説明

水溶性高分子化合物、その製造方法およびそれを含む表面処理剤

【課題】ガラス等の基材にコーティングし、基材表面に親水性を付与し、親水性を保持することができる水溶性高分子化合物、その製造方法およびこの水溶性高分子化合物を含む表面処理剤を提供すること。
【解決手段】アルケニルアミノアルコキシシランモノマーから得られる単位とアルケニルアミノ4級アンモニウム塩モノマーから得られる単位とを含む水溶性高分子化合物、または構成成分としてさらにアルケニルアミンモノマーから得られる単位を含む水溶性高分子化合物、その製造方法および水溶性高分子化合物を含む表面処理剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水溶性高分子重合体、その製造方法およびそれを含む表面処理剤に関する。さらに詳しくは、基材に親水性を付与できる水溶性高分子重合体、その製造方法およびそれを含む表面処理剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス等の基材の防汚性、防曇性、帯電防止性、染色促進性を増強したり、調節するため、基材に様々な強度の親水性を付与することが求められている。このため、特許文献1、段落[0003]に記載されているように、親水性ないし水溶性物質を基材表面に塗布する方法が提案されているが、このような方法では、親水性ないし水溶性物質が基材と化学結合し得る基、例えば基材がガラスである場合にはアルコキシシリル基を含まない場合、基材と親水性ないし水溶性物質とが共有結合できず、その結果、その親水性ないし水溶性物質が水により洗い流されて基材の表面の親水性を十分なレベルに長期にわたり持続することが困難である。
【0003】
一方、アルコキシシリル基を有するシランカップリング剤は、ガラス等の基材の表面の性質を改善でき、また、樹脂等の接着対象物を接着できる点から表面処理剤として幅広く用いられている。近年、そのようなシランカップリング剤としてアルコキシシリル基と末端1級アミノ基とを含む水溶性高分子化合物の使用が提案されている(特許文献2参照)。この水溶性高分子化合物は、アルコキシシリル基を有するので基材と共有結合しやすく、また、アミノ基を有するので、さらに種々の置換基を導入することが簡単で接着対象物と結合しやすい。そのため、この水溶性高分子化合物は、機械的強度、耐水耐煮沸性、耐候性等の改善効果に優れたプライマーあるいは複合材料用改質剤となり得るコーティング剤として有用であるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−294157号公報
【特許文献2】特開2008−174604号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、かかる状況下で、特許文献2に記載された、アルコキシシリル基と末端1級アミノ基とを含む水溶性高分子化合物をガラス等の基材にコーティングし、基材表面に親水性を付与することを試みた。その結果、水溶性高分子化合物を用いているにもかかわらず、基材表面の親水性が不十分な場合や逆に下がる場合があることを発見した。
したがって、本発明が解決しようとする課題は、ガラス等の基材にコーティングし、基材表面に親水性を十分に付与し、親水性を長期間にわたって保持することができる新規な水溶性高分子化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、(1)ポリ(アルケニルアミン)にグリシジルアルコキシシランとグリシジル4級アンモニウム塩とを反応させることにより、アルコキシシリル基と4級アンモニウム基を含む新規水溶性高分子化合物が得られること、(2)この水溶性高分子化合物をガラス等の基材にコーティングすると、基材表面の親水性を向上させることができ、親水性を長期間にわたり保持できること、(3)この水溶性高分子化合物は、基材表面に親水性を付与するための表面処理剤として有効であることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は、下記の[1]〜[4]からなるものである。
[1]構成成分として一般式(I)
【化1】


(ただし、Aは直接結合、酸素原子またはCHRを示し、R、Rは独立に炭素数1〜3のアルキル基を示し、Rは水素原子または炭素数1〜3のアルキル基を示し、nは0または1を示し、xは1〜5の整数を示し、aは1〜3の整数を示す)
で表される、アルケニルアミノアルコキシシランモノマーから得られる単位と、一般式(II)
【化2】


