説明

水着

【課題】低抵抗でありながら、装着者の泳ぎのフォームが崩れることを抑制可能な水着を提供する。
【解決手段】水着は、伸縮性を有する素材からなる水着であって、経方向および緯方向に沿った流水摩擦抵抗が正逆方向で等しい本体部10Aと、第1方向(斜め方向)に沿った流水摩擦抵抗が、第1方向と反対の第2方向に沿った流水摩擦抵抗よりも高く、かつ、本体部10Aの経方向および緯方向に沿った流水摩擦抵抗よりも高い前脛部20Aとを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水着に関し、特に、伸縮性を有する素材からなる水着に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2006−348398号公報(特許文献1)には、伸縮性を有する生地からなる水着の少なくとも一部分に、連続的に形成した撥水部を有する連続撥水部分と、撥水部および非撥水部を断続的に形成した断続撥水部分とが、体長方向に平行なストライプ状に形成された撥水領域を設けることが記載されている。特許文献1では、上記構成により、競泳水着の表面摩擦抵抗を低減できるとされている。
【0003】
特開2003−3307号公報(特許文献2)には、ドット列またはディンプル列を適宜間隔で形成した競泳用水着が記載されている。特許文献2では、上記構成により、流水を積極的にコントロールして抵抗を小さくできるとされている。
【0004】
特開2006−37311号公報(特許文献3)には、伸縮性を有する繊維生地材料よりなる水着の表面全体に、ミクロン単位の多数の微小突状どうしが常に点接触/線接触/面接触している構造が記載されている。特許文献3では、上記構成により、乱流発生を防止して流体抵抗を低減できるとされている。
【0005】
特開平8−246209号公報(特許文献4)には、競技用衣服の基布の表面に方向性を付与し、特に流体抵抗を著しく受ける衣服の基布を順目または逆目になるように配し、該衣服における流体剥離位置を後退して、競技者の後方に発生する渦を縮小させ、身体が受ける流体抵抗を低減させることが記載されている。
【特許文献1】特開2006−348398号公報
【特許文献2】特開2003−3307号公報
【特許文献3】特開2006−37311号公報
【特許文献4】特開平8−246209号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1〜3に記載されているように、競泳用水着の分野では、近年、少しでも競技において有利となるように、流体抵抗をできるだけ抑制するための種々の構造が提案されている。また、特許文献4においても、特許文献1〜3と同様に、流体抵抗を低減することを意図している。
【0007】
しかしながら、上記のような構成で水着の流体抵抗を抑制することにより、水中を進む際の減速は抑制されるものの、競技者が水を掻いたり蹴ったりする動作の感覚が得難くなる傾向にある。この結果、競技者自身の泳ぎのフォームが崩れやすくなり、競技において有利となることを意図して低抵抗の水着を用いたにも関わらず、競技にとって却って不利になることが懸念される。
【0008】
本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、低抵抗でありながら、装着者の泳ぎのフォームが崩れることを抑制可能な水着を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る水着は、伸縮性を有する素材からなる水着であって、経方向および緯方向に沿った流水摩擦抵抗が正逆方向で等しい第1の部分と、第1の方向に沿った流水摩擦抵抗が、第1の方向に対して反対の第2の方向に沿った流水摩擦抵抗よりも高く、かつ、第1の部分の経方向および緯方向に沿った流水摩擦抵抗よりも高い第2の部分とを備える。
【0010】
上記構成によれば、一方の方向(第2の方向)に沿った抵抗が相対的に低く、他方の方向(第1の方向)に沿った抵抗が相対的に高い部分(第2の部分)を設けることにより、水中を進む際の抵抗は低いにも関わらず、水を掻いたり蹴ったりする動作の感覚が得難くなることを抑制できる。したがって、従来の水着の設計において妨げとなっていた高抵抗という要素を逆に利用することで、低抵抗でかつ装着者が泳ぎのフォームを崩すことを抑制可能な水着が提供される。
