説明

水熱分解用吸着体、及びこれを用いた感染性有機廃棄物及び/又は含塩素有機廃棄物の処理方法

【課題】水熱反応処理において発生する酸性成分及び/又は重金属成分を吸着し、酸性成分及び重金属成分を含まない処理物を生成することができる水熱分解用吸着体、及びこれを用いた処理方法を提供する。
【解決手段】感染性有機廃棄物及び/又は含塩素有機廃棄物に、磁性体1に酸化性アルカリ化合物2及び重金属吸着剤3のいずれか一方又は双方を固定化した水熱分解用吸着体を混合し、温度300℃以下、圧力3MPa以下の条件で水熱反応処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水熱分解用吸着体、及びこれを用いた感染性有機廃棄物及び/又は含塩素有機廃棄物の処理方法に関し、詳しくは、感染性有機廃棄物及び/又は含塩素有機廃棄物の水熱反応処理において発生する酸性成分及び/又は重金属成分を吸着し、酸性成分及び/又は重金属成分を含有しない、又は酸性成分及び重金属成分の含有量を大幅に低減させた処理物を生成することができる水熱分解用吸着体、及びこれを用いた処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、医療廃棄物に代表される感染性有機廃棄物や塩素含有有機廃棄物の90%以上が焼却処理をされており、医療廃棄物焼却炉は、ダイオキシン類や酸性ガス・一酸化炭素・窒素酸化物などを含むさまざまな汚染物質を大気中に放出している。これらの汚染物質は、地域の環境のみならず地球環境に大きな影響を及ぼしていると考えられ、作業者のみならず地域住民にも大きな影響を及ぼしている可能性がある。例えば、ダイオキシン類は発ガンや免疫システムの異常、糖尿病、出産異常、その他さまざまな健康影響に関係があるとされている。
【0003】
このような状況下、焼却に代わる医療廃棄物の無害化処理の研究や開発が盛んに行われている。例えば、病原体を、オートクレーブ等の熱処理、酸化性の薬品による化学的処理、電子線や放射線照射処理、酵素等による生物学的処理で無害化し、機械的に粉砕、圧縮する方法等が提案されており一部実用化もされている。しかしながら、これらの方法は、可燃物と不燃物の分別操作が必要であること、作業者の高度の訓練が必要、処理コストが高いなどの問題がある。
【0004】
そこで、近時、高温・高圧の水蒸気による超臨界水(例えば、22MPa、375℃程度)あるいは超臨界に近い亜臨界水による無害化分解が注目されている。これら、超臨界水や超臨界に近い亜臨界水による分解では、水中で酸化分解を行うため、燃焼法のような有害なNOxやSOxが処理水に捕捉され排出されない点や、温度が低い酸化分解であるためダイオキシンが発生しない点で優れている。また、感染性の細菌やプリオン等の分解も可能であるため超臨界及び亜臨界分解は医療廃棄物に適した無害化処理法として適している。
【0005】
このような亜臨界または超臨界反応を利用した医療廃棄物の処理方法として、例えば、特許文献1には、金属及びガラス等の不燃性廃棄物とプラスチック及び病理廃棄物等の可燃性廃棄物に分離後、不燃性廃棄物を、100℃を超える温水(例えば、110℃〜200℃の温水)を用いて滅菌及び殺菌処理して取り出し、可燃性廃棄物を亜臨界水条件下の水熱反応で処理し、生成された固相と液相をそれぞれ分離して取り出す方法が提案されている。また、特許文献2には、水が注入された医療廃棄物を冷凍後、冷凍された医療廃棄物を粉砕し、粉砕された医療廃棄物と水との混合スラリーを超臨界水酸化分解する超臨界水酸化分解装置が開示されている。
【0006】
特許文献1、2に開示がされている方法では、感染性細菌やプリオン等の分解が可能な特徴を生かしきれていないばかりか、有機廃棄物をガスまたは液体まで分解するために、超臨界及び超臨界に近い亜臨界水状態とする必要があり、耐食性の低い装置を用いて有機廃棄物の分解を行った場合には、装置の腐食を引き起こすおそれが生じうる。したがって、超臨界及び超臨界に近い亜臨界水状態で有機廃棄物の分解を行う場合には装置材料として高耐食性の高級材料を使う必要があった。このことは高温高圧の状態を保持するために必要なエネルギーコストと合わせて、ランニングコストの大幅アップに繋がり、実用化に障害となる。
【0007】
一方、ランニングコストを低減するため、分解圧力及び分解温度を7MPa及び200〜240℃に下げた湿式酸化法があるが、有機物の分解速度が著しく低下し、臭気の原因となる有機酸の発生のほか、含塩素有機物の脱塩素化反応が遅くなるため、反応を加速する酸素及び重金属系の酸化触媒を添加する必要がある。そうすると、安全性の問題や、生成される燃料は重金属を含むため燃料としての再利用に弊害をきたすなど問題が生じうる。
【0008】
また、特許文献3には、超臨界水あるいは亜臨界水の酸化分解力を増加し有機物をガス化するため、酸素、過酸化水素、オゾンを触媒または水溶性アルカリを添加する方法が開示されている。また、特許文献4には、プラスチック廃棄物と水酸化ナトリウムのアルカリ性溶液を加熱しこれらを反応させ脱塩素化を行う事を特徴としたプラスチック処理法が開示されている。また、特許文献5には、硝酸塩を含有する超臨界水・亜臨界水を使用して500℃未満で有機物を酸化する方法が開示されている。しかしながら、特許文献3〜5に開示がされている方法では、十分な効果を発揮するために、300℃以上の高温が必要であり、また、添加時の作業性や反応時の操作性に問題があり、実用化には至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−205001号公報
