説明

水溶性鉄−炭水化物複合体、その製法、及びそれを含有する薬剤

鉄(III)塩水溶液と、アルカリ性pH値で次亜塩素酸水溶液を用い、1種又は複数種のマルトデキストリンを酸化した生成物の水溶液と、から生成することが可能な水溶性鉄−炭水化物複合体であって、1種のマルトデキストリンを使用した場合は、デキストロース当量を5〜20とし、複数種のマルトデキストリンの混合物を使用した場合は、当該混合物のデキストロース当量を5〜20とし、かつ、当該混合物中の個々のマルトデキストリンの各デキストロース当量を2〜40とした水溶性鉄−炭水化物複合体、その製法、及びそれを用いた鉄欠乏状態の治療用又は予防用の薬剤を提供する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、鉄欠乏性貧血の治療に使用する水溶性鉄−炭水化物複合体、その製法、それを含有する薬剤、及びそれの鉄欠乏性貧血の予防又は治療の使用に関する。
本薬剤は、非経口的施用に特に有用である。
【0002】
鉄欠乏性貧血は、鉄を含有する薬物を施用することによって治療又は予防することができる。この点に関し、鉄−炭水化物複合体を使用することが知られている。水溶性水酸化第二鉄−スクロース複合体は、頻繁にかつ首尾よく使用される薬剤である(下記非特許文献1参照)。
非経口的施用としては、鉄−デキストラン複合体並びにプルランを主成分とした複合体を使用することも知られている(下記特許文献1参照)。しかし、これを得ることは、高圧高温化で生成しなければならず、また水素化工程を必要とするため困難である。
経口的施用としては、その他の鉄−炭水化物複合体が知られている。
【0003】
【非特許文献1】Danielson, Salmonson,Derendorf, Geisser, DrugRes., Vol.46;615-621, 1996
【特許文献1】WO02/46241公報
【0004】
本発明の解決すべき課題は、特に非経口的施用され、かつ、容易に滅菌することができる鉄剤を提供する。従来のスクロース又はデキストランを主成分とした非経口的施用可能な薬剤は、最高100℃までしか安定せず、滅菌することが困難であった。また、本発明が提供する薬剤は、毒性が低く、デキストランによって誘発される可能性のある危険なアナフィラキシー性ショックを回避できなければならない。さらに、薬剤の複合体の安定性は、高い投薬量、及び高施用率を可能にするため高くなければならない。鉄剤は、過大な労力をかけず、容易に得ることができる出発物質から生成されるのがよい。
【0005】
本発明では、上記課題をマルトデキストリンの酸化生成物を主成分とした鉄(III)−炭水化物複合体により解決できる。本発明の目的は、鉄(III)塩水溶液と、アルカリ性pH、例えばpH8〜12の次亜塩素酸水溶液を用いて1種又は複数種のマルトデキストリンを酸化した生成物の水溶液と、から生成される水溶性鉄−炭水化物複合体を提供することであって、1種のマルトデキストリンを使用した場合は、デキストロース当量を5〜20とし、複数種のマルトデキストリンの混合物を使用した場合は、当該混合物のデキストロース当量を5〜20とし、かつ、当該混合物中の個々のマルトデキストリンの各デキストロース当量を2〜40とした水溶性鉄−炭水化物複合体である。
【0006】
本発明の別の目的は、本発明の鉄−炭水化物複合体を生成する製法を提供することであり、次亜塩素酸塩水溶液を使用し、アルカリ性pHが、例えばpH8〜12である水溶液中で1種又は複数種のマルトデキストリンを酸化し、生成した溶液を鉄(III)塩水溶液と反応させる製法であって、1種のマルトデキストリンを使用した場合は、デキストロース当量を5〜20とし、複数種のマルトデキストリンの混合物を使用した場合は、当該混合物のデキストロース当量を5〜20とし、かつ、当該混合物中の個々のマルトデキストリンの各デキストロース当量を2〜40とした水溶性鉄−炭水化物複合体の製法である。
【0007】
本発明で使用するマルトデキストリンは容易に得ることができる出発物質であり、市販されているものである。
【0008】