【0011】
なお、本願明細書において、「経方向」とは、織物における経糸がならぶ方向、および、編物におけるウエルがならぶ方向を意味する。また、本願明細書において、「緯方向」とは、織物における緯糸がならぶ方向、および、編物におけるコースがならぶ方向を意味する。また、「流水摩擦抵抗が正逆方向で等しい」とは、流水摩擦抵抗が正逆方向で完全に等しい場合のみならず、若干の誤差はあるがほぼ等しい場合も含む。
【0012】
また、第2の部分における第2の方向に沿った流水摩擦抵抗は、第1の部分の流水摩擦抵抗よりも低くてもよいし、高くてもよい。
【0013】
上記水着において、好ましくは、第2の部分は、装着者の腕または脚の一部に相当する部分に設けられる。
【0014】
上記水着において、好ましくは、第2の部分は、装着者の脚の膝から下の一部に相当する部分に設けられる。
【0015】
上記水着において、好ましくは、第2の部分は、装着者の脛の前面に相当する部分に設けられる。
【0016】
上記水着において、好ましくは、上記第1の方向は、装着者の体の幅方向中心側から、装着者の体の幅方向外側に向かう方向と平行な方向である。
【0017】
上記水着において、好ましくは、上記第1の方向は、装着者の体の幅方向中心側でかつ上側から、装着者の体の幅方向外側でかつ下側に向かう斜め方向と平行な方向である。
【0018】
上記水着において、好ましくは、第2の部分は、装着者の前腕部の手首掌側部から肘の内側部および上腕内側部を経由して、腕の付根内側部までに相当する部分に設けられる。
【0019】
上記水着において、好ましくは、第2の部分は、装着者の前腕部の一部に相当する部分に設けられる。
【0020】
上記水着において、好ましくは、第2の部分は、装着者の前腕部の掌側の一部に相当する部分に設けられる。
【0021】
上記水着において、好ましくは、第2の部分は、装着者が水中で推進力を得る動作を行なう際に表面速度が相対的に大きい部分に選択的に設けられる。
【0022】
上記水着において、好ましくは、第2の部分は、第2の方向に沿って順目が形成され、第1の方向に沿って逆目が形成されるように構成される。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、低抵抗の水着でありながら、装着者の泳ぎのフォームが崩れることを抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下に、本発明の実施の形態について説明する。なお、同一または相当する部分に同一の参照符号を付し、その説明を繰返さない場合がある。
【0025】
なお、以下に説明する実施の形態において、個数、量などに言及する場合、特に記載がある場合を除き、本発明の範囲は必ずしもその個数、量などに限定されない。また、以下の実施の形態において、各々の構成要素は、特に記載がある場合を除き、本発明にとって必ずしも必須のものではない。また、以下に複数の実施の形態が存在する場合、特に記載がある場合を除き、各々の実施の形態の構成を適宜組合わせることは、当初から予定されている。
【0026】
まず最初に、後述する実施の形態1,2に係る水着の設計方法の一例について説明する。
【0027】
図16は、衣類設計支援装置の一例を示す図である。図16を参照して、本実施の形態に係る衣類設計支援装置は、身体形状データ入力部100と、ポリゴンデータ算出部200と、身体動作情報入力部300と、ポリゴンデータ変位算出部400と、表示部500とを含む。
【0028】
身体形状データ入力部100には、身体形状データが三次元座標として入力される。これにより、身体形状データ入力部100には、ポリゴンデータ生成のための基礎データが入力される。ポリゴンデータ算出部200は、身体形状データ入力部100で入力された身体形状データに基づいて、衣服の設計対象である身体形状を表す三次元ポリゴンデータを生成する。身体動作情報入力部300には、身体形状の動きを示す身体動作情報が、時系列データとして入力される。ポリゴンデータ変位算出部400は、ポリゴンデータ算出部200において算出されたポリゴンデータが、身体動作情報入力部300に入力された身体動作情報に応じて、時系列にどのように変位するのか(たとえば図17に示す状態)を算出する。
【0029】
表示部500は、ポリゴンデータ変位算出部400により算出されたデータに基づいて、たとえば、装着者の体の表面における速度ベクトルの分布を表示することが可能である。
