説明

水環境における養分溶散体

【課題】施肥材料の本来の効果を有効且つ持続的に発揮し得る養分溶散体を提供することを目的とする。
【解決手段】水中に設置して養分を水中へ溶散する養分溶散体10であり、該養分溶散体10は、2価の鉄を含む施肥材料が閉鎖容器11に収容されてなる。閉鎖容器11は、その側壁に2以上の孔14が設けられている。養分溶散体10は、上面が閉鎖された構成であるのでヘドロ等が容器11内に入らず、内部の施肥材料が堆積物で覆われることが殆どない。孔14が側壁に2以上設けてあるので、容器11内外を水が円滑に出入りし、施肥材料からの溶出養分が容器11外に徐放される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海洋といった水環境における海洋生物の繁殖を促すための養分溶散体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、海洋資源の減少が問題視されている。そこで水産資源の保護・育成や沿岸海域における生物生存環境保全などの観点から、魚礁や藻礁、潜堤などの構造体を設置することが行われている。
【0003】
上記構造体のひとつとして、製鋼スラグを材料としたものが知られている。製鋼スラグは鉄鋼製造プロセスで生成する各種スラグのうちでも高い水質浄化作用を有するものである。その作用として、スラグ中のCaOの溶出によるpHの上昇で、硫酸還元菌の活動を抑制して硫化水素の発生を少なくすることや、スラグ中のCaO、Fe23によって水中の硫化水素を固定するといったことが挙げられる。
【0004】
この様な製鋼スラグを用いた潜堤として、例えば特許文献1には、所定サイズの製鋼スラグを積み上げて構築した潜堤(具体的には、粒径100mm以上の製鋼スラグ塊を60質量%以上、粒径30〜300mmの製鋼スラグ塊を95質量%以上の割合として積み上げた潜堤)や、更にこの積み上げた潜堤を流失防止網(網の目開き50〜200mm)で覆ったものが提案されている。また上記所定サイズの製鋼スラグを、上面が開放され且つ側面及び底面に開口部(開口部の合計面積率が20%以上)を設けた容器に収容し、これを水底に複数個並べるか、或いは積み重ね配設することなども提案されている。
【0005】
上記特許文献1のものは、スラグ塊サイズを規定することで、スラグ塊間の隙間広さを調整し、隙間内の堆積物が潮流等によって洗い流され易いようにしている。これにより、潜堤構成材料に対する有機性浮泥の付着・堆積を抑え、製鋼スラグ本来の水質浄化作用を有効に発揮させるようにする。
【0006】
また特許文献2には、上面が開放されるかまたは上面に孔が穿設された容器に、鉄鋼スラグ(製鋼スラグや高炉スラグ)を含有する施肥材料を収容したものが提案されており、該施肥材料から溶散する肥料成分により海洋生物の繁殖・育成を図っている。
【0007】
ここでは、容器上面の開放部或いは上記孔の最大寸法dと、容器上面から施肥材料の表面までの深さDとの比(D/d)を0.2以上に規定している。この規定は深さDを大きくすることによって、施肥材料からの過度な溶散を抑え、長期間に亘る施肥効果の持続を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−256497号公報
【特許文献2】特開2007−330254号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、上記従来技術のように上方から各種成分を溶散させる構成であると、逆に上から沈降してくるヘドロ等の堆積によって、上面の開口部が閉鎖される虞がある。この閉鎖の確認は、海中であることから困難である上、堆積物の除去にはコストがかかる。この状態が放置されると、製鋼スラグの水質浄化作用や施肥材料の施肥効果は全く発揮されず、単なる産業廃棄物の集積場になってしまう。
【0010】
この点、特許文献1の潜堤では、上述の様にスラグ塊サイズの規定によってこれらの隙間サイズを調整し、堆積物が洗い流され易いようにしているが、その効果は永続性が保障されない。また上記特許文献2の施肥材料入り容器では、そもそもヘドロ等の堆積について考慮されているとは到底言えない。
【0011】
