説明

水溶性金属加工油剤組成物

【課題】高い防腐性を備えるとともに、環境・人体に優しく、非鉄金属への悪影響も抑制可能な、水溶性金属加工油剤組成物を提供する。
【解決手段】pHが6.5〜8.5であり、下記成分(A)及び下記成分(B)から選ばれる少なくとも一種の化合物と、複素環式化合物(C)とを含む、水溶性金属加工油剤組成物とする。
成分(A):下記一般式(1)で示される化合物


(式(1)中、Rは炭素数6〜12の直鎖又は分岐鎖のアルキル基、アルケニル基又はアリール基を示し、Xはエチレングリコール基又はグリセロール基であり、nは1〜3の整数を示す。)
成分(B):下記一般式(2)で示される化合物


(式(2)中、Rは炭素数6〜14の直鎖又は分岐鎖のアルキル基、アルケニル基又はアリール基を示し、mは0又は1を示し、Rは水素、メチル基又はエチル基を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削、研削、塑性加工等の金属加工において用いられる、水溶性金属加工油剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
切削、研削、塑性加工等といった金属加工を行う場合、加工工具と被加工材との間を潤滑・冷却するために加工油剤が使用される。当該加工油剤には、油性加工油剤と水溶性加工油剤とがあるが、効率的に冷却できることや、無人化された機械においても加工時の火災を防止できることから、水溶性加工油剤が主に用いられている。金属加工の際は、大量の加工油剤をポンプによって循環しながら使用する。
【0003】
金属加工に用いられる水溶性加工油剤は、一般に鉱物油、油脂、脂肪酸、脂肪酸エステル、極圧添加剤、界面活性剤、消泡剤、金属防食剤、酸化防止剤、防腐・防カビ剤等を目的に応じて適宜混合して製造され、水で希釈して、いわゆるクーラントとしたうえで使用される。クーラントには、切削性、研削性等に係る1次性能と、作業性等に係る2次性能とが要求される。1次性能としては、例えば、仕上げ面精度の向上、工具寿命の延長等が挙げられ、2次性能としては、例えば、防錆性に優れること、劣化し難く管理が容易であること、人体に無害であること、泡立ちが少ないこと等が挙げられる。
【0004】
水溶性加工油剤には、上記したような、細菌、酵母、カビ等の微生物の栄養源となる物質が多く含有されているため、希釈後のクーラントが腐敗しやすいという問題がある。クーラントの腐敗が進行すると、1次性能、2次性能ともに低下するうえ、腐敗による悪臭も問題となる。また、腐敗によって油剤交換の頻度が高くなれば、コスト面においても不利となる。さらに、クーラントにカビが発生した場合、ポンプ等の循環系統においてパイプ詰まりの原因にもなる。これを防ぐため、加工油剤には防腐・防カビ剤が添加され、或いは、その他成分によって防腐・防カビ処理がなされる。
【0005】
しかしながら、一般に、防腐剤や防カビ剤は、分解若しくは不活性化により効果が短期間で著しく低下してしまうという問題がある。また、広く知られている防腐剤や防カビ剤としては、ホルムアルデヒド放出型やフェノール系のものが挙げられるが、このようなものは刺激物である。すなわち、加工油剤に防腐・防カビ性能を発揮させ得る程度に多量に添加すると、加工油剤自体が皮膚刺激性の激しいものとなってしまい、人体に悪影響を及ぼすことがあった。
【0006】
また、加工油剤において、界面活性剤(乳化剤)として脂肪酸と各種アミンとを反応させたアミンセッケンを使用したものがある(特許文献1)。この場合、加工油剤にはアルカリのアミンが遊離した状態で存在し、当該遊離状態のアミンを大量に含ませることで、加工油剤にある程度の防腐・防カビ性を付与することができる。また、加工油剤において抗菌性アミンを含ませる技術もある(特許文献2)。或いは、加工油剤を高pH(pH9以上のアルカリ)とすることにより、防腐性を確保する技術も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公昭61−40720号公報
【特許文献2】特開2009−161585号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来技術において、例えば、加工油剤に遊離アミンを添加することによって防腐効果を発現させる場合、十分な防腐効果を発現させるためには多量の遊離アミンが必要となる。そのため、より防腐効果の高い技術が求められていた。また、抗菌性アミンを添加することによって防腐効果を発現させる場合は、当該抗菌性アミンが生物毒性を有する場合があり、地球環境や人体への悪影響が懸念された。さらに、高pH化によって防腐性を確保する場合は、人体に対して著しい皮膚障害の発生が懸念され、加えて、非鉄金属を加工する場合には金属腐食も懸念された。
【0009】
上記問題に鑑み、本発明は、高い防腐性を備えるとともに、環境・人体に優しく、非鉄金属への悪影響も抑制可能な、水溶性金属加工油剤組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、環境適合性やアルミ等の金属加工適性に優れるとともに、安全性にも優れた中性の油剤組成物を目指して鋭意研究した結果、これまで抗菌性成分として切削油剤に用いられてこなかった成分(A)又は成分(B)を用い、ここに、これまでの油剤組成(例えば、所定のアミンを用いるとともに、アルカリ性であるような油剤組成)では速やかに分解されてしまい十分な効果を発揮することができなかった複素環式化合物(C)を組み合わせることで、それぞれの抗菌効果を理想的且つ相乗的に発揮せしめることができることを知見した。
【0011】
本発明は上記知見に基づいてなされたものである。すなわち、
本発明の第1の態様は、pHが6.5〜8.5であり、下記成分(A)及び下記成分(B)から選ばれる少なくとも一種の化合物と、複素環式化合物(C)とを含む、水溶性金属加工油剤組成物である。
【0012】
成分(A):下記一般式(1)で示される化合物
【0013】
【化1】

