説明

水溶性金属加工油剤組成物及びこれを用いたクーラント

【課題】優れた耐微生物劣化性等を有し、バクテリア及び酵母、黴の発生、特に酵母の発生が十分に抑えられる水溶性金属加工油剤組成物を提供する。
【解決手段】一般式X−L−NRで表されるアミン化合物を含有し、全量を100質量%とした場合に、アミン化合物の含有量が1.0〜10.0質量%であり、Xはフェニル基、フェニル基の水素原子がヒドロキシル基、炭素数1〜3のアルキル基及び炭素数1〜3のアルコキシル基のうちの少なくとも1種により置換された置換フェニル基、シクロヘキシル基又はシクロヘキシル基の水素原子がヒドロキシル基、炭素数1〜3のアルキル基及び炭素数1〜3のアルコキシル基のうちの少なくとも1種により置換された置換シクロヘキシル基、Lは炭素数2〜4のアルキレン基、R及びRはそれぞれ水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶性金属加工油剤組成物及びこれを用いたクーラントに関する。更に詳しくは、切削、研削、塑性加工等の金属加工に用いられ、優れた耐微生物劣化性を有し、バクテリア及び酵母、黴の発生、特に酵母の発生が十分に抑えられる水溶性金属加工油剤組成物(以下、「油剤組成物」ということもある。)及びこれを用いたクーラントに関する。
【背景技術】
【0002】
切削加工、研削加工等の金属加工に用いられる水溶性金属加工油剤は、通常、鉱物油、油脂、脂肪酸、脂肪酸エステル、極圧添加剤、界面活性剤、消泡剤、金属防食剤、酸化防止剤、防腐剤等を、目的に応じて適宜混合して製造される。このようにして製造された水溶性金属加工油剤は、通常、水で10〜50倍に希釈して用いられる。この希釈液は、一般にクーラントと呼称され、このクーラントには、切削性、研削性に関する性能、例えば、仕上げ面精度の向上及び工具寿命の延長等(以下、「一次性能」という。)と、作業性及びその他の性能(以下、「二次性能」という。)とが要求される。この二次性能としては、悪臭がないこと、酵母、黴の発生がないこと、劣化し難く、管理し易いこと、人体に無害であること、泡立ちが少ないこと、及び錆びが発生しないこと等が挙げられる。
【0003】
上記のように水溶性金属加工油剤(原液)を水で希釈してなるクーラントには、多量の水が含有され、その他、バクテリア及び酵母、黴といった微生物の栄養源となる多くの物質が含有されている。そのため、クーラントが腐敗し易いという問題があり、この微生物による劣化を防止する、又は少なくとも抑制することは非常に重要である。クーラントの腐敗が進行すると、濃度が低下して前記の一次性能及び二次性能が低下するうえ、腐敗による悪臭によって作業環境も悪化する。また、腐敗による油剤交換の頻度が高くなれば、コスト面においても不利になる。更に、クーラントに黴が発生すると、一次性能及び二次性能ともに低下するのみでなく、循環系統のパイプの詰まり、フィルターの詰まり等の原因にもなる。
【0004】
従って、水溶性金属加工油剤には、腐敗防止のため、各種の防腐剤及び抗菌剤等が配合されている。しかし、防腐剤は短期間で分解又は不活性化してしまい、効果が著しく低下するという問題がある。また、防腐剤及び抗菌剤として、ホルムアルデヒド放出型化合物、フェノール系化合物等も知られている。しかし、この種の防腐剤、抗菌剤を、酵母及び黴の発生を抑え、且つ十分に殺菌することができるほど多量に配合した場合は、皮膚刺激性が激しくなり、人体に対して悪影響を及ぼすことがあり好ましくない。
【0005】
更に、腐敗を抑えることを目的とした水溶性金属加工油剤としては、例えば、ジシクロヘキシルアミン、アルカノールアミン、アルキルジアミン等と、カルボン酸との等モルの塩を含有する油剤が知られている(例えば、特許文献1及び2参照。)。また、メタ又はオルトキシレンジアミンのエチレンオキシド又はプロピレンオキシド付加物、及び1,3−ビスアミノメチルシクロヘキシルアミン、1,4−ビスアミノメチルシクロヘキシルアミンのエチレンオキシド又はプロピレンオキシド付加物を含有する油剤も知られている(例えば、特許文献3参照。)。更に、フェニル基又は置換フェニル基を有する第二級、第三級メチルアミン又はそれらの塩を含有する抗菌・防カビ剤も知られている(例えば、特許文献4参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−279688号公報
