPa(269℃)〜6.2MPa(278℃)、より好ましくは、6.0MPa(275℃)であることが確認できた。
【0067】
以上の結果より、試料を本実験の超高温高圧水蒸気爆砕装置を使用して爆砕処理して試料からグルコースを生成するための処理条件は、爆砕処理工程を行う前の収容空間内の圧力(温度)が、5.0MPa(263℃)〜6.2MPa(278℃)、好ましくは5.5MPa(269℃)〜6.2MPa(278℃)、より好ましくは6.0MPa(275℃)であるり、収容空間内を上述したような状態に保持しておく時間は、1〜5分間、好ましくは1〜2分間、より好ましくは、1分間であることが確認できた。
【0068】
(水溶性糖類とグルコースの比較)
水溶性糖類の全糖収率(%)とグルコースのグルコース収率(%)の結果を比較した。
図3および図4に示すように、グルコース収率(%)は全糖収率(%)に追従することが確認できた。この両者の結果から、水溶性糖類とグルコースの生成において、超高温高圧水蒸気の圧力(温度)および保持時間の条件は、同じ圧力(温度)および保持時間で最適の収率となるように調整できることが確認できた。
【0069】
以上の結果から、本発明の水溶性糖類の製造方法を使用することによって、多糖類を含む処理物から酵素を使用することなく水溶性糖類を製造することができることを確認できた。しかも、水溶性糖類を製造する条件と同じ条件でグルコースも製造することができることも確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の単糖類の製造方法は、草本類の農業系廃棄物、古紙および綿繊維製品(例えば古着など)、綿繊維製品の廃棄物などからグルコース等の単糖類を製造する方法に適している。
【符号の説明】
【0071】
1 爆砕装置
2 収容容器
2h 収容空間
2a 本体部
2b 蓋部
3 蒸気発生手段
4 回収手段
5 排気部
t 処理物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多糖類を含有する処理物から水溶性糖類を製造する方法であって、
前記処理物が封入された容器内が超高温高圧水蒸気で満たされた状態としたのち、前記処理物を爆砕処理する
ことを特徴とする水溶性糖類の製造方法。
【請求項2】
前記爆砕処理する前に、
前記容器内が超高温高圧水蒸気で満たされた状態を所定の時間維持する
ことを特徴とする請求項1記載の水溶性糖類の製造方法。
【請求項3】
前記超高温高圧水蒸気の圧力が、5.0MPa〜6.5MPaである
ことを特徴とする請求項1または2記載の水溶性糖類の製造方法。
【請求項4】
前記爆砕処理する前に、
前記容器内が超高温高圧水蒸気で満たされた状態を、0.5分〜5分間維持する
ことを特徴とする請求項1、2または3記載の水溶性糖類の製造方法。
【請求項5】
前記容器内に前記処理物を供給する処理物供給工程と、
前記処理物を供給された前記容器に対して、超高温高圧水蒸気を供給する蒸気供給工程と、該蒸気供給工程において加熱された蒸気が供給された前記容器を外部から気密に密封し、該容器内を所定の時間維持する調整工程と、
該調整工程ののち、該容器と外部との間を連通する爆砕処理工程と、
を順に行う
ことを特徴とする請求項1、2、3または4記載の水溶性糖類の製造方法。
【請求項6】
前記多糖類がセルロースである
ことを特徴とする請求項1、2、3、4または5記載の水溶性糖類の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−18718(P2013−18718A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−151465(P2011−151465)
【出願日】平成23年7月8日(2011.7.8)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成22年度、農林水産省林野庁、「平成22年度森林資源活用型ニュービジネス創造対策事業(高付加価値型製造システム:水蒸気爆砕法樹脂製造タイプ)」委託事業、産業技術力法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(304020292)国立大学法人徳島大学 (307)
【Fターム(参考)】