説明

水溶性高分子増粘剤を含有する組成物の安定化剤

【課題】本発明は、水溶性高分子増粘剤を含有する組成物に対して優れた安定化作用を有し、長期間保存した際にも製品の濁りや増粘剤の変質による粘度の低下やpHの変化を抑制し得る安定化剤を提供することを主な目的とする。
【解決手段】チオ硫酸塩を有効成分とする水溶性高分子増粘剤を含有する組成物の安定化剤、及びチオ硫酸塩を配合することを特徴とする水溶性高分子増粘剤を含有する組成物の安定化方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶性高分子増粘剤を含有する組成物を安定に保つことができる安定化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒドロキシプロピルメチルセルロースやヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルアルコール、ヒアルロン酸ナトリウム、アルギン酸及びその塩類、マクロゴール等の水溶性高分子増粘剤は、医薬組成物、食品等の様々な分野において汎用されている。しかしながら、この様な水溶性高分子増粘剤を含有する組成物を長期に亘って保存すると、共に配合されているホウ酸やホウ酸塩、酸化剤等によって加水分解が促進される等して、製品の粘度が低下することが知られている。また、長期間保存することで水溶性高分子増粘剤の変質がおこることもある。そのため、水溶性高分子増粘剤を含有する組成物を長期間保存すると、所期の粘度が得られなかったり、組成物が濁ったり、pHが低下するといった問題があった。さらに、セルロース系高分子は、配合成分の影響により、少しの温度変化でも熱ゲル化を生じて濁ってしまうことがある。そこで、アルコール類を配合することによって粘度を安定化させる等の方法がとられたが、充分な効果は得られていない(例えば、特許文献1〜3を参照)。このような背景から、長期に亘って保存しても所期の粘度が保持され、組成物の濁りやpH変動を抑制し得る、水溶性高分子増粘剤を含有する組成物の安定化剤が求められている。
【特許文献1】特開平11−71478
【特許文献2】特開昭55−153711
【特許文献3】特開昭61−180705
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、水溶性高分子増粘剤を含有する組成物に対して優れた安定化作用を有し、長期間保存後も所期の粘度を保持し得る安定化剤を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、チオ硫酸塩が、水溶性高分子増粘剤を含有する組成物の保存による粘度及びpHの変動、ならびに濁りに対して優れた抑制作用を発揮することを見出した。チオ硫酸塩は、不安定な成分の安定性を向上させる目的で抗酸化剤等として広く使用されるほか、コンタクトレンズケア用品の中和剤等にも使用される安全性の高い成分の1つであるが、チオ硫酸塩自身が水溶性高分子増粘剤を含有する組成物の安定化作用を示すことは今まで知られていなかった。本発明は、このような知見に基づき、さらに研究を重ねることによって完成されたものである。
【0005】
本発明は、以下の水溶性高分子増粘剤を含有する組成物の安定化剤及び水溶性高分子増粘剤を含有する組成物の安定化方法を提供する。
項1.チオ硫酸塩を含む、水溶性高分子増粘剤を含有する組成物の安定化剤。
項2.さらに、エデト酸、エデト酸塩、ホウ酸及びホウ酸塩からなる群より選択される少なくとも1種を含む、項1の安定化剤。
項3.チオ硫酸塩がチオ硫酸ナトリウムである、項1又は2に記載の安定化剤。
項4.チオ硫酸ナトリウム、エデト酸二ナトリウム及びホウ酸を含む、項1に記載の安定化剤。
項5.チオ硫酸ナトリウム、ホウ酸及びホウ酸ナトリウムを含む、項1に記載の安定化剤。
項6.水溶性高分子増粘剤がセルロース系増粘剤、合成有機高分子化合物、多糖類、スターチ類及びアルコール系増粘剤からなる群より選択される少なくとも1種である、項1〜5のいずれかに記載の安定化剤。
項7.水溶性高分子増粘剤がセルロース系増粘剤、多糖類及びアルコール系増粘剤からなる群より選択される少なくとも1種である、項1〜5のいずれかに記載の安定化剤。
項8.水溶性高分子増粘剤を含有する組成物が眼科用組成物である、項1〜7のいずれかに記載の安定化剤。
項9.チオ硫酸塩を配合することを特徴とする、水溶性高分子増粘剤を含有する組成物の安定化方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明の安定化剤は、水溶性高分子増粘剤を含有する組成物に対して優れた安定化作用を有し、従って、水溶性高分子増粘剤を含有する製品を長期に亘って保存した場合であっても、該増粘剤の変質等による製品の粘度の低下を抑制し、さらには製品のpHの変化や濁りを抑制することができる。また、本発明の安定化剤に含まれる有効成分は、いずれも人体(特に眼)に対する傷害性が低く、安全性の高いものである。