(式(1)中、Rは炭素数6〜12の直鎖又は分岐鎖のアルキル基、アルケニル基又はアリール基を示し、Xはエチレングリコール基又はグリセロール基であり、nは1〜3の整数を示す。)
【0014】
成分(B):下記一般式(2)で示される化合物
【0015】
【化2】

(式(2)中、Rは炭素数6〜14の直鎖又は分岐鎖のアルキル基、アルケニル基又はアリール基を示し、mは0又は1を示し、Rは水素、メチル基又はエチル基を示す。)
【0016】
尚、本発明において「エチレングリコール基」とは、下記一般式(I)で示される単位を意味する。
【0017】
【化3】

【0018】
また、本発明において「グリセロール基」とは、下記一般式(II)又は(III)で示される単位を意味する。尚、式(1)の一態様においては、下記一般式(II)又は(III)で示される単位のいずれかが、任意にn個結合している。
【0019】
【化4】

(式(II)中、R、Rは、どちらか一方が水素であり、どちらか一方が−CHOHである。)
【0020】
本発明において「水溶性金属加工油剤組成物」とは、油剤中に上記成分(A)及び/又は成分(B)、並びに、複素環式化合物(C)が添加されてなるものであり、これら以外に、鉱物油、油脂、脂肪酸、脂肪酸エステル、界面活性剤、極圧添加剤、消泡剤等を含んでいてよい。
【0021】
本発明の第1の態様において、組成物全体基準で、成分(A)及び成分(B)から選ばれる少なくとも一種の化合物を0.6質量%以上15質量%以下、複素環式化合物(C)を0.02質量%以上5質量%以下含むものとすることが好ましい。
【0022】
本発明の第1の態様において、実質的に抗菌性アミンを含まないものとすることが好ましい。「抗菌性アミン」としては、1級、2級アルカノールアミン、ジシクロヘキシルアミンやN,N,N’,N’−テトラアルキルジアミン(より具体的には、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、ジイソプロパノールアミン、N,N−ジシクロヘキシルアミン、テトラメチルヘキシレンジアミン)等を例示できる。
【0023】
本発明の第1の態様において、実質的にアミンを含ませずともよい。「アミン」とは、一般的なアミンをいい、例えば、界面活性剤を構成する遊離アミン等をも含む。本発明は、アニオン系界面活性剤等を構成するアミンを含まずとも、十分な抗菌・防腐効果を奏する。
【0024】
本発明の第2の態様は、本発明の第1の態様に係る水溶性金属加工油剤組成物を希釈してなるクーラントである。
【0025】
本発明の第3の態様は、本発明の第1の態様に係る水溶性金属加工油剤組成物を希釈する工程を備え、当該希釈する工程において、クーラント全体基準で、成分(A)及び成分(B)から選ばれる少なくとも一種の化合物の濃度を0.02質量%以上3質量%以下、及び、複素環式化合物(C)を0.002質量%以上1質量%以下とする、クーラントの製造方法である。
【0026】
本発明の第4の態様は、水溶性金属加工油剤組成物に、組成物全体基準で成分(A)及び成分(B)から選ばれる少なくとも一種の化合物が0.6質量%以上15質量%以下、複素環式化合物(C)が0.02質量%以上5質量%以下となるように、当該成分(A)及び成分(B)から選ばれる少なくとも一種の化合物と、当該複素環式化合物(C)とを添加する工程を備える、防腐処理された水溶性金属加工油剤組成物の製造方法である。
【0027】
成分(A):下記一般式(1)で示される化合物
【0028】
【化5】

(式(1)中、Rは炭素数6〜12の直鎖又は分岐鎖のアルキル基、アルケニル基又はアリール基を示し、Xはエチレングリコール基又はグリセロール基であり、nは1〜3の整数を示す。)
【0029】
成分(B):下記一般式(2)で示される化合物
【0030】
【化6】

(式(2)中、Rは炭素数6〜14の直鎖又は分岐鎖のアルキル基、アルケニル基又はアリール基を示し、mは0又は1を示し、Rは水素、メチル基又はエチル基を示す。)
【0031】
本発明の第5の態様は、クーラントに、クーラント全体基準で成分(A)及び成分(B)から選ばれる少なくとも一種の化合物が0.02質量%以上3質量%以下、複素環式化合物(C)が0.002質量%以上1質量%以下となるように、該成分(A)及び成分(B)から選ばれる少なくとも一種の化合物と、該複素環式化合物(C)とを添加する工程を備える、防腐処理されたクーラントの製造方法である。
【0032】
成分(A):下記一般式(1)で示される化合物
【0033】
【化7】

(式(1)中、Rは炭素数6〜12の直鎖又は分岐鎖のアルキル基、アルケニル基又はアリール基を示し、Xはエチレングリコール基又はグリセロール基であり、nは1〜3の整数を示す。)
【0034】
成分(B):下記一般式(2)で示される化合物
【0035】
【化8】

