説明

水溶性表面処理物質の塗布方法及びその装置、線状ガラス物品、並びに物品の清浄化方法

【課題】 作業や装置の複雑化を招くことなく、水溶性表面処理物質を含有してなる水溶液を被処理物の表面に可及的均一に供給できるようにすると共に、細径の線状ガラス物品等に対してもロスを生じることなく適切に水溶性表面処理物質を塗布できるようにする。
【解決手段】 噴射ノズル5の噴口5aから、水溶性表面処理物質を含有してなる水溶液を泡状にして噴射し、その噴射された泡状物6の集合体を被処理物(ガラス管)2の表面に接触させて、該被処理物2の表面に水溶性表面処理物質を被着させる。そして、好ましくは、水溶性表面処理物質を含有してなる水溶液を泡状にして噴射することにより、泡状物6の集合体を有してなる噴射流Wを生成し、その噴射流Wを被処理物2の表面に直接当てる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶性表面処理物質の塗布方法及びその装置、線状ガラス物品、並びに物品の清浄化方法に係り、詳しくは、水溶性表面処理物質を含有してなる水溶液の噴射形態の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、ガラス管、ガラス棒、ガラス板等のガラス物品や、電線(銅線)等の金属物品の表面には、当該表面に傷が付くことを抑制し或いは当該表面の滑りを良くして作業性を向上させる等のため、水溶性表面処理物質が多頻度で塗布される。この水溶性表面処理物質としては種々のものが使用されており、またこの物質をガラス物品や金属物品の表面に塗布する方法も種々のものが使用され或いは提案がなされている。尚、水溶性表面処理物質は、水に可溶性の物質であり、これをガラス物品等の表面に塗布し、被膜を形成しても、後で水洗いすることによって容易に溶解・除去することが可能である。
【0003】
上記水溶性表面処理物質の塗布方法の具体例として、下記の特許文献1、2には、多糖類ないしは界面活性剤等の水溶性表面処理物質を含有してなる水溶液を、液晶ディスプレイ用等のガラス板(ガラスシート)の表面に施して多糖類等の被膜をガラス表面上に形成すること、及びその塗布方法として上記の水溶液をスプレー(噴霧)によってガラス表面に吹き付け或いはガラス板をその水溶液中に浸漬させること等が開示されている。
【0004】
また、下記の特許文献3には、リン酸塩やホウ酸塩等からなる水溶性表面処理物質を、蛍光灯用ガラス管の表面に塗布すること、及びその塗布方法として上記と同様のスプレーや浸漬に加えて、水溶性表面処理物質を含有してなる水溶液をしみ込ませた布やスポンジ等を蛍光灯用ガラス管の表面に接触させること、並びにその水溶液をはけ塗りすること等が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開2000−319038号公報
【特許文献2】特開2003−54998号公報
【特許文献3】特開平7−14545号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のように水溶性表面処理物質を含有してなる水溶液をガラス管やガラス板にスプレーによって吹き付ける手法では、水溶液がミスト状になって不当に飛び散るおそれがあり、周辺環境を汚染させる事態が生じ得るばかりでなく、集塵機が別途必要になり、作業の困難性を余儀なくされる。特に、被処理物が、直径5mm以下の細径のガラス管やガラス棒等からなる線状ガラス物品であると、その表面に被着する水溶液のミストの量が極端に少なくなり、塗布にロスが生じると共に、水溶液の噴霧に無駄が生じると
いう難点がある。
【0007】
また、上記の浸漬による手法では、被処理物が長尺等であると、水溶液中に被処理物を浸漬させるための作業が面倒且つ煩雑となるばかりでなく、例えば線状ガラス物品の加熱を伴う線引き工程の実行時にその表面に水溶性表面処理物質を被着すべきとの要請に応じようとすれば、300℃前後の線状ガラス物品が急冷されることにより損傷ひいては割れが発生するおそれもある。
【0008】
更に、上記の布やスポンジ等を使用する手法、及びはけ塗りによる手法では、手作業で実行しようとしたならば、作業者に多大な負担や労苦を強いることになり、また装置により自動化を図ろうとすれば、複雑な装置を別途製作する必要性が生じ、コスト面で不利となり、手動及び自動の何れによるにしても、作業の手順や必要な動作の複雑化を招く。
【0009】