【特許文献2】特開平11−56933号公報
【特許文献3】特開2003−201486号公報
【特許文献4】特許第3273316号公報
【特許文献5】特許第3816502号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このような状況下、例えば、300℃以下、且つ3MPa以下の温和な条件下で、水熱反応による感染性有機廃棄物や含塩素有機廃棄物の無害化処理を行い、再燃料としての処理物を生成する試みも行われている。しかしながら、感染性有機廃棄物や含塩素有機廃棄物には、塩化ビニル樹脂が含有されていることが多く、温和な条件で水熱反応を行った場合には、水熱分解時の脱塩素化により反応容器を腐食させることとなる。また、これらの廃棄物に塩化ビニルの安定化剤としての重金属が含有されている場合には、水熱反応により分解・分離した重金属が、反応容器内に残存し、処理物を燃料として再利用する際の大きな問題となる。
【0011】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、超臨界水による分解や湿式分解に比べ温和な条件によって、感染性有機廃棄物や含塩素有機廃棄物の無害化処理を行う際に、発生する酸性成分、重金属成分を吸着し、これらの成分を含有しない、あるいはこれらの成分の含有量を大幅に低減させた処理物を生成することができる水熱分解用吸着体、及びこれを用いた処理方法を提供することを主たる課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するための本発明は、水熱反応を利用した感染性有機廃棄物及び/又は含塩素有機廃棄物の無害化分解に用いられる水熱分解用吸着体であって、前記水熱分解用吸着体が、磁性体に、酸化性アルカリ化合物及び重金属吸着剤のいずれか一方又は双方を固定化してなる吸着体であることを特徴とする。
【0013】
また、前記水熱分解用吸着体が、親水性無機コーティング剤によって、酸化性アルカリ化合物及び重金属吸着剤のいずれか一方又は双方を磁性体に固定してなるものであってもよい。また、前記酸化性アルカリ化合物が、カルシウム塩及びナトリウム塩のいずれか一方又は双方であってもよい。
【0014】
また、前記磁性体には、前記カルシウム塩及び前記ナトリウム塩が固定化されており、前記カルシウム塩と前記ナトリウム塩のモル比が1:100〜100:1の範囲内であってもよい。
【0015】
また、前記重金属吸着剤が、無機吸着剤又は、硫化処理が施された無機吸着剤であってもよい。また、前記親水性無機コーティング剤が、ケイ酸系の水性金属塩コーティング剤であってもよい。
【0016】
また、前記磁性体が、Fe、Co、Ni、Gdの何れか、あるいはこれらの化合物であってもよい。また、前記磁性体の形状が、多孔質の球状又は多孔質の球形籠状であってもよい。
【0017】
また、上記課題を解決するための本発明の方法は、感染性有機廃棄物及び/又は含塩素有機廃棄物の水熱反応による処理方法であって、反応容器内に、感染性有機廃棄物及び/又は含塩素有機廃棄物と、上記の特徴を有する水熱分解用吸着体とを投入する工程と、温度300℃以下、圧力3MPa以下の条件で、前記感染性有機廃棄物及び/又は含塩素有機廃棄物を分解し、処理物を生成する工程と、を有することを特徴とする。
【0018】
また、上記課題を解決するための本発明の方法は、感染性有機廃棄物及び/又は含塩素有機廃棄物の水熱反応による処理方法であって、反応容器内に、感染性有機廃棄物及び/又は含塩素有機廃棄物と、上記の特徴を有する水熱分解用吸着体とを投入する工程と、温度300℃以下、圧力3MPa以下の条件で、前記感染性有機廃棄物及び/又は含塩素有機廃棄物を分解し、処理物を生成する工程と、を有し、前記水熱分解用吸着体を投入する工程が、カルシウム塩及びナトリウム塩の何れか一方、又は双方の混合物を、感染性有機廃棄物及び/又は含塩素有機廃棄物に含有される塩化物のモル量に対し、0.5〜10倍モルの割合となるように、水熱分解用吸着体を投入する工程であることを特徴とする。
【0019】
また、前記水熱分解用吸着体を投入する工程が、前記カルシウム塩と前記ナトリウム塩のモル比が、1:100〜100:1となるように、前記水熱分解用吸着体を投入する工程であってもよい。
【0020】
また、前記有機廃棄物の分解後に、前記水熱分解用吸着体を磁気分離によって、前記反応容器内より除去すること工程を更に有していてもよい。また、前記磁気分離により除去された水熱分解用吸着体を、酸性溶液に溶解し、フェライト化処理法又は硫化物処理法にて安定化処理する工程を更に有していてもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明の水熱分解用吸着体によれば、超臨界水による分解や湿式分解に比べ温和な条件によって、感染性有機廃棄物や含塩素有機廃棄物の無害化処理を行う際に、酸性成分や重金属成分を含有しない、あるいはこれらの成分の含有量を大幅に低減させた安全な処理物を低コストで生成することが可能であるとともに、この処理物は燃料として再利用することができる。さらに、本発明によれば、有機廃棄物分解中に発生する酸性成分によって反応装置が腐食されることもなく反応装置の長寿命化が可能となる。また、本発明の水熱分解用吸着体を用いた処理方法によれば、反応装置の長寿命化と低コスト化が可能であり、酸性成分や重金属成分を含有しない安全な処理物を低コストで生成することが可能であるとともに、この処理物は燃料として再利用することができる。さらに、本発明の方法によれば、感染性有機廃棄物に含有される感染性細菌やプリオン等の分解も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の水熱分解用吸着体の概略図である。
