説明

水溶性酸化亜鉛組成物

【課題】酸化亜鉛を高含量で含有する水溶性酸化亜鉛組成物を提供すること。
【解決手段】本発明の水溶性酸化亜鉛組成物は、酸化亜鉛とプロリンまたはその塩とグリシンまたはその塩とを含有する水溶性酸化亜鉛組成物であって、酸化亜鉛とプロリンまたはその塩とのモル比が1:2〜1:20であり、酸化亜鉛とグリシンまたはその塩とのモル比が1:0.1〜1:2である。本発明の水溶性酸化亜鉛組成物は、20℃における水に対する溶解度が酸化亜鉛として0.15〜10g/100mLである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶性酸化亜鉛組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
亜鉛は生物(ヒトおよび動植物)にとって必須微量元素の1つである。亜鉛イオンは皮膚の新陳代謝に関与し、亜鉛欠乏はあらゆる皮膚トラブルの原因となる。
【0003】
近年、亜鉛の生理作用が注目され、亜鉛とアミノ酸あるいは小ペプチドとの複合体が多数得られている。例えば、医薬品としては、非常に強い組織修復作用を発揮する亜鉛とカルノシンとの複合体である抗潰瘍薬のポラプレジンクがある。
【0004】
皮膚に対して安全に使用できる亜鉛化合物として、酸化亜鉛(ZnO)が挙げられる。酸化亜鉛は、弱い殺菌作用を持つ局所収斂薬として古来よりよく知られており、創傷や潰瘍部位に散布あるいは塗布すると刺激緩和作用や防腐作用とともに組織修復作用を示す。酸化亜鉛を10〜20質量%含有する亜鉛華軟膏は第3類医薬品であり、効能として外傷、熱傷、凍傷、湿疹、皮膚炎、肛門掻痒症、白癬、面皰、せつ、よう、その他の皮膚疾患によるびらん・潰瘍・湿潤面などに対する収斂・消炎・緩和な防腐作用が認められている。化粧品においても、基本的な鉱物性顔料である亜鉛華として、パウダー製品を中心に広く用いられている。
【0005】
酸化亜鉛は、歴史的に安全性が十分に検証されている化合物であるが、水に極めて難溶であるため、粉体原料あるいは粉体材料としてのみ用いられており、その応用には限界がある。また、酸化亜鉛は密度が比較的大きいので(25℃にて5.6g/cm)、超微粉末であっても媒体中に均一に分散させ維持するには特殊な技術や分散剤が必要である。例えば、このとき用いられる分散剤は生体に対して有害性を示すこともある。
【0006】
一方、水溶性の亜鉛化合物としては、塩化亜鉛、硫酸亜鉛、グルコン酸亜鉛、パラフェノールスルホン酸亜鉛などの亜鉛の塩類が知られている。硫酸亜鉛およびグルコン酸亜鉛は亜鉛補給を目的とするサプリメントとして用いられている。塩化亜鉛、硫酸亜鉛およびパラフェノールスルホン酸亜鉛は微量で強い皮膚収斂作用を示すため化粧水(アストリンゼントローション)などに用いられている。これらはすべて、皮膚のタンパク質を変性させることによってその作用を発揮するため、これらの作用と表裏一体の関係にある皮膚刺激作用という欠点を有する。これらの亜鉛化合物は、多彩な有害事象および物性から生体への適用や製剤的応用がきわめて限られる。
【0007】
さらに、酸化亜鉛とアミノ酸であるグリシンとの反応によって得られるグリシン亜鉛(グリシン亜鉛一水和物を含む)、あるいはアミノ酢酸亜鉛とも称されるグリシン酸亜鉛の合成法が、例えば、特許文献1に記載されている。しかし、これらの物質も水に極めて難溶である。
【0008】
特許文献2には、酸化亜鉛およびアミノ酸を含む局所皮膚用組成物が開示されている(請求項1および5)。有用なアミノ酸として、グリシン、L−リジンおよびD,L−リジンが挙げられている(請求項5および段落番号0024)。亜鉛含有モイスチャークリームを製造するために、0.440gの酸化亜鉛と4.05gの無水グリシンの混合物を約71℃に加熱して6.8gの精製水に溶解したことが記載されている(実施例1)。特許文献3には、酸化亜鉛とグリシンなどの特定のアミノ酸とを有効成分とする抗菌性消臭剤が開示されている(請求項1)。酸化亜鉛1.0gとグリシン6.1gとをイオン交換水93gに添加し、室温で15分間攪拌することにより無色透明の水溶液を調製したことが記載されている(実施例1)。特許文献4には、酸化亜鉛とグリシンなどの特定のアミノ酸とを含む洗浄剤用消臭性配合剤が開示されている(請求項1)。酸化亜鉛5gとグリシン15gとをイオン交換水200mlに添加し、攪拌下に70℃の温浴で30分間加温して、無色透明な水溶液を調製したことが記載されている(実施例1)。このように、グリシンなどの特定のアミノ酸を共存させることにより、酸化亜鉛を室温で約1質量%含有する水溶液または加温することにより数質量%含有する水溶液を生成し得る水溶性酸化亜鉛組成物が知られているが、より少量のアミノ酸を共存させることにより、酸化亜鉛をより高含量で含有する水溶性酸化亜鉛組成物が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭64−087646号公報