【0007】
本発明の安定化剤及び水溶性高分子増粘剤を配合した眼科用組成物は、長期に亘って保存しても所期の粘度を保持することができ、さらに該組成物の濁りやpHの変化が抑制され、長期間品質が安定に保たれる。
【0008】
さらに、本発明における水溶性高分子増粘剤を含有する組成物の安定化剤の有効成分であるチオ硫酸塩を配合することにより、水溶性高分子増粘剤を含有する様々な組成物の粘度安定性を高めることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明において水溶性高分子増粘剤を含有する組成物の安定化とは、長期間保存後であっても水溶性高分子増粘剤を含有する組成物の所期の粘度を保持し得ることを指す。
【0010】
具体的には、例えば、水溶性高分子増粘剤を0.3重量%配合した組成物を、50℃にて1ヶ月保存した後の粘度を、B型粘度計であるデジタル粘度計(型名:DV−II+、ブルックフィールド社製)を用い、スピンドルはULAを用いて、回転数6〜30rpm、液温25℃の条件で測定した結果を用いて下記の式に従って計算して得られた値が90%程度以上、好ましくは95%程度以上であることを指す。
[50℃1ヶ月保存後の粘度]/[初期(保存前)の粘度]×100%
【0011】
また、より好ましくは、常温(25℃)での上記組成物のpH変化が保存前の値の±1程度、好ましくは±0.5程度に抑えられることを指し、さらに好ましくは該組成物に濁りを生じないことを指す。
【0012】
以下、本発明に使用される各成分について説明する。
【0013】
(1)水溶性高分子増粘剤を含有する組成物の安定化剤
本発明の水溶性高分子増粘剤を含有する組成物の安定化剤は、チオ硫酸塩を有効成分とする。本発明において使用されるチオ硫酸塩としては、薬学的に許容される塩であれば特に限定されないが、例えば、チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸カリウム、チオ硫酸アンモニウム、等が挙げられる。本発明において使用されるチオ硫酸塩は、無水塩の形態であってもよく、また、例えば五水和物といった水和物の形態で用いてもよい。これらの塩を1種単独で使用することもでき、2種以上を組み合わせてもよい。本発明においては、チオ硫酸ナトリウムであることが好ましい。
【0014】
本発明の安定化剤は、上記チオ硫酸塩からなるものであってもよく、さらにエデト酸及び/又はホウ酸を含んでいてもよい。
【0015】
本発明において使用され得るエデト酸(エチレンジアミン四酢酸)は、エデト酸塩の形態であってもよく、エデト酸とエデト酸塩の混合物であってもよい。また、エデト酸塩は、無水物の形態でもよく、水和物の形態であってもよい。エデト酸塩としては、薬学的に許容される塩であれば特に限定されず、エデト酸のナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩等を使用することができる。この様な塩としては、例えば、エデト酸二ナトリウム、エデト酸三ナトリウム、エデト酸四ナトリウム、エデト酸カルシウム、エデト酸カルシウム二ナトリウム、エデト酸二カリウム、エデト酸三カリウム、これらの水和物等が挙げられる。これらの塩を1種単独で使用することもでき、2種以上を組み合わせて用いてもよい。本発明においては、エデト酸のナトリウム塩(より好ましくはエデト酸二ナトリウム)、エデト酸カルシウムであることが好ましい。
【0016】
本発明において使用され得るホウ酸は、ホウ酸塩の形態であってもよく、ホウ酸とホウ酸塩の混合物であってもよい。また、ホウ酸塩は、無水物の形態でもよく、水和物の形態であってもよい。ホウ酸塩としては、薬学的に許容される塩であれば特に限定されず、例えば、ホウ酸のナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、亜鉛塩等を使用することができる。このような塩としては、例えば、ホウ酸ナトリウム(ホウ砂)、ホウ酸カルシウム、ホウ酸マグネシウム、ホウ酸カリウム、ホウ酸亜鉛、これらの水和物等が挙げられる。これらの塩を1種単独で使用することもでき、2種以上を組み合わせてもよい。本発明においては、ホウ酸、ホウ酸ナトリウム(ホウ砂)であることが好ましい。
【0017】
本発明における上記有効成分の好ましい組み合わせとしては、例えば、チオ硫酸ナトリウム、エデト酸のナトリウム塩(より好ましくはエデト酸二ナトリウム)及びホウ酸;チオ硫酸ナトリウム及びホウ酸(又はホウ酸とホウ酸ナトリウムの混合物)が挙げられる。