そこで本発明は上記の様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、ヘドロ等の堆積物によって施肥材料が覆われるのをできるだけ少なくして、施肥材料の本来の効果を有効且つ持続的に発揮し得る養分溶散体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る養分溶散体は、水中に設置して養分を水中へ溶散する養分溶散体であって、2価の鉄を含む施肥材料が閉鎖容器に収容されてなり、前記閉鎖容器が、その側壁に2以上の孔が設けられたものであることを特徴とする。
【0013】
ヘドロ等は専ら上から降ってきて堆積するが、本発明では施肥材料を収容する容器が、側壁に孔を有する閉鎖容器であり、上面を閉鎖した構成としているので、上から降ってくるヘドロ等が容器内に入らない。従って施肥材料がヘドロ等の堆積物で覆われることが殆どなく、施肥材料からの養分の溶出が持続される。
【0014】
そして溶出した養分が、容器側壁の2以上の孔から外部へと拡散し、周囲に海洋生物を誘引し、且つその繁殖を促す。
【0015】
ここで、容器側壁の孔が1つとしなかったのは、孔が1つであれば、その孔が流入勝手または流出勝手のいずれか一方となってしまい、容器の内と外の水の出入りが滞り、施肥材料からの溶出自体が進まず、また溶出した養分が容器外に出て行き難い。孔が2つ以上であれば、時々刻々変化する潮流の向きや強さに対応して一方が水の流入孔、他方が水の流出孔の役割をし、容器内外を水が円滑に出入りする。従って容器内に存在する溶出養分が、容器外に放散されやすい。
【0016】
上記2以上の孔の配置態様としては、容器の側壁であって互いに離れた位置が好ましく、孔の配置は種々設計変更が可能である。詳しくは、例えば孔を2つ配置する場合は、容器側壁における互いに対向させた位置に設けることが最も好ましい。容器内における一方の孔から他方の孔へ水が容易に流れるからである。
【0017】
この場合、2つの孔が、容器の中心(容器の水平断面の中心、且つ容器の深さ方向の中心)を基準として60〜180°の中心角をなすように配置されていることが好ましい。また孔を3つ以上設ける場合、上記2つの孔とは、隣接する孔に限るのではなく、遠い孔同士の中心角が60〜180°となればよい。
【0018】
すなわち「中心角」とは、例えば容器側壁の同じ高さの位置に2つの孔が設けられている場合に、容器の水平断面における中心点から上記2つの孔に伸ばした直線のなす角度をいう。また容器側壁の縦方向に高さの異なる2つの孔が設けられている場合は、容器の水平断面における中心点を含むようにとった容器の垂直断面の中心点からこれら2つの孔に伸ばした直線のなす角度をいう。更に2つの孔が容器側壁に斜めに配置された場合は、容器の中心から2つの孔に伸ばした直線のなす角度をいう。
【0019】
例えば水平断面が正方形の容器において各側壁の中央に孔を1つずつ設けた場合に、或る側壁Aに設けた孔aと、この側壁Aに対向する側壁Bに設けた孔bとの中心角は180°となる。この場合に側壁Aの隣の側壁Cに設けた孔cと上記孔aとの中心角は90°となる。また例えば図2のように水平断面が四角形の容器において各側壁に2つの孔を設けたもの等においては、それぞれの孔に対し、中心角が60〜180°となる孔が様々に存在する。中心角60°以上に配置できれば、多角形の容器における1つの側壁のみに2以上の孔を設けてもよい。
【0020】
より好ましくは、2つの孔の中心角が90〜180°となるように配置したものである。
【0021】
また本発明は閉鎖容器に孔を設けた構成であるから、収容した施肥材料に外界(容器外)の水が直接当たらず、施肥材料の養分の急速な減少を防止できる。そして設置海流や水深等を考慮して孔の数や大きさを調整することで、施肥材料から溶出した養分(特に鉄イオン)を徐々に放出させることができ、従って施肥効果を長期間にわたって維持することができる。
【0022】
因みに網製の篭に施肥材料を収容した場合では、施肥材料の殆どが海流等に直接曝されることになるので、施肥材料の養分溶出速度の調整ができず、急速に減少することがある。このため、養分放出を長期間持続し難くなる。
【0023】
前記容器の孔の大きさとしては、最長径が50mm以下、最短径が10mm以上であることが好ましい。孔の形としては円形、楕円形、角形等、様々な形があるが、例えば楕円形の場合、上記最長径はその長軸の長さを言い、上記最短径はその短軸の長さを言う。また例えば長方形の場合、上記最長径は対角線の長さを言い、上記最短径はその短辺の長さを言う。
