説明

水生生物付着防止シート及び水生生物付着防止塗料

【課題】水域を汚染することなく、高い水生生物付着防止効果を長期間発揮することのできる水生生物付着防止シート、ならびに、水性生物付着防止シートが取り付けられた水性生物付着防止パネルおよび水中構造物を提供する。
【解決手段】フッ素樹脂からなることを特徴とする水性生物付着防止シート及びフッ素樹脂を含むことを特徴とする水性生物付着防止塗料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中構造物に取り付けることにより水中構造物に水生生物が付着することを防ぐための水生生物付着防止シート、および、水中構造物に塗装することにより水中構造物に水生生物が付着することを防ぐことができる水生生物付着防止塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
各種の水中構造物、例えば発電所における海水取水施設などにおいては、その表面にフジツボ、ホヤ、セルプラ、ムラサキイガイ、カラスガイ、フサコケムシ、アオノリ、アオサなどの水生生物(海生生物)が多量に付着、生育し、それに起因する機能低下や機能障害を引き起こす懸念がある。従来においては付着した水生生物を定期的に掻き落とすなどの機械的な除去方法も一般的であったが、近年は各種の防汚塗料が開発され、これを水中構造物の表面に適用することで水生生物の付着を防止することが主に実施されている。
【0003】
防汚塗料としては、有機錫化合物、亜酸化銅、亜鉛ピリチオン、銅ピリチオンなどの毒性防汚剤を含むものがある。例えば、特許文献1では、澱粉又は澱粉分解物における水酸基を1種又は2種以上の脂肪酸アシル基で置換した澱粉脂肪酸エステルからなるバインダーと忌避剤とを含有し、形成塗膜が、塗膜形成要素の水中可溶化により上記忌避剤を徐放する防汚塗料組成物、及び、この防汚塗料組成物の塗膜が形成されてなる防汚パネルが提案されている。
【0004】
しかし、水生生物の付着、生育は防止できるものの、毒性防汚剤を用いているために、塗料の製造や塗装時において環境安全衛生上好ましくなく、しかも水中において塗膜から毒性の防汚剤が徐々に溶出し、長期的には水域を汚染するおそれがある。
【0005】
一方、水生生物の付着、生育の防止効果があり、毒性防汚剤を含まない塗料として、特許文献2では室温硬化性シリコーン樹脂及びシリコーンオイルを含有する水中生物付着防止塗料組成物が提案されている。
【0006】
また、特許文献3では、表面親水化用の加水分解性有機金属化合物と結合剤用の樹脂とを含み、表面の対水接触角が70度未満のコーティング層またはフィルムを形成する水生生物または生理物質付着防止用樹脂組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−233160号公報
【特許文献2】特開2010−13591号公報
【特許文献3】国際公開第01/60923号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、これらの塗料では、充分な水生生物付着防止効果は得られていない。
【0009】
本発明の目的は、水域を汚染することなく、高い水生生物付着防止効果を長期間発揮することのできる水生生物付着防止シート、ならびに、水生生物付着防止シートが取り付けられた水性生物付着防止パネルおよび水中構造物を提供することである。
【0010】
本発明の目的は、また、水域を汚染することなく、高い水生生物付着防止効果を長期間発揮することのできる水生生物付着防止塗料、ならびに、水生生物付着防止塗料が適用された水性生物付着防止パネルおよび水中構造物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明らは鋭意検討した結果、フッ素樹脂からなるシート及び塗膜の表面に水生生物がほとんど付着しないことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、フッ素樹脂からなることを特徴とする水生生物付着防止シートである。本発明は、フッ素樹脂を含むことを特徴とする水生生物付着防止塗料でもある。
【発明の効果】
【0013】
本発明の水生生物付着防止シートは、毒性防汚剤を含有しなくても高い水生生物付着防止効果を奏し、フッ素樹脂自身も化学的に極めて安定であるため、水域を汚染することなく、高い水生生物付着防止効果を長期間発揮することができる。
