説明

水田用貯水量調整装置

【課題】豪雨時には水田に「田んぼダム」機能を働かせて自動的に一定水量を貯水して、河川への雨水の流入を抑制することを実現する。
【解決手段】 一対の側壁の対向位置に、土留板差し戸口を設けると共に、該土留板差し戸口と前記垂直壁のほぼ中間位置に貯水量調整板差し戸口を設け、前記土留板差し戸口には、土壌面とほぼ同じ高さの土留板を垂直に差し込むとともに、該土留板上に載置した時に営農水位となる高さの営農水位調整板を垂直に差し込み、前記貯水量調整板差し戸口には、上端高さを稲の生育状態に合わせた任意の高さである貯水水位とほぼ同じ高さに形成し、下部に排水量調整孔を穿設した貯水量調整板を垂直に差し込むように構成し、通常雨量の場合は、雨水を排水管を介して排水路へ排水して水田の営農水位を保持し、豪雨の場合は、貯水量調整高さに越流高さを加えた高さの最高貯水水位まで雨水を貯める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、豪雨の際には水田に一定量の雨水を貯めて水害を防止する「田んぼダム」のための水田用貯水量調整装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年においては地球温暖化の影響により、ゲリラ的な集中豪雨が増えており、この短時間に集中的に降る雨による洪水被害が頻発している。しかし、洪水対策としてダムや河川改修、貯水池などの従来からの治水対策では巨額な費用がかかり、また、局所的なゲリラ豪雨に対応することは難しい。
【0003】
このような集中豪雨の際の対策として、水田を利用した「田んぼダム」が提案されている。これは、豪雨時に水田に雨水を一時的に貯留させて、河川への雨水の流出量を抑制して、下流域の住宅地や畑への浸水被害を緩和しようというものである。
【0004】
これまでの水田用排水桝の水位の調整は、水位調整板の高さを変えることで行っている。このようなこれまでの排水桝の場合、降った雨は水位調整板22(図5参照)を越えて排水管から排水路へ排水され、水位を一定に保っている。このような構造のため、雨が降ると、降った雨が直ぐに排水路へ流れ込んでしまい、集中豪雨の時には、降った雨が短時間に一気に排水路から河川へと流れ込み、その結果洪水が発生している。(図5参照)
【0005】
このような洪水の発生を防止するために改善された従来の技術は、水田の水が排水筒の上部排水口部から導入し下部排水口部からこれに連通する水田の水田排水部へと排水し、前記上部排水口部の高さ設定により水田の水位を設定する水田用水位設定装置とし、前記水田排水部に連結する取付管に本体筒部を連結する構成とし、また、この本体筒部を取付管に対して昇降自在若しくは本体筒部を前記取付管に対して昇降自在となる可動管を有する構成とし、この本体筒部の上部に限界排水口部を設け、前記限界排水口部より下方の周面に前記限界排水口部より小さい周面排水口部を設け、この周面排水口部若しくは前記限界排水口部を前記上部排水口部として設けて、雨水で増水する水田の水を前記周面排水口部より排水して水田の水位を保持し、この雨水による水田の増水量が前記周面排水口部からの排水量を超えると水田の水位が上昇して、前記限界排水口部より排水される水位に達するまでの増水量が水田に貯水されるように構成した水田用水位設定装置が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−22324号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
(1)これまでの排水桝では、営農水位を越えた雨水は、排水路から河川へと直ちに流れ込む結果、豪雨の場合には、河川の水位が短時間に一気に上昇して洪水が発生する。このため、水田に雨水を一定水位まで貯水して、河川への雨水の流入を抑制し、豪雨時の洪水被害を回避するためには、水位調整板を取り替える作業が必要であるが、このような水位調整板の取り替え作業は煩雑であるばかりか危険も伴う。また、この水位調整板の高さの選択を間違うと、水田の稲が冠水したり、畔が決壊したりするという被害を発生させることもあるという欠点がある。
【0008】
(2) 雨が止んだ後にも水位調整板を交換しないまま放置した場合は、水田の水は元の営農水位には戻らない。従って、稲の生育に悪影響を与える。また、一度雨が止んだ後、再び大雨が降ったときの貯水能力を失うという問題点がある。