そして、以上列挙した何れの手法によるにしても、水溶液を被処理物の表面全域に亘って適量で且つ均一に塗布するという点では充分な要求を満たすことができず、このため水溶性表面処理物質により被処理物の表面を有効且つ的確に保護できなくなるおそれがある。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑み、作業や装置の複雑化を招くことなく、水溶性表面処理物質を含有してなる水溶液を被処理物の表面に可及的均一に供給できるようにすると共に、細径の線状ガラス物品等に対してもロスを生じることなく適切に水溶性表面処理物質を塗布できるようにすることを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記技術的課題を解決するためになされた本発明に係る方法は、水溶性表面処理物質を被処理物の表面に塗布する水溶性表面処理物質の塗布方法において、水溶性表面処理物質を含有してなる水溶液を泡状にして噴射し、その噴射された泡状物の集合体を被処理物の表面に接触させて、該被処理物の表面に水溶性表面処理物質を被着させることに特徴づけられる。
【0012】
このような方法によれば、水溶性表面処理物質を含有してなる水溶液を泡状にして噴射することから、従来のように水溶液をミスト状にして噴霧する場合のような水溶液の不当な飛び散りが抑制されると共に、集塵機等を別途使用せずとも作業環境を良好に維持することができる。そして、噴射された泡状物の集合体は、被処理物の表面に接触して、その表面には全域に亘って多数の泡状物が付着され得ることから、均一な水溶性表面処理物質の塗布が可能となる。そして、被処理物が、例えば管径(外径)が5mm以下の細径のガラス管やガラス棒等からなる線状ガラス物品であっても、無理なくその表面の全域に多数の泡状物を付着させることが可能となるため、水溶液の噴射量に無駄が生じ難くなり、水溶性表面処理物質の塗布ロスが可及的に低減される。
【0013】
この方法においては、水溶性表面処理物質を含有してなる水溶液を泡状にして噴射することにより、泡状物の集合体を有してなる噴射流を生成し、その噴射流を被処理物の表面に直接当てるようにすることが好ましい。
【0014】
このようにすれば、泡状物の集合体が噴射流となって被処理物の表面に直接当たることになるので、泡状物の集合体は、汚れを生じていない状態で、つまり他部材との接触により異物等が混在されていない状態で、被処理物の表面に付着することになり、水溶性表面処理物質を極めて清浄な状態で被処理物の表面に被着させることが可能となる。
【0015】
以上の方法において、水溶性表面処理物質を含有してなる水溶液を泡状にして噴射する噴射方向と直交する方向に、被処理物を泡状物の集合体に対して相対移動させることが好ましい。
【0016】
このようにすれば、長尺な被処理物に対して的確に泡状物の集合体を接触させ得る状態で、その動作を連続して行わせることが可能となるため、作業性の向上ひいては生産性の向上が図られることになる。
【0017】
以上の方法において、被処理物の外表面の全域に、泡状物の集合体を接触させることが好ましい。例えば、泡状物の集合体を貫通するようにガラス管を引き通すことによって、その表面の全域に、泡状物の集合体を接触させることが好ましい。
【0018】
このようにすれば、被処理物の外表面(例えばガラス管の場合は、外径部の表面)の全域に亘って多数の泡状物が付着することになるため、被処理物の外表面の全てを覆うようにして水溶性表面処理物質の被膜が形成され、全体が被膜で保護されることになる。
【0019】
以上の方法において、水溶性表面処理物質を含有してなる水溶液に液圧を作用させると同時に導入した気体に気圧を作用させた状態で、噴射ノズルの噴口から水溶液及び気体を噴射させることにより、該水溶液を泡状にするに際して、水溶液の液圧及び気体の気圧を、水溶液をミスト状にして噴霧する場合の液圧及び気圧よりもそれぞれ低く設定することが好ましい。
【0020】
このようにすれば、水溶性表面処理物質を含有してなる水溶液を噴射するに際して、その水溶液を泡状にする上で有利となる。すなわち、噴射ノズルの噴口からの噴射時における水溶液の液圧及び気体の気圧を、水溶液をミスト状にして噴霧する場合の液圧及び気圧よりもそれぞれ高く設定した場合には、泡状物が生成される前段階で水溶液が液状のまま噴射されてしまう傾向にあるため、水溶液を泡状にすることが極めて困難となるが、上記のように液圧及び気圧をそれぞれ低く設定しておけば、水溶液を容易且つ確実に泡状にすることが可能となる。
