説明

水産加工食品の製造方法

【課題】幼児や高齢者でもそのまま食することができることで、栄養豊富な魚類から簡単に栄養分を摂取することができる新たな水産加工食品の製造方法を提供する。
【解決手段】水産加工食品の製造方法は、水蒸気ボイラー2からの99℃から120℃までの範囲の水蒸気を蒸し器3に格納されたカタクチイワシに付与して蒸す加熱工程と、蒸されたカタクチイワシを乾燥させる乾燥工程とを含む。このカタクチイワシは、活魚または死後30分以内のものを使用する。そうすることで、水蒸気で蒸すことで魚体の酵素が失活するので、魚体を活魚の状態のまま蒸すことができるので、軽く噛んだだけでサクサクとした食感と共に、魚類が有する本来の旨味を得ることができる。加熱工程では、カタクチイワシから落下した抽出液を回収トレイ32により回収し、調味料の原料とすることも可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚類を乾燥させた水産加工食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
小型のイワシ等を原料にした煮干しは、出汁を取るときに使用されるが、カルシウムを豊富に含むことから、出汁を取った後に食されることがある。しかし、出汁を取った後の煮干しは味がなく、好まれて食べられるものではない。また、出汁を取る前の煮干しは、噛み切りにくいので、そのままでは食べにくい。
【0003】
このようなイワシを原料とした加工食品の製造方法について、例えば、特許文献1に記載されたものが知られている。特許文献1の多獲性小型魚類加工品の製造方法には、多獲性小型魚類を、150℃〜350℃の過熱蒸気を用いて、1〜30分の範囲で連続的に蛋白変性と予備乾燥を行い、次いで、本乾燥を行うことが記載されている。この製造方法によれば、魚体がまっすぐで身割れや皮剥げがなく、可溶性固形分の含有量が高いものが得られることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−262827号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載の多獲性小型魚類加工品の製造方法によれば、多獲性小型魚類を150℃〜350℃の水蒸気により加熱しているので、焼けた状態となる。従って、表面が焦げて少し苦みがあり、ボソボソ感があり、食感が損なわれてしまい、そのままでは食べにくい。
小魚にはカルシウムが多く含まれるだけでなく、はらわたには鉄や亜鉛が多く含まれるので、幼児や子供のおやつには好適であるが、噛み切りにくいと敬遠されてしまう。
【0006】
そこで本発明は、幼児や高齢者でもそのまま食することができることで、栄養豊富な魚類から簡単に栄養分を摂取することができる新たな水産加工食品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の水産加工食品の製造方法は、99℃から120℃までの範囲の水蒸気を魚類に付与して蒸す加熱工程と、前記蒸された魚類を乾燥させる乾燥工程とを含むことを特徴とする。
【0008】
本発明の水産加工食品の製造方法では、99℃から120℃までの範囲の温度で魚類を蒸した後に乾燥させる。魚体に含まれる酵素は90℃以上であれば失活させることができる。水蒸気の温度が120℃より高ければ、魚類の体表面が焦げ、味が低下する。従って、水蒸気が発生する99℃から120℃までの温度範囲で蒸された魚類は、体表面を焦がすことなく熱を通すことができ、魚体に含まれる酵素を変成させ失活させるので、乾燥工程にて乾燥させると、噛んだときに筋繊維がばらばらの状態になるように仕上げることができる。従って、幼児や高齢者でも、そのまま食することができる。
【0009】
前記魚類は、活魚または死後30分以内のものを使用する。魚類は死後30分を超えると、魚体の酵素が作用して筋繊維を分解して筋繊維同士がくっついたガラス状のような状態となり始める。この状態で水蒸気により加熱して乾燥しても、筋繊維がばらばらの状態にならず、弾性があるので噛み切りにくくなってしまう。魚類を活魚または死後30分以内のものを使用して、水蒸気で蒸すことで、魚体が酵素により自己分解する前に筋繊維の酵素が失活するので、筋繊維が活魚の状態のまま蒸されることになる。従って、魚体が酵素によって自己分解されて味が低下することが少なく、乾燥したときに筋繊維をばらばらの状態とすることができるので、軽く噛んだだけでサクサクとした食感と共に、魚類が有する本来の旨味を得ることができる。
