説明

水溶性金属加工油剤組成物

【課題】高い防腐性を備えるとともに、環境・人体に優しく、非鉄金属への悪影響も抑制可能な、水溶性金属加工油剤組成物を提供する。
【解決手段】下記成分(A)及び下記成分(B)から選ばれる少なくとも一種類の成分を含む水溶性金属加工油剤組成物とする。
成分(A):下記一般式(1)で示される化合物


(式(1)中、Rは炭素数6〜14の直鎖又は分岐鎖のアルキル基又はアルケニル基であり、EOはエチレンオキシ基であり、nは1〜7の整数である。)
成分(B):炭素数6〜14の直鎖アルキル又はアルケニル構造を有する、アルコール、ジオール、カルボン酸又はラクトン化合物のうち少なくとも一つ

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削、研削、塑性加工等の金属加工において用いられる、水溶性金属加工油剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
切削、研削、塑性加工等といった金属加工を行う場合、加工工具と被加工材との間を潤滑・冷却するために加工油剤が使用される。当該加工油剤には、油性加工油剤と水溶性加工油剤とがあるが、効率的に冷却できることや、無人化された機械においても加工時の火災を防止できることから、水溶性加工油剤が主に用いられている。金属加工の際は、大量の加工油剤をポンプによって循環しながら使用する。
【0003】
金属加工に用いられる水溶性加工油剤は、一般に鉱物油、油脂、脂肪酸、脂肪酸エステル、極圧添加剤、界面活性剤、消泡剤、金属防食剤、酸化防止剤、防腐・防カビ剤等を目的に応じて適宜混合して製造され、水で希釈して、いわゆるクーラントとしたうえで使用される。クーラントには、切削性、研削性等に係る1次性能と、作業性等に係る2次性能とが要求される。1次性能としては、例えば、仕上げ面精度の向上、工具寿命の延長等が挙げられ、2次性能としては、例えば、防錆性に優れること、劣化し難く管理が容易であること、人体に無害であること、泡立ちが少ないこと等が挙げられる。
【0004】
水溶性加工油剤には、上記したような、細菌、酵母、カビ等の微生物の栄養源となる物質が多く含有されているため、希釈後のクーラントが腐敗しやすいという問題がある。クーラントの腐敗が進行すると、1次性能、2次性能ともに低下するうえ、腐敗による悪臭も問題となる。また、腐敗によって油剤交換の頻度が高くなれば、コスト面においても不利となる。さらに、クーラントにカビが発生した場合、ポンプ等の循環系統においてパイプ詰まりの原因にもなる。これを防ぐため、加工油剤には防腐・防カビ剤が添加され、或いは、その他成分によって防腐・防カビ処理がなされる。
【0005】
しかしながら、一般に、防腐剤や防カビ剤は、分解若しくは不活性化により効果が短期間で著しく低下してしまうという問題がある。また、広く知られている防腐剤や防カビ剤としては、ホルムアルデヒド放出型やフェノール系のものが挙げられるが、このようなものは刺激物である。すなわち、加工油剤に防腐・防カビ性能を発揮させ得る程度に多量に添加すると、加工油剤自体が皮膚刺激性の激しいものとなってしまい、人体に悪影響を及ぼすことがあった。
【0006】
また、加工油剤において、界面活性剤(乳化剤)として脂肪酸と各種アミンとを反応させたアミンセッケンを使用したものがある(特許文献1)。この場合、加工油剤にはアルカリのアミンが遊離した状態で存在し、当該遊離状態のアミンを大量に含ませることで、加工油剤にある程度の防腐・防カビ性を付与することができる。また、加工油剤において抗菌性アミンを含ませる技術もある(特許文献2)。或いは、加工油剤を高pH(pH9以上のアルカリ)とすることにより、防腐性を確保する技術も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公昭61−40720号公報
【特許文献2】特開2009−161585号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来技術において、例えば、加工油剤に遊離アミンを添加することによって防腐効果を発現させる場合、十分な防腐効果を発現させるためには多量の遊離アミンが必要となる。そのため、より防腐効果の高い技術が求められていた。また、抗菌性アミンを添加することによって防腐効果を発現させる場合は、当該抗菌性アミンが生物毒性を有する場合があり、地球環境や人体への悪影響が懸念された。さらに、高pH化によって防腐性を確保する場合は、人体に対して著しい皮膚障害の発生が懸念され、加えて、非鉄金属を加工する場合には金属腐食も懸念された。
【0009】
上記問題に鑑み、本発明は、高い防腐性を備えるとともに、環境・人体に優しく、非鉄金属への悪影響も抑制可能な、水溶性金属加工油剤組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を採る。すなわち、
本発明の第1の態様は、下記成分(A)及び下記成分(B)を含む水溶性金属加工油剤組成物である。
【0011】
成分(A):下記一般式(1)で示される化合物
【0012】
【化1】

(式(1)中、Rは炭素数6〜14の直鎖又は分岐鎖のアルキル基又はアルケニル基であり、EOはエチレンオキシ基であり、nは1〜7の整数である。)
【0013】
成分(B):炭素数6〜14の直鎖アルキル又はアルケニル構造を有する、アルコール、ジオール、カルボン酸又はラクトン化合物のうち少なくとも一つ