【0014】
本発明の水生生物付着防止塗料を適用した基材は、毒性防汚剤を含有しなくても高い水生生物付着防止効果を奏し、フッ素樹脂自身も化学的に極めて安定であるため、水域を汚染することなく、高い水生生物付着防止効果を長期間発揮することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、フッ素樹脂からなることを特徴とする水生生物付着防止シートである。
【0016】
水生生物としては、フジツボ類、ムラサキイガイ、イソギンチャク類、カキ、ホヤ、ヒドロ虫、コケムシ、各種水生微生物、各種海藻類(ミドリゲ、ホンダワラ、アオサ、アオノリなど)、各種珪藻類、環形動物(ウズマキゴカイ、シライトゴカイなど)、海綿動物(ユズダマカイメンなど)等が挙げられる。
【0017】
上記フッ素樹脂は、明確な融点を有するものであればとくに限定されないが、溶剤に不溶な樹脂であることが好ましい。
【0018】
上記フッ素樹脂は、融点が100〜347℃であることが好ましく、150℃〜322℃であることがより好ましい。
上記融点は、昇温速度10℃/分で示差走査熱量計を用いて測定を行うことにより得られた熱融解曲線の極大値に対応する温度として測定したものである。
【0019】
上記フッ素樹脂は、少なくとも1種の含フッ素エチレン性単量体から誘導される繰り返し単位を有する単独重合体又は共重合体であることが好ましい。上記フッ素樹脂は、含フッ素エチレン性単量体のみを重合してなるものであってもよいし、含フッ素エチレン性単量体とフッ素原子を有さないエチレン性単量体を重合してなるものであってもよい。
【0020】
上記フッ素樹脂は、フッ化ビニル〔VF〕、テトラフルオロエチレン〔TFE〕、フッ化ビニリデン〔VdF〕、クロロトリフルオロエチレン〔CTFE〕、へキサフルオロプロピレン〔HFP〕、へキサフルオロイソブテン、CH=CZ(CF(式中、ZはH又はF、ZはH、F又はCl、nは1〜10の整数である。)で示される単量体、CF=CF−ORf(式中、Rfは、炭素数1〜8のパーフルオロアルキル基を表す。)で表されるパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)〔PAVE〕、及び、CF=CF−O−CH−Rf(式中、Rfは、炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基を表す。)で表されるアルキルパーフルオロビニルエーテル誘導体からなる群より選択される少なくとも1種の含フッ素エチレン性単量体に由来する繰り返し単位を有することが好ましい。
【0021】
上記フッ素樹脂は、フッ素原子を有さないエチレン性単量体に由来する繰り返し単位を有してもよく、耐熱性や耐薬品性等を維持する点で、炭素数5以下のエチレン性単量体に由来する繰り返し単位を有することも好ましい形態の一つである。上記フッ素樹脂は、エチレン、プロピレン、1−ブテン、2−ブテン、塩化ビニル、塩化ビニリデン及び不飽和カルボン酸からなる群より選択される少なくとも1種のフッ素非含有エチレン性単量体を有することも好ましい。
【0022】
上記フッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン〔PTFE〕、ポリクロロトリフルオロエチレン〔PCTFE〕、エチレン〔Et〕/TFE共重合体〔ETFE〕、Et/クロロトリフルオロエチレン〔CTFE〕共重合体、CTFE/TFE共重合体、TFE/HFP共重合体〔FEP〕、TFE/PAVE共重合体〔PFA〕、及び、ポリビニリデンフルオライド〔PVdF〕からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、PTFE、PCTFE、ETFE、CTFE/TFE共重合体、FEP及びPFAからなる群より選択される少なくとも1種のフッ素樹脂であることがより好ましい。
【0023】
上記PTFEとしては、非溶融加工性を有するものであれば特に限定されず、ホモPTFEであっても、変性PTFEであってもよい。
【0024】
上記PAVEとしては、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)〔PMVE〕、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)〔PEVE〕、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)〔PPVE〕、パーフルオロ(ブチルビニルエーテル)等が挙げられ、なかでも、PMVE、PEVE又はPPVEがより好ましい。