本発明の複合体のリガンドを調整するため、マルトデキストリンを次亜塩素酸塩水溶液中で酸化する。好適な一例としては、次亜塩素酸ナトリウムのようなアルカリ性の次亜塩素酸塩の溶液がある。この溶液は、市販の溶液を使用してもよい。次亜塩素酸塩溶液の濃度は、活性塩素を基準として計算した場合、例えば少なくとも13重量%であり、好ましくは13〜16重量%程度である。好ましくは、この溶液は、マルトデキストリン1分子当たり1のアルデヒド基の約80〜100%、好適には約90%が酸化される量で使用する。これにより、マルトデキストリン分子のグルコース分によって引き起こされる反応性が、20%かそれ以下、好ましくは10%かそれ以下に低下する。
【0009】
酸化は、アルカリ性溶液中、一例としてpH8〜12、他例としてpH9〜11で実施する。例えば、酸化は、15〜40℃程度の温度、好ましくは25〜35℃の温度で実施する。反応時間は、一例として10分〜4時間程度、他例として1〜1.5時間とする。
【0010】
この調整により、出発時のマルトデキストリンの解重合率が最小限に抑えられる。理論上では、酸化が主にマルトデキストリン分子の末端アルデヒド基(それぞれのアセタール基又はセミアセタール基)で生ずるためと思われる。
【0011】
マルトデキストリンの酸化反応に触媒を用いることも可能である。臭化物イオンを、例えば臭化ナトリウムなどのアルカリ臭化物の形で添加するのがよい。添加する臭化物の量は特に限定するものではない。最終生成物(Fe−複合体)が容易に精製されるように、添加量はできるだけ少なくする。触媒の量は十分である。上述のように臭化物を添加してもよいが、必ずしも添加しなくともよい。
【0012】
マルトデキストリンの酸化には、その他の酸化系を用いることができ、例えば、既知の三元酸化系である次亜塩素酸塩/アルカリ臭化物/2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(TEMPO)などを用いることもできる。マルトデキストリンを、アルカリ臭化物などの触媒又は三元TEMPO系で酸化する方法は、例えばCarbohydrate Reserch 330(2001)のp.21〜29に記載されており、本発明は、この方法を用いることができる。
【0013】
本発明の複合体を調整するため、得られた酸化マルトデキストリンを、水溶液中で鉄(III)塩と反応させる。そのためには、酸化マルトデキストリンを分離し、再溶解させるのがよい。或いは、生成した酸化マルトデキストリン水溶液を直接に水溶液と反応させることもできる。
【0014】
鉄(III)塩は、無機酸又は有機酸の水溶液の塩、或いはこれらの混合物、塩化物や臭化物などのハロゲン化物又は硫酸塩などを用いることができる。生理学的に許容できる塩を使用するのがよい。塩化鉄(III)の水溶液を用いるのが特に好ましい。
【0015】
塩化物イオンが存在すると、複合体の形成には好ましいことが知られている。塩化物イオンは、アルカリ金属塩化物のような水溶性塩化物、例えば塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化アンモニウムなどの形で用いることができる。上述したように、鉄(III)は塩化物の形で用いるのがよい。
【0016】
例えば、酸化マルトデキストリン水溶液と鉄(III)塩水溶液とを混合して反応させることができる。酸化マルトデキストリンと鉄(III)塩との混合中及び混合直後は、pHを強酸値とするか、或いは、鉄(III)塩の加水分解が発生しない非常に低いpH、例えばpH2かそれ以下とするのが好ましい。水酸化鉄の沈殿を避けるためである。一般的に、塩化鉄(III)を使用する場合、塩化鉄(III)水溶液は十分な酸性となるので、酸を添加することは必ずしも必要ではない。混合後、pHを、少なくとも5程度、最高で11、12、13、又は14までと上昇させる。pHは、ゆっくり又は徐々に上昇させることがよく、例えば、最初に弱塩基を添加して約pH3までとし、次いでより強い塩基を添加して中和させるのがよい。弱塩基の例としては、アルカリ又はアルカリ土類の炭酸塩、重炭酸塩などがあり、ナトリウム又はカリウムの炭酸塩、重炭酸塩、或いはアンモニアなどがある。強塩基の例としては、アルカリ又はアルカリ土類の水酸化物などがあり、ナトリウム、カリウム、カルシウム又はマグネシウムの水酸化物などがある。