【0010】
前記加熱工程にて、魚類から落下した抽出液を回収して、調味料の原料とするのが望ましい。加熱工程にて、蒸されることで魚類から落下する抽出液は、十分な旨味と栄養分を含むものである。従って、この抽出液を回収し、調味料の原料とすることで、魚類を無駄なく利用することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の水産加工食品の製造方法は、99℃から120℃までの範囲の水蒸気を魚類に付与して蒸し、乾燥させることにより、噛んだときに筋繊維がばらばらの状態となるので、幼児や高齢者でも、そのまま食することができる。よって、本発明は、栄養豊富な魚類から簡単に栄養分を摂取することができる新たな水産加工食品とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施の形態に係る水産加工食品を製造方法を説明するためのトレイに載置されたカタクチイワシを示す図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る水産加工食品を製造方法に使用される加熱装置の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施の形態に係る水産加工食品の製造方法について、図面に基づいて説明する。
まず、漁により体長が約3cm〜15cmのカタクチイワシを捕獲すると生け簀に入れ、活魚の状態で水揚げする。水揚げされたカタクチイワシは、水を切り洗われる。そして、水洗いされたカタクチイワシを、図1に示す載置面が網目状となったトレイTに満遍なく広げる。そして、トレイTを図2に示す加熱装置1へ移送して、カタクチイワシを加熱する加熱工程を行う。
【0014】
この水揚げ作業から加熱装置までの投入作業までの間に、カタクチイワシが死魚となる場合もあるが、30分以内で行う。つまり、蒸されるカタクチイワシは、活魚または死後30分以内のものを使用する。カタクチイワシなどの魚類は死後30分を超えると、魚体の酵素が作用して筋繊維を分解して筋繊維同士がくっついたガラス状のような状態となり始める。蛋白質は50℃以上の加熱により変成し、酵素は90℃以上の加熱により変成して失活させることができる。従って、カタクチイワシの死後、早めに、特に30分以内に90℃以上が確保できる水蒸気により加熱することで、酵素を失活させ、酵素による魚体の自己分解を防止する。
【0015】
図2に示す加熱装置1は、水蒸気ボイラー2と蒸し器3とを備えている。水蒸気ボイラー2は、胴部21周囲に配設された水管内の水を、燃焼室で噴射されるバーナー22の炎により加熱して高圧の水蒸気を発生させ、蒸気管4を介して蒸し器3内へ水蒸気を供給するものである。本実施の形態では、水蒸気ボイラー2により4.2気圧、142℃の水蒸気を発生させている。
蒸し器3は、トレイTが段積みされた状態で収納される蒸し器本体31と、蒸し器本体31内の下部に配置され、段積みされたトレイT内のカタクチイワシから落下する抽出液を受ける回収トレイ32とを備えている。
【0016】
蒸し器3に段積みされたトレイTのカタクチイワシは、水蒸気ボイラー2からの水蒸気により加熱される。水蒸気ボイラー2からは4.2気圧、142℃の水蒸気が供給されているが、密閉されていない開放型の蒸し器3内では大気圧状態となることで、水蒸気の気圧が低下するので、カタクチイワシには110℃から120℃の水蒸気が付与されることになる。
カタクチイワシは蒸し機2内で30秒から10分蒸される。この蒸し時間は、魚類の大きさおよび投入量によって適宜決定することができる。
【0017】
活魚の状態または死後30分以内に蒸し器3内に投入されたカタクチイワシは、魚体の酵素は活性状態であるが、高温の水蒸気が付与されることで酵素が失活し、不活性状態となる。
例えば、カタクチイワシに120℃より高い乾燥蒸気が当たるとカタクチイワシの体表面が焦げ、味が低下してしまう。従って、水蒸気の温度は120℃以下とするのが望ましい。また、酵素は90℃以上あれば失活させることができるので、大気圧下で飽和水蒸気が発生する99℃以上あればよい。このように水蒸気の温度範囲を99℃から120℃までとすることで、体表面を焦がすことなく熱を通すことができ、魚体に含まれる酵素を変成させ失活させることができる。