【特許文献2】特開平2−228394号公報
【特許文献3】特開平9−316482号公報
【特許文献4】特開平9−30905号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1及び特許文献2に記載された水溶性金属加工油剤によれば、腐敗を抑えることはできるが、一級アミンの配合量が比較的多く、人体に対する刺激が強くなってしまうため、更なる改善が必要になると考えられる。また、特許文献3に記載の水溶性切削油剤では、長年、切削油剤に配合されて用いられてきたジシクロへキシルアミン及びアルカノールアミン等に対して微生物が耐性を有するようになり、腐敗を抑制する性能が低下してきており、更なる改良が必要である。更に、ジシクロへキシルアミン等では、多量に配合しないと、特に酵母の発生を十分に抑えることができない。しかし、ジシクロへキシルアミン等はPRTR法(化学物質排出把握管理促進法)において管理対象となっている物質であり、多量に使用することは好ましくない。
【0008】
また、特許文献4に記載された抗菌・防カビ剤に含有されるアミンは、ラウリル基又はヘキシル基等を有し、室温で固体であると考えられ、油剤に配合した場合、例えば、−5℃という低温から室温においてアミンが固化したり、沈殿が発生したりして安定な油剤とすることができないことがある。更に、ラウリル基又はヘキシル基等を有するアミンは、水に難溶であり、クーラントの使用時に混入した潤滑油等の油分に移行してしまい、経時とともに耐微生物劣化性が低下し、バクテリア及び酵母、黴の発生が十分に抑えられないことが考えられる。
【0009】
本発明は、上記の従来の状況に鑑みてなされたものであり、切削、研削、塑性加工等の金属加工に用いられ、常温で液体であり、且つ水に溶解し易く、優れた耐微生物劣化性等を有し、バクテリア及び酵母だけでなく黴の発生が十分に抑えられる水溶性金属加工油剤組成物及びこれを用いたクーラントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は以下のとおりである。
1.一般式X−L−NRで表されるアミン化合物を含有し、全量を100質量%とした場合に、該アミン化合物の含有量が0.5〜50.0質量%であることを特徴とする水溶性金属加工油剤組成物。
(Xはフェニル基、フェニル基の水素原子がヒドロキシル基、炭素数1〜3のアルキル基及び炭素数1〜3のアルコキシル基のうちの少なくとも1種により置換された置換フェニル基、シクロヘキシル基、又はシクロヘキシル基の水素原子がヒドロキシル基、炭素数1〜3のアルキル基及び炭素数1〜3のアルコキシル基のうちの少なくとも1種により置換された置換シクロヘキシル基であり、Lは炭素数2〜4のアルキレン基であって、R及びRはそれぞれ水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基である。)
2.前記R及び前記Rはそれぞれ水素原子である前記1.に記載の水溶性金属加工油剤組成物。
3.前記Xはフェニル基又はシクロヘキシル基である前記1.又は2.に記載の水溶性金属加工油剤組成物。
4.前記アミン化合物の含有量が1.5〜10.0質量%である前記1.乃至3.のうちのいずれか1項に記載の水溶性金属加工油剤組成物。
5.前記1.乃至4.のうちのいずれか1項に記載の水溶性金属加工油剤組成物を水により希釈してなるクーラントであって、全量を100質量%とした場合に、前記アミン化合物の含有量が0.005〜1.0質量%であることを特徴とするクーラント。
【発明の効果】
【0011】
本発明の水溶性金属加工油剤組成物は、前記の一般式で表される特定のアミン化合物を含有しており、優れた耐微生物劣化性を有し、バクテリア及び酵母、黴の発生、特に、従来、多用されているジシクロヘキシルアミンでは抑えることが容易ではなかった酵母の発生を十分に抑えることができるため、切削、研削、塑性加工等の金属加工に用いられる油剤組成物として好適である。
また、R及び前記Rがそれぞれ水素原子である場合は、室温等の比較的低温においても、アミン化合物が固化したり、沈殿が発生したりすることがなく、安定な油剤組成物とすることができる。