(ただし、R、R、Rは独立に炭素数1〜3のアルキル基を示し、Xはカウンターイオンを示し、nは0または1を示し、yは1〜5の整数を示す)
で表される、アルケニルアミノ4級アンモニウム塩モノマーから得られる単位とを含むことを特徴とする水溶性高分子化合物。
[2]構成成分としてさらに一般式(III)
【化3】


(ただし、nは0または1を示す)
で表される、アルケニルアミンモノマーから得られる単位を含む上記[1]に記載の水溶性高分子化合物。
[3]一般式(III)
【化4】


(ただし、nは0または1を示す)
を構成成分として含むポリ(アルケニルアミン)に、一般式(IV)
【化5】


(ただし、Aは直接結合、酸素原子またはCHRを示し、R、Rは独立に炭素数1〜3のアルキル基を示し、Rは水素原子または炭素数1〜3のアルキル基を示し、xは1〜5の整数を示し、aは1〜3の整数を示す)
で表されるグリシジルアルコキシシランと、一般式(V)
【化6】


(ただし、R、R、Rは独立に炭素数1〜3のアルキル基を示し、Xはカウンターイオンを示し、yは1〜5の整数を示す)
で表されるグリシジル4級アンモニウム塩とを反応させることを特徴とする上記[1]項または[2]項に記載の水溶性高分子化合物の製造方法。
[4]上記[1]項または[2]項に記載の水溶性高分子化合物を含むことを特徴とする表面処理剤。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ガラス等の基材にコーティングし、基材表面に親水性を付与し、親水性を長期間にわたり保持することができるアルコキシシリル基とアミノ基を含む水溶性高分子化合物、その水溶性高分子化合物の製造方法およびその水溶性高分子化合物を含む表面処理剤を提供できる。
本発明の水溶性高分子化合物が、基材に親水性を付与し、親水性を長期間にわたり保持することができるのは、この水溶性高分子化合物中に、親水性付与基である4級アンモニウム塩と基材と共有結合し得るアルコキシシリル基とを含有するからと考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[水溶性高分子化合物およびその製造方法]
本発明の水溶性高分子化合物は、構成成分として一般式(I)
【0010】
【化7】


(ただし、Aは直接結合、酸素原子またはCHRを示し、R、Rは独立に炭素数1〜3のアルキル基を示し、Rは水素原子または炭素数1〜3のアルキル基を示し、nは0または1を示し、xは1〜5の整数を示し、aは1〜3の整数を示す)
で表される、アルケニルアミノアルコキシシランモノマーから得られる単位と、一般式(II)
【0011】
【化8】