【0014】
本発明において「水溶性金属加工油剤組成物」とは、油剤中に上記成分(A)及び(B)が添加されてなるものであり、上記成分(A)及び(B)以外に、鉱物油、油脂、脂肪酸、脂肪酸エステル、界面活性剤、極圧添加剤、消泡剤等を含んでいてよい。ただし、既に説明したように、抗菌性アミンについては、環境や人体への悪影響等が懸念されるため、従来よりも低含有量とされ、或いは実質的に含まないものとされることが好ましい。
【0015】
本発明の第1の態様において、pHが6〜9であることが好ましい。本発明では、上記成分(A)及び(B)を含むことにより、pH6〜9の中性付近であっても高い防腐性を確保することができる。
【0016】
本発明の第1の態様において、さらに複素環式化合物を含むことが好ましい。これにより、加工油剤組成物の殺菌・防腐性を一層向上させることができる。
【0017】
本発明の第1の態様において、組成物全体基準で、上記成分(A)を0.1質量%以上15質量%以下、及び、上記成分(B)を0.05質量%以上15質量%以下含むことが好ましい。当該範囲内において、加工油剤の諸性能を一層バランスに優れたものとすることができるためである。
【0018】
本発明の第2の態様は、本発明の第1の態様に係る水溶性金属加工油剤組成物を希釈してなるクーラントである。
【0019】
本発明の第3の態様は、本発明の第1の態様に係る水溶性金属加工油剤組成物を希釈する工程を備え、当該希釈する工程において、クーラント全体基準で、上記成分(A)の濃度を0.02質量%以上3質量%以下、及び、上記成分(B)の濃度を0.01質量%以上3質量%以下とする、クーラントの製造方法である。
【0020】
本発明の第4の態様は、水溶性金属加工油剤組成物又はクーラントに、下記成分(A)及び下記成分(B)を添加する工程を備える、防腐処理された水溶性金属加工油剤組成物又はクーラントの製造方法である。
【0021】
成分(A):下記一般式(1)で示される化合物
【0022】
【化2】

(式(1)中、Rは炭素数6〜14の直鎖又は分岐鎖のアルキル基又はアルケニル基であり、EOはエチレンオキシ基であり、nは1〜7の整数である。)
【0023】
成分(B):炭素数6〜14の直鎖アルキル又はアルケニル構造を有する、アルコール、ジオール、カルボン酸又はラクトン化合物のうち少なくとも一つ
【0024】
本発明の第5の態様は、本発明の第1又は第2の態様に係る水溶性金属加工油剤組成物又はクーラントを用いて金属を加工する工程を備える、金属加工方法である。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、油剤組成物中に所定の成分(A)及び成分(B)が含有されるので、中性付近でのpHであっても高い防腐性を確保することができる。すなわち、高pHであること、或いは、アミンを多量に含むことによって生じる人体への著しい皮膚障害を回避できるとともに、環境にも優しい水溶性金属加工油剤組成物或いはクーラントとすることができる。また、中性付近のpHとすることで、非鉄金属加工において、当該非鉄金属の腐食等を抑制することもできる。さらに、pHを中性付近とするとともに、反応性の高いアミンの使用量を低減することで、従来の油剤では使用が困難であったイソチアゾリン等の複素環式化合物を低濃度・低毒性で添加することが可能となり、防腐性を一層高めることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係る水溶性金属加工油剤組成物の抗菌性に係る実験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
<水溶性金属加工油剤組成物>
本発明に係る水溶性金属加工油剤組成物は、所定の成分(A)及び(B)、並びに、その他油剤組成物を構成するための任意成分を含んでいる。
【0028】
(成分(A))
本発明に係る水溶性金属油剤組成物には、下記一般式(1)で示される成分(A)が含まれている。
【0029】
【化3】

【0030】
式(1)において、Rは、炭素数6〜14、好ましくは炭素数8〜14、より好ましくは炭素数8〜12の直鎖又は分岐鎖のアルキル基又はアルケニル基である。炭素数を上記範囲とすることで、優れた防腐性や環境適合性を得ることができる。上記アルキル基又はアルケニル基には、他の原子(例えば、酸素原子、窒素原子、硫黄原子やハロゲン原子等)が備えられていてもよい。式(1)において、EOはエチレンオキシ基であり、nは1〜7、好ましくは2〜6、特に好ましくは2〜4である。エチレンオキシ基に係る単位数を上記範囲とすることで、優れた防腐性や環境適合性を得ることができる。
【0031】
本発明に係る水溶性金属加工油剤組成物において、上記成分(A)の含有量は、組成物全体を100質量%とした場合、下限が好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは1質量%以上、特に好ましくは3質量%以上であり、上限が15質量%以下、より好ましくは12質量%以下、特に好ましくは10質量%以下である。成分(A)の含有量を当該範囲とすることで、防腐性に一層優れた水溶性金属加工油剤組成物とすることができる。尚、成分(A)の含有量が少なすぎると防腐性の確保が困難となり、多すぎると著しい発泡が懸念される。
【0032】
(成分(B))
本発明に係る水溶性金属油剤組成物には、上記成分(A)とともに成分(B)として、炭素数6〜14の直鎖アルキル又はアルケニル構造を有する、アルコール、ジオール、カルボン酸又はラクトン化合物のうち少なくとも一つが含まれている。