更に、Xがフェニル基又はシクロヘキシル基である場合も、低温におけるアミン化合物の固化及び沈殿の発生が抑えられ、安定な油剤組成物とすることができる。
また、アミン化合物の含有量が1.5〜10.0質量%である場合は、抗菌剤として比較的少量であるにもかかわらず、バクテリア及び酵母だけでなく黴の発生を十分に抑えることができる。
本発明のクーラントは、前記の特定のアミン化合物を含有する油剤組成物を水により希釈してなり、腐敗及び酵母、黴の発生を十分に抑えることができるため、切削、研削、塑性加工等の金属加工に用いられるクーラントとして好適である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[1]水溶性金属加工油剤組成物
本発明の水溶性金属加工油剤組成物は、一般式X−L−NRで表されるアミン化合物を含有し、全量を100質量%とした場合に、アミン化合物の含有量が0.5〜50.0質量%であることを特徴とする
(Xはフェニル基、フェニル基の水素原子がヒドロキシル基、炭素数1〜3のアルキル基及び炭素数1〜3のアルコキシル基のうちの少なくとも1種により置換された置換フェニル基、シクロヘキシル基、又はシクロヘキシル基の水素原子がヒドロキシル基、炭素数1〜3のアルキル基及び炭素数1〜3のアルコキシル基のうちの少なくとも1種により置換された置換シクロヘキシル基であり、Lは炭素数2〜4のアルキレン基であって、R及びRはそれぞれ水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基である。)
【0013】
前記「アミン化合物」は、前記の一般式により表されるアミン化合物である限り、特に限定されない。
前記「X」は、フェニル基、置換フェニル基、シクロヘキシル基又は置換シクロヘキシル基のうちのいずれであってもよいが、フェニル基又はシクロヘキシル基であることが好ましい。また、置換フェニル基又は置換シクロヘキシル基である場合、より融点が低く、比較的低温(例えば、−5〜30℃)で液体であって、且つ親水性が低下しない、又は少なくとも親水性の低下が抑えられるアミン化合物となる置換基であることが好ましい。この観点で、置換基は、ヒドロキシル基、炭素数1〜2のアルキル基及び炭素数1〜2のアルコキシル基のうちの少なくとも1種であることが好ましく、ヒドロキシル基、メチル基及びメトキシ基のうちの少なくとも1種であることがより好ましく、ヒドロキシル基であることが特に好ましい。
【0014】
前記「L」は、炭素数2〜4のアルキレン基である。このアルキレン基は、直鎖アルキレン基であってもよく、分岐アルキレン基であってもよい。具体的には、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、直鎖ブチレン基、分岐ブチレン基が挙げられる。アルキレン基としては、より親水性の高いエチレン基、トリメチレン基、プロピレン基が好ましく、エチレン基がより好ましい。
【0015】
前記「R」及び前記「R」は、それぞれ水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基である。このR、Rはそれぞれ水素原子又はより低級アルキル基であることが好ましい。R、Rはそれぞれ水素原子又は炭素数1〜2のアルキル基であることが好ましく、水素原子又はメチル基であることがより好ましく、水素原子であることが特に好ましい。更に、R及びRがそれぞれプロピル基である場合、n−プロピル基であってもよく、iso−プロピル基であってもよいが、iso−プロピル基であることが好ましい。また、R及びRは同じであってもよく、異なっていてもよいが、R及びRがともに水素原子又はより低級なアルキル基であることが好ましく、R及びRがともに水素原子であることが特に好ましい。
【0016】