(ただし、R、R、Rは独立に炭素数1〜3のアルキル基を示し、Xはカウンターイオンを示し、nは0または1を示し、yは1〜5の整数を示す)
で表される、アルケニルアミノ4級アンモニウム塩モノマーから得られる単位とを含む。
【0012】
上記式(I)中、R、Rはメチル基、エチル基、プロピル基を例示でき、Rは水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基を例示できる。
上記式(II)中、R、R、Rはメチル基、エチル基、プロピル基を例示できる。XはCl、Br、Iを例示できるが、水溶性の点からClが好ましい。
【0013】
本発明において、アルケニルアミノアルコキシシランモノマーから得られる単位(I)とアルケニルアミノ4級アンモニウム塩モノマーから得られる単位(II)のモル比は、(I)/(II)の比として1/99〜20/80が好ましく、2/98〜18/82がさらに好ましく、4/96〜15/85が特に好ましい。その比が小さすぎると、水溶性高分子化合物中のアルコキシシリル基が少なくなり、基材と水溶性高分子化合物との結合がしにくく、その比が大きすぎると、水溶性高分子化合物中のアルコキシシリル基が多くなり、4級アンモニウム基が少なくなって、水溶性高分子化合物を含む表面処理剤を製造するとき、溶媒に溶解しにくいため扱いにくいことがあるからである。
【0014】
本発明の水溶性高分子化合物においては、本発明の目的を損なわない限り、構成成分として単位(I)、単位(II)とともに第三の単位を含んでもよい。第三の単位を与えるモノマーとしては、目的化合物製造時に未反応の残余モノマー、原料のポリ(アルケニルアミン)中のマイナーな構成成分モノマー、原料のポリ(アルケニルアミン)の1級アミノ基に試薬を反応させて生成させるモノマーを例示できる。目的化合物製造時に未反応の残余モノマーとしては、アリルアミンモノマー、ビニルアミンモノマーを例示できる。原料のポリ(アルケニルアミン)中のマイナーな構成成分モノマーとしては、ジアリルアミンモノマー、ジアリルメチルアミンモノマー、ジアリルジアルキルアンモニウムクロリドを例示できる。原料のポリ(アルケニルアミン)の1級アミノ基に試薬を反応させて生成させるモノマーとしては、(炭素数2〜5のアシル)アルケニルアミンモノマー、(炭素数2〜5のアシルカルボニル)アルケニルアミンモノマーを例示できる。
第三の単位は、単位(I)、単位(II)および第三の単位の合計に対し、20モル%以下が好ましく、10モル%以下がさらに好ましく、5モル%以下が特に好ましい。第三の単位が20モル%を超えると、単位(I)と単位(II)が少なくなり、水溶性高分子化合物中のアルコキシシリル基と4級アンモニウム基が少なくなって、親水性およびその保持性が低下することがあるからである。
【0015】
例えば、本発明の水溶性高分子化合物においては、第三の単位として、一般式(III)
【0016】
【化9】


(ただし、nは0または1を示す)
で表される、アルケニルアミンモノマーから得られる単位を含んでも良い。
この場合も、アルケニルアミンモノマーから得られる単位(III)は、上記単位(I)、単位(II)および単位(III)の合計に対し、20モル%以下が好ましく、10モル%以下がさらに好ましく、5モル%以下が特に好ましい。
【0017】
本発明の水溶性高分子化合物の分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法によるポリエチレングリコール換算の重量平均分子量(測定は、特開2005−213372号公報記載の方法で実施)で、500〜100,000の範囲にあることが好ましく、より好ましくは800〜30,000の範囲である。
【0018】
本発明の水溶性高分子化合物は、その化合物中に、特定の加水分解性シリル基(すなわちアルコキシシリル基)と4級アンモニウム基を複数含むことを特徴とする。本発明の水溶性高分子化合物は、ポリ(アルケニルアミン)のアミノ基と、エポキシ基含有シランカップリング剤およびエポキシ基含有4級アンモニウム塩とが反応し結合を形成することにより得られる。
より具体的には、エポキシ基含有シランカップリング剤およびエポキシ基含有4級アンモニウム塩中のエポキシ基が開環してアミノ基の窒素原子に結合した構造となる。
【0019】
すなわち、本発明の水溶性高分子化合物は、一般式(III)
【0020】
【化10】


(ただし、nは0または1を示す)
を構成成分として含むポリ(アルケニルアミン)に、一般式(IV)
【0021】
【化11】


(ただし、Aは直接結合、酸素原子またはCHRを示し、R、Rは独立に炭素数1〜3のアルキル基を示し、Rは水素原子または炭素数1〜3のアルキル基を示し、xは1〜5の整数を示し、aは1〜3の整数を示す)
で表されるグリシジルアルコキシシランと、一般式(V)
【0022】
【化12】