【0009】
(3) このような問題を解決するために改善された従来の技術では、装置が複雑で金属製のため、高価になるという問題がある。また、「田んぼダム」の機能を利用した水害防止は、少しの水田に実施してもその効果は期待できず、多くの水田に設置して広い面積を「田んぼダム」にする必要がある。このため高価な装置では多くの水田に設置するのは困難になるという問題がある。
【0010】
本発明は上記問題点に鑑みて、小雨の時は水田の設定水量を保持し、豪雨時には水田に「田んぼダム」機能を働かせて自動的に一定水量を貯水して、河川への雨水の流出を抑制することを可能とする水田用貯水量調整装置に関するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための手段のうち、本発明の水田用貯水量調整装置における主たる構成(請求項1)は、
水田側に配置する前側を開放にし、方形状底版の奥側には下端部に排水孔を設けた垂直壁を配置し、該底版の両側に一対の側壁を配置してコ字状に形成した、水田の畔近傍に設置される水田用排水桝の該排水孔に、排水管の一方端を取り付け、該排水管の他方端を排水路に連結した水田用貯水量調整装置であって、
前記一対の側壁の対向位置に、土留板差し戸口を設けると共に、該土留板差し戸口と前記垂直壁のほぼ中間位置に貯水量調整板差し戸口を設け、前記土留板差し戸口には、土壌面とほぼ同じ高さの土留板を垂直に差し込むとともに、該土留板上に載置した時に営農水位となる高さの営農水位調整板を垂直に差し込み、前記貯水量調整板差し戸口には、上端高さを稲の生育状態に合わせた任意の高さである貯水水位とほぼ同じ高さに形成し、下部に排水量調整孔を穿設した貯水量調整板を垂直に差し込むように構成し、
通常雨量の場合は、営農水位調整板を越えて貯水量調整板との間の空間部に入った雨水が、貯水量調整板の排水量調整孔から排水孔に取り付けられた排水管を介して排水路へ排水して水田の営農水位を保持し、豪雨の場合は、営農水位調整板を越えて空間部に入った雨水は排水量調整孔からの排出量を上回り、空間部の水位が徐々に上昇し、やがて雨水は貯水量調整板の上端高さに設定した貯水水位を超えて越流させて、貯水量調整高さに越流高さを加えた高さの最高貯水水位まで雨水を貯め、水田の稲の冠水、畔の損壊する事態を防止することを特徴とするものである。
【0012】
本発明の請求項2の発明は、請求項1に記載の水田用貯水量調整装置において、
貯水量調整板の高さは、稲の生育に悪影響を与えない高さに形成したことを特徴としてなるのである。
【0013】
本発明の請求項3の発明は、請求項1に記載の水田用貯水量調整装置において、
貯水量調整板の排水量調整孔は、通常の降雨量の場合には、設定水位を越えない排水量に調整した大きさにしたことを特徴としてなるものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明は上記構成となっているので、以下に示す効果を奏する、
(1)「田んぼダム」の機能を利用した水害防止は、少しの水田に実施しても効果は期待できず、多くの水田に実施して広い面積を「田んぼダム」にする必要がある。「田んぼダム」を形成するため、高価な装置を設置した場合は費用が膨大となり実施が困難であるが、本発明は、構造が簡易な水田用貯水量調整装置であるため、設備費用を低く抑えて広範囲の水田に設置して「田んぼダム」の機能を発揮させ、洪水発生を防止出来る。
【0015】
(2)本発明によれば、集中豪雨時には「田んぼダム」の機能を利用し水田に雨水を貯水し排水量を抑制できる。その結果、雨水が短時間に一気に河川へ排出することがないため、水害の発生を防止できる。また、雨が降り続いた場合でも、最高貯水水位を超えることはないため、畔の決壊や稲の冠水を防止できる。
【0016】
(3) 水田に貯水する際は、ただ単に水田に貯水するだけではなく、水害を引き起こさない程度の水量を排水しているので、貯水水位に達するまでの時間を長く稼ぐことができる構造にされている。また、一時的に雨が降り止んだり小雨になったりした場合には、この排水によって水位が低下し、自動的に貯水機能は回復でき、再び豪雨が襲ってきた場合でも貯水することができる。
【0017】
(4) 通常の降雨量の場合は、排水量調整孔から排水するため営農水位が保持される。また、豪雨時に貯められた雨水は、雨が止んだ後には自動的に営農水位に戻るため、稲の生育に悪影響を与えない。
