説明

水硬性組成物用混和剤

【課題】減水性に優れ、凝結遅延がなく、フレッシュコンクリートの粘性が低く練り混ぜが容易であり、施工性に優れた水硬性組成物用混和剤を提供する。
【解決手段】(A)単量体(a)、(b);(a)一般式(1):RO−(AO)n−H(1)(式中、Rは炭素数1〜12のアルキル基、Aは炭素数2〜4のアルキレン基、nはアルキレンオキサイドの付加モル数0〜7の整数。)で表される少なくとも一種の化合物1モルに対し、炭素数2〜4のアルキレンオキサイドを0〜10モル付加し、さらにα,β−不飽和カルボン酸と反応させて得られるエステル化合物、(b)α,β−不飽和カルボン酸又はその塩、を反応して得られる共重合体もしくはその塩と、(B)単量体(d)、(e);(d)ポリアルキレングリコールアルケニルエーテル、(e)α,β−不飽和カルボン酸又はその塩、を反応して得られる共重合体もしくはその塩を含有する水硬性組成物用混和剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアルキレンオキサイドの付加モル数が少ないものの含有割合を低減したポリアルキレングリコールアルキルエーテルと不飽和カルボン酸のエステル化合物を用いた共重合体もしくはその塩と、ポリアルキレングリコールアルケニルエーテルを用いて得られたポリカルボン酸系共重合体を含有する水硬性組成物用混和剤に関する。特に本発明は、前記2種類の共重合体を含有する、減水性に優れ、凝結遅延がなく、さらにフレッシュコンクリートの粘性が低く練り混ぜが容易であり、施工性に優れた水硬性組成物用混和剤に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートの耐久性向上、強度確保を目的とし、コンクリート中の単位水量を低減させるところのセメント分散剤は今やコンクリート製造に於いて必須な化学混和剤となった。セメント分散剤のうち、就中、ポリカルボン酸系重合体を主たる成分とする高性能AE減水剤は、単位水量の低減効果に優れる他、生コンクリートの製造現場から打設現場までの運搬時間の間に於いて、所望のコンシステンシーを達成し良好な施工性を確保できる(高いスランプ保持性又はスランプロスの低減)ため、施工不良の低減にも一層優れている。これにより、コンクリート二次製品を製造する工場に於いては単位水量を低減したコンクリート製品の製造も可能になり、高強度プレキャスト部材が増加した。
高性能AE減水剤に対する技術開発が進められると同時に、開発された新たなセメント分散剤を用いた施工技術・施工方法も確立され、それに伴い、更に新たな課題や要求が生じてきている。例えば特許文献1に開示されるような基本的なポリカルボン酸系重合体を用いたセメント分散剤の登場以降、新たに生まれた課題や要求に応えるべく、セメント分散剤に使用するポリカルボン酸系重合体について、その分子量や構造を種々検討した提案がなされている。
例えば、ポリカルボン酸系重合体の分子量を適切な範囲に制御することでスランプ保持性の向上を図るもの(特許文献2)、作業現場の効率化・省力化を図る目的で、各種モノマー組成を制限、グラフト側鎖を異なるものとしたもの(エチレンオキサイドの付加モル数で5〜25、40〜109)の組合せからなるポリカルボン酸系重合体の提供により流動性の経時的低下(スランプロス)の抑制や、型枠の早期脱型並びに早期強度発現を目指すもの(特許文献3)、流動性及び強度発現の実現を目指してアルコキシ基又はヒドロキシアルコキシ基を有するカルボン酸系単量体を由来とするポリマー構造を有するポリカルボン酸系重合体を提供するもの(特許文献4)など、種々の提案がなされている。また、ポリカルボン酸系重合体の分子量を5,000以上10,000未満としかつ重量平均分子量/数平均分子量の値を1.0以上1.5以下とすることにより、高い間隙通過性、流動性及び強度発現性を有するセメント分散剤を提供できるという提案もなされている(特許文献5)。
このように、セメント分散剤におけるポリカルボン酸系重合体の分子量や構造を制御することは、コンクリートの製造・施工現場における作業環境に大きな変化をもたらすことから、従来よりポリカルボン酸系重合体の重合精度の向上についてもより高いニーズに十分に応えるべく、さらなる改善が望まれ続けている。
【0003】
