説明

水硬性組成物用分散保持剤

【課題】流動保持性及び粘性保持性の両方に優れた水硬性組成物用の分散保持剤、更には水硬性粉末の種類によらず優れた流動保持性及び粘性保持性を発現する分散保持剤を提供する。
【解決手段】一般式(1)で表される特定の単量体1と、対応するアルコール化合物が特定の物性を満たす一般式(2)で表される特定の単量体2とを重合して得られる共重合体からなる水硬性組成物用分散保持剤であって、該共重合体の構成単量体中、単量体1の比率が特定範囲にあり、単量体2の少なくとも一部として特定の単量体が用いられ、且つ酸基又はその中和基を有する単量体の比率が5重量%以下である、水硬性組成物用分散保持剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水硬性組成物用分散保持剤、水硬性組成物用混和剤、及び水硬性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート等の水硬性組成物に対して、流動性を付与するためにナフタレン系、メラミン系、アミノスルホン酸系、ポリカルボン酸系等の混和剤(高性能減水剤等)が用いられている。減水剤等の混和剤については、水硬性組成物に対する流動性の付与、流動性の保持性(流動保持性)、硬化遅延の防止など、種々の性能が求められ、ポリカルボン酸系混和剤についてもこうした観点から改善が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、特定構造のカルボン酸エステル系単量体を重合して得られる重合体をコンクリート流動性低下防止剤として用いて、公知のセメント混和剤と併用することが開示されている。また、特許文献2には、特定のエチレン性不飽和単量体単位とエチレン性不飽和カルボン酸エステル単位とを構造単位として有する共重合体からなるコンクリート混和剤を、高性能減水剤と併用することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−247149号公報
【特許文献2】特開平10−81549号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1、2には、複数の重合体を組み合わせることで水硬性組成物の流動性を維持する技術が開示されているが、セメントの品質によって、その流動保持性能が変動してしまい、期待の性能が得られない事もある。また、流動保持効果を維持しつつ、更に水硬性組成物の粘性を維持する技術も見出されていない。水硬性組成物に用いられる水硬性粉末(セメント等)の種類によらず、流動性の維持効果と粘性の維持効果が発現することが望まれる。
【0006】
本発明の課題は、初期の流動性の付与がなく、水硬性粉末の種類によらず流動保持性に優れた水硬性組成物用の分散保持剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
分散保持剤(粘性維持剤、流動保持剤)は流動保持や粘性維持が効果のみを期待して添加するために、初期流動性を示さない方が流動性や粘性の制御上好ましい。エチレン性不飽和カルボン酸エステル単位を構造単位として有する共重合体は、エステルの加水分解により流動保持性を発現することが出来ると推定されるが、例えば特許文献2(比較品C-18)の様にエチレン性不飽和カルボン酸等も構造単位として有しないと流動保持性が劣ると考えられていた。そして、エチレン性不飽和カルボン酸も構造単位を有する共重合体は初期流動性を発現するので、初期流動性がなく流動保持性を付与することは困難であった。
【0008】
本発明者らは、特定のエチレン性不飽和カルボン酸エステルを構造単位として用いることで、エチレン性不飽和カルボン酸等の構造単位を含有せずに流動保持性の付与を達成し、初期の流動性の付与がなく流動保持性が得られる分散保持剤を完成した。そして、この分散保持剤は、水硬性粉末の種類によらず水硬性組成物に流動保持性を付与できる。
【0009】
すなわち、本発明は、一般式(1)で表される単量体1と一般式(2)で表される単量体2とを含む単量体を重合して得られる共重合体からなる水硬性組成物用分散保持剤であって、
該共重合体の構成単量体中、単量体1の比率が(−0.05×n+28.8)〜(0.12×n+75.4)重量%〔nは一般式(1)中のもの〕であり、単量体1の比率と単量体2の比率の合計が90重量%以上であり、
単量体2の少なくとも一部が、[一般式(2)中のR5に対応するアルコール化合物R5−OHのlogP値/単量体(2)の分子量Mw]<−0.009の関係を満たし、
前記共重合体の構成単量体中、カルボン酸基、リン酸基及びそれらの中和基から選ばれる少なくとも1種を有する単量体の比率が5重量%以下である、
水硬性組成物用分散保持剤に関する。
【0010】
【化1】

【0011】
〔式中、R1〜R3は、それぞれ水素原子又はメチル基を表し、AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基を表し、nはAOの平均付加モル数であり、5〜150の数を表し、R4は水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基、qは0〜2の整数、pは0又は1を表す。〕
【0012】
【化2】

【0013】
〔式中、R5は、炭素数1〜4のヘテロ原子を含んでよい炭化水素基である。〕
【0014】
また、本発明は、上記本発明の水硬性組成物用分散保持剤と、カルボン酸基、リン酸基、スルホン酸基及びそれらの中和基から選ばれる少なくとも1種を有する重合体Aとを含有する水硬性組成物用混和剤に関する。
【0015】
また、本発明は、上記本発明の水硬性組成物用分散保持剤と、カルボン酸基、リン酸基、スルホン酸基及びそれらの中和基から選ばれる少なくとも1種を有する重合体Aと、水硬性粉体と、水とを含有する水硬性組成物に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、初期の流動性の付与がなく、水硬性粉末の種類によらず流動保持性に優れた水硬性組成物用の分散保持剤が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施例において、流動保持性を評価するための面積測定の対象となる図形を示すグラフ
【図2】実施例の評価でペーストの流下時間の測定に用いたロートの概略図
【図3】実施例の評価でモルタル粘度の測定に用いたトルク試験機と記録計の概略図
【図4】実施例の評価でモルタル粘度の算出に用いたポリエチレングリコール(重量平均分子量20、000)によるトルク−粘度の関係式
【図5】実施例1(表3)における共重合体の構成単量体中の単量体1の比率、単量体1のAO平均付加モル数(n)、及び流動保持性の関係を示す図
【発明を実施するための形態】
【0018】