【0024】
水中に載置された養分溶散体には海流や潮流等が作用し、容器の孔を通して内部の水が交換されるが、孔の最短径が10mm未満であると、小さすぎて(長孔の場合は細過ぎて)、容器への水の流入・流出が円滑に行われなくなるからである。
【0025】
他方、孔の最長径を50mm以下とすることにより、容器内の水の交換速度を抑制している。交換速度が速すぎると、施肥材料の養分の減少が激しくなり、無駄な放散となるからである。また交換速度を抑制することで、施肥材料から溶出した養分を、容器内で或る程度まで高めて外部に放出することができる。例えば、溶出したFe(II)の濃度を容器内で或る程度まで高めてクエン酸で安定化し、そして容器外に徐々に放出することが可能となる。
【0026】
交換速度は付近の海流や潮流等の影響を受けるが、容器内の水が1日に1回程度入れ替わることが好ましい。例えば容器容量が70リットルの場合、容器に流入/流出する液体量(交換量)が70リットル/日となるように孔径を調整すると良い。
【0027】
更に本発明の養分溶散体は、以下に述べる理由により、施肥材料の流出防止対策を並行的に加えたものであることが好ましい。流出防止対策の第1は、前記閉鎖容器内部の空き空間に繊維体を収容する構成であり、この際、繊維体としては、繊維束、紐、布帛(織物、編物、不織布)、ワタ等が挙げられる。本発明の養分溶散体は長期間にわたり海中に設置するため、効果を持続させるという観点からは耐食性ステンレス、ポリエステル、ポリアミド、炭素繊維のような海水に腐食されない材料で構成されたものを用いることが望ましく、また、鉄源を兼ねさせるという観点から、鉄や鋼で構成されたものを用いることもできる。
【0028】
施肥材料が元々小粒径のものを多く含む場合、或いは海水への浸漬に際して砕ける場合、更には海水中への養分の溶出によって施肥材料が当初より小さくなると、施肥材料が閉鎖容器の孔を通して外部に流出することが懸念される。施肥材料の素材や構成によっては、養分の溶出により徐々に小さくなっていくものや、外形の大きさはそのまま保持されてもポーラス状になっていくもの等があるからである。
【0029】
この点、上記のように繊維体を空き空間に収容しておけば、繊維体に施肥材料が付着または保持されて、外部への流出が防止される。
【0030】
また繊維体を収容することによる上記以外の効果としては、容器に出入りする水量や流入速度が繊維体の存在によって緩和できることが挙げられる。従って養分溶散体を水中に設置する施工の際に、載置する現地の潮流、海流等の状況に応じて、その現場において繊維体の収容量を調節することによって容器に出入りする水量を調整することもできる。
【0031】
流出防止対策の第2は、前記施肥材料を開閉自在な網製袋或いは網製容器に収納した状態で前記閉鎖容器に収容する構成である。この第2の対策を講じることにより、施肥材料が上記網製袋(或いは網製容器)の内部に留め置かれ、前記第1対策と同様の機構により、容器外への流出を防止できる。なお網製袋(或いは網製容器)のメッシュ孔は施肥材料よりも十分に小さくしておくことが望まれる。網製袋(或いは網製容器)については、天然繊維、合成繊維、金属繊維、無機繊維などを用いた細線、糸、紐、ワイヤなどで構成されるものの他、パンチングメタル板を組み立てた箱状のものや篭形式のものを用いることもできる。網製容器の場合には上部を開放した蓋なし状のものであっても良い。また、本発明の養分溶散体は長期間にわたり海中に設置するため、耐食性ステンレス、ポリエステル、ポリアミド、炭素繊維のような海水に腐食されない材料で構成されたものを用いることがより望ましく、また、鉄源を兼ねさせるという観点から、鉄や鋼で肉厚に構成されたものを用いることもできる。
【0032】
なお前記二つの流出防止対策を並行的に実施すること、即ち該網製袋を収納した上で前記閉鎖容器内部に収容し、その際生じた空き空間に前記繊維体を収容することも推奨される実施態様である。
【0033】
また本発明の養分溶散体は、前記閉鎖容器における上面部、底面部、側壁の少なくとも一つが、開閉自在であることが好ましい。この様に開閉自在であれば、施肥材料中の養分が完全に溶出した場合等に、潜水夫によって新しい施肥材料と交換、或いは追加することが可能となる。
【0034】