【0033】
成分(B)は、炭素数6〜14、好ましくは炭素数7〜13、より好ましくは炭素数8〜12の直鎖アルキル又はアルケニル構造を有する。炭素数を上記範囲とすることで、優れた防腐性や環境適合性を得ることができる。また、上記アルキル又はアルケニル構造には、他の原子(例えば、酸素原子、窒素原子、硫黄原子やハロゲン原子等)が備えられていてもよい。
【0034】
上記のような直鎖アルキル又はアルケニル構造を有するアルコールとしては、特に、ウンデセノールを用いることが好ましい。
【0035】
上記のような直鎖アルキル又はアルケニル構造を有するジオールとしては、特に、1,2−デカンジオール又は1,2−オクタンジオールを用いることが好ましい。
【0036】
上記のような直鎖アルキル又はアルケニル構造を有するカルボン酸としては、特に、ウンデシレン酸を用いることが好ましい。
【0037】
上記のような直鎖アルキル又はアルケニル構造を有するラクトン化合物としては、特に、γ−デカノラクトンを用いることが好ましい。
【0038】
成分(B)は、上記アルコール、ジオール、カルボン酸又はラクトン化合物のうちの少なくとも一つである。本発明に係る水溶性金属加工油剤組成物において、上記成分(B)の含有量は、組成物全体を100質量%とした場合、下限が好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは1質量%以上、特に好ましくは3質量%以上であり、上限が15質量%以下、より好ましくは12質量%以下、特に好ましくは10質量%以下である。成分(B)の含有量を当該範囲とすることで、防腐性に一層優れた水溶性金属加工油剤組成物とすることができる。尚、成分(B)の含有量が少なすぎると防腐性の確保が困難となり、多すぎると著しい発泡が懸念される。
【0039】
本発明に係る水溶性金属加工油剤組成物は、上記した成分(A)及び成分(B)を必須成分として含有している。また、本発明の水溶性金属加工油剤組成物には、本発明の目的を阻害しない範囲で、種々の任意成分を必要に応じて適宜含有させることができる。任意成分としては、従来の水溶性金属加工油剤組成物に用いられている成分が挙げられる。具体的には、基油、界面活性剤、防腐剤、極圧添加剤、消泡剤や金属防食剤等が挙げられる。
【0040】
(基油)
基油としては、具体的には、鉱物油、合成エステル、及び動植物油脂等が挙げられる。本発明の水溶性金属加工油剤組成物は、上記基油を含有することにより、さらに潤滑性を向上させることができる。本発明の水溶性金属加工油剤組成物において、上記基油は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0041】
鉱物油は、石油を蒸留精製して得られる成分を示す。上記鉱物油は、水素添加や改質等の工程を経た鉱物油を使用できる。上記鉱物油として具体的には、例えば、スピンドル油及びマシン油等が挙げられる。上記鉱物油の物性については特に限定はない。例えば、上記鉱物油の動粘度(40℃)は、通常0.1mm/s以上、好ましくは0.5〜150mm/s、より好ましくは1〜60mm/s、さらに好ましくは5〜60mm/sとすることができる。また、上記鉱物油のアニリン点は、通常35〜120℃、好ましくは40〜100℃、より好ましくは45〜100℃、さらに好ましくは50〜90℃とすることができる。尚、上記鉱物油は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0042】
合成エステルは、通常、炭素数10〜30、好ましくは12〜28、より好ましくは15〜25のカルボン酸と、炭素数1〜30、好ましくは1〜25、より好ましくは1〜20のアルコールのエステルが用いられる。上記アルコールは、第1級、第2級及び第3級アルコールのいずれでもよい。また、上記アルコールは、モノアルコール、ジアルコール、トリアルコール、テトラアルコールのいずれでもよい。上記合成エステルとして具体的には、例えば、オレイン酸メチル、オレイン酸−2−エチルヘキシル、ネオペンチルグリコールジオレイト、トリメチロールプロパントリオレイト、及びペンタエリスリトールテトラオレイト等が挙げられる。これらの中でも、オレイン酸−2−エチルヘキシル、ネオペンチルグリコールジオレイト、及びトリメチロールプロパントリオレイトが好ましく用いられる。尚、上記合成エステルは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0043】
動植物油脂としては、例えば、豚脂、牛脂、及び魚油等の動物性油脂、並びに菜種油、大豆油、及びパーム油等の植物性油脂が挙げられる。また、上記動植物油脂としては、上記動植物油脂の水素添加物を用いることもできる。尚、上記動植物油脂は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0044】
上記基油の含有量は、本発明の水溶性金属加工油剤組成物全量を100質量%とした場合、通常80質量%以下、好ましくは0.1〜80質量%、より好ましくは1〜75質量%、さらに好ましくは5〜70質量%、特に好ましくは10〜60質量%、最も好ましくは20〜60質量%である。上記基油の含有量が上記範囲であると、本発明の水溶性金属加工油剤組成物は、優れた防腐性とともに、優れた潤滑性を奏するので好ましい。
【0045】
(界面活性剤)
