説明

水溶性金属加工油剤、金属加工液、及び金属加工方法

【課題】難加工材に対して、優れた加工性を発揮でき、工具の寿命を延ばすことが可能な水溶性金属加工油剤、金属加工液、及び金属加工方法を提供する。
【解決手段】下記のA成分とB成分を含む水溶性金属加工油剤であって、該A成分がJIS K2242に基づいて測定される特性温度が570℃以上を満たす鉱物油であり、該B成分がヒドロキシカルボン酸を脱水縮合させることにより得られる縮合脂肪酸(1)、及び縮合脂肪酸(1)のアルコール性水酸基と1価のカルボン酸とを脱水縮合させることにより得られる縮合脂肪酸(2)のうち少なくともいずれか1種の縮合脂肪酸であり、かつJIS K2242に基づいて測定される特性温度が650℃以上を満たす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属を切削又は研削する金属加工に用いられる水溶性金属加工油剤、金属加工液、及び金属加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
切削加工や研削加工などの金属加工分野では、加工効率の向上、被加工材と被加工材を加工する工具との摩擦抑制、工具の寿命延長効果、切り屑の除去などを目的として金属加工油剤が使用される。金属加工油剤には、鉱物油、動植物油、合成油などの油分を主成分したものと、油分に界面活性を持つ化合物を配合して水溶性を付与したものとが含まれる。資源の有効活用や火災の防止などの理由から、近年では、水溶性を付与したもの(水溶性金属加工油剤という)が用いられるようになってきている。
【0003】
水溶性金属加工油剤に求められる消泡性や耐腐敗性能を満足し、加工効率を向上させる目的で、例えば、リシノール酸重合物のアミン塩などを配合することが提案されている(特許文献1参照)。また、加工効率を高める目的で、金属加工油剤に、従来、塩素化パラフィンが配合されることがあったが、人体に有害なダイオキシンが発生する恐れが指摘され、近年では、塩素化パラフィンに代わって硫黄やリンなどの化合物を配合することが提案されている(特許文献2参照)。また、さらなる加工性能の向上を期待して、金属加工油剤にリシノール酸縮合脂肪酸、エステル化合物、及びアミンなどの化合物を配合することが提案されている(特許文献3参照)。
【0004】
しかし、特許文献1、3のように、リシノール酸重合物のアミン塩と鉱物油を配合して得られる金属加工油剤であっても、チタン合金、ニッケル合金、コバルト合金などのように、加工困難性が高い難加工材を切削加工する場合には、加工の際に発生する加工熱が工具に蓄積することによって、工具への負荷が高くなり、工具の寿命が短くなるなどの問題があった。
また、生産性を高める目的で切削速度を高くした場合には、さらに高い加工熱が発生するため、工具への負荷が一層高まるため、特許文献3のように、リシノール酸縮合脂肪酸とエステル化合物とを組み合わせて使用した場合であっても、十分な加工性能が得られない場合があった。また、特許文献2では、硫黄やリンなどの化合物を配合することから、環境への負担が懸念される。
上述のように、難加工材の加工分野では、効率よく切削加工を行うためには、金属加工油剤のさらなる改良が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭57−159891号公報
【特許文献2】特開昭60−141795号公報
【特許文献3】特開2011−111593号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、難加工材に対して、優れた加工性を発揮でき、工具の寿命を延ばすことが可能な水溶性金属加工油剤、金属加工液、及び金属加工方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、水溶性金属加工油剤において、潤滑性に寄与する潤滑成分として、特性温度が特定の条件を満たす鉱物油と、特定の縮合脂肪酸とを選択することにより、上記課題が解決されることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
すなわち本発明は、
[1]下記のA成分とB成分を含む水溶性金属加工油剤であって、
該A成分は、JIS K2242に基づいて測定される特性温度が570℃以上を満たす鉱物油であり、
該B成分は、ヒドロキシカルボン酸を脱水縮合させることにより得られる縮合脂肪酸(1)、及び縮合脂肪酸(1)のアルコール性水酸基と1価のカルボン酸とを脱水縮合させることにより得られる縮合脂肪酸(2)のうち少なくともいずれか1種の縮合脂肪酸であり、かつJIS K2242に基づいて測定される特性温度が650℃以上を満たす