【0030】
本願発明者らは、図16に示す衣類設計支援装置により得られた結果として、四泳法(自由形、平泳ぎ、背泳ぎ、バタフライ)に共通して、足で水を蹴る際、装着者の脛の前面の流速が大きくなり、手で水を掻く際、装着者の前腕部の掌側の流速が大きくなる傾向にあることを確認している。
【0031】
低抵抗化が進んだ近年の水着では、水中での減速が抑制されるという有利な効果が得られる一方で、水を蹴る際の感覚が得難くなり、水泳動作のフォームを乱しやすい傾向にある。これに対し、後述する実施の形態1,2に係る水着では、推進力を得ようとする際に最も流速が大きくなる部分に高抵抗の素材を設け、所定の方向の流水摩擦抵抗を敢えて選択的に高くすることで、フォームの崩れを抑制することができる。この結果、低抵抗でありながら、フォームを乱さず泳ぎの動作に関する感覚が得やすい水着が提供される。
【0032】
(実施の形態1)
図1〜図3は、実施の形態1に係る水着を示す図である。なお、図1は、水着1Aの斜視図であり、図2は、水着1Aの側面図であり、図3は、水着1Aの背面図である。
【0033】
図1〜図3を参照して、本実施の形態に係る水着1Aは、装着者の体に密着する水着であり、本体部10Aと、前脛部20Aとを含む。
【0034】
本体部10Aおよび前脛部20Aは、所定の伸縮性を有する。前脛部20Aは、装着者の脛の前面に相当する部分に設けられる。前脛部20Aは、左右両足に一片ずつ設けられている。
【0035】
前脛部20Aは、装着者の体の丈方向に長い細長形状を有している。前脛部20Aは、その丈方向の両先端部が尖った形状を有している。また、前脛部20Aは、その丈方向中央部が丈方向先端部に対して幅広に形成されている。
【0036】
本体部10Aは、経方向においても、緯方向においても、流水摩擦抵抗が正逆方向で等しいという性質を有する。他方、前脛部20Aは、所定の方向において、流水摩擦抵抗が正逆方向で異なるという性質を有する。より具体的には、矢印DR1方向(図3参照)の流水摩擦抵抗は、矢印DR2方向(図3参照)の流水摩擦抵抗よりも高い。
【0037】
装着者の腕の一部に相当する部分においても、前脛部20Aのように、流水摩擦抵抗が正逆方向で異なる素材が用いられてもよい。
【0038】
前脛部20Aは、装着者が水中で推進力を得る動作(たとえば、平泳ぎであれば、脚で水を蹴る動作)を行なう際に表面速度が相対的に大きい部分に選択的に設けられる。このようにすることで、装着者が脚で水を蹴る感覚が得やすくなる。
【0039】
図3に示すように、矢印DR1方向は、装着者の体の幅方向中心側から、装着者の体の幅方向外側に向かう方向である。典型的には、矢印DR1方向は、装着者の体の前面側において、装着者の体の幅方向中心側でかつ上側から、装着者の体の幅方向外側でかつ下側に向かう斜め方向である。なお、矢印DR1方向と装着者の身長方向(図1,図3における上下方向)とのなす角度(図1,図3中のα)は、15°以上105°以下程度(より好ましくは、50°以上70°以下程度)である。
【0040】
次に、図4,図5を用いて、前脛部20Aを構成する素材の構造の一例について説明する。なお、図4,図5は、同じ素材の拡大写真である。図5は、図4の拡大写真をさらに拡大して示したものである。図4,図5を参照して、前脛部20Aは、矢印DR1方向に沿って逆目が形成され、矢印DR2方向に沿って順目が形成されるように構成されている。
【0041】
本実施の形態では、前脛部20Aを構成する生地を装着者の脛の前面側にのみ設ける例について示しているが、前脛部20Aを構成する生地は、装着者の前面側から背面側に回り込むように設けられる場合もある。この場合は、前脛部20Aを構成する生地を背面側に回り込ませた結果、装着者の前面側では体の幅方向中心側から外側に向かって逆目が形成されるが、装着者の背面側では体の幅方向外側から中心側に向かって逆目が形成されることになる。なお、図3は水着1Aの背面図であるが、図3における矢印DR1は、装着者の体の前面側に位置する前脛部20Aの逆目方向を図示したものである。
【0042】
