説明

水硬性組成物および該水硬性組成物を用いたコンクリート

【課題】産業副産物であるフライアッシュ、高炉スラグ粉末の有効利用を図りつつ、これらを主体とし、セメントを使用しなくても高強度コンクリートに相当する強度のコンクリートが得られる水硬性組成物および該水硬性組成物を用いたコンクリートを提供する。
【解決手段】フライアッシュと、高炉スラグ粉末と、石膏と、アルカリ刺激剤としての消石灰とを含む水硬性組成物であって、フライアッシュを20〜40質量%、高炉スラグ粉末を36〜65質量%、石膏を5〜10質量%、消石灰を2〜15質量%含むようにする。さらに、粗骨材と、細骨材と、高性能減水剤と、水/水硬性組成物の質量比が25%以下となる混練水とを混練し、圧縮強度60N/mm2以上の高強度コンクリートとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高強度コンクリートに相当する強度のコンクリートが得られる高炉スラグ粉末とフライアッシュを主体とした水硬性組成物および該水硬性組成物を用いたコンクリートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、コンクリート構造物の高層化・高耐久化が進んでおり、高強度コンクリートの需要は今後一層高まることが予想される。一般にコンクリートに高い強度発現性を付与させるためには、大量のセメントが必要とされている。
【0003】
しかし、大量のセメントを使用した場合、発熱による高い温度上昇が起こり、それに伴う温度ひび割れがコンクリート構造物を劣化させることが懸念されている。
【0004】
また、セメント量の増加に伴い、顕著になる自己収縮によるコンクリート構造体の変形もひび割れや劣化の原因となってしまう。
【0005】
高強度コンクリートに関する先行技術文献としては、例えば、特許文献1には、低発熱性であり熱によるひびわれ防止効果が大きい高炉スラグ微粉末を用いた高強度セメント組成物として、アルカリ刺激剤と高炉スラグ微粉末との合計量100重量部に対し42重量部以上70重量部未満の高炉スラグ微粉末と、高炉スラグ微粉末よりも少なくとも1オーダー細かい超微粉、石膏または石膏とポルトランドセメントからなるアルカリ刺激剤、高性能減水剤を配合した低水セメント比のセメント組成物が記載されている。
【0006】
また、特許文献2には、製造時における炭素排出量原が少なく、圧縮強度が高く、水和発熱量が小さい低環境負荷型高強度コンクリートとして、普通ポルトランドセメントと、pHが4.5以下の産業副産物として発生する無水石膏とを配合し、材齢28日の圧縮強度が60N/mm2以上、炭素排出量の原単位が85kgN/m3以下の高強度コンクリートが記載されている。
【0007】
また、特許文献3には、環境負荷の低減を図りつつ、耐久性にも優れる高強度コンクリートとして、ビーライトを35〜90重量%含有するセメントと、高炉スラグ粉末、フライアッシュ、シリカヒューム、メタカオリンなどのポゾラン質混和材を配合し、水/結合材(セメント+ポゾラン質混和材)比が35%以下で、圧縮強度が60N/mm2以上の高強度コンクリートが記載されている。
【0008】
また、非特許文献1は、本願の発明者等によるものであり、前述のような高強度コンクリートにおける大量のセメントの使用に起因する問題を解決するため、セメントの配合量を20重量%以下に低減し、ポゾラン反応や自硬性を有し、産業副産物であるフライアッシュおよびブレーン値8000cm3/gの高炉スラグ微粉末を主材料とした高強度コンクリートを開発すべく、各種フレッシュ性状試験および圧縮強度試験等を行った。
【0009】
その結果、水硬性組成物の水和(自硬性)およびポゾラン反応の促進を図ることにより、セメント量が少ない、またはセメントを含まないにもかかわらず、高強度コンクリートまたは超高強度コンクリートに相当する強度が得られる水硬性組成物の開発に成功した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平05−238787号公報
【特許文献2】特許第3976452号公報