(式(2)中、Rは炭素数6〜14の直鎖又は分岐鎖のアルキル基、アルケニル基又はアリール基を示し、mは0又は1を示し、Rは水素、メチル基又はエチル基を示す。)
【0036】
本発明の第6の態様は、本発明の第1の態様に係る水溶性金属加工油剤組成物又は本発明の第2の態様に係るクーラントを用いて金属を加工する工程を備える、金属加工方法である。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、油剤組成物中に所定の成分(A)及び成分(B)から選ばれる少なくとも一つの化合物と、複素環式化合物(C)とが含有されるので、中性付近でのpHであっても高い防腐性を確保することができる。すなわち、高pHであること、或いは、アミンを多量に含むことによって生じる人体への著しい皮膚障害を回避できるとともに、環境にも優しい水溶性金属加工油剤組成物或いはクーラントとすることができる。また、中性付近のpHとすることで、非鉄金属加工において、当該非鉄金属の腐食等を抑制することもできる。さらに、pHを中性付近とするとともに、反応性の高いアミンの使用量を低減することで、従来の油剤では使用が困難であったイソチアゾリン等の複素環式化合物(C)を低濃度・低毒性で添加することが可能となり、防腐性を一層高めることもできる。
【発明を実施するための形態】
【0038】
<水溶性金属加工油剤組成物>
本発明に係る水溶性金属加工油剤組成物は、所定の成分(A)及び成分(B)から選ばれる少なくとも一種類の化合物、並びに、複素環式化合物(C)を含んでおり、さらに組成物を構成するためのその他任意成分を含んでいる。
【0039】
(成分(A))
本発明に係る水溶性金属油剤組成物には、下記一般式(1)で示される成分(A)が含まれている。
【0040】
【化9】

(式(1)中、Rは炭素数6〜12の直鎖又は分岐鎖のアルキル基、アルケニル基又はアリール基を示し、Xはエチレングリコール基又はグリセロール基であり、nは1〜3の整数を示す。)
【0041】
尚、本発明において「エチレングリコール基」とは、下記一般式(I)で示される単位を意味する。
【0042】
【化10】

【0043】
また、本発明において「グリセロール基」とは、下記一般式(II)又は(III)で示される単位を意味する。尚、式(1)の一態様においては、下記一般式(II)又は(III)で示される単位のいずれかが、任意にn個結合している。
【0044】
【化11】

(式(II)中、R、Rは、一方が水素で一方が−CHOHである。)
【0045】
式(1)において、Rは炭素数6〜12、好ましくは6〜10、より好ましくは6〜8の直鎖又は分岐鎖のアルキル基、アルケニル基又はアリール基である。炭素数を上記範囲とすることで、優れた防腐性や環境適合性を得ることができる。上記アルキル基、アルケニル基又はアリール基には、本発明の効果を阻害しない範囲でヘテロ原子(例えば、酸素原子、窒素原子、硫黄原子やハロゲン原子等)が備えられていてもよい。式(1)において、nは1〜3、好ましくは1である。Xに係る単位数nを上記のような範囲とすることで、優れた防腐性や環境適合性を得ることができる。
【0046】
成分(A)は、炭素数6〜12の直鎖又は分岐鎖のアルキル、アルケニル又はアリールアルコールと、エチレングリコール、ジエチレングリコール又はトリエチレングリコールとがエーテル結合してなるような構造を有する化合物、或いは、炭素数6〜12の直鎖又は分岐鎖のアルキル、アルケニル又はアリールアルコールと、グリセロール、ジグリセロール又はトリグリセロールとがエーテル結合してなるような構造を有する化合物を用いることができる。
【0047】
アルキル基の具体例としては、n−ヘキシル、n−ヘプチル、n−オクチル、2−オクチル、2−エチルヘキシル、3,5,5−トリメチルヘキシル、n−ノニル、2−ノニル、n−デシル、n−ウンデシル、2−ウンデシル、ラウリル、トリメチルノニル、ミリスチル等が挙げられる。成分(A)の具体例としては、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、2−エチルヘキシルグリセリルエーテル、モノオクチルグリセリルエーテル等が挙げられる。
【0048】
本発明に係る水溶性金属加工油剤組成物において、上記成分(A)の含有量は、組成物全体を100質量%とした場合、下限が好ましくは0.6質量%以上、より好ましくは1質量%以上、特に好ましくは3質量%以上であり、上限が15質量%以下、より好ましくは12質量%以下、特に好ましくは10質量%以下である。成分(A)の含有量を当該範囲とすることで、防腐性に一層優れた水溶性金属加工油剤組成物とすることができる。尚、成分(A)の含有量が少なすぎると防腐性の確保が困難となり、多すぎると著しい発泡が懸念される。
【0049】
(成分(B))
本発明に係る水溶性金属油剤組成物には、上記成分(A)に替えて、又は、上記成分(A)とともに、下記一般式(2)で示される成分(B)が含まれている。
【0050】
【化12】