(ただし、R、R、Rは独立に炭素数1〜3のアルキル基を示し、Xはカウンターイオンを示し、yは1〜5の整数を示す)
で表されるグリシジル4級アンモニウム塩とを反応させることにより製造できる。
【0023】
本発明の水溶性高分子化合物の製造方法においては、原料として使用するグリシジルアルコキシシランモノマー(IV)とグリシジル4級アンモニウム塩モノマー(V)のモル比は、(IV)/(V)の比として1/99〜20/80が好ましく、2/98〜18/82がさらに好ましく、4/96〜15/85がさらに好ましい。その比が小さすぎると、水溶性高分子化合物中のアルコキシシリル基が少なくなり、基材と水溶性高分子化合物との結合がしにくく、その比が大きすぎると、水溶性高分子化合物中のアルコキシシリル基が多くなり、4級アンモニウム基が少なくなって、水溶性高分子化合物を含む表面処理剤を製造するとき、溶媒に溶解しにくいため扱いにくいことがあるからである。
【0024】
本発明の水溶性高分子化合物の製造方法においては、原料として使用されたグリシジルアルコキシシラン(IV)およびグリシジル4級アンモニウム塩(V)が水溶性高分子化合物中の単位(I)および単位(II)にそれぞれなるが、さらに第三のモノマーを用いて、第三の単位を含む水溶性高分子化合物を製造する場合、第三のモノマーは、全モノマーに対し、20モル%以下が好ましく、10モル%以下がさらに好ましく、5モル%以下が特に好ましい。なお、本発明において用いられる第三のモノマーは、複数のモノマーであってもよい。
【0025】
本発明の方法に用いるポリ(アルケニルアミン)としては、ポリアリルアミン、ポリビニルアミンが挙げられる。ポリ(アルケニルアミン)は構成成分としてアルケニルアミンモノマーから得られる単位を主に含む重合体である。
【0026】
本発明の方法において、原料のポリ(アルケニルアミン)にあらかじめ第三のモノマーを含ませておくことも可能である。
そのような第三のモノマーとしては、原料としてポリアリルアミンを用いる場合、ジアリルアミン、メチルジアリルアミン、アクリルアミドを例示でき、ポリビニルアミンを用いる場合、ビニルアセトアミド、ビニルホルミルアミドを例示することができる。
【0027】
本発明の方法において、第三のモノマーを含む水溶性高分子化合物を製造する場合には、ポリ(アルケニルアミン)に、グリシジルアルコキシシラン(IV)とグリシジル4級アンモニウム塩(V)とを反応させるときに、第三のモノマーを形成させるための試薬を存在させても良いし、その反応が終了した後、新たに第三のモノマーを形成させるための試薬を加えて反応させても良い。
【0028】
本発明の方法において第三のモノマーとして、(炭素数2〜5のアシル)アルケニルアミンモノマー、(炭素数2〜5のアシルカルボニル)アルケニルアミンモノマーを含む水溶性高分子化合物を製造する場合、第三のモノマーを形成させるための試薬としては、それぞれ、(炭素数2〜5のカルボン酸)の酸無水物、炭酸ジ(炭素数1〜4のアルキル)を用いることができる。
【0029】
本発明の方法に用いる原料のグリシジルアルコキシシランモノマー(IV)としては、グリシドキシメチルトリメトキシシラン、グリシドキシメチルメチルジメトキシシラン、グリシドキシメチルジメチルメトキシシラン、グリシドキシメチルトリエトキシシラン、グリシドキシメチルメチルジエトキシシラン、グリシドキシメチルジメチルエトキシシラン、3−グリシドキシ−2−メチルプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルジメチルメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルジメチルエトキシシランが特に好ましく、これらは単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0030】
本発明の方法に用いるグリシジル4級アンモニウム塩モノマー(V)としては、グリシジルトリメチルアンモニウムクロリド、グリシジルトリエチルアンモニウムクロリド、グリシジルメチルジエチルアンモニウムクロリド、グリシジルエチルジメチルアンモニウムクロリド、グリシジルプロピルジメチルアンモニウムクロリド、グリシジルプロピルジエチルアンモニウムクロリドを例示できる。
【0031】
本発明の方法において、ポリ(アルケニルアミン)にグリシジルアルコキシシラン(IV)とグリシジル4級アンモニウム塩(V)とを反応させるときには、溶媒として有機溶媒を用いることができる。有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類が好ましい。また、反応は、加熱下に行うのが好ましい。この場合、反応温度は25℃以上が好ましく、25〜100℃がさらに好ましく、28〜60℃が特に好ましい。
【0032】
本発明の方法において、溶媒の量は、原料として用いるポリ(アルケニルアミン)、グリシジルアルコキシシラン(IV)、グリシジル4級アンモニウム塩(V)の種類、量により適宜変えられるが、例えば、全原料の濃度として1〜80質量%である。
【0033】
[表面処理剤]
本発明の表面処理剤は、上述の本発明の水溶性高分子化合物を含むことを特徴とする。本発明の表面処理剤は、通常、溶媒を含む。溶媒としては、水や有機溶媒が用いられる。水および/または有機溶媒の含有量は、全体の1〜95質量%となるような量であり、特に2〜90質量%であることが好ましく、残部は水溶性高分子化合物である。
【0034】
有機溶剤としては、メタノール、エタノール等の低級アルコールが特に好ましい。実際に使用するには、例えば、水溶性高分子化合物を水および/または有機溶媒で溶解させた液、すなわち表面処理剤に、塩酸等の酸を加え、放置し、得られる液を基材に処理することが好ましい。
【0035】
本発明の表面処理剤は、含まれる水溶性高分子化合物がガラス等の基材と反応して化学結合を形成するアルコキシシリル基と親水性を付与する4級アンモニウム基とを含有するため、基材に親水性を付与し、その親水性を長期間保持できるので、基材表面の改質剤として好適に用いることができる。
本発明の表面処理剤で被覆または表面処理される基材としては、一般に加水分解性シリル基と反応し、結合を形成する無機材質であれば適用可能であり、基材の形状については特に指定されない。その中でも代表的な無機材質としては、シリカ等の無機フィラーやガラス繊維をはじめとしたガラスクロス、スライドガラス、ガラステープ、ガラスマット、ガラスペーパー等のガラス繊維製品、セラミック、鉄、アルミニウム、銅、銀、金、マグネシウム等の金属基材等が挙げられる。
【0036】