ことを特徴とする水溶性金属加工油剤、
[2]前記溶性金属加工油剤が水で希釈された金属加工液、
[3]前記水溶性金属加工油剤を用いて、金属からなる被加工材を加工する金属加工方法、
[4]前記金属加工液を用いて、金属からなる被加工材を加工する金属加工方法、
に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、難加工材に対して、優れた加工性を発揮でき、工具の寿命を延ばすことが可能な水溶性金属加工油剤、金属加工液、及び金属加工方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明を詳細に説明する。
[水溶性金属加工油剤]
本発明の実施形態に係る水溶性金属加工油剤は、下記のA成分とB成分を含む水溶性金属加工油剤であって、該A成分は、JIS K2242に基づいて測定される特性温度が570℃以上を満たす鉱物油であり、該B成分は、ヒドロキシカルボン酸を脱水縮合させることにより得られる縮合脂肪酸(1)、及び縮合脂肪酸(1)のアルコール性水酸基と1価のカルボン酸とを脱水縮合させることにより得られる縮合脂肪酸(2)のうち少なくともいずれか1種の縮合脂肪酸であり、かつJIS K2242に基づいて測定される特性温度が650℃以上を満たす。
さらに、水溶性金属加工油剤は、C成分としてカルボン酸を含んでいてもよい。さらにまた、水溶性金属加工油剤は、D成分としてアミン化合物又はアルカリ金属化合物を含んでいてもよい。
なお、本発明の実施形態において、水溶性金属加工油剤とは、金属加工の際、水に希釈して使用する水溶性が付与された切削油剤を意味する。水溶性金属加工油剤と表記した場合には、水に希釈する前の原液組成物を示す。
【0010】
JIS K2242(熱処理油冷却性試験(A法))では、銀棒試験片の冷却過程を、蒸気膜段階、沸騰段階、対流段階と規定している。特性温度とは、蒸気膜段階から沸騰段階に移行する温度である。
具体的に、蒸気膜段階は、加熱された試験片の表面温度が高く、気化した油剤の蒸気層で試験片が覆われた状態である。すなわち、この蒸気膜段階では、油剤は、試験片と液体の状態で直接接触できない。このことは、特性温度以上において、油剤は、液体として作用することができず、潤滑性を付与することも困難であることを意味する。
沸騰段階は、蒸気膜が破断した後、油剤が試験片に接触し、核沸騰が起こる状態である。すなわち、沸騰段階では、油剤が試験片に液体として直接接触できる。このことは、特性温度以下において、油剤は、液体として作用することができ、潤滑性を付与することが可能であることを意味する。
【0011】
<A成分>
A成分は、鉱物油であって、JIS K2242に基づいて測定される特性温度が570℃以上である。A成分の特性温度が570℃未満であると、潤滑に寄与する油分が気化し易く、十分な摩耗低減効果が得られないため、工具の寿命が短くなる。特性温度は、好ましくは、590℃以上であり、より好ましくは、630℃以上である。特性温度の上限に制限はないが、800℃以下であることが好ましい。
【0012】
上述した、JIS K2242に基づいて測定される特性温度が570℃以上であるA成分を製造するにあたっては、例えば、鉱物油から、減圧蒸留により軽質留分を除去して、A成分の40℃における動粘度を300mm2/s以上に調整し、A成分の引火点を220℃以上に調整する。これによって、特性温度が570℃以上であるA成分が得られる。
A成分の40℃における動粘度は、300mm2/s以上であることが好ましく、400mm2/s以上であることがより好ましい。A成分の40℃における動粘度が300mm2/sであれば、工具の寿命を延長する効果が十分に得られる。A成分の動粘度の上限については、特に制限は無いが、500mm2/s以下であることが好ましい。
A成分の引火点は、220℃以上であることが好ましく、230℃以上であることがより好ましい。引火点が220℃を下回ると所定の特性温度が得られず、十分な加工性能が得られない場合がある。
鉱物油としては、例えば、パラフィン系原油、中間基系原油、若しくはナフテン系原油を常圧蒸留して得られる留出油、パラフィン系原油、中間基系原油、若しくはナフテン系原油の常圧蒸留残渣油を減圧蒸留して得られる留出油、又はこれら留出油を常法に従って精製することによって得られる精製油が用いられる。具体的には、溶剤精製油、水添精製油、脱ロウ処理油、白土処理油などが挙げられる。
これらのなかでは、水溶性を付与するために用いられる界面活性剤との相性からナフテン系鉱物油であることが好ましい。
また、A成分は、水溶性金属加工油剤の全量に対して10質量%以上含まれることが好ましく、15質量%以上含まれることが好ましい。10質量%以上であれば、工具の寿命を延長する効果が十分に得られる。