一般に、低粘性の付与を意図した水硬性組成物用の分散剤は、混練直後にセメントへの吸着速度が速く低粘性を発揮するが、経時では流動性が低下する傾向がある。これは、セメントの水和反応に伴ってセメント表面の分散剤がセメント反応物に埋没するのためと推定される。オキシアルキレン基を含むポリカルボン酸系共重合体においては、AOの平均付加モル数nが大きくなると、コンクリートの流動性が大きくなり、粘性も高くなる傾向がある。また、nが小さくなると粘性が低くなり、流動性も小さくなる傾向がある。そのため、本発明では、こうした分散剤の特性を利用しつつ、該分散剤と併用した場合に、流動性を経時に渡って付与できる添加剤として、上記共重合体からなる分散保持剤を提供するものである。本発明の分散保持剤では、単量体として特定のアクリル酸エステルを用いることで、アルカリ性の水硬性組成物中で該エステルの加水分解が進行し、それに伴って共重合体が経時でセメントへの吸着し、流動保持性を発現すると推定される。該単量体を用いることで、用いる水硬性粉体の種類を変えても発現する流動性の変化が少なくすることができる。さらに、該単量体を用いることで、共重合体中、カルボン酸基及びリン酸基から選ばれる酸基又はそれらの中和基を有する単量体を5重量%以下でも流動保持性を得ることが可能となった。更に、分散保持剤による初期流動性発現も抑えることができる。中和基とはカルボン酸基及びリン酸基等の酸基が中和された基のことである。
【0019】
<単量体1>
単量体1は、ポリアルキレングリコールモノエステル系単量体及びポリアルキレングリコールアルキルエーテル系単量体等の不飽和ポリアルキレングリコール系単量体であり、単量体1において、一般式(1)中のAOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基を表し、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、オキシブチレン基からなる群より選ばれる少なくとも1種以上が挙げられ、中でもオキシエチレン基が好ましい。nはAOの平均付加モル数であり、5〜150の数を表し、流動保持性の観点から、好ましくは9〜130、より好ましくは15〜130、さらに好ましくは30〜120、さらにより好ましくは50〜110である。粘性維持の観点では好ましくは5〜60、より好ましくは5〜45、さらに好ましくは6〜30である。R4は水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基であり、流動保持性の観点から好ましくは水素原子又はメチル基であり、より好ましくはメチル基である。
【0020】
単量体1としては、メトキシポリエチレングリコール、メトキシポリエチレンポリプロピレングリコール、エトキシポリエチレングリコール、エトキシポリエチレンポリプロピレングリコール、プロポキシポリエチレングリコール、プロポキシポリエチレンポリプロピレングリコール等の片末端アルキル封鎖ポリアルキレングリコールとアクリル酸又はメタクリル酸とのエステル化物や、アクリル酸又はメタクリル酸へのエチレンオキシド又はプロピレンオキシドの付加物、前記片末端アルキル封鎖ポリアルキレングリコールと(メタ)アルケニルアルコールとのエーテル化物、及びアルケニルアルコールへの炭素数2〜4のアルキレンオキシドの付加物等を用いることができる。具体的には、ω−メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート、ω−メトキシポリエチレングリコールモノアクリレート、ポリオキシエチレンモノアリルエーテル、ω−メトキシポリエチレングリコールモノアリルエーテル、3−メチル−3−ブテン−1−オールのポリオキシエチレンモノアリルエーテル等を挙げることができる。流動保持性の観点から、片末端アルキル封鎖ポリアルキレングリコールとアクリル酸又はメタクリル酸とのエステル化物が好ましく、好ましくはω−メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート、ω−メトキシポリエチレングリコールモノアクリレートが挙げられ、ω−メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレートがより好ましい。
【0021】
<単量体2>
単量体2は、アクリル酸エステル系単量体であり、構造上、アクリル酸とR5−OHで表されるアルコール化合物のエステルとして捉えることができ、R5は、炭素数1〜4、好ましくは2〜3のヘテロ原子を含んでよい炭化水素基である。ヘテロ原子は酸素原子、窒素原子等である。
【0022】
単量体2の少なくとも一部が、R5が炭素数2または3のヘテロ原子を含んでよい炭化水素基であり、R5のβ位にOH基を有する単量体であってもよい。R5のβ位とは、一般式(2)中のR5に対応するアルコール化合物(R5−OH)において、2の位置(OHがR5と結合する炭素原子(α位)に結合する炭素原子(β位))を意味する。R5−OHはR5が炭素数2又は3であり、R5−OHの2位炭素の位置に水酸基を有することが好ましい。
【0023】
本発明では、単量体2の少なくとも一部として、一般式(2)で表される単量体のうち特定の単量体が用いられる。すなわち、単量体2の少なくとも一部として、一般式(2)中のR5が、一般式(2)中のR5に対応するR5−OHのlogP値と、単量体2の分子量Mwとが、[R5−OHのlogP値/単量体(2)の分子量Mw]<−0.009となる化合物(以下、単量体2−1という)が用いられる。また、単量体2−1以外、即ち単量体2のうち[R5−OHのlogP値/単量体(2)の分子量Mw]≧−0.009となる化合物を、単量体2−2という。このような関係を満たすR5−OHとしてエチレングリコール(logP値:−1.369)、グリセリン(logP値:−1.538)等が挙げられる。[R5−OHのlogP値/単量体(2)の分子量Mw]<−0.009を満たす単量体2−1の比率は、水硬性粉末の種類に対する汎用性、さらには流動保持性及び粘性の観点から、単量体2中で30モル%以上が好ましく、50モル%以上がより好ましく、70モル%以上がより好ましく、90モル%以上がさらに好ましく、実質100モル%がさらにより好ましい。
【0024】
単量体2−1としては、一般式(2)のR5が、ヒドロキシエチル基のヒドロキシエチルアクリレート及びグリセロール基のグリセリルアクリレートが挙げられ、[R5−OHのlogP値/単量体(2)の分子量Mw]は、それぞれ、(−1.369/116.1)=−0.0118及び(−1.538/145.1)=−0.0106である。
【0025】
単量体2−1としては、流動性保持の観点からヒドロキシエチルアクリレートが好ましい。また、単量体2−2としては、メチルアクリレート、ヒドロキシブチルアクリレート、メトキシエチルアクリレート等が挙げられる。単量体2は、それぞれ二種以上の単量体を用いてもよい。
【0026】
本発明の分散保持剤となる共重合体においては、単量体2を導入することで、水硬性組成物への添加初期から経時に渡り水硬性組成物の流動性を維持できる。これは、水硬性組成物への添加前には単量体2はアクリル酸のエステル構造を有するため、初期分散性を示さないが、添加後に経時的にエステル結合の加水分解が進行し、カルボン酸型又はカルボン酸塩型になり、前記共重合体が水硬性粉体表面に徐々に吸着し、水硬性粉体の分散を維持することにより、水硬性粉体の水和による粘度上昇を相殺していると推察される。類似する構造であっても、アクリル酸より加水分解しにくいメタクリル酸のエステルやそのアルキレンオキサイド付加物では単量体2のような効果は得られない。