界面活性剤としては、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、及び非イオン系界面活性剤が挙げられる。本発明において、上記界面活性剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。本発明の水溶性金属加工油剤組成物では、アニオン系界面活性剤及び非イオン系界面活性剤の1種又は2種以上を用いることが好ましい。
【0046】
上記アニオン系界面活性剤としては、例えば、脂肪酸とアミン化合物との塩又は金属塩、及び石油スルホネート等が用いられる。上記脂肪酸としては、通常の水系の金属加工剤に使用されている炭素数6〜36の脂肪酸が使用される。上記脂肪酸は、モノカルボン酸でもよく、ジカルボン酸でもよい。上記脂肪酸として、例えば、カプロン酸、カプリル酸、ノナン酸、ラウリン酸、ヤシ油脂肪酸、オレイン酸、エルカ酸、リシノレン酸、菜種油脂肪酸、リシノレン酸縮合物、C21脂肪族ジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン酸、及びドデカン二酸が挙げられる。これらの中でも、ヤシ油脂肪酸、菜種脂肪酸、オレイン酸、リシノレン酸、エルカ酸、リシノレン酸縮合物、C21脂肪族ジカルボン酸、アジピン酸、ドデカン酸、及びドデカン二酸が好ましく用いられる。
【0047】
アミン化合物としては、特に、抗菌性アミンを除いたものを好適に用いることができ、脂肪族アミン、脂環式アミン、及び芳香族アミンのいずれでもよい。また、上記アミン化合物は、他の官能基を有するアミン化合物でもよい。さらに、上記アミン化合物に含まれるアミノ基は、第一級アミノ基、第二級アミノ基、及び第三級アミノ基のいずれでもよい。また、上記アミン化合物に含まれるアミノ基の数についても特に限定はなく、モノアミン化合物、ジアミン化合物、トリアミン化合物、テトラアミン化合物のいずれでもよい。本発明では、上記アミン化合物として、炭素数2〜36、好ましくは2〜20、さらに好ましくは2〜15のアミン化合物を好ましく用いることができる。尚、上記アミン化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用することもできる。
【0048】
脂肪族アミンとしては、例えば、オクチルアミン、デシルアミン、ラウリルアミン、オ
レイルアミン、及びヘキサメチレンジアミン等が挙げられる。脂環式アミンとしては、
例えば、シクロヘキシルアミン及びジシクロヘキシルアミン等が挙げられる。また、芳
香族アミンとしては、例えば、ベンジルアミン及びジベンジルアミン等が挙げられる。
【0049】
尚、アニオン系界面活性剤は、脂肪酸とアミンとを添加することで、水溶性金属加工油剤組成物中で界面活性剤となるものであってもよい。
【0050】
上記金属塩としては、例えば、ナトリウム塩及びカリウム塩等のアルカリ金属塩等が挙げられる。よって、上記脂肪酸の金属塩として具体的には、例えば、上記で例示した各脂肪酸のナトリウム塩及びカリウム塩等のアルカリ金属塩等が挙げられる。
【0051】
上記非イオン系界面活性剤として具体的には、例えば、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル等のポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールブロックポリマー、並びにヤシ油脂肪酸ジエタノールアミド、オレイン酸ジエタノールアミド等が挙げられる。
【0052】
本発明の水溶性金属加工油剤組成物において、上記界面活性剤の含有量は、必要に応じて種々の範囲とすることができる。本発明の水溶性金属加工油剤組成物全量を100質量%とした場合、界面活性剤の含有量は、通常1〜40質量%、好ましくは3〜35質量%、より好ましくは5〜35質量%、さらに好ましくは8〜30質量%、特に好ましくは10〜30質量%である。上記界面活性剤の含有量が上記範囲であると、本発明の水溶性金属加工油剤組成物は、一層優れた防腐性を奏するので好ましい。本発明の水溶性金属加工油剤組成物において、アニオン系界面活性剤及び非イオン系界面活性剤を併用する場合、両者の割合は、必要に応じて種々の範囲とすることができる。上記アニオン系界面活性剤及び上記非イオン系界面活性剤の含有量の合計を100質量%とした場合、上記アニオン系界面活性剤の含有量は、通常30〜95質量%、好ましくは40〜95質量%、さらに好ましくは50〜90質量%、より好ましくは60〜90質量%、特に好ましくは70〜90質量%である。
【0053】
(防腐剤)
防腐剤としては、本発明の効果が損なわれないものを特に限定することなく用いることができるが、特に、複素環式化合物を用いることが好ましい。複素環式化合物の具体例としては、メチルイソチアゾリン、ベンゾイソチアゾリン、ブチルベンゾイソチアゾリン等のイソチアゾリン系のものを挙げることができる。この中でもメチルイソチアゾリンやベンゾイソチアゾリンを用いることが好ましい。本発明に係る水溶性金属加工油剤組成物は、後述するようにpHを中性付近として使用することができ、且つ、反応性の高いアミン(第2級アミン)を使用しなくてもよいことから、従来の油剤組成物においては使用が困難であった複素環式化合物系の防腐剤を低濃度・低毒性で使用することができる。防腐剤の含有量は、低濃度であればよく、水溶性金属加工油剤組成物全体を100質量%とした場合、好ましくは0.01〜5質量%、より好ましくは0.05〜2質量%、特に好ましくは0.1〜1質量%である。
