説明

水硬性モルタル組成物及び硬化体

【課題】磨耗を受け易い部位のコンクリートを保護するためのモルタルライニング材/補修材であって、安価で耐磨耗性に優れ、しかも将来の補修時に良好な付着性が確保できる材料の提供。
【解決手段】次の成分(A)、(B)、(C)、(D)及び(E)
(A) セメント
(B) 粘土鉱物由来の非晶質アルミノ珪酸塩微粉末
(C) アクリル酸系モノマーを構成要素として有するポリマーディスパージョン及び/又は再乳化形粉末樹脂
(D) そのカルシウム塩が水溶性となる酸のアルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩
(E) 細骨材
を含有する水硬性モルタル組成物、並びに、当該水硬性モルタル組成物を、水及び/又はポリマーエマルションと混練して硬化させて得られる硬化体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両や機械類の通過により磨耗を受け易い工場床・駐車場床、水流や流木・土砂等で磨耗を受けることの多い水路内壁・底版など、各種磨耗により劣化を受け易い部位のライニングや補修に好適な、耐磨耗性に優れる水硬性モルタル組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
工場の床面や、コンクリート製の駐車場の床などは、フォークリフトや様々な重機類、一般車両が頻繁に行き来することによる摩耗を受け易い。このため、これらの床材には、高強度のコンクリートや、鋼繊維・有機繊維等を混入した繊維補強コンクリートを用い、磨耗への抵抗性を高めているが、その効果は十分ではなく、経年使用での劣化は避け難い。そこで、更にその表層の磨耗劣化を防ぐため、エポキシ系樹脂などを用いた耐磨耗塗料が使用されている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【0003】
しかし、耐摩耗塗料を用いた床は、その劣化を補修する際、旧塗装面には直接新たな補修材(セメントモルタル、樹脂モルタル、耐磨耗塗料等)が付着せず、十分な接着力が得られないという問題がある。従って、補修の際には、旧塗装面を斫(はつ)り剥がす必要があるが、エポキシ塗料が含浸したコンクリートは強度が高く、斫りには非常な手間を要する。
【0004】
一方、水路や河川の内壁面・底版面は、通常現場打ちコンクリートや、フリューム等のコンクリート2次製品からなるが、水流による直接磨耗、水流によって流されてくる流木・砂礫・土砂等による磨耗、或いは水流によって発生するキャビテーション等により、激しい浸食を受ける。表面を侵食された水路内壁面は、表面粗度が大きくなり、本来の流量・流速が得られなくなる。
【0005】
このような浸食に対する補修材料としては、通常のセメントモルタルでは磨耗に弱く、比較的短期間での再補修が必要となる。また、ポリマーセメントモルタルは、ノンポリマーのセメントモルタルに対して比較的耐磨耗性に優れるとされている(非特許文献1)が、やはり十分とはいえない。一方、樹脂パネルなどの貼り付けによる更生工法(例えば、特許文献3及び4参照)や、樹脂塗料によるライニング工法などによる表面の補修・補強が知られているが、その材料が大変高価であり、広範囲の十分な保守に適しているとはいえない。
【0006】
【特許文献1】特開2004-176448号公報
【特許文献2】特開2006-112117号公報
【非特許文献1】大濱嘉彦,“ポリマーセメントモルタル技術資料”(情報開発社),1988,pp35-36
【特許文献3】特開2007-100299号公報
【特許文献4】特開平5-231095号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って本発明は、磨耗を受け易い部位のコンクリートを保護するためのモルタルライニング材/補修材であって、安価で耐磨耗性に優れ、しかも将来の同種の材料による補修時に良好な付着性が確保できるものを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、非晶質アルミノ珪酸塩、セメントと非晶質アルミノ珪酸塩との反応を促進すると考えられる特定の酸塩、並びに特定のポリマーを含む水硬性モルタル組成物が、高い耐摩耗性を示し、また下地との付着性に優れる硬化体を与えることを見出した。
【0009】
本発明は、次の成分(A)、(B)、(C)、(D)及び(E)
(A) セメント
(B) 粘土鉱物由来の非晶質アルミノ珪酸塩微粉末
(C) アクリル酸系モノマーを構成要素として有するポリマーディスパージョン及び/又は再乳化形粉末樹脂