【図2】図1の水熱分解用吸着体の表面構造の一例を示すX部分の拡大図である。
【図3】図2のY部分の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
<<水熱分解用吸着体>>
以下、本発明の水熱分解用吸着体について図1〜図3を用いて具体的に説明する。なお、図1は、本発明の水熱分解用吸着体の概略図であり、図2は、図1の水熱分解用吸着体の表面構造の一例を示すX部分の拡大図であり、図3は、吸着物の固定化状況を説明する図2のY部分の拡大図である。
【0024】
本発明の水熱分解用吸着体は、水熱反応(水熱反応による分解、又は水熱分解という場合もある)を利用した感染性有機廃棄物及び/又は含塩素有機廃棄物(以下、感染性有機廃棄物及び/又は含塩素有機廃棄物を総称して、単に有機廃棄物という場合がある。)の無害化分解に用いられる吸着体であって、水熱分解用吸着体10は、磁性体1に、酸化性アルカリ化合物2及び重金属吸着剤3のいずれか一方又は双方(以下、酸化性アルカリ化合物及び重金属吸着剤3を総称して、単に吸着剤という場合がある。)を固定化してなる構成をとっている。
【0025】
本発明の水熱分解用吸着体10は、水熱反応によって有機廃棄物を分解し、燃料として再利用可能な処理物を生成する際に生ずる酸性成分や重金属成分の除去を行うために用いられるものであるが、水熱反応以外にも酸性成分や重金属成分の除去が所望される分野においても使用可能である。また、本発明の水熱分解用吸着体10が用いられる水熱反応の条件、すなわち水熱反応の温度条件や、圧力条件について特に限定はないが、超臨界水や、亜臨界水による水熱分解よりも穏やかな条件で行われる水熱反応である場合に好適に使用可能である。具体的には、本発明の水熱分解用吸着体10は、温度300℃以下、望ましくは250℃以下、圧力3MPa以下、望ましくは2.5MPa以下の条件下で行われる水熱反応時に特に好適に使用可能である。温度の下限値について特に限定はないが、少なくとも感染性有機廃棄物に含有される感染性細菌やプリオン等の分解が可能な温度である121℃以上であることが好ましい。また、圧力の下限値についても特に限定はないが、0.12MPa以上であることが好ましい。
【0026】
(磁性体)
磁性体1は、磁性機能を備えるものであればよく、その材料、形状等について特に限定はない。また、本発明における磁性体1は、全体として磁性機能を有するものであればよく、例えば、磁性機能を有する磁性物のみからなる磁性体であってもよく、磁性機能を有しない非磁性体と、磁性機能を有する磁性物の混合物や、非磁性体に磁性物を固着してなる形態であってもよい。本発明の水熱分解用吸着体10は、磁性機能を有する磁性体を備えることから、水熱反応によって、有機廃棄物から、燃料として再利用可能な処理物として生成した後に、酸性成分や重金属成分を吸着した水熱分解用吸着体10を反応容器内から磁気分離により容易に分離することができる。
【0027】
本発明において、磁性体1は、多孔質の磁性体であることが好ましい。多孔質の磁性体とすることで、磁性体の表面に固定されてなる酸化性アルカリ化合物や重金属吸着剤3のみならず、磁性体の内部に固定されてなる酸化性アルカリ化合物や重金属吸着剤3においても、酸性成分や重金属成分を吸着させることができる。
【0028】
多孔質の磁性体としては、例えば、図2に示すように繊維状の磁性物を集合してなる磁性体等を挙げることができる。磁性体の形状について特に限定はないが、後述する反応容器内において、吸着能を効果的に発揮し得るためには、容易に回転可能な形状であることが好ましく、例えば、多孔質の球状、蹴鞠状、球形籠状のものが好ましい。
【0029】
磁性体の大きさについても特に限定はなく、反応容器の形状、大きさ等に応じて適宜設定することができるが、取り扱い性や、製造性、及び吸着性等を考慮すると、磁性体の大きさは1mm〜30cm程度であることが好ましく、1cm〜10cm程度であることが特に好ましい。
【0030】
磁性体の材料についても特に限定はなく、磁性機能を備えるものであれば従来公知の材料を適宜選択して用いることができる。本発明においては、磁性体の材料は、Fe、Co、Ni、Gdの何れか、あるいはこれらの化合物であることが好ましい。
【0031】
図3に示すように磁性体1には、酸化性アルカリ化合物2及び重金属吸着剤3の何れか一方又は双方が固定されている(図3に示す場合にあっては磁性体1に酸化性アルカリ化合物2と重金属吸着剤3の双方が固定されている)。本発明の水熱分解用吸着体は、有機廃棄物の種別に応じて磁性体1に酸化性アルカリ化合物2、重金属吸着剤3のいずれかを固定させればよい。すなわち、有機廃棄物が含塩素有機廃棄物であり、酸性成分のみを除去する場合には、磁性体1に酸化性アルカリ化合物2のみを固定すればよく、重金属成分のみを除去する場合には、磁性体1に重金属吸着剤3のみを固定すればよい。また、酸性成分及び重金属成分を除去する場合には、磁性体1に酸化性アルカリ化合物2と重金属吸着剤3の双方が固定されていることが好ましいが、磁性体1に酸化性アルカリ化合物2のみが固定されてなる水熱分解用吸着体と、磁性体1に重金属吸着剤3のみが固定されてなる水熱分解用吸着体とを併せて用いることで、反応装置内から酸性成分及び重金属成分を除去することもできる。