(式(2)中、Rは炭素数6〜14の直鎖又は分岐鎖のアルキル基、アルケニル基又はアリール基を示し、mは0又は1を示し、Rは水素、メチル基又はエチル基を示す。)
【0051】
式(2)において、Rは炭素数6〜14、好ましくは8〜12の直鎖又は分岐鎖のアルキル基、アルケニル基又はアリール基である。炭素数を上記範囲とすることで、優れた防腐性や環境適合性を得ることができる。上記アルキル基、アルケニル基又はアリール基には、本発明の効果を阻害しない範囲でヘテロ原子(例えば、酸素原子、窒素原子、硫黄原子やハロゲン原子等)が備えられていてもよい。式(2)において、mは0又は1であり、好ましくは1である。式(2)において、Rは、水素、メチル基又はエチル基であり、好ましくは水素である。
【0052】
成分(B)の具体例としては、1,2−オクタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−デカンジオール、1,2−ドデカンジオール、1,2−ウンデカンジオール、1,2−ヘプタンジオール、1,2−ノナンジオール、1,2−テトラデカンジオール、3−フェノキシ−1,2−プロパンジオール、1級フェノキシプロパノール、1−オクタノール、1−ノナノール、1−デカノール、1−ウンデカノール、1−テトラデカノール、2−フェニルエタノール、2−フェニル−1−プロパノール、3−フェニル−1−プロパノール、1−フェニル−1−プロパノール、1−フェノキシ−2−プロパノールなどが挙げられ、これらのうち、1,2−ヘプタンジオール、1,2−オクタンジオール、1,2−ノナンジオール、1,2−デカンジオールがより好ましく、特に1,2−オクタンジオールが好ましい。
【0053】
本発明に係る水溶性金属加工油剤組成物において、上記成分(B)の含有量は、組成物全体を100質量%とした場合、下限が好ましくは0.6質量%以上、より好ましくは1質量%以上、特に好ましくは3質量%以上であり、上限が15質量%以下、より好ましくは12質量%以下、特に好ましくは10質量%以下である。成分(B)の含有量を当該範囲とすることで、防腐性に一層優れた水溶性金属加工油剤組成物とすることができる。尚、成分(B)の含有量が少なすぎると防腐性の確保が困難となり、多すぎると著しい発泡が懸念される。
【0054】
本発明に係る水溶性金属加工油剤組成物において、上記成分(A)及び成分(B)を双方含ませる場合は、成分(A)及び成分(B)を合計した含有量は、組成物全体を100質量%とした場合、下限が好ましくは0.6質量%以上、より好ましくは1質量%以上、特に好ましくは3質量%以上であり、上限が15質量%以下、より好ましくは12質量%以下、特に好ましくは10質量%以下である。
【0055】
(複素環式化合物(C))
本発明に係る水溶性金属加工油剤組成物には複素環式化合物(C)が含まれている。複素環式化合物(C)の具体例としては、メチルイソチアゾリン、ベンゾイソチアゾリン、ブチルベンゾイソチアゾリン等のイソチアゾリン系のものを挙げることができる。この中でもメチルイソチアゾリンやベンゾイソチアゾリンを用いることが好ましい。本発明に係る水溶性金属加工油剤組成物は、後述するようにpHが中性付近とされており、且つ、反応性の高いアミン(第2級アミン)を使用しなくてもよいことから、従来の油剤組成物においては使用が困難であった複素環式化合物系の防腐剤を低濃度・低毒性で使用することができる。すなわち、本発明においては、水溶性金属加工油剤組成物が中性であることによって、これまでの油剤組成では速やかに分解されてしまい十分な効果を発揮することができなかった複素環式化合物(C)を効果的に抗菌・防腐性に寄与させることができる。
【0056】
本発明に係る水溶性金属加工油剤組成物において、複素環式化合物(C)の含有量は、上記成分(A)や(B)よりも低濃度とすることが好ましい。好ましい濃度は対象となる微生物群によってある程度変化し得るものであるが、例えば、水溶性金属加工油剤組成物全体を100質量%とした場合、0.02質量%以上5質量%以下とすることが好ましく、0.05質量%以上2質量%以下とすることが好ましく、0.1質量%以上1質量%以下とすることが特に好ましい。
【0057】
以上のように、本発明に係る水溶性金属加工油剤組成物には、上記成分(A)及び/又は成分(B)、並びに、複素環式化合物(C)が含まれている。また、本発明の水溶性金属加工油剤組成物には、本発明の目的を阻害しない範囲で、種々の任意成分を必要に応じて適宜含有させることができる。任意成分としては、従来の水溶性金属加工油剤組成物に用いられている成分が挙げられる。具体的には、基油、界面活性剤、極圧添加剤、消泡剤や金属防食剤等が挙げられる。
【0058】
(基油)
基油としては、具体的には、鉱物油、合成エステル、及び動植物油脂等が挙げられる。イソパラフィンやα−オレフィン(炭素数8〜20程度)等を用いてもよい。本発明の水溶性金属加工油剤組成物は、上記基油を含有することにより、さらに潤滑性を向上させることができる。本発明の水溶性金属加工油剤組成物において、上記基油は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0059】