本発明の表面処理剤の上記基材への被覆または表面処理方法は特に限定されるものではないが、フローコート(浸漬法)、スピンコート等が好ましく挙げられる。また被覆または表面処理後の硬化条件としては、加熱・乾燥が挙げられ、60℃〜200℃、好ましくは80℃〜160℃で、例えば5分〜2時間加熱・乾燥することが好ましい。
【実施例】
【0037】
以下、実施例および比較例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例、比較例において用いた略名、試薬を下記する。
略名としてPAA(ポリアリルアミンの略)、AA(アリルアミンの略)、GTMAC(グリシジルトリメチルアンモニウムクロリドの略)、GPTMS(3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランの略)、DMC(炭酸ジメチルの略)を用いた。
【0038】
またPAA(ポリアリルアミン)溶液は、日東紡績(株)製PAA−03E(濃度20.6%のPAAエタノール溶液、重量平均分子量3000)を、GTMAC(グリシジルトリメチルアンモニウムクロリド)は濃度72.2%水溶液を使用した。
【0039】
[実施例1] GPTMS(10モル%)とGTMAC(90モル%)とを含む水溶性高分子化合物の製造
温度計、撹拌機、冷却管を備えた300mLセパラブルフラスコに、PAA溶液13.86g、エタノール84.11gを加え、撹拌しながらウォーターバスを用いて30℃に加温した。その後、得られる液に、GPTMS1.18g(PAAのアミノ基に対し10モル%)とGTMAC9.45g(PAAのアミノ基に対し90モル%)とを滴下した。滴下終了後、30℃で24時間反応させることにより、固形分濃度10%の、GPTMS(10モル%)とGTMAC(90モル%)とを含む水溶性高分子化合物を得た。なお、PAAとGPTMSおよびGTMACの反応が完全に進行したのは、TLC(薄層クロマトグラフィ)により原料のスポットが消失したことによって確認した。また、IR(赤外線吸収スペクトル)にてエポキシ基に由来する900cm−1付近のピークが消失していることを確認した。
【0040】
[実施例2] GPTMS(10モル%)とGTMAC(75モル%)とAA(15モル%)を含む水溶性高分子化合物の製造
温度計、撹拌機、冷却管を備えた100mL3つ口フラスコに、PAA溶液5.54g、エタノール29.73gを加え、撹拌しながらウォーターバスを用いて30℃に加温した。その後、得られる液に、GPTMS0.47gとGTMAC3.15gを滴下した。滴下終了後、30℃で24時間反応させることにより、固形分濃度10%の、GPTMS(10モル%)とGTMAC(75モル%)とAA(15モル%)とを含む水溶性高分子化合物を得た。なお、PAAとGPTMSおよびGTMACの反応が完全に進行したのは、TLC(薄層クロマトグラフィ)により、原料のスポットが消失したことによって確認した。また、IR(赤外線吸収スペクトル)にてエポキシ基に由来する900cm−1付近のピークが消失していることを確認した。
【0041】
[実施例3] GPTMS(10モル%)とGTMAC(75モル%)と3−(メトキシカルボニルアミノ)プロペン(15モル%)を含む水溶性高分子化合物の製造
温度計、撹拌機、冷却管を備えた300mLセパラブルフラスコに、PAA溶液55.44g、エタノール297.24gを加え、撹拌しながらウォーターバスを用いて30℃に加温した。その後、得られる液に、GPTMS4.72g(PAAのアミノ基に対し10モル%)とGTMAC31.50g(PAAのアミノ基に対し90モル%)とを滴下した。滴下終了後、30℃で24時間反応させた。反応終了後、得られた、GPTMS(10モル%)とGTMAC(75モル%)とAA(15モル%)とを含む水溶性高分子化合物にDMC1.35g(PAAのアミノ基に対し15モル%)を滴下し、40℃で24時間反応させることにより、固形分濃度10%の、GPTMS(10モル%)とGTMAC(75モル%)と3−(メトキシカルボニルアミノ)プロペン(15モル%)を含む水溶性高分子化合物を得た。なお、PAAとGPTMSおよびGTMACの反応が完全に進行したのは、TLC(薄層クロマトグラフィ)により、原料のスポットが消失したことによって確認した。また、IR(赤外線吸収スペクトル)にてエポキシ基に由来する900cm−1付近のピークが消失していることを確認した。PAAとDMCの反応が進行したのは、IRにてウレタン基(NH−COOR)に由来する1680cm−1付近のピークが見られたことによって確認した。
【0042】
[比較例1] GPTMS(10モル%)とAA(90モル%)を含む水溶性高分子化合物の製造
温度計、撹拌機、冷却管を備えた300mLセパラブルフラスコに、PAA溶液27.72g、エタノール84.11gを加え、撹拌しながらウォーターバスを用いて30℃に加温した。その後、得られる液に、GPTMS2.36g(PAAのアミノ基に対し10モル%)を滴下した。滴下終了後、30℃で24時間反応させることにより、固形分濃度6%のGPTMS(10モル%)とAA(90モル%)とを含む水溶性高分子化合物を得た。なお、PAAとGPTMSの反応が完全に進行したのは、TLC(薄層クロマトグラフィ)により、原料のスポットが消失したことによって確認した。また、IR(赤外線吸収スペクトル)にてエポキシ基に由来する900cm−1付近のピークが消失していることを確認した。
得られた水溶性高分子化合物は、特許文献2に記載の水溶性高分子化合物に相当する。
【0043】
[評価試験]
実施例1〜3、比較例1で得られた水溶性高分子化合物含有組成物を固形分濃度5%になるように水で希釈した溶液20gに、35%濃塩酸0.5gを添加し、室温で1時間経過したものをガラス処理液とした。スライドガラスをガラス処理液に10秒間浸漬した後、スライドガラスを引き上げて130℃で15分間加熱して乾燥しスライドガラス表面を水溶性高分子化合物で被覆した。その後、45°に傾けた状態で上から水100mLを約10mL/秒の速度で流し、スライドガラスを洗浄した。洗浄後、乾燥したスライドガラス表面上の1μLの水に対する接触角を、協和界面科学(株)製DM−301を用いて測定することにより、親水性能を評価した。なお、比較例2として未処理のスライドガラスを用いた。結果を表1に示す。実施例1〜3で得られた水溶性高分子化合物を含む表面処理剤で処理したスライドガラスは、比較例1で得られた水溶性高分子化合物を含む表面処理剤で処理したスライドガラスに比べて接触角が極めて小さく、その結果、ガラス表面に親水性が付与されたことを確認した。
【0044】
【表1】