【0027】
また、単量体2−1については、単量体2−1の分子量及び単量体2−1の置換基R5と水酸基OHにより構成されるR5−OHで表される化合物のlogP(水/オクタノール分配係数)(以下、logPは特記しない限り当該化合物のlogPをいう)と、水硬性粉体の分散性の発現速度とに、相関があることを見出した。すなわち、アクリル酸のエステル置換基によって加水分解性が異なり、加水分解性は、水分子のエステルへの求核とアルコールの脱離のステップがあり、それぞれ立体障害の大きさとアルコールの脱離のしやすさが寄与すると考えられた。単量体の分子量が大きい(立体障害が大きい)ほど加水分解率が小さくなり、エステルを構成するアルコール化合物の加水分解基の親水性(logP)の値が小さいほど加水分解率が大きくなる。そこで、logPをアクリル酸エステルの分子量Mwで規格化し、導入した基の効率性(カルボキシル基の生成率)の指標とした。したがって、logP/分子量Mwの値が小さいほど、単量体2−1の加水分解性が大きい。本発明ではこの値が−0.009以下であり、−0.010以下がより好ましく、−0.011以下がさらに好ましい。logPは、CS Chem Draw Ultra(Ver.8.0)(頒布元 ケンブリッジソフト)のソフトウエアを用いてClogP値として得ることができ、例えばWindows(登録商標) XPの稼動するパーソナルコンピュータで前記ソフトウエアを実行できる。
【0028】
従来は、ポリカルボン酸系重合体のAO平均付加モル数がある程度大きくないと立体反発による流動性の寄与がなく、加水分解による吸着基の増加では、経時での流動性の増加は小さいと考えられていた(特許文献2、段落0010)。また、共重合体中のポリカルボン酸等の吸着基は必須と考えられていた。しかし、本発明者は共重合体の構造と流動性や保持性能とを詳細に検討した結果、立体反発ユニット(AO平均付加ユニット)と経時において吸着基となり得る特定のユニット(加水分解ユニット)とのバランスを調整することで、初期の流動性付与がなく流動保持性に優れ、しかもセメント種に対する汎用性の高い分散保持剤を完成した。
【0029】
<共重合体>
本発明の共重合体は、該共重合体の構成単量体中、単量体1の比率が(−0.05×n+28.8)〜(0.12×n+75.4)重量%〔nは一般式(1)中のもの〕であり、単量体1の比率と単量体2の比率の合計が90重量%以上であり、且つカルボン酸基、リン酸基及びそれらの中和基から選ばれる少なくとも1種を有する単量体(以下、単量体3という)の比率が5重量%以下である。この比率は、単量体の仕込み時の比率であってもよい。また、単量体3は、3重量%以下が好ましく、1重量%以下がより好ましく、さらに実質上含有しないことが好ましい。すなわち、構成単量体が単量体1と単量体2であることが好ましい。
【0030】
また、本発明の共重合体には、単量体1〜3以外の共重合可能な単量体を含有することができる。共重合可能な単量体としては、スチレン、メチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート等が挙げられる。
【0031】
単量体1の比率の下限値は、nの値が大きくなると粉体間の反発性が大きくなりAO鎖の吸着鎖の数が少なくても流動保持性を発現するので(−0.05×n+28.8)重量%である。流動保持性の観点から、好ましくは(−0.05×n+30)重量%であり、更に好ましくは(−0.05×n+35)重量%である。単量体1の比率の上限値は、nの値が大きくなると、上記のように吸着基である単量体2が相対的に少なくなっても流動性を発現するので(0.12×n+75.4)重量%、好ましくは(0.12×n+73.4)重量%、更に好ましくは(0.12×n+71.4)重量%である。これらの範囲は、種々の構造について実験を行いその結果から得られたものである。したがって、単量体1の比率は好ましくは(−0.05×n+30)〜(0.12×n+73.4)重量%であり、更に好ましくは(−0.05×n+35)〜(0.12×n+71.4)重量%である。
【0032】
一般式(1)のnが5〜50未満である場合は、単量体1の比率は、該共重合体の構成単量体中、28〜80重量%であってもよく、28〜78重量%が好ましく、30〜75重量%がより好ましく、35〜72重量%が更に好ましい。また、一般式(1)のnが50〜150である場合は、単量体1の比率は、該共重合体の構成単量体中、28〜90重量%であってもよく、33〜80重量%が好ましく、35〜78重量%がより好ましく、40〜75重量%が更に好ましい。
【0033】
本発明は、上記一般式(1)で表される単量体1と上記一般式(2)で表される単量体2とを含む単量体を重合して得られる共重合体からなる水硬性組成物用分散保持剤であって、一般式(1)のnが5以上50未満であり、単量体1の比率が、該共重合体の構成単量体中、28〜80重量%であり、該共重合体の構成単量体中、単量体1の比率と単量体2の比率の合計が90重量%以上であり、単量体2の少なくとも一部が、R5が炭素数2または3のヘテロ原子を含んでよい炭化水素基であり、R5のβ位にOH基を有する単量体であり、前記共重合体の構成単量体中、カルボン酸基、リン酸基及びそれらの中和基から選ばれる少なくとも1種を有する単量体の比率が5重量%以下である、水硬性組成物用分散保持剤を提供する。
【0034】
本発明は、上記一般式(1)で表される単量体1と上記一般式(2)で表される単量体2とを含む単量体を重合して得られる共重合体からなる水硬性組成物用分散保持剤であって、一般式(1)のnが50以上150以下であり、単量体1の比率が、該共重合体の構成単量体中、28〜90重量%であり、該共重合体の構成単量体中、単量体1の比率と単量体2の比率の合計が90重量%以上であり、単量体2の少なくとも一部が、R5が炭素数2または3のヘテロ原子を含んでよい炭化水素基であり、R5のβ位にOH基を有する単量体であり、前記共重合体の構成単量体中、カルボン酸基、リン酸基及びそれらの中和基から選ばれる少なくとも1種を有する単量体の比率が5重量%以下である、水硬性組成物用分散保持剤を提供する。
【0035】
本発明の共重合体は、nの異なる単量体1を2種以上併用することができる。その際は上記単量体1の比率は、nの異なる単量体1の平均値(モル分率による)をnとする(以下同様)。
【0036】
共重合体の全構成単量体中の単量体1と単量体2の合計は、流動保持性の観点から90重量%以上、更に95重量%以上、より更に98重量%以上、実質100重量%が更にが好ましい。
【0037】
また、構成単量体中の単量体2の比率は、流動保持性の観点から好ましくは(0.05×n+70)〜(−0.12×n+26.6)重量%であり、更に好ましくは(0.05×n+65)〜(−0.12×n+28.6)重量%である。
【0038】
