説明

水溶液の除菌処理方法

【課題】細菌の繁殖を抑制するとともに水溶液による細菌の伝染を効率よく完全に防止することができる水溶液の除菌処理方法を提供する。
【解決手段】、処理したい水溶液を、10μmの濾過精度が60%以上であるフィルター組織若しくは固形粒子から構成されるフィルター層に濾過速度1へ30cm/secで濾過時間0.5〜300秒で通過させることにより、水溶液中に存在する無機・有機固形物を除去することができるとともに、水分子の微細化により無機抗菌剤と細菌類の接触効率が向上する抗菌効果が高まる。そして、抗菌速度1〜30cm/secで、抗菌時間0.1〜300秒で無機抗菌剤と接触させて予備殺菌させた水溶液に、次亜塩素酸を添加して、その濃度を0.1ppm以上0.5ppm以下とするもので、水溶液中に存在する細菌類の除菌を効率良く行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水溶液中に存在する菌類の除菌処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
空調システム用冷却水、農業用水、水耕栽培用養液、浴槽水及びプール水等の水溶液は、空気、土ほこりや水そのものを媒体として細菌・カビに汚染される。その細菌・カビは、栄養源、エネルギー源、温度及び湿度等の環境条件が揃えば必ず繁殖する。例えば大腸菌は最適条件下に置いて20分に1回の割合で細胞分裂を起こし、1個の細胞は5時間後には1億個に増殖してしまう。
【0003】
繁殖した細菌・カビは人体に悪影響を及ぼす危険性がある。特に身の回りで細菌・カビの繁殖が起これば危険性は増加する。レジオネラ菌による肺炎、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)による院内感染、腸管出血性大腸菌O−157及び黄色ブドウ球菌による食中毒などは細菌が人体に及ぼす危険性の高い病気である。これら細菌の繁殖媒体は種々存在するが、その中でも水溶液は身近にあり、且つ非常に多く存在している。蛇口から出て間もない水道水などは消毒がされており細菌の住処としては適していないが、水道水でさえも時間が経過するにつれ細菌の繁殖できる条件へと変化していく。
【0004】
それが循環している水溶液ならば、外部から栄養源が侵入する機会も増え細菌・カビの絶好の繁殖場所となりうる。水溶液中に繁殖した菌類による人体への影響、生活環境への影響、生産活動への影響が近年クローズアップされており細菌を殺菌するため薬剤(主に塩素系)を液中に注入する方法が一般的に行われている。又、活性炭等による細菌の物理吸着、生物濾過による滅菌方法や最近では、有機系薬剤の変わりにオゾン水等を使用する殺菌システムが考案されテストされている。
【0005】
上記した水溶液中に繁殖した細菌に対し薬液注入する方法は、即効性があり非常に効果的であるが、高濃度で頻繁に注入する必要がある。一般的に溶液中の細菌類を除菌するためには0.2ppmを保持すれば良いとされているが、これは溶液中に細菌類のみ存在している場合である。通常は溶液中に無機・有機固形物が含まれており、薬液はこれら固形物に対しても作用する。そのため、1ppmを超えるような高濃度に調整せざるをえない。それにより設備コスト及び設備のメンテナンスコストと共に薬剤のコスト(ランニングコスト)が嵩む。又、環境影響のない(少ない)薬剤が使用されているが、高濃度での使用は環境汚染であることに他ならない。各種濾材を使用して物理吸着、生物濾過する方法については、その濾過精度が充分でなく現状では効果的でない。環境影響のないオゾンを使用した殺菌システムにおいても持続性がなくかつ設備コストが非常に高いことが問題である。
【特許文献1】無し