【0045】
[実施例4]
実施例1〜3で得られた水溶性高分子化合物含有組成物を、固形分濃度5%になるように水で希釈した溶液20gに、35%濃塩酸0.5gを添加し、室温で1時間経過したものをガラス処理液とした。スライドガラスをガラス処理液に10秒間浸漬した後、ガラスを引き上げて130℃で15分間加熱して乾燥しガラス表面を水溶性高分子化合物で被覆した。
被覆したスライドガラスを、親水性物質として水溶性染料(住友化学(株)製Sumifix Brilliant Blue)の0.3%水溶液に1時間浸漬後、スライドガラスを引き上げて、蒸留水で洗浄した。洗浄後のスライドガラス表面の着色度合いを、目視により評価したところ、着色していることを確認した。実施例1〜3で得られた水溶性高分子化合物を表面に付与したスライドガラスは、水溶性染料等の親水性物質を保持することが確認された。一方、未処理スライドガラスを同様に染料で処理したところ、着色はされていなかった。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明によれば、ガラス等の基材にコーティングし、基材表面に親水性を付与し、親水性を長期間にわたり保持することができるアルコキシシリル基とアミノ基を含む水溶性高分子化合物、その水溶性高分子化合物の製造方法およびその水溶性高分子化合物を含む表面処理剤を提供できる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
構成成分として一般式(I)
【化1】