【0018】
また、本発明の安定化剤には、本発明の効果を損なわない限りにおいて、上記有効成分の他に、従来公知の活性成分、等張化剤、無機塩類、緩衝剤、増粘剤、糖類、界面活性剤、可溶化剤、洗浄成分、キレート剤、抗酸化剤、清涼化剤、香料、局所麻酔剤、防腐剤、pH調整剤等の添加剤を添加してもよい。以下、各添加剤の例を挙げるが、本発明において使用される各種添加剤は、これらに限定されない。
【0019】
他の活性成分としては、例えば、エピネフリン、塩酸エピネフリン、塩酸エフェドリン、塩酸テトラヒドロゾリン、硝酸テトラヒドロゾリン、塩酸ナファゾリン、硝酸ナファゾリン、塩酸フェニレフリン、dl−塩酸メチルエフェドリン等の充血除去剤;メチル硫酸ネオスチグミン、ε−アミノカプロン酸、アラントイン、塩化ベルベリン、硫酸ベルベリン、硫酸亜鉛、乳酸亜鉛、塩化リゾチーム、グリチルリチン酸二カリウム、グリチルリチン酸アンモニウム、グリチルレチン酸、サリチル酸メチル、トラネキサム酸、アズレンスルホン酸ナトリウム、クロモグリク酸ナトリウム等の消炎・収斂剤;塩酸イプロヘプチン、塩酸ジフェンヒドラミン、ジフェンヒドラミン、塩酸イソチペンジル、マレイン酸クロルフェニラミン等の抗ヒスタミン剤;フラビンアデニンジヌクレオチドナトリウム、塩酸ピリドキシン、シアノコバラミン、パンテノール、パントテン酸カルシウム、パントテン酸ナトリウム等の水溶性ビタミン類;ビタミンA類(例えば酢酸レチノール、パルミチン酸レチノール)、ビタミンE類(酢酸トコフェロール(例えば、酢酸d−α−トコフェロール)等の脂溶性ビタミン類;L−アスパラギン酸カリウム、L−アスパラギン酸マグネシウム、アミノエチルスルホン酸、コンドロイチン硫酸ナトリウム等のアミノ酸類;スルファメトキサゾール、スルファメトキサゾールナトリウム、スルフイソキサゾール、スルフイソミジンナトリウム、イソプロピルメチルフェノール、ヒノキチオール等のサルファ剤;塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、乾燥炭酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム等の無機塩類等が挙げられる。
【0020】
上記の活性成分は、その1種を単独で併用してもよく、2種以上を組み合わせて併用してもよい。
【0021】
等張化剤として、グリセリン、プロピレングリコールなどの多価アルコール、糖類(ブトウ糖,ソルビトールなど)等が挙げられる。
【0022】
無機塩類としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウム、チオ硫酸ナトリウム、酢酸ナトリウム等が挙げられる。
【0023】
緩衝剤として、ホウ酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、炭酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、酢酸緩衝剤等が挙げられる。
【0024】
増粘剤として、アラビアゴム、カラヤガム、キサンタンガム、カゼイン、寒天、アルギン酸、α−シクロデキストリン、デキストリン、デキストラン、カラギーナン、ゼラチン、コラーゲン、ペクチン、デンプン、キチン及びその誘導体、キトサン及びその誘導体、エラスチン、ヘパリン、ヘパリノイド、ヘパリン硫酸、ヘパラン硫酸、ヒアルロン酸、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等の多糖類又はその誘導体、セラミド、マクロゴール、グリセリン、ポピドン、ポリビニルメタアクリレート、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、カルボキシビニルポリマー、ポリエチレンイミン等が挙げられる。
【0025】
糖類として、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、リボース、リブロース、アラビノース、キシロース、リキソース、デオキシリボース、マルトース、トレハロース、スクロース、セロビオース、ラクトース、プルラン、ラクツロース、ラフィノース、マルチトール等及びこれらの薬学的に許容される塩類が挙げられる。
【0026】
界面活性剤として、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等の高級脂肪酸エステル、ポリソルベート80やポリオキシエチレンソルビンモノオレエート等のポリオキシエチレンソルビタン高級脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマーなどの非イオン性界面活性剤などが挙げられる。
