説明

水産物育成助剤

【課題】水産物を高密度飼育により、生理活性が低下し、エサの摂取率が低下すると共に死亡率が高くなり、経済性が停滞または悪化する。
【解決手段】CaおよびまたはMgの水酸化物中に、Fe,Zn,Mn,Cu等の微量ミネラルを分散固溶させた水産物固溶体を海水に添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚、貝、ノリ、エビ、カニ等の水産物の育成助剤に関する。
【背景技術】
【0002】
魚、貝、ノリ、エビ、カニ等のいわゆる水産物は、近年の食と健康の関係解明の進歩によりそれらの重要性が認められ、水産物を多用する日本料理が世界に拡がりつつある。したがって、水産物の増産は、高品質の確保と共に今後ますます重要となる。水産物の増産の歴史は、栽培養殖密度をより高くし、それに合わせて栄養分供給も増やす方法で行われてきた。
【0003】
ところが、この高密度生産により新たな問題が発生し、生産量は停滞または後退している傾向にある。この新たな問題とは、水産物の生理活性の低下により、栄養分の摂取能力減少とか、水産物が様々な病気に罹りやすくなり、その結果、大量死等の大きな被害が発生する頻度が増加している。その対策として、抗生物質を始めとする種々の薬剤の使用が増え、水産物の安全性に問題を生じている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、現在の水酸化物高密度生産による生理活性の低下を防ぐことにより、栄養分の吸収能力を高めると共に、病気に罹りにくくする水産物の育成助剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、下記式(1)および/または(2)
【0006】
【化1】

【0007】
【化2】

(但し、式中、M2+はCaおよび/またはMgを示し、M2+は必須ミネラルFe,Mn,ZnおよびCuの少なくとも1種以上、好ましくはこれ等すべてを示し、M3+は3価金属、好ましくは必須ミネラルFe,MnおよびCrの少なくとも1種以上を示し、An−はSeO2−,SeO2−,HBO,(MoO2−,[(Mo)246−等のホウ素、セレン、モリブデンの酸素酸イオン、HPO2−,NO,等のn(nは1以上の整数)価のアニオンの1種以上、好ましくはホウ素、セレンおよびモリブデンの酸素酸イオン1種以上を示し、x,mおよびzはそれぞれ次の範囲、0<x<0.5,0≦m<10,0<z<0.4を満足する0または正の数を示す)で表される水酸化物固溶体を有効成分とする水産物の育成助剤を提供する。
【0008】
さらに本発明は、該水酸化物固溶体の水との接触方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の育成助剤を水に添加することにより、水産物に欠乏している微量必須ミネラルがバランス良く、しかも良く吸収される。その結果、生理活性が高くなり、栄養分の吸収力向上、健康体の維持が実現し、高品質で高収量の水産物の育成が可能となる。したがって、飼料(エサ)の低減と抗生物質等の薬剤使用を抑制出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の水産物育成助剤は、下記式(1)および/または(2)
【0011】
【化1】