【0018】
加熱工程を行っている際に、それぞれのカタクチイワシから抽出液が落下し、最下段に位置する回収トレイ32に溜まる。この抽出液は、カタクチイワシのエキスである。従来では、煮干しを製造するときは、まず小魚のイワシを湯に投入して煮熟する。そして煮熟が終わったイワシを乾燥する。煮熟の際に使用した湯は、イワシからのエキスが出ているが希釈され薄くなっているだけでなく、イワシから出た塩分が高く再利用できるものではないので、廃棄されていた。本実施の形態に係る製造方法では、カタクチイワシを蒸しているので、カタクチイワシからの抽出液を、そのまま回収することができる。また、塩分濃度も抑えられたものが回収できる。従って、回収トレイ32により回収された抽出液は、高い有効成分を含む原液として調味料の原料として再利用することができる。
【0019】
加熱工程が完了すると、次にトレイTを蒸し器3から取り出し乾燥工程を行う。
乾燥工程は、温風乾燥や減圧乾燥、天日干しとすることができる。温風乾燥であれば30℃程度の温風を送風するだけなので、簡易な装置でカタクチイワシを乾燥させることができる。従って、温風乾燥は製造コストを抑制することができる。温風乾燥では、トレイTをベルトコンベア上に載置して順次温風をカタクチイワシにあてることで大量に乾燥させることも可能である。
減圧乾燥は、温風乾燥や天日干しと比較して、乾燥期間を短縮することができるので、風味の損失を最低限に抑止することができる。減圧乾燥では、カタクチイワシを載置したトレイTを段積みし、減圧室へ収納することである程度の大量生産にも対応することができる。
【0020】
このようにして乾燥工程にて乾燥させると、カタクチイワシを噛んだときに筋繊維に弾性がなく、ばらばらの状態となるので、幼児や高齢者でもそのまま食することができる。また、蒸気温度が90℃で内臓の酵素も失活し酵素分解が進まないので、内臓に苦みが少なく甘みが感じられ、小児でも好んで内臓を食べることができる。従って、カタクチイワシの内臓を取り除かずに、内臓を含む魚体全体を一度に食することができるので、本実施の形態の製造方法によれば、亜鉛や鉄、カルシウム、ミネラルなどの栄養豊富な魚類から簡単に栄養分を摂取することができる新たな水産加工食品を得ることができる。
【0021】
本実施の形態では、魚類としてカタクチイワシを例に説明したが、マイワシ、ウルメイワシのイワシとする以外に、アジ、ヒイラギなどの小魚の他、食べやすさを考慮しなければ、サバやサンマ、ウナギ、アナゴなど、魚類であれば新たな加工食品として製造することができる。子供のスナックとして使用する場合には、食べやすい小魚とするのが望ましい。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明の水産加工食品の製造方法は、幼児や高齢者でも、そのまま食することができるので、スナック菓子や栄養摂取のための補助食品などに最適である。
【符号の説明】
【0023】
1 加熱装置
2 水蒸気ボイラー
21 胴部
22 バーナー
3 蒸し器
31 蒸し器本体
32 回収トレイ
4 蒸気管
T トレイ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
99℃から120℃までの範囲の水蒸気を魚類に付与して蒸す加熱工程と、
前記蒸された魚類を乾燥させる乾燥工程とを含むことを特徴とする水産加工食品の製造方法。
【請求項2】
前記魚類は、活魚または死後30分以内のものを使用する請求項1記載の水産加工食品の製造方法。
【請求項3】
前記加熱工程にて、魚類から落下した抽出液を回収し調味料の原料とする請求項1または2記載の水産加工食品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−25(P2011−25A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−144675(P2009−144675)
【出願日】平成21年6月17日(2009.6.17)
【出願人】(395010598)丸三食品株式会社 (4)
【Fターム(参考)】