【0025】
上記アルキルパーフルオロビニルエーテル誘導体としては、Rfが炭素数1〜3のパーフルオロアルキル基であるものが好ましく、CF=CF−O−CH−CFCFがより好ましい。
【0026】
上記フッ素樹脂は、パーフルオロポリマーであることがより好ましく、PTFE、FEP及びPFAからなる群より選択される少なくとも1種であることが更に好ましい。上記パーフルオロポリマーは、重合体の主鎖を構成する炭素原子の全部にフッ素原子が結合している重合体である。
【0027】
上記フッ素樹脂は、溶融加工可能なフルオロポリマーであることが特に好ましく、PFA及びFEPからなる群より選択される少なくとも1種であることが格別に好ましい。
【0028】
PFAとしては、特に限定されないが、TFE単位70〜99モル%とPAVE単位1〜30モル%からなる共重合体であることが好ましく、TFE単位80〜98.5モル%とPAVE単位1.5〜20モル%からなる共重合体であることがより好ましい。TFE単位が70モル%未満では機械物性が低下する傾向があり、99モル%をこえると融点が高くなりすぎ成形性が低下する傾向がある。上記PFAは、TFE及びPAVEと共重合可能な単量体に由来する単量体単位が0.1〜10モル%であり、TFE単位及びPAVE単位が合計で90〜99.9モル%である共重合体であることも好ましい。TFE及びPAVEと共重合可能な単量体としては、HFP、CZ=CZ(CF(式中、Z、Z及びZは、同一若しくは異なって、水素原子又はフッ素原子を表し、Zは、水素原子、フッ素原子又は塩素原子を表し、nは2〜10の整数を表す。)で表されるビニル単量体、及び、CF=CF−OCH−Rf(式中、Rfは炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基を表す。)で表されるアルキルパーフルオロビニルエーテル誘導体等が挙げられる。
【0029】
FEPとしては、特に限定されないが、TFE単位70〜99モル%とHFP単位1〜30モル%からなる共重合体であることが好ましく、TFE単位80〜97モル%とHFP単位3〜20モル%からなる共重合体であることがより好ましい。TFE単位が70モル%未満では機械物性が低下する傾向があり、99モル%をこえると融点が高くなりすぎ成形性が低下する傾向がある。FEPは、TFE及びHFPと共重合可能な単量体に由来する単量体単位が0.1〜10モル%であり、TFE単位及びHFP単位が合計で90〜99.9モル%である共重合体であることも好ましい。TFE及びHFPと共重合可能な単量体としては、PAVE、アルキルパーフルオロビニルエーテル誘導体等が挙げられる。
【0030】
上述した共重合体の各単量体の含有量は、NMR、FT−IR、元素分析、蛍光X線分析を単量体の種類によって適宜組み合わせることで算出できる。
【0031】
本発明の水生生物付着防止シートは、さらに必要に応じて、添加剤類を含んでもよい。このような添加剤類としては特に限定されず、例えば、レベリング剤、固体潤滑剤、顔料、光輝剤、充填剤、顔料分散剤、表面調節剤、粘度調節剤、紫外線吸収剤、光安定剤、可塑剤、色分かれ防止剤、擦り傷防止剤、生物忌避剤、防徴剤、抗菌剤、抗蝕剤、帯電防止剤、シランカップリング剤等が挙げられる。
【0032】
本発明の水生生物付着防止シートは、厚みが0.01〜5mmであることが好ましく、0.1〜3mmであることがより好ましい。
本発明の水生生物付着防止シートは、引張強度が15〜100MPaであることが好ましく、20〜90MPaであることがより好ましい。
上記引張強度は、JIS K 6891に記載の方法により測定して得られる値である。
【0033】
本発明の水生生物付着防止シートは、柔軟性を有するため、幅広い箇所に適用することができる。
【0034】
本発明の水生生物付着防止シートは、フッ素樹脂を公知の方法により成形することによって製造することができる。生産性の観点からは押出成形、圧縮成形又は射出成形により製造することが好適である。
【0035】
本発明は、基材と、上記基材上に取り付けられた上述の水生生物付着防止シートと、からなる水生生物付着防止パネルでもある。
【0036】