【0012】
【化2】

(但し、式中、M2+はCaおよび/またはMgを示し、M2+は必須ミネラルFe,Mn,ZnおよびCuの少なくとも1種以上、好ましくはFe,ZnおよびMn、特に好ましくはFe,Zn,MnおよびCuを示し、M3+は3価金属の1種以上、好ましくは必須ミネラルFe,MnおよびCrの1種以上を示し、An−はn価のアニオンHBO,HBO2−,SeO2−,SeO2−,(MoO2−,[(Mo)246−,HPO,HPO2−等のホウ素、セレン、モリブデン、リンの酸素酸イオン、特に好ましくはホウ素、セレンおよびモリブデンの酸素酸イオンを示し、x,mおよびzはそれぞれ次の範囲、0<x<0.5、好ましくは0.05≦x≦0.3、特に好ましくは0.1≦x≦0.25,0≦m<10,0<z<0.4、好ましくは0.01≦z≦0.3、特に好ましくは0.05≦z≦0.2を満足する0または正の数を示す)で表される水酸化物固溶体を有効成分として含有する。
【0013】
本発明の育成助剤は、動植物にとって必須の微量ミネラルであるFe,Zn,MnおよびCuを比較的多く必要とし、しかも吸収性が良好なCaおよび/またはMgの水酸化物に固溶させた構造をしている。この構造的特徴により、Fe,Mn等の吸収性の悪い微量必須ミネラルを高吸収性に変え、しかも徐放的に全ミネラルが水に溶解、放出される。生理活性が最高レベルに保たれることにより、栄養分の吸収、代謝能力、免疫力が向上し、水産物の育成を強化出来ると考えられる。その結果、必要とする微量ミネラルが充分に補充されることにより、生理活性を支配する酵素の働きがフルに機能することになる。
【0014】
中〜多量必須ミネラルであるCaおよびMgの単独/または複合の水酸化物結晶中に、微量必須ミネラルFe,Zn,MおよびCu、さらに植物に必須のB(ホウ素)、超微量必須ミネラルであるMo,Se,Cr,Co,VおよびNiの中から選らばれたミネラルを少なくとも1種以上、好ましくはFe,Zn,MnおよびCuのすべてを、好ましくは必要とされる量に見合った適正な比率で固溶(原子状に分散、溶解)させることにより、水酸化カルシウムまたは水酸化マグネシウムに近いレベルの水に対する溶解性、即ち、ミネラルが低濃度で徐々に長期に渡って溶解する、いわゆる徐放性を実現出来る。
【0015】
さらに、式(1)に示すハイドロタルサイト構造においては、金属性の乏しいミネラルであるI,B,Mo,SeおよびV等をそれらのアニオン形態、例えば酸素酸イオン形態で、An−として他のミネラルと一緒に分子状で1つの結晶に組み込むことが出来る。
【0016】
或いは、式(1)および式(2)の固溶体のプラスの表面荷電を利用して、上記アニオン形態のミネラルを化学吸着で式(1)または式(2)の固溶体に固定化出来る。
【0017】
n−としては、多量必要とされる必須ミネラルのアニオン形態、例えばCl,NO,SO2−,SO2−,HPO2−,HPO等も組み込むことが出来る。またさらに、式(1)および/または式(2)の表面がプラスに荷電としているので、前記必須ミネラルのアニオン性化学形態化合物を利用して化学吸着させることも出来る。式(1)のAn−は、もちろん必須ミネラルを含まないアニオン、例えばCO2−,SO2−,CHCOO等の無機または有機酸イオンであっても良い。
【0018】
必須ミネラルは過剰でも欠乏しても副作用があるため、適正な割合(比率)、濃度で、多量必要なCaおよび/またはMgの水酸化物中に分散して存在することが好ましい。そのためには、xの範囲が0<x<0.5、好ましくは0.05≦x≦0.3、特に好ましくは0.1≦x≦0.25である。且つ、M2+および/またはM3+はFe≧Zn≧Mn>Cu>>Mo,Co,Crの順に含有されることが好ましい。
【0019】
FeとかMn等の酸化され易いミネラルは、吸収され易い2価の状態が好ましい。したがって、zの範囲は0<z<0.4、好ましくは0.01≦z≦0.3、特に好ましくは0.05≦z≦0.2である。
【0020】
本発明の式(1)および式(2)の育成助剤に占める主要ミネラルの好ましい割合は、モル%で表示するとCa=64〜75%,Mg=12〜33%,Fe=5〜12%,Zn=2〜5%,Mn=1〜5%,Cu=0.2〜1%である。
【0021】
本発明の育成助剤は、耐炭酸化を改良したり、樹脂とかゴムとか繊維に練り込んだり、添着する場合のそれらとの親和性、加工性を良くするために、高級脂肪酸、高級脂肪酸のアルカリ金属塩、リン酸エステル等のアニオン系界面活性剤、またはノニオン系界面活性剤で表面処理して用いることも出来る。表面処理剤量は育成助剤に対し0.1〜20%、好ましくは0.5〜10%である。表面処理は、公知の湿式または乾式のいずれの方法でも実施出来るが、好ましくは、水に分散させた本発明育成助剤に攪拌下、水に溶解または、水に乳化させた前記界面活性剤を添加、混合する湿式法である。
【0022】
本発明の育成助剤の製造は、共沈法により実施出来る。例えば、M2+とM2+またはM2+とM3+の混合水溶液にほぼ当量のアルカリ水溶液を加えて、攪拌下に反応、共沈させることにより行う。
【0023】
ここで用いる水溶性のM2+,M2+,M3+としては、例えばCa,Mg,Fe,Mn,Cu,Zn等の塩化物、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩等である。アルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等である。
【0024】
共沈法以外の本発明育成助剤の製造方法としては、水酸化カルシウムおよび/または水酸化マグネシウムのスラリー状分散体の攪拌下に、当量以上のMg,Fe,Zn,Mn,Cu等の水溶性塩の混合水溶液を加え、反応させる方法がある。
【0025】
原料で使用する水酸化カルシウムとしては石灰岩を焼成後、水和して得られる消石灰を、水酸化カルシウムと水酸化マグネシウムの混合物としてはドロマイトの焼成物の水和物を、それぞれ用いることが出来る。
【0026】
本発明の剤の適用対象となる水産物は、海水または淡水に生息する動植物であり、例えばブリ、タイ、ハマチ、フグ、カンパチ、スズキ、イサキ、マツカワ、ヒラメ、アジ、マグロ、クエ、マハタ、オコゼ、サバ等の海水魚、例えばテワナ、イトウ、ニジマス、サケ、アマゴ、マス、アユ、コイ、ウナギ等の淡水魚等の魚類、例えばノリ、モズク、コンブ、ワカメ、ひじき等の藻類、例えばアワビ、アカガイ、ホタテガイ、アサリ、マガキ、イワガキ等の貝類、クルマエビ等の甲殻類、バフンウニ等のウニ類等である。
【0027】
本発明の育成助剤の使用形態は、粉末、スラリー、ペレット(造粒物)、樹脂と混合後、溶融混練し、マスターバッチ作成後、または作成せずにパイプ、繊維(ロープ、ネット等)に成形した水産物製造に供される機材、有機バインダー等のバインダーに分散後、添着したパイプ、ロープ、ネット等の水産物製造機材等である。ペレットの大きさは、例えば0.5〜50mm、好ましくは1〜5mmであり、形状は球形、円柱等である。
【0028】
本発明の育成助剤は、各種飼料、活性白土、ケイソウ土、ゼオライト、ベントナイト等の粘土鉱物、竹炭、木炭、活性炭等の炭、水産物のエサとして使われている藻類等と混合して使用することができる。
【0029】
本発明の育成助剤の海水または淡水への添加量は特に制限は無いが、好ましくは1m当たり1ppm〜10gである。
【0030】
以下、実施例に基づいて、本発明をより詳細に説明する。
【実施例1】
【0031】
塩化マグネシウム、塩化マンガン、硫酸第一鉄、硫酸第二銅の混合水溶液(Mg=0.672モル/リットル,Mn2+=0.076モル/リットル,Fe2+=0.192モル/リットル,Zn=0.05モル/リットル,Cu2+=0.01モル/リットル)10リットル(約30℃)と2モル/リットルの水酸化ナトリウム(約30℃)を定量ポンプで、それぞれ約100ml/分供給して、容量2リットルのオーバーフロー付き反応槽で、pHを約10.0〜10.5に保って共沈反応させた。得られた沈殿物をろ過、水洗後、乾燥機に入れ、約80℃で約20時間乾燥した。この後、アトマイザーで粉砕した。得られた粉末のX線回析パターンは、少し高角度側にシフトしているが水酸化マグネシウムのみのそれであった。したがって、Mg以外のミネラル原素は、水酸化マグネシウムに固溶している。この粉末の原素分析の結果、化学組成は次の通りであった。(Mg0.89Mn0.025Fe0.064Zn0.017Cu0.003)(OH)
【0032】
この粉末を市販のクルマエビの配合飼料100部に対し0.2重量%配合し、これを毎日、クルマエビ総体重の6%に相当する量給飼し、水温26℃、照度50Lux.、換水率40%/日、の条件で、飼育開始時平均体重0.6gのクルマエビを35日間飼育した。比較に、本発明育成助剤を添加しない配合飼料で飼育したエビ(比較例1)と比較した。その結果を表1に示す。
【0033】
【表1】