【特許文献3】特開2001−064066号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】山梨泰斗、藤原浩巳、丸岡正知、鯉渕清:「低セメント型超高強度コンクリートの研究」、第35回土木学会関東支部 技術研究発表会講演概要集、平成20年3月10日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本願の発明者等は、前述の非特許文献1に記載される高強度の低セメント型コンクリートの研究をさらに進め、基本材料となるフライアッシュ、高炉スラグ粉末および刺激剤としての石膏等の配合割合を工夫することで、セメントあるいは他のアルカリ刺激剤の配合量をさらに低下させても、高いコンクリート強度が得られることを発見した。
【0013】
また、環境負荷低減が図れる低品位フライアッシュ(フライアッシュIV種)と、粉末度の小さい比表面積4000cm3/gのコンクリート用高炉スラグ微粉末(JIS A 6206)を用いても同程度の高強度コンクリートが得られることを発見した。
【0014】
すなわち、本発明は、産業廃棄物であるフライアッシュ、高炉スラグ粉末の有効利用を図りつつ、これらを主体とし、高強度コンクリートに相当する強度のコンクリートが得られる水硬性組成物および該水硬性組成物を用いたコンクリートを提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本願の請求項1に係る水硬性組成物は、フライアッシュと、高炉スラグ粉末と、石膏とを含む水硬性組成物であって、前記フライアッシュと前記高炉スラグ粉末を合計で76〜91質量%、前記石膏を5〜10質量%含むことを特徴とするものである。
【0016】
本発明は、産業廃棄物であるフライアッシュおよび高炉スラグ粉末を主体とするものであり、これらのポゾラン活性や潜在水硬性を利用して、水和反応に起因した発熱(水和発熱)を抑え、発熱に伴う温度ひび割れや硬化後の自己収縮に伴うコンクリート構造体の変形によるひび割れ、劣化を抑制するものであるが、同時にセメントを使用しなくても高強度コンクリートに相当する強度の発現を可能とするものである。なお、必要に応じて少量のセメントを使用することを、必ずしも排除するものではない。
【0017】
フライアッシュは、従来からセメント・コンクリートの分野で使用されているフライアッシュが使用できるが、自硬性やポゾラン反応促進の面などからは、フライアッシュ微粉末を用いることが好ましい。ただし、後述するように低品質のフライアッシュによっても高い強度を確保できることを確認しており、そのような低品質のフライアッシュを用いる場合は環境負荷低減型コンクリートの提供という意義もある。
【0018】
高炉スラグ粉末は、石膏、セメント、石灰などの刺激剤により、強度の増進、耐久性の向上に効果を発揮する潜在水硬性(自硬性)を有することが知られているが、本発明では多量のフライアッシュとともに使用することにより、セメントを用いなくてもポゾラン反応や自硬性により、硬化物の高強度化、高耐久性に寄与する。
【0019】
なお、本願でいう高炉スラグ粉末には高炉スラグ微粉末も含まれる。
【0020】
また、これらの作用効果は、JIS規格の比表面積4000cm3/gの低粉末度の高炉スラグ微粉末を用いても得られることを確認している。
【0021】
フライアッシュと高炉スラグ粉末の配合量については、合計で全体の71〜91質量%とし、石膏などの配合量も極力抑え、水和発熱を抑え、発熱に伴う温度ひび割れや硬化後の自己収縮に伴うコンクリート構造体の変形によるひび割れ、劣化を抑制するようにしている。
【0022】
このように、フライアッシュと高炉スラグ粉末を特定の配合割合で併用することにより、ポゾラン反応性や刺激剤による潜在水硬性(自硬性)の効果を最大限に引き出し、セメントを含まなくても高強度のコンクリートを得ることができる。
【0023】
本発明で用いる石膏としては、無水セッコウ、含水セッコウ、半水セッコウ、二水セッコウ、脱硫セッコウ、廃石膏ボード、あるいは廃材中の石膏成分など、特に限定されないが、石膏として無水セッコウを90質量部以上含むものが好ましい。
【0024】
石膏は主として、フライアッシュや高炉スラグ粉末の潜在水硬性(自硬性)を引き出す刺激剤の機能や乾燥収縮の抑制を目的としたものであるが、請求項1において、石膏の配合量を、5〜10質量%としたのは、5質量%より少ないと、刺激剤としての効果が不十分となり、十分な初期強度が得られず、別途、他のアルカリ刺激剤などが必要となるためであり、10質量%より多くなると発熱やひび割れの恐れが高まるためである。
【0025】