一方でポリカルボン酸系重合体の投入に伴う種々の不具合や、期待も込められた解決すべき課題も出始めており、例えば温度に伴うセメント減水剤の性能変化を減らすという課題が挙げられる。これは、冬場に於いては減水性等の性能発現が遅いため、生コンクリート工場において流動性を適度に調整して練り上げても、施工現場に到達した時点で性能発現の遅延により流動性が必要以上に向上したものとなり、施工時に分離を伴う不均一な打設が行われた結果、強度のバラツキが生じる等の弊害を引き起こすという問題が起こる。一方、夏場は温度上昇によりセメントの水和が促進されるという影響を受け、コンシステンシーを必要時間の間確保する事が難しいため、所望のコンシステンシーを長時間維持可能なものが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭59−18338号公報
【特許文献2】特開平9−86990号公報
【特許文献3】特開平11−246250号公報
【特許文献4】特開2003−286057号公報
【特許文献5】特開2005−281022号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は高い分散性能、とりわけセメントの減水性に優れ、凝結遅延がなく、さらにフレッシュコンクリートの粘性が低く練り混ぜが容易であり、施工性に優れた水硬性組成物用混和剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討した結果、ポリアルキレングリコールアルキルエーテルの(メタ)アクリレートであって、アルキレンオキサイドの付加モル数が少ないものの含有割合を低減したものを使用したエステル化合物をモノマー成分として用いて得られたポリカルボン酸系共重合体と、ポリアルキレングリコールアルケニルエーテルをモノマー成分として用いて得られたポリカルボン酸系共重合体とを組み合わせて使用したところ、上記課題を解決できることを見出し本発明に至った。
【0007】
すなわち本発明は、(A)下記単量体(a)乃至(c);
(a)下記一般式(1):
O−(AO)n−H (1)
(式中、Rは炭素原子数1〜12のアルキル基を表し、Aは炭素原子数2〜4のアルキレン基を表し、nはアルキレンオキサイドの付加モル数であって0〜7の整数を表す。)
で表される少なくとも一種の化合物1モルに対し、炭素原子数2〜4のアルキレンオキサイドを0〜10モル付加し、さらに該付加物をα,β−不飽和カルボン酸と反応させて得られるエステル化合物であって、ただし、前記式(1)で表される化合物として、該式(1)で表される化合物全体の質量に基づいてnが3以下の化合物の含有割合が5質量%以下であるものを用いて得られたエステル化合物、
(b)α,β−不飽和カルボン酸又はその塩、及び
(c)必要に応じその他の共重合可能な単量体
を反応して得られる共重合体もしくはその塩と、
(B)下記単量体(d)乃至(f);
(d)ポリアルキレングリコールアルケニルエーテル
(e)α,β−不飽和カルボン酸又はその塩、及び
(f)必要に応じその他の共重合可能な単量体
を反応して得られる共重合体もしくはその塩を含有する水硬性組成物用混和剤に関する。
【0008】
また本発明は、(A)下記単量体(a)乃至(c)
(a)下記一般式(2):
【化1】

(式中、Rは炭素原子数1〜12のアルキル基を表し、Rは水素原子又はメチル基を表し、Aは炭素原子数2〜4のアルキレン基を表し、mはアルキレンオキサイドの付加モル数であって0〜15の整数を表す。)
で表される少なくとも一種のエステル化合物であって、該化合物のうちmが3以下の化合物の含有割合が、該化合物全体の質量に基づいて5質量%以下であり、かつ、mの平均値が4.0〜8.5である化合物、
(b)α,β−不飽和カルボン酸又はその塩、及び
(c)必要に応じその他の共重合可能な単量体
を反応して得られる共重合体もしくはその塩と、
(B)下記単量体(d)乃至(f)
(d)ポリアルキレングリコールアルケニルエーテル
(e)α,β−不飽和カルボン酸又はその塩、及び
(f)必要に応じその他の共重合可能な単量体
を反応して得られる共重合体もしくはその塩を含有する水硬性組成物用混和剤に関する。
【0009】
前記(A)と(B)の比率は、質量比で(A)/(B)=1/99〜99/1であることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、減水性に優れ、凝結遅延性が少なく、排出直後のみならず一定時間経過後においてもコンクリート粘性が低いなど施工作業性が良好である水硬性組成物用混和剤を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は合成例2で得られたポリエチレングリコールモノメチルエーテルa2と、比較合成例で得られたポリエチレングリコールモノメチルエーテルx2との、エチレンオキサイドの付加モル数分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、共重合体の一成分として、アルキレンオキサイドの付加モル数が3モル以下の割合を低減したポリアルキレングリコールアルキルエーテルのα,β−不飽和カルボン酸エステル化合物を用いた点に大きな特徴を有する。