単量体1が一般式(1)のnが5〜50未満の単量体である場合は、単量体2の比率は、該共重合体の構成単量体中、20〜72重量%が好ましく、22〜72重量%が更に好ましく、25〜70重量%がより好ましく、28〜65重量%が更に好ましい。また、単量体1が一般式(1)のnが50〜150の単量体である場合は、単量体2の比率は、該共重合体の構成単量体中、20〜67重量%が更に好ましく、20〜65重量%が好ましく、22〜65重量%がより好ましく、25〜60重量%が更に好ましい。
【0039】
単量体1と単量体2の重量比(単量体1/単量体2)は流動保持性の観点から、好ましくは25/75〜95/5、更に好ましくは25/75〜90/10、より好ましくは28/72〜80/20、より好ましくは35/65〜75/25、より更に好ましくは45/55〜65/35である。
【0040】
単量体3は、カルボン酸基、リン酸基及びそれらの中和基から選ばれる少なくとも1種を有する単量体である。これらの弱酸の酸基はセメント等の水硬性粉体への吸着基として機能する。単量体3は、初期流動性を抑制する観点から、共重合体の全構成単量体中5重量%以下であり、好ましくは2.5重量%以下、より好ましくは1.0重量%以下である。
【0041】
なお、単量体3としては、リン酸ジ−〔(2−ヒドロキシエチル)メタクリル酸〕エステル、リン酸ジ−〔(2−ヒドロキシエチル)アクリル酸〕エステル、リン酸モノ(2−ヒドロキシエチル)メタクリル酸エステル、リン酸モノ(2−ヒドロキシエチル)アクリル酸エステル、ポリアルキレレングリコールモノ(メタ)アクリレートアシッドリン酸エステル、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸などのアクリル酸系単量体を挙げることができ、またこれらの何れか1種以上のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、アミン塩や無水マレイン酸などの無水化合物であっても良い。単量体3を用いる場合は、メタクリル酸、アクリル酸、リン酸ジ−〔(2−ヒドロキシエチル)メタクリル酸〕エステル、リン酸モノ(2−ヒドロキシエチル)メタクリル酸エステルが好ましい。
【0042】
更に、その他の単量体として、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸、これら何れかのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、又はアミン塩や、(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N、N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、2−(メタ)アクリルアミド−2−メタスルホン酸、2−(メタ)アクリルアミド−2−エタンスルホン酸、2−(メタ)アクリルアミド−2−プロパンスルホン酸、スチレン、スチレンスルホン酸などの強酸の酸基又はそれらの中和基を有する単量体が挙げられる。これらの単量体を例えば共重合体の分子量の調整等のために共重合してもよい。これらの強酸の酸基は水硬性組成物中で安定な塩として存在しセメント等の水硬性粉体への吸着基としては機能しない。
【0043】
本発明における共重合体は公知の方法で製造することができる。例えば、特開昭62−119147号公報、特開昭62−78137号公報等に記載された溶液重合法が挙げられる。即ち、適当な溶媒中で、上記単量体1及び単量体2を上記の割合で組み合わせて重合させることにより製造される。すなわち、共重合体の重合の際に用いる全単量体中、単量体1の比率を(−0.05×n+28.8)〜(0.12×n+75.4)重量%〔nは一般式(1)中のもの〕、単量体1の比率と単量体2の比率の合計を90重量%以上、且つ単量体3の比率を5重量%以下として重合させる。
【0044】
または、(i)単量体1が一般式(1)のnが5〜50未満の単量体である場合は、単量体1の比率を共重合体の重合の際に用いる全単量体中28〜80重量%、あるいは単量体1が一般式(1)のnが50〜150の単量体である場合は、単量体1の比率を共重合体の重合の際に用いる全単量体中28〜90重量%とし、(ii)単量体1の比率と単量体2の比率の合計を90重量%以上とし、且つ(iii)単量体3の比率を5重量%以下として重合させる。
【0045】
溶液重合法において用いる溶剤としては、水、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、n−ヘキサン、酢酸エチル、アセトン、メチルエチルケトン等が挙げられる。取り扱いと反応設備から考慮すると、水及びメチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコールが好ましい。
【0046】
水系の重合開始剤としては、過硫酸のアンモニウム塩又はアルカリ金属塩あるいは過酸化水素、2、2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジヒドロクロライド、2、2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミド)ジハイドレート等の水溶性アゾ化合物が使用される。水系以外の溶剤を用いる溶液重合にはベンゾイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド等のパーオキシド、アゾビスイソブチロニトリル等の脂肪族アゾ化合物等が用いられる。
【0047】
連鎖移動剤としては、チオール系連鎖移動剤、ハロゲン化炭化水素系連鎖移動剤等が挙げられ、チオール系連鎖移動剤が好ましい。
【0048】
チオール系連鎖移動剤としては、−SH基を有するものが好ましく、特に一般式HS−R−Eg(ただし、式中Rは炭素原子数1〜4の炭化水素由来の基を表し、Eは−OH、−COOM、−COOR’または−SO3M基を表し、Mは水素原子、一価金属、二価金属、アンモニウム基または有機アミン基を表し、R’は炭素原子数1〜10のアルキル基を表わし、gは1〜2の整数を表す。)で表されるものが好ましく、例えば、メルカプトエタノール、チオグリセロール、チオグリコール酸、2−メルカプトプロピオン酸、3−メルカプトプロピオン酸、チオリンゴ酸、チオグリコール酸オクチル、3−メルカプトプロピオン酸オクチル等が挙げられ、単量体1〜3を含む共重合反応での連鎖移動効果の観点から、メルカプトプロピオン酸、メルカプトエタノールが好ましく、メルカプトプロピオン酸が更に好ましい。これらの1種または2種以上を用いることができる。
【0049】
ハロゲン化炭化水素系連鎖移動剤としては、四塩化炭素、四臭化炭素などが挙げられる。
【0050】
その他の連鎖移動剤としては、α−メチルスチレンダイマー、ターピノーレン、α−テルピネン、γ−テルピネン、ジペンテン、2−アミノプロパン−1−オールなどを挙げることができる。連鎖移動剤は、1種又は2種以上を用いることができる。
【0051】
