説明

水硬性組成物用分散剤

【課題】分散剤として(メタ)アクリル酸系のポリカルボン酸系共重合体を使用して、水硬性組成物の流動性を向上させる水硬性組成物用分散剤を提供する。
【解決手段】N−メチルジエタノールアミンと特定の(メタ)アクリル酸系のポリカルボン酸系共重合体とを含有する水硬性組成物用分散剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水硬性組成物用分散剤に関する。
【背景技術】
【0002】
水硬性組成物用の分散剤は、セメント粒子を分散させることにより、所要のスランプを得るのに必要な単位水量を減少させ、水硬性組成物の作業性等を向上させるために用いる化学混和剤である。分散剤には、従来、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物等のナフタレン系やカルボン酸とアルキレングリコール鎖を有する単量体との共重合体等のポリカルボン酸系、メラミンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物等のメラミン系等が知られている。
【0003】
また、早期にコンクリートの強度を発現させるためにアルカノールアミンを分散剤と併用して用いられる。例えば、特許文献1は、アルカリ量が少なく、初期強度発現性が優れるセメントコンクリートの吹付け材料を提供することを課題として、セメントコンクリートに、アルミニウムと、イオウと、アルカノールアミンを含有する酸性の液体急結剤と、粉末硫酸アルミニウムと、硫酸塩、アルミン酸塩、及び水酸化物からなる無機化合物の群の中から選ばれる何れか一種又は二種以上とを添加することを特徴とする吹付け材料が開示されている。さらに、セメントコンクリートの流動性を改善するために、例えばリグニンスルホン酸系、ナフタレンスルホン酸系、及びポリカルボン酸系等の公知の減水剤(分散剤)が使用可能であることが開示されている。
【0004】
また特許文献2は、水硬性組成物の硬化促進および空気担持性質を兼備する多機能混合物を提供することを課題として、有機または無機酸の塩であってアルカリまたはアルカリ土類金属塩である硬化促進剤、および脂肪酸アミノスルホン酸界面活性剤を含んでなる多機能水硬性セメント組成混合物が開示されている。そして、さらにリグノスルホン酸、ポリカルボン酸、ナフタレンスルホン酸縮合物、メラミンスルホン酸縮合物、ヒドロキシル化されたカルボン酸、または炭水化物のアルカリまたはアルカリ土類金属塩を含んでなる水減量剤も含んでなる組成混合物及びアルカノールアミンを含んでなる早期強度増加剤も含んでなる組成混合物が開示されている。特許文献2の好適な混合物の例示ではアルカノールアミンとしてトリエタノールアミン又はトリイソプロパノールアミン、水減量剤としてリグニンスルホン酸カルシウムが挙げられている。
【0005】
また特許文献3には、硝酸又は亜硫酸成分と、チオシアン酸成分と、アルカノールアミン成分と、カルボン酸成分とを含有する水硬性粉体用の硬化促進剤と、高性能含水剤を併用することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−31166号公報
【特許文献2】特表2000−511151号公報
【特許文献3】米国特許第5605571号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、(メタ)アクリル酸系のポリカルボン酸系共重合体を使用する水硬性組成物に、早期強度向上の為のアミン化合物として特許文献1の実施例及び特許文献2の配合例で挙げられているジエタノールアミン、トリエタノールアミン及びトリイソプロパノールアミンを併用した場合には、水硬性組成物の流動性がポリカルボン酸系共重合体単独で用いた時よりも低下する傾向があることがわかった。これらのアミン化合物を用いてポリカルボン酸系共重合体単独で用いた時と同等の流動性を得るには、例えば、ポリカルボン酸系共重合体の使用量を増やす方法が挙げられる。しかし、前記共重合体の量を増やすと水硬性組成物の凝結遅延が促進される傾向があり、早期強度向上の為にはむしろ前記共重合体の量を低減することが望まれる。
【0008】
本発明の課題は、(メタ)アクリル酸系のポリカルボン酸系共重合体を使用して、水硬性組成物の24時間後及び7日後の硬化体の強度を向上しつつ流動性を向上させる水硬性組成物用分散剤を提供することである。なお、ここで、(メタ)アクリル酸は、「アクリル酸及び/又はメタクリル酸」の意味である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、(メタ)アクリル酸系のポリカルボン酸系共重合体に、N−メチルジエタノールアミンを併用した場合には、水硬性組成物の24時間後及び7日後の硬化体の強度を向上しつつ(メタ)アクリル酸系のポリカルボン酸系共重合体単独で用いた時よりも水硬性組成物を調製した初期の流動性、すなわち初期流動性が向上することを見出した。すなわち、(メタ)アクリル酸系のポリカルボン酸系共重合体単独で用いた時と同等の流動性を得るためには、前記共重合体の使用量を低減することができる。
【0010】
本発明の効果発現の機構は不明であるが以下のように推定される。水硬性組成物を調製する際の水硬性粉体と水と共重合体(分散剤)の混練時には、共重合体の水硬性粉体の表面への吸着と、水硬性粉体の水との反応による結晶成長が同時に進む。時間の経過と共に水硬性粉体表面に吸着した共重合体は、結晶成長により結晶中に埋もれてしまうために分散作用が発現しにくくなる。(メタ)アクリル酸由来の構成単位を有する共重合体はカルボキシル基で、N−メチルジエタノールアミンと塩を形成することができ、この塩を形成することによって、共重合体の水硬性粉体への吸着が抑制され、水硬性粉体の結晶成長により埋もれてしまう共重合体が減少するために、混練後の流動性が向上するものと考えられる。水硬性粉体への吸着速度が大きいリン酸基を有する共重合体や、N−メチルジエタノールアミンと塩を形成してもさらにカルボキシル基を有するジカルボン酸由来の構成単位を有する共重合体では効果を発現しないと考えられる。また、N−メチルジエタノールアミン以外のアミンでは、共重合体が水硬性粉体へ吸着する適度な速度にならないため効果が劣ると考えられる。
【0011】
本発明は、N−メチルジエタノールアミンと、下記一般式(1)で表される構成単位と下記一般式(2)で表される構成単位とを含有する共重合体とを含有する水硬性組成物用分散剤に関する。
【0012】
【化1】