鉱物油は、石油を蒸留精製して得られる成分を示す。上記鉱物油は、水素添加や改質等の工程を経た鉱物油を使用できる。上記鉱物油として具体的には、例えば、スピンドル油及びマシン油等が挙げられる。上記鉱物油の物性については特に限定はない。例えば、上記鉱物油の動粘度(40℃)は、通常0.1mm/s以上、好ましくは0.5〜150mm/s、より好ましくは1〜60mm/s、さらに好ましくは5〜60mm/sとすることができる。また、上記鉱物油のアニリン点は、通常35〜120℃、好ましくは40〜100℃、より好ましくは45〜100℃、さらに好ましくは50〜90℃とすることができる。尚、上記鉱物油は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0060】
合成エステルは、通常、炭素数10〜30、好ましくは12〜28、より好ましくは15〜25のカルボン酸と、炭素数1〜30、好ましくは1〜25、より好ましくは1〜20のアルコールのエステルが用いられる。上記アルコールは、第1級、第2級及び第3級アルコールのいずれでもよい。また、上記アルコールは、モノアルコール、ジアルコール、トリアルコール、テトラアルコールのいずれでもよい。上記合成エステルとして具体的には、例えば、オレイン酸メチル、オレイン酸−2−エチルヘキシル、ネオペンチルグリコールジオレエート、トリメチロールプロパントリオレエート、及びペンタエリスリトールテトラオレエート等が挙げられる。これらの中でも、オレイン酸−2−エチルヘキシル、ネオペンチルグリコールジオレエート、及びトリメチロールプロパントリオレエートが好ましく用いられる。尚、上記合成エステルは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0061】
動植物油脂としては、例えば、豚脂、牛脂、及び魚油等の動物性油脂、並びに菜種油、大豆油、及びパーム油等の植物性油脂が挙げられる。また、上記動植物油脂としては、上記動植物油脂の水素添加物を用いることもできる。尚、上記動植物油脂は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0062】
上記基油の含有量は、本発明の水溶性金属加工油剤組成物全量を100質量%とした場合、通常80質量%以下、好ましくは0.1〜80質量%、より好ましくは1〜75質量%、さらに好ましくは5〜70質量%、特に好ましくは10〜60質量%、最も好ましくは20〜60質量%である。上記基油の含有量が上記範囲であると、本発明の水溶性金属加工油剤組成物は、優れた防腐性とともに、優れた潤滑性を奏するので好ましい。
【0063】
(界面活性剤)
界面活性剤としては、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、及び非イオン系界面活性剤が挙げられる。本発明において、上記界面活性剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。本発明の水溶性金属加工油剤組成物では、アニオン系界面活性剤及び非イオン系界面活性剤の1種又は2種以上を用いることが好ましい。
【0064】
上記アニオン系界面活性剤としては、例えば、脂肪酸とアミン化合物との塩又は金属塩、アルキルポリグリコールエーテルカルボン酸、酸性リン酸エステル、或いは石油スルホネート等が用いられる。上記脂肪酸としては、通常の水系の金属加工剤に使用されている炭素数6〜36の脂肪酸が使用される。上記脂肪酸は、モノカルボン酸でもよく、ジカルボン酸でもよい。上記脂肪酸として、例えば、カプロン酸、カプリル酸、ノナン酸、ラウリン酸、ヤシ油脂肪酸、オレイン酸、エルカ酸、リシノレン酸、菜種油脂肪酸、リシノレン酸縮合物、C21脂肪族ジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン酸、及びドデカン二酸が挙げられる。これらの中でも、ヤシ油脂肪酸、菜種脂肪酸、オレイン酸、リシノレン酸、エルカ酸、リシノレン酸縮合物、C21脂肪族ジカルボン酸、アジピン酸、ドデカン酸、及びドデカン二酸が好ましく用いられる。
【0065】
アミン化合物としては、特に、抗菌性アミンを除いたものを好適に用いることができ、脂肪族アミン、脂環式アミン、及び芳香族アミンのいずれでもよい。また、上記アミン化合物は、他の官能基を有するアミン化合物でもよい。さらに、上記アミン化合物に含まれるアミノ基は、第一級アミノ基、第二級アミノ基、及び第三級アミノ基のいずれでもよい。また、上記アミン化合物に含まれるアミノ基の数についても特に限定はなく、モノアミン化合物、ジアミン化合物、トリアミン化合物、テトラアミン化合物のいずれでもよい。本発明では、上記アミン化合物として、炭素数2〜36、好ましくは2〜20、さらに好ましくは2〜15のアミン化合物を好ましく用いることができる。尚、上記アミン化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用することもできる。
【0066】
脂肪族アミンとしては、例えば、オクチルアミン、デシルアミン、ラウリルアミン、オ
レイルアミン、及びヘキサメチレンジアミン等が挙げられる。脂環式アミンとしては、
例えば、シクロヘキシルアミン及びジシクロヘキシルアミン等が挙げられる。また、芳
香族アミンとしては、例えば、ベンジルアミン及びジベンジルアミン等が挙げられる。
【0067】
尚、アニオン系界面活性剤は、脂肪酸とアミンとを添加することで、水溶性金属加工油剤組成物中で界面活性剤となるものであってもよい。
【0068】