【特許文献2】特開2001−10960号公報
【特許文献3】特開2006−26156号公報
【特許文献4】特開2006−176675号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、酸化亜鉛を高含量で含有する水溶性酸化亜鉛組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意検討を重ねた結果、酸化亜鉛に、プロリンまたはその塩とグリシンまたはその塩とを混合することにより、酸化亜鉛を高含量で含有する水溶性酸化亜鉛組成物が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
本発明は水溶性酸化亜鉛組成物を提供し、該組成物は、酸化亜鉛とプロリンまたはその塩とグリシンまたはその塩とを含有し、酸化亜鉛とプロリンまたはその塩とのモル比は1:2〜1:20であり、酸化亜鉛とグリシンまたはその塩とのモル比は1:0.1〜1:2である。
【0013】
1つの実施態様では、上記プロリンおよび上記グリシンはL体である。
【0014】
1つの実施態様では、上記水溶性酸化亜鉛組成物は、20℃における水に対する溶解度が酸化亜鉛として0.15〜10g/100mLである。
【0015】
1つの実施態様では、上記水溶性酸化亜鉛組成物は、経口用組成物である。
【0016】
1つの実施態様では、上記水溶性酸化亜鉛組成物は、経皮用組成物である。
【0017】
1つの実施態様では、上記水溶性酸化亜鉛組成物は、固体である。
【0018】
本発明はまた、上記水溶性酸化亜鉛組成物を含有する水溶液を提供する。
【0019】
1つの実施態様では、上記水溶液は、上記酸化亜鉛の濃度が0.01〜7%(w/w)である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、酸化亜鉛を高含量で含有する水溶性酸化亜鉛組成物を提供することができる。本発明の水溶性酸化亜鉛組成物は、医薬品、サプリメント、医薬部外品、化粧品などの経口用組成物および経皮用組成物に用いることができ、軟膏などに限られていた酸化亜鉛の適用・応用範囲がローションなどにまで大きく広がる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の水溶性酸化亜鉛組成物は、酸化亜鉛とプロリンまたはその塩とグリシンまたはその塩とを含む。
【0022】
本発明において、酸化亜鉛(ZnO)とは、例えば、亜鉛華、亜鉛白とも呼ばれる密度5.6g/cm(25℃)の無定形の白色粉末のものをいう。酸化亜鉛の水に対する溶解度は、18℃にて0.042mg/100mLである。
【0023】
本発明の水溶性酸化亜鉛組成物に含まれる酸化亜鉛としては、例えば、日本薬局方品、医薬部外品原料、化粧品原料、試薬として市販されている酸化亜鉛が挙げられる。
【0024】
本発明の水溶性酸化亜鉛組成物に含まれるプロリンおよびグリシンは、光学活性体(L体あるいはD体)またはラセミ体(DL体)のいずれであってもよい。例えば、市販品であってもよい。それぞれの単一成分であってもよく、混合物であってもよい。塩は特に限定されない。
【0025】
本発明の水溶性酸化亜鉛組成物の形状は、特に限定されないが、好ましくは固体、より好ましくは粉体または粉末である。
【0026】
本発明の水溶性酸化亜鉛組成物に含まれる酸化亜鉛とプロリンまたはその塩との割合は、モル比で1:2〜1:20であり、酸化亜鉛とグリシンまたはその塩との割合は、モル比で1:0.1〜1:2である。
【0027】