上記基材としては、ポリイミド、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタラート、塩化ビニル、アクリル樹脂等の各種プラスチック、金属、スレート等の建築材料が挙げられる。
【0037】
本発明の水生生物付着防止パネルは、水生生物付着防止シートを基材に強固に取り付けることができることから、水生生物付着防止シートと基材との間に、接着性化合物を含む組成物から形成された接着層を有することが好ましい。接着層を形成することにより、水生生物付着防止シートと基材との接着性を高めることができる。接着性化合物としては、例えば、ポリアリーレンスルファイド、ポリアミドイミド、ポリアミド(ポリアミック酸)、ポリイミド、ポリエーテルスルホン、ポリアリールスルホン、ポリアリーレンエーテルケトン、シリコーンゴムなどのシリコーン系化合物、エポキシ樹脂等が挙げられる。これらの接着性化合物は一種のみを用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0038】
本発明の水生生物付着防止パネルは、工場などで製作することができる。
【0039】
本発明の水生生物付着防止パネルは、例えば、本発明の水生生物付着防止シートに予め接着性化合物を含む組成物を塗布または貼付しておき、これを基材に取り付けることにより製造できる。接着性化合物を含む組成物を塗布または貼付する前に、水生生物付着防止シートにプラズマ処理やコロナ処理などの前処理を行っておくことが好ましい。
【0040】
本発明の水生生物付着防止パネルには、あらかじめ水生生物付着防止シートが取り付けてあるので、水生生物の付着を防止したい構造物に直接取り付けることで水生生物の付着を長期間抑制することができ、構造物が設置された現場での脱着も容易である。
【0041】
本発明は、水生生物付着防止シートを備えることを特徴とする水中構造物でもある。
【0042】
水中構造物としては、海水、淡水中での使用を問わず種々のものがあげられる。また、水面で使用するものであってもよい。たとえば、つぎの物品や構造物が例示できるが、これらに限定されるものではない。また、構造物とは橋脚、水路などの固定型の建造物だけでなく、船舶などの移動を主とする建造物も含む。
【0043】
固定型:
橋梁、コンクリートブロック、消波ブロック、防波堤、パイプラインなどの水中構築物;
水門門扉、海上タンク、浮き桟橋などの港湾施設;
海底掘削設備、海中通信ケーブル施設などの海底作業施設;
導水路、覆水管、水室、取水口、放水口などの火力、原子力、潮力、海洋温度差発電施設;
プール、水槽、給水塔、下水道、雨どいなどの給排水および貯蔵施設;
システムキッチン、水洗便器、浴室、浴槽などの家庭内設備;
【0044】
移動型:
船舶の吃水部または船底、潜水艦の外装、スクリュー、プロペラ、錨などの船舶構造物または付属物;
水面または水中で使用する物品
固定型:
定置網などの魚網、ブイ、生簀、ロープなどの漁業用物品;
覆水器、水室などの火力、原子力、海洋温度差発電用物品;
海中(水中)ケーブルなどの海底(水底)敷設物品;
移動型:
底引き網、はえなわなどの漁業用物品;
【0045】
本発明は上述の水生生物付着防止シートを水中構造物に取り付ける工程を含むことを特徴とする、水中構造物に水生生物が付着することを防止するための方法でもある。
【0046】
取り付ける方法は特に限定されず、上述の水生生物付着防止シートを直接水中構造物に取り付けてもよいし、基材に上述の水生生物付着防止シートを取り付けて水生生物付着防止パネルとしてから、水生生物付着防止パネルを水中構造物に取り付けてもよい。シート及びパネルは、水中構造物に接着剤を使用して取り付けることもできるし、アンカーボルト等の取付具を使用して取り付けることもできる。
【0047】
本発明は、フッ素樹脂を含むことを特徴とする水生生物付着防止塗料でもある。上記フッ素樹脂は、本発明の水生生物付着防止シートで使用できるフッ素樹脂として上述したフッ素樹脂がそのまま適用できる。
【0048】
本発明の水生生物付着防止塗料は、複雑な形状の構造物に対しても所望の膜厚で塗膜を形成させることができ、形成した塗膜によって基材への水生生物の付着を長期間抑制することができる。
【0049】
本発明の水生生物付着防止塗料は、数百から数千μmの厚みのある塗膜を容易に設けることができる点で、粉体組成物であることが好ましい。本発明の水生生物付着防止塗料に含まれるフッ素樹脂は、平均粒子径が0.1〜50μmであることが好ましい。