なお、鉱物油の動粘度は、JIS K2283に基づいて測定される値である。鉱物油の密度は、JIS K2249に基づいて測定される値である。引火点は、JIS K2265−4(COC法)に基づいて測定される値である。
【0013】
<B成分>
B成分は、ヒドロキシカルボン酸を脱水縮合させることにより得られる縮合脂肪酸(1)、及び縮合脂肪酸(1)のアルコール性水酸基と1価のカルボン酸とを脱水縮合させることにより得られる縮合脂肪酸(2)のうち少なくともいずれか1種の縮合脂肪酸であり、かつJIS K2242に基づいて測定される特性温度が650℃以上である。
B成分の特性温度が650℃未満であると、B成分が気化し易く、十分な摩耗低減効果が得られないため、工具の寿命が短くなる。上記観点から、B成分の特性温度は、好ましくは、670℃以上であり、より好ましくは、690℃以上である。
【0014】
上述した、JIS K2242に基づいて測定される特性温度が650℃以上であるB成分を製造するにあたって、ヒドロキシカルボン酸の一例としては、リシノール酸が挙げられる。リシノール酸(12−ヒドロキシオクタデカ−9−エノン酸)を脱水重縮合することにより得られる。リシノール酸を、例えば、不活性雰囲気下200℃程度に加熱すると脱水重縮合が始まり、重縮合脂肪酸が得られる。
リシノール酸の重縮合度は、反応時間によって調整される。反応時間が長くなれば、酸価及び水酸基価が低下し、重縮合度の高い脂肪酸が得られる。重縮合度の高いものほど高い特性温度の重縮合脂肪酸を得ることができる。
【0015】
縮合脂肪酸(2)は、ヒドロキシカルボン酸の脱水重縮合体にさらに1価のカルボン酸を加えて脱水重縮合を行うことにより得られる。反応の進行は水酸基価の低下によって確認される。この反応によりさらに高い特性温度の重縮合脂肪酸を得ることができる。
この反応に用いられる1価のカルボン酸としては、飽和カルボン酸でも不飽和カルボン酸でもよいが、炭素数の小さいカルボン酸が未反応物として残留した場合、不快臭や金属腐食の原因となるおそれがあることから炭素数4以上のカルボン酸が好ましい。飽和カルボン酸としては、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、2−エチルヘキサン酸、ペラルゴン酸、イソノナン酸、カプリン酸、ネオデカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸及びリグノセリン酸などが挙げられる。不飽和カルボン酸としては、ウンデシレン酸、オレイン酸、エライジン酸、エルカ酸、ネルボン酸、リノール酸、γ−リノレン酸、アラキドン酸、α−リノレン酸、ステアリドン酸、エイコサペンタエン酸、及びドコサヘキサエン酸などが挙げられる。
【0016】
B成分の酸価は、60mgKOH/g以下であることが好ましく、40mgKOH/g以下であることがより好ましい。B成分の酸価が60mgKOH/gを上回る場合、所定の特性温度が得られず、十分な加工性能が得られない場合がある。
B成分の水酸基価は、50mgKOH/g以下であることが好ましく、35mgKOH/g以下であることがより好ましい。B成分の水酸基価が50mgKOH/gを上回ると所定の特性温度が得られず、十分な加工性能が得られない場合がある。
また、B成分は、水溶性金属加工油剤の全量に対して7.5質量%以上含まれることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましい。7.5質量%以上であれば、摩耗低減効果や工具の寿命を延長する効果が十分に得られる。
なお、酸価は、JIS K2501に基づいて測定される値であり、水酸基価は、JIS K0070に基づいて測定される値であり、けん化価は、JIS K2503に基づいて測定される値である。
【0017】
<C成分>
水溶性金属加工油剤には、C成分として、カルボン酸が含まれることが好ましい。C成分として使用可能なカルボン酸としては、不飽和カルボン酸、飽和カルボン酸であってよく、直鎖状構造又は環状構造を有していてもよい。総炭素数4〜30の1価、2価、又は多価カルボン酸であることが好ましい。
C成分として用いることのできる1価のカルボン酸としては、B成分を製造する際に用いられた1価のカルボン酸を適用することができる。
また、2価のカルボン酸としては、例えば、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカン二酸などが挙げられる。多価カルボン酸としては、例えば、クエン酸などが挙げられる。
