説明

水溶液中の還元剤の定量方法

【課題】ヨウ化物イオン回収操作においては、各工程における未反応の還元剤を定量することが重要であるが、広く利用されている亜硫酸塩及び二酸化硫黄の還元剤は、酸性溶液中で不安定であり、容易に空気による酸化を受けることから迅速に精度よく定量しなければならない。しかしながら、実際の操業現場においては大掛かりな精密機器を設置することは現実的ではない。実操業レベルで水溶液中の亜硫酸塩や二酸化硫黄等の還元剤を迅速に、且つ、精度良く定量する方法を提供する。
【解決手段】ヨウ素−デンプン混合液に定量対象液を青紫色が消失しない程度添加し、残留ヨウ素を逆滴定することにより還元剤濃度を定量する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶液中に含まれる亜硫酸や二酸化硫黄等の還元剤の定量法に関する。
【背景技術】
【0002】
湿式製錬法においては、鉱酸に難溶性を示す黄銅鉱等の硫化銅鉱に対して、その溶解のため、ヨウ素又はヨウ化物イオン及びFe3+を添加すると、銅の浸出が著しく促進される(特許文献1)。
【0003】
浸出後の貴液には比較的高価なヨウ素が含まれており、これを回収して再利用するには活性炭による吸着−溶離が好ましい。
【0004】
ヨウ素の溶離(ストリップ)の際に使用される溶離液は、水溶性の還元剤を含み、これによってヨウ素がヨウ化物イオンとして回収される。還元剤は、亜硫酸塩、二酸化硫黄、チオ硫酸塩等が任意の濃度で用いられるが、価格の面から亜硫酸塩及び二酸化硫黄が用いられることが多い。
【0005】
溶離操作において指標となるものは、未反応の還元剤濃度であり、この濃度をモニターすることで反応の終点を知ることができる。
【0006】
また、溶離して回収されたヨウ化物イオンは再び硫化銅鉱の浸出に利用されるが、この中には未反応の還元剤が含まれており硫化銅鉱の浸出に影響を与えることから、あらかじめバッキ等によりこれを除いておく必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−024511号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ヨウ化物イオン回収操作においては、各工程における未反応の還元剤を定量することが重要であるが、広く利用されている亜硫酸塩及び二酸化硫黄の還元剤は、酸性溶液中で不安定であり、容易に空気による酸化を受けることから迅速に精度よく定量しなければならない。
【0009】
しかしながら、実際の操業現場においては大掛かりな精密機器を設置することは現実的ではない。
そこで、本発明はこのような事情に鑑み、実操業レベルで水溶液中の亜硫酸塩や二酸化硫黄等の還元剤を迅速に、且つ、精度良く定量する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、ヨウ素−デンプン混合液に定量対象液を青紫色が消失しない程度添加し、残留ヨウ素を逆滴定するという手段を用いることで、大掛かりな精密機器を用いずに簡易な操作で水溶液中の還元剤を迅速に、且つ、精度良く定量することができることを見出した。
【0011】
以上の知見を基礎として完成した本発明は一側面において、ヨウ素−デンプン混合液に定量対象液を青紫色が消失しない程度添加し、残留ヨウ素を逆滴定することにより還元剤濃度を定量する水溶液中の還元剤の定量方法である。
【0012】
本発明の水溶液中の還元剤の定量方法は一実施形態において、前記還元剤が、亜硫酸及び二酸化硫黄のいずれか、又は、それらの混合物である。
【0013】
本発明の水溶液中の還元剤の定量方法は別の一実施形態において、前記定量対象液を添加する前の前記ヨウ素−デンプン混合液に、pHが4.3〜5の酢酸−酢酸ナトリウム緩衝液を添加しておく。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、簡便な装置を用いて実操業レベルで水溶液中の亜硫酸塩や二酸化硫黄等の還元剤を迅速に、且つ、精度良く定量する方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明に係る水溶液中の還元剤の定量方法の実施形態を説明する。
【0016】
ヨウ素は、その形態が単体ヨウ素のときに最も効率良く活性炭に吸着される。そのため、吸着及び溶離は、式1〜式3に示すようにヨウ素の酸化還元反応によって制御されると考えられる。
吸着時 2I- +Ox → I2 (Ox:酸化剤) (式1)
溶離時 I2 + H2O + SO32- → SO42- +2H+ +2I- (式2)
I2 + 2H2O + SO2 → SO42- +4H+ +2I- (式3)
【0017】
溶離後液は酸性であり、ヨウ化物イオンの他に、主な共存物質として未反応還元剤と硫酸イオンが含まれている。
【0018】
例えば、この回収液をそのまま硫化銅鉱の浸出に再使用すると、残存亜硫酸や二酸化硫黄の還元作用によりルイス酸が消費されて浸出に悪影響を及ぼす。そのため、ヨウ素の溶離の終了点は、溶離・回収されたヨウ素液に含まれる未反応還元剤濃度が低く、且つ、KI濃度が高くない時点としなければならないため、その指標として未反応還元剤濃度を定量する必要がある。
【0019】