上記金属塩としては、例えば、ナトリウム塩及びカリウム塩等のアルカリ金属塩等が挙げられる。よって、上記脂肪酸の金属塩として具体的には、例えば、上記で例示した各脂肪酸のナトリウム塩及びカリウム塩等のアルカリ金属塩等が挙げられる。
【0069】
上記非イオン系界面活性剤として具体的には、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル及びポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル等のポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールブロックポリマー、ヤシ油脂肪酸ジエタノールアミド、オレイン酸ジエタノールアミド、或いは、ポリアルキレングリコールの脂肪酸モノエステル又はジエステル等が挙げられる。
【0070】
本発明の水溶性金属加工油剤組成物において、上記界面活性剤の含有量は、必要に応じて種々の範囲とすることができる。本発明の水溶性金属加工油剤組成物全量を100質量%とした場合、界面活性剤の含有量は、通常1〜40質量%、好ましくは3〜35質量%、より好ましくは5〜35質量%、さらに好ましくは8〜30質量%、特に好ましくは10〜30質量%である。上記界面活性剤の含有量が上記範囲であると、本発明の水溶性金属加工油剤組成物は、一層優れた防腐性を奏する。本発明の水溶性金属加工油剤組成物において、アニオン系界面活性剤及び非イオン系界面活性剤を併用する場合、両者の割合は、必要に応じて種々の範囲とすることができる。上記アニオン系界面活性剤及び上記非イオン系界面活性剤の含有量の合計を100質量%とした場合、上記アニオン系界面活性剤の含有量は、通常30〜95質量%、好ましくは40〜95質量%、さらに好ましくは50〜90質量%、より好ましくは60〜90質量%、特に好ましくは70〜90質量%である。ただし、上述したように、本発明に係る水溶性金属加工油剤組成物は、成分(A)及び/又は成分(B)、並びに、複素環式化合物(C)を含むことで、上記界面活性剤を含ませずとも、充分な抗菌・防腐効果を奏する。また、抗菌性アミン以外のアミンについても含ませたくない場合も想定される。この場合は、非イオン性界面活性剤を用いるとよい。
【0071】
(極圧添加剤、消泡剤、金属防食剤)
極圧添加剤、消泡剤及び金属防食剤としては、従来公知のものを特に限定されることなく用いることができる。具体的には、極圧添加剤として 硫化鉱油、硫化脂肪油、ポリスルフィド等の硫黄系極圧添加剤やリン酸エステル等のリン系極圧添加剤を、消泡剤としてジメチルシロキサン等のシリコーン系消泡剤を、金属防食剤としてベンゾトリアゾール、チアジアゾール類を挙げることができる。これらの含有量は、目的に応じて適宜調整すればよい。
【0072】
本発明に係る水溶性金属加工油剤組成物には、任意に、水が配合される。水の配合量については特に限定されるものではなく、水溶性金属加工油剤組成物全体を100質量%とした場合、0〜80質量%、より好ましくは0〜60質量%である。通常、水溶性金属加工油剤には、大別していわゆるエマルション、ソリュブル、ソリューションの3種類があり、これらに含まれる水分量は、好ましくはエマルションが0〜15質量%、ソリュブルが5〜40質量%、ソリューションが20〜60質量%となる。
【0073】
尚、本発明に係る水溶性金属加工油剤組成物においては、生物毒性の高い抗菌性アミンを低濃度、好ましくは実質的に含まないものとされている。抗菌性アミンを含まずとも、上記成分(A)及び/又は(B)、並びに、成分(C)を含ませることによって、優れた防腐性を付与することが可能だからである。これにより、生物毒性による環境・人体への悪影響が低減される。
【0074】
本発明に係る水溶性金属加工油剤組成物は、pHが6.5〜8.5、好ましくは7〜8とされる。従来は高pH化によって油剤組成物に防腐性を付与していたが、本発明に係る水溶性金属加工油剤組成物においては、pHをこのような中性付近に調整した場合であっても、上記成分(A)及び/又は成分(B)、並びに、複素環式化合物(C)を含むことにより、優れた防腐性を有する。そのため、高pH化による著しい皮膚障害の発生や非鉄金属に対する腐食性を抑制することができる。また、上述の通り、本発明では、pHを中性付近とすることによって、従来仕様が困難であった複素環式化合物(C)を効果的に使用することができるようになった。
【0075】
以上のように、本発明に係る水溶性金属加工油剤組成物によれば、油剤組成物中に所定の成分(A)及び/又は成分(B)、並びに、複素環式化合物(C)が含有されるので、中性付近でのpHであっても高い防腐性を確保することができる。すなわち、高pHであること、或いは、アミンを多量に含むことによって生じる人体への著しい皮膚障害を回避できるとともに、環境にも優しい水溶性金属加工油剤組成物とすることができる。また、中性付近のpHとすることで、非鉄金属加工において、当該非鉄金属の腐食等を抑制することができる。また、pHを中性付近とするとともに、反応性の高いアミンの使用量を低減することで、従来の油剤では使用が困難であったイソチアゾリン等の複素環式化合物(C)を低濃度・低毒性で添加することが可能となり、防腐性を一層高めることができる。
【0076】
水溶性金属加工油剤組成物に係る技術分野においては、従来、「一般の防腐剤のみに頼らず、且つ、抗菌性アミンを含まないにもかかわらず、中性域で優れた防腐性を備えた組成物を成立させる」という常識はなかった。本発明は、このような従来常識にはない新たな観点からなされたものである。