C成分としてのカルボン酸は、水溶性金属加工油剤の全量に対して2質量%以上含まれ、5質量%以上含まれることが好ましく、8質量%以上含まれることがより好ましい。B成分の配合量が2質量%未満であると、水溶性金属加工油剤の安定性や希釈した際の安定性が十分に得られない場合がある。
【0018】
<D成分>
水溶性金属加工油剤は、D成分として、アミン化合物又はアルカリ金属化合物を含むことが好ましい。D成分は、水溶性金属加工油剤の安定性の観点から、少なくとも、B成分とC成分との和の酸価を中和する中和当量分含まれることが好ましい。D成分の配合量の上限は、水溶性金属加工油剤を水で10体積%に希釈した際のpHが11になる値である。中和当量を下回ると、水溶性金属加工油剤の安定性が低下する。また希釈した液のpHが11を上回ると、金属加工に従事する者の手あれなどが発生する場合がある。
D成分として用いることのできるアミン化合物としては、第1、第2及び第3アミンのいずれであってもよく、さらにアルカノールアミンであってもよい。
第1アミンの例としては、モノエタノールアミン、モノプロパノールアミン、モノイソプロパノールアミン、2−アミノ−1−ブタノール、2−アミノ−2−メチルプロパノール、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、シクロヘキシルアミン、オクチルアミン、ラウリルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン、ベンジルアミンなどを挙げることができる。
第2アミンの例としては、ジエチルアミン、ジイソプロピルアミン、ジブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン、ジオクチルアミン、ジラウリルアミン、ジステアリルアミン、ジオレイルアミン、ジベンジルアミン、ジエタノールアミン、ピペラジン、ジイソプロパノールアミン、ステアリルエタノールアミン、デシルエタノールアミン、ヘキシルプロパノールアミン、ベンジルエタノールアミン、フェニルエタノールアミン、及びトリルプロパノールアミンなどを挙げることができる。
第3アミンの例としては、トリブチルアミン、トリペンチルアミン、トリヘキシルアミン、トリシクロヘキシルアミン、トリオクチルアミン、トリラウリルアミン、トリステアリルアミン、トリオレイルアミン、トリベンジルアミン、メチルジシクロヘキシルアミン、ジオレイルエタノールアミン、ジラウリルプロパノールアミン、ジオクチルエタノールアミン、ジブチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジヘキシルプロパノールアミン、ジブチルプロパノールアミン、オレイルジエタノールアミン、ステアリルジプロパノールアミン、ラウリルジエタノールアミン、オクチルジプロパノールアミン、ブチルジエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、シクロヘキシルジエタノールアミン、ベンジルジエタノールアミン、フェニルジエタノールアミン、トリルジプロパノールアミン、キシリルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミンなどを挙げることができる。
これらのアミン化合物は、C成分であるカルボン酸とアミン塩を構成する。水溶性金属加工油剤にアミン化合物が含まれることにより、水溶性金属加工油剤の安定性が確保でき、水溶性を向上させることができる。乳化安定性、防錆性、耐腐敗性の観点から、アミン化合物として、アルカノールアミン及びアルキルアミンのいずれか一方か、または両方を用いることが好ましい。
なお、塩基価(塩酸法)は、JIS K2501に基づいて測定される値である。
【0019】
<水>
水溶性金属加工油剤(原液組成物)には、所定量の水が含まれていてもよい。水の量は、水溶性付与の観点から、水溶性金属加工油剤の全量に対して0〜50質量%であることが好ましく、より好ましくは、3〜45質量%、さらに好ましくは、6〜40質量%である。
【0020】
<その他の配合剤>
水溶性金属加工油剤には、本発明の目的を阻害しない範囲でさらに他の成分を配合することができる。例えば、界面活性剤、潤滑性向上剤、金属不活性化剤、消泡剤、殺菌剤及び酸化防止剤等を配合することができる。
界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、及び両性界面活性剤などが挙げられる。アニオン性界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルファオレフィンスルホン酸塩等がある。カチオン性界面活性剤としては、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩などの四級アンモニウム塩等がある。非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルなどのエーテルや、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステルなどのエステル、脂肪酸アルカノールアミドのようなアミドが挙げられる。両性界面活性剤としては、ベタイン系としてアルキルベタインなどが挙げられる。
