説明

水硬性組成物の品質管理方法

【課題】リンとフッ素を含有する原料を使った水硬性組成物の品質管理方法を提供する。
【解決手段】リンとフッ素とを含む原料を使用する水硬性組成物の品質管理方法においては、該水硬性組成物を用いたモルタルの圧縮強さMを、次式(1)を用いて予測することが可能となる。 M=M×(k・A+k・B+k・A・B+100)/100・・・・(1) ただし、Mは材齢に応じた基準モルタルの圧縮強さモルタルの基準圧縮強さ、AはP量(質量%)、Bはフッ素量(質量%)、k,k,kは係数を示す。好ましくは、各係数k,k,kは、次式(2)から(4)で与えられる。k=a×Log(t)+b・・・・(2)、k=a×Log(t)+b・・・・(3)、k=a×Log(t)+b・・・・(4)、ただし、tは材齢(日)、a,a,a,b,b,bは定数を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水硬性組成物の品質管理方法に関し、特にリン及びフッ素を含む下水汚泥、都市ごみや産業廃棄物等を用いて、品質の良好なセメント等の水硬性組成物を製造することを可能とする、水硬性組成物の品質管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、各種産業活動に伴って排出される産業廃棄物、生活圏から排出される下水汚泥及び都市ゴミ等の一般廃棄物の処理・有効利用は、環境保全の観点から重要なテーマとなっている。
従来、下水汚泥は脱水・焼却処分を行った後、また都市ゴミはゴミ処理場の焼却炉により焼却処分された後に、埋立て処分されていたが、最終埋め立て処分場の確保が困難となり、その不足が深刻化するにしたがって、これら廃棄物の有効利用が要望されるようになってきており、各種廃棄物をセメント原料として利用する動きが急速に進行している。
【0003】
しかし、廃棄物中にはフッ素やリンを含有するものが多く存在し、その存在は得られるセメントの特性に好ましくない影響を及ぼすものである。
具体的には、セメント原料にハロゲンが含まれると、セメント製造キルン、プレヒータ等のコーティング増加という製造上の問題が生じ、また、フッ素の含有量などに応じて得られるセメント品質そのものにも悪影響が及ぼされる。
また、セメントを製造するにあたり、廃棄物中に含有されるリン化合物については、クリンカ中のリン含有量が多いほど、セメントの圧縮強度の発現性を低下させることが知られている。
【0004】
この点に鑑み、特開平10−265244号公報(特許文献1)には、五酸化燐(P)含有廃棄物をセメント原料に使用できるようにするため、Pを含有する生活廃棄物及び/又は産業廃棄物を主原料とし、これに石灰質原料、アルミノ珪酸塩原料、鉄原料から選ばれる1種以上の成分を補正原料として用い、下記式;
修正HM=CaO濃度/(SiO濃度−(P濃度/P分子量)×SiO分子量×2+Al濃度−(P濃度/P分子量)×Al分子量+Fe濃度)
修正SM=(SiO濃度−(P濃度/P分子量)×SiO分子量×2)/Al濃度−(P濃度/P分子量)×Al分子量+Fe濃度)
修正IM=(Al濃度−(P濃度/P分子量)×Al分子量)/Fe濃度
で求めた指数の修正HM、修正SM、修正IMを用いて当該原料を調製し、1100〜1600℃で焼成してP含有量を1.0〜4.5重量%のクリンカを製造し、セメント組成物を得る方法が開示されている。
【0005】
また、特開平2000−272939号公報(特許文献2)には、リン含有量の多い廃棄物を含むセメント原料に、Mg添加物を、P含有量が0.3〜2.0重量%(焼成ベース)の時にはMg含有量が1.0〜5.0重量%(焼成ベース)となるように配合して調製された原料を焼成して得られるポルトランドセメントクリンカが開示されている。
【0006】
更に、特開平2002−1348号公報(特許文献3)には、リン酸化合物(P)を含有する下水汚泥及び/又はその焼却灰に、フッ素化合物をP含有量に対してF換算で3〜15重量%添加し、更に必要に応じてカルシウム化合物をP含有量に対してCaO添加量で100〜500重量%となるように添加した後、1000〜1300℃で焼成して水硬性材料を得る方法が記載されている。
【0007】