【0032】
(酸化性アルカリ化合物)
酸化性アルカリ化合物2は、水熱反応時に脱塩素化により発生する酸性成分と反応し、該酸性成分を吸着する機能を有するものであればよく、酸化性アルカリ化合物について特に限定はないが、本発明においては、カルシウム塩、ナトリウム塩を好ましく使用可能である。また、カルシウム塩としては、酸化カルシウムが好ましく、ナトリウム塩としては、硝酸ナトリウム、亜硝酸ナトリウムが好ましい。
【0033】
含塩素有機廃棄物を水中で高温に加熱すると、脱塩素化反応と水素化反応によって塩素成分が有機廃棄物から脱離し、塩化水素の状態で凝縮水中に溶解する。凝縮水が純水である場合には、脱塩素化反応は非常に遅くなるものの、本発明の水熱分解用吸着体を構成する酸化性アルカリ化合物は、水熱反応時に酸素を放出し、それ自体が酸化触媒的な役割を果たす。これにより、含塩素有機廃棄物の脱塩素化反応、及び有機廃棄物の加水分解反応が促進される。
【0034】
また、これらの酸化性アルカリ化合物は、蒸気及び凝縮水によりアルカリ性の水酸化カルシウムや水酸化ナトリウムとなり、磁性体1の内部表面及び外部表面に存在することとなる。そして、磁性体1の内部表面及び外部表面に存在するアルカリ性の水酸化カルシウムや水酸化ナトリウムが、塩素及び塩化水素と反応することでさらに水熱反応が促進される。また、塩化水素と反応することで酸性となっている凝縮水は中和される。これにより、酸性において腐食しやすいSTPや、SUS316のような安価な反応容器材料であっても使用が可能となり、反応容器のコスト低減をはかることができる。また、このときの反応において、水熱反応時に生ずる酸性成分である塩素成分は塩化水素となり、塩化カルシウムや、塩化ナトリウムの状態で吸着剤に吸着される。また、後述する乾燥により、吸着された酸性成分は水熱分解用吸着体10に吸着された状態で乾燥され、乾燥後、磁気分離によって分離除去することができる。
【0035】
なお、ナトリウム塩は、300℃以下の雰囲気下で脱塩素化反応を促進させる点においては非常に優れるものの、ナトリウム塩のみを吸着剤として固定させた場合には、水熱反応時に全て溶出する虞が生じうる。したがって、本発明においては、酸化性アルカリ化合物として、水に難溶なカルシウム塩をナトリウム塩と併せて用いることが特に好ましい。
【0036】
また、酸化性アルカリ化合物として、カルシウム塩とナトリウム塩とを併せて用いる場合には、カルシウム塩とナトリウム塩のモル比が1:100〜100:1、好ましくは1:1〜50:1となるように磁性体1に固定化されていることが好ましい。この範囲内となるように、磁性体1にカルシウム塩とナトリウム塩とを固定化せしめた水熱分解用吸着体とすることで、水熱反応時の塩化ビニル樹脂の過度のポリ塩化を防ぎ、反応容器壁への反応処理物の付着の防止と酸化剤による反応装置の腐食を低減することができる。
【0037】
また、これらの酸化性アルカリ化合物は、水熱反応による分解によって生成される重金属を、単体からイオン化させることができる。例えば、感染性有機廃棄物に混入されている水銀化合物は、水熱反応によって分解し、水銀単体となるが、酸化性アルカリ化合物により、後述するゼオライトに代表されるアルミノケイ酸塩等の重金属吸着剤3に容易に吸着されやすい水銀イオンの形に酸化されることから、安定した吸着が可能となる。
【0038】
(重金属吸着剤)
重金属吸着剤3は、水熱反応によって生成される重金属を吸着する機能を有するものであればよく、従来公知の重金属吸着剤を適宜選択して用いることができる。本発明においては、無機吸着剤や、表面を硫化処理した無機吸着剤を好ましく用いることができる。また、水熱反応時に分解されず、耐久性を有するものであれば、有機高分子系吸着剤も使用可能である。特に、本発明においては、水中でのイオン交換機能を備え、水中の重金属類イオンを吸着可能な、ゼオライトに代表されるアルミノケイ酸塩等、例えば、カルシウム型人工ゼオライトや、シリカゲル、活性炭に代表される炭素系材料、非晶質リン酸カルシウム、ヒドロキシアパタイト等を好適に使用することができる。
【0039】
以下、重金属吸着剤3として活性炭を例に挙げ、重金属の吸着機構について説明する。活性炭の吸着機構は、化学吸着と物理吸着に大別される。化学吸着は活性炭の表面のカルボキシル基、水酸基、カルボニル基に重金属イオンが吸着(配位)する吸着態様であり、非イオン性の重金属は物理吸着によって吸着される。従って、イオン化していない金属水銀は物理吸着により吸着されることとなる。しかしながら、活性炭による物理吸着は、非常に吸着量が小さい。
【0040】