【0017】
反応は、加熱により促進することができる。例えば、15℃程度から沸点までの温度を使用することができる。温度は、徐々に上昇させることが好ましい。例えば、約15℃〜70℃に加熱し、次いで沸点まで徐々に温度を上昇させることができる。
【0018】
反応時間は、例えば15分程度〜数時間とし、一例として20分〜4時間、他例として25分〜70分、さらに他例として30分〜60分とする。
【0019】
反応は、弱酸範囲、例えばpH5〜6程度で実施できる。複合体を形成中には、11、12、13又は14までのより高いpHに上昇させることが有用なことが知られているが、必ずしもこのように行う必要はない。反応を終了させるため、酸を添加し、pHを低下、例えばpH5〜6程度に低下させるのがよい。無機酸又は有機酸、或いはこれらの混合物、特に、塩化水素などのハロゲン化水素酸又は塩酸水溶液等をそれぞれ使用することができる。
【0020】
上述のように、複合体の形成は、一般的に、加熱により促進される。従って、本発明の好ましい実施形態において、pHを、少なくとも5から11又は14までの範囲に上昇させ、例えば、初めは15〜70℃程度、一例として40〜60℃、他例として約50℃などのより低い温度で行い、その後、pHを少なくとも5程度まで低下させ、温度を沸点まで徐々に上昇させることができる。
【0021】
反応時間は、15分から最長数時間程度であり、反応温度に応じて変えるのがよい。反応をpH5よりも高い中間のpHで行う場合は、例えば、15〜70分、一例として30〜60分で行い、より高いpHで行う場合は、例えば70℃までの温度で実施し、その後、pHを少なくともpH5程度まで低下させ、反応をさらに15〜70分、一例として30〜60分で、例えば70℃までの温度で行い、任意でさらに15〜70分、一例として30〜60分で、沸点までのより高い温度で行う。
【0022】
反応後、得た溶液を、例えば室温まで冷却するのがよく、また、任意で希釈し、濾過してもよい。冷却後、pHを、中性点或いはそれよりも僅かに低いpH、例えば、pH5〜中性点に酸又は塩基を添加して調整する。例えば、反応の実施で述べた酸又は塩基を用いることができる。得た溶液を精製し、これを直接に薬剤の生成に使用できる。また、鉄(III)複合体は、アルカノールなどのアルコール、例えばエタノールで沈殿させることにより溶液から分離することもできる。分離は、噴霧乾燥などにより行うこともできる。精製は、特に塩を除去するため、一般的な方法で行うことができる。例えば、逆浸透により行うことができる。逆浸透は、乾燥噴霧の前、又は薬剤を直接に施用する前に行うのがよい。
【0023】
得た鉄(III)−炭水化物複合体の鉄含量は、例えば10〜40%(重量/重量)、特に20〜35%である。これは容易に水に溶かすことができる。例えば、鉄含量が、1〜20%(重量/容量)の中性水溶液とすることができる。この水溶液は、熱で滅菌することができる。得た複合体の重量平均分子量mwは、例えば80〜400kDa、好ましくは80〜350kDa、特に好ましくは最高300kDaまでである(Geisser et al, in Arzneim, Forsch/DrugRes 42(II), 12, 1439-1452(1992), paragraph 2.2.5に記載されているゲル透過クロマトグラフィで測定した場合)。
【0024】
上述のように、本発明の複合体から水溶液を提供することができる。これら溶液は、非経口的施用に特に有用である。経口的又は局所的に施用することもできる。公知の非経口的施用ができる鉄剤とは対照的に、この溶液は、F≧15を獲得することにより、高温、例えば121℃以上で、短い接触時間、例えば15分程で滅菌できる。接触時間は、より高い温度では、より短縮することができる。従来の調剤は、滅菌状態で濾過しなければならず、かつ、ベンジルアルコールやフェノールなどの保存剤を混合しなければならなかった。そのような添加は必ずしも必要ではない。したがって、複合体の溶液を、例えばアンプルに充填することができる。一例として1〜20重量%、他例として5重量%含有する溶液を、一例として2〜100ml、他例として最大で50mlまでのアンプル又はバイアルなどの容器に充填することができる。非経口的施用が可能な溶液の調製は、当該技術分野で知られている方法で行うことができ、任意で一般的に非経口的溶液に用いる添加剤を使用してもよい。溶液は、注射又は輸液形態、例えば食塩水溶液にして投与可能に処方できる。経口的又は局所的施用では、一般的に用いられる賦形剤或いは添加剤と共に処方することができる。