【0054】
(極圧添加剤、消泡剤、金属防食剤)
極圧添加剤、消泡剤及び金属防食剤としては、従来公知のものを特に限定されることなく用いることができる。具体的には、極圧添加剤として 硫化鉱油、硫化脂肪油、ポリスルフィド等の硫黄系極圧添加剤やリン酸エステル等のリン系極圧添加剤を、消泡剤としてジメチルシロキサン等のシリコーン系消泡剤を、金属防食剤としてベンゾトリアゾール、チアジアゾール類を挙げることができる。これらの含有量は、目的に応じて適宜調整すればよい。
【0055】
本発明に係る水溶性金属加工油剤組成物には、任意に、水が配合される。水の配合量については特に限定されるものではなく、水溶性金属加工油剤組成物全体を100質量%とした場合、0〜80質量%、より好ましくは0〜60質量%である。通常、水溶性金属加工油剤には、大別していわゆるエマルション、ソリュブル、ソリューションの3種類があり、これらに含まれる水分量は、好ましくはエマルションが0〜15質量%、ソリュブルが5〜40質量%、ソリューションが20〜60質量%となる。
【0056】
尚、本発明に係る水溶性金属加工油剤組成物においては、生物毒性の高い抗菌性アミンを低濃度、好ましくは実質的に含まないものとされている。抗菌性アミンを含まずとも、上記成分(A)、(B)を含ませることによって、優れた防腐性を付与することが可能だからである。これにより、生物毒性による環境・人体への悪影響が低減される。抗菌性アミンは1級、2級アルカノールアミン、ジシクロヘキシルアミンやN,N,N’,N’−テトラアルキルジアミンを例示できる。
【0057】
本発明に係る水溶性金属加工油剤組成物は、pHが好ましくは6〜9、特に好ましくは7〜8とされる。従来は高pH化によって油剤組成物に防腐性を付与していたが、本発明に係る水溶性金属加工油剤組成物においては、pHをこのような中性付近に調整した場合であっても、上記成分(A)及び成分(B)を含むことにより、優れた防腐性を有する。そのため、高pH化による著しい皮膚障害の発生や非鉄金属に対する腐食性を抑制することができる。
【0058】
以上のように、本発明に係る水溶性金属加工油剤組成物によれば、油剤組成物中に所定の成分(A)及び成分(B)が含有されるので、中性付近でのpHであっても高い防腐性を確保することができる。すなわち、高pHであること、或いは、アミンを多量に含むことによって生じる人体への著しい皮膚障害を回避できるとともに、環境にも優しい水溶性金属加工油剤組成物とすることができる。また、中性付近のpHとすることで、非鉄金属加工において、当該非鉄金属の腐食等を抑制することができる。また、pHを中性付近とするとともに、反応性の高いアミンの使用量を低減することで、従来の油剤では使用が困難であったイソチアゾリン等の複素環式化合物を低濃度・低毒性で添加することが可能となり、防腐性を一層高めることもできる。
【0059】
<クーラント、クーラントの製造方法>
本発明に係るクーラントは、上記水溶性金属加工油剤組成物を希釈して得られるものである。水溶性金属加工油剤組成物を希釈する場合、クーラント全体基準で、成分(A)の濃度を0.02質量%以上3質量%以下、及び、成分(B)の濃度を0.01質量%以上3質量%以下とする。このようにすれば、優れた防腐性を備えるとともに環境・人体への悪影響が低減されたクーラントとすることができる。また、pHが中性付近であってもよく、これにより、人体に対する皮膚障害を抑制でき、さらには非鉄金属の加工に用いる場合、当該金属の腐食を抑制することもできる。
【0060】
希釈は水を用いて行えばよい。或いは、個別に用意したクーラントを加えることで希釈することもできる。また、希釈倍率についても、成分(A)、(B)の濃度が上記範囲であればよく、通常5〜100倍程度である。
【0061】
<防腐処理された金属加工油剤組成物又はクーラントの製造方法>
本発明に係る防腐処理された金属加工油剤組成物又はクーラントの製造方法は、水溶性加工油剤組成物又はクーラントに上記成分(A)及び成分(B)を添加する工程を備えたものである。上記成分(A)及び成分(B)を含む水溶性金属加工油剤組成物が優れた防腐性等を備えることは、既に説明した通りである。一方、従来から用いられている一般的な水溶性金属加工油剤組成物に対しても、上記成分(A)及び成分(B)を添加することにより、優れた防腐性等を付与することができる。一般的な水溶性金属加工油剤組成物は、水を含有し、さらに上記任意成分として挙げた基油や界面活性剤等を含むものである。添加量は、水溶性金属加工油剤組成物或いはクーラントにおける成分(A)及び成分(B)の含有量が、上述した範囲となるような量とすることが好ましい。
【0062】
<金属加工方法>
本発明に係る金属加工方法は、上記成分(A)及び成分(B)を含む水溶性金属加工油剤組成物又はクーラントを用いて、金属を加工する工程を備える。すなわち、切削、研削或いは塑性加工等の金属加工の際、本発明に係る水溶性金属加工油剤組成物又はクーラントを被加工部に供給するものである。上述したように、本発明に係る水溶性金属加工油剤組成物又はクーラントは、優れた防腐性を備えるとともに、抗菌性アミン量を低減でき、また、pHが中性付近に調整して使用することが可能であるため、環境や人体への悪影響を抑制しながら金属加工を行うことができる。また、被加工金属として非鉄金属を用いた場合、当該非鉄金属の腐食を抑制しながら金属加工に供することもできる。
【実施例】