本発明者らは、セメント分散剤として有用な共重合体の構造、構成する単量体の種類やその割合、その分子量等を種々検討した。その結果、該共重合体の一成分として有用なポリアルキレングリコールアルキルエーテルのエステル化合物において、アルキレンオキサイドの付加モル数分布の制御が、セメント分散剤の性能改善に大きな影響を与えることを見出すに至った。
【0013】
ここでセメント分散剤におけるポリカルボン酸系重合体、特に該重合体を構成するポリアルキレングリコールアルキルエーテルの構造と、コンクリートの諸性能:コンクリート粘性、空気量の巻き込み、温度依存性等との関連性については、これまでに以下の報告がなされている。
例えば、コンクリート粘性の低減化を実現することを目的とする特許文献5等において、エチレンオキサイドの平均付加モル数が9または23の比較的低分子量のメトキシポリオキシエチレンメタクリレートが使用されている。
一方、枚田ら[総合論文]「ポリメタクリル酸−ポリエチレングリコールグラフトコポリマーを主剤とするコンクリート用高性能AE減水剤」、高分子論文集、Vol.65,No.11,pp.659−669(Nov.,2008)には、性状のよい低粘性な生コンクリートを得るには、ポリカルボン酸の側鎖についてエチレンオキサイドの平均付加モル数がおよそ30程度の長鎖のポリアルキレングリコールを使用することが望ましいが、一方で、平均付加モル数が10未満という極端に短鎖のポリアルキレングリコールを側鎖に用いると疎水性が高くなり空気量や高温時の流動性が悪くなるという問題があることが、当業者にとっての常識であった。このため、従来は、平均付加モル数が最低でも9以上のポリアルキレングリコールアルキルエーテルを、ポリカルボン酸系重合体の一構成成分として使用することが一般的であった。
これが、従来の常識であったところ、本発明者らはエチレンオキサイドの付加モル分布をうまく制御することにより、まったく意外なことに、平均付加モル数が大変低いポリアルキレングリコールアルキルエーテルをポリカルボン酸系重合体の主な構成成分とした場合であっても、上述の課題を解決でき優れた性能を発現できる水硬性組成物用混和剤を創製することができることを初めて見出し、ここに本発明を完成させたのである。
【0014】
さらに具体的に説明すると、通常、ポリカルボン酸系重合体の一構成成分であるポリアルキレングリコールアルキルエーテルは、アルコールにアルキレンオキサイドを所望量付加して調製される。従来の製造方法によれば、ポリアルキレングリコールアルキルエーテルにおいて、アルキレンオキサイドの付加モル数の分布は広いものとなり、またアルキレンオキサイドの付加モル数が増えるに従いその分布はより広いものとなる。
そこで本発明者らは、セメント分散剤に好適なエチレンオキサイドの付加モル数を有するポリアルキレングリコールのみを選定すべく、蒸留、触媒選定等の手法によって付加モル分布が制御されたポリアルキレングリコールを使用するポリカルボン酸系重合体の検討を行った。付加モル数分布が制御された各種のポリアルキレングリコールを検討する中で、アルキレンオキサイドの付加モル数が3以下のものの含有量を5重量%以下に制御することで、温度依存性、空気量の変動、コンクリート粘性すべてを満足するポリカルボン酸系重合体が得られるという事実を見出すに至った。また斯かるポリカルボン酸系重合体はコンクリートの練混ぜ、凝結も早くなるという結果も付随して得られた。
なお、本発明のポリカルボン酸系重合体の性能と制御されたポリアルキレングリコールとの関連性は明確に解明できてはいないが、ポリアルキレングリコールアルキルエーテルのアルキレンオキサイドの付加モル数の3モルを境に親水性、疎水性の変化があり、またその量を一定量制御することによりセメント分散剤として従来の予想をはるかに超える安定な性状のものが得られたものと考えている。
以下本発明を詳細に説明する。
【0015】
<(a)エステル化合物>
本発明における(a)ポリアルキレングリコールアルキルエーテルとα,β−不飽和カルボン酸のエステル化合物は、下記一般式(1):
O−(AO)n−H (1)