【0013】
〔式中、R1は水素原子又はメチル基、M1は水素原子又は塩を形成する対イオンを表す。〕
【0014】
【化2】

【0015】
〔式中、R2は水素原子又はメチル基、AOは炭素数2〜4のアルキレンオキシ基、lは0〜2の数、mは0又は1の数、nはAOの平均付加モル数であり、2〜300の数、R3は水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表す。〕
【0016】
また、本発明は、N−メチルジエタノールアミン、上記一般式(1)で表される構成単位と上記一般式(2)で表される構成単位とを含む共重合体、水硬性粉体、骨材及び水を含有し、水と水硬性粉体の重量比(水/水硬性粉体)が0.20〜0.50である水硬性組成物に関する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、(メタ)アクリル酸系のポリカルボン酸系共重合体を使用して、水硬性組成物の24時間後及び7日後の硬化体の強度を向上しつつ流動性をさらに向上させる水硬性組成物用分散剤が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<N−メチルジエタノールアミン>
本発明に係るアミンは、N−メチルジエタノールアミンである。前記メチルジエタノールアミンを(メタ)アクリル酸系のポリカルボン酸系共重合体に併用することで、水硬性組成物の24時間後及び7日後の硬化体の強度を向上しつつ水硬性組成物の流動性(初期流動性ともいう)をさらに向上することができる。
【0019】
本発明に係るN−メチルジエタノールアミンは、市販品を用いることができる。N−メチルジエタノールアミンは、水への溶解性を高める観点から、塩として使用することができる。塩としては、硫酸塩、酢酸塩、乳酸塩、塩化物、ギ酸塩、炭酸塩、ケイ酸塩及びそれらの混合物から選択される塩が挙げられる。N−メチルジエタノールアミンの水溶性を向上することで、例えばコンクリート調製時の取扱い性に優れたものとすることができる。なお、本発明に係るN−メチルジエタノールアミンを塩として使用する場合、後述の含有量等の重量は、塩そのものの重量ではなく、アミン換算の重量を使用する。
【0020】
<(メタ)アクリル酸系のポリカルボン酸系共重合体>
本発明に係る共重合体は、上記一般式(1)で表される構成単位〔以下、構成単位1という〕と上記一般式(2)で表される構成単位〔以下、構成単位2という〕を含む。すなわち、共重合体の一例としては、構成単位1の由来となるアクリル酸又はメタクリル酸と、構成単位2の由来となるポリアルキレングリコールとアクリル酸もしくはメタクリル酸のエステル又はアルキレンオキシ基とアルケニル基を有するエーテル〔以下、構成単位2の由来となる炭単量体を単量体(2)という〕とを構成単量体とするものが挙げられる。アクリル酸又メタクリル酸は塩を形成していてもよい。
【0021】
一般式(1)中、R1は水素原子又はメチル基であり、水素原子の場合はアクリル酸、メチル基の場合はメタクリル酸である。一般式(1)中、M1は水素原子又は塩を形成する対イオンである。対イオンとしては、ナトリウムイオン、カリウムイオン等のアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、アンモニウムイオンが挙げられる。
【0022】
単量体(2)の一例としては、ポリアルキレングリコールと(メタ)アクリル酸とのモノエステル又はアルケニルアルコールにアルキレンオキシドが付加したエーテルであり、共重合体において一般式(2)となる構造を形成するものが挙げられる。一般式(2)中、AOは炭素数2〜4のアルキレンオキシ基を表し、共重合体の水への溶解性の観点から、好ましくは炭素数2又は3、より好ましくは炭素数2のアルキレンオキシ基(エチレンオキシ基)である。nはAOの平均付加モル数であり、2〜300の数を表し、水硬性組成物の流動性の向上とAO付加物の生産性の観点から、好ましくは2〜250、より好ましくは2〜200、更に好ましくは2〜150である。lは0〜2の数であり、mは0又は1の数を表す。mが0の場合はエーテル結合を表し、mが0の場合は水硬性組成物の流動性の向上の観点からlが好ましくは1又は2である。mが1の場合はエステル結合を表し、mが1の場合は単量体の反応性の観点からlが好ましくは0である。水硬性組成物の流動性の向上と24時間後の強度向上の観点から、mは1が好ましい。R3は水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表し、mが0の場合は、単量体の製造上の観点からR3は水素原子が好ましい。mが1の場合は、R3が水素原子であるとエステル交換反応を生じる可能性があるので、R3は炭素数1〜4のアルキル基が好ましく、さらに水溶性の観点からメチル基がより好ましい。
【0023】
単量体(2)として、具体的には、ポリアルキレングリコールと(メタ)アクリル酸とのエステルとして、片末端封鎖されたアルキレングリコールと(メタ)アクリル酸とのエステルが挙げられ、メトキシポリエチレングリコールアクリレート、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート、エトキシポリエチレングリコールアクリレート及びエトキシポリエチレングリコールメタクリレート等が挙げられる。また、アルケニルアルコールにアルキレンオキシドが付加したエーテルとして、アリルアルコールのエチレンオキサイド付加物、メタリルアルコールのエチレンオキサイド付加物及び3−メチル−3−ブテン−1−オールのエチレンオキサイド付加物等が挙げられる。水硬性組成物の流動性の向上と24時間後の強度向上の観点から、ポリアルキレングリコールと(メタ)アクリル酸とのエステルが好ましい。
【0024】
共重合体は、構成単位1と構成単位2とを構成単位とし、構成単位1及び構成単位2の合計中の構成単位1の割合は、好ましくは1〜99モル%、水硬性組成物の流動性の向上の観点から、好ましくは40〜98モル%、より好ましくは50〜97モル%、更に好ましくは60〜97モル%、更に好ましくは70〜90モル%、更に好ましくは70〜85モル%、より更に好ましくは72〜80モル%である。構成単位1及び構成単位2の合計中の構成単位2の割合は、好ましくは1〜99モル%、水硬性組成物の流動性の向上の観点から、好ましくは2〜60モル%、より好ましくは 3〜50モル%、更に好ましくは3〜40モル%、更に好ましくは10〜30モル%、更に好ましくは15〜30モル%、より更に好ましくは20〜28モル%である。また、共重合体が含む全構成単位中、構成単位1と構成単位2の合計の割合は、水硬性組成物の初期流動性の向上の観点から、好ましくは30〜100モル%、より好ましくは50〜100モル%、更に好ましくは70〜100モル%、更に好ましくは80〜100モル%、更に好ましくは実質100モル%である。
【0025】
共重合体は、構成単位1と構成単位2以外の構成単位としては、不飽和カルボン酸のアルキルエステル等が挙げられる。
【0026】
共重合体の重量平均分子量は、水硬性組成物の初期流動性の向上の観点から、それぞれ、1000〜200000が好ましく、10000〜100000がより好ましく、20000〜80000が更に好ましく、38000〜55000がより更に好ましい。この重量平均分子量は、下記条件のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法で測定されたものである。
[GPC条件]
装置:高速GPC装置 HLC−8320GPC(東ソー)
カラム:G4000PWXL+G2500PWXL(東ソー)
溶離液:0.2Mリン酸バッファー/CH3CN=9/1
流量:1.0mL/min
カラム温度:40℃
検出:示差屈折検出器(RI)
サンプルサイズ:0.5mg/mL
標準物質:ポリエチレングリコール換算
【0027】
共重合体は、単量体成分と開始剤を用いて、溶液重合や塊状重合などの重合方法により製造することができる。また高分子反応法により合成することも可能である。ちなみに、高分子反応法とは、不飽和カルボン酸を重合後に、ポリアルキレングリコール系化合物とエステル化反応を行うことで、グラフト共重合体を得る方法である。