なお、請求項1に係る発明において、必要に応じて後述する消石灰等のアルカリ刺激剤を15質量%以下程度加えることができる。その場合のアルカリ刺激剤としては、消石灰以外に各種セメントもしくはセメントクリンカ、その他、水に接することによりカルシウムイオンを溶出するカルシウム系材料、水に接することによりナトリウムイオンを溶出するナトリウム系材料、水に接することによりカリウムイオンを溶出するカリウム系材料、または水に接することによりリチウムイオンを溶出するリチウム系材料などが挙げられる。
【0026】
本願の請求項2に係る水硬性組成物は、フライアッシュと、高炉スラグ粉末と、アルカリ刺激剤としての消石灰とを含む水硬性組成物であって、前記フライアッシュと前記高炉スラグ粉末を合計で76〜87質量%、前記消石灰を4〜15質量%含むことを特徴とするものである。
【0027】
フライアッシュおよび高炉スラグ粉末の機能や作用は、請求項1において説明した通りである。請求項1と請求項2でこれらの合計量が若干異なるのは、それぞれにおける石膏と消石灰の好ましい配合量の差によるものである。
【0028】
消石灰は主として、フライアッシュのポゾラン反応を促進させ、アルカリ刺激剤として、高炉スラグ粉末の潜在水硬性(自硬性)を引き出すことを目的としたものである。
【0029】
請求項2において、消石灰の配合量を、2〜15質量%としたのは、2質量%より少ないと、強度発現が不十分となる場合があり、高強度コンクリートとしての十分な強度が得られなくなる恐れがあるためであり、15質量%より多くなると混練性が低下し、多量の高性能減水剤を必要とするとともに、強度発現が悪くなるためである。
【0030】
なお、請求項2に係る発明においても、前述の消石灰以外のアルカリ刺激剤等を適宜加えることができる。
【0031】
本願の請求項3に係る水硬性組成物は、フライアッシュと、高炉スラグ粉末と、石膏と、アルカリ刺激剤としての消石灰とを含む水硬性組成物であって、前記フライアッシュを20〜40質量%、前記高炉スラグ粉末を36〜65質量%、前記石膏を5〜10質量%、前記消石灰を2〜15質量%含むことを特徴とするものである。
【0032】
請求項1がフライアッシュと、高炉スラグ粉末と、刺激剤としての石膏を必須の成分とし、請求項2がフライアッシュと、高炉スラグ粉末と、アルカリ刺激剤としての消石灰を必須の成分としているのに対し、請求項3はフライアッシュと高炉スラグ粉末に加え、石膏と消石灰の両者を必須の成分とした場合である。
【0033】
後述するモルタル実験およびコンクリート実験の結果からは、請求項3の組み合わせにおいて、養生方法の違いや配合の違いに対して、安定した高い圧縮強度が得られでおり、混練性や経済性の面からも最適な範囲と考えられる。
【0034】
フライアッシュは、特にポゾラン反応による長期強度の増大が期待できるが、20質量%より少ないと、作業性が悪くなるとともに、フライアッシュの大量処理が図れなくなる。また、40質量%より多くなると、特に低品質のフライアッシュの場合、混練性が低下し、高性能減水剤等を多量に使用しなければならなくなるとともに初期強度発現が悪くなる。ただし、低品質のフライアッシュを使用した場合でも、養生方法等を工夫することによって、高強度のコンクリートが得られる。
【0035】
高炉スラグ粉末は、36質量%より少ないと、特に初期強度が小さくなる傾向がある。請求項3における高炉スラグ粉末の配合量の上限は前述したフライアッシュ、石膏、消石灰の最適量との相対関係から求めたものであるが、概して、高炉スラグ粉末の量が多すぎると、作業性が悪くなったり、耐久性が悪くなったりしやすい。
【0036】
請求項4は、請求項2または3記載の水硬性組成物において、前記消石灰が、ブレーン比表面積40m2/g以上の消石灰である場合を限定したものである。
【0037】
アルカリ刺激剤として、消石灰を用いる場合については、高純度、超微粉の方が好ましく、ブレーン比表面積40m2/g以上の消石灰を使用することで、刺激剤としての効果が高くなるとともに、ポゾラン反応の促進も図れる。
【0038】
ブレーン比表面積40m2/g以上のの消石灰としては、例えば多孔性高比表面積消石灰等の排ガス中の酸性物質除去に用いるものが知られているが(例えば、特開2003−026421号公報、特開2003−081631号公報等参照)、これらを流用すれば良い。市販のものとしては、例えば、奥多摩工業株式会社の商品名「タマカルクスポンジアカル」などが挙げられる。
【0039】