(式中、Rは炭素原子数1〜12のアルキル基を表し、Aは炭素原子数2〜4のアルキレン基を表し、nはアルキレンオキサイドの付加モル数であって0〜7の整数を表す。)
で表される少なくとも一種の化合物1モルに対し、炭素原子数2〜4のアルキレンオキサイドを0〜10モル付加し、さらに該付加物をα,β−不飽和カルボン酸と反応させて得られるエステル化合物である。
そして本発明において、上記式(1)で表される化合物は、nが3以下のものの含有割合が少ないもの、すなわち、該式(1)で表される化合物全体の質量に基づいて、アルキレンオキサイドの付加モル数nが3以下の化合物の含有割合が5質量%以下である化合物である。
【0016】
前記一般式(1)において、Rは炭素原子数1〜8のアルキル基であることが好ましく、炭素原子数1〜4のアルキル基であることがより好ましい。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基が挙げられる。
またAOの具体例としては、エチレンオキシ基、プロピレンオキシ基、ブチレンオキシ基が挙げられる。
【0017】
本発明において使用する式(1)で表される化合物:ポリアルキレングリコールアルキルエーテルは、アルキレンオキサイドの付加モル数nが3以下のものの含有割合が5質量%以下であるもの、いわばアルキレンオキサイドの付加モル数が4乃至6程度の範囲により多く分布している(付加モル数分布が狭い)化合物である。
本発明においては、鎖長の短いポリアルキレングリコール鎖をより一層低減することにより、さらにコンクリート中の空気量に与える影響や、施工時の温度変化による影響を少なくすることができる点で、前記アルキレンオキサイドの付加モル数が3以下のものの含有割合が3質量%以下であるものを用いることが好ましく、さらに好ましくは1質量%以下である。
そして上記式(1)で表される化合物において、アルキレンオキサイド平均付加モル数は好ましくは4乃至6、より好ましくは4乃至5である。
このように鎖長の短いポリアルキレングリコール鎖を低減したエーテル化合物は、例えば炭素原子数1〜12の一価アルコール1モルに対して、アルカリ触媒の存在下、炭素原子数2〜4のアルキレンオキサイドを4モル程度付加し、次いで付加モル数が3以下のものを蒸留等の分別操作で分離することで得ることができる。
また、炭素原子数1〜12の一価アルコールに対して酸触媒等の存在下アルキレンオキサイドを付加することで、蒸留等の分別操作を経ずに直接得たものであってもよい。
【0018】
前記ポリアルキレングリコールアルキルエーテルには、必要に応じさらに炭素原子数2〜4のアルキレンオキサイドを0〜10モル付加してもよい。
後述の実施例(合成例)並びに図1に示すように、前記付加モル数が3以下のものの含有割合が低減されたポリアルキレングリコールアルキルエーテルを得て、それに対しさらにアルキレンオキサイドを付加して得られる化合物(合成例2:化合物a2)は、アルコールに対してアルカリ触媒を用いて一段階でアルキレンオキサイドを付加したもの(比較合成例:化合物x2)よりもアルキレンオキサイドの付加モル数の分布が狭いとする結果となっている。
【0019】
上述の方法等により得られたポリアルキレングリコールアルキルエーテルをそのままα,β−不飽和カルボン酸と反応させて(a)エステル化合物を得てもよいし、ポリアルキレングリコール鎖の鎖長範囲が異なる複数種のポリアルキレングリコールアルキルエーテルを組み合わせて使用してもよい。
α,β−不飽和カルボン酸としては、後述の(b)として使用するものと同様のものが挙げられるが、効果と経済性の点からアクリル酸、メタクリル酸が好ましい。
【0020】
また本発明の(a)エステル化合物は、下記一般式(2):
【化2】

で表される少なくとも一種のエステル化合物であって、ここで式(2)で表される化合物のうち、mが3以下の化合物の含有割合が、該化合物全体の質量に基づいて5質量%以下であり、かつ、mの平均値が4.0〜8.5である化合物であってもよい。
なお、上記式中、Rは炭素原子数1〜12のアルキル基を表し、Rは水素原子又はメチル基を表し、Aは炭素原子数2〜4のアルキレン基を表し、mはアルキレンオキサイドの付加モル数であって0〜15の整数を表す。R及びAの好ましい基は前述のR及びAで定義したものと同義である。
【0021】
<(b)α,β−不飽和カルボン酸又はその塩>