【0021】
この場合、水溶液を送給する液体ノズルの出口と、気体を送給する気体ノズルの出口とは、上記の噴射ノズルの噴口の近傍(僅か上流側)で合流していることが好適である。加えて、噴射ノズルの噴口から水溶液を泡状にして噴射する場合には、液体ノズルの孔径は0.5〜1.5mm(好ましくは0.7〜1.0mm)とされ且つ液圧は0.01〜0.3MPa(好ましくは0.02〜0.2MPa)とされると共に、気体ノズルの孔径は0.5〜1.5mm(好ましくは0.7〜1.0mm)とされ且つ気圧は0.005〜0.2MPa(好ましくは0.01〜0.1MPa)であって上記の液圧よりも低圧とされることが好適である。因みに、従来において噴射ノズルの噴口から水溶液をミスト状にして噴霧する場合には、液体ノズルの孔径及び気体ノズルの孔径は何れも0.5mmよりも大きくされ、且つ液圧は0.3MPaよりも大きく、気圧は0.2MPaよりも大きくされていた。
【0022】
以上の方法において、泡状物の直径は、2mm以下であることが好ましい。
【0023】
このようにすれば、泡状物の直径が2mm以下と小径であることから、この泡状物の多数を被処理物の表面に付着させ得ることになり、これにより、水溶液は被処理物の表面に万遍なく、つまりムラや偏りを生じることなく、且つ緻密な態様で付着し得ることになるので、水溶性表面処理物質をより一層均一に被処理物の表面に被着させることが可能となる。
【0024】
以上の方法において、水溶性表面処理物質を、界面活性剤とすることができる。
【0025】
このようにすれば、界面活性剤が被処理物の表面に均一に塗布されることになるので、界面活性剤が備えている特性、すなわち界面活性剤に含まれている有機物成分が被処理物の表面を滑らかにする特性が有効利用され、擦り傷が防止されるなどして表面の保護機能が確実化される。
【0026】
以上の方法において、被処理物が、線状ガラス物品であれば、より顕著な利点を享受することができる。
【0027】
すなわち、線状ガラス物品の表面に水溶液を泡状にして噴射すれば、既述のように水溶液の噴射量に無駄が生じ難くなり且つ水溶性表面処理物質の塗布ロスが低減されるという利点を、従来の噴霧(スプレー)に比してより顕著に得ることが可能となる。
【0028】
以上の方法において、線状ガラス物品の加熱を伴う線引き成形工程の実行時に、線状ガラス物品の表面に泡状物の集合体を接触させるようにすることができる。
【0029】
このようにすれば、加熱を伴う線引き成形工程の実行時に、線状ガラス物品の表面に水溶液が液そのものとして供給されるのではなく、泡状にして供給されることから、線状ガラス物品の比較的広い領域が緩やかに冷却作用を受け得ることになる。これにより、線状ガラス物品の部分的な急冷が効果的に阻止されて、損傷や割れの発生確率が激減することになる。また、線引き成形工程の実行時に、線状ガラス物品の表面に水溶性表面処理物質を塗布し、被膜(保護膜)を形成することによって、成形直後の清浄な状態で線状ガラス物品の表面を維持することが可能となる。つまり、線状ガラス物品の表面に被膜を形成した後、その上に汚染物が付着したとしても、水洗浄することによって被膜と共に汚染物も洗い流すことが出来るため、洗浄後には成形直後の清浄な表面を得る(再現する)ことが可能である。
【0030】
また、上記技術的課題を解決するためになされた本発明に係る物は、以上の方法を用いて表面に水溶性表面処理物質が塗布された線状ガラス物品であることに特徴づけられる。この線状ガラス物品の代表例としては、管径(外径)が5mm以下の液晶バックライト用のガラス管を挙げることができる。
【0031】
このような線状ガラス物品によれば、既に述べた種々の方法と同様の作用効果をそれぞれ享受することができる。
【0032】
更に、上記技術的課題を解決するためになされた本発明に係る装置は、水溶性表面処理物質を被処理物の表面に塗布するようにした水溶性表面処理物質の塗布装置において、水溶性表面処理物質を含有してなる水溶液を泡状にして噴射し、その噴射された泡状物の集合体を被処理物の表面に接触させて、該被処理物の表面に水溶性表面処理物質を被着させるように構成したことに特徴づけられる。
【0033】
このような装置によれば、既に述べた種々の方法のうちの最前で述べた方法と実質的に同一の作用効果を享受することができる。
【0034】