更にまた、フッ素含有廃棄物のセメント組成物への利用を提案する特開2001−130932号公報(特許文献4)には、フッ素を含有するセメントであって、遊離CaO含有量Y(重量%)とフッ素含有量X(重量%)とが下記の関係式;
(1)0.08≦X≦0.4、(2)0.08≦X≦0.1の領域では、0≦Y≦1.0、(3)0.1<X≦0.2の領域では、0≦Y≦1.4−4X、(4)0.2<X≦0.4の領域では、0≦Y≦0.9−1.5X
を満足するセメントが開示されている。
【0008】
しかし、上記従来の技術は、リンまたはフッ素を単独で存在する場合のセメントの強度低下対策に関する提案であり、リンとフッ素が同時に存在する場合のセメントの強度低下対策は提案、示唆されておらず、リンとフッ素を同時に増量した場合、セメントの強度低下は、リンによる強度低下とフッ素による強度低下の単純な和になるだけではなく、リンとフッ素が相乗的に強度低下を引き起こすものであり、従って、上記従来の方法を適用することはできない。リンとフッ素の含有量が同時に多く含有する材料を用いた場合においても、品質の良好なセメント等の水硬性組成物を製造することができ、廃棄物の有効な利用を図ることが期待されている。
【特許文献1】特開平10−265244号公報
【特許文献2】特開平2000−272939号公報
【特許文献3】特開平2002−1348号公報
【特許文献4】特開2001−130932号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、リンとフッ素とを同時に含有する廃棄物等を原料として用いて得られる、またはリンを単独で含有する廃棄物等とフッ素を単独で含有する廃棄物等とを同時に原料として用いて得られるセメント等の水硬性組成物の強度発現性低下を容易に予測することができ、従って原材料中のリン含有量とフッ素含有量とを相互に関連させて制御した場合には、強度発現性の低下を抑制することを可能とする水硬性組成物の品質管理方法を提供する。
更に本発明の目的は、リンとフッ素とを同時に含有する廃棄物等を原料として用いて得られる、またはリンを単独で含有する廃棄物等とフッ素を単独で含有する廃棄物等とを同時に原料として用いて得られるセメント等の水硬性組成物の予測強度低下に対して、CS量を適切量増加することにより強度を容易に補完することができる、良好な品質を備える水硬性組成物を得るための水硬性組成物の品質管理方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決するため研究した結果、原材料中のリン含有量とフッ素含有量とを相互に関連させて制御した場合に、強度発現性の低下を予測することができ、更には、CS量を適切量増加することにより低下する強度を補完し、水硬性組成物の品質を良好に保持することが可能な品質管理方法を見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
上述の課題を解決するため、請求項1に係る発明は、リンとフッ素とを含む原料を使用する水硬性組成物の品質管理方法において、該水硬性組成物を用いたモルタルの圧縮強さMを、次式(1)を用いて予測することを特徴とする。
M=M×(k・A+k・B+k・A・B+100)/100・・・・(1)
ただし、式中、Mは材齢に応じた基準モルタルの圧縮強さモルタルの基準圧縮強さ、AはP量(質量%)、Bはフッ素量(質量%)、k,k,kは係数を示す。
【0012】
また、請求項2に係る発明は、請求項1に記載の水硬性組成物の品質管理方法において、各係数k,k,kは、次式(2)から(4)で与えられることを特徴とする。
=a×Log(t)+b・・・・(2)
=a×Log(t)+b・・・・(3)
=a×Log(t)+b・・・・(4)
ただし、式中、tは材齢(日)、a,a,a,b,b,bは定数を示す。
【0013】
さらに、請求項3に係る発明は、請求項2に記載の水硬性組成物の品質管理方法において、定数a,a,a,b,b,bは、リンとフッ素とを含む原料を使用した水硬性組成物に係るモルタルの圧縮強さの測定結果から算出することを特徴とする。
【0014】
また、請求項4に係る発明は、請求項1乃至3のいずれかの項記載の水硬性組成物の品質管理方法において、目標とするモルタルの圧縮強さMを得るために、次式(5)を用いて、遊離CaOを考慮する補正CS量の増加必要量ΔCを設定することを特徴とする。