請求項5は、請求項1〜4の何れかに記載の水硬性組成物と、粗骨材と、細骨材と、高性能減水剤と、水/水硬性組成物の重量比が25%以下となる混練水とを混練してなることを特徴とするものである。
【0040】
請求項1〜4に係る水硬性組成物は、セメントを用いなくても高強度コンクリートに相当する強度のコンクリートを実現するものであるが、その場合の水/水硬性組成物の重量比は25%以下とすることで、高強度コンクリート以上の強度、耐久性が得られる。
【0041】
さらに好ましくは、水/水硬性組成物の重量比が20%以下となるようにする。ただし、水量が減少するにつれ、硬練りとなり、練り混ぜ性やワーカビリティーに関連する流動性の低下が問題となり、高性能減水剤の必要量等も増すことになる。
【0042】
水/水硬性組成物の重量比の下限の考え方の一つは、練り混ぜが可能であるかであり、また高性能減水剤の必要量との関係もあり、これらが問題とならない範囲であればよい。
【0043】
なお、粗骨材、細骨材、高性能減水剤等は、基本的に一般の高強度コンクリートの場合と同様の材料と配合を用いることができる。また、コンクリートの硬化組織をより緻密化するため、消泡剤を用いることは好ましい。消泡剤の種類は特に限定されず、従来からコンクリートに用いられているものでよい。
【0044】
請求項6は、請求項5記載のコンクリートにおいて、前記コンクリートが、圧縮強度60N/mm2以上の強度を発現する高強度コンクリートであることを特徴とするものである。
【0045】
例えば、請求項1〜4のいずれかに示す水硬性組成物を用い、水/水硬性組成物の重量比20%程度、砂/水硬性組成物の重量比32%程度、スランプフロー600〜700mm、空気量2%以下のコンクリートにすれば容易に得られる。養生方法は通常のコンクリート養生方法でよいが、加温養生の方が強度は出やすい。
【0046】
本願発明の水硬性組成物の製造方法は従来の方法で行えばよい。プレミックスタイプにすることも、現場調合タイプにすることも可能である。
【0047】
本願発明の水硬性組成物は高強度コンクリート等の高強度水硬製品の他、耐酸材料、低熱材料、低アルカリ材料、中性固化材等への適用も可能である。使用方法は従来のセメント材料と同様である。
【0048】
本願発明の水硬性組成物による水和メカニズムは、通常のセメントによる水和メカニズムと異なり、高炉スラグ粉末と少量の刺激剤による水硬反応とフライアッシュとカルシウム分によるポゾラン反応が大きく関与するので得られる水和生成物もC−S−Hが多く、CH(水酸化カルシウム)は少ない。
【0049】
そのため、これを用いたものは低熱、低PHで高耐久・高強度となるので、高アルカリ、酸に弱いといったセメントの欠点を改善した新たな水硬性結合材としての意義は大きい。また、セメントを全く用いなくても、フライアッシュや高炉スラグ粉末の自硬性とポゾラン反応を利用することにより、高強度のコンクリートが得られる。
【発明の効果】
【0050】
本発明によれば、高炉スラグ粉末とフライアッシュを主体とし、これに適量の刺激剤を加えることで、セメントに代わる水硬性組成物が得られ、これを結合材として用いることにより、セメントを使用しなくても、セメントを使用した高強度コンクリートに相当する強度を有するコンクリートが製造可能である。
【0051】
また、従来、高強度コンクリートの製造のために大量のセメントを使用した場合に問題となっていた、発熱による温度ひび割れの問題や、自己収縮に起因するコンクリート構造体の変形、ひび割れ、劣化の問題の解消が期待できる。
【0052】
また、オートクレーブ養生、その他、特殊な養生を行なわなくてもよく、従来のコンクリートと同様、一般的な養生や製造方法で、高強度コンクリートの製造が可能であるとともに、産業副産物であるフライアッシュ、高炉スラグの有効利用が図れる。特に、低粉末度の高炉スラグ粉末や低品質のフライアッシュの使用も可能なので、材料の選択の範囲が広げられるとともに、これらを用いることによって、環境負荷低減型のコンクリートが得られる。
【発明を実施するための形態】
【0053】
以下、本発明の実施形態として、本発明の水硬性組成物の配合を決めるためのモルタル実験、およびコンクリートでの性能確認試験を、その試験方法および試験結果とともに説明する。
【実施例1】
【0054】
〔モルタル実験〕
本発明の水硬性組成物の主たる使用対象はコンクリートであるが、本発明の目的にかなう水硬性組成物のおよその配合を決定するため、まずモルタル実験を行なった。