加えて、亜硫酸や二酸化硫黄は環境負荷が大きく、回収したヨウ化物イオンを再利用するにはあらかじめこれをバッキ等により除いておくことが望ましく、その管理のためには溶離後液に含まれる亜硫酸や二酸化硫黄の濃度を知ることは重要である。
【0020】
ところで、還元剤として亜硫酸や二酸化硫黄を使用した場合は、溶存酸素や空気中の酸素により容易に酸化される(下記式4及び式5)。
O2 + 2SO32- → 2SO42- (式4)
O2 + 2H2O + 2SO2 → 2SO32- + 4H+ (式5)
【0021】
そのため、定量は迅速に、空気の影響を最小限に留めて行う必要があるが、このような場合、操業現場では不活性ガス置換設備や精密分析機器等を併設することが困難である。
【0022】
一方で、ヨウ素は比較的強い酸化力を有し、上記式2及び式3に見られるように、亜硫酸や二酸化硫黄と直ちに反応するものの、単体ヨウ素としては水に対する溶解度が高くない。
【0023】
単体ヨウ素を水に溶解する際には、ヨウ化カリウムを添加し、ヨウ素を三ヨウ化物イオンとして溶解することが知られており、三ヨウ化物イオンも単体ヨウ素と同程度の酸化力を有する。
【0024】
この酸化力を利用したヨウ素や三ヨウ化物イオンの定量法としては、チオ硫酸ナトリウム液を用いたものが広く知られている。当該方法を二酸化硫黄や亜硫酸の定量に適用する場合、逆滴定法になるため、サンプルを過大に分取すると定量が不可能になり、反対に過少に分取した場合は定量精度に問題が生じる。
【0025】
そこで、あらかじめヨウ素−デンプン混合液に緩衝液を入れておき、そこにサンプルを添加する手法を取れば、サンプル添加量の適不適はヨウ素デンプン反応の青紫色の消失度合いで視認でき、かつ滴定途中の急激なpH変化を抑えつつ溶存酸素や空気酸化による誤差を最小限に留めることが可能になる。
【0026】
以上のことから、ヨウ素−デンプン混合液に適当量の定量対象液を添加し、残存するヨウ素を滴定すれば、簡便な装置により、迅速に精度良く還元剤を定量することが可能となる。より詳細には、本発明は、ヨウ素−デンプン混合液に定量対象液をヨウ素−デンプンの青紫色が消失しない程度添加し、残留ヨウ素を逆滴定することにより還元剤濃度を定量する。ここで、青紫色が消失しない程度の添加量とは、定量対象液を添加する際の、ヨウ素−デンプン混合液の青紫色が目視により消失する直前の添加量をいう。また、このとき、ヨウ素−デンプン混合液に添加する酢酸−酢酸ナトリウム緩衝液がpHを4.3〜5に調整されていると、定量精度がより良好となる。
【実施例】
【0027】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0028】
〔例1:実施例1及び比較例1に係る還元剤の定量〕
(実施例1:還元剤の定量)
単体ヨウ素を10g/Lのヨウ化カリウム溶液に溶解し、4mmol/Lのヨウ素溶液を調整した。このヨウ素溶液4mLを正確に量り取り、コニカルビーカーに移した。
10g/Lの可溶性デンプン10mLと酢酸−酢酸ナトリウム緩衝液(弱酸性域pH4.3〜5)5mLとを上記コニカルビーカーに添加した。
さらに、希釈した亜硫酸水(市販品)を液の青紫色が消失しない程度(1mL)量りとり上記コニカルビーカーに添加した。
次に、上記コニカルビーカーに正確に調整したチオ硫酸ナトリウム液0.8mmol/Lを滴下していき、溶液の青紫色が消失した点を終点として容量法により残留ヨウ素を定量した。
残留ヨウ素の量から希釈亜硫酸に含まれる亜硫酸と二酸化硫黄の合計をすべて亜硫酸として換算した量を算定した。
【0029】
(比較例1:一般にヨウ素滴定法として知られる還元剤の定量)
単体ヨウ素を10g/Lのヨウ化カリウム溶液に溶解し、4mmol/Lのヨウ素溶液を調整した。このヨウ素溶液4mLを正確に量り取り、コニカルビーカーに移した。
上記コニカルビーカーに、希釈した亜硫酸水(市販品)を1mL添加した。
さらに、上記コニカルビーカーに、酢酸−酢酸ナトリウム緩衝液(弱酸性域pH4.3〜5)5mLを添加した。
次に、上記コニカルビーカーに正確に調整したチオ硫酸ナトリウム液0.8mmol/Lをヨウ素の褐色が薄くなるまで滴下し、指示薬として10g/Lの可溶性デンプンを添加した後、再び青紫色が消失するまで滴下した。
液の青紫色が消失した点を終点として容量法により残留ヨウ素を定量した。
残留ヨウ素の量から希釈亜硫酸に含まれる亜硫酸及び二酸化硫黄の合計を全て亜硫酸として換算した量を算定した。
【0030】
希釈して約7mMとした亜硫酸(計算値)に対して行った実施例1及び比較例1の操作をそれぞれ12回繰り返した結果を表1に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
表1の結果から、標準偏差及び最大差ともに、実施例の方が精度良く測定できていることがわかる。これは、滴定途中の急激なpH変化を抑えつつ、溶存酸素や空気酸化による誤差を最小限に留めることが可能になったためである。
【0033】
〔例2:種々の亜硫酸濃度による定量の可否の評価〕
実施例1の方法及び比較例1の方法で種々の濃度及び分取量の亜硫酸をサンプルに添加し、そのときの各溶液の着色の有無及び容量法での定量の可否を検討した。その結果を表2に示す。
【0034】
【表2】