−M=p×ΔC・・・・(5)
ただし、式中、Mは式(1)で算出されるモルタルの圧縮強さ、pは、材齢(日)に応じて設定される定数を示す。
補正CS量とは、クリンカを焼成した際に残る、反応しなかった遊離CaO(フリーライム)を考慮して、焼成後のクリンカ中の実際のCS量を算出したものである。補正CS量の増加必要量とは、式(1)で算出したモルタルの圧縮強さMが、目標とする圧縮強さMとなるために必要な補正CS量の増加量を示す。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に係る発明により、リンとフッ素とを含む原料を使用する水硬性組成物を製造する際に、上記式(1)を利用することにより、モルタルに含有されるP量とフッ素量とにより、容易に圧縮強さが予測できるため、必要な圧縮強さを得る際のリンとフッ素とを含む原料の使用量を予め適切に調整することが可能となる。
これにより、リンとフッ素とを同時に含有する廃棄物等を原料として用いて得られる、またはリンを単独で含有する廃棄物等とフッ素を単独で含有する廃棄物等とを同時に原料として用いて得られるセメント等の水硬性組成物の強度発現性の低下を抑制することができ、良好な品質を備える水硬性組成物を得るための水硬性組成物の品質管理方法を提供することが可能となる。
【0016】
請求項2に係る発明により、上記効果に加えて、上記式(2)から(4)のように、式(1)に用いる係数k,k,kを、材齢(日)を考慮したものとするため、着目した材齢におけるモルタルの圧縮強さを予測でき、リンとフッ素とを含む原料の使用量を、より適切に調整することが可能となる。
しかも、請求項3に係る発明のように、上記効果に加えて、上記式(2)から(4)に利用される定数a,a,a,b,b,bは、リンとフッ素とを含む原料を使用した水硬性組成物に係るモルタルの圧縮強さの測定結果から、容易に算出することが可能であるため、式(1)を利用したモルタルの圧縮強さの予測が、極めて簡便に実施することが可能となる。
【0017】
請求項4に係る発明により、上記効果に加えて、リンとフッ素とを含む原料を使用した水硬性組成物の強度発現性の低下を予め予測し、しかも該低下を補うための増加CS量を上記式(5)を用いることにより、容易に予測することが可能となる。
従って、リンとフッ素とを同時に含有する廃棄物等を原料として用いて得られる、またはリンを単独で含有する廃棄物等とフッ素を単独で含有する廃棄物等とを同時に原料として用いて得られるセメント等の水硬性組成物に所望する強度を付与することができるため、品質を高品質に保持することができ、廃棄物の積極的な利用を促進することができるようになる。
更には、廃棄物を有効利用した水硬性組成物を安価に製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の品質管理方法を以下の好適例を用いて説明するが、これらに限定されるものではない。
本発明は、含有されるリン及びフッ素がCSの水和反応性・含有量に影響を及ぼし、モルタルの圧縮強さを低下させており、しかも、これらの2成分のモルタル圧縮強さを低下させる機構には、相互作用があることを見出し、本発明を達成するに至ったものである。
【0019】
本発明に係る水硬性組成物の品質管理方法では、リン及びフッ素の各含有量がモルタルの圧縮強さに及ぼす影響を、モデル式を用いて予測するものである。
モデル式は、リン含有の影響、フッ素含有の影響、リン及びフッ素による相互作用の影響、更には、材齢の影響を考慮して形成されるものである。
【0020】
リン及びフッ素による影響を考慮したモルタルの圧縮強さMは、次式(1)を用いて表現される。
M=M×(k・A+k・B+k・A・B+100)/100・・・・(1)
ただし、Mは材齢に応じた基準モルタルの圧縮強さモルタルの基準圧縮強さ、AはP量(質量%)、Bはフッ素量(質量%)、k,k,kは係数を示す。
式(1)において、括弧内の第1項(k・A)はリン含有の影響を意味し、第2項(k・B)はフッ素含有の影響を示す。さらに第3項(k・A・B)はリン及びフッ素の相互作用の影響を意味し、第4項(100)はリン及びフッ素を含有しない場合(又はリン及びフッ素を含有する廃棄物を利用しない場合)に、モデル式が基準モルタルの圧縮強さモルタルの基準圧縮強さを表すために設けた項である。