更に、アミン化合物としては、Xがフェニル基、シクロヘキシル基、置換基としてヒドロキシル基、炭素数1〜2のアルキル基及び炭素数1〜2のアルコキシル基のうちの少なくとも1種を有する置換フェニル基、又は置換基としてヒドロキシル基、炭素数1〜2のアルキル基及び炭素数1〜2のアルコキシル基のうちの少なくとも1種を有する置換シクロヘキシル基であり、Lがエチレン基であって、且つR及びRがそれぞれ水素原子又は炭素数1〜2のアルキル基であるアミン化合物が好ましい。また、(1)Xがフェニル基、シクロヘキシル基、置換基としてヒドロキシル基、メチル基及びメトキシ基のうちの少なくとも1種を有する置換フェニル基、又は置換基としてヒドロキシル基、メチル基及びメトキシ基のうちの少なくとも1種を有する置換シクロヘキシル基であり、Lがエチレン基であって、且つR及びRがそれぞれ水素原子又はメチル基であるアミン化合物、(2)Xがフェニル基、シクロヘキシル基、置換基としてヒドロキシル基を有する置換フェニル基、又は置換基としてヒドロキシル基を有する置換シクロヘキシル基であり、Lがエチレン基であって、且つR及びRがそれぞれ水素原子であるアミン化合物、及び(3)Xがフェニル基又はシクロヘキシル基であり、Lがエチレン基であって、且つR及びRがそれぞれ水素原子であるアミン化合物、がより好ましい。
アミン化合物としては、前記の一般式におけるX、L、R及びRが全て同一のアミン化合物を用いてもよく、X、L、R及びRがうちの少なくとも一つが異なる2種以上のアミン化合物を併用してもよい。
【0017】
水溶性金属加工油剤組成物におけるアミン化合物の含有量は、油剤組成物の全量を100質量%とした場合に、0.5〜50.0質量%であり、1.0〜30.0質量%、特に1.0〜20.0質量%、更に1.5〜10.0質量%であることがより好ましい。このアミン化合物の含有量が0.5〜50.0質量%、特に1.0〜30.0質量%であれば、優れた耐微生物劣化性を有し、バクテリア及び酵母だけでなく黴の発生を十分に抑えることができる。
尚、アミン化合物は50.0質量%まで含有させることができるが、10.0質量%、特に5.0質量%含有させれば、抗菌剤としての十分な作用効果が発現され、通常、10.0質量%含有させれば十分である。
【0018】
水溶性金属加工油剤組成物には、通常、水が配合される。水の配合量は特に限定されないが、油剤組成物の全量を100質量%とした場合に、5質量%以上配合され、5〜80質量%、特に5〜70質量%、更に5〜50質量%配合されることが好ましい。この水の配合量が5質量%以上であれば、油剤組成物の粘度が低下し、取り扱い易く、作業性が向上するため好ましい。また、油剤組成物は、使用前に水を配合して調製してもよく、使用時に水を配合して調製してもよい。
【0019】
本発明の水溶性金属加工油剤組成物には、潤滑成分を含有させることができる。この潤滑成分としては、例えば、鉱物油、合成エステル化合物、動植物油脂、及びポリアルキレングリコール等が挙げられる。これらの潤滑成分のうちでは、鉱物油、合成エステル化合物、及びポリアルキレングリコールが好ましい。
【0020】
鉱物油は、石油を蒸留精製してなる成分であり、水素添加及び改質等の工程を経たものを用いることができる。この鉱物油としては、例えば、スピンドル油等が挙げられる。
合成エステル化合物としては、例えば、ラウリン酸メチル、オレイン酸メチル、ネオペンチルグリコールモノオレート、ネオペンチルグリコールジオレート、トリメチルプロパンモノオレート、トリメチルプロパンジオレート、トリメチロールプロパントリオレート、ペンタエリスリトールモノオレート、ペンタエリスリトールジオレート、ペンタエリスリトールトリオレート、及びペンタエリスリトールテトラオレート等が挙げられる。
動植物油脂としては、例えば、豚脂、牛脂、羊脂、及び魚油等の動物性油脂、並びに菜種油、大豆油、ヤシ油、及びパーム油等の植物性油脂が挙げられる。
これらの潤滑成分は、1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用することもできる。
【0021】
潤滑成分の含有量は、水溶性金属加工油剤組成物の全量を100質量%とした場合に、90質量%以下であることが好ましく、0.1〜80質量%、特に1〜80質量%であることがより好ましい。また、アミン化合物と潤滑成分との合計を100質量%とした場合に、潤滑成分の含有量は0.1〜95質量%であることが好ましく、0.1〜90質量%、特に1〜90質量%であることがより好ましい。この潤滑成分の含有量が0.1〜95質量%であれば、優れた耐微生物劣化性及び潤滑性を有する油剤組成物とすることができる。
【0022】
本発明の水溶性金属加工油剤組成物には、乳化剤を含有させることもできる。この乳化剤としては、例えば、界面活性剤、脂肪酸、及びアルコール等を用いることができる。