【0055】
(1) 使用材料
使用材料を表1に示す。
【0056】
結合材(水硬性組成物を構成する結合材)はPと表記する。
【0057】
【表1】

【0058】
これらの試験では、ポゾラン物質でありシリカ・アルミナ源として低品質のフライアッシュIV種(FAと表記する)、潜在水硬性を有するJIS規格でのブレーン値4000cm2/gの高炉スラグ微粉末(BSと表記する)、および石膏として無水セッコウ(AGと表記する)を用い、さらにアルカリ刺激剤として多孔性高比表面積消石灰(TKと表記する)を用いた。
【0059】
その他、高性能AE減水剤(SPと表記する)、消泡剤(DFと表記する)等を用いた。
【0060】
(2) 配合条件および結合材の粉体構成(配合)
試験における配合条件は、水粉体比W/P=20%、砂粉体比S/P=32%とした。さらに、高性能減水剤の添加率はスランプフロー値が目標値250±50mmとなるように調整し、消泡剤の添加率は空気量が目標値2.0%以下となるように調整した。
【0061】
結合材の各粉体組成を表2に示す。
【0062】
表2において、No.1を基本配合と、No.2〜No.7ではフライアッシュ及び高炉スラグ微粉末の混和率を変化させ、No.8、No.9では無水セッコウの混和率を変化させ、No.10〜No.15では消石灰の混和率を変化させて比較を行った。
【0063】
【表2】

【0064】
配合No.1の示方配合を表3に示す。
【0065】
【表3】

【0066】
(3) 練混ぜ方法
モルタルの練混ぜには、公称容量10リットルのオムニミキサーを用い、1バッチあたりの混練量を5リットルとした。練混ぜ時間は、目視及び触診にて流動状態を確認しながら適宜調整した。
【0067】
練混ぜ方法は、まず、粉体と細骨材を投入し空練りを1分間行う。ミキサーを停止し、掻き落とし後、水と減水剤を投入する。水粉体比(水:W、粉体:FA+BS+AG+TK)を20%と低く設定しているため、モルタル形成を流動状況から判断し、練混ぜ時間を調整した。目標の流動性を有するモルタルが形成された後に消泡剤を投入し、さらに3分間練混ぜを行った。
【0068】
(4) フレッシュ性状に関する実験方法
a)練混ぜ時間測定
目標の流動性を有するモルタルが形成されるまでの時間を測定し、混練性の評価を行った。混練性とは、モルタルの形成しやすさの指標とする。
【0069】
b)モルタルフロー試験
モルタルフロー試験は、「JIS R 5201-1997 セメントの物理試験方法」に準じて行った。
【0070】
具体的には、練混ぜたモルタルを乾燥した布でよくぬぐったフローテーブル上の中央の位置に正しく置いたフローコーンに2層に分けて詰める。各層は、突き棒の先端がその層の約1/2の深さまで入るよう、全面にわたって各々15回突き、最後に不足分を補い表面をならす。
【0071】
その後、直ちにフローコーンを正しく上方に取り去り、モルタルが広がった後の径を、最大と認める方向とこれに直角な方向とで測定し、その平均値をモルタルフロー値とした。
【0072】
c)空気量試験
空気量試験は、「JIS A 1116-1998 フレッシュコンクリートの単位体積質量試験方法及び空気量の質量による試験方法(質量法)」に準じて行った。
【0073】
d)温度測定
アルコール棒温度計を使用し、練混ぜ終了時にモルタルの温度を測定した。
【0074】
(5) 硬化性状に関する実験方法(圧縮強度試験)
「JSCE-G 505-1999 円柱供試体を用いたモルタルまたはセメントペーストの圧縮強度試験方法」に準拠して行った。
【0075】
養生は気中養生、20℃水中養生および60℃温水養生とした。ここで60℃温水養生とは促進養生であり、モルタルの水和反応を促進し、早期にモルタルのポテンシャル強度を引き出すために行った。
【0076】
また、材齢は気中養生については材齢1日、20℃水中養生については材齢3日、7日、28日、60℃温水養生については材齢7日において圧縮強度試験を行った。
【0077】
供試体は1配合につき各養生条件で3本ずつ作成した。成形後は1日で脱型し、所定の期間各条件で養生し、その後圧縮強度試験を行った。
【0078】
(6) フレッシュ性状試験の実験結果
フレッシュ性状試験の実験結果を表4に示す。
【0079】
【表4】

【0080】