潤滑性向上剤としては、有機酸が挙げられる。有機酸としては、例えば、カプリル酸、ペラルゴン酸、イソノナン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、安息香酸、p−tert−ブチル安息香酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカン二酸等が挙げられる。
金属不活性化剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール、イミダゾリン、ピリミジン誘導体、及びチアジアゾール等が挙げられる。
酸化防止剤としては、アルキル化ジフェニルアミン、フェニル−α−ナフチルアミン、アルキル化フェニル−α−ナフチルアミン等のアミン系酸化防止剤、2、6−ジ−t−ブチルフェノール、4、4’−メチレンビス(2、6−ジ−t−ブチルフェノール)、イソオクチル−3−(3、5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、n−オクタデシル−3−(3、5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート等のフェノール系酸化防止剤、ジラウリル−3、3’−チオジプロピオネイト等の硫黄系酸化防止剤、ホスファイト等のリン系酸化防止剤、さらにモリブデン系酸化防止剤が挙げられる。
殺菌剤としては、例えば、トリアジン系防腐剤、アルキルベンゾイミダゾール系防腐剤などが挙げられる。
消泡剤としては、メチルシリコーン油、フルオロシリコーン油、ポリアクリレートなどを挙げることができる。
【0021】
[金属加工液]
本発明における金属加工液は,水溶性金属加工油剤(原液組成物)を水に希釈することにより得られる。ここでの水は、蒸留水、イオン交換水、水道水などのいずれでもよく、特に限定されない。本発明における水溶性金属加工油剤を希釈して用いる濃度としては、3体積%以上20体積%以下であることが好ましい。より好ましくは5体積%以上であることが好ましく、さらに好ましくは10体積%以上であることが好ましい。希釈濃度が3体積%を下回ると十分な加工性能が得られないおそれがある。一方、20体積%を上回ると、希釈液の安定性が損なわれる可能性がある。
【0022】
[金属加工方法]
本発明に係る金属加工方法は、水溶性金属加工油剤(原液組成物)、または水溶性金属加工油剤が水で希釈された金属加工液を用いて、金属からなる被加工材を加工する金属加工方法である。金属加工の種類としては、切削加工、研削加工、打抜き加工、研磨、絞り加工、抽伸加工、圧延加工等の各種の金属加工分野に好適に利用することができる。本発明の金属加工剤は、潤滑性に優れるため、いわゆる難加工材の加工に適する。
被加工材としての金属には、単一の金属元素からなる純金属と、複数の金属元素或いは金属元素と非金属元素からなる金属様のものを含む。難加工材は、チタン、チタン合金、ニッケル合金、ニオブ合金、タンタル合金、モリブデン合金、タングステン合金、ステンレス鋼、及び高マンガン鋼を含む群から選ばれる少なくとも1種である。
本発明に係る金属加工方法によれば、塩素、硫黄、或いはリンを含有する化合物を配合しなくとも、難加工材をエンドミル加工などの断続切削加工する際に好適に用いることができる。
【実施例】
【0023】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に限定されない。下記に示す評価方法に従って、実施例及び比較例に係る水溶性金属加工油剤の特性を評価した。
[評価方法]
<原液安定性評価>
原液安定性は、水で希釈されていない水溶性金属加工油剤(原液組成物)を用いて評価した。得られた実施例及び比較例の水溶性金属加工油剤を25℃で24時間静置し、分離の有無を観察した。分離しなかったものを「良」、分離したものを「否」と表す。
<切削性能評価>
切削性能は、工具の寿命により評価した。立型マシニングセンターを用いて、以下に示す条件でエンドミル加工を行った。工具寿命は、加工開始から工具の逃げ面摩擦が0.2mmを超過したとき、或いは加工開始から工具の損傷が生じたときのいずれか短い方の期間で表した。水溶性金属加工油剤(原液組成物)を水で希釈して10体積%の金属加工液を調製し、切削性能の評価では、この金属加工液を使用した。