【0035】
実施例1の方法では、濃度未知のサンプル液を添加した時でも溶液が薄青色から青紫色に着色している限り定量可能である。
一方、比較例1の方法では、亜硫酸7mM、分取量0.5mLのようなサンプル中の亜硫酸量が少ない条件ではヨウ素の褐色に着色するため、着色により定量可能と判断できる。しかしながら、比較例1では、それ以外の条件においては、サンプル添加時にはヨウ素の褐色が消失して透明となり、ヨウ素デンプン反応の青紫色の消失度合いで視認できず、且つ、直ちに容量法による定量可否が判断できず、実際に容量法による分析を実施しないと判断できない。
【0036】
〔例3:緩衝液のpH域を変えた滴定による評価〕
緩衝液として、酢酸−酢酸ナトリウム緩衝液(弱酸性域pH4.3〜5)5mL、又は、リン酸−リン酸ナトリウム緩衝液(中性域pH6〜7.5)5mL用いて、実施例1の操作を希釈して約7mM又は約5mMとした亜硫酸(計算値)に対して行い、それぞれ12回繰り返した結果を表3に示す。なお、表3の空試験は、滴定値から当該空試験値を引いた値を亜硫酸により消失したヨウ素量として求めるために行った。また、精度を高めるため、空試験は4回行った。
【0037】
【表3】

【0038】
変動係数(%)を比較すると、酢酸緩衝系(弱酸性域)の方が、定量精度が高いことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヨウ素−デンプン混合液に定量対象液を青紫色が消失しない程度添加し、残留ヨウ素を逆滴定することにより還元剤濃度を定量する水溶液中の還元剤の定量方法。
【請求項2】
前記還元剤が、亜硫酸及び二酸化硫黄のいずれか、又は、それらの混合物である請求項1に記載の水溶液中の還元剤の定量方法。
【請求項3】
前記定量対象液を添加する前の前記ヨウ素−デンプン混合液に、pHが4.3〜5の酢酸−酢酸ナトリウム緩衝液を添加しておく請求項1又は2に記載の水溶液中の還元剤の定量方法。

【公開番号】特開2013−3113(P2013−3113A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−137742(P2011−137742)
【出願日】平成23年6月21日(2011.6.21)
【出願人】(502362758)JX日鉱日石金属株式会社 (482)
【Fターム(参考)】