No.1〜No.7について、フライアッシュの混和率による練混ぜ時間の比較を行うと、フライアッシュの混和率の増加に伴い、練混ぜ時間が長時間化する傾向が認められた。特に、フライアッシュ混和率が60%のNo.7では、練混ぜ時間が大幅に長くなった。
【0081】
ここで、本実験で用いた低品質なフライアッシュは球形率が低いため、充填率が高品質なフライアッシュと比べ小さくなる。したがって、低品質なフライアッシュは空隙率が高いため、その混和率を増加させた場合、粒子間に拘束される水量が増加し、その分自由水量が減少するため、流動性が低下したと考えられる。
【0082】
また、No.1、No.8、No.9より、無水セッコウの混和率による練混ぜ時間の比較では、顕著な傾向は認められなかった。したがって、無水セッコウの混和率が混練性に及ぼす影響は小さいと考えられる。
【0083】
さらに、No.10〜No.15より、消石灰の混和率による練混ぜ時間の比較を行うと、消石灰の混和率の増加に伴い、練混ぜ時間が短縮される傾向が認められた。
【0084】
これは、超微粒子である消石灰を減少させることで粉体全体の粒度分布がナローになるため、強いダイラタント性状を示したことが原因であると考えられる。それにより、ミキサーによる外的な力が加わった際の流動性が低下したため、コンクリートの混練性が悪化したものと推察される。
【0085】
No.1〜No.7について、フライアッシュの混和率による必要SP添加率の比較を行うと、フライアッシュの混和率の増加と伴い、目標モルタルフロー値を得るための必要SP添加率が増加する傾向が認められた。
【0086】
一般に低品質なフライアッシュは球形率が低いため、充填率が高品質なフライアッシュと比べ小さくなる。したがって、低品質なフライアッシュは空隙率が高いため、その混和率を増加させた場合、粒子間に拘束される水量が増加し、その分自由水量が減少するため、流動性が低下したと考えられる。
【0087】
また、No.1、No.8、No.9より、無水セッコウの混和率による必要SP添加率の比較では、顕著な傾向は認められなかった。したがって、無水セッコウの混和率が流動性に及ぼす影響は小さいと考えられる。
【0088】
さらに、No.10〜No.15より、消石灰の混和率による必要SP添加率の比較を行うと、消石灰の混和率の増加に伴い、目標モルタルフロー値を得るための必要SP添加率が大幅に増加する傾向が認められた。これは、本試験で用いた多孔性高比表面積は粒子が非常に微細、かつ多孔質であることが原因であると考えられる。
【0089】
(7) 硬化性状試験の実験結果
表5に各配合における圧縮強度試験結果を示す。
【0090】
【表5】

【0091】
No.1〜No.7について、フライアッシュの混和率における比較を行うと、フライアッシュの混和率の減少とともに強度が低下する傾向が認められた。
【0092】
No.1、No.8、No.9より、無水セッコウの混和率における比較を行うと、No.1、No.8で高い圧縮強度が得られた。したがって、無水セッコウ混和率は5%以上が好ましいと考えられる。
【0093】
No.10〜No.15より、消石灰の混和率における比較を行うと、消石灰の混和率が10%で圧縮強度が最大値をとる結果となった。したがって、最適消石灰混和率は10%程度であると考えられる。
【0094】
また、以上により、セメントを無混和とした場合でも、20℃水中養生材齢28日で80N/mm2以上の強度発現性が得られることが確認された。
【実施例2】
【0095】
〔コンクリート実験〕
一般的に、セメントモルタルの場合は、モルタル強度が高ければ、同様の結合材を用いた場合、コンクリートも高強度となることが十分予想できるが、本発明の水硬性組成物は、セメントを使用した従来の水硬性組成物とは異なるので、さらに前述のモルタル実験の結果をもとに水硬性組成物の配合を変えて、コンクリートでの性能確認実験を行なった。
【0096】
(1) 使用材料
使用材料を表6に示す。
【0097】
【表6】

【0098】
使用材料、試験項目等は、モルタル実験の場合とほぼ同じである。粗骨材としては、大月市初狩町産砕石を用いた。
【0099】
(2) 配合条件及び結合材の粉体組成(配合)
配合条件は、水粉体比W/P=20%、砂粉体比S/P=32%、粗骨材絶対容積割合Xv=37.5%とした。さらに、高性能減水剤の添加率はスランプフロー値が目標値650±50mmとなるように調整し、消泡剤の添加率は空気量が目標値2.0%以下となるように調整した。