使用設備 :立型マシニングセンターNV5000α1/A40 森精機製作所製
被削材 :Ti−6AL−4V、φ150×30mm、形状・円板
インサート :XOMX090308TR−ME06、F40M(S30種)SECO TOOLS製
カッター :Helical Micro Turbo R217.69−2020.3−016−09.2SECO TOOLS製
ホルダ :HSK63AミーリングチャックCT20A NTツール製
切削速度 :80m/min、55m/min
切り込み :ap(工具軸方向):2mm、ae(工具径方向):16mm
送り :0.1mm/tooth
給油方法 :外部給油、3.7L/min
希釈濃度 :10体積%(水による希釈)
【0024】
[A成分]
A成分として用いた各鉱物油の仕様を下記に示す。
<鉱物油1(A1成分)>
・ナフテン系鉱物油
特性温度:597℃、動粘度(40℃):434mm2/s、動粘度(100℃):21mm2/s、粘度指数:35、密度(15℃):0.9270、引火点:246℃
鉱物油の特性温度は、JIS K2242 熱処理油冷却性試験(A法)により測定された温度である。鉱物油の動粘度は、JIS K2283に基づいて測定された値である。鉱物油の密度は、JIS K2249に基づいて測定される値である。引火点は、JIS K2265−4(COC法)に基づいて測定される値である。
【0025】
<鉱物油2(A2成分)>
・ナフテン系鉱物油
特性温度:534℃、動粘度(40℃):101mm2/s、動粘度(100℃):9mm2/s、粘度指数:43、密度(15℃):0.9011、引火点:212℃
【0026】
<鉱物油3(A3成分)>
特性温度:496℃、動粘度(40℃):47mm2/s、動粘度(100℃):6mm2/s、粘度指数:26、密度(15℃):0.9205、引火点:174℃
【0027】
<エステル化合物(A4成分)>
ペンタエリスリトールテトラエステル、特性温度:558℃、動粘度(40℃):34mm2/s、動粘度(100℃):6mm2/s、粘度指数:126、密度(15℃):0.9610、引火点:280℃
【0028】
[B成分]
<縮合脂肪酸1(B1成分)>
リシノール酸を窒素気流下、200℃で加熱脱水縮合し、縮合脂肪酸1を得た。縮合脂肪酸1は、特性温度:712℃、酸価:34mgKOH/g、水酸基価:28mgKOH/g、けん化価:198mgKOH/gであった。
酸価は、JIS K2501に基づいて測定された値であり、水酸基価は、JIS K0070に基づいて測定された値であり、けん化価は、JIS K2503に基づいて測定された値である。
【0029】
<縮合脂肪酸2(B2成分)>
リシノール酸を窒素気流下、200℃で加熱脱水縮合し、縮合脂肪酸2を得た。縮合脂肪酸2は、特性温度:680℃、酸価:53mgKOH/g、水酸基価:42mgKOH/g、けん化価:196mgKOH/gであった。
【0030】
<縮合脂肪酸3(B3成分)>
リシノール酸を窒素気流下200℃で加熱脱水縮合し、さらにオレイン酸を加え加熱脱水縮合し、縮合脂肪酸3を得た。縮合脂肪酸3は、特性温度:666℃、酸価:55mgKOH/g、水酸基価:9mgKOH/g、けん化価:201mgKOH/gであった。
【0031】
<縮合脂肪酸4(B4成分)>
リシノール酸を窒素気流下200℃で加熱脱水縮合し、さらにオレイン酸を加え加熱脱水縮合し、縮合脂肪酸4を得た。縮合脂肪酸4は、特性温度:628℃、酸価:85mgKOH/g、水酸基価:15mgKOH/g、けん化価:195mgKOH/gであった。
【0032】
[C成分]
<カルボン酸1(C1成分)>
オレイン酸、酸価:198mgKOH/g
<カルボン酸2(C2成分)>
ネオデカン酸、酸価:321mgKOH/g
<カルボン酸3(C3成分)>
セバシン酸、酸価:554mgKOH/g
【0033】
[D成分]
<アミン1(D1成分)>
モノイソプロパノールアミン、塩基価:747mgKOH/g
<アミン2(D2成分)>
メチルジシクロヘキシルアミン、塩基価:284mgKOH/g
塩基価(塩酸法)は、JIS K2501に基づいて測定された値である。
【0034】
[実施例及び比較例]
上述した各成分を第1表に示す配合処方に従って配合することにより、水溶性金属加工油剤を調整した。得られた実施例1〜7、比較例1〜6の水溶性金属加工油剤を上述した評価方法に基づいて評価した。結果を第1表に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
[評価結果]