本発明の水溶性酸化亜鉛組成物の水に対する溶解度(20℃)は、酸化亜鉛として0.15〜10g/100mLである。本発明の水溶性酸化亜鉛組成物は、水に添加すると速やかに溶解し水溶液を生成する。水溶液中の酸化亜鉛の濃度は、0.01〜7%(w/w)である。
【0028】
本発明の水溶性酸化亜鉛組成物は、上記の成分に加えて、通常化粧品などに用いられる成分、例えば、油性成分、保湿剤、紫外線吸収剤、増粘剤、防腐剤、界面活性剤、pH調整剤、酸化防止剤、アルコール類、キレート剤、粉末成分、色素、香料、水、各種有効成分を必要に応じて含んでいてもよい。
【0029】
本発明の水溶性酸化亜鉛組成物は、医薬品、サプリメント、医薬部外品、化粧品などの経口用組成物および経皮用組成物に配合することができる。
【0030】
本発明の水溶性酸化亜鉛組成物は、酸化亜鉛とプロリンまたはその塩とを1:2〜1:20のモル比で、および酸化亜鉛とグリシンまたはその塩とを1:0.1〜1:2のモル比で混合する工程を含む方法により得られる。
【0031】
好ましくは、上記工程で得られる水溶性酸化亜鉛組成物を水に添加して溶解させる工程、次いで得られる水溶液を乾燥する工程をさらに含む方法により得られる。
【0032】
上記水溶性酸化亜鉛組成物を水に添加して溶解させる工程の温度としては、特に限定されないが、好ましくは25℃以上、より好ましくは80℃以上である。
【0033】
上記水溶液を乾燥する工程に用いる手法としては、特に限定されず、例えば、スプレードライ法、真空凍結乾燥法が挙げられる。
【実施例】
【0034】
以下に、実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0035】
(実施例1:水溶性酸化亜鉛組成物の調製1)
酸化亜鉛粉末(ハクスイテック株式会社製)10gと、プロリン(和光純薬工業株式会社製)40gと、グリシン(和光純薬工業株式会社製)13gとを100mLの水に添加して、混合した。この混合液を80℃にて加熱攪拌し、透明な水溶液を得た。得られた水溶液を放置冷却後、真空凍結乾燥に供し、粉末を得た。
【0036】
得られた粉末の水に対する溶解度(20℃)を以下の表1に示す。この粉末は、酸化亜鉛として10g/100mLの溶解度を示した。
【0037】
(比較例1:水溶性酸化亜鉛組成物の調製2)
酸化亜鉛粉末4.0gと、グリシン15gとを100mLの水に添加して、混合した。この混合液を80℃にて加熱攪拌し、透明な水溶液を得た。得られた水溶液を放置冷却後、真空凍結乾燥に供し、粉末を得た。
【0038】
得られた粉末の水に対する溶解度(20℃)を以下の表1に示す。この粉末は、酸化亜鉛として4.0g/100mLの溶解度を示した。
【0039】
(比較例2:水溶性酸化亜鉛組成物の調製3)
酸化亜鉛粉末4.4gと、プロリン40gとを100mLの水に添加して、混合した。この混合液を80℃にて加熱攪拌し、透明な水溶液を得た。得られた水溶液を放置冷却後、真空凍結乾燥に供し、粉末を得た。
【0040】
得られた粉末の水に対する溶解度(20℃)を表1に示す。この粉末は、酸化亜鉛として4.4g/100mLの溶解度を示した。
【0041】
このように、酸化亜鉛とプロリンとを含む組成物、および酸化亜鉛とグリシンとを含む組成物と比べて、酸化亜鉛とプロリンとグリシンとを含む組成物では、より少量のアミノ酸で酸化亜鉛の溶解度を高めることができた。
【0042】
【表1】

【0043】
(実施例2:水溶性酸化亜鉛組成物の浴用料としての効果)
実施例1で得られた水溶性酸化亜鉛組成物を浴用料として用い、皮膚トラブルに対する効果を試験した。試験では、水溶性酸化亜鉛組成物を含有する水溶液(酸化亜鉛として1%(w/w)を調製し、この20mLを200Lの湯をはった浴槽に対して添加して、攪拌した。
【0044】
試験は、被験者である健康な日本人の31歳〜78歳の女性20名、および23歳〜83歳の男性7名からヘルシンキ宣言に基づいた十分なインフォームドコンセントを得たうえで実施した。被験者は、上記水溶性酸化亜鉛組成物を含有する湯をはった浴槽に最低3日に1度入浴することとし、28日間を1クールとした。試験前に皮膚トラブルを自己申告してもらい、試験開始から1週間ごとにVAS(Visual Analog Scale)による効果評価を行った。
【0045】
VASによる効果評価では、VAS改善率60%以上を著効、30%以上を有効、15%以上を改善、および15%未満を無効とした。
【0046】