なお開閉自在な構成としては、蓋を着脱自在に取り外す蓋タイプや、ヒンジ等で一辺を接続した状態で開閉する扉タイプ等が挙げられる。
【0035】
また、養分放散体における閉鎖容器の全部あるいは一部を鉄系材料で形成することで、鉄源を兼ねさせることもできる。特に施肥材料のうちの炭等の炭素源に鉄系材料製閉鎖容器が接すると、その接した箇所から鉄がイオン化されて溶出されやすい。従って、この構成の場合は、2以上の孔を備えた閉鎖容器により徐放性を保つという上記効果に加えて、閉鎖容器内面における炭等と接した箇所からの鉄イオンの溶出促進効果も発揮し得る。なおこの場合において、閉鎖容器の壁に、海中沈設期間中の溶出による貫通孔が生じないように、該壁を充分に厚くすると良い。
【0036】
本発明における前記施肥材料は、(1)鉄鋼スラグ及び/または粒鉄を前記2価の鉄源として含み、2価鉄イオンとキレート錯体を形成する有機物、並びに炭を含有する固化物であるか、(2)鉄鋼スラグ及び/または粒鉄を前記2価の鉄源として含み、並びに炭を含有する固化物であることが好ましい。なお、上記(2)の場合は2価鉄イオンとキレート錯体を形成する有機物を別の固化体として閉鎖容器内に収容するとよい。
【0037】
2価の鉄は、水生生物の繁殖に効果のある成分であり、鉄鋼スラグや粒鉄は2価鉄の供給源となる。
【0038】
また鉄鋼スラグは、セメント等で固化する際の骨材としての役割も果たす。なお固化剤としてはセメントや各種バインダが挙げられるが、これに限定されるものではない。また骨材として鉄鋼スラグ以外のものを用いても良い。
【0039】
なお鉄鋼スラグとしては高炉スラグや製鋼スラグが挙げられる。高炉スラグとは、銑鉄を製造する際に、副原料の灰分と一緒に分離回収されたものである。製鋼スラグとは、製鋼工程で生成するスラグである。
【0040】
炭素は、鉄とのイオン化傾向の違いを利用して、上記鉄源(鉄鋼スラグや粒鉄)からの鉄イオンの溶出を促進させるための材料である。この炭素源として上記の通り炭(木炭、竹炭等)が好適である。
【0041】
前記キレート錯体を形成する有機物としては、2価〜多価のポリカルボン酸が挙げられる。ポリカルボン酸としてはクエン酸やフルボ酸またはその塩類が好ましい。これらポリカルボン酸は、生成した鉄イオンのうち、施肥効果の高い2価鉄イオンをキレート形状として安定化させることができる。
【0042】
また施肥材料の大きさについては、最長径が10mm以上、200mm以下であることが好ましい。上述の通り海流や潮流等が孔を通して容器内の施肥材料に作用するが、10mm未満の小さい施肥材料では、緩やかな水流であっても容易に移動して、容器の孔から外部に流出する懸念があるからである。一方200mm超であると、体積に比して表面積が小さくなるため、大きさの割には養分の溶出が十分でないからである。
【0043】
更に施肥材料が、前記容器の孔の最長径よりも大きいことが好ましい。これにより、施肥材料の孔からの流出を防止できる。
【0044】
上記網製袋としては金網製の立方体容器等が挙げられる。この金網製容器のうちのいずれかの面を開閉可能に構成することで、収容した施肥材料を交換追加することができる。
【発明の効果】
【0045】
本発明に係る養分溶散体によれば、施肥材料がヘドロ等の堆積物で覆われることが殆どなく、施肥材料の本来の効果を有効に且つ持続的に発揮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の実施形態1に係る養分溶散体を示す斜視図である。
【図2】本発明の実施形態2に係る養分溶散体を示す斜視図である。
【図3】本発明の実施形態3に係る養分溶散体を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下、本発明に係る養分溶散体に関して、例を示す図面を参照しつつ具体的に説明するが、本発明はもとより図示例に限定される訳ではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0048】
<実施形態1>
図1は本発明の実施形態1に係る養分溶散体10を示す斜視図である。
【0049】
養分溶散体10は、閉鎖容器11の中に施肥材料(図示せず)が収容されたものである。閉鎖容器11は、有底円筒形の容器本体部12に円盤状の蓋13を着脱自在に取り付けたものである。本体部12の上端部分はフランジ12aとなっており、これを蓋13の周縁部分13aに重ね、クランプ15によって固定する。