【0023】
界面活性剤としては、通常の水系の潤滑油及び金属加工油剤等で用いられているノニオン系、アニオン系等の各種の各界面活性剤を使用することができる。
ノニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールブロックコポリマー、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールアルキルエーテルブロックコポリマー、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル、ポリグリセリンアルキルエステル、アルキルアミンポリオキシエチレン付加物、アルキルアミンポリオキシエチレンポリオキシプロピレン付加物、及び脂肪酸ジエタノールアミド等が挙げられる。
【0024】
アニオン系界面活性剤としては、脂肪酸のナトリウム塩及びカリウム塩等のアルカリ金属塩又はアミン塩、アルキルスルホン酸のアルカリ金属塩又はアミン塩、アルキル硫酸のアルカリ金属塩又はアミン塩、アルキルベンゼンスルホン酸のアルカリ金属塩又はアミン塩、アルキルリン酸のアルカリ金属塩又はアミン塩等が挙げられる。これらのアニオン系界面活性剤のうちでは、脂肪酸のアルカリ金属塩又はアミン塩、アルキルスルホン酸のアルカリ金属塩又はアミン塩、及びアルキルベンゼンスルホン酸のアルカリ金属塩又はアミン塩が好ましい。
【0025】
脂肪酸としては、通常の水系の潤滑油及び金属加工油剤等で用いられている炭素数6〜36の脂肪酸を使用することができる。この脂肪酸が有するアルキル基は直鎖アルキル基でもよく、分岐アルキル基でもよい。
炭素数6〜36の脂肪酸としては、例えば、カプロン酸、カプリル酸、ノナン酸、ラウリン酸、ステアリン酸、ドデカン酸、オレイン酸、エルカ酸、ベラルゴン酸、リシノレン酸、12−ヒドロキシステアリン酸等のヒドロキシ脂肪酸、アラキン酸、ベヘン酸、メリシン酸、イソノナン酸、ネオデカン酸、イソステアリン酸、油脂より抽出された大豆油脂肪酸、ヤシ油脂肪酸、ナタネ油脂肪酸、石油より抽出されたナフテン酸等、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、モノ又はジヒドロキシアラキン酸、オレイン酸、リシノレン酸、リシノレン酸縮合物、12−ヒドロキシステアリン酸等の二量体、三量体などの合成脂肪酸、及びC21脂肪族ジカルボン酸等が挙げられる。これらの脂肪酸のうちでは、ヤシ油脂肪酸、リシノレン酸、エルカ酸、リシノレン酸縮合物、C21脂肪族ジカルボン酸、ドデカン酸、ドデカン二酸、及びオレイン酸が好ましい。
【0026】
アルコールとしては、炭素数8〜18のアルコールが好ましく、例えば、2−エチルヘキシルアルコール、オレイルアルコール、及びイソステアリルアルコール等を用いることができる。
これらの乳化剤は、1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用することもできる。
【0027】
乳化剤の含有量は、水溶性金属加工油剤組成物の全量を100質量%とした場合に、30質量%以下であることが好ましく、0.001〜30質量%、特に0.01〜25質量%であることがより好ましい。また、アミン化合物と乳化剤との合計を100質量%とした場合に、乳化剤の含有量は0.5〜50質量%であることが好ましく、0.5〜40質量%、特に0.3〜30質量%であることが好ましい。このアミン化合物と乳化剤との合計を100質量%とした場合の乳化剤の含有量が0.5〜50質量%であれば、優れた耐微生物劣化性及び潤滑性を有する油剤組成物とすることができる。
【0028】
本発明の水溶性金属加工油剤組成物には、2−フェニルエチルアミン等の前記の特定のアミン化合物を除く他のアミン化合物を含有させることもできる。この他のアミン化合物としては、炭素数2〜36のアミン化合物を用いることができ、例えば、アルカノールアミン、脂肪族アミン、ジグリコールアミン、及びシクロヘキシルアミン等が挙げられる。
【0029】