乾燥肌(腕、脚、首すじ)、かゆみ(体躯、足)、およびかかとの荒れについての結果を表2に示す。
【0047】
【表2】

【0048】
表2から明らかなように、プロリンとグリシンとを含有する水溶性酸化亜鉛組成物は、乾燥肌、かゆみ、およびかかとの荒れのいずれの皮膚トラブルに対しても、改善効果を示した。
【0049】
(実施例3:水溶性酸化亜鉛組成物の洗口液としての効果)
実施例2で調製した水溶性酸化亜鉛組成物を含有する水溶液(酸化亜鉛として1%(w/w))を水で1000倍希釈したものを洗口液とし、実施例3と同様にして、被験者である健康な日本人の男女5名からインフォームドコンセントを得たうえで、洗口液の被験者に対する効果を検討した。
【0050】
この結果、この洗口液は、口腔内の洗浄効果のほか、口腔内粘膜損傷に対する治療効果を有することがわかった。
【0051】
(実施例4:水溶性酸化亜鉛組成物のローションとしての効果)
実施例2で調製した水溶性酸化亜鉛組成物を含有する水溶液(酸化亜鉛として1%(w/w))を水で100倍希釈したものをスプレー容器に充填し、化粧用ローションを調製した。
【0052】
試験は、被験者である健康な日本人の31歳〜78歳の女性20名からヘルシンキ宣言に基づいた十分なインフォームドコンセントを得たうえで実施した。被験者は、両腕を日光に30分暴露後、上記ローションをスプレーで片腕に噴霧し、ローションを肌上で延ばした後、試験開始から3日間にわたりVAS(Visual Analog Scale)による効果評価を行った。
【0053】
この結果、上記ローションには、日光によるサンタン(日焼け)の発生を遅らせ、サンバーン(日光火傷)の発生を抑制する効果が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の水溶性酸化亜鉛組成物は、医薬品、サプリメント、医薬部外品、化粧品などの経口用組成物および経皮用組成物に用いることができ、軟膏などに限られていた酸化亜鉛の適用・応用範囲がローションなどにまで大きく広がる。基礎化粧品や頭髪用化粧品として有益であるのみならず、例えば、高齢者に一般的でかつ治療がきわめて困難な老人性掻痒、または寝たきり状態で問題となる褥瘡(床ずれ)に対する改善効果が期待される。加齢や抗がん療法などに伴う口腔粘膜の損傷治療においても、酸化亜鉛が持つ粘膜修復作用、殺菌作用などによる治療効果が期待できる。このように、特に高齢者医療におけるQOLの向上に大きく寄与できる。また、定期的に反復して用いることができるため、浴用料として全身スキンケアなどに有用である。さらに、亜鉛供給源を得る目的で動物の餌、植物用肥料などに添加して用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化亜鉛とプロリンまたはその塩とグリシンまたはその塩とを含有する水溶性酸化亜鉛組成物であって、酸化亜鉛とプロリンまたはその塩とのモル比が1:2〜1:20であり、酸化亜鉛とグリシンまたはその塩とのモル比が1:0.1〜1:2である、組成物。
【請求項2】
前記プロリンおよび前記グリシンがL体である、請求項1に記載の水溶性酸化亜鉛組成物。
【請求項3】
20℃における水に対する溶解度が酸化亜鉛として0.15〜10g/100mLである、請求項1または2に記載の水溶性酸化亜鉛組成物。
【請求項4】
経口用組成物である、請求項1から3のいずれかの項に記載の水溶性酸化亜鉛組成物。
【請求項5】
経皮用組成物である、請求項1から3のいずれかの項に記載の水溶性酸化亜鉛組成物。
【請求項6】
固体である、請求項1から5のいずれかの項に記載の水溶性酸化亜鉛組成物。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかの項に記載の水溶性酸化亜鉛組成物を含有する水溶液。
【請求項8】
前記酸化亜鉛の濃度が0.01〜7%(w/w)である、請求項7に記載の水溶液。

【公開番号】特開2012−31120(P2012−31120A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−173618(P2010−173618)
【出願日】平成22年8月2日(2010.8.2)
【出願人】(509053019)株式会社SHソリューションズ (1)
【Fターム(参考)】