【0028】
得られた共重合体は、アルカリ剤で中和することができる。アルカリ剤として、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムが挙げられる。共重合体の中和度は、水硬性組成物用分散剤の保存安定性の向上の観点から、0.5〜1.0が好ましく、0.5〜0.9がより好ましい。
【0029】
共重合体の製造での重合開始剤は、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩;過酸化水素;アゾビス−2メチルプロピオンアミジン塩酸塩、アゾイソブチロニトリル等のアゾ化合物;ベンゾイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、クメンハイドロパーオキシド等のパーオキシド等が好適に使用できる。
【0030】
共重合体の製造方法として、例えば特開昭62−119147号公報、特開平7−223852公報等に記載の溶液重合法が挙げられる。
【0031】
<水硬性組成物用分散剤>
本発明の水硬性組成物用分散剤は、N−メチルジエタノールアミンと前記共重合体とを含有する。前記N−メチルジエタノールアミン〔以下、(A)成分ともいう〕と前記共重合体〔以下、(B)成分ともいう〕の重量比((A)成分/(B)成分)は、1/20〜1/1が好ましく、1/15〜1/1がより好ましく、1/10〜1/1が更に好ましく、1/5〜1/1がより更に好ましく、1/3〜1/1がより更に好ましい。この範囲の重量比は、水硬性組成物の24時間後の硬化体の強度の向上と、水硬性組成物の流動性の向上の観点から好ましい。
【0032】
本発明の水硬性組成物用分散剤は、粉体、粒状等の固体状、また、溶媒に溶解又は分散させ、液体状、ペースト状等で用いることができる。当該分散剤中の(A)成分の含有量は、水硬性組成物の流動性の向上の観点から、好ましくは0.1〜40重量、より好ましくは0.5〜30重量%、更に好ましくは1.5〜20重量%である。当該分散剤中の(A)成分の含有量は、水硬性組成物の7日後の硬化体強度向上の観点から、好ましくは0.5重量%以上、より好ましくは1.5重量%以上、更に好ましくは3重量%以上、より更に好ましくは8重量%以上、より更に好ましくは15重量%以上である。水硬性組成物の流動性の向上、24時間及び7日後の硬化体強度向上の観点から、好ましくは0.1〜40重量%、より好ましくは1〜30重量%、更に好ましくは1.5〜20重量%、より更に好ましくは3〜10重量%である。
【0033】
当該分散剤中の(B)成分の含有量は、水硬性組成物の流動性の向上の観点から、好ましくは0.3重量%以上、より好ましくは5重量%以上、更に好ましくは10重量%以上であり、分散剤の粘度を抑制して、例えば水硬性組成物の調製時の取り扱い性を向上する観点から、好ましくは60重量%以下、より好ましくは55重量%以下、更に好ましくは50重量%以下である。したがって当該分散剤中の(B)成分の含有量は水硬性組成物の流動性の向上と分散剤の粘度を抑制する観点から、好ましくは0.3〜60重量%、より好ましくは5〜55重量%、更に好ましくは10〜50重量%である。
【0034】
また、当該分散剤中の(A)成分と(B)成分の合計量は、水硬性組成物の流動性の向上、24時間及び7日後の硬化体強度向上及び分散剤の粘度を抑制する観点から好ましくは0.4〜100重量%、より好ましくは6〜85重量%、更に好ましくは12〜60重量%とすることができる。なかでも、本発明の水硬性組成物用分散剤は、均一溶液等の液体状で用いることが好ましく、粘度が抑制された均一な液体が得られる点から、水を含有するもの、更には水溶液がより好ましい。低粘度で均一な水溶液となることで取り扱い性の良い一液型の製剤として使用できる。従って、本発明の分散剤は、(A)成分、(B)成分及び水を含有する分散剤であってよい。本発明の分散剤が水を含有する分散剤である場合、当該分散剤中の(A)成分の含有量は、水硬性組成物の流動性の向上及び24時間及び7日後の硬化体強度向上の観点から、好ましくは0.1〜25重量%であり、より好ましくは0.5〜20重量%、更に好ましくは1〜20重量%、より更に好ましくは3〜10重量%である。また、水を含有する分散剤である場合、当該分散剤中の(B)成分の含有量は、水硬性組成物の流動性の向上の観点から、好ましくは1〜50重量%であり、より好ましくは5〜50重量%、更に好ましくは10〜50重量%、より更に好ましくは15〜45重量%である。水を含有する分散剤である場合、当該分散剤中の水の含有量は、粘度が抑制された均一な液体とする観点から、好ましくは25〜98重量%、より好ましくは30〜94重量%、更に好ましくは35〜89重量%、より更に好ましくは45〜82重量%とすることができる。また、水を含有する分散剤である場合、当該分散剤中の(A)成分と(B)成分の合計量は、水硬性組成物の流動性の向上、24時間及び7日後の硬化体強度向上及び分散剤の粘度を抑制する観点から、好ましくは2〜75重量%、より好ましくは6〜70重量%、更に好ましくは11〜65重量%、より更に好ましくは18〜55重量%とすることができる。液体状で用いる場合、水以外に有機溶剤を用いることができる。
【0035】
本発明の水硬性組成物用分散剤は、必要に応じて(A)成分と(B)成分以外の成分を併用できる。(A)成分と(B)成分以外の成分として、例えば、分散剤、空気連行剤(AE剤)、消泡剤、増粘剤、早強剤、遅延剤等の薬剤を併用することも可能である。
【0036】
<水硬性組成物>
本発明の水硬性組成物は、N−メチルジエタノールアミン〔(A)成分〕と、共重合体〔(B)成分〕と、水硬性粉体と、骨材と、水とを含有し、水と水硬性粉体の重量比(水/水硬性粉体の重量比、通常W/Pと略記されるが、粉体がセメントの場合、W/Cと略記されることがある。)が0.20〜0.50である。水と水硬性粉体の重量比は、水硬性組成物の初期流動性の向上の観点から、0.25以上が好ましく、0.30以上がより好ましい。また、水と水硬性粉体の重量比は硬化体の強度の観点から、0.48以下が好ましく、0.46以下がより好ましい。水と水硬性粉体の重量比は、水硬性組成物の初期流動性の向上と硬化体の強度の観点から、0.25〜0.48がより好ましく、0.30〜0.46が更に好ましい。N−メチルジエタノールアミン及び共重合体は、前述したものと同様のものを用いることができる。また、本発明の水硬性組成物は、前記の水硬性組成物用分散剤に水硬性粉体と骨材とを必要に応じて水を加えて調製することができる。(A)成分、(B)成分、水硬性粉体、骨材及び水の量は、水硬性組成物の調製時の配合量から求めることができる。
【0037】
本発明に係る(A)成分と(B)成分とを、水硬性粉体、骨材、水を含有する組成物に添加することで、当該組成物の流動性を向上することができる。また、使用量を減らしても一定の流動性が得られるため、共重合体による凝結遅延を低減することができる。(A)成分と(B)成分の添加は、両者を予め混合した後、水硬性粉体と骨材と水とを含有する組成物に添加してもよいし、(A)成分と(B)成分を別々に添加してもよい。前述した(A)成分と(B)成分を含有する分散剤として添加してもよい。
【0038】
本発明の水硬性組成物に使用される水硬性粉体は、水和反応により硬化する物性を有する粉体のことであり、セメント、石膏等が挙げられる。好ましくは普通ポルトランドセメント、ビーライトセメント、中庸熱セメント、早強セメント、超早強セメント、耐硫酸セメント、メーソンリーセメント等のセメントであり、またこれらに高炉スラグ、フライアッシュ、シリカフューム、石粉(炭酸カルシウム粉末)等が添加されたものでもよい。
【0039】