(b)α,β−不飽和カルボン酸(塩)としては、例えば、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水イタコン酸、シトラコン酸、無水シトラコン酸、マレイン酸ハーフエステル、フマル酸ハーフエステル;並びにこれらのアルカリ金属(リチウム、ナトリウム、カリウムなど)塩、アルカリ土類金属(カルシウム、マグネシウムなど)塩、アンモニウム(アンモニウム、テトラオクチルアンモニウム等)塩、有機アミン{アルカノールアミン、ポリアルキレンポリアミンもしくはその誘導体(アルキル化物、アルキレンオキサイド付加物)、低級アルキルアミンなど}塩、これらの2種以上の併用などが挙げられる。これらのうち好ましいものは、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、これらのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩もしくはアンモニウム塩およびこれらの2種以上の併用である。
【0022】
<その他の単量体(c)>
本発明では、上述の単量体(a)及び(b)以外に必要に応じその他の共重合可能な単量体(c)を共重合することができる。その他の共重合可能な単量体としては、ポリアルキレングリコールモノアルケニルエーテル、ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート、(メタ)アリルスルホン酸(塩)、スチレンスルホン酸(塩)、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、スチレン、(メタ)アクリルアミド等の慣用のポリカルボン酸系セメント分散剤用単量体として例示される化合物であり、前記単量体(a)及び(b)と共重合可能な単量体であればその種類は特に限定されない。
また単量体(c)として、前記単量体(a)エステル化合物と同様の構造を有し、ただし本発明で定めるアルキル鎖長やアルキレンオキサイドの付加モル数(例えば付加モル数が20モル〜50モルなど)が異なるポリアルキレングリコールアルキルエーテルのエステル化合物を使用してもよい。
【0023】
このうち、ポリアルキレングリコールモノアルケニルエーテルとしては、ポリアルキレングリコールと炭素原子数3〜8のアルケニルエーテルより形成されるアルケニルエーテル類が挙げられ、具体的には、3−メチル−3−ブテン−1−オールのアルキレンオキサイド付加物や、2−メチル−2−プロペン−1−オール(メタリルアルコール)のアルキレンオキサイド付加物、2−プロペン−1−オール(アリルアルコール)のアルキレンオキサイド付加物やそのエーテル等を挙げることができる。また、ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートとしては、具体的にはポリエチレングリコールモノメタクリレート、ポリエチレングリコールモノアクリレート、ポリプロピレングリコールモノメタクリレート、ポリプロピレングリコールモノアクリレート、ポリエチレンポリプロピレングリコールモノメタクリレート、ポリエチレンポリプロピレングリコールモノアクリレート、等を挙げることができる。
【0024】
また本発明の共重合体は、単量体としてポリアルキレンポリアミン(化合物p)と二塩基酸または二塩基酸と炭素原子数1ないし4の低級アルコールとのエステル(化合物q)とアクリル酸もしくはメタクリル酸またはアクリル酸もしくはメタクリル酸と炭素原子数1ないし4の低級アルコールとのエステル(化合物r)とを特定の割合で縮合させたポリアマイドポリアミンに、アルキレンオキサイド(化合物s)を特定量付加させた化合物を共重合することもできる。
【0025】
化合物pのポリアルキレンポリアミンとして、例えばジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ジプロピレントリアミン、トリプロピレンテトラミン、テトラプロピレンペンタミン等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0026】
化合物qの二塩基酸およびその炭素原子数1ないし4の低級アルコールエステルとして、例えばマロン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、フタル酸、アゼライン酸、セバシン酸、またはこれらの炭素原子数1ないし4の低級アルコール、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールまたは存在する場合にはそれらの異性体とのエステルを挙げることができる。その中でも効果と経済性の点からアジピン酸が最も好ましい。
【0027】