(ただし、Aは直接結合、酸素原子またはCHRを示し、R、Rは独立に炭素数1〜3のアルキル基を示し、Rは水素原子または炭素数1〜3のアルキル基を示し、nは0または1を示し、xは1〜5の整数を示し、aは1〜3の整数を示す)
で表される、アルケニルアミノアルコキシシランモノマーから得られる単位と、一般式(II)
【化2】


(ただし、R、R、Rは独立に炭素数1〜3のアルキル基を示し、Xはカウンターイオンを示し、nは0または1を示し、yは1〜5の整数を示す)
で表される、アルケニルアミノ4級アンモニウム塩モノマーから得られる単位とを含むことを特徴とする水溶性高分子化合物。
【請求項2】
構成成分としてさらに一般式(III)
【化3】


(ただし、nは0または1を示す)
で表される、アルケニルアミンモノマーから得られる単位を含む請求項1に記載の水溶性高分子化合物。
【請求項3】
一般式(III)
【化4】


(ただし、nは0または1を示す)
を構成成分として含むポリ(アルケニルアミン)に、一般式(IV)
【化5】


(ただし、Aは直接結合、酸素原子またはCHRを示し、R、Rは独立に炭素数1〜3のアルキル基を示し、Rは水素原子または炭素数1〜3のアルキル基を示し、xは1〜5の整数を示し、aは1〜3の整数を示す)
で表されるグリシジルアルコキシシランと、一般式(V)
【化6】


(ただし、R、R、Rは独立に炭素数1〜3のアルキル基を示し、Xはカウンターイオンを示し、yは1〜5の整数を示す)
で表されるグリシジル4級アンモニウム塩とを反応させることを特徴とする請求項1または2に記載の水溶性高分子化合物の製造方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載の水溶性高分子化合物を含むことを特徴とする表面処理剤。




【公開番号】特開2012−12546(P2012−12546A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−152712(P2010−152712)
【出願日】平成22年7月5日(2010.7.5)
【出願人】(000003975)日東紡績株式会社 (251)
【Fターム(参考)】