(D) そのカルシウム塩が水溶性となる酸のアルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩
(E) 細骨材
を含有する水硬性モルタル組成物を提供するものである。
【0010】
更に本発明は、上記の水硬性モルタル組成物を、水及び/又はポリマーディスパージョンと混練して硬化させて得られる硬化体、及び当該硬化体に、次の成分(F)
(F) 珪酸アルカリ金属塩水溶液及び/又はコロイダルシリカを含浸させてなる硬化体。を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の水硬性モルタル組成物は、安価でありながらその硬化体が高い耐磨耗性を示し、また将来的な再劣化補修の際、同質の材料での補修が可能であり、モルタルライニング材/補修材として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
〔(A)セメント〕
(A)セメントとしては、普通、早強、超早強、中庸熱、低熱、耐硫酸塩等の各種ポルトランドセメント;エコセメント(普通型);微粒子セメント、超微粒子セメント;アルミナセメント;高炉スラグやフライアッシュ、フライアッシュ等との混合セメント;又はこれらの混合物が挙げられる。更にこれらのセメントに石膏を添加したセメント等も使用可能である。
【0013】
〔(B) 非晶質アルミノ珪酸塩微粉末〕
成分(B)としては、粘土鉱物に由来し、非晶質部分を含むアルミノ珪酸塩微粉末であれば特に限定されず、いずれも用いることができる。このような粘土鉱物としては、(1)カオリン鉱物、(2)雲母粘土鉱物、(3)スメクタイト型鉱物、及びこれらが混合生成した混合層鉱物が挙げられる。成分(B)は、これら結晶性アルミノ珪酸塩粘土鉱物を、例えば焼成・脱水して非晶質化することにより得られる。これらのうち、反応性、経済性の観点から、カオリン鉱物由来のものが好ましく、特にカオリナイトを焼成して得られるメタカオリンが最も好適である。
【0014】
成分(B)の微粉末の大きさは、反応性と分離抑制性の観点から、平均粒子径10μm以下、特に5μm以下が好ましい。
【0015】
本発明の水硬性モルタル組成物中における成分(B)の配合量は、(A)セメント100重量部に対し、0.5〜40重量部、特に1〜20重量部が好ましい。0.5重量部未満では耐摩耗性の向上効果が得られず、40重量部を超えると短期強度発現性が悪くなり、また混練水量が増えることによる乾燥収縮の増大が問題となり、かつ経済的にも好ましくない。
【0016】
〔(C)アクリル酸系モノマーを構成要素として有するポリマーディスパージョン及び/又は再乳化形粉末樹脂〕
成分(C)のアクリル酸系モノマーを構成要素として有するポリマーディスパージョン、再乳化形粉末樹脂としては、通常セメント組成物に用いられるものであればいずれも使用可能である。ポリマー種としては、オールアクリル重合体、スチレン・アクリル共重合体、アクリル・酢酸ビニル・ベオバ(t-デカン酸ビニルの商品名)共重合体等が挙げられる。ポリマーディスパージョンはこれらポリマーの水中油滴型の液体エマルションであり、その液体エマルションをスプレードライなどにより再乳化性を有する粉末状としたものが再乳化形粉末樹脂であり、双方とも使用可能である。また、作業性の観点から、ポリマーの水中への安定化が、粒子表面に分布する界面活性剤やポリマー本体のアニオン性ないしノニオン性官能基によってなされるものが好ましい。
【0017】
本発明の水硬性モルタル組成物中における成分(C)の配合量は、(A)セメントと(B)非晶質アルミノ珪酸塩微粉末の合計100重量部に対し、固形分として1〜20重量部、特に2〜15重量部が好ましい。1重量部未満では付着強度向上、耐久性向上等のポリマー添加による効果がほとんど得られず、20重量部を超えるとその粘性により左官施工においては鏝作業性が、吹付け施工においてもポンプ圧送性が著しく悪化する。
【0018】
〔(D)そのカルシウム塩が水溶性となる酸のアルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩〕
成分(D)において、「水溶性」とは、水に対する溶解度が5以上であることをいうものとする。ここにいう溶解度とは、25℃において水100gに溶解し得る溶質の質量をいう。水溶性酸のカルシウム塩の例としては、亜硝酸カルシウム(溶解度82.1)、硝酸カルシウム(138)等の無機酸カルシウム塩;ギ酸カルシウム(19.9)、酢酸カルシウム(34.7)、乳酸カルシウム(6.5)、酪酸カルシウム(18.2)等の有機酸カルシウム塩が挙げられる。