例えば、金属水銀を例に挙げると、金属水銀を酸化剤で酸化すると水銀イオン(Hg2+)となり、イオン交換方式の重金属吸着材であればこの状態で吸着することが可能である。なお、上述の酸化性アルカリ化合物は、金属水銀を酸化させ水銀イオンとする役割を果たす。活性炭はイオン性の水銀は吸着できるものの、金属水銀の状態では吸着することが困難であるが、金属水銀をヨウ化水銀、臭化水銀、硫化水銀とした場合には、活性炭によって容易に吸着・固定化することが可能である。そこで、本発明では、活性炭の表面を硫黄(S)、銀(Ag)、ヨウ素(I2)、臭素(Br2)等で修飾した活性炭を用いて吸着することが好ましい。この活性炭によれば、イオン化している水銀のみならず、イオン化していない水銀であっても容易に吸着することができる。
【0041】
また、気相中の金属水銀を効果的に吸着するためには活性炭を撥水処理し、その後に、硫黄、銀、ヨウ素、臭素等を担持することが好ましい。活性炭表面が水に濡れないため気相中の金属水銀と反応しやすいからである。撥水処理としては高温で熱処理をする方法等を挙げることができる。
【0042】
炭素系材料の表面をヨウ素で装飾する方法としては、粒状活性炭に所定量のヨウ化カリウムを含む20%程度の硫酸水溶液を減圧含浸・風乾させヨウ素を担持させる方法を挙げることができる。臭素の場合も臭化カリウムを使い同様に固定化することができる。固定量は活性炭1g当たり0.8mg原子程度とすることで吸着量を増大させることができる。
【0043】
炭素系材料の表面を硫黄で装飾する方法としては、150℃程度に加熱した反応管内の粒状活性炭に硫化水素ガスを流すことで活性炭上に硫黄を固定化させることができる。
【0044】
以下に、装飾処理を施した活性炭による金属水銀の吸着例を示す。
【0045】
ガス組成:金属水銀ガス濃度30容量ppb、亜硫酸ガス1000ppm、酸素濃度5容量%、炭酸ガス濃度10容量%、水分12容量%、残り窒素ガスとし、このガスを0.5m3/時で通過させた。通過時のガス温度は50℃とした。この金属水銀ガスを除去すべく、以下の例1〜4の活性炭を用い、水銀ガスの除去率(%)を測定した。
【0046】
例1・・・撥水処理活性炭にヨウ化カリウム(KI)を担持
例2・・・ヨウ化カリウム(KI)を担持しない撥水処理活性炭
例3・・・撥水処理を施さない活性炭にヨウ化カリウム(KI)を担持
例4・・・撥水処理も、ヨウ化カリウム(KI)の担持も行わない
なお、撥水処理は、活性炭を400℃程度の温度で熱処理することで行った。例1〜例4の活性炭を用いた水銀除去率(%)は下表1の通りである。
【0047】
【表1】

【0048】
表1からもわかるように、撥水処理後、活性炭表面にヨウ化カリウムを担持させた活性炭が最も効果的に、水熱反応後に酸化性アルカリ化合物によって酸化さずに残った金属水銀を除去できることがわかる。また、酸化性アルカリ化合物によって酸化された水銀はHgCl2や凝縮水に溶けたイオンとなり活性炭で吸着できる。また、この活性炭を、磁性体に固着せしめることにより、本発明の水熱分解用吸着体とすることができる。
【0049】
(親水性無機コーティング剤)
本発明の水熱分解用吸着体は、上記で説明した磁性体1に吸着剤2、3が固定された形態をとることを必須の構成としており、その固着態様について特に限定はないが、水熱反応における熱に耐えることができ、且つ吸着能を損なわない態様で固定されていることが好ましい。
【0050】
このような点を考慮すると、図3に示すように吸着剤2、3は、親水性無機コーティング剤4によって磁性体に固定されていることが好ましい。親水性無機コーティング剤は、磁性体の表面に通気性、親水性を有する被膜を形成することから、多孔質の磁性体の表面近傍に存在する吸着剤2、3のみならず、図3に示すように多孔質の磁性体の内部に存在する吸着剤2、3においても、その吸着能を発揮することができる。
【0051】
親水性無機コーティング剤としては、ケイ酸カルシウム、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸ナトリウムや、シリカアルミナセラミックス等を挙げることができる。中でも、本発明においては、二酸化ケイ素の水溶液と水酸化カルシウムとから形成されたケイ酸カルシウムや、二酸化ケイ素の水溶液と水酸化亜鉛とから形成されたケイ酸亜鉛等を特に好ましく使用することができる。
【0052】
親水性無機コーティング剤によって、磁性体に吸着剤2、3が固定されてなる水熱分解用吸着体の製造方法について特に限定はないが、吸着剤2、3を含有させた親水性無機コーティング剤に、磁性体1を浸漬し、これを取出したのちに乾燥を行うことで容易に製造することができる。吸着剤2、3を含有させた親水性無機コーティング剤の粘度としては、10〜20秒程度であることが好ましい。
【0053】
<<水熱反応による感染性有機廃棄物及び/又は含塩素有機廃棄物の処理方法>>
次に、本発明の水熱反応による感染性有機廃棄物及び/又は含塩素有機廃棄物の処理方法(以下、単に本発明の処理方法という場合がある。)について説明する。
【0054】
本発明の処理方法は、水熱反応による感染性有機廃棄物及び/又は含塩素有機廃棄物の処理方法であって、反応容器内に、感染性有機廃棄物及び/又は含塩素有機廃棄物と、水熱分解用吸着体を投入する工程と、温度300℃以下、圧力3MPa以下の条件で、有機廃棄物を分解し、酸性成分及び/又は重金属成分を含有しない処理物を生成する工程と、を有することを特徴とする。
【0055】
<投入工程>
投入工程は、反応容器内に、感染性有機廃棄物及び/又は含塩素有機廃棄物(以下、感染性有機廃棄物及び/又は含塩素有機廃棄物を総称して、単に有機廃棄物という場合がある。)と、水熱分解用吸着体を投入する工程である。有機廃棄物及び水熱分解用吸着体は、上記で説明した通りであり、ここでの詳細な説明は省略する。