また、本発明に係るN−メチルジエタノールアミンは、水硬性粉体中のSO3及び鉱物であるアルミネート相(C3A及びC4A)に作用すると推定される。本発明の水硬性組成物に用いられる水硬性粉体中のSO3の含有量は、水硬性組成物の流動性の向上、24時間後及び7日後の硬化強度の向上の観点から、0.5〜6.0重量%が好ましい。本発明の水硬性組成物に用いられる水硬性粉体中のSO3の含有量は、水硬性組成物の流動性の向上の観点から、1.0〜4.5重量%がより好ましく、2.0〜4.5重量%が更に好ましく、3.0〜3.8重量%がより更に好ましい。また、本発明の水硬性組成物に用いられる水硬性粉体中のSO3の含有量は、水硬性組成物の24時間後の硬化強度の向上の観点から、0.5〜4.5重量%がより好ましく、1.0〜3.5重量%が更に好ましく、1.5〜3.0重量%がより更に好ましい。また、本発明の水硬性組成物に用いられる水硬性粉体中のSO3の含有量は、水硬性組成物の7日後の硬化強度の向上の観点から、1.0〜4.5重量%がより好ましく、3.0〜4.5重量%が更に好ましく、3.5〜4.0重量%がより更に好ましい。
【0040】
また、本発明の水硬性組成物に用いられる水硬性粉体中のC3A量及びC4AF量の合計量に対する水硬性粉体中のSO3量の比率(重量比)は、水硬性組成物の流動性、24時間後及び7日後の硬化強度の向上の観点から、SO3量/(C3A量+C4AF量)×100で3.5〜46であることが好ましい。本発明の水硬性組成物に用いられる水硬性粉体中のC3A量及びC4AF量の合計量に対する水硬性粉体中のSO3量の比率(重量比)は、水硬性組成物の流動性の向上の観点から、10〜35がより好ましく、15〜33が更に好ましく、20〜30がより更に好ましい。また、本発明の水硬性組成物に用いられる水硬性粉体中のC3A量及びC4AF量の合計量に対する水硬性粉体中のSO3量の比率(重量比)は、水硬性組成物の24時間後の硬化強度の向上の観点から、SO3量/(C3A量+C4AF量)×100で3.5〜35であることがより好ましく、10〜28が更に好ましく、10〜20がより更に好ましい。また、本発明の水硬性組成物に用いられる水硬性粉体中のC3A量及びC4AF量の合計量に対する水硬性粉体中のSO3量の比率(重量比)は、水硬性組成物の7日後の硬化強度の向上の観点から、SO3量/(C3A量+C4AF量)×100で10〜35であることがより好ましく、22〜33であることが更に好ましい。この比率は、水硬性粉体中のアルミネート相の合計量に対するSO3量の比率である。
【0041】
また、本発明の水硬性組成物は、骨材を含有する。骨材として、砂等の細骨材及び砂利等の粗骨材が挙げられる。水硬性粉体に骨材として、砂、砂及び砂利が添加されて最終的に得られる水硬性組成物が、一般にそれぞれモルタル、コンクリートなどと呼ばれている。
【0042】
本発明の水硬性組成物において、骨材(細骨材と粗骨材の合計)の含有量は、コンクリート構造物やコンクリート製品に用いる観点から、水硬性組成物1m3あたり1600〜2000kgが好ましく、1650〜1950kgがより好ましい。水硬性粉体の含有量は、水硬性組成物1m3あたり250〜800kgが好ましく、280〜700kgがより好ましい。水の含有量は、水硬性組成物1m3あたり100〜200kgが好ましく、110〜195kgがより好ましい。
【0043】
また、本発明の水硬性組成物において、骨材が細骨材のみからなる場合は、モルタルとして用いる観点から、細骨材は水硬性粉体100重量部に対して100〜300重量部が好ましく、150〜300重量部がより好ましい。
【0044】
本発明の水硬性組成物において、水硬性粉体100重量部に対して(A)成分と(B)成分の合計量は、水硬性組成物の流動性の向上及び硬化体強度向上の観点から、0.001〜10重量部が好ましく、0.01〜5重量部がより好ましく、更に0.05〜2重量部が好ましく、0.10〜0.50重量部がより好ましく、0.15〜0.30重量部がより更に好ましい。また、(A)成分の量は、水硬性組成物の流動性の向上、24時間後及び7日後の硬化体強度向上の観点から、水硬性粉体100重量部に対して0.0005〜5重量部が好ましく、更に0.005〜2.5重量部がより好ましく、0.01〜1.0重量部がより好ましく、0.01〜0.3重量部が更に好ましく、0.03〜0.1重量部より更に好ましい。また、(A)成分の量は、24時間後の硬化体強度向上の観点から、0.02〜0.3重量部が好ましく、0.04〜0.3重量部がより好ましく、0.08〜0.25重量部が更に好ましく、0.15〜0.25重量部がより更に好ましい。また、(B)成分の量は、水硬性組成物の流動性の向上の観点から、水硬性粉体100重量部に対して0.0005重量部以上が好ましく、更に0.005重量部以上がより好ましい。また、(B)成分の量は、水硬性組成物の硬化遅延を抑制する観点から水硬性粉体100重量部に対し5重量部以下が好ましく、更に2.5重量部以下がより好ましい。従って、(B)成分の量は、水硬性組成物の流動性の向上と硬化遅延を抑制する観点から、水硬性粉体100重量部に対して0.0005〜5重量部が好ましく、更に0.005〜2.5量部がより好ましく、更に0.05〜1.0量部がより好ましく、更に0.1〜0.5量部がより好ましく、0.15〜0.3重量部が更に好ましく、0.15〜0.22重量部がよりさらに好ましい。
【0045】
本発明の水硬性組成物においても、(A)成分と(B)成分の重量比((A)成分/(B)成分)は、水硬性組成物の24時間後と7日後の硬化体強度の向上及び水硬性組成物の流動性の向上の観点から、1/20〜1/1が好ましく、1/15〜1/1がより好ましく、1/10〜1/1が更に好ましく、1/5〜1/1がより更に好ましく、1/3〜1/1がより更に好ましい。
【0046】
本発明の水硬性組成物は、例えば、(A)成分、(B)成分及び水を含有する組成物を予め調製し、水硬性粉体及び骨材に添加することで製造することができる。
【0047】
本発明の水硬性組成物は、コンクリート構造物やコンクリート製品の材料として用いることができる。本発明の水硬性組成物は、接水から24時間後及び7日後の圧縮強度が向上するので、例えば、本発明の水硬性組成物に、接水後の初期材齢強度が低い水硬性粉体(高炉スラグ、フライアッシュ、石灰石等)を配合しても、(A)成分及び/または(B)成分を含まない水硬性組成物と比較して、同等以上の、接水から24時間後及び7日後の圧縮強度を得ることが出来る。
【0048】
本発明の水硬性組成物は、生コンクリート、コンクリート製品の外、セルフレベリング用、耐火物用、プラスター用、石膏スラリー用、軽量又は重量コンクリート用、AE用、補修用、プレパックド用、トレーミー用、グラウト用、地盤改良用、寒中用等の種々のコンクリートの何れの分野においても有用である。 さらに本発明の水硬性組成物は、調製直後の流動性に優れ、24時間程度で強度を発現するので、型枠に充填して製造し、同じ型枠を何度も使用するため型枠の回転率が要求される、コンクリート二次製品に好適である。コンクリート二次製品である型枠を用いる水硬性組成物の硬化体としては、土木用製品では、護岸用の各種ブロック製品、ボックスカルバート製品、トンネル工事等に使用されるセグメント製品、橋脚の桁製品等が挙げられ、建築用製品では、カーテンウォール製品、柱、梁、床板に使用される建築部材製品等が挙げられる。
【0049】
本発明の水硬性組成物では、共重合体のみを用いた場合よりも流動性が向上する。そのため、共重合体の使用量を減らしても一定の流動性が得られるため共重合体による凝結遅延を低減することができる。また、共重合体の添加量が同等であれば水硬性組成物の流動性が向上するため、例えば型枠への充填性が向上する。更に、水硬性組成物の接水から24時間後及び7日後の硬化時の圧縮強度が向上されたものとなる。
【0050】
また、本発明の水硬性組成物では、水硬性組成物を硬化させる際、硬化を促進するために蒸気加熱等のエネルギーを必要とせず、早期に水硬性組成物の硬化体を製造することも可能となる。このことは、環境に対する負荷軽減の点でも優れたものである。本発明の水硬性組成物では、養生温度が0〜40℃、更に10〜40℃であるような蒸気養生を行わない場合の養生条件でも、養生時間が4〜30時間、更に6〜24時間で脱型に十分な強度の硬化体を得ることができる。このような条件を採用することにより、必要なエネルギー量を抑制しつつ、製造サイクルの向上が達成される。
【0051】
以下に本発明の態様を示す。
<1>
N−メチルジエタノールアミンと、下記一般式(1)で表される構成単位と下記一般式(2)で表される構成単位とを含む共重合体とを含有する水硬性組成物用分散剤。
【0052】
【化3】