アルカノールアミンとしては、例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、N−アミノエチルエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N−メチル−ジエタノールアミン、N-ノルマルブチルエタノールアミン、N-イソブチルエタノールアミン、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、2−アミノ−2−エチル−1・3−プロパンジオール、及びN−(βアミノエチル)エタノールアミン等が挙げられる。これらのアルカノールアミンのうちでは、ジイソプロピルアミン、及びモノイソプロパノールアミン等が好ましい。
シクロヘキシルアミンとしては、ジシクロヘキシルアミン等が挙げられる。
これらの他のアミン化合物は、1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0030】
他のアミン化合物の含有量は、水溶性金属加工油剤組成物の全量を100質量%とした場合に、30質量%以下であることが好ましく、0.01〜20質量%、特に0.1〜15質量%であることがより好ましい。また、本発明で用いられる特定のアミン化合物と、その他のアミン化合物との合計を100質量%とした場合に、他のアミン化合物の含有量は10〜80質量%であることが好ましく、20〜80質量%、特に20〜70質量%であることがより好ましい。この他のアミン化合物の含有量が10〜80質量%であれば、優れた耐微生物劣化性及び潤滑性を有する油剤組成物とすることができる。
【0031】
本発明の水溶性金属加工油剤組成物には、必要に応じて、極圧添加剤、消泡剤、金属防食剤、酸化防止剤、防腐剤等の他の添加剤を、油剤組成物に要求される各種の性能が阻害されない範囲で含有させることもできる。
【0032】
極圧添加剤としては、例えば、硫化脂肪油、ポリスルフィド等の硫黄系極圧添加剤、塩素化パラフィン等の塩素系極圧添加剤などが挙げられる。消泡剤としては、例えば、シリコーンエマルション等が挙げられる。金属防食剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、及びメルカプトベンゾチアゾール等が挙げられる。酸化防止剤としては、例えば、アミン系化合物、フェノール系化合物等が挙げられる。防腐剤としては、例えば、チアゾリン系化合物等の有機窒素化合物などが挙げられる。
【0033】
[2]クーラント
本発明のクーラントは、本発明の水溶性金属加工油剤組成物を水により希釈してなり、全量を100質量%とした場合に、特定のアミン化合物の含有量が0.005〜1.0質量%であることを特徴とする。
【0034】
水溶性金属加工油剤組成物は、水により希釈し、所謂、クーラントとして、切削、研削、塑性加工等の金属加工に用いられる。希釈倍率は特に限定されないが、下記の式により算出される希釈倍率が10〜80倍、特に10〜60倍、更に20〜50倍であることが好ましい。この希釈倍率が10〜80倍、特に10〜60倍であれば、優れた耐微生物劣化性を有し、バクテリア及び酵母だけでなく黴の発生を十分に抑えることができるクーラントとすることができる。
希釈倍率(倍)=油剤組成物(質量部)/水(質量部)
【0035】
上記のように、油剤組成物を水により希釈してなるクーラントにおけるアミン化合物の含有量は特に限定されないが、クーラントの全量を100質量%とした場合に、0.005〜1.0質量%(アミン化合物の濃度;50〜10000ppm)であり、0.01〜0.7質量%(アミン化合物の濃度;100〜7000ppm)、特に0.015〜0.5質量%(アミン化合物の濃度;150〜2000ppm)、更に0.02〜0.2質量%(アミン化合物の濃度;200〜2000ppm)であることが好ましい。このアミン化合物の含有量が0.005〜1.0質量%であれば、優れた耐微生物劣化性を有し、バクテリア及び酵母だけでなく黴の発生を十分に抑えることができる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
尚、本発明においては、以下の具体的な実施例の記載に限られず、目的、用途に応じて本発明の範囲内で種々変更した実施例とすることができる。
実施例1〜5及び比較例1〜3
表1、2に記載の配合割合で各々の成分を混合し、実施例1〜5及び比較例1〜3の水溶性金属加工油剤組成物を調製した。単位は質量%である。