【0063】
以下、実施例に基づいて、本発明についてさらに詳述する。
【0064】
1.中鎖アルキル構造を有する化合物の抗菌性
使用液から分離したバクテリアを主体とした混合培養液及びカビを主体とした混合培養液を用いて、中鎖アルキル構造を有する化合物の抗菌性について評価した。すなわち、本発明に係る成分(A)又は成分(B)を単独で用いた希釈液について、その抗菌性を評価した。
【0065】
評価方法についての予備検討により、バクテリアに対する抗菌性及びバイオフィルム形成抑制性についてはガラス製試験管を用いた液体静置培養、カビに対する抗菌性はプラスチック製シャーレを用いた液体静置培養による以下の方法により、抗菌性について評価を行った。
【0066】
カビがカウントされた「使用液」として下記使用液を用いた。
使用液:細菌数>10(cfu/ml)、酵母数=10(cfu/ml)、カビ数=10(cfu/ml)
【0067】
1.1.バクテリア主体の植種液の作製
バクテリア主体の植種液を下記の通り作製した。
炭酸ナトリウムでpH8に調整するとともにオートクレーブ滅菌した200mlのYM brothに、上記使用液を2ml接種し、30℃にて3日以上振とう培養し、目視で微生物の増殖が認められたものを作製した。
【0068】
1.2.カビ主体の植種液の作製
カビ主体の植種液を下記の通り作製した。
炭酸ナトリウムでpHに調整するとともにクロラムフェニコールを100μg/mlとなるよう添加した後オートクレーブ滅菌した200mlのYM brothに、上記使用液を2ml接種し、30℃にて7日以上振とう培養し、目視で微生物(カビ)の増殖が認められたものを準備し、これをクロラムフェニコール含有YM brothに植え継いだものを作製した。
【0069】
1.3.界面活性剤希釈液、及び、アルキル・アルケン化合物希釈液の作製
本発明に係る成分(A)を含む界面活性剤希釈液、及び、本発明に係る成分(B)を含むアルキル・アルケン化合物希釈液を以下の手順にしたがって作成した。
【0070】
1.3.1.界面活性剤希釈液(1質量%)
(1)10mlビーカーに100mgの界面活性剤を分取する。
(2)マグネティックスターラーで撹拌しながら10mlの蒸留水を徐々に加える。
【0071】
1.3.2.アルキル・アルケン希釈液(0.5質量%)
調製用界面活性剤として1% Tween20(ポリオキシエチレンソルビタンモノラウラート)を共存させた場合、1,2−ドデカンジオール以外のアルカン・アルケン化合物については、0.5質量%までの分散が可能であった。そこで、まず0.5質量%アルカン・アルケン化合物分散液をアルキル・アルケン希釈液として作製し、これを実験に使用することとした。尚、1,2−ドデカンジオールについては、DMSO(ジメチルスルホキシド)を併用することによって分散が可能となった。具体的には下記の通りにしてアルキル・アルケン希釈液を作成した。
【0072】
<1,2−ドデカンジオール以外について>
(1)10mlビーカーに50mgのアルキル・アルケン化合物を分取する。
(2)100mgのTween20を添加する。
(3)常温で溶解(分散)しにくい場合には、電気ヒーターで加温しながら溶解(分散)させる。
(4)目視で透明になったことを確認後、マグネティックスターラーで撹拌しながら10mlの蒸留水を徐々に加える。
(5)常温で溶解(分散)しにくい場合には、電気ヒーターで加温しながら溶解(分散)させる。
【0073】
<1,2−ドデカンジオール>
(1)10mlビーカーに50mgの1,2−ドデカンジオールを分取する。
(2)100mgのDMSOを添加する。
(3)1,2−ドデカンジオールの溶解を目視で確認後、100mgのTween20を添加する。
(4)溶解を目視で確認後、マグネティックスターラーで撹拌しながら10mlの蒸留水を徐々に加える。
【0074】
1.4.評価方法
1.4.1.バクテリアに対する影響確認
下記の手順で、界面活性剤希釈液又はアルカン・アルケン希釈液を添加した場合のバクテリアに対する影響を評価した。
(1)オートクレーブ滅菌したステンレスキャップ付小試験管に所定量(10μl、100μl)の界面活性剤希釈液又はアルカン・アルケン希釈液を分注する。
(2)オートクレーブ滅菌したYM broth(pH8)に1%量のバクテリア主体の植種液を添加したものを作製し、界面活性剤希釈液或いはアルカン・アルケン希釈液を分注した各試験管に1mlずつ分注する。
(3)タッチミキサーで1秒撹拌する。
(4)室温で静置(2日間)する。
【0075】
(5)別の試験管に移した培養液を、目視でほぼ均一な濁りとなるまでタッチミキサーで撹拌する。
(6)蒸留水で10倍に希釈して(目視で菌体増殖が認められない場合には希釈なしでも可)、分光光度計により波長660nmの吸光度を測定する。
(7)培養液原液あたりに換算した数値を濁度とする。
ここで、植種しないものを、培地及び界面活性剤/アルカン・アルケン化合物による濁りにあたるブランクとして差し引く。また、測定値の標準化に際しては、界面活性剤或いはアルキル・アルケン化合物ブランクの値を100%とし、パーセンテージであらわしたものを細菌増殖度とする。
【0076】
1.4.2.カビに対する影響確認(液中増殖)
下記の手順で、界面活性剤希釈液又はアルカン・アルケン希釈液を添加した場合のカビに対する影響を評価した。
(1)直径60mmの滅菌済みプラスチック製シャーレに約10mlのオートクレーブ滅菌済みYM培地(液体、100μg/mlクロラムフェニコール含有)を分注する。