【0100】
結合材の各粉体組成を表7に示す。表7において、No.1〜No.3ではフライアッシュと高炉スラグ微粉末の混和率を変化させ、No.4はNo.1の無水セッコウの混和率を増加させたものとなっている。これらは、モルタル実験により得られた最適配合を踏まえて変化させたものである。
【0101】
【表7】

【0102】
配合No.1の示方配合を表8に示す。No.2〜No.4もこれに準ずる。
【0103】
【表8】

【0104】
(3) 練混ぜ方法
コンクリートの練混ぜには、公称容量100リットルの二軸ミキサーを使用し、1バッチあたり75リットルとした。練混ぜ時間は、目視及び触診にて流動状態を確認しながら適宜調整した。
【0105】
練混ぜ方法は、まず、粉体と細骨材を投入し空練りを1分間行う。ミキサーを停止し、掻き落とし後、水と減水剤を投入する。水粉体比を20%と極端に低く設定しているため、モルタル形成を流動状況から判断し、練混ぜ時間を調整した。目標の流動性を有するモルタルが形成された後、消泡剤を投入し、1分間練り混ぜを行い、粗骨材を投入し3分間練混ぜた。
【0106】
(4) フレッシュ性状に関する実験方法
a)練混ぜ時間測定
目標の流動性を有するモルタルが形成されるまでの時間を測定し、混練性の評価を行った。ここで、混練性とは、コンクリートの形成しやすさの指標とする。
【0107】
b)スランプフロー試験
スランプフロー試験は、「JIS A 1150-2001 コンクリートのスランプフロー試験方法」に準じて行った。平板は十分な水密性及び剛性を有する鋼製のものとし、その大きさが0.8m×0.8m以上で、表面が平滑なものとする。
【0108】
スランプコーンに詰めたコンクリートの上面をスランプコーンの上端に合わせながらならした後、直ちにスランプコーンを鉛直方向に連続して引き上げ、コンクリートの動きが止まった後に、広がりが最大と思われる直径と、その直交する位置の直径を測り、両直径の平均値をスランプフロー値とした。
【0109】
c)空気量試験
空気量試験は「JIS A 1128-1999 フレッシュコンクリート量の圧力による試験方法(空気室圧力法)」に準じて行った。
【0110】
d)温度測定
アルコール棒温度計を使用し、練混ぜ終了時にモルタルの温度を測定した。
【0111】
(5) 硬化性状に関する実験方法(圧縮強度試験)
圧縮強度試験は、「JIS A 1108-1999 コンクリートの圧縮強度試験方法」に準じて行った。
【0112】
養生は気中養生、20℃水中養生、簡易断熱養生とした。
【0113】
また、材齢は気中養生については材齢1日、20℃水中養生については材齢3日、7日、簡易断熱養生については材齢28日において圧縮強度試験を行った。
【0114】
供試体は1配合につき各養生条件で3本ずつ作成した。簡易断熱養生以外の供試体は、成形後1日で脱型し、所定の期間各条件で養生し、その後圧縮強度試験を行った。
【0115】
(6) フレッシュ性状試験の実験結果
フレッシュ性状試験の実験結果を表9に示す。
【0116】
【表9】

【0117】
表9より、本発明のコンクリートは、従来市販の高強度用特殊セメント(株式会社デイ・シイ製VKC100SFに比べ練混ぜ時間が長時間化する傾向が認められた。これは、刺激剤かつポゾラン反応の活性化を図る目的で混和した消石灰が多孔質であるため空隙率が増加し、水分を拘束してしまい、混練に必要な自由水が減少したことが原因であると考えられる。さらに、消石灰粒子は微小であるため、粒子間引力が大きく、凝集フロックを生じやすいことも影響していると考えられる。
【0118】
表9より、フライアッシュの混和率による練混ぜ時間の比較を行うと、フライアッシュの混和率の増加に伴い、練混ぜ時間が長時間化する傾向が認められた。一般に低品質なフライアッシュは球形率が低いため、充填率が高品質なフライアッシュと比べ小さくなる。したがって、低品質なフライアッシュは空隙率が高いため、その混和率を増加させた場合、粒子間に拘束される水量が増加し、その分自由水量が減少するため、流動性が低下したと考えられる。
【0119】
無水セッコウ混和率による練混ぜ時間の比較では、顕著な傾向は認められなかった。したがって、無水セッコウの混和率が混練性に及ぼす影響は小さいと考えられる。
【0120】