尚、表1、2における「分岐脂肪酸」は、ネオデカン酸であり、「BA−POポリマー」は、ポリオキシプロピレンモノブチルエーテル、「EO−PO−EOポリマー」は、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロック共重合体であり、表2における「C14,C15アルコールEO4モル付加物」は、非イオン活性剤である。
また、油剤組成物の調製は室温(15〜30℃)で実施した。20℃における水に対する溶解度は、実施例1で用いた2−フェニルエチルアミンが100g/100ミリリットル等と高く、各々のアミンの含有量が3質量%である実施例1〜5では、−5℃においても固化及び沈殿は全くみられなかった。一方、比較例で用いたジメチルシクロヘキシルアミンでは溶解度は1.3g/100ミリリットル、ジシクロヘキシルアミンでは0.2g/100ミリリットルであって、実施例で用いたアミン化合物に比べて水に難溶であり、油剤組成物の透明性が低下してやや白濁し、乳化状態の低下がみられた。
【0037】
【表1】

【0038】
【表2】

【0039】
試験例1〜5及び比較試験例1〜3
以下のようにして微生物劣化試験を実施した。
表1に記載の組成の実施例1〜5及び表2に記載の比較例1〜3の各々の水溶性金属加工油剤組成物を、水溶性金属加工油剤組成物の含有量が2.5質量%となるように水道水で希釈し、クーラントを調製した。その後、それぞれのクーラント2000gを容積5リットルの水槽に投入し、鋳物切屑200gと、潤滑油(モービル石油製、商品名「バクトラNo.2 SLC」)40gとを添加し、ポンプで循環させた。次いで、種菌供給液として、ユシローケンFGE822J 腐敗液(生菌数;10個/ミリリットル、酵母数;2×10個/ミリリットル、黴数;2×10個/ミリリットル)、及びFusariumsoani 黴分散液(黴数;4×10個/ミリリットル)を準備し、1日経過後、クーラントに腐敗液40g及び黴分散液20gを添加し、その後、循環開始から7日経過後、及び14日経過後に、腐敗液及び黴分散液を各々20g追加添加した。
尚、試験は室温(20〜25℃)で実施した。また、蒸発した水分を補うため、日に一度水道水を補給した。
【0040】
上記のようにして、循環開始から21日間試験を継続し、循環開始から7日経過後(この時点で比較試験例3は試験中止)、14日経過後、及び21日経過後に、各々のクーラントから50ミリリットルの試験液を採取し、外観、pH、それぞれの油剤組成物の濃度、生菌数、酵母数及び黴数を測定した。また、臭気の有無についても評価した。これらの評価結果を表3〜5に記載する。
【0041】
外観、pH、アミンの濃度、生菌数、酵母数及び黴数、並びに臭気の有無の評価方法の詳細は下記のとおりである。
(1)外観の評価
クーラントの外観は目視で評価した。
(2)pHの測定
クーラントのpHをガラス電極pHメーターで測定した。
(3)油剤組成物の濃度
油剤組成物の濃度を分相滴定法で測定した。
(4)生菌数、酵母数及び黴数の測定
生菌数は普通寒天培地を用いてプレートカウント法により測定した。また、酵母数及び黴数は、抗生物質(クロラムフェニコール)を添加したポテトデキストロース寒天培地を用いてプレートカウント法により測定した。
【0042】
(5)臭気の評価
臭気は、人の嗅覚で評価し、その強さを下記の2段階の基準により評価した。
「○」;腐敗臭なし
「△」;僅かに腐敗臭がある
【0043】
【表3】

【0044】
【表4】

【0045】
【表5】

【0046】
表3、4によれば、2−フェニルエチルアミンを3質量%含有する実施例1の油剤組成物を用いた試験例1から2−シクロヘキシルエチルアミンを3質量%含有する実施例5の油剤組成物を用いた試験例5までは、21日経過後も、腐敗臭は全くなく、生菌、酵母及び黴が全く検出されず、優れた耐微生物劣化性を有していることが分かる。
【0047】