【0019】
カルシウム塩が水溶性となる酸のアルカリ金属塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩等が挙げられ、アルカリ土類金属塩としては、カルシウム塩、マグネシウム塩等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0020】
本発明の水硬性モルタル組成物中における成分(D)の配合量は、(A)セメントと(B)非晶質アルミノ珪酸塩微粉末の合計100重量部に対し、0.05〜5重量部、特に0.1〜4重量部が好ましい。0.05重量部未満ではセメントと非晶質アルミノ珪酸塩との反応を促進する効果はほとんど得られず、5重量部を超えるとセメントの硬化促進効果が強すぎ、施工可能時間が著しく短縮するため好ましくない。
【0021】
〔(E)細骨材〕
(E)細骨材としては、川砂、山砂、砕砂等の珪砂;スラグ細骨材;石灰石砂等が挙げられるが、磨耗に対する抵抗性の観点から珪砂、スラグ骨材が好ましい。また、その性状を安定化するためには粒度調整された細骨材を使用するのが好ましい。本発明の水硬性モルタル組成物中における(E)細骨材の配合量は、(A)セメントと(B)非晶質アルミノ珪酸塩微粉末の合計100重量部に対し、80〜400重量部、特に100〜300重量部が好ましい。
【0022】
〔その他任意成分〕
本発明の水硬性モルタル組成物には、以上の構成要素のほか、通常セメント組成物に対して使用される各種混和材、添加剤を含有することが可能である。例えば、各種スラグ粉末;フライアッシュ、シリカフューム等のポゾラン物質;硬化促進剤、硬化遅延剤;増粘剤、保水剤;撥水剤;防錆剤、防凍剤;繊維等を含有することが出来る。
【0023】
〔施工方法・硬化体〕
本発明の水硬性モルタル組成物を用いて施工を行うには、常法に従って、本発明の水硬性モルタル組成物を水及び/又はポリマーディスパージョンと混練し、硬化させればよい。ここで、得られた硬化体には、更に耐摩耗性を向上させるため、成分(F)として、珪酸アルカリ金属塩水溶液及び/又はコロイダルシリカを含浸させることが好ましい。
【0024】
成分(F)のうち、珪酸アルカリ金属塩水溶液としては、珪酸リチウム、珪酸ナトリウム、珪酸カリウム等の水溶液が挙げられる。
【0025】
成分(F)のうち、コロイダルシリカとしては、酸性若しくはアルカリ性の水分散液、又はアルコール、ケトン、エステル等の有機溶媒分散液が使用可能である。コロイダルシリカのシリカ粒子の大きさは限定されないが、平均粒子径が1〜50nm、特に5〜30nmであることが好ましい。粒子径が小さすぎると非常に高価となり、大きすぎると溶媒中で安定して分散させることが困難となり、また硬化した水硬性モルタル組成物との反応性が悪く、十分な効果が得られない。
【0026】
珪酸アルカリ金属塩水溶液又はコロイダルシリカの固形分濃度は限定されないが、5〜40重量%が好ましい。溶液の固形分が少ないと十分な効果が得られず、多すぎると硬化した水硬性モルタル組成物への浸透性が悪くなる。
【0027】
(F)珪酸アルカリ金属塩水溶液及び/又はコロイダルシリカの塗布量は、水硬性モルタル組成物の硬化面の面積に対し、固形分換算で10〜500g/m2 、特に20〜300g/m2が好ましい。10g/m2未満では十分な効果が得られず、500g/m2を超えても、硬化した水硬性モルタル組成物に全てを含浸することが出来ない。
【0028】
成分(F)の硬化体への含浸は、ローラー、刷毛等による塗布、噴霧などにより行う。硬化体への塗布のタイミングは、水硬性モルタル組成物混練物の硬化後であればよいが、施工後1ヶ月以内がより効果的である。
【実施例】
【0029】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0030】
実施例1〜5及び比較例1〜5
下記材料を用い、表1及び表2に示す水硬性モルタル組成物を調製し、各種試験を行った。この結果を表1及び表2に併せて示す。
【0031】
<使用材料>
・(A) セメント:
普通ポルトランドセメント(太平洋セメント社製)
・(B) 非晶質アルミノ珪酸塩:
MetaMax HRM(メタカオリン,平均粒子径2μm,Engelhard社製)
・(C) アクリル酸系モノマーを構成要素として有するポリマーディスパージョン又は再乳化形粉末樹脂:
ポリトロンA-1500(アクリル・スチレン共重合体系エマルション,旭化成ケミカルズ社製)
Mowinyl-Powder LDM 7000P(オールアクリル重合体系粉末,ニチゴー・モビニール社製)