また、表9より、従来市販の高強度用特殊セメントに比べ、目標スランプフロー値を得るための必要SP添加率が若干増加する傾向が認められた。ここで、本実験で用いた高性能減水剤はセメント粒子を界面活性により分散させる機構である。したがって、セメント粒子の存在しないセメント無混和コンクリートにおける界面活性作用は、一般のセメントコンクリートに比べ著しく抑制されるため、目標スランプフロー値を得るための必要SP添加率が大幅に増加したと推察される。
【0121】
また、フライアッシュの混和率による必要SP添加率の比較を行うと、フライアッシュ混和率の増加に伴い、目標スランプフロー値を得るための必要SP添加率が若干増加する傾向が認められた。一般に低品質なフライアッシュは球形率が低いため、充填率が高品質なフライアッシュと比べ小さくなる。したがって、低品質なフライアッシュは空隙率が高いため、その混和率を増加させた場合、粒子間に拘束される水量が増加し、その分自由水量が減少するため、流動性が低下したと考えられる。
【0122】
無水セッコウ混和率による必要SP添加率の比較では、顕著な傾向は認められなかった。したがって、無水セッコウの混和率が流動性に及ぼす影響は小さいと考えられる。
【0123】
(7) 硬化性状試験の実験結果
表10に各配合における圧縮強度試験結果を示す。
【0124】
【表10】

【0125】
表10より、気中養生材齢1日で20N/mm2程度、簡易断熱養生材齢28日で60N/mm2以上の圧縮強度が得られているため、十分な強度発現性を有していると考えられる。
【0126】
フライアッシュの混和率による圧縮強度の比較を行うと、フライアッシュの混和率が20〜40%では、ほぼ同等の圧縮強度となったが、60%になると圧縮強度が低下する傾向が認められた。
【0127】
これは、本実験で用いたフライアッシュは高炉スラグ微粉末に比べ粉末度が低いため、フライアッシュ混和率が増加することで全粉体における粉末度が高くなり、硬化体組織を緻密化させたことが原因であると考えられる。また、既往の研究より、フライアッシュの多量混和はコンクリートの初期強度を低下させるという結果も報告されており、フライアッシュの若材齢における強度発現性への寄与は小さいことも原因として挙げられる。
【0128】
また、無水セッコウの混和率による圧縮強度の比較を行うと、無水セッコウ混和率の増加に伴い、圧縮強度は増進する傾向が認められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フライアッシュと、高炉スラグ粉末と、石膏とを含む水硬性組成物であって、前記フライアッシュと前記高炉スラグ粉末を合計で71〜91質量%、前記石膏を5〜10質量%含むことを特徴とする水硬性組成物。
【請求項2】
フライアッシュと、高炉スラグ粉末と、アルカリ刺激剤としての消石灰とを含む水硬性組成物であって、前記フライアッシュと前記高炉スラグ粉末を合計で76〜87質量%、前記消石灰を2〜15質量%含むことを特徴とする水硬性組成物。
【請求項3】
フライアッシュと、高炉スラグ粉末と、石膏と、アルカリ刺激剤としての消石灰とを含む水硬性組成物であって、前記フライアッシュを20〜40質量%、前記高炉スラグ粉末を36〜65質量%、前記石膏を5〜10質量%、前記消石灰を2〜15質量%含むことを特徴とする水硬性組成物。
【請求項4】
請求項2または3記載の水硬性組成物において、前記消石灰が、ブレーン比表面積40m2/g以上の消石灰であることを特徴とする水硬性組成物。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載の水硬性組成物と、粗骨材と、細骨材と、高性能減水剤と、水/水硬性組成物の質量比が25%以下となる混練水とを混練してなることを特徴とするコンクリート。
【請求項6】
請求項5記載のコンクリートにおいて、前記コンクリートが、圧縮強度60N/mm2以上の強度を発現する高強度コンクリートであることを特徴とするコンクリート。


【公開番号】特開2010−189219(P2010−189219A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−34650(P2009−34650)
【出願日】平成21年2月17日(2009.2.17)
【出願人】(304036743)国立大学法人宇都宮大学 (209)
【出願人】(592037907)株式会社デイ・シイ (36)
【出願人】(504274505)シーカ・テクノロジー・アーゲー (227)
【Fターム(参考)】