(2)さらに、所定量(100μl、1ml)の界面活性剤希釈液又はアルカン・アルケン希釈液を添加する。
(3)カビ主体の植種液を200μlずつ分注し、軽くゆすって混合する。
(4)室温で5日間静置し、経過を目視で観察する。
カビ抑制効果については、標準化のため目視観察結果を下記の通りスコア化(カビ増殖スコア)した。
0:変化なし
1:若干増加
2:液中2〜4割に菌糸が広がる
3:液中5〜8割に菌糸が広がる
4:液中全体に菌糸が繁茂
5:気液界面全面に菌糸が繁茂
【0077】
1.5.評価結果
下記表1及び表2に評価結果を示す。表1、2において、添加濃度に係る「%」とは「質量%」を意味する。尚、表1、2には示していないが、実施例にて用いたTween 20やDMSOについては、添加濃度0.01%及び0.1%において、防腐・抗菌効果は認められなかった。
【0078】
【表1】

【0079】
【表2】

【0080】
表1、2より、所定の界面活性剤(成分(A))又は所定のアルカン・アルケン化合物(成分(B))は抗菌性能を有することが分かる。特に、希釈液全体を100質量%として、成分(A)が0.1質量%以上、成分(B)が0.05質量%以上において、抗菌性が一層向上するといえる。すなわち、油剤組成物において、成分(A)及び成分(B)を含ませることにより、油剤組成物の抗菌性を向上させることが可能であり、特に、油剤組成物において、成分(A)を0.1質量%以上、成分(B)を0.05質量%以上の濃度となるように添加すると、一層抗菌性を向上させることができると言える。尚、油剤組成物に適用するにあたって、成分(A)、(B)の含有量の上限については、特に限定されるものではないが、油剤組成物を適切に設計する観点から、各15質量%までが好ましい。本発明では、上記のように成分(A)と成分(B)とを双方必須として含ませることにより、成分(A)と成分(B)とが相補的に作用し、広い抗菌スペクトルを示すことが可能となる。
【0081】
以下、油剤組成物に本発明に係る成分(A)と成分(B)とを双方添加した場合について、防腐・抗菌性を評価した。尚、比較のため、従来の抗菌性アミンを添加した油剤組成物の防腐・抗菌性についても併せて示す。
【0082】
2.バクテリアに対する抗菌性
2.1.使用菌株の準備
下記使用液Aを準備した。
使用液A:細菌>10(cfu/ml)、酵母=10(cfu/ml)、カビ=10(cfu/ml)
【0083】
単離菌の取得のため、まず前培養を行った。具体的には、1mlの使用液Aを、オートクレーブ滅菌した100mlの普通培地(pH8)に無菌的に添加し、30℃で振とう培養した。その後、単離を行った。具体的には、滅菌生理的食塩水を用いて、前培養液を段階的に希釈し、普通寒天培地(pH8)に塗り広げて、30℃で静置培養し、コロニー外観が異なる2株の使用菌株を得た。
【0084】
2.2.油剤組成物の作製
下記表3に示す配合比で混合されてなる組成物1(従来の水溶性金属加工油剤組成物)及び組成物2(本発明に係る水溶性金属加工油剤組成物)を用意した。尚、表3において、「被乳化体」として、鉱物油を用い、「カルボン酸」としてノナン酸、オレイン酸、リシノレン酸を用い、「抗菌性アミン」としてモノエタノールアミン、ジシクロヘキシルアミンを用いた。また、「成分(A)」として、ポリオキシエチレンデシルエーテルを用い、「成分(B)」として、ウンデシレン酸を用いた。さらに、「その他成分」として、水及び界面活性剤(ノニオン系界面活性剤)を用いた。また、「トリイソプロパノールアミン」は、抗菌性の低いアミンであり、カルボン酸の対イオンとして用いたものである。表3において、「%」とは「質量%」を意味する。
【0085】
【表3】

【0086】
2.3.抗菌性の確認
a.ステンレスキャップ付小試験管による静置培養
オートクレーブ滅菌したステンレスキャップ付小試験管に、それぞれ、上記組成物1、組成物2を希釈したクーラントを分注した。一方、オートクレーブ滅菌した普通培地(pH8)に1%量のバクテリア植種液(上記A株又はB株に係るバクテリア植種液)を添加したものを作製し、クーラントを分注した小試験管に1mlずつ分注した。尚、最終濃度(クーラント、培地、及び植種液の合計を100質量%とした場合における油剤組成物(水を除く)の濃度)は1質量%とした。その後、当該小試験管をタッチミキサーで1秒攪拌し、室温で2日間静置した。
【0087】
b.菌体増殖量の確認
2日間の培養が終了した小試験管をタッチミキサーで5秒間攪拌した後、当該小試験管内の培養液を、滅菌生理的食塩水を用いて段階的に希釈し、普通寒天培地(pH8)に塗り広げ、30℃で静置培養して発生したコロニーを計数した。
【0088】
2.4.評価結果
結果を図1に示す。図1に示すように、抗菌性アミンを使用せずに成分(A)、(B)を添加した組成物2は、成分(A)、(B)を添加せずに抗菌性アミンを添加した組成物1と比較して、バクテリア(A株及びB株)の増殖倍率が低く、抗菌性が同等以上であった。すなわち、成分(A)と成分(B)とが相補的に作用することで、十分な抗菌性を示す油剤組成物とすることができた。
【0089】
3.カビに対する抗菌性
3.1.使用菌株の準備
炭酸ナトリウムでpH8に調整し、クロラムフェニコールを100μg/mlとなるように添加した後オートクレーブ滅菌した200ml YM brothに、上記使用液Aを2ml接種して30℃で7日以上振とう培養した。その後、目視で微生物(カビ)の増殖が認められたものを用いて、クロラムフェニコール含有YM brothに植え継ぎ、植種液とした。