「実施例2及び比較例1」
【0034】
塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化亜鉛、硫酸第一鉄、硝酸マンガンおよび硝酸第二銅の混合水溶液(Ca2+=2モル/リットル,Mg=0.3モル/リットル,Zn=0.05モル/リットル,Fe2+=0.2モル/リットル,Mn=0.03モル/リットル,Cu=0.01モル/リットル)5リットル(約30℃)を2モル/リットルの水酸化ナトリウム水溶液13リットル(約30℃)に、攪拌下に加え反応させた。この後、ろ過、水洗し、反応物にモリブデン酸アンモニウム[(NHMoO]を溶解した水溶液を添加、混合した。オーブンに入れ、約80℃で15時間乾燥した。乾燥物をアトマイザーで粉砕した。この物のX線回析パターンは、少し高角度側にシフトしているが水酸化カルシウムのみのピークであった。但し、微弱なピークがあった。粉砕物の化学分析の結果、この物の化学組成は次の通りである。Ca0.62Mg0.15Zn0.025Fe0.01Mn0.04Cu0.005(OH)
【0035】
この粉末をポリエチレン100重量部に対し5重量部、そしてステアリン酸亜鉛とステアリン酸カルシウムをそれぞれ1重量部混合し、押出し機を用い外径15mm、内径13mmのパイプを成型した。得られたパイプを20cmの長さに切断し、これをマガキの養殖筏(9m×18m)の豆管に使用した。1つの筏に、各連に20枚の原盤を取り付けた長さ9mの連を500本付けた物でマガキを9月から養殖し、12月に収穫し、本発明の育成助剤を使用しない筏との収穫量(比較例1)を比較した。その結果、本発明育成助剤を使用した筏では、使用しない場合に比べ、17%の収穫増が認められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)および/または(2)
【化1】