本発明に係る共重合体の製造方法の一例を示す。反応容器に所定量の水を仕込み、窒素等の不活性気体で雰囲気を置換し昇温する。予め単量体1、単量体2、さらに場合により単量体3、連鎖移動剤を水に混合溶解したものと、重合開始剤を水に溶解したものとを用意し、0.5〜5時間かけて反応容器に滴下する。その際、各単量体、連鎖移動剤及び重合開始剤を別々に滴下してもよく、また、単量体の混合溶液を予め反応容器に仕込み、重合開始剤のみを滴下することも可能である。すなわち、連鎖移動剤、重合開始剤、その他の添加剤は、単量体溶液とは別に添加剤溶液として添加しても良いし、単量体溶液に配合して添加してもよいが、重合の安定性の観点からは、単量体溶液とは別に添加剤溶液として反応系に供給することが好ましい。また、好ましくは所定時間の熟成を行う。なお、重合開始剤は、全量を単量体と同時に滴下しても良いし、分割して添加しても良いが、分割して添加することが未反応単量体の低減の点では好ましい。例えば、最終的に使用する重合開始剤の全量中、1/2〜2/3の重合開始剤を単量体と同時に添加し、残部を単量体滴下終了後1〜2時間熟成した後、添加することが好ましい。必要に応じ、熟成終了後に更にアルカリ剤(水酸化ナトリウム等)で中和し、本発明に係る共重合体を得る。
【0052】
また、本発明に係る共重合体は、単量体1を含有する液Aと、単量体2を含有する液Bとを反応系に導入して共重合反応に用いることもでき、液Aと液Bはそれぞれ別々に反応系に導入することができる。また、反応系に導入される液A及び液Bの全量のそれぞれ90重量%以上を並行して反応系に導入することが好ましい。液A及び液Bの反応系への導入方法として、具体的には滴下及び噴霧が挙げられ、液A及び液Bの粘度の観点から滴下が好ましい。液Aは凝固点の観点から水を含む溶媒とすることが好ましく、液Bは加水分解の観点から水を含まない溶媒とすることが好ましい。液Aのノズル(導入口)と液Bのノズル(導入口)の距離は任意に設定できる。また、滴下は気中及び液中いずれも可能であるが、液を全て導入する観点から気中滴下が好ましい。ノズル径は液滴の表面積を大きくする点及び溶解性の点から小さい方が好ましい。このように液Aと液Bとを別々に反応系に導入することで、単量体2の水との接触機会を少なくし加水分解が抑制される。また、反応系に導入される液A及び液Bの全量のそれぞれ90重量%以上を並行して反応系に導入することで、各単量体がランダムに導入された共重合体が得られる。液Aと液Bの合計量の90重量%以上とは、言い換えると、反応系に単独で導入される液A及び液Bの量が、反応系に導入される液A及び液Bの全量のそれぞれ10重量%以下であることである。
【0053】
また、本発明に係る共重合体の製造にあたっては、材料、温度及び配合に対する汎用性の観点から、重合中に単量体1と単量体2の共重合モル比を一回以上変化させて、重合させることが好ましい。
【0054】
本発明における共重合体の重量平均分子量(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法/ポリエチレングリコール換算)は、流動保持性の観点から、5000〜200000の範囲が好ましく、10000〜150000がより好ましい。
【0055】
本発明の水硬性組成物用分散保持剤は、該共重合体を含有する水溶液として用いることができる。
【0056】
<水硬性組成物用混和剤>
本発明の水硬性組成物用混和剤は、上記本発明の水硬性組成物用分散保持剤と、カルボン酸基、リン酸基、スルホン酸基及びそれらの中和基から選ばれる少なくとも1種を有する重合体A(以下、重合体Aという)とを含有する。一般に、重合体Aは水硬性組成物用の混和剤(分散剤等)として知られている重合体である。本発明の水硬性組成物用混和剤は、保持剤と重合体Aとを含有する水溶液として用いることができる。
【0057】
重合体Aのうち、カルボン酸基又はその中和基を有するものとしては、オキシアルキレン基またはポリオキシアルキレン基とカルボン酸を有する重合体である。例えば、特開平7−223852号公報に示される炭素数2〜3のオキシアルキレン基110〜300モルを導入したポリアルキレングリコールモノエステル系単量体とアクリル酸系重合体、特表2004−519406号公報の重合体A、Bに示されるような重合体や、特開2004−210587号公報や特開2004−210589号公報に記載されているアミド系マクロモノマーを含むような重合体、特開2003−128738号公報や特開2006−525219号公報に記載されているポリエチレンイミンを含有する重合体が挙げられる。
【0058】
カルボン酸基又はその中和基を有する重合体Aの市販品としては、(1)BASFポゾリス(株)のレオビルドSP8LS/8LSR、SP8LS、SP8LSR、SP8N、SP8S、SP8R、SP8SE/8RE、SP8SE、SP8RE、SP8SBシリーズ(Sタイプ、Mタイプ、Lタイプ、LLタイプ)、SP8HE、SP8HR、SP8SV/8RV、SP8RV、SP8HU、SP9N、SP9R、SP9HS、レオビルド8000シリーズ、(2)日本シーカ(株)のシーカメント1100NT、シーカメント1100NTR、シーカメント2300、(3)(株)フローリックのフローリックSF500S(500SB)、フローリックSF500H、フローリックSF500R(500RB)、(4)竹本油脂(株)のチューポールHP-8、HP-11、HP-8R、HP-11R、SSP-104、NV-G1、NV-G5、(5)(株)日本触媒のアクアロックFC600S、アクアロックFC900、(6)日本油脂(株)のマリアリムAKM、マリアリムEKMなどが挙げられるが、この限りではない。
【0059】
また、重合体Aのうち、リン酸基又はその中和基を有するものとしては、ポリオキシアルキレン基とリン酸基を有する重合体である。例えば、特開2006−052381号公報記載の重合体が挙げられる。具体的には、炭素数2〜3のオキシアルキレン基を平均3〜200モル導入したポリアルキレングリコールモノエステル系単量体と、リン酸ジ−〔(2−ヒドロキシエチル)メタクリル酸〕エステルと、リン酸モノ(2−ヒドロキシエチル)メタクリル酸エステルとの共重合体等が挙げられる。
【0060】
重合体Aのうち、スルホン酸基又はその中和基を有するものとしては、ナフタレン系重合体(例えばマイティ150:花王(株)製)、メラミン系重合体(例えばマイティ150V−2:花王(株)製)、アミノスルホン酸系重合体(例えばパリックFP:藤沢化学(株)製)が挙げられる。
【0061】
本発明の水硬性組成物用混和剤において、本発明の分散保持剤の含有量(固形分換算)は1〜99重量%、更に2〜80重量%、特に5〜70重量%が好ましい。また、重合体Aの含有量(固形分換算)は1〜99重量%、更に20〜98重量%、特に30〜95重量%が好ましい。また分散保持剤は二種以上用いることもできるが、合計含有量が上記範囲であることが好ましい。重合体Aは二種以上を用いる事が出来るが、合計含有量が上記範囲であることが好ましい。水硬性組成物用混和剤中の分散保持剤と重合体Aの重量比率(分散保持剤/重合体A(固形分換算))は、流動性と流動保持性の観点から1/99〜95/5が好ましく、5/95〜80/20が更に好ましく、10/90〜60/40がより好ましく、20/80〜40/60がより更に好ましい。