【0021】
さらに、材齢の影響を考慮するため、上記式(1)の各係数k,k,kは、次式(2)から(4)で与えられる。
=a×Log(t)+b・・・・(2)
=a×Log(t)+b・・・・(3)
=a×Log(t)+b・・・・(4)
ただし、tは材齢(日)、a,a,a,b,b,bは定数を示す。
【0022】
上記式(1)に式(2)から(4)を代入することにより、リン及びフッ素による影響を考慮したモルタルの圧縮強さMは、材齢に応じた基準モルタルの圧縮強さモルタルの基準圧縮強さMと、定数a,a,a,b,b,bの各数値とが特定されれば、P量(質量%)のA、フッ素量(質量%)のB、及び材齢(日)のtの関数として一義的に決まることとなる。
【0023】
表1に示す基本組成を有するセメントクリンカを粉砕して、モルタルを作製した。
基準モルタルとして、表1に示す基本組成を有するセメントクリンカを粉砕して、モルタルを作製した。また、表2に基準モルタルの圧縮強さMを示す。
原料は、全て試薬を用い、リン源にはリン酸三カルシウム(試薬;和光純薬株式会社製)を、フッ素源にはフッ化カルシウム(試薬;和光純薬株式会社製)を使用して、それぞれP及びFに換算した値を表1に示した。
【0024】
【表1】

【0025】
リン及びフッ素による影響を考慮したモルタルの圧縮強さMは、具体的に以下のようにして求めた。
上記表1に示すクリンカ化学組成を基本として、クリンカ中のリン含有量及びフッ素含有量を、表2のように変化させ、30種類のクリンカを電気炉で作製した。
具体的には、セメントクリンカ中に含まれるリン含有量を0.05、0.2、0.4、0.8、1.2、1.6質量%に、またフッ素含有量を0.05、0.1、0.2、0.4、0.6質量%に変化させて、合計30種類のクリンカを電気炉で作製した。各クリンカと試薬二水石膏(和光純薬株式会社製)を用いて30種類のセメントを試製し、それぞれ所定の材齢(3日、7日、28日、91日)のモルタル圧縮強さを測定した。
なお、リン、フッ素の含有量を増減させる際には、表1中の、リン酸三カルシウム、フッ化カルシウムの含有量を増減させて用い、含有されるCS量を減少させて全体の組成を調整した。
【0026】
各クリンカを製造する際に用いられる各原料を、試験用ボールミルを用いて30分間混合粉砕し、混合粉砕した原料100質量部に対して、水を10質量部添加して混練し、混練物を150×100×20mmの矩形状に成形し、乾燥させた後シリコニット電気炉を用いて、1475℃で1時間焼成し、その後大気急冷して30種類のクリンカを得た(表2)。
【0027】
表2に示す各30種類の組成のクリンカと試薬二水石膏(和光純薬株式会社製)とを用いて、セメント中の当該二水石膏が表1に示すようにSO量で表して2.00質量%となるような量で配合して、粉末度3400cm/gまで混合粉砕して各セメントを試製した。
【0028】
得られた各セメントを用いて、JIS R 5201の「セメントの物理試験方法、(5)強さ試験 (a)圧縮強さ」に準じて、モルタルの圧縮強さを所定材齢(3日、7日、28日、91日)で測定した。
その測定結果を表2及び図1に示す。
【0029】
【表2】

【0030】
表2及び図1を参照すると、材齢3日から28日までは、リン、フッ素の増加に伴ってモルタル圧縮強さは、顕著に低下する傾向にあるが、材齢91日においてはフッ素が0.1%以下の場合において、リンが増加するほどモルタル圧縮強さが増加することが認められた。
【0031】
次に、表2の得られたモルタル圧縮強さの値に関し、表2の基準モルタルの圧縮強さ、並びに表2中のP含有量、フッ素含有量、及び材齢を、上記式(1)(上記式(2)から(4)を代入したもの)にあてはめ、モルタルの基準圧縮強さMおよび定数a,a,a,b,b,bを算出する。
該算出に際しては、最適値を求めるため、最小二乗法によりモルタルの基準圧縮強さおよび各定数を決定した。算出したモルタルの基準圧縮強さを表3に示す。また、算出した各定数は、次のとおりである。
【0032】
【表3】

【0033】
=12.11 ,b=−15.04