【0053】
〔式中、R1は水素原子又はメチル基、M1は水素原子又は塩を形成する対イオンを表す。〕
【0054】
【化4】

【0055】
〔式中、R2は水素原子又はメチル基、AOは炭素数2〜4のアルキレンオキシ基、lは0〜2の数、mは0又は1の数、nはAOの平均付加モル数であり、2〜300の数、R3は水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表す。〕
【0056】
<2>
N−メチルジエタノールアミンを0.1〜40重量%、前記共重合体を0.3〜60重量%含有する前記<1>の水硬性組成物用分散剤。
【0057】
<3>
N−メチルジエタノールアミンと前記共重合体の重量比(N−メチルジエタノールアミン/共重合体)が1/20〜1/1である前記<1>又は前記<2>の水硬性組成物用分散剤。
【0058】
<4>
一般式(2)のnが、好ましくは2〜250、より好ましくは2〜200、更に好ましくは2〜150である前記<1>〜<3>のいずれかの水硬性組成物用分散剤。
【0059】
<5>
一般式(2)のmが1であり、lが0である前記<1>〜<4>のいずれかの水硬性組成物用分散剤。
【0060】
<6>
一般式(1)で表される構成単位及び一般式(2)で表される構成単位の合計中の一般式(1)で表される構成単位の割合が、好ましくは40〜98モル%、より好ましくは 50〜97モル%、更に好ましくは60〜97モル%、更に好ましくは70〜90モル%、更に好ましくは70〜85モル%、より更に好ましくは72〜80モル%である前記<1>〜<5>のいずれかの水硬性組成物用分散剤。
【0061】
<7>
共重合体が含む全構成単位中、一般式(1)で表される構成単位と一般式(2)で表される構成単位の合計の割合が、好ましくは30〜100モル%、より好ましくは50〜100モル%、更に好ましくは70〜100モル%、更に好ましくは80〜100モル%、更に好ましくは実質100モル%である前記<1>〜<6>のいずれかの水硬性組成物用分散剤。
【0062】
<8>
共重合体の重量平均分子量が、好ましくは1000〜200000、より好ましくは10000〜100000、更に好ましくは20000〜80000、より更に好ましくは35000〜55000である前記<1>〜<7>のいずれかの水硬性組成物用分散剤。
【0063】
<9>
前記N−メチルジエタノールアミン〔以下、(A)成分ともいう〕と前記共重合体〔以下、(B)成分ともいう〕の重量比((A)成分/(B)成分)が、より好ましくは1/15〜1/1、更に好ましくは1/10〜1/1、より更に好ましくは1/5〜1/1、より更に好ましくは1/3〜1/1である前記<1>〜<8>のいずれかの水硬性組成物用分散剤。
【0064】
<10>
分散剤中のN−メチルジエタノールアミンの含有量が、好ましくは0.1〜40重量%、より好ましくは1〜30重量%、更に好ましくは3〜10重量%である前記<1>〜<9>のいずれかの水硬性組成物用分散剤。
【0065】
<11>
分散剤中の共重合体の含有量が、好ましくは0.3〜60重量%、より好ましくは5〜55重量%、更に好ましくは10〜50重量%である前記<1>〜<10>のいずれかの水硬性組成物用分散剤。
【0066】
<12>
分散剤中のN−メチルジエタノールアミンと共重合体の合計量が、好ましくは0.4〜100重量%、より好ましくは6〜85重量%、更に好ましくは12〜60重量%である前記<1>〜<11>のいずれかの水硬性組成物用分散剤。
【0067】
<13>
N−メチルジエタノールアミン、下記一般式(1)で表される構成単位と下記一般式(2)で表される構成単位とを含む共重合体、水硬性粉体、骨材及び水を含有し、水と水硬性粉体の重量比(水/水硬性粉体)が0.20〜0.50である水硬性組成物。
【0068】
【化5】