図6は、図4,図5に示す素材の構造を模式的に示す図である。図6を参照して、前脛部20Aを構成する前脛部材20は、その表面に凸部21を有する。好ましくは、凸部21のピッチ(L)は、100μm以上3000μm以下程度であり、凸部21の高さ(H)は、20μm以上500μm以下程度である。また、凸部21の傾斜角度(θ)は、90°未満の範囲で任意に選択可能である(一例としては、10°以上85°以下程度)。なお、凸部21の傾斜角度とは、図6に示すように、凸部21の先端において凸部21と接する仮想線の接点と、凸部21の底部の幅方向中心とを結ぶ線と、前脛部材20の生地の主表面とのなす角度を意味する。
【0043】
上記のような順目・逆目を有する生地を編地で形成する場合、たとえば、一般に用いられる交編経編地を染色加工し、樹脂を含浸させて撥水加工した後、カレンダー加工により凸部を片倒しすることが考えられる。
【0044】
上述したように、前脛部20Aにおいては、矢印DR1方向の流水摩擦抵抗が、矢印DR2方向の流水摩擦抵抗よりも高い。好ましくは、矢印DR1方向の流水摩擦抵抗は、矢印DR2方向の流水摩擦抵抗の100.5%以上(120%以下)程度である。なお、本体部10Aにおいては、正逆方向の流水摩擦抵抗の差は、全体の0.5%未満程度である。本願明細書においては、正逆方向の流水摩擦抵抗の差が全体の0.5%未満程度であれば、測定誤差の範囲内とみなし、流水摩擦抵抗差は実質的に無いに等しいものとする。
【0045】
次に、流水摩擦抵抗の測定方法の一例について、図18を用いて説明する。図18を参照して、上端31A,31Bが水平方向(矢印B方向)に自由に移動できる支柱32A,32Bによって支えられたガラス板33(長さ3000mm、幅600mm)の両面に試験用生地34を貼り付け、回流水路35中に所定の深度まで沈降させる。金属製支柱36の下端はガラス板33に固定され、支柱36の上端は天井に固定されている。支柱36の上方部分に歪みゲージ37が設置されている。ガラス板33に貼り付けた生地34の表面が、矢印Aの方向に流れる水流から受ける抵抗の大きさは、歪みゲージ37からの電気信号として、動歪み計38により測定され、A/Dコンバータ39を介してコンピュータ40に表示される。
【0046】
前脛部20Aを構成する生地(ここでは、図4,図5に示す素材)の流水抵抗を各流速について求めた結果を、表1に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
本体部10Aと前脛部20Aとは、縫製によって一体化されている。本体部10Aおよび前脛部20Aを構成する部材は、いずれも、所定の伸縮性を有するストレッチ素材である。このストレッチ素材は、縦方向及び横方向に伸縮する2ウェイストレッチ編物および2ウェイストレッチ織物から選ばれる少なくとも一つの布帛(ふはく)であることが好ましい。
【0049】
本体部10Aおよび前脛部20Aを構成する生地としては、ポリアミド系、ポリエステル系、ポリプロピレン系などの合成繊維マルチフィラメント系、または、これらの合成繊維マルチフィラメント系とポリウレタン弾性糸条の交編、あるいは交編よりなる編物、織物を用いることができる。特に、競泳用水着は動きやすさが重要視されるため、素材としては、合成繊維マルチフィラメント糸条とポリウレタン弾性糸条の交編による編物を用いることが好ましい。また、この編物としては、丸編地であるシングル丸編地、ダブル丸編地、経編地であるトリコット地、ラッセル地をいずれも用いることが可能であるが、動きやすさを考慮すると、ストレッチ性、生地薄さの観点から、トリコット地を用いることが好ましい。上記の生地に通常の染色加工を施して、染色仕上げを行なう。
【0050】
図7,図8は、図6に示す前脛部材20の変形例の構造を模式的に示す図である。図7に示すように、前脛部材20において、編地による凸部21に代えて、ウレタンやシリコン樹脂をボンディングすることにより形成された凸部22が設けられてもよい。また、図8に示すように、基布上にウレタンシートなどの樹脂シートを貼付するラミネート加工により凸部23を設けてもよい。さらに、所定の形状の突条を円周方向に設けたロールを用いた高温高圧のエンボス加工により、凸部を形成してもよい。
【0051】
本実施の形態によれば、矢印DR2方向に沿った抵抗が相対的に低く、矢印DR1方向に沿った抵抗が相対的に高い素材で前脛部20Aを構成することにより、水中を進む際の抵抗は低いにも関わらず、水を蹴るという水泳動作の感覚が得難くなることを抑制できる。したがって、低抵抗でかつ装着者が泳ぎのフォームを崩すことを抑制可能な水着1が提供される。