Mowinyl LDM 6880(アクリル・スチレン共重合体系エマルション,ニチゴー・モビニール社製)
・(D) そのカルシウム塩が水溶性となる酸のアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩:
セルベスト・アクセラレーター(ギ酸カルシウム,ニチゴー・モビニール社製)
ギ酸ナトリウム(1級試薬,関東化学社製)
CANI30(亜硝酸カルシウム30重量%水溶液,日産化学社製)
LINI40(亜硝酸リチウム,日産化学社製)
・(E) 細骨材:
三河産珪砂FM1.8
エコスター(電気炉酸化水冷スラグ,星野産商社製)FM1.8に粒度調整
・消泡剤:
AGITAN P801(MUNZING CHEMIE GMBH社製)
・減水剤:
マイティ21P(花王社製)
・(F) 珪酸アルカリ金属塩水溶液又はコロイダルシリカ:
J珪酸ソーダ1号(日本化学工業社製)
珪酸リチウム35(日本化学工業社製)
ルドックスAM(コロイダルシリカ,デュポン社製)
【0032】
<水硬性モルタル組成物の混練方法>
ステンレス製容器に所定量の液体(水及び/又はエマルション)を量りとり、直径150 mmのディスク型回転翼を取り付けた東芝社製ハンドミキサBMV-150Aにて攪拌しながら粉体を投入し、投入終了後120秒間混練した。
【0033】
<(F)珪酸アルカリ金属塩水溶液及び/又はコロイダルシリカの塗布方法>
成分(F)を固形分20重量%となるように水で希釈し、磨耗抵抗性試験体及び付着試験体の表面に、その成形7日後にウールローラーで塗布した(表中の塗布量は20重量%溶液の量)。なお、圧縮強度試験体には塗布していない。
【0034】
<試験方法>
・圧縮強度試験:
JIS A 1171に準じて実施した。材齢28日の圧縮強度40 N/mm2以上を実用的な範囲(○)とし、40 N/mm2未満を圧縮強度不足(×)として評価した。
【0035】
・磨耗抵抗性試験:
塩ビ製型枠を用いて内法直径100 mm、厚さ10 mmに成形し、成形2日後に脱型し、以後20℃相対湿度60%にて養生した。材齢28日にJIS K 7204に準じて、磨耗輪H22、回転数1000回転、60 rpm、荷重9.8 Nにて試験を行った。磨耗量4g以下を良好な範囲(○)とし、4g超を耐摩耗性不足(×)として評価した。
【0036】
・付着強度試験:
コンクリート歩道板(300×300×60 mm)に厚さ10 mmで塗り付け、20℃相対湿度60%で養生した。材齢28日で40×40 mmの方形に、コンクリート歩道板表面に達するまでダイヤモンドカッターにて切込みを入れ、同サイズの鋼製アタッチメントをエポキシ接着剤にて貼り付け、硬化後、建研式接着力試験器にて施工面に対し垂直に引張り、付着強度を測定した。付着強度1.8 N/mm2以上を良好な範囲(○)とし、1.8 N/mm2未満を付着強度不足(×)として評価した。
【0037】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の成分(A)、(B)、(C)、(D)及び(E)
(A) セメント
(B) 粘土鉱物由来の非晶質アルミノ珪酸塩微粉末
(C) アクリル酸系モノマーを構成要素として有するポリマーディスパージョン及び/又は再乳化形粉末樹脂
(D) そのカルシウム塩が水溶性となる酸のアルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩
(E) 細骨材
を含有する水硬性モルタル組成物。
【請求項2】
成分(B)が、メタカオリン粉末である請求項1記載の水硬性モルタル組成物。
【請求項3】
成分(E)が、珪砂及び/又はスラグ骨材である請求項1又は2記載の水硬性モルタル組成物。
【請求項4】
耐摩耗性である請求項1〜3のいずれかに記載の水硬性モルタル組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の水硬性モルタル組成物を、水及び/又はポリマーディスパージョンと混練して硬化させて得られる硬化体。
【請求項6】
請求項5記載の硬化体に、次の成分(F)
(F) 珪酸アルカリ金属塩水溶液及び/又はコロイダルシリカを含浸させてなる硬化体。

【公開番号】特開2009−132558(P2009−132558A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−309566(P2007−309566)
【出願日】平成19年11月30日(2007.11.30)
【出願人】(501173461)太平洋マテリアル株式会社 (307)
【Fターム(参考)】