【0062】
また、本発明の水硬性組成物用混和剤は、重合体A以外に、例えば高性能減水剤、AE剤、AE減水剤、流動化剤、遅延剤、早強剤、促進剤、起泡剤、発泡剤、消泡剤、増粘剤、防水剤、防泡剤や珪砂、高炉スラグ、フライアッシュ、シリカヒューム等の公知の添加剤(材)と併用することができる。
【0063】
<水硬性組成物>
本発明の水硬性組成物は、上記本発明の水硬性組成物用分散保持剤と、上記重合体Aと、水硬性粉体と、水とを含有する。本発明の水硬性組成物を得る際には、本発明の分散保持剤と重合体Aは、予め混合して用いても良いし、別々に用いても良い。
【0064】
本発明の水硬性組成物に使用される水硬性粉体とは、水和反応により硬化する物性を有する粉体のことであり、セメント、石膏等が挙げられる。好ましくは普通ポルトランドセメント、ビーライトセメント、中庸熱セメント、早強セメント、超早強セメント、耐硫酸セメント等のセメントであり、またこれらに高炉スラグ、フライアッシュ、シリカフューム、石粉(炭酸カルシウム粉末)等が添加されたものでもよい。なお、これらの粉体に骨材として、砂、砂及び砂利が添加されて最終的に得られる水硬性組成物が、一般にそれぞれモルタル、コンクリートなどと呼ばれている。本発明の水硬性組成物は、生コンクリート、コンクリート振動製品分野の外、セルフレベリング用、耐火物用、プラスター用、石膏スラリー用、軽量又は重量コンクリート用、AE用、補修用、プレパックド用、トレーミー用、グラウト用、地盤改良用、寒中用等の種々のコンクリートの何れの分野においても有用である。
【0065】
特に、生コンクリートの製造現場においては、普通ポルトランドセメント・中庸熱ポルトランドセメント・高炉スラグセメントを用いたコンクリートを通常に併産しており、更には水/粉体比の異なる種々の配合のコンクリートを製造することが日常となっている。このような状況において、セメントの品質によって流動性や流動保持性の変動が少ないことは意義あることである。最近では、普通ポルトランドセメントのロットによっても、流動保持性の変動が確認されることもあり、汎用的な流動保持性を提供することは意義あることである。
【0066】
本発明の水硬性組成物は、水/水硬性粉体比〔スラリー中の水と水硬性粉体の重量百分率(重量%)、通常W/Pと略記されるが、粉体がセメントの場合、W/Cと略記されることがある。〕が60重量%以下、更に58〜15重量%、更に57〜18重量%、更に56〜20重量%、特に55〜23重量%であることができる。
【0067】
水硬性組成物において、本発明の水硬性組成物用混和剤は、水硬性粉体100重量部に対して0.02〜10重量部、更に0.02〜5重量部、より更に0.05〜2重量部の比率(固形分換算)で添加されることが好ましい。また、分散保持剤は、水硬性粉体100重量部に対して0.002〜5重量部、更に0.01〜4重量部、より更に0.02〜2重量部の比率(固形分換算)で添加されることが好ましい。重合体Aは、水硬性粉体100重量部に対して0.01〜8重量部、更に0.02〜4重量部の比率(固形分換算)で添加されることが好ましい。
【実施例】
【0068】
<製造例>
製造例1
攪拌機付きガラス製反応容器(四つ口フラスコ)に水364.9gを仕込み、撹拌しながら窒素置換をし、窒素雰囲気中で80℃まで昇温した。ω−メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(エチレンオキサイドの平均付加モル数23、水分34.9%、純度93.6%)475.3gとヒドロキシエチルアクリレート(表中HEAと表記する)90.6gと3−メルカプトプロピオン酸(シグマ アルドリッチ ジャパン株式会社、試薬)3.31gとを混合溶解した単量体溶液と、過硫酸アンモニウム水溶液(I)〔過硫酸アンモニウム(和光純薬工業株式会社、試薬)4.75gを水45gに溶解したもの〕の2者を、同時に滴下を開始し、それぞれ1.5時間かけて滴下した後、過硫酸アンモニウム水溶液(II)〔過硫酸アンモニウム0.71gを水15gに溶解したもの〕を0.5時間かけて滴下した。その後、80℃で1時間熟成した。熟成終了後に20%水酸化ナトリウム水溶液で中和し、共重合体(分散保持剤)を得た。なお、ヒドロキシエチルアクリレートは、一般式(2)で、R5がヒドロキシエチル基の化合物であり、R5−OHで表される化合物のlogP値が−1.369の分子量116.1の化合物である。よって、ヒドロキシエチルアクリレートは、[logP値/単量体(2)の分子量Mw]は−1.369/116.1=−0.0118である。
【0069】
なお、ω−メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレートは、特許第3874917号記載の方法に準じて、エステル化反応により合成し、未反応物として残留するメタクリル酸を留去により、1重量%未満にしたものを用いた。
【0070】
具体的には、メタクリル酸とポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルを、酸触媒としてp−トルエンスルホン酸、重合禁止剤としてハイドロキノンを用いてエステル化反応させた後、アルカリ剤として水酸化ナトリウムを用いて酸触媒を失活させ、真空蒸留法により未反応のメタクリル酸を留去した。
【0071】
製造例2〜17及び比較例1〜8
表1の単量体及び比率で製造例1と同様に共重合体(分散保持剤)を製造した。得られた共重合体を以下の実施例及び比較例に用いた。
【0072】
【表1】

【0073】
表中の記号は以下の意味である。
・ME−PEG:ω−メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート、カッコ内の数値は、エチレンオキサイドの平均付加モル数である。
・HEA:ヒドロキシエチルアクリレート(エチレングリコールlogP:−1.369、logP/Mw:−1.369/116.1=−0.0118、和光純薬工業株式会社、試薬)
・MA:メチルアクリレート(メタノールlogP:−0.764、logP/Mw:−0.764/86.1=−0.0089、和光純薬工業株式会社、試薬)
・HBA:ヒドロキシブチルアクリレート(ブチレングリコールlogP:−1.164、logP/Mw:−1.164/144.2=−0.0081、シグマ アルドリッチ ジャパン株式会社、試薬)
・MHEA:メトキシエチルアクリレート(メトキシエタノールlogP:−0.6064、logP/Mw:−0.6064/130.1=−0.0047、和光純薬工業株式会社、試薬)
・HEMA:ヒドロキシエチルメタクリレート〔一般式(2)に該当しないエステル系単量体、和光純薬工業株式会社、試薬〕
【0074】
実施例1(ペースト試験)
<ペースト配合>
【0075】
【表2】

【0076】
W: 上水道水
C1: 普通ポルトランドセメント (太平洋セメント(株)製:日本セメント)
C2: CEMI52、5R Gargenville(フランスセメント)
【0077】