=−3.00 ,b=−6.40
=24.77 ,b=−79.30
【0034】
算出した上記定数を上記式(1)に代入して得られるモデル式を基に、リン及びフッ素の含有量に応じて予測した予測モルタルの強さを、表4に示す。
表4と、実際の測定結果(表2)とを対比すると、実測値の予測値からのズレは数%程度以下であり、本モデル式が、モルタルの圧縮強さの予測において、効果的に利用可能であきることが理解される。
【0035】
【表4】

【0036】
表4を参考して、例えば、P(質量%)、F(質量%)の含有量の値に応じた予測モルタル強さ(α)につき、以下に具体的に説明する。
含有されるPが0.4質量%及びFが0.2質量%で材齢が28日の場合、上記定数a,a,a,b,b,b及び材齢t=28を上記式(2)から(4)に代入すると、kは2.48、kは−10.74、kは−43.46であり、表4に示す各係数値が得られる。上記(1)式中にこれらk,k,kの係数値を代入し、表3に示す28日の基準モルタルの圧縮強さモルタルの基準圧縮強さの値61.5N/mmを代入すると、Pを0.4質量%及びFを0.2質量%含有するモルタルの予測モルタル強さは58.7N/mmとなる。
【0037】
同様に含有されるPが0.8質量%及びFが0.4質量%で材齢が7日の場合、kは−4.81、kは−8.935、kは−58.37の係数値を得ることができ、上記式(1)にこれらk,k,kの係数値を代入し、表3に示す7日の基準モルタルの圧縮強さモルタルの基準圧縮強さの値44N/mmを代入すると、Pを0.8質量%及びFを0.4質量%含有するモルタルの予測モルタル強さは32.5N/mmとなる。
【0038】
このようにして、得られた各モルタルに関する上記式(1)のモルタルの予測式中の各係数k1,k2,k3の値、及び当該係数を用いて上記(1)式から得られたモルタルの予測強さ値を表4に示す。
【0039】
表4に示す各モルタルの予測強さの値と、表2に示す実際に測定した各モルタル強さの値を比較すると、Pを0.4質量%及びFを0.2質量%含むモルタルの材齢28日の予測強さの値は表4より58.7N/mmで、実際に測定したモルタル強さの値は表2より60.0N/mmであり、また、Pを0.8質量%及びFを0.4質量%含むモルタルの材齢7日の予測強さの値は表4より32.5N/mmで、実際に測定したモルタル強さの値は表2より32.8N/mmとなり、予測強さの値は、実測値とほぼ同等のモルタル強さの値が得られており、上記モルタル強さのも予測式は、リン及びフッ素を含むモルタル強さを予測するのに、極めて有効であることがわかる。
【0040】
また、上記モルタル強さの予測式(1)から得られた予測モルタル強さと、所定の材齢で所望されるモルタルの圧縮強さとを比較する。例えば、所定の材齢で所望されるモルタルの圧縮強さを強さ予測式で使用する各材齢の基準モルタル強さモルタルの基準圧縮強さと同じ値に設定した場合を考えると、Pを0.4質量%及びFを0.2質量%含むモルタルの材齢28日の予測強さの値(α)は58.7N/mmで、表4に示された所望されるモルタル圧縮強さ(β)61.5N/mmと比較すると、2.8N/mmの強さが低下することがわかる。
また、P含有量が0.8質量%で、Fが0.4質量%の場合には、材齢7日の予測モルタル強さは32.5N/mmで所望されるモルタル強さは44N/mmであり、11.5N/mmの強さが低下することがわかる。
【0041】
所定の材齢で所望されるモルタル強さよりも得られる強さが約3N/mm以上低下する場合には、実際にセメントとして使用することは問題であるので、例えば、Pを0.8質量%及びFを0.2質量%含むモルタル(所定材齢7日で所望されるモルタル強さを有する)の場合、所定の材齢で所望されるモルタル強さと比較して6.6N/mmの強さが低下していることから、モルタル強さの低下を3N/mm以下に抑えるために、Fを0.2質量%含むモルタルを調製するには、使用するセメント組成物におけるP含有原料の使用量を、Pが0.4質量%以下に減少するように原料を調製するか、粉末度を増加させる等の品質管理対応が必要となる。
【0042】