【0027】
キレート剤として、エデト酸(エチレンジアミン四酢酸,EDTA)、エチレンジアミン二酢酸(EDDA)酒石酸、リン酸類(ポリリン酸、ヘキサメタリン酸、メタリン酸)、コハク酸などが挙げられる。
【0028】
抗酸化剤として、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、酢酸トコフェロール、アスコルビン酸リン酸エステルマグネシウム塩等が挙げられる。
【0029】
香料(清涼化剤)としては、メントール、カンフル、ボルネオール、ユーカリ油、ペパーミント油、ベルガモット油、ゲラニオール等が挙げられる。
【0030】
局所麻酔剤としては、クロロブタノール等が挙げられる。
【0031】
防腐剤としては、パラオキシ安息香酸エステル、アクリノール、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化セチルピリジニウム、クロルヘキシジン、ポリヘキサメチレンビグアニド、アルキルポリアミノエチルグリシン、グルコン酸クロルヘキシジン、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、クロロブタノール、イソプロパノール、エタノール、チメロサール、リゾチーム、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、過酸化水素、塩化ポリドロニウム、塩酸ヘキサニド等が挙げられる。
【0032】
pH調整剤としては、無機酸(塩酸、硫酸、リン酸、ポリリン酸、ホウ酸など)、有機酸(乳酸、酢酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、シュウ酸、グルコン酸、フマル酸、プロピオン酸、酢酸、アスパラギン酸、イプシロン−アミノカプロン酸、グルタミン酸、アミノエチルスルホン酸など)、グルコノラクトン、酢酸アンモニウム、無機塩基(炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムなど)等が挙げられる。
【0033】
本発明の安定化剤の有効成分としてチオ硫酸塩を単独で使用する場合は、水溶性高分子増粘剤を含有する組成物の100重量部に対してチオ硫酸塩を0.001〜10重量部程度、好ましくは0.005〜5重量部程度、より好ましくは0.01〜3重量部程度、さらに好ましくは0.1〜1重量部程度含有する。あるいは、水溶性高分子増粘剤を含有する組成物の100重量部に対してチオ硫酸塩を0.15〜10重量部程度、好ましくは0.15〜5重量部程度、より好ましくは0.15〜3重量部程度、さらに好ましくは0.15〜1重量部程度含有する。
【0034】
本発明の安定化剤の有効成分としてチオ硫酸塩とエデト酸を併用する場合は、上記エデト酸及び/又はエデト酸塩を、チオ硫酸塩1重量に対して、0.0001〜1000重量部、好ましくは0.001〜100重量部、より好ましくは0.001〜10重量部配合することが望ましい。
【0035】
また、本発明の安定化剤の有効成分としてチオ硫酸塩とホウ酸を併用する場合は、上記ホウ酸及び/又はホウ酸塩を、チオ硫酸塩1重量に対して、0.001〜5000重量部、好ましくは0.02〜600重量部、より好ましくは0.1〜200重量部配合することが望ましい。
【0036】
上記範囲内であれば、ホウ酸やホウ酸塩を配合した系においても水溶性高分子増粘剤を含有する組成物の安定化作用に優れ、且つ浸透圧が高くなりすぎず、眼科用組成物等に適用した場合でも眼刺激を引き起こすことがないため好ましい。
【0037】
本発明の安定化剤は、pH5〜8程度、好ましくは6〜7程度のもとで有効に作用し得るものである。
【0038】
本発明の安定化剤は、水溶性高分子増粘剤を含有する組成物に対して優れた粘度安定化作用を発揮することができる。本発明における水溶性高分子増粘剤としては、例えば、セルロース系増粘剤、合成有機高分子化合物、多糖類、スターチ類、アルコール系増粘剤等が挙げられ、好ましくはセルロース系増粘剤、多糖類、アルコール系増粘剤である。
【0039】
セルロース系増粘剤としては、例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、またはこれらの塩等が挙げられる。また、商業的に入手できる増粘剤を用いてもよい。商業的に入手できるものとして、例えば、HPMC2910、HPMC2906及びHPMC2208(信越化学工業(株)製のメトローズ60SH−15、60SH−50、60SH−4000、60SH−10000、メトローズ65SH−50、65SH−400、65SH−1500、65SH−4000、、メトローズ90SH−100、90SH−400,90SH−4000、TC−5等);メトセルシリーズ(ダウ・ケミカル日本株式会社製のメトセルE、メトセルF、メトセルK等);マーポローズ(松本油脂製薬株式会社製のマーポローズ60MP、マーポローズ65MP、マーポローズ90MP等;HEC(ダイセル化学工業(株)製のダイセルHEC850SE、900SE等);PVA(日本合成化学(株)製のゴーセノールEG−40、EG−05等)が挙げられる。