【0050】
本体部12の周壁(側壁)には円形の孔14が4つ形成されている。孔14の直径はいずれも10mmである。これらの孔14は2つで1組となって、それぞれ容器本体部12の周壁に対向して配置されている。換言すると、これら4つの孔14は中心角90°となるようにして均等に配置されている。
【0051】
閉鎖容器11の素材は鋼或いはプラスチックである。なお容器本体部12と蓋13の両方を鋼製或いはプラスチック製としても良いし、またはいずれか一方を鋼製、他方をプラスチック製としても良い。
【0052】
施肥材料は、粒鉄、製鋼スラグ、木炭、クエン酸をセメントで固化した後、最長径として70〜100mm程度に砕いたもの(固化物)である。
【0053】
この固化物を、プラスチック製の篭状容器(或いはパンチングプレート製の篭)に収容し、更に閉鎖容器11に収納し、養分溶散体10とする。
【0054】
使用にあたっては、海域に設置した魚礁や潜堤などの近辺に上記養分溶散体10を設置する。
【0055】
海中において、養分溶散体10の容器11内では施肥材料から2価鉄や燐などの養分が溶出する。そして海流や潮流、波による影響を容器11の横方向から受け、海水が孔14から流入・流出することで容器11内の海水が交換され、上記溶出した養分が容器11の外部に放出される。
【0056】
このとき、上記孔14はさほど大きくないので、上記溶出養分は徐々に放出されることになり、養分の放出が長期間持続する。そしてこの養分によって海洋生物の繁殖が盛んになることが期待できる。
【0057】
また閉鎖容器11(養分溶散体10)の上面は閉鎖されているから、閉鎖容器11内にヘドロ等が殆ど堆積しない。従って施肥材料が堆積物に埋もれるということがなく、施肥材料の効果を有効に発揮できる。しかも養分が徐放されることから、施肥材料の養分の減少速度がゆるやかで、長期間にわたって養分を溶出し続けることができる。
【0058】
施肥材料の養分がなくなった際には、蓋13を取り外して、容器11内に新たな施肥材料を追加、或いは交換すると良い。
【0059】
<実施形態2>
図2は本発明の実施形態2に係る養分溶散体20を示す斜視図である。なお図1と同一の符号を付した箇所は、図1の例と同じ構成部分である。
【0060】
養分溶散体20の閉鎖容器21は、有底四角筒形の容器本体部22に、四角形板状の蓋23を着脱自在に取り付けたものである。そして容器本体部22の上面開放部を蓋23により閉鎖できるようになっている。蓋23の取付けにおいてはクランプ15によって固定するようになっている。
【0061】
孔14は、容器本体部22の4つの側壁にそれぞれ2つずつ形成されている。即ち容器本体部22の側壁に孔14が対向して配置された構成となる。なおこの他の構成は上記実施形態1と同様である。
【0062】
この実施形態2の養分溶散体20においても、上面が閉鎖されているから、容器22内の施肥材料が堆積物で覆われることが殆どない。そして施肥材料が外界に直接曝されているわけではないので、施肥材料から養分がゆっくりと溶出され、この養分が孔14を通して徐放される。従って、施肥材料の本来の効果を有効に且つ持続的に発揮させることができる。
【0063】
<実施形態3>
図3は本発明の実施形態3に係る養分溶散体30を示す斜視図である。なお図1と同一の符号を付した箇所は、図1の例と同じ構成部分である。
【0064】
実施形態3の養分溶散体30は、容器本体部12への蓋13の取付けをボルト35とナット36で行ったものであり、他の構成は実施形態1と同様である。
【0065】
この実施形態3の養分溶散体30においても、上面が閉鎖されているから、容器12内の施肥材料が堆積物で覆われることが殆どなく、施肥材料からの養分が孔14を通して徐放される。従って施肥材料の本来の効果を有効且つ持続的に発揮させることができる。
【0066】
<他の実施形態>
上記実施形態1〜3では閉鎖容器の側壁に孔を設けたものを示したが、底面にも孔を設けても良い。
【0067】
また上記実施形態1〜3では上面の蓋を着脱自在に構成したものを示したが、これに限らず、側壁や底面部が着脱自在となる構成であっても良い。
【0068】
閉鎖容器の容器本体部と蓋の取り付けにあたっては、上記実施形態のようなクランプ15やボルト35−ナット36の他、針金や結束バンド等の固定具を用いても良い。