【0056】
有機廃棄物は、周囲への汚染を防ぐために、回収容器(例えば、コンテナー)に入れたままの状態で、反応容器内へ投入されることが好ましい。
【0057】
(反応容器)
反応容器は、水熱反応において一般的に用いられる従来公知の反応容器であればよく、反応容器について特に限定はないが、少なくとも、有機廃棄物を投入するための投入口と、水熱反応によって生成される処理物を取出すための取出し口、高圧蒸気を導入するための導入口を備える。また、本発明の処理方法では、撹拌翼を備えた反応容器であることが好ましい。撹拌翼を備える反応容器によれば、撹拌翼を回転させることで、水熱反応時に上記で説明した水熱分解用吸着体を、反応容器内で回転移動させることができ、酸性成分や重金属成分の吸着能を向上させることができる。なお、反応容器は、水熱反応時の熱に耐えることができる金属製であることが好ましい。
【0058】
また、当該工程においては、吸着剤としてのカルシウム塩及びナトリウム塩の何れか一方、又は双方の混合物が、有機廃棄物に含有されている塩化物に対し、0.5〜10倍モルの割合、好ましくは0.5〜5倍モル、より好ましくは、1〜3倍モルとなるように、水熱分解用吸着体を投入することが好ましい。水熱分解用吸着体をこの範囲内となるように投入することで、水熱反応時に塩化物の分解反応を促進させることができる。
【0059】
また、カルシウム塩とナトリウム塩は併せて用いることが好ましい。カルシウム塩として酸化カルシウムを、ナトリウム塩として硝酸ナトリウムを用いた場合を例に挙げると、酸化カルシウムは、水蒸気や凝縮水と反応し活性の高い多孔性水酸化カルシウムを形成する。この水酸化カルシウムによる酸性ガスの吸着のメカニズムは現在のところ必ずしも明確ではないが、水酸化カルシウムと酸性ガスとの良好な反応性によるものと考えられる。具体的には、水酸化カルシウムは100℃で水100gに0.069gしか溶解しないが、酸性物質があると中和反応をし続け、1モルで2モルのHClを中和することができる。また、ナトリウム塩であるNaNO3は酸化反応をしながらNaOHとなり、酸化カルシウムあるいは多孔性水酸化カルシウムと吸着して、HClを中和し、NaCl、或いはCaClとして吸着するものと考えられる。
【0060】
また、酸化性アルカリ化合物として、カルシウム塩とナトリウム塩とを併せて用いる場合には、カルシウム塩とナトリウム塩のモル比が1:100〜100:1、好ましくは1:1〜50:1となるように水熱分解用吸着体を投入することが好ましい。この範囲内となるように、水熱分解用吸着体を投入することで、水熱反応時の塩化ビニル樹脂の過度のポリ塩化を防ぎ、反応容器壁への反応処理物の付着の防止と酸化剤による反応装置の腐食を低減することができる。また、発生する酸性成分を50%以上吸着することが可能となる。
【0061】
<処理物生成工程>
処理物生成工程は、温度300℃以下、圧力3MPa以下の条件で、有機廃棄物を分解し、酸性成分及び/又は重金属成分を含有しない処理物を生成する工程である。
【0062】
当該工程では、高圧水蒸気を導入口から導入し、反応容器内を温度300℃、圧力3MPa以下の条件に保ち水熱反応を行う。反応容器内の温度は300℃以下であればよいが、必要蒸気量の低減および反応容器の耐久性の点を考慮すると、250℃以下であることが好ましく、200℃以上250℃以下であることが特に好ましい。水熱反応が可能な温度であれば下限値について特に限定はないが、少なくとも感染性有機廃棄物に含有される感染性細菌やプリオン等の分解が可能な温度である121℃以上であることが必要である。また、圧力は、3MPa以下であればよいが、上記と同様の観点から、0.12MPa以上2.5MPa以下であることが好ましい。水熱反応に要する時間について特に限定はないが、30分以上であることが好ましい。
【0063】
なお、温度が300℃程度である場合には、吸着剤としてカルシウム塩を単独で用いた場合でも脱塩素化率90%以上を達成することができるが、温度が低下するにしたがって、脱塩素化率は低下する傾向となり、250℃では、脱塩素化率は70%程度となる。この場合には、上記の如く、カルシウム塩とナトリウム塩をともに用いることが好ましい。特に、上記で説明したカルシウム塩とナトリウム塩との好ましい配合比となるように、水熱分解用吸着体を投入することで、250℃での脱塩素化率を90%以上とすることができる。
【0064】
高圧水蒸気は、30kg/cmG程度の高圧水蒸気であることが好ましい。なお、水熱反応時に、反応容器の下部には、この高圧水蒸気の凝縮水が存在している。凝縮水のpHについて特に限定はないが、水熱反応時のpHは、6以上であることが好ましい。pHが6未満の凝縮水を用いた場合には、反応容器を腐食させる問題が生じうるためである。
【0065】
当該工程によって、有機廃棄物の加水分解が行われ、酸性成分及び/又は重金属成分が除去された有機廃棄物が生成される。この処理物は堆肥や燃料としての再利用が可能となる。また、本発明では吸着剤として酸化性アルカリ化合物が用いられることから、水熱反応時に、酸化性アルカリ化合物から酸素が放出され、含塩素有機廃棄物からの脱塩素化反応、及び有機廃棄物の加水分解反応が促進される。また、これと同時に感染性有機廃棄物に含まれる感染性病原菌は滅菌される。
【0066】