【0090】
単離菌の取得のため、滅菌生理的食塩水を用いて、植種液を段階的に希釈し、クロラムフェニコール含有YM broth(pH8)に塗り広げて、30℃で静置培養して、シングルコロニーを得た。これを使用菌株として用いた。
【0091】
3.2.油剤組成物の作製
下記表4に示す配合比で混合されてなる組成物3(従来の水溶性金属加工油剤組成物)並びに組成物4及び組成物5(本発明に係る水溶性金属加工油剤組成物)を用意した。尚、表4において、「被乳化体」、「抗菌性アミン」、「成分(A)」、「成分(B)」及び「その他成分」、「%」については、上記表3に係るものと同様である。
【0092】
【表4】

【0093】
3.3.抗菌性の確認
直径60mmの滅菌済みプラスチック製シャーレに、10mlのオートクレーブ滅菌済みYM培地(液状、100μg/mlクロラムフェニコール含有)を分注した。さらに、組成物3、4又は5を希釈したクーラントを所定量(100μl又は1ml)添加した。そこに、目視でカビ菌糸が確認できる植種液を200μlずつ分注し、軽く振動させて混合した。尚、最終濃度(クーラント、培地、及び植種液の合計を100質量%とした場合における油剤組成物(水を除く)の濃度)は0.1質量%又は1質量%とした。その後、分注・混合した植種液を室温で5日間静置し、経過を目視で観察した。
【0094】
3.4.評価結果
結果を下記表5に示す。尚、表5において、目視観察結果をスコア化して示している。各数字は以下を意味する。
0:変化なし
1:若干増加
2:液中2〜4割に菌糸が拡大
3:液中5〜8割に菌糸が拡大
4:液中全体に菌糸が繁茂
5:気液界面全面に菌糸が繁茂
【0095】
【表5】

【0096】
表5に示すように、抗菌性アミンを使用せずに成分(A)、(B)を添加した組成物4及び組成物5は、成分(A)、(B)を添加せずに抗菌性アミンを添加した組成物3と比較して、カビに対する抗菌性が同等以上であった。すなわち、成分(A)と成分(B)とが相補的に作用することで、十分な抗菌性を示す油剤組成物とすることができた。
【0097】
以上、現時点において、最も実践的であり、且つ、好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴うものもまた本発明の技術範囲に包含されるものとして理解されなければならない。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明に係る水溶性金属加工油剤組成物或いはクーラントは、切削、研削や塑性加工等の金属加工時の潤滑油及び冷却剤として好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分(A)及び下記成分(B)を含む水溶性金属加工油剤組成物。
成分(A):下記一般式(1)で示される化合物
【化1】

(式(1)中、Rは炭素数6〜14の直鎖又は分岐鎖のアルキル基又はアルケニル基であり、EOはエチレンオキシ基であり、nは1〜7の整数である。)
成分(B):炭素数6〜14の直鎖アルキル又はアルケニル構造を有する、アルコール、ジオール、カルボン酸又はラクトン化合物のうち少なくとも一つ
【請求項2】
pHが6〜9である、請求項1に記載の水溶性金属加工油剤組成物。
【請求項3】
さらに複素環式化合物を含む、請求項1又は2に記載の水溶性金属加工油剤組成物。
【請求項4】
組成物全体基準で、前記成分(A)を0.1質量%以上15質量%以下、及び、前記成分(B)を0.05質量%以上15質量%以下含む、請求項1〜3のいずれかに記載の水溶性金属加工油剤組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の水溶性金属加工油剤組成物を希釈してなるクーラント。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の水溶性金属加工油剤組成物を希釈する工程を備え、
前記希釈する工程において、クーラント全体基準で、前記成分(A)の濃度を0.02質量%以上3質量%以下、及び、前記成分(B)の濃度を0.01質量%以上3質量%以下とする、クーラントの製造方法。
【請求項7】
水溶性金属加工油剤組成物又はクーラントに、下記成分(A)及び下記成分(B)を添加する工程を備える、防腐処理された水溶性金属加工油剤組成物又はクーラントの製造方法。
成分(A):下記一般式(1)で示される化合物
【化2】

(式(1)中、Rは炭素数6〜14の直鎖又は分岐鎖のアルキル基又はアルケニル基であり、EOはエチレンオキシ基であり、nは1〜7の整数である。)
成分(B):炭素数6〜14の直鎖アルキル又はアルケニル構造を有する、アルコール、ジオール、カルボン酸又はラクトン化合物のうち少なくとも一つ
【請求項8】
請求項1〜5のいずれかに記載された水溶性金属加工油剤組成物又はクーラントを用いて金属を加工する工程を備える、金属加工方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−184362(P2012−184362A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−49436(P2011−49436)
【出願日】平成23年3月7日(2011.3.7)
【出願人】(000115083)ユシロ化学工業株式会社 (69)
【Fターム(参考)】