上記平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定機を用いて求めることができる。
【0050】
本発明の水生生物付着防止塗料は、ポリアミドイミド〔PAI〕、ポリアミド、及び、ポリアミド酸(ポリアミック酸)からなる群より選択される少なくとも一種のアミド基含有ポリマーを含むものであってもよい。上記PAIは、アミド基と芳香環とイミド基とを有する重縮合体である。上記PAIとしては特に限定されず、例えば、従来公知のPAIの他にも、ポリイミド〔PI〕を酸化することによりアミド基を導入したもの等を用いることができる。上記ポリアミドは、主鎖中にアミド結合(−NH−C(=O)−)を有する重縮合体である。上記ポリアミドとしては特に限定されず、例えば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12等の脂肪族ポリアミド;ポリパラフェニレンテレフタラミド、ポリメタフェニレンイソフタラミド等の芳香族ポリアミド等が挙げられる。上記ポリアミド酸は、アミド基と、カルボキシル基又はカルボキシル基の誘導体とを有する重縮合体である。上記ポリアミド酸としては特に限定されず、分子量が数千〜数万であるポリアミド酸等が挙げられる。
【0051】
本発明の水生生物付着防止塗料は、ポリアリーレンスルファイド〔PAS〕を含むことが好ましく、アミド基含有ポリマー及びPASの両方を含むことが好ましい。上記PASとしては特に限定されず、例えば、ポリフェニレンスルフィドケトン、ポリフェニレンスルフィドスルフォン、ポリビフェニレンサルファイド、ポリフェニレンサルファイド〔PPS〕等が挙げられ、なかでもPPSが好適に用いられる。
【0052】
上記PASは、上記アミド基含有ポリマーと上記PASとの合計の1〜40質量%であることが好ましく、上記フッ素樹脂は、塗料全体に対して50〜95質量%であることが好ましい。
【0053】
本発明の水生生物付着防止塗料は、さらに必要に応じて、添加剤類を含んでもよい。このような添加剤類としては特に限定されず、例えば、レベリング剤、固体潤滑剤、顔料、光輝剤、充填剤、顔料分散剤、表面調節剤、粘度調節剤、紫外線吸収剤、光安定剤、可塑剤、色分かれ防止剤、擦り傷防止剤、生物忌避剤、防徴剤、抗菌剤、抗蝕剤、帯電防止剤、シランカップリング剤、ワキ防止剤、つや消し剤等が挙げられる。
【0054】
本発明の水性生物付着防止塗料は、上記フッ素樹脂と必要に応じて上述した成分とを、公知の方法で混合、分散させることにより製造することができる。
【0055】
本発明は、基材と、上記基材上に形成された上述の水生生物付着防止塗料からなる塗膜と、からなる水生生物付着防止パネルでもある。
【0056】
上記基材としては、ポリイミド、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタラート、塩化ビニル、アクリル樹脂等の各種プラスチック、金属、スレート等の建築材料が挙げられる。
【0057】
本発明の水生生物付着防止パネルは、塗膜と基材との間に、接着性化合物を含む組成物(但し、フッ素樹脂を含むものを除く。)から形成された接着層を有することが好ましい。接着層を形成することにより、塗膜と基材との接着性を高めることができる。接着性化合物としては、例えば、ポリアリーレンスルファイド、ポリアミドイミド、ポリアミド(ポリアミック酸)、ポリイミド、ポリエーテルスルホン、ポリアリールスルホン、ポリアリーレンエーテルケトン、シリコーンゴムなどのシリコーン系化合物、エポキシ樹脂等が挙げられる。これらの接着性化合物は一種のみを用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。接着性化合物を含む組成物は、液状組成物であっても粉体組成物であってもよい。
【0058】
本発明の水生生物付着防止パネルは、基材に接着性化合物を含む組成物を塗布することにより接着層を設け、接着層上に本発明の水生生物付着防止塗料を塗布することにより製造できる。
【0059】
本発明の水生生物付着防止パネルは、基材と、基材上に形成されたフッ素樹脂、アミド基含有ポリマー及びPASを含む液状組成物からなる接着層と、接着層上に形成された本発明の水生生物付着防止塗料からなる塗膜と、からなるものであることがより好ましい。
塗膜の膜厚は、100〜5000μmが好ましい。上記膜厚は、JIS K 5600の方法により測定して得られる値である。
【0060】