【0069】
〔式中、R1は水素原子又はメチル基、M1は水素原子又は塩を形成する対イオンを表す。〕
【0070】
【化6】

【0071】
〔式中、R2は水素原子又はメチル基、AOは炭素数2〜4のアルキレンオキシ基を表し、lは0〜2の数を表し、mは0又は1の数を表す、nはAOの平均付加モル数であり、2〜300の数を表し、R3は水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表す。〕
【0072】
<14>
水と水硬性粉体の重量比が、より好ましくは0.25〜0.48、更に好ましくは0.30〜0.46である前記<13>の水硬性組成物。
【0073】
<15>
水硬性組成物に用いられる水硬性粉体中のSO3の含有量が、好ましくは0.5〜6.0重量%、より好ましくは1.0〜4.5重量%、更に好ましくは2.0〜4.5重量%である前記<13>又は<14>の水硬性組成物。
【0074】
<16>
水硬性組成物に用いられる水硬性粉体中のSO3の含有量が、好ましくは0.5〜4.5重量%、より好ましくは1.0〜3.5重量%が、更に好ましくは1.5〜3.0重量%である前記<13>又は<14>の水硬性組成物。
【0075】
<17>
水硬性組成物に用いられる水硬性粉体中のSO3の含有量が、好ましくは1.0〜4.5重量%、より好ましくは3.0〜4.5重量%、更に好ましくは1.5〜3.0重量%である前記<13>又は<14>の水硬性組成物。
【0076】
<18>
水硬性粉体100重量部に対して、N−メチルジエタノールアミンと共重合体の合計量が、好ましくは0.001〜10重量部、より好ましくは0.01〜5重量部、更に好ましくは0.05〜2重量部である前記<13>〜<17>のいずれかの水硬性組成物。
【0077】
<19>
N−メチルジエタノールアミンの量が、水硬性粉体100重量部に対して、好ましくは0.0005〜5重量部、更に好ましくは0.005〜2.5重量部である前記<13>〜<18>のいずれかの水硬性組成物。
【0078】
<20>
共重合体の量が、水硬性粉体100重量部に対して、好ましくは0.0005〜5重量部、更に好ましくは0.005〜2.5量部、更に好ましくは0.05〜1.0量部、更に好ましくは0.1〜0.5量部である前記<13>〜<19>のいずれかの水硬性組成物。
【0079】
<21>
一般式(2)のnが、好ましくは2〜250、より好ましくは2〜200、更に好ましくは2〜150である前記<13>〜<20>のいずれかの水硬性組成物。
【0080】
<22>
一般式(2)のmが1であり、lが0である前記<13>〜<21>のいずれかの水硬性組成物。
【0081】
<23>
一般式(1)で表される構成単位及び一般式(2)で表される構成単位の合計中の一般式(1)で表される構成単位の割合は、好ましくは40〜98モル%、より好ましくは 50〜97モル%、更に好ましくは60〜97モル%、更に好ましくは70〜90モル%、更に好ましくは70〜85モル%、より更に好ましくは72〜80モル%である前記<13>〜<22>のいずれかの水硬性組成物。
【0082】
<24>
共重合体が含む全構成単位中、一般式(1)で表される構成単位と一般式(2)で表される構成単位の合計の割合が、好ましくは30〜100モル%、より好ましくは50〜100モル%、更に好ましくは70〜100モル%、更に好ましくは80〜100モル%、更に好ましくは実質100モル%である前記<13>〜<23>のいずれかの水硬性組成物。
【0083】
<25>
共重合体の重量平均分子量が、好ましくは1000〜200000、より好ましくは10000〜100000、更に好ましくは20000〜80000が、より更に好ましくは35000〜55000である前記<13>〜<24>のいずれかの水硬性組成物。
【0084】
<26>
前記N−メチルジエタノールアミン〔以下、(A)成分ともいう〕と前記共重合体〔以下、(B)成分ともいう〕の重量比((A)成分/(B)成分)が、好ましくは1/20〜1/1、より好ましくは1/15〜1/1、更に好ましくは1/10〜1/1、より更に好ましくは1/5〜1/1、より更に好ましくは1/3〜1/1である前記<13>〜<25>のいずれかの水硬性組成物。
【0085】
<27>
<1>〜<12>の水硬性組成物用分散剤の、水硬性組成物の流動性向上のための使用。
【0086】
<28>
水硬性組成物が、水硬性粉体、骨材及び水を含有し、水と水硬性粉体の重量比(水/水硬性粉体)が0.20〜0.50である、水硬性組成物用分散剤の前記<27>の水硬性組成物の流動性向上のための使用。
【実施例】
【0087】
〔実施例1〜4及び比較例1〜8〕
<製造例1>
攪拌機付きガラス製反応容器(四つ口フラスコ)に水114gを仕込み、撹拌しながら窒素置換をし、窒素雰囲気中で80℃まで昇温した。60重量%のω−メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(エチレンオキシドの平均付加モル数120:エステル純度100%)水溶液300g、メタクリル酸(試薬:和光純薬工業株式会社製)11.5g、及び3−メルカプトプロピオン酸1.2gを混合溶解した水溶液と、過硫酸アンモニウム1.9gを水45gに溶解した水溶液の2者を、それぞれ1.5時間かけて上記反応容器中に滴下した。その後、80℃で1時間熟成し、更に過硫酸アンモニウム0.8gを水15gに溶解した水溶液を30分かけて滴下し、引き続き80℃で1.5時間熟成した。熟成終了後に40℃以下に冷却した後、48%水酸化ナトリウム水溶液9.6gで中和し、重量平均分子量54000の共重合体を得た(中和度0.7)。その後、水を用いて固形分20重量%に調整した。単量体1/[単量体1+単量体2]は80モル%である。
【0088】
<製造例2>
攪拌機付きガラス製反応容器(四つ口フラスコ)に、水333.7g、および3−メチル−3−ブテン−1−オールにエチレンオキサイドを平均50モル付加した不飽和ポリアルキレングリコールエーテルを463.9g仕込み、攪拌しながら窒素置換をし、窒素雰囲気下60℃まで昇温した。そこに30%過酸化水素水溶液2.43gを滴下した。滴下後、アクリル酸62.7gを水37.3gに溶解した水溶液と、L−アスコルビン酸0.94g、3−メルカプトプロピオン酸2.44g、水96.6gを混合溶解した水溶液の2者を、それぞれ3.0時間及び3.5時間かけて上記反応容器中に滴下した。その後、60℃で1時間熟成した。熟成終了後に40℃以下に冷却した後、48%水酸化ナトリウム水溶液で中和し、重量平均分子量62000の共重合体を得た(中和度0.7)。その後、水を用いて固形分45重量%に調整した。単量体1/[単量体1+単量体2]は81モル%である。
【0089】
<製造例3>
攪拌機付きガラス製反応容器(四つ口フラスコ)に水333gを仕込み、撹拌しながら窒素置換をし、窒素雰囲気中で80℃まで昇温した。ω−メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(エチレンオキシドの平均付加モル数23:NKエステルM230G、新中村化学工業株式会社製)300g、メタクリル酸(試薬:和光純薬工業株式会社製)69.7g、及び3−メルカプトプロピオン酸6.3gを水200gに混合溶解した水溶液と、過硫酸アンモニウム12.3gを水45gに溶解した水溶液の2者を、それぞれ1.5時間かけて上記反応容器中に滴下した。その後、80℃で1時間熟成し、更に過硫酸アンモニウム4.9gを水15gに溶解した水溶液を30分かけて滴下し、引き続き80℃で1.5時間熟成した。熟成終了後に40℃以下に冷却した後、48%水酸化ナトリウム水溶液50.2gで中和し、重量平均分子量43000の共重合体を得た(中和度0.7)。その後、水を用いて固形分20重量%に調整した。単量体1/[単量体1+単量体2]は75モル%である。
【0090】
<製造例4>
攪拌機付きガラス製反応容器(四つ口フラスコ)に水395gを仕込み、撹拌しながら窒素置換をし、窒素雰囲気中で80℃まで昇温した。ω-メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(エチレンオキシドの平均付加モル数23:NKエステルM230G、新中村化学工業株式会社製)261g、ホスマーM〔2−ヒドロキシエチルメタクリレートモノリン酸エステルと2−ヒドロキシエチルメタクリレートジリン酸エステルとの混合物、ユニケミカル株式会社製)〕67.3g、及びメルカプトプロピオン酸4.3gを水141gに混合溶解した水溶液と、過硫酸アンモニウム8.0gを水45gに溶解した水溶液の2者を、それぞれ1.5時間かけて上記反応容器中に滴下した。その後、80℃で1時間熟成し、更に過硫酸アンモニウム1.8gを水10gに溶解した水溶液を30分かけて滴下し、引き続き80℃で1.5時間熟成した。熟成終了後に40℃以下に冷却した後、30%水酸化ナトリウム水溶液66gで中和し、分子量37000の共重合体を得た。その後、水を用いて固形分20重量%に調整した。
【0091】
<モルタルの調製及び評価>
(1)モルタルの調製
表2に示す配合条件で、モルタルミキサー(株式会社ダルトン製 万能混合撹拌機 型式:5DM-03-γ)を用いて、セメント(C)、細骨材(S)を投入し空練りを10秒行い、分散剤を含む練り水(W)を加えた。この際、空気連行量が2%以下になるよう消泡剤を添加した。そして、モルタルミキサーの低速回転(63rpm)にて60秒間、更に高速回転(128rpm)にて120秒間本混練りしてモルタルを調製した。
【0092】
なお、分散剤は、添加パターンaでは共重合体水溶液にアルカノールアミン及び必要に応じて水を表1のような含有量となるように混合した水溶液を用い、添加パターンbでは共重合体水溶液をそのまま用いた。ただし、比較品4では、アルカノールアミンをそのまま練り水に加えた。添加パターンaの分散剤の組成を表1に示した。
【0093】
【表1】