更に、本発明に係る物品の清浄化方法は、水溶性表面処理物質を含有してなる水溶液を泡状にして噴射し、その噴射された泡状物の集合体を、清浄な物品の表面に接触させて、該物品の表面に水溶性表面処理物質からなる被膜を被着させた後、水で該被膜表面に付着した汚染物と共に該被膜を洗い流すことに特徴づけられる。
【0035】
このようにすれば、ガラス等の清浄な物品の表面が水溶性表面処理物質からなる被膜で保護され、その被膜上に汚染物が付着しても、水洗浄することによって被膜と共に、その上に付着した汚染物も洗い流すことが出来るため、洗浄後には元の清浄な表面を得ることが可能である。尚、洗浄水は、必ずしも純水である必要はなく、例えば洗浄性を向上するために界面活性剤を含有させた洗浄水を使用することができる。また洗浄方法としては、特に限定はなく、例えば洗浄水を入れた水槽に物品を浸漬する方法や物品表面に洗浄水を散布する方法を採用すれば良い。
【発明の効果】
【0036】
以上のように本発明によれば、水溶性表面処理物質を含有してなる水溶液を泡状にして噴射することから、従来のように水溶液をミスト状にして噴霧する場合のような水溶液の不当な飛び散りが抑制され、集塵機等を別途使用せずとも作業環境を良好に維持することができると共に、噴射された泡状物の集合体は、被処理物の表面に接触して、その表面の全域に亘って多数の泡状物が付着され得ることから、均一な水溶性表面処理物質の塗布が可能となる。特に、被処理物が、例えば管径(外径)が5mm以下の細径のガラス管やガ
ラス棒等からなる線状ガラス物品であっても、無理なくその表面の全域に多数の泡状物を付着させることが可能となるため、水溶液の噴射量に無駄が生じ難くなり、水溶性表面処理物質の塗布ロスが可及的に低減される。
【0037】
また、水溶性表面処理物質を塗布した物品は、その表面に被膜(保護膜)が形成されるため、物品の表面に傷が発生するのを防止したり、表面の滑りを良くして作業性を向上させることが可能となる。また水溶性表面処理物質からなる被膜は、水に溶解するため、後工程において、水洗浄することによって容易に除去することが可能である。さらに、被膜と共に、その上に付着した汚染物も除去できるため、洗浄後には清浄な表面を得ることが可能である。よって、本発明は、微小な傷や僅かな汚れも許容されないガラス物品、例えば液晶バックライト用ガラス管、蛍光灯用ガラス管、液晶等のディスプレイ用ガラス基板等に適用することが特に望ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下、本発明の実施形態を添付図面を参照しつつ説明する。
【0039】
図1は、本発明の第1実施形態に係る水溶性表面処理物質の塗布装置の概略構成を示す斜視図、図2は、その塗布装置の断面を模式的に示す縦断正面図である。図1に示すように、塗布装置1は、線状ガラス物品であるガラス管2の下方と両側方とを包囲するU字状の作業溝3が中央部に形成された基台4を備えてなる。この場合、上記のガラス管2は、液晶バックライトに用いられるものであって、管径(外径)が2〜4.5mmの範囲内にあり、管軸に沿う一方向(矢印A方向)に移動するものである。そして、加熱を伴う線引き成形工程の実行時(ガラス管2の切断を行う前段階)において、このガラス管2が基台4の作業溝3内を連続して送られるように構成されている。
【0040】
また、基台4の内部には、作業溝3の底面と一側面とにそれぞれ噴口5aが開設されてなる2個の噴射ノズル5が配備されている。これらの噴射ノズル5は何れも、水溶性表面処理物質としての界面活性剤を含有してなる水溶液を圧送する液体ノズル5xと、気体としてのエアを圧送するエアノズル5yとを有し、この両ノズル5x、5yの先端の出口はそれぞれ噴口5aの僅かに上流側で合流している。この場合、液体ノズル5xは、その孔径が0.7〜1.0mmとされ、且つ0.02〜0.2MPaの液圧で水溶液を圧送すると共に、エアノズル5yは、その孔径が0.7〜1.0mmとされ、且つ0.01〜0.1MPaの範囲内における上記の液圧よりも低い圧力でエアを圧送するように構成されている。
【0041】
そして、2個の噴射ノズル5の噴口5aは、口径が上述の両ノズル5x、5yと略同径とされ、これらの噴口5aからはそれぞれ、液体ノズル5xにより圧送される水溶液が、エアノズル5yにより圧送されるエアと混合された状態で泡状となって噴射されるように構成されている(図2参照)。このような状態で噴射される泡状物6の直径は、2mm以下となる。この場合、2個の噴口5aからの泡状物6の噴射方向とガラス管2の移動方向とは直交している。尚、水溶液に含有されている界面活性剤は、各種脂肪酸ソルビタン系、ステアリン酸ソルビタン系、オレイン酸ソルビタン系(ヤシ油脂肪酸ソルビタン、ステアリン酸ソルビタン、オキシエチレンヤシ油脂肪酸ソルビタン、モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン他)等の10〜45%水溶液が用いられる。