500ml容器に、配合1に従い、セメント及び表1の分散保持剤(対セメント100重量部に対し0.08重量部)を含む水を投入し、ハンドミキサー(低速63rpm程度)で2分間混練し、ペーストを得た。以下の流動保持性の評価には、配合1のCをC1として調製したペーストを用いた。
【0078】
<初期流動性及び流動保持性の評価>
得られたペーストを円筒状コーン(φ50mm×51mm)に充填し、垂直に引き上げた時の広がり(最も長い直径の長さとそれと垂直方向の長さの平均値)をペーストフローとして測定した。測定は、混練終了直後(0分後)、混練終了30分後、混練終了60分後、混練終了90分後、混練終了120分後に行い、フロー値の経時変化を測定した。流動保持性の指標として、図1に示す図形の面積をそれぞれの分散保持剤について求めた。この図形の面積は、(流動性−100mm)×時間(単位mm・min)で求まるものである。
混練終了直後のフロー値を初期流動性とした。分散保持剤を添加しない場合の初期流動性は110mmであった。
【0079】
【表3】

【0080】
表3の結果から以下のような考察結果が得られる。
(1)製造例1〜6、製造例9〜14、比較製造例1〜2の共重合体について
エチレンオキサイド平均付加モル数23のメトキシポリエチレングリコールモノメタクリレートとヒドロキシエチルアクリレートとの共重合体系での共重合組成比と流動保持性の関係を取ると、本発明品3(単量体1が62.9重量%、単量体2が37.1重量%)が最高の流動保持性となった。一方、エチレンオキサイド平均付加モル数120のメトキシポリエチレングリコールモノメタクリレートとヒドロキシエチルアクリレートとの共重合体系での共重合組成比と流動保持性の関係では、本発明品10(単量体1が71.0重量%、単量体2が29.0重量%)付近で最高の流動保持性を示した。
【0081】
流動保持性能としては、6000mm・min以上の性能が好ましい事から、メトキシポリエチレングリコール系単量体(単量体1)とヒドロキシエチルアクリレート(単量体2)との共重合組成比については上限値・下限値の好ましい範囲が存在する。
【0082】
単量体1の含量が多い場合、液相中での安定性が向上する為に、吸着率が低下し、液相中の残存率が高くなると考えられる。このため、比較品1は流動保持性が低下したと思われる。
【0083】
一方、本発明品3〜6について単量体1の含量が少なくなると、立体反発ユニットが少なくなる為、流動発現効果が低下していると考えられる。比較品2は立体反発ユニットがないので流動保持性が低下したと思われる。
【0084】
(2)製造例3、7、8、10、比較製造例2の共重合体について
アルキレンオキサイド平均付加モル数の影響としては、平均付加モル数が大きくなるほど流動保持性が良好になる傾向にあり、23モル以上では良好な保持性が確認された。また、アルキレンオキサイドの付加がない比較品2では流動保持性が低下している。
【0085】
(3)製造例2〜3、製造例15、比較製造例3〜6の共重合体について
アクリル酸エステルの影響としては、ヒドロキシエチルアクリレートの流動保持性能が良好であり(本発明品2、3)、メチルアクリレート(比較品3)やヒドロキシブチルアクリレート(比較品4)、メトキシエチルアクリレート(比較品5)、ヒドロキシエチルメタクリレート(比較品6)の保持性能は不十分であった。これは、分解基の親水性の悪化及び(又は)立体障害の為に、加水分解率が低下したこと及びが主原因と考えられる。また、脱離基の分子量が大きい場合には、加水分解効率が良好であっても、分子量のロスが大きくなり、性能が低下したと考えられる。
【0086】
また、ヒドロキシエチルメタクリレート(比較品6)の保持性能は不十分であった。これは、α位炭素の遮蔽効果により、加水分解が抑制されたためと考えられる。
【0087】
ヒドロキシエチルアクリレートとメチルアクリレートを混合する事でも(本発明品15)、良好な流動保持性は得られる事が確認された。しかし、単量体2中のヒドロキシエチルアクリレート100モル%の本発明品3の方が流動保持性に優れている。
【0088】
(4)製造例3、16〜17、比較製造例8の共重合体について
ヒドロキシエチルアクリレートをメタクリル酸で置換した場合、置換量が5重量%(参考品17)までは初期流動性を示さず、分散保持剤としての機能を発現することがわかる。
【0089】
しかし、10重量%置換した場合(比較品8)には、初期流動性を示す為、流動保持性のみを制御する分散保持剤としては不適である。このように初期流動性を示す場合は、分散剤の添加量を下げる操作が必要となり、結果として、コンクリート粘性の増粘や流動保持性の制御が困難になるため好ましくない。なお、比較品8の単量体3のメタクリル酸10重量%を、メタクリル酸3重量%とメチルアクリレート7重量%に置き換えると、初期流動性はほとんど示さず、流動保持性を示すため、本発明の分散保持剤として使用できる。その場合、単量体1の量が同じであっても、本発明品16よりもヒドロキシエチルアクリレートに対するメチルアクリレートの量が多くなるので、流動保持性は本発明品16の方がより優れたものとなると推察される。
【0090】
なお、表3の結果から、共重合体の構成単量体中の単量体1の比率、単量体1のAO平均付加モル数(n)、及び流動保持性の関係を図5に示した。図5において、●は本発明品2〜5、7〜12、15、16、及び参考品17(流動保持性6000mm・min以上)、▲は本発明品1、6、13及び14(流動保持性6000mm・min未満)、■は比較品1を示す。
【0091】
<汎用性の評価>
表1の分散保持剤の一部を用いて、表2の配合1におけるCをC2とした配合に対する評価を行った。評価は、流動保持性、汎用性について行った。流動保持性は前記流動保持性の評価と同様に行った。セメントとしてC1(日本セメント)を用いた場合の流動保持性と、C2(フランスセメント)を用いた場合の流動保持性の比率を以下の式で算出し、汎用性の指標とした。結果を表4に示す。
汎用性(%)=(フランスセメントの流動保持性/日本セメントの流動保持性)×100
【0092】
【表4】

【0093】
本実施例で用いたセメントの溶出硫酸イオン濃度は、日本セメント(C1)で8900ppm、フランスセメント(C2)で18900ppmであり、C2はC1に比べて、溶出硫酸イオン濃度が2倍程度になっており、分散保持剤の吸着が阻害される為、流動保持性が悪化する傾向があると考えられる。
【0094】
本評価における汎用性の数値は40%以上が好ましいが、ヒドロキシエチルアクリレートを用いた系はいずれも、良好な汎用性を示した。一方、メチルアクリレートのみを用いた系(比較品7)は、日本セメントでは良好な流動保持性を示したものの汎用性の点で悪化した。メチルアクリレートは加水分解効率がヒドロキシエチルアクリレートに比べて悪いため、生成吸着基量が少なく、絶対吸着量が少ないためと思われる。この為、吸着阻害を受けた時の影響が大きくなったと考えられる。
【0095】
上記観点で、ヒドロキシエチルアクリレートを用いた系についても、メトキシポリエチレングリコール系単量体(単量体1)の含量が流動保持性を損なわない程度に少ないほうが、吸着量が多くなり、汎用性が良好になると推定される(例えば本発明品9〜11の比較で解る)。