【0018】
(5)降雨量に応じて貯水量調整作業を自動的にできるため、豪雨時に危険を伴う貯水量調整作業を回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の通常の雨量の場合の実施例図。
【図2】本発明の豪雨の場合の実施例図。
【図3】本発明の雨が止んだ場合の実施例図。
【図4】本発明の水田用排水桝の斜視図。
【図5】これまでの水田用排水桝の実施例図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明を図1から図4を参照して説明する。
図1から図4において、本発明の水田用貯水量調整装置1は、水田16側に配置する前側を開放にし、方形状底版6の奥側には下端部に排水孔4を設けた垂直壁3を配置し、該底版6の両側に一対の側壁5を配置してコ字状に形成され、水田16の畔20近傍に設置される水田用排水桝2と、該水田用排水桝2の排水孔4に、排水管14の一方端を取り付け、該排水管14の他方端を排水路15に連結した構成にされている。
【0021】
また、前記水田用排水桝2の一対の側壁5の対向位置に、土留板差し戸口7を設けると共に、該土留板差し戸口7と前記垂直壁3のほぼ中間位置に貯水量調整板差し戸口8が設けられている。
【0022】
前記土留板差し戸口7には、水田16の土壌17が水田用排水桝2の中に入るのを阻止する、土壌面17とほぼ同じ高さの土留板10を垂直に差し込まれている。
【0023】
また、前記土留板10上に載置した時に、営農水位Sとなる高さの営農水位調整板11を垂直に差し込み、前記貯水量調整板差し戸口8には、上端高さを稲の生育状態に合わせた任意の、概ね営農水位Sより10cm程度の高さである貯水水位S1とほぼ同じ高さに形成し、下部に排水量調整孔12を穿設した貯水量調整板13を垂直に差し込むように構成されている。
【0024】
前記貯水量調整板13の高さは、稲18が冠水しない高さである最高貯水高さS2から、水害を引き起すような豪雨時に想定される越流高さh2を差し引いた高さに形成し、畔の決壊や冠水を発生させず稲の生育に悪影響を与えないようにされている。
【0025】
また、前記貯水量調整板13の排水量調整孔12は、通常の降雨量の場合には、雨水を支障なく排出可能な大きさであり、畔の決壊や冠水を発生させず稲の生育に悪影響を与えないように形成されている。
【0026】
図1に示した通常雨量の場合は、水田16には、営農水位調整板11の高さ(以下営農水位という)まで水21が溜められている。そして、水位調整板11を越えて貯水量調整板13との間の空間部9に入った雨水が、貯水量調整板13の下部に穿設された排水量調整孔12から排水孔4に取り付けられた排水管14を介して排水路15へ排水させて水田16の営農水位Sを保持されている。
【0027】
他方、図2に示した豪雨の場合は、営農水位調整板11を越えて空間部9へ流れ込む水21が増加する。この空間部9へ流れ込む水量が、貯水量調整板13に設けられた排水量調整孔12からの排水量より多くなると、田んぼの水位は、単位時間あたりの空間部9への流入量と排水量調整孔12からの排水量の差の分だけ上昇する。
【0028】
そして、豪雨の場合でも貯水水位S1を越えるまでは、排水路15に流れ込む水量は、排水量調整孔12から排水される水量しか排出されないため、降雨量に関わらず一定に保たれ、排水路15に短時間に一気に雨水が流れこむことを防止する。
【0029】
また、降った雨を単に貯水するだけではなく、水害を引き起こさない程度に調整された水量を排水しているので、最高貯水水位S2に達するまでに要する時間を長くすることが可能となる。
【0030】
更に、雨が降り続いた場合、雨水は水位上昇に伴い多量の水が貯水量調整板13を越えて排水管14より排水されるため、最高貯水水位S2を越えることがない。このため、稲18が冠水したり、畔20が決壊したりすることが防止できる。
【0031】
すなわち、通常雨量の場合は、営農水位調整板11を越えて貯水量調整板13との間の空間部9に入った雨水が、貯水量調整板13の排水量調整孔12から排水孔4に取り付けられた排水管14を介して排水路15へ排水させて水田16の営農水位Sを保持する。