化合物rのアクリル酸またはメタクリル酸およびその炭素原子数1ないし4の低級アルコールエステルとして、例えばアクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、メタクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル等が挙げられる。
【0028】
上記の化合物p、qおよびrの3成分からなるポリアマイドポリアミンは公知の縮重合技術により容易に得ることができる。また、ポリアマイドポリアミンのアミノ残基に付加させる化合物sである炭素原子数2ないし4のアルキレンオキサイドとはエチレンオキサイド、プロピレンオキサイドまたはブチレンオキサイドである。これらアルキレンオキサイドは1種類のみを用いても、2種以上を併用してもよい。
【0029】
ポリアマイドポリアミンの製造、すなわち化合物p、qおよびrの縮重合反応には、例えば、最初に化合物pと化合物qのみを縮重合させ、しかる後に一塩基酸である化合物rを加えて更に縮重合を継続させる2段反応法、または最初から化合物p、qおよびrを同時に混合して縮重合を行わせる一括反応法等がある。しかしながら、いずれの方法を用いるにしてもこの縮重合反応すなわちアマイド化反応はアマイド交換反応と並行して進行するため、最終的には化合物cに由来するアクリル酸残基またはメタクリル酸残基はポリアマイド鎖の末端に位置することになり、同じ結果を与えるとみなしてよい。
【0030】
次に、ポリアマイドポリアミンを構成する上記3成分の反応モル比について説明する。化合物p(ポリアルキレンポリアミン)1.0モルに対する化合物q(二塩基酸またはそのエステル)の反応比は0.5〜0.95モルである。この範囲のモル比で反応させた化合物pと化合物qの縮重合物は平均的には(ポリアルキレンポリアミン2モル:二塩基酸1モル)〜(ポリアルキレンポリアミン20モル:二塩基酸19モル)の縮重合によって構成される一定範囲の鎖長を有するポリアマイドとなり、このことより、これを用いて得られる分散剤は高い減水性およびスランプフローの持続性を発揮する。このポリアマイドの鎖長がこれよりも短い場合(上記反応比が0.5モル未満の場合)には、一定のポリアマイドポリアミン構造が得られない。また、鎖長がこれより長い場合(上記反応比が0.95モルを越える場合)には減水性がかなり低下し、好ましくない。
【0031】
ポリアマイドポリアミンに付加させるアルキレンオキサイドの量はポリアマイドポリアミンのアミノ残基1当量に対し0〜8モルである。8モルを越えると化合物Aの分子量が大きくなるためにカチオン当量が低下し、本発明の両性型ポリマーとしての十分な効果が得られない。本発明においては、上記アルキレンオキサイドの付加が行われることが好ましく、その量は好ましくはポリアマイドポリアミンのアミノ残基1当量に対し0.5〜6.0モル、特に好ましくは1.0〜5.5モルである。
【0032】
<共重合比>
共重合体(A)を得る際の前記単量体(a)〜(c)の共重合比は質量基準で(a):(b):(c)=50〜95%:5〜50%:0〜40%が好ましく、(a):(b):(c)=70〜90%:10〜30%:0〜20%がより好ましい。
【0033】
<(d)ポリアルキレングリコールアルケニルエーテル>
本発明の(d)ポリアルキレングリコールアルケニルエーテルは、下記一般式(3)で表すことができる。
【化4】

(式中、R、R、R、Rはそれぞれ独立して水素原子又は炭素原子数1乃至22の炭化水素基を表し、Xは―(CH)jO―を表し、AOは炭素原子数2乃至4のアルキレンオキサイド基を表す。kはアルキレンオキサイドの平均付加モル数で1乃至200の数を表し、jは1乃至20の整数を表す。)
【0034】
また上記式において、AOは炭素原子数2であるエチレンオキサイド、又は二種以上のアルキレンオキサイドから構成されることが好ましく、この場合ブロック付加又はランダム付加の何れでも良い。二種以上のアルキレンオキサイドを用いる場合、kで表されるアルキレンオキサイド平均付加モル数において、炭素原子数3又は4のアルキレンオキサイドが0.1〜30mol%未満を占めることが好ましい。特に、炭素原子数3又は4のアルキレンオキサイドのうち、0.1〜20mol%未満をアルキレンオキサイド鎖の末端側(Rとの結合位)に配置することが、減水性、保持性、コンクリート粘性等の性能面を改良する点から望ましい。
【0035】
さらに、上記式において、Rは特に水素原子、炭素原子数1乃至6の炭化水素基(メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、フェニル基等)であることが好ましい。