【0025】
本発明の別の目的は、非経口的、静脈内施用だけでなく、筋肉内施用、或いは経口的、局所的施用にも特に有用な水性薬剤を提供することであり、鉄欠乏性貧血の治療に特に有用なものである。また、本発明の別の目的は、本発明の鉄(III)−炭水化物複合体を鉄欠乏性の治療又は予防のために使用する、特に鉄欠乏性貧血を非経口的に治療する薬剤の生成のために使用することである。この薬剤は、ヒト又は動物の医薬に使用することができる。
【0026】
本発明の鉄(III)−炭水化物複合体で実現される利点は、上述の高い滅菌温度、低い毒性、及びアナフィラキシー性ショックの危険を縮減できる点にある。本発明の複合体の毒性は非常に低い。既知のプルラン複合体のLD50が1400mgFe/kgであるのに比べ、本願発明の複合体のLD50は、2000mgFe/kgを超える。本発明の複合体の高い安定性により、施用速度ならびに投薬量を高めることができる。このように、本発明の薬剤は、単回用量で非経口的に施用することができ、その単回用量は、例えば鉄500〜1000mgであり、例えば1時間の間に施用することができる。他の利点は、出発物質として用いるマルトデキストリンが入手しやすいことであり、例えば、食品加工産業における市販の添加剤を用いることができる。
【0027】
本発明の記述ならびに以下の実施例において、デキストロース当量は重量測定法で測定する。そのためには、マルトデキストリンを沸騰水溶液中でフェ−リング溶液と反応させる。この反応は定量的に行い、すなわちフェーリング溶液がもはや変色しなくなるまで行う。沈殿した酸化銅(I)は、恒量となるまで105℃で乾燥させ、重量測定法で測定した。グルコース含量(デキストロース当量)は、マルトデキストリン乾燥物質の%(重量/重量)から計算される。例えば、以下の溶液を使用することができる。25mlのフェーリング溶液Iと25mlのフェーリング溶液IIとを混合したもの;10mlのマルトデキストリン水溶液(10%mol/容量)(フェーリング溶液I:硫酸銅(II)34.6gを500mlの水に溶解したもの;フェーリング溶液II:酒石酸ナトリウムカリウム173gと水酸化ナトリウム50gとを400mlの水に溶解したもの)。
【実施例1】
【0028】
マルトデキストリン(重量測定法で測定した場合9.6デキストロース当量)100gを、25℃で300mlの水に攪拌して溶解し、pH10で次亜塩素酸ナトリウム溶液(13〜16重量%の活性塩素)30gを添加して酸化した。
【0029】
初めに、酸化したマルトデキストリン溶液を、次に、炭酸ナトリウム溶液(17.3%(重量/重量))554gを、攪拌した塩化鉄(III)溶液(12Fe%(重量/重量))352gに室温で添加した。
【0030】
水酸化ナトリウムを添加してpH11に調整し、この溶液を50℃に加熱し、50℃で30分間保持した。次に、塩酸を加えてpH5〜6の酸性化を行い、この溶液を50℃で30分間保持した後、97〜98℃に熱し、この温度で30分間保持した。溶液を室温まで冷却した後、水酸化ナトリウムを添加してpH6〜7に調整した。
【0031】
溶液を滅菌フィルターで濾過し、沈降物を検査した。その後、複合体を1:0.85の範囲のエタノールで沈殿させて分離し、50℃で真空乾燥した。
【0032】
収量は、褐色の非晶質粉末が125g(理論値の87%に相当)であり、その鉄含量は29.3%(重量/重量)であった(錯滴定により測定した場合)。
【0033】
分子量mwは271kDaであった。
【実施例2】
【0034】
マルトデキストリン(重量分析により測定した場合9.6デキストロース当量)200gを、25℃で300mlの水に攪拌して溶解し、pH10で次亜塩素酸ナトリウム溶液(13〜16重量%の活性塩素)30gを添加して酸化した。
【0035】
初めに、酸化したマルトデキストリン溶液を、次に炭酸ナトリウム溶液(17.3%(重量/重量))554gを、攪拌した塩化鉄(III)溶液(12Fe%(重量/重量))352gに室温で添加した。