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記問題点を解決するためになされたもので、細菌の繁殖を抑制するとともに水溶液による細菌の伝染を効率よく完全に防止することができる水溶液の除菌処理方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するための請求項1に記載の水溶液の除菌処理方法は、10μmの粒子の濾過精度が60%以上であるフィルター組織若しくは固形粒子から構成されるフィルター層に、処理したい水溶液を通過させるとともに、無機系抗菌剤に接触させて予備除菌した後、次亜塩素酸を添加して該水溶液中の次亜塩素酸の濃度が0.1ppm以上0.5ppm以下とすることを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の水溶液の除菌処理方法は、請求項1に記載の構成において、前記処理したい水溶液を、前記フィルター層に通過させる濾過速度は線速1〜30cm/secで、濾過時間は0.5〜300秒としたことを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の水溶液の除菌処理方法は、請求項1又は請求項2に記載の構成において、前記無機系抗菌剤が、銀若しくは銅をイオン交換法により担持したセラミックス等の無機材料で、抗菌成分である金属イオンの溶出量が最大50ppbであることを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の水溶液の除菌処理方法は、請求項1〜請求項3の何れかに記載の構成において、前記無機抗菌剤と水溶液とを接触させる速度は線速1〜30cm/secで、接触させる時間は、0.1〜300秒としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に記載の水溶液の除菌処理方法によれば、処理したい水溶液を10μmの濾過精度が60%以上であるフィルター組織若しくは固形粒子から構成されるフィルター層に通過させることにより、水溶液中に存在する無機・有機固形物を除去することができるとともに、水分子の微細化により無機抗菌剤と細菌類の接触効率が向上する抗菌効果が高まる。そして、無機抗菌剤に接触させて予備殺菌させた水溶液に、次亜塩素酸を添加して、その濃度を0.1ppm以上0.5ppm以下とするもので、水溶液中に存在する細菌類の除菌を効率良く行うことができ、添加する次亜塩素酸が少ないためランニングコストも安価であり、極めて安全な水溶液の除菌処理システムを提供できる。
【0012】
尚、10μmの濾過精度が60%未満では、フィルター組織やフィルター層を通過した無機・有機固形物により無機抗菌剤と細菌類の接触効率を阻害する。また水分子が十分に微細化されないという不都合がある。また、水溶液の次亜塩素酸の濃度が0.1ppm未満では、十分な除菌効果が得られないという問題が有り、0.5ppmを超えると残留塩素による環境影響、塩素臭やランニングコストアップという問題がある。
【0013】
請求項2に記載の水溶液の除菌処理方法によれば、処理したい水溶液を、10μmの濾過精度が60%以上であるフィルター組織若しくは固形粒子から構成されるフィルター層に通過させる濾過速度は線速1〜30cm/secで、濾過時間は0.5〜300秒としたから、水溶液中に存在する無機・有機固形物を除去することができるとともに、水分子(クラスター)が物理的に解砕されて細かくなる。これにより、水分子の中にも取り込まれている細菌類を効率的に除菌することができる。
【0014】
尚、上記濾過速度が線速1cm/sec未満であると通過する水分子に対し物理的に十分な応力が加わらないため水分子を微細化できない。また線速が30cm/secを超えると水分子の微細化効率は良好であるが、水圧等を上げるための設備費用が大きくなるという問題がある。また、上記濾過時間が0.5秒未満であると水分子の微細化効果がほとんど得られない。また300秒を超える時間を取っても水分子の微細化率はほとんど向上しないことが判明している。
【0015】
請求項3に記載の水溶液の除菌処理方法によれば、無機系抗菌剤が銀若しくは銅をイオン交換法により担持したセラミックス等の無機材料で、抗菌成分である金属イオンの溶出量が最大50ppbであるから、抗菌剤の液体中への溶出量が少ないため、環境や人体への影響が殆ど無い安全な水溶液の除菌処理方法を提供できる。
【0016】