第1表に示すように、本発明の水溶性金属加工油剤は、被削材として難加工材であるTi−6AL−4Vを加工した際、比較例の水溶性金属加工油剤よりも工具寿命を長く維持できることが判る。一方、特性温度が所定の温度未満であるものが配合された水溶性金属加工油剤や特性温度が所定の温度以上であっても所定量配合されていない水溶性金属加工油剤では、原液安定性は、所望の条件を満たすが、工具寿命が所望の条件を満たさないことが判る。また、C成分、D成分が所定の配合比率で配合されない場合は、原液安定性を確保できないことが判る。
比較例5の水溶性金属加工油剤は、切削速度が55m/minの場合には、47min程度の工具寿命を有する。しかし、加工速度が80m/min(1.5倍程度)に高めた場合(すなわち、比較例4)には、工具寿命は著しく低下する。
これに対して、低速切削の場合の実施例2、6では、比較例5と同等以上の性能を有するとともに、80m/minにおいても、所望の工具寿命を満足することができる。このように、鉱物油をJIS K2242の特性温度に基づいて選択するとともに、特定の縮合脂肪酸とを選択することにより、難加工材を従来よりも高速の断続切削する金属加工において、大幅な工具寿命延長が図れることが判った。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記のA成分とB成分を含む水溶性金属加工油剤であって、
該A成分がJIS K2242に基づいて測定される特性温度が570℃以上を満たす鉱物油であり、
該B成分がヒドロキシカルボン酸を脱水縮合させることにより得られる縮合脂肪酸(1)、及び該縮合脂肪酸(1)のアルコール性水酸基と1価のカルボン酸とを脱水縮合させることにより得られる縮合脂肪酸(2)のうち少なくともいずれか1種の縮合脂肪酸であり、かつJIS K2242に基づいて測定される特性温度が650℃以上を満たす
ことを特徴とする水溶性金属加工油剤。
【請求項2】
前記A成分のJIS K2283に基づく40℃における動粘度が300mm2/s以上、及び引火点が220℃以上である請求項1に記載の水溶性金属加工油剤。
【請求項3】
前記A成分が該水溶性金属加工油剤の全量に対して10質量%以上含まれる請求項1又は2に記載の水溶性金属加工油剤。
【請求項4】
前記A成分がナフテン系鉱物油である請求項1〜3のいずれかに記載の水溶性金属加工油剤。
【請求項5】
前記ヒドロキシカルボン酸がリシノール酸である請求項1〜4のいずれかに記載の水溶性金属加工油剤。
【請求項6】
前記B成分の酸価が60mgKOH/g以下、及び水酸基価が50mgKOH/g以下である請求項1〜5のいずれかに記載の水溶性金属加工油剤。
【請求項7】
前記B成分が該水溶性金属加工油剤の全量に対して7.5質量%以上含まれる請求項1〜6のいずれかに記載の水溶性金属加工油剤。
【請求項8】
さらに、C成分として、カルボン酸が含まれる請求項1〜7のいずれかに記載の水溶性金属加工油剤。
【請求項9】
前記カルボン酸が該水溶性金属加工油剤の全量に対して2質量%以上含まれる請求項8に記載の水溶性金属加工油剤。
【請求項10】
さらに、D成分としてアミン化合物又はアルカリ金属化合物が含まれる請求項1〜9のいずれかに記載の水溶性金属加工油剤。
【請求項11】
前記D成分は、少なくとも、前記B成分と前記C成分との和の酸価を中和する中和当量分含まれる請求項10に記載の水溶性金属加工油剤。
【請求項12】
前記アミン化合物がアルカノールアミン及びアルキルアミンの少なくともいずれか一方である請求項10又は11に記載の水溶性金属加工油剤。
【請求項13】
さらに、水を含む請求項1〜12のいずれかに記載の水溶性金属加工油剤。
【請求項14】
前記請求項1〜13のいずれかに記載の水溶性金属加工油剤が水で希釈された金属加工液。
【請求項15】
前記請求項1〜13のいずれかに記載の水溶性金属加工油剤を用いて、金属からなる被加工材を加工する金属加工方法。
【請求項16】
前記請求項14に記載の金属加工液を用いて、金属からなる被加工材を加工する金属加工方法。
【請求項17】
前記被加工材が、チタン、チタン合金、ニッケル合金、ニオブ合金、タンタル合金、モリブデン合金、タングステン合金、ステンレス鋼、及び高マンガン鋼難加工材を含む群から選ばれる少なくとも1種である請求項15又は16に記載の金属加工方法。
【請求項18】
金属加工方法が、断続切削である請求項15〜17のいずれかに記載の金属加工方法。

【公開番号】特開2013−107937(P2013−107937A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−251924(P2011−251924)
【出願日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】