【0036】
水酸化ナトリウムを添加してpH11に調整し、この溶液を50℃に加熱し、50℃で30分間保持した。次に、塩酸を加えてpH5〜6の酸性化を行い、この溶液をさらに50℃で30分間保持した。溶液を97〜98℃に加熱し、この温度で30分間保持した。溶液を室温まで冷却した後、水酸化ナトリウムを添加してpH6〜7に調整した。
【0037】
溶液を滅菌フィルターで濾過し、沈降物を検査した。その後、複合体を1:0.85の範囲のエタノールで沈殿させて分離し、50℃で真空乾燥した。
【0038】
収量は、褐色の非晶質粉末が123g(理論値の65%に相当)であり、その鉄含量は22.5%(重量/重量)であった(錯滴定により測定した場合)。
【0039】
分子量mwは141kDaであった。
【実施例3】
【0040】
マルトデキストリン(重量分析により測定した場合9.6デキストロース当量)100gを、25℃で300mlの水に攪拌して溶解し、pH10で次亜塩素酸ナトリウム溶液(13〜16重量%の活性塩素)30g及び臭化ナトリウム0.7gを添加して酸化した。
【0041】
初めに、酸化したマルトデキストリン溶液を、次に、炭酸ナトリウム溶液(17.3%(重量/重量))554gを、攪拌した塩化鉄(III)溶液(12Fe%(重量/重量))352gに室温で添加した。
【0042】
水酸化ナトリウムを添加してpH6.5に調整し、この溶液を50℃に加熱し、50℃で60分間保持した。次に、塩酸を加えてpH5〜6の酸性化を行い、この溶液をさらに50℃で30分間保持した。溶液を97〜98℃に加熱し、この温度で30分間保持した。溶液を室温まで冷却した後、水酸化ナトリウムを添加してpH6〜7に調整した。
【0043】
溶液を滅菌フィルターで濾過し、沈降物を検査した。その後、複合体を1:0.85の範囲のエタノールで沈殿させて分離し、50℃で真空乾燥した。
【0044】
収量は、褐色の非晶質粉末が139g(理論値の88%に相当)であり、その鉄含量は26.8%(重量/重量)であった(錯滴定により測定した場合)。
【0045】
分子量mwは140kDaであった。
【実施例4】
【0046】
マルトデキストリン(重量分析により測定した場合6.6デキストロース当量)45gとマルトデキストリン(重量分析により測定した場合14.0デキストロース当量)45gとの混合物を、25℃で300mlの水に攪拌して溶解し、pH10で次亜塩素酸ナトリウム溶液(13〜16重量%の活性塩素)25g及び臭化ナトリウム0.6gを添加して酸化した。
【0047】
初めに、酸化したマルトデキストリン溶液を、次に、炭酸ナトリウム溶液(17.3%(重量/重量))554gを、攪拌した塩化鉄(III)溶液(12Fe%(重量/重量))352gに室温で添加した。
【0048】
水酸化ナトリウムを添加してpH11に調整し、この溶液を50℃に加熱し、50℃で30分間保持した。次に、塩酸を加えてpH5〜6の酸性化を行い、この溶液をさらに50℃で30分間保持した。溶液を97〜98℃に加熱し、この温度で30分間保持した。溶液を室温まで冷却した後、水酸化ナトリウムを添加してpH6〜7に調整した。
【0049】
溶液を滅菌フィルターで濾過し、沈降物を検査した。その後、複合体を1:0.85の範囲のエタノールで沈殿させて分離し、50℃で真空乾燥した。
【0050】
収量は、褐色の非晶質粉末が143g(理論値の90%に相当)であり、その鉄含量は26.5%(重量/重量)であった(錯滴定により測定した場合)。
【0051】
分子量mwは189kDaであった。
【実施例5】
【0052】
マルトデキストリン(重量分析により測定した場合14.0デキストロース当量)90gを、25℃で300mlの水に攪拌して溶解し、pH10で次亜塩素酸ナトリウム溶液(13〜16重量%の活性塩素)35g及び臭化ナトリウム0.6gを添加して酸化した。
【0053】
初めに、酸化したマルトデキストリン溶液を、次に、炭酸ナトリウム溶液(17.3%(重量/重量))554gを、攪拌した塩化鉄(III)溶液(12Fe%(重量/重量))352gに室温で添加した。
【0054】