【0040】
合成有機高分子化合物やアルコール系増粘剤としては、ポリビニルアルコール、ポリ−N−ビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、マクロゴール、ポリプロピレングリコール、ポリアクリルアミド等が挙げられる。多糖類としては、ヒアルロン酸やコンドロイチン硫酸、アルギン酸またはこれらの塩等が挙げられる。
【0041】
本発明では水溶性高分子増粘剤として、上記化合物を1種単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0042】
本発明における水溶性高分子増粘剤を含有する組成物中には、上記の水溶性高分子増粘剤が0.001〜20重量%程度、好ましくは0.005〜18重量%程度、より好ましくは0.01〜15重量%程度、さらに好ましくは0.1〜5重量%程度含まれる。このような組成物としては、水系組成物が挙げられ、水を含む組成物であって、溶液、懸濁液、ペースト状、半ペースト状の医薬品、医薬部外品、食品等が挙げられる。なかでも好ましくは、医薬品であり、特に眼科用組成物である。
【0043】
本発明の安定化剤は、例えばHPMC2910(信越化学工業(株)製のメトローズ60SH−4000等)、HPMC2906(信越化学工業(株)製のメトローズ65SH−1500、65SH−4000等)、HPMC2208(信越化学工業(株)製のメトローズ90SH−4000等)、HEC(ダイセル化学工業(株)製のダイセルHEC850SE、900SE等)、PVA(日本合成化学(株)製のゴーセノールEG−40、EG−05等)、ヒアルロン酸ナトリウムを含有する組成物に対して極めて優れた安定化作用を発揮することができる。
【0044】
(2)眼科用組成物
上記(1)に記載する本発明の安定化剤を、水溶性高分子増粘剤を含有する眼科用組成物に配合させることにより、長期にわたる保存でも該眼科用組成物の所期の粘度を保持し、濁りの発生やpHの変動を抑制することができる。また、本発明の安定化剤は、コンタクトレンズに吸着することがなく、コンタクトレンズの変質を引き起こすこともないため、コンタクトレンズ用の眼科用組成物にも適用することができる。コンタクトレンズ用の眼科用組成物とは、コンタクトレンズを装着時に使用される点眼剤を含み、後述のコンタクトレンズ用剤等も含まれる。
【0045】
従って、本発明は、前述の安定化剤を含有する眼科用組成物をも提供するものである。本発明の眼科用組成物における前記安定化剤の配合量は、本発明の効果を奏する範囲において適宜調整され得るが、例えば、チオ硫酸塩の配合量は0.001〜10重量%程度、好ましくは0.005〜5重量%程度、より好ましくは0.01〜3重量%程度である。あるいは、0.15〜10重量%程度、好ましくは0.15〜5重量%程度、より好ましくは0.15〜3重量%程度である。
【0046】
本発明の眼科用組成物のpHは、5〜8程度、好ましくは6〜7程度に設定することが望ましく、浸透圧比は、1付近に設定することが望ましい。
【0047】
本発明の眼科用組成物としては、水性点眼剤、非水性点眼剤、懸濁性点眼剤、乳濁性点眼剤、ソフトコンタクトレンズ、ハードコンタクトレンズ等を装用した状態でも点眼が可能な点眼剤等の点眼剤;眼軟膏剤;洗眼剤;コンタクトレンズ装着液、洗浄液、保存液、殺菌液等のコンタクトレンズ用剤等が挙げられる。
【0048】
(3)粘度安定化方法
上記(1)に記載される成分を配合することによって、水溶性高分子増粘剤を含有する組成物の粘度安定性を高めることができ、加えて、該組成物におけるpHの変動抑制及び濁りの発生を抑制することもできる。各成分の配合量及び配合比率は、上記(1)に記載される範囲に従って、適宜調整され得る。
【実施例】
【0049】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0050】
(1)試験例1:安定性試験
下記表1の処方に従い、各成分を精製水に溶解させて全量を100mLとして試験液を調製し、これを滅菌濾過した。各試験液を50℃にて1ヶ月保存し、以下の基準に従って、粘度安定性、pH変動及び濁りの発生を判断した。結果を下記表1に示す。