一方、表5によれば、ジメチルシクロヘキシルアミンが3質量%含有されている比較例1の油剤組成物を用いた比較試験例1では、14日経過後に、黴は検出されなかったものの、生菌数が6×10個/ミリリットルとなり腐敗してしまった。また、21日経過後には、腐敗臭が発生し、油剤組成物の濃度が1.7質量%と大きく低下するとともに、pHも低下した。更に、従来、抗菌剤として多用されているジシクロヘキシルアミンが3質量%含有されている比較例2の油剤組成物を用いた比較試験例2では、21日経過後でも、腐敗臭はなく、黴も検出されていないが、生菌数が7×10個/ミリリットルに増加し、腐敗してしまった。また、酵母が検出され、生菌数、酵母数ともに経時とともに増加していることが分かる。更に、21経過後には、油剤組成物の濃度が低下し、pHも低下した。
【0048】
また、黴に対する最小発育阻止濃度が25ppmと優れているものの、20℃における水に対する溶解度が0.05g/リットルであり、水に難溶のジ−n−オクチルアミンが3質量%含有されている比較例3の油剤組成物を用いた比較試験例3では、濃度750ppmのクーラントであるにもかかわらず、7日経過後に黴が発生した。そのため、7日経過後で試験を中止した。これは、難溶であるため、含有されるジ−n−オクチルアミンの多くが混入した潤滑油に溶解してしまい、抗菌剤として作用していないためであると推察される。
【0049】
尚、本発明においては、上記の実施形態に限られず、目的、用途に応じて、本発明の範囲内で種々変更した実施形態とすることができる。例えば、Xがヒドロキシル基、メチル基、iso−プロピル基、及びiso−プロポキシ基のうちの少なくとも1種により置換された置換フェニル基又はシクロヘキシル基であり、且つR及びRが水素原子であるアミン化合物を用いた場合、並びにXがフェニル基又はシクロヘキシル基であり、且つR及びRがメチル基及び/又はiso−プロピル基である場合、は同様に優れた耐微生物劣化性を有し、特に酵母の発生が十分に抑えられる。
【0050】
また、これらの特定のアミン化合物を含有する油剤組成物であって、且つ油剤組成物の全量を100質量%とした場合に、アミン化合物の含有量が0.5〜50.0質量%、特に1.5〜10.0質量%である場合は、より優れた耐微生物劣化性を有し、バクテリア及び酵母だけでなく黴の発生も十分に抑えられる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の水溶性金属加工油剤組成物は、優れた耐微生物劣化性を有し、バクテリア及び酵母だけでなく黴の発生を抑えることができ、本発明は、切削加工、研削加工、及び塑性加工等の金属加工において好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式X−L−NRで表されるアミン化合物を含有し、全量を100質量%とした場合に、該アミン化合物の含有量が0.5〜50.0質量%であることを特徴とする水溶性金属加工油剤組成物。
(Xはフェニル基、フェニル基の水素原子がヒドロキシル基、炭素数1〜3のアルキル基及び炭素数1〜3のアルコキシル基のうちの少なくとも1種により置換された置換フェニル基、シクロヘキシル基、又はシクロヘキシル基の水素原子がヒドロキシル基、炭素数1〜3のアルキル基及び炭素数1〜3のアルコキシル基のうちの少なくとも1種により置換された置換シクロヘキシル基であり、Lは炭素数2〜4のアルキレン基であって、R及びRはそれぞれ水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基である。)
【請求項2】
前記R及び前記Rはそれぞれ水素原子である請求項1に記載の水溶性金属加工油剤組成物。
【請求項3】
前記Xはフェニル基又はシクロヘキシル基である請求項1又は2に記載の水溶性金属加工油剤組成物。
【請求項4】
前記アミン化合物の含有量が1.5〜10.0質量%である請求項1乃至3のうちのいずれか1項に記載の水溶性金属加工油剤組成物。
【請求項5】
請求項1乃至4のうちのいずれか1項に記載の水溶性金属加工油剤組成物を水により希釈してなるクーラントであって、
全量を100質量%とした場合に、前記アミン化合物の含有量が0.005〜1.0質量%であることを特徴とするクーラント。

【公開番号】特開2011−26517(P2011−26517A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−175841(P2009−175841)
【出願日】平成21年7月28日(2009.7.28)
【出願人】(000115083)ユシロ化学工業株式会社 (69)
【Fターム(参考)】