【0077】
<クーラント、クーラントの製造方法>
本発明に係るクーラントは、上記水溶性金属加工油剤組成物を希釈して得られるものである。水溶性金属加工油剤組成物を希釈する場合、成分(A)及び成分(B)から選ばれる少なくとも一種の化合物が0.02質量%以上3質量%以下、複素環式化合物(C)が0.002質量%以上1質量%以下となるようにする。このようにすれば、優れた防腐性を備えるとともに環境・人体への悪影響が低減されたクーラントとすることができる。また、pHが中性付近であってもよく、これにより、人体に対する皮膚障害を抑制でき、さらには非鉄金属の加工に用いる場合、当該金属の腐食を抑制することもできる。
【0078】
希釈は水を用いて行えばよい。或いは、個別に用意したクーラントを加えることで希釈することもできる。また、希釈倍率についても、成分(A)及び/又は成分(B)、並びに、複素環式化合物(C)の濃度が上記範囲であればよく、通常5〜100倍程度である。
【0079】
<防腐処理された金属加工油剤組成物又はクーラントの製造方法>
本発明に係る防腐処理された金属加工油剤組成物の製造方法は、水溶性金属加工油剤組成物に、組成物全体基準で成分(A)及び成分(B)から選ばれる少なくとも一種の化合物が0.1質量%以上15質量%以下、複素環式化合物(C)が0.01質量%以上5質量%以下となるように、該成分(A)及び成分(B)から選ばれる少なくとも一種の化合物と、該複素環式化合物(C)とを添加する工程を備えたものである。
【0080】
本発明に係る防腐処理されたクーラントの製造方法は、クーラントに、クーラント全体基準で成分(A)及び成分(B)から選ばれる少なくとも一種の化合物が0.02質量%以上3質量%以下、複素環式化合物(C)が0.002質量%以上1質量%以下となるように、該成分(A)及び成分(B)から選ばれる少なくとも一種の化合物と、該複素環式化合物(C)とを添加する工程を備えたものである。
【0081】
上記成分(A)及び/又は成分(B)、並びに、複素環式化合物(C)を含む水溶性金属加工油剤組成物が優れた防腐性等を備えることは、既に説明した通りである。一方、従来から用いられている一般的な水溶性金属加工油剤組成物に対しても、上記成分(A)及び成分(B)を添加することにより、優れた防腐性等を付与することができる。一般的な水溶性金属加工油剤組成物は、水を含有し、さらに上記任意成分として挙げた基油や界面活性剤等を含むものである。
【0082】
<金属加工方法>
本発明に係る金属加工方法は、上記成分(A)及び/又は成分(B)、並びに、複素環式化合物(C)を含む水溶性金属加工油剤組成物又はクーラントを用いて、金属を加工する工程を備える。すなわち、切削、研削或いは塑性加工等の金属加工の際、本発明に係る水溶性金属加工油剤組成物又はクーラントを被加工部に供給するものである。上述したように、本発明に係る水溶性金属加工油剤組成物又はクーラントは、優れた防腐性を備えるとともに、抗菌性アミン量を低減でき、また、pHを中性付近に調整して使用することが可能であるため、環境や人体への悪影響を抑制しながら金属加工を行うことができる。また、被加工金属として非鉄金属を用いた場合、当該非鉄金属の腐食を抑制しながら金属加工に供することもできる。
【実施例】
【0083】
以下、実施例に基づいて、本発明についてさらに詳述する。
【0084】
<実施例1〜11及び比較例1〜24、参考例1、2>
下記表1〜4で示したような組成となるように、実施例1〜11、比較例1〜24、及び、参考例1、2の各々の水溶性金属加工油剤組成物を調製した(尚、表中の各数値は「質量%」を意味する。)。調製した水溶性金属加工油剤組成物の含有量が5質量%となるように水道水で希釈し、クーラントを調製した。その後、それぞれのクーラント2000gを容量5Lの水槽に投入し、鋳物切り屑200gと、潤滑油(モービル石油性、商品名「バクトラ No.2 SLC」)40gとを添加し、ポンプで循環させた。次いで、種菌供給液として腐敗液(ユシローケンFGC822J腐敗液、バクテリア数:10CFU/ml、酵母数:2×10CFU/ml、カビ数:2×10CFU/ml)、及びカビ分散液(Fusarium Sorani種カビ分散液、カビ数:4×10CFU/ml)を準備し、循環開始から7日経過後、及び14日経過後に、腐敗液及びカビ分散液を各々20g追加添加した。試験は、室温(20℃〜25℃)で実施し、1日一回水道水を用いて蒸発水分の補給を実施した。
【0085】
このようにして、循環開始から28日間試験を継続し、循環開始から14日後及び28日後に各々のクーラントから試験液を採取して、バクテリア数、酵母数、カビ数を測定した。バクテリア数は、普通寒天培地を用い、段階希釈によるプレートカウント法により測定した。また、酵母数及びカビ数は、クロラムフェニコールを添加したポテトデキストロース寒天培地を用い、段階希釈によるプレートカウント法により測定した。
【0086】
判定は、上記測定法に基づき、以下の基準で実施した。
○:微生物(バクテリア、酵母、カビ)は検出されなかった。
△:微生物(バクテリア、酵母、カビ)は検出されたが、ブランク(比較例24)よりも少なかった。
×:ブランク(比較例24)と同等に微生物(バクテリア、酵母、カビ)が検出された。
【0087】
結果を表1〜4に示す。
【0088】
【表1】