【0042】
次に、上記構成を備えてなる塗布装置1を使用してガラス管2の表面に界面活性剤を塗布する方法について説明する。
【0043】
図1に示すように、線引き成形工程の実行により、ガラス管2が、基台4の作業溝3の内部空間を矢印A方向に移動している間に、2個の噴射ノズル5の噴口5aから、界面活性剤を含有してなる水溶液がガラス管2の表面に向かって泡状となって噴射される。この時点におけるガラス管2の温度は、100〜400℃(この実施形態では250〜350℃程度)となっている。そして、このような各噴口5aからの水溶液の噴射に伴って、図2に示すように、泡状物6の集合体を有してなる2本の噴射流Wが生成され、これらの噴射流Wは、ガラス管2の表面に直接当たり、その表面全周に亘って泡状物6の集合体が付着した後に、泡状物6が消失して液状となる。尚、ガラス管2の表面の一部については、泡状物6が消失して液状となった後に水溶液がその部分に行き渡ることも有り得る。
【0044】
このように、噴射ノズル5の噴口5aから水溶液を泡状にして噴射することから、従来のように水溶液をミスト状にして噴霧する場合のような水溶液の不当な飛び散りが抑制され、集塵機等を別途使用せずとも作業環境を良好に維持することができる。しかも、ガラス管2の表面に、無理なく多数の泡状物6を付着させることが可能となるため、水溶液の噴射量に無駄が生じ難くなり、噴射ロスが可及的に低減される。そして、このような作用が行われた結果として、ガラス管2の表面全周には、界面活性剤を含有してなる液状の水溶液が均一に付着した状態になると共に、このような作用を受けながらガラス管2が連続してA方向に送られることにより、ガラス管2の管軸方向全長に亘って均一に液状の水溶液が付着していく。更に、このガラス管2に付着した水溶液は、ガラス管2の送り方向下流側に別途設けられた乾燥手段により、或いはガラス管2の熱により、水分が蒸発し、その結果、界面活性剤が表面にムラなく均一に被着されてなるガラス管を得ることができる。
【0045】
尚、この第1実施形態では、ガラス管2の表面に対して下方と一側方とから水溶液を泡状にして噴射するようにしたが、両側方から、或いは上下両方向から水溶液を泡状にして噴射するようにしてもよく、また管軸方向の複数箇所から水溶液を泡状にして噴射するようにしてもよい。
【0046】
図3は、本発明の第2実施形態に係る塗布装置1Aを例示している。この第2実施形態に係る塗布装置1Aは、図外の噴射ノズルから界面活性剤を含有してなる水溶液を泡状にして噴射し、これにより得られた泡状物6Aの集合体WAを、基台4Aに形成した作業用凹部3Aに残留保持させるように構成されている。そして、ガラス管2Aは、泡状物6Aの集合体WAを貫通するように引き通された状態でA方向に送られるようになっている。したがって、この第2実施形態に係る塗布装置1Aによれば、ガラス管2Aの表面が泡状
物6Aの集合体WAに接触することにより、ガラス管2Aの表面全周には液状の水溶液が均一に付着し、その後に乾燥させることにより、界面活性剤が表面にムラなく均一に被着されてなるガラス管を得ることができる。そして、この第2実施形態に係る塗布装置1Aによっても、上述の第1実施形態に係る塗布装置1と実質的に同一の効果を享受することができる。
【0047】
また、上記ガラス管2Aを1ケ月間保管し、強制的に汚染される環境に置いた後、洗浄水を入れた水槽に浸漬することによって洗浄してから乾燥させた。その表面を観察したところ、界面活性剤の被膜は完全に除去され、清浄なガラス表面が得られた。
【0048】
尚、以上の実施形態では、被処理物を、液晶バックライトに用いられるガラス管としたが、これ以外に、蛍光灯用ガラス管、ガラス棒、ガラス板等の他のガラス物品や、電線(銅線)等の金属物品であってもよい。
【0049】
また、以上の実施形態では、水溶性表面処理物質を、界面活性剤としたが、これ以外に、水溶性を有し且つ上記例示列挙した被処理物の表面を処理するものであれば、他の水溶性表面処理物質であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の第1実施形態に係る水溶性表面処理物質の塗布装置を示す概略斜視図である。