【0069】
<実験>
閉鎖容器として、4つの側壁にそれぞれ1つずつ孔を形成した立方体の容器を用いた。該容器の寸法(サイズ)は横200mm×幅200mm×高さ200mmである。上記孔は円形であり、その直径は下記表1に示す通りである。
【0070】
施肥材料として鉄分を含む固化物(最長径で100mm)を準備し、これを横100mm×幅100mm×高さ150mmのパンチングプレート製の篭(この篭の孔径は直径16mmで、開口率は約15%である)に入れた。これを上記閉鎖容器に収容し、流水型水槽に設置した。なおこの流水型水槽は、流速を海流と同レベルに設定しうるものである。
【0071】
流速を20mm/sec.に設定し、閉鎖容器内からの鉄分の流出量から、閉鎖容器の水の交換量(流入・流出量)を算出した。
【0072】
【表1】

【0073】
なお閉鎖容器の水の交換量に関し、容器サイズが違っても、容器形状が相似形(サイズ違いで同じ形状)であって、同じ配置に同様の孔が設けられていれば、交換量は容器サイズにかかわらずに一定であることが分かっている。養分溶散体(閉鎖容器に施肥材料を収容したもの)のサイズは、ハンドリングの容易さを考慮すると、外形が横400mm×幅400mm×高さ400mm(内容量約62リットル)から、外形が横1500mm×幅1500mm×高さ1500mm(内容量約3,340リットル)程度が好ましい。内部の施肥材料からの養分を、長期に安定して容器外に徐放させるには、容器内の水が1日に1回程度入れ替わることが好ましく、この点を考慮すると、交換量が62〜3,340リットルが望ましい。
【0074】
表1から分かるように、実験No.3のように孔のサイズが直径70mmの場合は、1日あたり6,000リットルの交換量で、容器がほぼ開放された状態と同等となる。これに対し、実験No.1,2のように孔のサイズが直径50mm以下の場合には、1日あたり2,500リットル以下の交換量となる。従って養分の徐放性の観点から、孔サイズが直径10mm〜50mmのものが好ましいことが分かる。
【0075】
なお上記実験に続いて、施肥材料として最長径を100mmから20mmへ少しずつ小さくしたもの(いずれも前記篭の孔径(直径16mm)より大きい範囲)を用いて同様の実験を行ったところ、満足すべき効果を確認することができた。
【符号の説明】
【0076】
10,20,30 養分溶散体
11,21 閉鎖容器
13,23 蓋
14 孔
15 クランプ
35 ボルト
36 ナット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中に設置して養分を水中へ溶散する養分溶散体において、
該養分溶散体は、2価の鉄を含む施肥材料が閉鎖容器に収容されてなり、
前記閉鎖容器は、その側壁に2以上の孔が設けられたものであることを特徴とする養分溶散体。
【請求項2】
前記孔の大きさは、最長径が50mm以下、最短径が10mm以上である請求項1に記載の養分溶散体。
【請求項3】
前記閉鎖容器内に、前記施肥材料と共に繊維体を収容するか、若しくは前記施肥材料を開閉自在の網製袋或いは網製容器に収納した上で前記閉鎖容器に収容したものである請求項1または2に記載の養分溶散体。
【請求項4】
前記閉鎖容器における上面部、底面部、側壁の少なくとも一つが、開閉自在である請求項1〜3のいずれか1項に記載の養分溶散体。
【請求項5】
前記施肥材料は、鉄鋼スラグ及び/または粒鉄を前記2価の鉄源として含み、2価鉄イオンとキレート錯体を形成する有機物、並びに炭を含有する固化物である請求項1〜4のいずれか1項に記載の養分溶散体。
【請求項6】
前記キレート錯体を形成する有機物が、2価〜多価のポリカルボン酸である請求項5に記載の養分溶散体。
【請求項7】
前記施肥材料が、前記孔の最長径よりも大きい請求項5または6に記載の養分溶散体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−24443(P2011−24443A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−171432(P2009−171432)
【出願日】平成21年7月22日(2009.7.22)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】