【0094】
* (A)と(B)の含有量は、純分換算の重量%である。
また、表中の記号は以下のものである。
・M−DEA:N−メチルジエタノールアミン(日本乳化剤株式会社製、アミノアルコールMDA)
・TiPA:トリイソプロパノールアミン(和光純薬工業株式会社製、試薬)
・TEA:トリエタノールアミン(和光純薬工業株式会社製、試薬)
・DEA:ジエタノールアミン(和光純薬工業株式会社製、試薬)
・リグニンスルホン酸系:リグニンスルホン酸系分散剤(Borregaard Industries Ltd.、Ultrazine NAS、有効分濃度20重量%の水溶液)
・ナフタレン系:ナフタレン系分散剤(花王株式会社製、マイテイ150、有効分濃度40重量%の水溶液)
・マレイン酸系:マレイン酸系のポリカルボン酸系分散剤(日油株式会社製、マリアリムAKM−60F、有効分濃度60重量%の水溶液)
【0095】
また、モルタルの調製は、アルカノールアミンを用いない添加パターンbを先に行い、目標モルタルフロー215±30mmとなる共重合体の量(純分換算)を確認しておき(比較例4を除く)、添加パターンaでは共重合体の量(純分換算)が添加パターンbと同じになるように、表1に示した本発明品又は比較品の分散剤を添加した。各成分の添加量(純分換算)を表3に示した。
【0096】
また、練り水中の分散剤量は微量であるため、分散剤の量も含めた練り水の量を表2のWとした。
【0097】
【表2】