請求項4に記載の水溶液の除菌処理方法によれば、無機抗菌剤と水溶液とを接触させる抗菌速度は線速1〜30cm/secで、無機抗菌剤と水溶液とを接触させる抗菌時間は、0.1〜300秒としたから、水分子が細かくなり水分子の中にも取り込まれている細菌類を効率的に除菌することができる。
【0017】
尚、上記抗菌速度が線速1cm/sec未満であると無機抗菌剤との接触効率が悪く除菌効果が著しく低下する。また線速30cm/secを超えると除菌効果は良好であるが、水圧等を上げるための設備費用が大きくなるという問題がある。また、上記抗菌時間が0.1秒未満であると、無機抗菌剤との接触回数が少なく除菌効果が著しく低下する。また、300秒を超えると除菌効果は良好であるが、システムが大掛かりとなり初期導入費用が大きくなるという問題がある。
【実施例1】
【0018】
平均粒子径1mmの酸化アルミニウムの粒子を、内径100mm長さ500mmの菅の中に10kg自然充填して濾過用カラムとした。この濾過用カラムの10μmの濾過精度は90%であった。ここで、10μmの濾過精度90%とは、粒径10μmの固形物の濾過前後の液中の存在量の比率をいう。また、上記と同一寸法の菅の内周全体に、銀若しくは銅をイオン交換法により担持したセラミックス等の無機材料からなる無機系抗菌剤のスラリーを付着させた平均粒子径5mmの酸化アルミニウムを自然充填し抗菌用カラムとした。
【実施例2】
【0019】
市販のセラミックス製メンブレンフィルター(10μmの濾過精度95%)を濾過用メディアとした以外は、実施例1と同様とした。
【比較例】
【0020】
平均粒子径5mmの酸化アルミニウム粒子を用いたこと以外は、上記実施例と同一寸法の管を用いて濾過用カラムを試作した。この濾過用カラムの10μmの濾過精度は50%であった。
【0021】
(テスト方法)
対象水溶液として農業用に使用される用水(濁度4、一般雑菌数10cfu)を用い、上記試作した濾過用カラム(濾過用メディア)、抗菌用カラムを通過させた後、次亜塩素酸溶液の注入装置を通すシステムを組んだ(図1参照)。そして、
濾過時間、濾過速度及び抗菌時間、抗菌速度、薬液注入量を変化させてテストし、各工程後の一般雑菌数の変化を調査した。調査結果を表1に示す。
【0022】
【表1】

【0023】
上記表1に示す調査結果により、10μmの濾過精度が60%未満では、ろ過方法、抗菌方法及び次亜塩素酸投入量を当発明条件としても除菌数を103個(99.9%)にしか至っていない。また、水溶液の次亜塩素酸の濃度が0.1ppm未満では、ろ過精度、ろ過方法、抗菌方法を当発明条件としても除菌数を103個(99.9%)にしか至っていない。0.5ppmを超えると処理後水溶液より非常に強い塩素臭があるという問題がある。
【0024】
10μmの濾過精度が60%以上であるフィルター組織若しくは固形粒子から構成されるフィルター層に通過させる濾過速度が、線速1cm/sec未満の場合、除菌数が102個(99%)にしか至っていない。30cm/secを超えた場合は目標の除菌数が得られるが、設備費用が極端に上昇する。また、濾過速度が線速1〜30cm/secで、濾過時間が0.5秒未満の場合、除菌数が103個(99.9%)にしか至っていない。濾過時間が300秒を超えれば目標の除菌率を得ることができるため、それ以上の時間を取る必要はない。
【0025】
さらに、無機抗菌剤と水溶液とを接触させる抗菌速度が線速1cm/sec未満の場合、除菌数が102個(99%)にしか至っていない。30cm/secを超えた場合は目標の除菌数が得られるが、設備費用が極端に上昇する。また、抗菌速度が線速1〜30cm/secで、無機抗菌剤と水溶液とを接触させる抗菌時間が0.1秒未満の場合、除菌数が10個(90%)にしか至っていない。濾過時間が300秒を超えれば目標の除菌率を得ることができるが、設備費用が極端に上昇する。
【0026】
上記評価No.4のテスト後、処理後の水溶液(B(図1参照))を化学分析して金属成分の溶出の有無を確認したところ、表2に示すように原水(用水A(図1参照))とテスト後の溶液の成分に差がないことから、抗菌剤からの溶出物は殆ど無く、安全性の高い処理方法であることが明らかとなった。
表2には評価No.11及び12のテスト後の水溶液の分析結果についても参考に表示してある。この場合でも抗菌剤からの溶出物は殆ど無いことが判明した。