【0052】
上述した内容について要約すると、以下のようになる。すなわち、本実施の形態に係る水着1は、伸縮性を有する素材からなる水着であって、経方向および緯方向に沿った流水摩擦抵抗が正逆方向で等しい「第1の部分」としての本体部10Aと、「第1の方向」としての矢印DR1方向に沿った流水摩擦抵抗が、「第2の方向」としての矢印DR2方向に沿った流水摩擦抵抗よりも高く、かつ、本体部10Aの経方向および緯方向に沿った流水摩擦抵抗よりも高い「第2の部分」としての前脛部20Aとを備える。
【0053】
(実施の形態2)
図9〜図11は、実施の形態2に係る水着を示す図である。なお、図9は、水着1Bの斜視図であり、図10は、水着1Bの側面図であり、図11は、水着1Bの背面図である。
【0054】
図9〜図11を参照して、本実施の形態に係る水着1Bは、実施の形態1に係る水着1Aの変形例であって、パンツ部分のみを備えていることを特徴とする。
【0055】
図9〜図11に示すように、本実施の形態においても、装着者の脛の前面に相当する部分に前脛部20Bが設けられている。
【0056】
なお、上記以外の事項については、実施の形態1と同様であるので、詳細な説明は繰り返さない。
【0057】
(実施の形態3)
図12〜図14は、実施の形態3に係る水着を示す図である。なお、図12は、水着1Cの斜視図であり、図13は、水着1Cの側面図であり、図14は、水着1Cの背面図である。
【0058】
図12〜図14を参照して、本実施の形態に係る水着1Cは、実施の形態1に係る水着1Aの変形例であって、袖部をさらに備え、袖部に上述した前脛部20Bと同じ素材からなる「第2部材」としての前腕部20Cを設けていることを特徴とする。
【0059】
図15は、前腕部20Cを拡大して示す図である。図15を参照して、流水摩擦抵抗が大きい矢印DR1方向と、装着者の前腕の長手方向(図15中の上下方向)とのなす角度(図15中のβ)は、−90°より大きく90°未満程度(より好ましくは、−30°以上30°以下程度)であることが好ましい。
【0060】
本実施の形態に係る水着によれば、腕で水を掻くという水泳動作の感覚が得やすくなる。この結果、装着者が泳ぎのフォームを崩すことを抑制できる。
【0061】
なお、上記以外の事項については、実施の形態1と同様であるので、詳細な説明は繰り返さない。
【実施例】
【0062】
以下、本発明に係る水着の実施例について説明する。
(実施例1)
実施例1に係る水着は、上述した実施の形態1に係る水着1A(図1〜図3)の一例である。
【0063】
本実施例では、各部材は相互に縫製により一体化される。この縫製においては、フラットシーマミシンを用い、針糸にポリエステルスパンライクフィラメント糸、上かがり糸と下かがり糸にウーリーナイロン糸を用いてフラットシーマの縫目で縫着した。
【0064】
本体部10Aを構成する素材としては、下記(A)に説明する生地に、下記(B),(C)に説明する親水性処理および撥水性処理を施したものを使用した。なお、撥水性処理が施されない部分(親水性部分)は島状に、撥水性処理を施す撥水性部分は海状に設けられ、親水性部分の幅はたとえば10mmであり、撥水性部分の幅はたとえば12mm程度程度である。親水性部分と撥水性部分との表面積の比は、たとえば、25:75程度である。
(A) 生地
ポリエステル繊維を80重量%、ポリウレタン繊維を20重量%含むツーウェイ編物(生地厚み平均0.54mm、目付け245g/cm2、JIS1096で測定した4.9N荷重時の伸長率が経方向50%、緯方向20%、17.6N荷重時の伸長率が経方向110%、緯方向90%)を使用した。
(B) 親水性処理
吸水ゲル吸着粒子として、凝集粒子の平均粒子径3〜5μmのSiO2に、吸水ゲル樹脂を吸着させた、エネックス社製「GP−K−1」を10重量%、バインダ樹脂としてウレタン系樹脂(日華化学社製「エヴァファノールAP12」)とを1重量%、水10リットルに分散し、親水性処理液とした。この親水性処理液に伸縮性生地を浸漬し、ピックアップ率16重量%となるように絞り、乾燥させた。これにより、吸水ゲル吸着粒子は、伸縮性生地に1.6重量%付着した。なお、凝集粒子の平均粒子径は、市販の粒度分布計(たとえば、堀場製作所製のレーザ回折粒度測定器(LA920)、島津製作所製のレーザ回折粒度測定器(SALD2100)など)により測定可能である。