また、水熱反応時に生ずる酸性成分としての塩化水素は、凝集水に一部溶解するが、大部分は酸化性アルカリ化合物の一部が凝集水と反応した反応生成物に吸着される。例えば、酸化性アルカリ化合物が酸化カルシウムである場合には、酸化カルシウムと凝集水との反応生成物である水酸化カルシウムの表面に吸着される。
【0067】
水熱反応後、反応容器内には加熱空気が導入され、生成された処理物及び水熱分解用吸着体は乾燥される。乾燥後、処理物は取出し口から取出される。
【0068】
また、反応容器内に投入される水熱分解用吸着体は、磁性体により磁性機能を有することから、処理物と水熱分解用吸着体とを磁気分離装置により容易に分離することができる。磁気分離装置としては、従来公知の磁気分離装置、例えば、磁石等を挙げることができる。
【0069】
水熱反応後に除去される、酸性成分及び/又は重金属成分を吸着した水熱分解用吸着体は、このままの状態でも安定化しているため、埋設処理等によって廃棄することができるが、酸性溶液に溶解させた後に、フェライト化処理、又は硫化物沈殿法によって、重金属を安定無害化処理することが好ましい。
【0070】
以上、本発明の水熱分解用吸着体、及びこれを用いた水熱反応による感染性有機廃棄物及び/又は含塩素有機廃棄物の処理方法について説明したが、本発明は上記各実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。
【0071】
最後に、本発明の水熱分解用吸着体を構成する吸着剤である酸化性アルカリ化合物2、重金属吸着剤3の吸着能を例5〜例10に示す。
【0072】
(例5)
NaNO3;0.204g(塩化水素発生量の1.5倍モル)をガラスビーズに固定化した後、ガラス製のパスツールピペット内に入れ、ガラスビーズの上に粉末状のポリ塩化ビニル(和光純薬製 重合度約1100);0.1gを載せた。次いで、純水;1.218gを入れた内容量8.6mlのSUS316の反応管に、管の内部液に浸らないようにパスツールピペットを入れ、250℃で1時間加熱した。
【0073】
加熱後、パスツールピペットを取出し処理液中の塩素イオン量を定量することにより脱塩素化率を求めた。脱塩素化率は60.7%であった。凝縮水のpHは6.39であった。
【0074】
(例6)
NaNO3;0.204g(塩化水素発生量の1.5倍モル)をガラスビーズに固定化せずに入れた以外は、例5と同様にして加熱を行った。加熱後の処理液中のイオン量を定量することで脱塩素化率を測定したところ、脱塩素化率は90.0%であった。
【0075】
したがって、ガラスビーズに固定化してなるNaNO3によって、塩素成分の29.3%(90.0%−60.7%)が吸着されていることがわかり、酸化性アルカリ化合物の酸性成分の吸着機能が明らかとなった。なお、例5、例6では、ガラスビーズを用いているが、ガラスビーズにかえて磁性体を用いることで、本発明の水熱分解用吸着体とすることができる。
【0076】
(例7)
NaNO3;0.0034g(塩化水素発生量の0.013倍モル)と、CaO;0.0448g(0.25倍モル)をガラスビーズに固定化した後、ガラス製のパスツールピペット内に入れ、ガラスビーズの上に粉末状のポリ塩化ビニル(和光純薬製 重合度約1100);0.1gを載せた。次いで、純水;3.4376gを入れた内容量8.6mlのSUS316の反応管に、管の内部液に浸らないようにパスツールピペットを入れ、250℃で1時間加熱した。
【0077】
加熱後、パスツールピペットを取出し処理液中の塩素イオン量を定量することにより脱塩素化率を求めた。脱塩素化率は30.7%であった。凝縮水のpHは10.82であった。
【0078】
(例8)
NaNO3;0.0034g(塩化水素発生量の0.013倍モル)、CaO;0.0448g(0.25倍モル)をガラスビーズに固定化せずに入れた以外は、例7と同様にして加熱を行った。加熱後の処理液中のイオン量を定量することで脱塩素化率を測定したところ、脱塩素化率は90.1%でpHは11.26であった。
【0079】
したがって、ガラスビーズに固定化してなるNaNO3、CaOによって、塩素成分の59.4%(90.1%−30.7%)が吸着されていることがわかり、NaNO3、CaOを併せて用いることによる酸化性アルカリ化合物の酸性成分の優れた吸着機能が明らかとなった。なお、例7、例8では、ガラスビーズを用いているが、ガラスビーズにかえて磁性体を用いることで、本発明の水熱分解用吸着体とすることができる。また、CaOの投入量を増やすことで、更なる吸着機能の向上を図ることもできる。
【0080】
(例9)
反応管にポリ塩化ビニル;0.1gと塩化カドミウム;0.009gを純水;3.048g、NaNO3;0.203gとカルシウム型人工ゼオライト;0.2gを入れ250℃で1時間加熱した。脱塩素化率は95.1%、Cd吸着率は100%、凝縮水のpHは6.3であった。なお、Cdの吸着量は、カルシウム型人工ゼオライトを取り除いた後に、液中のCdの残存量を測定することで算出した。
【0081】
(例10)
亜硝酸ナトリウム+人工ゼオライトそれぞれ5gを親水性金属コーティング剤(MS90 (有)テクノトレンド)100mlに投入し、よく混合した後、蹴鞠状スチールウール(18−8ステンレス、重量30g、直径7cm)を入れ、表面にコーティング膜を形成した。その後、乾燥器に入れ60〜180℃で3〜45分間保持し、乾燥固化した。スチールウールの重量変化により求めた亜硝酸ナトリウムと人工ゼオライトの吸着量はスチールウール1g当たり各々0.1gであった。