次に、豪雨の場合は、営農水位調整板11を越えて空間部9に入った雨水は排水量調整孔12からの排出量を上回ることになり、空間部9の水位は徐々に上昇し、やがて雨水は貯水量調整板13の上端高さに設定した貯水水位S1を超えて越流することになり、貯水量調整高さh1に越流高さh2を加えた高さである最高貯水水位S2まで雨水を貯めることができる。この越流高さh2は、排水量調整孔12からの排出量を上回ると始まり、降雨量により変動する。このように貯水水位S1に達するまでの間は、降雨量に関わらず排水路15へ排出される水量は排水量調整孔12より排出される一定の水量に抑えられるため、豪雨の場合であっても降った雨がそのまま排水路15に短時間に一気に流れ込む事態を防ぐように調整されて「田んぼダム」の機能を発揮するとともに、さらに激しい雨が降り続いた場合には、雨水は貯水量調整板を越流して排出されるため、該最高貯水水位S2の上昇が抑制保持される。その結果、水田の稲が冠水したり、畔の損壊する事態を防止できるものである。
【0032】
図3に示したように、雨が止んだ場合は、排水孔4から排水され、水位が貯水水位S1まで下がると排水量調整孔12から排水され、自動的に営農水位Sに戻り貯水能力を回復する。このため、稲18の生育に悪影響を及ぼすことがなく、また、再び豪雨が襲ってきた場合でも貯水できる。
【0033】
上述の場合において、6月下旬頃の稲18の高さは40〜50cm位、畔の高さは30〜40cm程度であり、貯水する高さは畔20の高さを考慮すると最大でも25cm程度、通常水田16に水を張っている高さは7〜10cm程度である。
【符号の説明】
【0034】
1 水田用貯水量調整装置
2 水田用排水桝
3 垂直壁
4 排水孔
5 側壁
6 底版
7 土留板差し戸口
8 水位調整板取付け溝
9 空間部
10 土留板
11 営農水位調整板
12 排水量調整孔
13 貯水量調整板
14 排水管
15 排水路
16 水田
17 土壌
18 稲
19 雨
20 畔
21 水
22 水位調整板
S 営農水位
S1 貯水水位
S2 最高貯水水位
h1 貯水量調整高さ
h2 越流高さ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水田側に配置する前側を開放にし、方形状底版の奥側には下端部に排水孔を設けた垂直壁を配置し、該底版の両側に一対の側壁を配置してコ字状に形成した、水田の畔近傍に設置される水田用排水桝の該排水孔に、排水管の一方端を取り付け、該排水管の他方端を排水路に連結した水田用貯水量調整装置であって、
前記一対の側壁の対向位置に、土留板差し戸口を設けると共に、該土留板差し戸口と前記垂直壁のほぼ中間位置に貯水量調整板差し戸口を設け、前記土留板差し戸口には、土壌面とほぼ同じ高さの土留板を垂直に差し込むとともに、該土留板上に載置した時に営農水位となる高さの営農水位調整板を垂直に差し込み、前記貯水量調整板差し戸口には、上端高さを稲の生育状態に合わせた任意のさである貯水水位とほぼ同じ高さに形成し、下部に排水量調整孔を穿設した貯水量調整板を垂直に差し込むように構成し、
通常雨量の場合は、営農水位調整板を越えて貯水量調整板との間の空間部に入った雨水が、貯水量調整板の排水量調整孔から排水孔に取り付けられた排水管を介して排水路へ排水して水田の営農水位を保持し、豪雨の場合は、営農水位調整板を越えて空間部に入った雨水は排水量調整孔からの排出量を上回り、空間部の水位が徐々に上昇し、やがて雨水は貯水量調整板の上端高さに設定した貯水水位を超えて越流させて、貯水量調整高さに越流高さを加えた高さの最高貯水水位まで雨水を貯め、水田の稲の冠水、畔の損壊する事態を防止することを特徴とする水田用貯水量調整装置。
【請求項2】
貯水量調整板の高さは、稲の生育に悪影響を与えない高さに形成したことを特徴としてなる請求項1に記載の水田用貯水量調整装置。
【請求項3】
貯水量調整板の排水量調整孔は、通常の降雨量の場合には、営農水位を越えない排水量に調整した大きさに形成したことを特徴としてなる請求項1に記載の水田用貯水量調整装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−120510(P2012−120510A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−275782(P2010−275782)
【出願日】平成22年12月10日(2010.12.10)
【出願人】(000224215)藤村ヒューム管株式会社 (24)