また、P含量を0.8質量%でF含量を0.6質量%含有するモルタル(所定材齢28日で所望されるモルタル強さを有する)の場合には、表4から予測モルタル強さは45.9N/mmまで低下し、所望されるモルタル強さ61.5N/mmと比較して15.6N/mmと大幅に強さが低下する。
このように大幅に強さが低下するセメントは、実際に使用することが問題であるので、Pを含む原料及びFを含む原料の使用量を減らす必要がある等の品質管理対応が必要となることがわかる。
【0043】
次に、リン及びフッ素含有によるモルタルの圧縮強さの低下を補完する方法について説明する。
セメントのモルタル強さは、セメント中のCS(エーライト)量との単相関が高いことが知られており、このことから、目標とするモルタルの圧縮強さMと、焼成前のCS量(質量%)(CMT)との関係は、次式(5)を用いて表すことが可能となる。
=p×(CMT−4.07DMT)+p・・・・(5−1)
ただし、4.07DMTはクリンカを焼成しても反応しなかった遊離CaO量(質量%)(DMT)から算出されるCS量であり、p,pは、材齢(日)毎に設定される定数を示す。特に、本発明では、遊離CaO(フリーライム)も含むCaOから計算されるCS量から4.07×遊離CaO量を差し引いた値、例えば、(CMT−4.07DMT)は、焼成後のクリンカ中の実際のCS量であり、この値を補正CS量と称する。
【0044】
同様に、式(1)の予測モルタルの圧縮強さMについては、CS量(質量%)をC、遊離CaO量(質量%)をDとすると、
M=p×(C−4.07D)+p・・・・(5−2)
で表され、上記式(5−1)及び(5−2)から、所望されるモルタルの圧縮強さMを得るために増加すべき補正CS量(質量%)を算出できる。補正CS量の増加量ΔCは、次式(5)を用いて表される。
−M=p×ΔC・・・・(5)
ただし、ΔC=(CMT−4.07DMT)−(C−4.07D)を意味する。
【0045】
式(5)の左辺は、所望されるモルタルの圧縮強さMと、式(1)から算出されるリン及びフッ素を含有したモルタルの圧縮強さMとの差を示し、不足する圧縮強さの値を示している。
式(5)の右辺のΔCは、低下するモルタルの圧縮強さを補完するために増加すべき補正CS量(質量%)を示している。
【0046】
式(5−1)又は(5−2)に含まれる定数p,pは、実験により設定される数値であり、具体的には、セメントクリンカ中のCS含有量(質量%)(C)を変化させて、複数種類のクリンカを電気炉で作製し、所定の材齢(日)毎に、得られたモルタル圧縮強さ及び遊離CaO量(質量%)(D)を測定し、例えば、上記式(5−1)の左辺及び右辺のCMT,DMTにこれらの値を代入することにより、定数p,pを最小二乗法により得た。
【0047】
実際に、定数p,pを算出するため、セメントクリンカ中のCS含有量を変えて、4種類のクリンカを電気炉で作製し、所定の材齢で得られたモルタル圧縮強さを測定した。
表1に示す基本組成を有するセメントクリンカの基準モルタルのCS含有量を増減させると共に、これに併せて補正CS量を調整した。セメントの作製方法は、上述したリン及びフッ素の含有量を調整する場合と同様に行い、モルタルの圧縮強さもJIS R 5201に基づいて行った。
その測定結果を、表5に示す。
【0048】
【表5】

【0049】
表5の測定結果を利用し、式(5−1)又は(5−2)に各数値を代入することにより、材齢毎に、定数p,pを最小二乗法により算出した。その算出結果を表6に示す。
【0050】
【表6】

【0051】
リン及びフッ素含有によるモルタルの圧縮強さの低下を、CS量の増加により補完するには、上記式(1)及び式(5)を補正CS量の増加量ΔCの方程式として解くことにより、増加量ΔCを算出することが可能である。また、リン及びフッ素を含有するモルタルの予測圧縮強さMを式(1)により算出し、目標となる所望されるモルタルの圧縮強さMと併せて、式(5)に代入することにより、容易に補正CS量の増加量ΔCを算出することができる。このように算出された補正CS量の増加量より、例えば必要な分量の石灰石を原料に加えてCS量を増加する等の対応が可能となる。
表7は、リン及びフッ素の含有量を変化させた場合に、表4に示す所望されるモルタルの圧縮強さ表2に示す基準モルタルの圧縮強さを得るために、必要な補正CS量の増加量を算出したものである。