(C) 撥水性処理
撥水性処理液として、フッ素樹脂系撥水剤(七福化学社製の「DP−10」を4重量%、増粘剤として七福化学社製の「セブテックスM−20」を3重量%、架橋剤として七福化学社製の「ブロックイソシアネートZR,ZN」を3重量%、水10リットルに分散し、撥水性処理液とした。この撥水性処理液をプリント捺染により、ウエットアップ率が21重量%となるように伸縮性生地にプリントし、これを乾燥させた後、170℃のピンテンターでセットし、伸縮性生地を仕上げた。
【0065】
前脛部20Aを構成する素材としては、28ゲージのシングルトリコット編機を用い、44デシテックス36フィラメントのポリエステル丸断面フィラメントをフロント筬に、55デシテックスのポリウレタン系弾性糸である“ライクラ”(登録商標)をバック筬に配して、シンカー面のウエル(ヨコ)方向に畝を形成した生機を編成し、この生機を通常のポリエステルとポリウレタン系弾性糸との交編経編地の染色加工方法に順じて、染色加工を行ない、アクリル樹脂を含浸し弗素系撥水加工後、順目通しによるカレンダー加工で畝の凸部を片倒しして得た順目、逆目のある編地を使用した。
【0066】
図3に示す矢印DR1方向方向が、装着者の身長方向(図3中の上下方向)となす角度(α)は、約60°であるが、この角度は、上述した範囲で適宜変更可能である。
【0067】
(実施例2)
実施例2に係る水着は、上述した実施の形態3に係る水着1C(図12〜図15)の一例である。
【0068】
本実施例における本体部10Aおよび前腕部20Cを構成する素材としては、実施例1における本体部10Aおよび前脛部20Aを構成する素材と同様のものを用いる。
【0069】
図15に示す矢印DR1方向方向が、装着者の前腕部の長手方向(図15中の上下方向)となす角度(β)は、ほぼ0°であるが、この角度は、上述した範囲で適宜変更可能である。
【0070】
(実施例3)
実施例3に係る水着は、実施例1,2に係る水着の特徴を組合わせたものである。すなわち、実施例3に係る水着は、図1〜図3に示す前脛部20A、および、図12〜図15に示す前腕部20Cの両方を含む。
【0071】
(実施例1〜3と比較例との対比)
以下では、上述の実施例1,3に係る水着と、実施例1,3に係る水着における前脛部20Aおよび前腕部20Cを本体部10Aと同じ素材に置き換えた比較例に係る水着とを比較した結果について説明する。ここでは、5名のトップスイマーに実際に水着を装着した上で(平泳ぎで)泳いでもらい、その感覚について聞き取り調査を行なった。その結果を表2に示す。
【0072】
【表2】

【0073】
表2に示すように、腕で水を掻く感覚の得やすさとしては、前腕部20Cを備えない比較例に対し、前腕部20Cを備える実施例3の方が、「感覚を得やすい」と回答する傾向にある。また、脚のキックする感覚の得やすさとしては、前脛部20Aを備えない比較例に対し、前脛部20Aを備える実施例1の方が、「感覚を得やすい」と回答する傾向にあり、さらに、前腕部20Cを備える実施例3の方が、実施例1よりも「感覚を得やすい」と回答する傾向にある。すなわち、前腕部20Cを備えることで、腕で水を掻く感覚が得やすくなるとともに、脚のキックする感覚の得やすさも向上する。
【0074】
このように、上述した実施例に係る水着は、平泳ぎで泳ぐ際に、スイマーに「泳ぎの動作に関する感覚が得やすい」という印象を与えることができることが分かる。なお、他の泳法で泳ぐ際にも、脛前面や前腕部は、スイマーの感覚に大きな影響を与える部分であるため、前脛部20Aや前腕部20Cを設けることにより、スイマーに「泳ぎの動作に関する感覚が得やすい」という印象を与え、泳ぎのフォームが崩れることを抑制する効果が十分に期待できる。なお、各泳法に特に適した水着を設計する際は、その泳法の特性に合わせて、前脛部20Aや、前腕部20Cの位置または角度(DR1,DR2の方向)、抵抗値、素材そのものを調整する事が可能である。
【0075】
以上、本発明の実施の形態および実施例について説明したが、今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の実施の形態1に係る水着を示す斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係る水着を示す側面図である。