【化2】

(但し、式中、M2+はCaおよび/またはMgを示し、M2+はFe,Mn,ZnおよびCu等の2価の必須ミネラルの少なくとも1種以上を示し、x,mおよびzはそれぞれ次の範囲、0<x<0.5,0≦m<10,0<z<0.4を満足する)で表される水酸化物固溶体を有効成分とする水産物の育成助剤。
【請求項2】
請求項1の式(1)および(2)のM2+がFe,Mn,ZnおよびCuであり、M3+がFeおよび/またはMnである請求項1記載の水産物の育成助剤。
【請求項3】
請求項1の式(1)のAn−がB,MoおよびSeの酸素酸イオンの少なくとも1種以上を含有する請求項1記載の水産物の育成助剤。
【請求項4】
請求項1の式(1)および(2)において、xおよびzがそれぞれ0.05≦x≦0.3,0.01<z<0.2の範囲にある請求項1記載の水産物の育成助剤。
【請求項5】
水産物が魚類、貝類、藻類、甲殻類である請求項1記載の水産物の育成助剤。
【請求項6】
請求項1記載の水産物の育成助剤を有機高分子製水産物生産機器に練りこむか、または水産物生産機器の表面に接着剤で塗布することを特徴とする水産物育成助剤含有水産物生産機器。

【公開番号】特開2007−289130(P2007−289130A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−123655(P2006−123655)
【出願日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【出願人】(391001664)株式会社海水化学研究所 (26)
【Fターム(参考)】