また、図2は、Pの含有量を0.05〜1.0%、Fの含有量を0.05〜0.3%に調整した場合に、表4に示す所望されるモルタルの圧縮強さ普通セメントの各材齢のモルタル目標圧縮強さを得るために必要な補正CS量の増加量を表した図である。
【0052】
【表7】

【0053】
表7及び図2を見ると、材齢7日までは、リン、フッ素共に増加するほど、所望されるモルタルの圧縮強さ目標圧縮強さを得るために必要な補正CS量の増加量は顕著に増加する。材齢28日においては、フッ素が0.05質量%以下の場合には、Pが0.05〜1質量%までの全領域に渡って、所望されるモルタルの圧縮強さ目標強さを得るために必要な補正CS量を、5質量%以下の範囲で減少させることが可能である。他方、フッ素が0.05質量%以上では、リン、フッ素共に増加するほど、所望されるモルタルの圧縮強さ目標圧縮強さを得るために必要な補正CS量の増加量は顕著に増加する傾向が理解される。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の品質管理方法は、リンとフッ素とを同時に含有する廃棄物等を原料として用いて得られる、またはリンを単独で含有する廃棄物等とフッ素を単独で含有する廃棄物等とを同時に原料として用いて得られるセメント等の水硬性組成物の強度発現性低下を予測することができるため、原材料中のリン含有量とフッ素含有量とを相互に関連させて制御した場合には、強度発現性の低下を抑制することができ、更には、低下した強度をCS量を適切量増加することにより容易に補完することができることとなり、良好な品質を備える水硬性組成物を得ることができるため、廃棄物の有効な利用が推進されることとなる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】リン及びフッ素の含有量を変化させた場合の材齢毎のモルタル圧縮強さを示すグラフである。
【図2】リン及びフッ素によるモルタル圧縮強さの低下を補うCSの増加量を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リンとフッ素とを含む原料を使用する水硬性組成物の品質管理方法において、
該水硬性組成物を用いたモルタルの圧縮強さMを、次式(1)を用いて予測することを特徴とする水硬性組成物の品質管理方法。
M=M×(k・A+k・B+k・A・B+100)/100・・・・(1)
ただし、式中、Mは材齢に応じた基準モルタルの圧縮強さモルタルの基準圧縮強さ、AはP量(質量%)、Bはフッ素量(質量%)、k,k,kは係数を示す。
【請求項2】
請求項1に記載の水硬性組成物の品質管理方法において、各係数k,k,kは、次式(2)から(4)で与えられることを特徴とする水硬性組成物の品質管理方法。
=a×Log(t)+b・・・・(2)
=a×Log(t)+b・・・・(3)
=a×Log(t)+b・・・・(4)
ただし、式中、tは材齢(日)、a,a,a,b,b,bは定数を示す。
【請求項3】
請求項2に記載の水硬性組成物の品質管理方法において、定数a,a,a,b,b,bは、リンとフッ素とを含む原料を使用した水硬性組成物に係るモルタルの圧縮強さの測定結果から算出することを特徴とする水硬性組成物の品質管理方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかの項記載の水硬性組成物の品質管理方法において、更に、目標とするモルタルの圧縮強さMを得るために、次式(5)を用いて、遊離CaO量を考慮する補正CS量の増加必要量ΔCを設定することを特徴とする水硬性組成物の品質管理方法。
−M=p×ΔC・・・・(5)
ただし、式中、Mは式(1)で算出されるモルタルの圧縮強さ、pは、材齢(日)に応じて設定される定数を示す。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−1790(P2006−1790A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−179888(P2004−179888)
【出願日】平成16年6月17日(2004.6.17)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)