水酸化ナトリウムを添加してpH11に調整し、この溶液を50℃に加熱し、50℃で30分間保持した。次に、塩酸を加えてpH5〜6の酸性化を行い、この溶液をさらに50℃で30分間保持した。溶液を97〜98℃に加熱し、この温度で30分間保持した。溶液を室温まで冷却した後、水酸化ナトリウムを添加してpH6〜7に調整した。
【0055】
溶液を滅菌フィルターで濾過し、沈降物を検査した。その後、複合体を1:0.85の範囲のエタノールで沈殿させて分離し、50℃で真空乾燥した。
【0056】
収量は、褐色の非晶質粉末が131g(理論値の93%に相当)であり、その鉄含量は29.9%(重量/重量)であった(錯滴定により測定した場合)。
【0057】
分子量mwは118kDaであった。
【実施例6】
【0058】
マルトデキストリン(重量分析により測定した場合5.4デキストロース当量)45gとマルトデキストリン(重量分析により測定した場合18.1デキストロース当量)45gとの混合物を、25℃で300mlの水に攪拌して溶解し、pH10で次亜塩素酸ナトリウム溶液(13〜16重量%の活性塩素)31g及び臭化ナトリウム0.7gを添加して酸化した。
【0059】
初めに、酸化したマルトデキストリン溶液を、次に、炭酸ナトリウム溶液(17.3%(重量/重量))554gを、攪拌した塩化鉄(III)溶液(12Fe%(重量/重量))352gに室温で添加した。
【0060】
水酸化ナトリウムを添加してpH11に調整し、この溶液を50℃に加熱し、50℃で30分間保持した。次に、塩酸を加えてpH5〜6の酸性化を行い、この溶液をさらに50℃で30分間保持した。溶液を97〜98℃に加熱し、この温度で30分間保持した。溶液を室温まで冷却した後、水酸化ナトリウムを添加してpH6〜7に調整した。
【0061】
溶液を滅菌フィルターで濾過し、沈降物を検査した。その後、複合体を1:0.85の範囲のエタノールで沈殿させて分離し、50℃で真空乾燥した。
【0062】
収量は、褐色の非晶質粉末が134g(理論値の88%に相当)であり、その鉄含量は27.9%(重量/重量)であった(錯滴定により測定した場合)。
【0063】
分子量mwは178kDaであった。
【実施例7】
【0064】
マルトデキストリン(重量分析により測定した場合9.6デキストロース当量)100gを、25℃で300mlの水に攪拌して溶解し、pH10で次亜塩素酸ナトリウム溶液(13〜16重量%の活性塩素)29g及び臭化ナトリウム0.7gを添加して酸化した。
【0065】
初めに、酸化したマルトデキストリン溶液を、次に、炭酸ナトリウム溶液(17.3%(重量/重量))554gを、室温で攪拌した塩化鉄(III)溶液(12Fe%(重量/重量))352gに添加した。
【0066】
水酸化ナトリウムを添加してpH11に調整し、この溶液を50℃に加熱し、50℃で30分間保持した。次に、塩酸を加えてpH5〜6の酸性化を行い、この溶液をさらに50℃で30分間保持した。溶液を室温まで冷却した後、水酸化ナトリウムを添加してpH6〜7に調整した。
【0067】
溶液を滅菌フィルターで濾過し、沈降物を検査した。その後、複合体を1:0.85の範囲のエタノールで沈殿させて分離し、50℃で真空乾燥した。
【0068】
収量は、褐色の非晶質粉末が155g(理論値の90%に相当)であり、その鉄含量は24.5%(重量/重量)であった(錯滴定により測定した場合)。
【0069】
分子量mwは137kDaであった。
【実施例8】
【0070】
マルトデキストリン(重量分析により測定した場合6.6デキストロース当量)126gを、25℃で300mlの水に攪拌して溶解し、pH10で次亜塩素酸ナトリウム溶液(13〜16重量%の活性塩素)24g及び臭化ナトリウム0.7gを添加して酸化した。
【0071】
初めに、酸化したマルトデキストリン溶液を、次に、炭酸ナトリウム溶液(17.3%(重量/重量))554g、攪拌した塩化鉄(III)溶液(12Fe%(重量/重量))352gに室温で添加した。
【0072】
水酸化ナトリウムを添加してpH11に調整し、この溶液を50℃に加熱し、50℃で30分間保持した。次に、塩酸を加えてpH5〜6の酸性化を行い、この溶液をさらに50℃で70分間保持した。溶液を室温まで冷却した後、水酸化ナトリウムを添加してpH6〜7に調整した。