本発明は、上述の水生生物付着防止塗料からなる塗膜を備える水中構造物でもある。水中構造物は、既に詳述したとおりである。
【0061】
本発明は、基材又は水中構造物に上述の水生生物付着防止塗料を塗布する工程を含むことを特徴とする、基材又は水中構造物に水生生物が付着することを防止するための方法でもある。
【0062】
水生生物付着防止塗料を塗布する方法は、特に制限されず、公知の方法により塗布することができる。水生生物付着防止塗料が粉体組成物である場合は、静電塗装法が好適である。
【実施例】
【0063】
つぎに本発明を実施例をあげて説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0064】
調製例1
懸濁重合により得たテトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(TFE/PAVE=98/2(モル比)、融点304℃)を、新東工業社製のローラーコンパクターBSC−25型を用い、得られるシートが真比重の90%以上となるように圧縮し、次に解砕機で約10mm径に解砕したものを、奈良機械製作所社製の粉砕機コスモマイザーN−1型を用いて粉砕した。こうして得られた粉砕品Aの平均粒子径は56μmであった。
【0065】
調製例2
懸濁重合により得たテトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(TFE/HFP=93/7(モル比)、融点268℃)を、新東工業社製のローラーコンパクターBSC−25型を用い、得られるシートが真比重の90%以上となるように圧縮し、次に解砕機で約10mm径に解砕したものを、奈良機械製作所社製の粉砕機コスモマイザーN−1型を用いて粉砕した。こうして得られた粉砕品Bの平均粒子径は34μmであった。
【0066】
実施例1
SUS304のパネル基材上に、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、ポリフェニレンサルファイド及びポリアミドイミドからなる液状組成物(TFE−PAVE共重合体/ポリフェニレンサルファイド/ポリアミドイミド=80/5/15(質量比))を塗布することにより接着層(乾燥膜厚52μm)を設けた。その上に粉砕品Aを静電塗装法により3回繰返して塗布することにより塗膜(膜厚210μm)を設けた。こうして試験パネルAを作製した。
【0067】
実施例2
SUS304のパネル基材上に、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリフェニレンサルファイド及びポリアミドイミドからなる液状組成物(TFE−HFP共重合体/ポリフェニレンサルファイド/ポリアミドイミド=80/5/15(質量比))を塗布することにより接着層(乾燥膜厚55μm)を設けた。その上に、粉砕品Bを静電塗装法により3回繰返して塗布することにより塗膜(膜厚196μm)を設けた。こうして試験パネルBを作製した。
【0068】
実施例3
コロナ処理が施されたテトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体からなるシート(TFE/PAVE=98/2(モル比)、厚み0.1mm)に、アクリル系粘着剤(DA−400、商品名、フロント研究所社製)を塗布したものを、スレートのパネル基材上に貼付した。こうして試験パネルCを作製した。
【0069】
実施例4
コロナ処理が施されたテトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体からなるシート(TFE/HFP=93/7(モル比)、厚み0.1mm)に、アクリル系粘着剤(DA−400、商品名、フロント研究所社製)を塗布したものを、スレートのパネル基材上に貼付した。こうして試験パネルDを作製した。
【0070】
比較例1
SUS304のパネル基材上に、まず接着性化合物を含む組成物として、ゼッフル遮熱塗料 下塗り(ダイキン工業社製)を塗布することにより接着層(乾燥膜厚41μm)を設けた。その上に、GK570(ダイキン工業社製 硬化型樹脂ワニス)を塗布することにより塗膜(膜厚34μm)を設けた。こうして試験パネルEを作製した。
【0071】
比較例2