【図3】本発明の実施の形態1に係る水着を示す背面図である。
【図4】図1〜図3に示す水着における前脛部を構成する素材の構造を示す拡大写真(その1)である。
【図5】図1〜図3に示す水着における前脛部を構成する素材の構造を示す拡大写真(その2)である。
【図6】図1〜図3に示す水着における前脛部を構成する素材の構造を模式的に示す図(その1)である。
【図7】図1〜図3に示す水着における前脛部を構成する素材の構造を模式的に示す図(その2)である。
【図8】図1〜図3に示す水着における前脛部を構成する素材の構造を模式的に示す図(その3)である。
【図9】本発明の実施の形態2に係る水着を示す斜視図である。
【図10】本発明の実施の形態2に係る水着を示す側面図である。
【図11】本発明の実施の形態2に係る水着を示す背面図である。
【図12】本発明の実施の形態3に係る水着を示す斜視図である。
【図13】本発明の実施の形態3に係る水着を示す側面図である。
【図14】本発明の実施の形態3に係る水着を示す背面図である。
【図15】図12〜図14に示す水着における前腕部を拡大して示す図である。
【図16】衣類設計支援装置の一例を示す図である。
【図17】図12に示す衣類設計支援装置で用いられるポリゴン座標の一例を示す図である。
【図18】流水摩擦抵抗を測定する装置の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0077】
1A,1B,1C 水着、10A,10B,10C 本体部、20 前脛部材、21,22,23 凸部、20A,20B 前脛部、20C 前腕部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
伸縮性を有する素材からなる水着であって、
経方向および緯方向に沿った流水摩擦抵抗が正逆方向で等しい第1の部分と、
第1の方向に沿った流水摩擦抵抗が、前記第1の方向に対して反対の第2の方向に沿った流水摩擦抵抗よりも高く、かつ、前記第1の部分の前記経方向および前記緯方向に沿った流水摩擦抵抗よりも高い第2の部分とを備えた、水着。
【請求項2】
前記第2の部分は、装着者の腕または脚の一部に相当する部分に設けられる、請求項1に記載の水着。
【請求項3】
前記第2の部分は、装着者の脚の膝から下の一部に相当する部分に設けられる、請求項1または請求項2に記載の水着。
【請求項4】
前記第2の部分は、装着者の脛の前面に相当する部分に設けられる、請求項1または請求項2に記載の水着。
【請求項5】
前記第1の方向は、装着者の体の幅方向中心側から、装着者の体の幅方向外側に向かう方向と平行な方向である、請求項3または請求項4に記載の水着。
【請求項6】
前記第1の方向は、装着者の体の幅方向中心側でかつ上側から、装着者の体の幅方向外側でかつ下側に向かう斜め方向と平行な方向である、請求項3または請求項4に記載の水着。
【請求項7】
前記第2の部分は、装着者の前腕部の手首掌側部から肘の内側部および上腕内側部を経由して、腕の付根内側部までに相当する部分に設けられる、請求項1または請求項2に記載の水着。
【請求項8】
前記第2の部分は、装着者の前腕部の一部に相当する部分に設けられる、請求項1または請求項2に記載の水着。
【請求項9】
前記第2の部分は、装着者の前腕部の掌側の一部に相当する部分に設けられる、請求項1または請求項2に記載の水着。
【請求項10】
前記第2の部分は、装着者が水中で推進力を得る動作を行なう際に表面速度が相対的に大きい部分に選択的に設けられる、請求項1から請求項9のいずれかに記載の水着。
【請求項11】
前記第2の部分は、前記第2の方向に沿って順目が形成され、前記第1の方向に沿って逆目が形成されるように構成される、請求項1から請求項10のいずれかに記載の水着。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−249788(P2009−249788A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−101773(P2008−101773)
【出願日】平成20年4月9日(2008.4.9)
【出願人】(000005935)美津濃株式会社 (239)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】