【0089】
【表2】

【0090】
【表3】

【0091】
【表4】

【0092】
表1〜4から明らかなように、成分(A)又は成分(B)と複素環式化合物(C)とを含ませた実施例1〜11については、pHが中性付近であるにもかかわらず、14日及び28日経過後において、微生物は検出されなかった。本発明に係る水溶性金属加工油剤組成物は、高い抗菌・防腐効果を奏するものといえる。
【0093】
一方、成分(A)のみを含ませた形態、成分(B)のみを含ませた形態、或いは複素環式化合物(C)のみを含ませた形態である、比較例1〜24については、各成分添加量を増加させたとしても、充分な抗菌・防腐効果は得られなかった。
【0094】
すなわち、本発明に係る水溶性金属加工油剤組成物においては、成分(A)及び/又は成分(B)、並びに、複素環式化合物(C)を含ませることにより、抗菌・防腐効果が相乗的に優れたものとなることが分かる。
【0095】
以上のように本発明によれば、環境適合性やアルミ等の金属加工適性に優れた中性油剤組成物を目指して鋭意検討の結果、これまで抗菌性分として切削油剤に用いられてこなかった成分(A)又は成分(B)を用い、ここに、これまでの油剤組成では速やかに分解されてしまい十分な効果を発揮することができない防腐剤(特にアミンにより速やかに分解されるが、バクテリアに対する優れた抗菌力を示すMIT)を含む成分(C)を組み合わせることで、それぞれの抗菌効果を理想的且つ相乗的に発揮せしめることができた。
【0096】
以上、現時点において、最も実践的であり、且つ、好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴うものもまた本発明の技術範囲に包含されるものとして理解されなければならない。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明に係る水溶性金属加工油剤組成物或いはクーラントは、切削、研削や塑性加工等の金属加工時の潤滑油及び冷却剤として好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
pHが6.5〜8.5であり、下記成分(A)及び下記成分(B)から選ばれる少なくとも一種の化合物と、複素環式化合物(C)とを含む、水溶性金属加工油剤組成物。
成分(A):下記一般式(1)で示される化合物
【化1】

(式(1)中、Rは炭素数6〜12の直鎖又は分岐鎖のアルキル基、アルケニル基又はアリール基を示し、Xはエチレングリコール基又はグリセロール基であり、nは1〜3の整数を示す。)
成分(B):下記一般式(2)で示される化合物
【化2】

(式(2)中、Rは炭素数6〜14の直鎖又は分岐鎖のアルキル基、アルケニル基又はアリール基を示し、mは0又は1を示し、Rは水素、メチル基又はエチル基を示す。)
【請求項2】
組成物全体基準で、前記成分(A)及び成分(B)から選ばれる少なくとも一種の化合物を0.6質量%以上15質量%以下、複素環式化合物(C)を0.03質量%以上5質量%以下含む、請求項1に記載の水溶性金属加工油剤組成物。
【請求項3】
実質的に抗菌性アミンを含まない、請求項1又は2に記載の水溶性金属加工油剤組成物。
【請求項4】
実質的にアミンを含まない、請求項1〜3のいずれか1項に記載の水溶性金属加工油剤組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の水溶性金属加工油剤組成物を希釈してなるクーラント。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の水溶性金属加工油剤組成物を希釈する工程を備え、
前記希釈する工程において、クーラント全体基準で、前記成分(A)及び成分(B)から選ばれる少なくとも一種の化合物の濃度を0.02質量%以上3質量%以下、及び、前記複素環式化合物(C)を0.002質量%以上1質量%以下とする、クーラントの製造方法。
【請求項7】
水溶性金属加工油剤組成物に、組成物全体基準で下記成分(A)及び成分(B)から選ばれる少なくとも一種の化合物が0.6質量%以上15質量%以下、複素環式化合物(C)が0.03質量%以上5質量%以下となるように、該成分(A)及び成分(B)から選ばれる少なくとも一種の化合物と、該複素環式化合物(C)とを添加する工程を備える、防腐処理された水溶性金属加工油剤組成物の製造方法。
成分(A):下記一般式(1)で示される化合物
【化3】

(式(1)中、Rは炭素数6〜12の直鎖又は分岐鎖のアルキル基、アルケニル基又はアリール基を示し、Xはエチレングリコール基又はグリセロール基であり、nは1〜3の整数を示す。)
成分(B):下記一般式(2)で示される化合物
【化4】

(式(2)中、Rは炭素数6〜14の直鎖又は分岐鎖のアルキル基、アルケニル基又はアリール基を示し、mは0又は1を示し、Rは水素、メチル基又はエチル基を示す。)
【請求項8】
クーラントに、クーラント全体基準で下記成分(A)及び成分(B)から選ばれる少なくとも一種の化合物が0.02質量%以上3質量%以下、複素環式化合物(C)が0.002質量%以上1質量%以下となるように、該成分(A)及び成分(B)から選ばれる少なくとも一種の化合物と、該複素環式化合物(C)とを添加する工程を備える、防腐処理されたクーラントの製造方法。
成分(A):下記一般式(1)で示される化合物
【化5】

(式(1)中、Rは炭素数6〜12の直鎖又は分岐鎖のアルキル基、アルケニル基又はアリール基を示し、Xはエチレングリコール基又はグリセロール基であり、nは1〜3の整数を示す。)
成分(B):下記一般式(2)で示される化合物
【化6】

(式(2)中、Rは炭素数6〜14の直鎖又は分岐鎖のアルキル基、アルケニル基又はアリール基を示し、mは0又は1を示し、Rは水素、メチル基又はエチル基を示す。)
【請求項9】
請求項1〜4のいずれか1項に記載された水溶性金属加工油剤組成物又は請求項5に記載されたクーラントを用いて金属を加工する工程を備える、金属加工方法。

【公開番号】特開2012−184363(P2012−184363A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−49440(P2011−49440)
【出願日】平成23年3月7日(2011.3.7)
【出願人】(000115083)ユシロ化学工業株式会社 (69)
【Fターム(参考)】