SUS304のパネル基材上に、まず接着性化合物を含む組成物として、ゼッフル遮熱塗料 下塗り(ダイキン工業社製)を塗布することにより接着層(乾燥膜厚47μm)を設けた。その上に、GK570(ダイキン工業社製 硬化型樹脂ワニス) 100重量部にジメチルシリコーンオイル 4重量部を添加したものを塗布することにより塗膜(膜厚32mm)を設けた。こうして試験パネルFを作製した。
【0072】
比較例3
SUS304のパネル基材上に、まず接着性化合物を含む組成物として、エッチングプライマー H(中国塗料社製)を塗布することにより接着層(乾燥膜厚38μm)を設けた。その上に、バイオクリンD X(中国塗料社製 シリコーン樹脂系組成物)を塗布することにより塗膜(膜厚80μm)を設けた。こうして試験パネルGを作製した。
【0073】
防汚性評価:
ポリスチレン容器の内側へのキプリス幼生(内湾海域の水中構造物に大量付着するタテジマフジツボの付着期幼生)の付着を防止するべく目合い100μmのプランクトンネットを設置した上で、ネットの内側に試験パネル、海水、キプリス幼生を投入した。幼生数は一容器当たり20〜30固体とし、容器は室温20℃の晴所に設置した。幼生投入から7日後に試験パネルを容器から取り出し、試験パネルに占める幼生が付着した部分の面積割合を目視で確認した。この結果を表1に示す。
【0074】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の水生生物付着防止シート、水生生物付着防止塗料、及び、水生生物付着防止パネルは、発電所の導水路管や復水管および取水口や放水口、港湾施設、ブイ、パイプライン、橋梁、海底基地、海底油田掘削設備、船舶などの水中構造物に取り付けることができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素樹脂からなることを特徴とする水生生物付着防止シート。
【請求項2】
フッ素樹脂は、パーフルオロポリマーである請求項1記載の水生生物付着防止シート。
【請求項3】
フッ素樹脂は、溶融加工可能なフルオロポリマーである請求項1又は2記載の水生生物付着防止シート。
【請求項4】
フッ素樹脂は、テトラフルオロエチレン及びパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)の共重合体、又は、テトラフルオロエチレン及びヘキサフルオロプロピレンの共重合体である請求項1、2又は3記載の水生生物付着防止シート。
【請求項5】
基材と、前記基材上に取り付けられた請求項1、2、3又は4記載の水生生物付着防止シートと、からなる水生生物付着防止パネル。
【請求項6】
請求項1、2、3又は4記載の水生生物付着防止シートを備えることを特徴とする水中構造物。
【請求項7】
請求項1、2、3又は4記載の水生生物付着防止シートを水中構造物に取り付ける工程を含むことを特徴とする、水中構造物に水生生物が付着することを防止するための方法。
【請求項8】
フッ素樹脂を含むことを特徴とする水生生物付着防止塗料。
【請求項9】
粉体組成物である請求項8記載の水生生物付着防止塗料。
【請求項10】
フッ素樹脂は、パーフルオロポリマーである請求項8又は9記載の水生生物付着防止塗料。
【請求項11】
フッ素樹脂は、溶融加工可能なフルオロポリマーである請求項8、9又は10記載の水生生物付着防止塗料。
【請求項12】
フッ素樹脂は、テトラフルオロエチレン及びパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)の共重合体、又は、テトラフルオロエチレン及びヘキサフルオロプロピレンの共重合体である請求項8、9、10又は11記載の水生生物付着防止塗料。
【請求項13】
基材と、前記基材上に形成された請求項8、9、10、11又は12記載の水生生物付着防止塗料からなる塗膜と、からなる水生生物付着防止パネル。
【請求項14】
請求項8、9、10、11又は12記載の水生生物付着防止塗料からなる塗膜を備える水中構造物。
【請求項15】
請求項8、9、10、11又は12記載の水生生物付着防止塗料を塗布する工程を含むことを特徴とする、水中構造物に水生生物が付着することを防止するための方法。

【公開番号】特開2012−214739(P2012−214739A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−69286(P2012−69286)
【出願日】平成24年3月26日(2012.3.26)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】