【0096】
<経時粘性の評価>
表1の分散保持剤の一部を用い、経時粘性を評価した。混練終了から120分経過後のペーストを、図2に示すようにロート(下部開口経が7mm)から流下(ペースト上面からロート下部開口までの距離を55mmとする)させたときの流下時間を測定し、粘性の評価とした。混練終了120分後のペーストの粘性(流下時間:秒)と、上記で測定した混練終了120分後のペーストのフロー値(mm)との積(120分後の粘性×120分後の流動性)を経時粘性低減の指標とした。結果を表5に示す。
【0097】
【表5】

【0098】
経時粘性低減効果は低ければ低いほど好ましいが、経時粘性低減の指標が1500mm・sec以下であれば、より良好である。前記観点でAO平均付加モル数は45以下がより好ましいと考えられる。
【0099】
実施例2(モルタル試験)
<モルタル配合>
【0100】
【表6】

【0101】
W: 上水道水
C: 普通ポルトランドセメント (太平洋セメント(株)製)
S: 君津産陸砂(3.5mm通過品)
【0102】
2)モルタルの調製
容器(1Lステンレスビーカー:内径120mm)に、表6に示す配合の約1/2量のSを投入し、次いでCを投入、さらに残りのSを投入し、撹拌機としてEYELA製Z−2310(東京理化器械、撹拌棒:高さ50mm、内径5mm×6本/長さ110mm)を用い、200rpmで空練り25秒後、予め混合しておいた分散剤と水の混合溶液を5秒かけて投入し、投入後30秒間で壁面や撹拌棒の間の材料を掻き落し、水を投入後3分間混練し、モルタルを調製した。モルタルフローは、混練直後で170mmとなるように分散剤の添加量を調整した。なお、必要に応じて消泡剤を添加し、連行空気量が2%以下となるように調整した。混練後、回転数を50rpmに設定し、混練直後のモルタル粘度を測定した。
【0103】
なお、混和剤は、表1の分散保持剤と、下記重合体(分散剤)とを表7のように組み合わせて使用したものである。
PP1:リン酸系分散剤(特開2006−52381 実施例2−1の重合体)
PP2:リン酸系分散剤(特開2006−52381 実施例2−6の重合体)
PC:ポリカルボン酸系分散剤:(株)日本触媒 FC900
【0104】
モルタルフローは、上部開口径が70mm、下部開口径が100mm、高さ60mmのコーンを使用し、モルタルフロー値の最大値と、該最大値を与える線分の1/2の長さで直交する方向で測定したモルタルフロー値との平均値とした。
【0105】
また、モルタル粘性の測定は次のように行った。図3に示すトルク試験機に記録計を接続し、モルタルのトルクを測定する。予め、図4に示すポリエチレングリコール(Mw20、000)で作成したトルク−粘度の関係式より、モルタルのトルクから粘性を算出した。ポリエチレングリコールのトルク−粘度関係式作成時に、モニター出力60W、出力信号DC0−5Vにより、記録計からトルク出力電圧値(mV)が記録される。
【0106】
モルタル粘性は、混和剤の添加量を変えて何点か実験を行い、混練直後(0分後)、30分後、60分後にそれぞれモルタルフローが180mmになるモルタルを調整し、その粘性を測定した。結果を表7に示す。
【0107】
【表7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表される単量体1と一般式(2)で表される単量体2とを含む単量体を重合して得られる共重合体からなる水硬性組成物用分散保持剤であって、
該共重合体の構成単量体中、単量体1の比率が(−0.05×n+28.8)〜(0.12×n+75.4)重量%〔nは一般式(1)中のもの〕であり、単量体1の比率と単量体2の比率の合計が90重量%以上であり、
単量体2の少なくとも一部が、[一般式(2)中のR5に対応するアルコール化合物R5−OHのlogP値/単量体(2)の分子量Mw]<−0.009の関係を満たす単量体2−1であり、
前記単量体2−1が、一般式(2)中のR5がヒドロキシエチル基のヒドロキシエチルアクリレート及び一般式(2)中のR5がグリセロール基のグリセリルアクリレートから選ばれる単量体であり、
前記共重合体の構成単量体中、カルボン酸基、リン酸基及びそれらの中和基から選ばれる少なくとも1種を有する単量体の比率が2.5重量%以下である、
水硬性組成物用分散保持剤。
【化1】


〔式中、R1〜R3は、それぞれ水素原子又はメチル基を表し、AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基を表し、nはAOの平均付加モル数であり、5〜150の数を表し、R4は水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基、qは0〜2の整数、pは1を表す。〕
【化2】


〔式中、R5は、炭素数1〜4のヘテロ原子を含んでよい炭化水素基である。〕
【請求項2】
単量体1が、一般式(1)中のnが50〜150の単量体である、請求項1記載の水硬性組成物用分散保持剤。
【請求項3】
単量体1が、一般式(1)中のnが50〜150の単量体であり、単量体1の比率が、前記共重合体の構成単量体中、28〜90重量%である、請求項1又は2記載の水硬性組成物用分散保持剤。
【請求項4】
[一般式(2)中のR5に対応するアルコール化合物R5−OHのlogP値/単量体(2)の分子量Mw]<−0.009の関係を満たす単量体2−1の比率が、単量体2中で30モル%以上である請求項1〜3の何れか1項記載の水硬性組成物用分散保持剤。
【請求項5】
単量体1と単量体2の重量比(単量体1/単量体2)が25/75〜95/5である請求項1〜4の何れか1項記載の水硬性組成物用分散保持剤。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか記載の水硬性組成物用分散保持剤と、カルボン酸基、リン酸基、スルホン酸基及びそれらの中和基から選ばれる少なくとも1種を有する重合体Aとを含有する水硬性組成物用混和剤。
【請求項7】
水硬性組成物用分散保持剤と重合体Aとの重量比(分散保持剤/重合体A)が5/95〜80/20である請求項6記載の水硬性組成物用混和剤。
【請求項8】
請求項1〜5の何れか記載の水硬性組成物用分散保持剤と、カルボン酸基、リン酸基、スルホン酸基及びそれらの中和基から選ばれる少なくとも1種を有する重合体Aと、水硬性粉体と、水とを含有する水硬性組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−10690(P2013−10690A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−215899(P2012−215899)
【出願日】平成24年9月28日(2012.9.28)
【分割の表示】特願2008−132878(P2008−132878)の分割
【原出願日】平成20年5月21日(2008.5.21)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】