【0082】
反応管にポリ塩化ビニル;0.1gと塩化カドミウム;0.0098gを純水;3.045g、上記のスチールウールを2.12g添加し250℃で1時間加熱した。反応後の脱塩素化率は90.1%、Cdの吸着率は95%であった。なお、Cdの吸着量は、吸着剤をコーティングしたスチールウールを取り除いた後に、液中のCdの残存量を測定することで算出した。
【符号の説明】
【0083】
1 磁性体
2 酸化性アルカリ化合物
3 重金属吸着剤
4 親水性無機コーティング剤
10 水熱分解用吸着体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水熱反応を利用した感染性有機廃棄物及び/又は含塩素有機廃棄物の無害化分解に用いられる水熱分解用吸着体であって、
前記水熱分解用吸着体が、磁性体に、酸化性アルカリ化合物及び重金属吸着剤のいずれか一方又は双方を固定化してなる吸着体であることを特徴とする水熱分解用吸着体。
【請求項2】
前記水熱分解用吸着体が、親水性無機コーティング剤によって、酸化性アルカリ化合物及び重金属吸着剤のいずれか一方又は双方を磁性体に固定してなる吸着体であることを特徴とする請求項1に記載の水熱分解用吸着体。
【請求項3】
前記酸化性アルカリ化合物が、カルシウム塩及びナトリウム塩のいずれか一方又は双方であることを特徴とする請求項1又は2に記載の水熱分解用吸着体。
【請求項4】
前記磁性体には、前記カルシウム塩及び前記ナトリウム塩が固定化されており、
前記カルシウム塩と前記ナトリウム塩のモル比が1:100〜100:1の範囲内であることを特徴とする請求項3に記載の水熱分解用吸着体。
【請求項5】
前記重金属吸着剤が、無機吸着剤又は、硫化処理が施された無機吸着剤であることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の水熱分解用吸着体。
【請求項6】
前記親水性無機コーティング剤が、ケイ酸系の水性金属塩コーティング剤であることを特徴とする請求項2乃至5の何れか1項に記載の水熱分解用吸着体。
【請求項7】
前記磁性体が、Fe、Co、Ni、Gdの何れか、あるいはこれらの化合物であることを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の水熱分解用吸着体。
【請求項8】
前記磁性体の形状が、多孔質の球状又は多孔質の球形籠状であることを特徴とする請求項1乃至7の何れか1項に記載の水熱分解用吸着体。
【請求項9】
感染性有機廃棄物及び/又は含塩素有機廃棄物の水熱反応による処理方法であって、
反応容器内に、感染性有機廃棄物及び/又は含塩素有機廃棄物と、請求項1乃至7の何れか1項に記載の水熱分解用吸着体とを投入する工程と、
温度300℃以下、圧力3MPa以下の条件で、前記感染性有機廃棄物及び/又は含塩素有機廃棄物を分解し、処理物を生成する工程と、
を有することを特徴とする水熱反応による感染性有機廃棄物及び/又は含塩素有機廃棄物の処理方法。
【請求項10】
感染性有機廃棄物及び/又は含塩素有機廃棄物の水熱反応による処理方法であって、
反応容器内に、感染性有機廃棄物及び/又は含塩素有機廃棄物と、請求項3乃至7の何れか1項に記載の水熱分解用吸着体とを投入する工程と、
温度300℃以下、圧力3MPa以下の条件で、前記感染性有機廃棄物及び/又は含塩素有機廃棄物を分解し、処理物を生成する工程と、
を有し、
前記水熱分解用吸着体を投入する工程が、カルシウム塩及びナトリウム塩の何れか一方、又は双方の混合物を、感染性有機廃棄物及び/又は含塩素有機廃棄物に含有される塩化物のモル量に対し、0.5〜10倍モルの割合となるように、水熱分解用吸着体を投入する工程であることを特徴とする水熱反応による感染性有機廃棄物及び/又は含塩素有機廃棄物の処理方法。
【請求項11】
前記水熱分解用吸着体を投入する工程が、前記カルシウム塩と前記ナトリウム塩のモル比が、1:100〜100:1となるように、前記水熱分解用吸着体を投入する工程であることを特徴とする請求項10に記載の水熱反応による感染性有機廃棄物及び/又は含塩素有機廃棄物の処理方法。
【請求項12】
前記有機廃棄物の分解後に、前記水熱分解用吸着体を磁気分離によって、前記反応容器内より除去すること工程を更に有することを特徴とする請求項9乃至11の何れか1項に記載の水熱反応による感染性有機廃棄物及び/又は含塩素有機廃棄物の処理方法。
【請求項13】
前記磁気分離により除去された水熱分解用吸着体を、酸性溶液に溶解し、フェライト化処理法又は硫化物処理法にて安定化処理する工程を更に有することを特徴とする請求項12に記載の水熱反応による感染性有機廃棄物及び/又は含塩素有機廃棄物の処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−228661(P2012−228661A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−98753(P2011−98753)
【出願日】平成23年4月26日(2011.4.26)
【出願人】(504193837)国立大学法人室蘭工業大学 (70)
【出願人】(510232887)株式会社EMI (2)
【Fターム(参考)】