<粘度安定性判定基準>
粘度の測定は、B型粘度計であるデジタル粘度計(型名:DV−II+、ブルックフィールド社製)を用い、スピンドルはULAを用いて、回転数6〜30rpm、液温25℃の条件で行った。粘度安定性は、下記式で求めた値を用いて判断した。

[50℃1ヶ月保存後の粘度]/[初期(保存前)の粘度]×100%
○:50℃1ヶ月保存後の粘度が初期値(保存前粘度)の90%以上
×:50℃1ヶ月保存後の粘度が初期値(保存前粘度)の90%未満

<濁りの有無判定基準>
目視にて濁りの有無を確認した。
○:50℃1ヶ月保存後の試験液で濁りなし
×:50℃1ヶ月保存後の試験液で濁りあり

<pH安定性判断基準>
pH安定性は、下記式で求めた値を用いて判断した。
[50℃1ヶ月保存後のpH]−[初期(保存前)のpH]
○:50℃1ヶ月保存後のpHと初期値(保存前pH)の差が±1
×:50℃1ヶ月保存後のpHと初期値(保存前pH)の差が1より大きいか−1未満

【0051】
【表1】

【0052】
※表中HPMC2910は、信越化学工業株式会社製メトローズ60SH−4000である。
※表中の添加成分配合量の単位は、g/100mLである。
【0053】
表1より、チオ硫酸ナトリウムを配合した試験液は、粘度安定性が高く、長期間保存しても濁りを生じることがなく、またpHの大幅な変動を引き起こすこともないことが示された。
【0054】
(2)試験例2:水溶性高分子増粘剤の種類の検証
下記表2の処方に従い、各成分を精製水に溶解させて全量を100mLとして試験液を調製し、これを滅菌濾過した。各試験液を50℃にて2週間保存し、以下の基準に従って、粘度安定性を判断した。結果を下記表2に示す。

<粘度安定性判定基準>
粘度安定性は、下記式で求めた値を用いて判断した。
【0055】
[50℃2週間保存後の粘度]/[初期(保存前)の粘度]×100%
○:50℃2週間保存後の粘度が初期値(保存前粘度)の90%以上
×:50℃2週間保存後の粘度が初期値(保存前粘度)の90%未満
粘度の測定は、B型粘度計であるデジタル粘度計(型名:DV−II+、ブルックフィールド社製)を用い、スピンドルはULAを用いて、回転数6〜30rpm、液温25℃の条件で行った。
【0056】
【表2】

【0057】
※表中HPMC2910は、信越化学工業株式会社製メトローズ60SH−4000、HPMC2208は、信越化学工業株式会社製メトローズ90SH−4000、HECはダイセル化学工業(株)製のダイセルHEC850SE、PVAは日本合成化学(株)製のゴーセノールEG−05である。
※表中の各成分の配合量の単位は、g/100mLである。
【0058】
表2より、各種水溶性高分子増粘剤を配合した試験液において、チオ硫酸ナトリウムを配合した試験液は粘度安定性が高いことが示された。
【0059】
上記表1及び表2に示される結果より、多糖類であるHPMCやHECに対する本発明の安定化剤の効果が確認されたことから、同じく多糖類であるヒアルロン酸類等のムコ多糖類に対しても同様の効果が得られると予想される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チオ硫酸塩を含む、水溶性高分子増粘剤を含有する組成物の安定化剤。
【請求項2】
さらに、エデト酸、エデト酸塩、ホウ酸及びホウ酸塩からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1の安定化剤。
【請求項3】
チオ硫酸塩がチオ硫酸ナトリウムである、請求項1又は2に記載の安定化剤。
【請求項4】
チオ硫酸ナトリウム、エデト酸二ナトリウム及びホウ酸を含む、請求項1に記載の安定化剤。
【請求項5】
水溶性高分子増粘剤がセルロース系増粘剤、合成有機高分子化合物、多糖類、スターチ類及びアルコール系増粘剤からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1〜4のいずれかに記載の安定化剤。
【請求項6】
水溶性高分子増粘剤がセルロース系増粘剤、多糖類及びアルコール系増粘剤からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1〜4のいずれかに記載の安定化剤。
【請求項7】
水溶性高分子増粘剤を含有する組成物が眼科用組成物である、請求項1〜6のいずれかに記載の安定化剤。
【請求項8】
チオ硫酸塩を配合することを特徴とする、水溶性高分子増粘剤を含有する組成物の安定化方法。

【公開番号】特開2007−269934(P2007−269934A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−96135(P2006−96135)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(000186588)小林製薬株式会社 (518)
【Fターム(参考)】