【0027】
【表2】

【0028】
以上の結果より、上記評価No.4の場合は、処理したい水溶液を10μmの濾過精度が90%であるフィルター組織若しくは固形粒子から構成されるフィルター層に濾過速度10cm/secで濾過時間5秒とするとともに、無機抗菌剤と接触させる抗菌速度5cm/secで、抗菌時間10秒で予備殺菌させた水溶液に、次亜塩素酸を添加して、その濃度を0.2ppmとしたもので、水溶液中に存在する一般雑菌数を0にまでとする除菌することができた。
【0029】
上記評価No.7の場合は、処理したい水溶液を10μmの濾過精度が95%であるフィルター組織若しくは固形粒子から構成されるフィルター層に濾過速度1cm/secで濾過時間5秒とするとともに、無機抗菌剤と接触させる抗菌速度5cm/secで、抗菌時間10秒で予備殺菌させた水溶液に、次亜塩素酸を添加して、その濃度を0.2ppmとしたもので、水溶液中に存在する一般雑菌数を0にまでとする除菌することができた。
【0030】
上記説明で明らかなように、本発明の水溶液の除菌処理方法は、処理したい水溶液を、10μmの濾過精度が60%以上であるフィルター組織若しくは固形粒子から構成されるフィルター層に濾過速度1へ30cm/secで濾過時間0.5〜300秒で通過させることにより、水溶液中に存在する無機・有機固形物を除去することができるとともに、水分子の微細化により無機抗菌剤と細菌類の接触効率が向上する抗菌効果が高まる。そして、抗菌速度1〜30cm/secで、抗菌時間0.1〜300秒で無機抗菌剤と接触させて予備殺菌させた水溶液に、次亜塩素酸を添加して、その濃度を0.1ppm以上0.5ppm以下とするもので、水溶液中に存在する細菌類の除菌を効率良く行うことができる。
【0031】
そして、添加する次亜塩素酸が少ないためランニングコストも安価であり、極めて安全な水溶液の除菌処理システムを提供できる。設置コスト、ランニングコスト共に安価である。又水溶液中への抗菌成分の溶出が非常に少なく、使用薬液が少ないため環境影響がほとんど無く極めて安全である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の水溶液の除菌処理方法のテストを行う概略のシステム図である。
【符号の説明】
【0033】
1 濾過用カラム
2 抗菌用カラム
3 薬液注入装置
A 原水(用水)
B 処理後の水溶液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
10μmの粒子の濾過精度が60%以上であるフィルター組織若しくは固形粒子から構成されるフィルター層に、処理したい水溶液を通過させるとともに、無機系抗菌剤に接触させて予備除菌した後、次亜塩素酸を添加して該水溶液中の次亜塩素酸の濃度が0.1ppm以上0.5ppm以下とすることを特徴とする水溶液の除菌処理方法。
【請求項2】
前記処理したい水溶液を、前記フィルター層に通過させる速度は線速1〜30cm/secで、濾過時間は0.5〜300秒としたことを特徴とする請求項1に記載の水溶液の除菌処理方法。
【請求項3】
前記無機系抗菌剤が、銀若しくは銅をイオン交換法により担持したセラミックス等の無機材料で、抗菌成分である金属イオンの溶出量が最大50ppbとしたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の水溶液の除菌処理方法。
【請求項4】
前記無機抗菌剤と水溶液とを接触させる速度は線速1〜30cm/secで、接触させる時間は、0.1〜300秒としたことを特徴とする請求項1〜請求項3の何れかに記載の水溶液の除菌処理方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−168170(P2008−168170A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−967(P2007−967)
【出願日】平成19年1月9日(2007.1.9)
【出願人】(000244176)明智セラミックス株式会社 (40)
【Fターム(参考)】