【0073】
溶液を滅菌フィルターで濾過し、沈降物を検査した。その後、複合体を1:0.85の範囲のエタノールで沈殿させて分離し、50℃で真空乾燥した。
【0074】
収量は、褐色の非晶質粉末が171g(理論値の86%に相当)であり、その鉄含量は21.35%(重量/重量)であった(錯滴定により測定した場合)。
【0075】
分子量mwは170kDaであった。
【0076】
(比較試験)
以下の表では、本発明の鉄−炭水化物複合体の特徴を市販の鉄−スクロース複合体と比較した。本発明は、鉄含量を高めることができ、熱処理を高い温度で実施することができ、毒性(LD50)を低下させることができることが見出せた。
【0077】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄(III)塩水溶液と、アルカリ性pH値の次亜塩素酸水溶液を用いて1種又は複数種のマルトデキストリンを酸化した生成物の水溶液と、から生成することが可能な水溶性鉄−炭水化物複合体であって、
1種のマルトデキストリンを使用した場合は、デキストロース当量を5〜20とし、
複数種のマルトデキストリンの混合物を使用した場合は、当該混合物のデキストロース当量を5〜20とし、かつ、当該混合物中の個々のマルトデキストリンの各デキストロース当量を2〜40とした水溶性鉄−炭水化物複合体。
【請求項2】
請求項1に記載の水溶性鉄−炭水化物複合体の製法であって、
次亜塩素酸塩水溶液を使用し、アルカリ性pH値の水溶液中で1種又は複数種のマルトデキストリンを酸化し、生成した溶液を鉄(III)塩水溶液と反応させる製法であって、
1種のマルトデキストリンを使用した場合は、デキストロース当量を5〜20とし、
複数種のマルトデキストリンの混合物を使用した場合は、当該混合物のデキストロース当量を5〜20とし、かつ、当該混合物中の個々のマルトデキストリンの各デキストロース当量を2〜40とした水溶性鉄−炭水化物複合体の製法。
【請求項3】
1種又は複数種のマルトデキストリンの酸化を臭化物イオンの存在下で実施することを特徴とする請求項2に記載の製法。
【請求項4】
鉄(III)塩として塩化鉄(III)を用いたことを特徴とする請求項2又は3に記載の製法。
【請求項5】
酸化したマルトデキストリンと鉄(III)塩とを混合して鉄(III)塩の加水分解が生じない低さのpH値を有する水溶液を形成し、その後、塩基を添加してpH値を5〜12に上昇させることを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載の製法。
【請求項6】
反応を、15℃から沸点までの温度で15分から数時間まで行うことを特徴とする請求項3〜5のいずれかに記載の製法。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の鉄−炭水化物複合体の水溶液又は請求項3〜6のいずれか一項に記載の製法により生成した鉄−炭水化物複合体の水溶液を含有する薬剤。
【請求項8】
非経口的又は経口的施用のために処方される請求項7に記載の薬剤。
【請求項9】
鉄欠乏症の治療又は予防のための請求項1に記載の鉄−炭水化物複合体又は請求項2〜6のいずれか一項に記載の製法により生成した鉄−炭水化物複合体の使用。
【請求項10】
鉄欠乏症の治療用又は予防用の薬剤を生成するための請求項1に記載の鉄−炭水化物複合体又は請求項2〜6のいずれか一項に記載の製法により生成した鉄−炭水化物複合体の使用。
【請求項11】
鉄欠乏症の治療用又は予防用の請求項1に記載の水溶性鉄−炭水化物複合体。

【公表番号】特表2006−505638(P2006−505638A)
【公表日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−545899(P2004−545899)
【出願日】平成15年10月20日(2003.10.20)
【国際出願番号】PCT/EP2003/011596
【国際公開番号】WO2004/037865
【国際公開日】平成16年5月6日(2004.5.6)
【出願人】(505150084)ヴィフォー・インターナショナル・アーゲー (10)
【Fターム(参考)】