【0098】
・水(W):練り水(水硬性組成物用分散剤を含む)
・セメント(C):普通ポルトランドセメント(太平洋セメント株式会社製の普通ポルトランドセメント/住友大阪セメント株式会社製の普通ポルトランドセメント=1/1、重量比)、密度3.16g/cm3、SO3量2.67重量%、〔SO3/(C3A+C4AF)〕×100=15.8
・細骨材(S):城陽産、山砂、FM=2.67、密度2.56g/cm3
水と水硬性粉体の重量比(W/C)は0.40(40重量%)である。細骨材は水硬性粉体100重量部に対して175重量部である。
【0099】
なお、セメント中のSO3、C3A及びC4AF等の定量は、以下の方法で行った(他の実施例等でも同様)。粉末X線装置として、RINT-2500((株)リガク製)を用い、測定条件として、ターゲットCuKα、管電流40mA、管電圧200kV、走査範囲5〜70deg.2θ、走査条件はステップ走査、ステップ幅0.02°、計数時間2秒に設定した。そして、試料の水硬性粉体2.7gに0.3gの標準物質『α−コランダム(Al23)』を添加し、標準物質のピーク面積を基準として、Rietveld解析ソフトにて定量した。Rietveld解析ソフトは(株)リガク製のPDXL Ver.1.8を使用した。これにより、表2で用いたセメント中の含有量は、C3Sが61.9重量%、C2Sが15.8重量%、C3Aが8.5重量%、C4AFが8.4重量%、SO3量2.67重量%であった。
【0100】
(2)モルタル評価
モルタルについて、以下に示す試験法にしたがって、モルタルフロー及び硬化強度をそれぞれ評価した。評価結果を表3に示した。
【0101】
(2−1)流動性の評価
モルタルフローはJIS R5201に従って測定を行った。なお、JIS R5201記載の落下運動は行っていない。モルタルフローは、1つの実施例又は比較例について、添加パターンa又は添加パターンbのそれぞれについて測定し、〔添加パターンaのモルタルフロー値〕/〔添加パターンbのモルタルフロー値〕×100の数値(表中、a/b比と表記する)で流動性を評価した。a/b比の数値が100でモルタルフローに変化がないことを示し、100より大きいほど添加パターンaのモルタルフローが大きくなり、水硬性組成物用分散剤の添加による流動性の向上効果が大きいことを示す。
【0102】
(2−2)硬化強度の評価
JIS A 1132に基づき、円柱型プラモールド(底面の直径:5cm、高さ10cm)の型枠5個に、それぞれ二層詰め方式によりモルタルを充填し、20℃の室内にて気中(20℃)養生を行い硬化させた。モルタル調製から24時間後に硬化した供試体を型枠から脱型し供試体を得た。これらの供試体の内、3個の24時間後の圧縮強度を測定した。さらに残りの2個の供試体は7日まで20℃で水中養生を行い、7日後の圧縮強度を測定した。供試体の圧縮強度はJIS A1108に基づいて測定し、供試体3個(24時間後)又は2個(7日後)の平均値を求めた。圧縮強度は、1つの実施例又は比較例について、添加パターンa又は添加パターンbのそれぞれについて測定し、〔添加パターンaの圧縮強度〕/〔添加パターンbの圧縮強度〕×100の数値(表中、a/b比と表記する)で圧縮強度を評価した。a/b比の数値が100で圧縮強度に変化がないことを示し、100より大きいほど添加パターンaの圧縮強度が大きくなり、水硬性組成物用分散剤の添加による圧縮強度の向上効果が大きいことを示す。
【0103】
【表3】

【0104】
* 添加量は、セメント100重量部に対する重量部(純分換算)である。
【0105】
実施例1〜4では、(メタ)アクリル酸系のポリカルボン酸系共重合体とN−メチルジエタノールアミンとを用いる添加パターンaは、(メタ)アクリル酸系のポリカルボン酸系共重合体のみを用いる添加パターンbよりも流動性が向上していることがわかる。また、比較例1〜5から、(メタ)アクリル酸系のポリカルボン酸系以外の共重合体をN−メチルジエタノールアミンと併用した場合、あるいは共重合体を添加しない場合は、流動性は向上しないことがわかる。比較例6〜8から、N−メチルジエタノールアミン以外のアルカノールアミンを(メタ)アクリル酸系のポリカルボン酸系共重合体と併用しても、流動性は向上しないことがわかる。
【0106】
〔実施例5〜11〕
さらに、実施例5(表3中の実施例4に相当)を基準として、分散剤全体の添加量を変えた場合(実施例6及び7)、アルカノールアミンの添加量を変えた場合(実施例8〜11)について、モルタル流動性とモルタル強度を実施例1と同様に測定した。結果を表4に示した。なお、モルタルの調製は実施例1と同様に行った。セメント(C)は表2と同じもの(構成、出所)を採用したが、製品ロットが表2とは異なるものであり、本実施例で用いたセメント中の含有量は、実施例1等と同様の定量法により、C3Sが60.6重量%、C2Sが17.2重量%、C3Aが7.9重量%、C4AFが8.8重量%、SO3量2.71重量%、〔SO3/(C3A+C4AF)〕×100は16.2であった。
【0107】
【表4】

【0108】
〔実施例12〜17〕
アルミネート相としてC3Aを4重量%、C4AFを9重量%含有するセメントクリンカーに、二水石膏と半水石膏を添加後、ブレーン値が3300±100cm2/gになるよう粉砕し、表6に示したSO3量及び〔SO3量/(C3A量+C4AF量)〕×100の組成のセメントを調製した。そして、これらのセメントを用いて、表5に示す配合条件で、実施例1と同様にモルタルを調製した。水と水硬性粉体の重量比(W/C)は0.40(40重量%)である。細骨材は水硬性粉体100重量部に対して175重量部である。アルカノールアミン及び共重合体を併用した場合と、共重合体のみを用いた場合について、モルタル流動性とモルタル強度を実施例1と同様に測定した。結果を表6に示した。
【0109】
【表5】

【0110】
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
N−メチルジエタノールアミンと、下記一般式(1)で表される構成単位と下記一般式(2)で表される構成単位とを含む共重合体とを含有する水硬性組成物用分散剤。
【化1】


〔式中、R1は水素原子又はメチル基、M1は水素原子又は塩を形成する対イオンを表す。〕
【化2】


〔式中、R2は水素原子又はメチル基、AOは炭素数2〜4のアルキレンオキシ基、lは0〜2の数、mは0又は1の数、nはAOの平均付加モル数であり、2〜300の数、R3は水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表す。〕
【請求項2】
N−メチルジエタノールアミンを0.1〜40重量%、前記共重合体を0.3〜60重量%含有する請求項1記載の水硬性組成物用分散剤。
【請求項3】
N−メチルジエタノールアミンと前記共重合体の重量比(N−メチルジエタノールアミン/共重合体)が1/20〜1/1である請求項1又は2記載の水硬性組成物用分散剤。
【請求項4】
N−メチルジエタノールアミン、下記一般式(1)で表される構成単位と下記一般式(2)で表される構成単位とを含む共重合体、水硬性粉体、骨材及び水を含有し、水と水硬性粉体の重量比(水/水硬性粉体)が0.20〜0.50である水硬性組成物。
【化3】


〔式中、R1は水素原子又はメチル基、M1は水素原子又は塩を形成する対イオンを表す。〕
【化4】


〔式中、R2は水素原子又はメチル基、AOは炭素数2〜4のアルキレンオキシ基を表し、lは0〜2の数を表し、mは0又は1の数を表す、nはAOの平均付加モル数であり、2〜300の数を表し、R3は水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表す。〕

【公開番号】特開2012−206928(P2012−206928A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−42678(P2012−42678)
【出願日】平成24年2月29日(2012.2.29)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】