【図2】前記第1実施形態に係る水溶性表面処理物質の塗布装置を模式的に示す縦断側面図である。
【図3】本発明の第2実施形態に係る水溶性表面処理物質の塗布装置を示す概略斜視図である。
【符号の説明】
【0051】
1 水溶性表面処理物質の塗布装置
1A 水溶性表面処理物質の塗布装置
2 ガラス管(被処理物)
2A ガラス管(被処理物)
5 噴射ノズル
6 泡状物
6A 泡状物
W 泡状物の集合体を有してなる噴射流
WA 泡状物の集合体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性表面処理物質を被処理物の表面に塗布する水溶性表面処理物質の塗布方法において、水溶性表面処理物質を含有してなる水溶液を泡状にして噴射し、その噴射された泡状物の集合体を被処理物の表面に接触させて、該被処理物の表面に水溶性表面処理物質を被着させることを特徴とする水溶性表面処理物質の塗布方法。
【請求項2】
前記水溶性表面処理物質を含有してなる水溶液を泡状にして噴射することにより、泡状物の集合体を有してなる噴射流を生成し、その噴射流を前記被処理物の表面に直接当てることを特徴とする請求項1に記載の水溶性表面処理物質の塗布方法。
【請求項3】
前記水溶性表面処理物質を含有してなる水溶液を泡状にして噴射する噴射方向と直交する方向に、前記被処理物を泡状物の集合体に対して相対移動させることを特徴とする請求項1または2に記載の水溶性表面処理物質の塗布方法。
【請求項4】
前記被処理物の外表面の全域に、泡状物の集合体を接触させることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の水溶性表面処理物質の塗布方法。
【請求項5】
前記水溶性表面処理物質を含有してなる水溶液に液圧を作用させると同時に導入した気体に気圧を作用させた状態で、噴射ノズルの噴口から前記水溶液及び気体を噴射させることにより、該水溶液を泡状にするに際して、前記水溶液の液圧及び前記気体の気圧を、水溶液をミスト状にして噴霧する場合の液圧及び気圧よりもそれぞれ低く設定したことを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の水溶性表面処理物質の塗布方法。
【請求項6】
前記泡状物の直径が、2mm以下であることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の水溶性表面処理物質の塗布方法。
【請求項7】
前記水溶性表面処理物質が、界面活性剤であることを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載の水溶性表面処理物質の塗布方法。
【請求項8】
前記被処理物が、線状ガラス物品であることを特徴とする請求項1〜7の何れかに記載の水溶性表面処理物質の塗布方法。
【請求項9】
前記線状ガラス物品の加熱を伴う線引き成形工程の実行時に、線状ガラス物品の表面に前記泡状物の集合体を接触させることを特徴とする請求項8に記載の水溶性表面処理物質の塗布方法。
【請求項10】
請求項1〜9の何れかの方法により、表面に水溶性表面処理物質が塗布されていることを特徴とする線状ガラス物品。
【請求項11】
水溶性表面処理物質を被処理物の表面に塗布するようにした水溶性表面処理物質の塗布装置において、水溶性表面処理物質を含有してなる水溶液を泡状にして噴射し、その噴射された泡状物の集合体を被処理物の表面に接触させて、該被処理物の表面に水溶性表面処理物質を被着させるように構成したことを特徴とする水溶性表面処理物質の塗布装置。
【請求項12】
水溶性表面処理物質を含有してなる水溶液を泡状にして噴射し、その噴射された泡状物の集合体を、清浄な物品の表面に接触させて、該物品の表面に水溶性表面処理物質からなる被膜を被着させた後、水で該被膜表面に付着した汚染物と共に該被膜を洗い流すことを特徴とする物品の清浄化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−196209(P2007−196209A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−118293(P2006−118293)
【出願日】平成18年4月21日(2006.4.21)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】