【0036】
上記単量体(d)としては、例えば、ポリアルキレングリコールモノアリルエーテル、ポリアルキレングリコールモノアルケニルエーテル、メトキシポリアルキレングリコールモノアリルエーテル、メトキシポリアルキレングリコールモノアルケニルエーテルなどの(アルコキシ)ポリアルキレングリコールと炭素原子数3〜8のアルケニルエーテルより形成されるアルケニルエーテル類、不飽和脂肪族アルコールアルキレンオキサイド付加物である不飽和脂肪族エーテル類等。具体的には3−メチル−3−ブテン−1−オールのアルキレンオキサイド付加物や、2−メチル−2−プロペン−1−オール(メタリルアルコール)のアルキレンオキサイド付加物、2−プロペン−1−オール(アリルアルコール)のアルキレンオキサイド付加物やそのエーテル等を挙げることができる。これらのうち、最も好ましい化合物の具体例は、3−メチル−3−ブテン−1−オールのアルキレンオキサイド付加物である。これら化合物のうち単独あるいは複数の組合せでもよい。
【0037】
<(e)α,β−不飽和カルボン酸又はその塩>
(e)α,β−不飽和カルボン酸又はその塩としては、具体的には(b)で例示したものが挙げられるが、減水性及びスランプ保持性の点で好ましくはフマル酸、アクリル酸である。特にフマル酸を、単量体(e)の全質量において、好ましくは10乃至100質量%、更に好ましくは20〜100質量%、特に好ましくは30〜100質量%、もっとも好ましくは50〜100質量%の割合で含むことが、減水性及びスランプ保持性の面で好ましい。単量体(e)は酸の形態でも中和された形態でも良いが、部分中和又は完全中和された形態が製品形態として好ましい。
【0038】
<各単量体の共重合比>
上述の単量体(d)及び単量体(e)からなる共重合体(B)において、それらの共重合比は質量基準で(d):(e)=95〜60%:5〜40%、好ましくは(d):(e)=90〜70%:10〜30%、特に好ましくは(d):(e)=90〜80%:10〜20%の範囲にあることが好ましい。
【0039】
<(f)その他の共重合可能な単量体>
(f)その他の共重合可能な単量体としては、(c)で例示したものの他、α,β−不飽和カルボン酸の誘導体が含まれる。具体的には、α,β−不飽和カルボン酸と下記一般式(4)で表される化合物との部分又は全エステル(f−1)が挙げられる。
−O−(AO)n−H (4)
(式中、Rは水素原子又は炭素原子数1乃至22の炭化水素基を表し、AOは炭素原子数2乃至4のアルキレンオキサイド基、nはアルキレンオキサイドの平均付加モル数で0乃至200の数を表す。二種以上のアルキレンオキサイドを用いる場合にはブロック付加、ランダム付加何れの形態であっても良い。)
【0040】
具体的には、メトキシポリエチレングリコールモノフマレート、メトキシポリプロピレングリコールモノフマレート、メトキシポリエチレンポリプロピレングリコールモノフマレート、メトキシポリエチレングリコールジフマレート、メトキシポリプロピレングリコールジフマレート、メトキシポリエチレンポリプロピレングリコールジフマレート、メトキシポリエチレングリコールモノマレート、メトキシポリプロピレングリコールモノマレート、メトキシポリエチレンポリプロピレングリコールモノマレート、メトキシポリエチレングリコールジマレート、メトキシポリプロピレングリコールジマレート、メトキシポリエチレンポリプロピレングリコールジマレート、メトキシポリエチレングリコールモノアクリレート、メトキシポリプロピレングリコールモノアクリレート、メトキシポリエチレンポリプロピレングリコールモノアクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート、メトキシポリプロピレングリコールモノメタクリレート、メトキシポリエチレンポリプロピレングリコールモノメタクリレート、アクリル酸−2−ヒドロキシエチルなどが挙げられる。
上記の中でも、特にフマル酸エステル化合物、具体的には、メトキシポリエチレングリコールモノフマレート、メトキシポリプロピレングリコールモノフマレート、メトキシポリエチレンポリプロピレングリコールモノフマレート、メトキシポリエチレングリコールジフマレート、メトキシポリプロピレングリコールジフマレート、メトキシポリエチレンポリプロピレングリコールジフマレートを用いることが、減水性及びスランプ保持性の面で好ましい。
【0041】
上記単量体(f−1)の共重合比は、質量基準で(単量体(d)及び(e)):単量体(f−1)=100〜70%:0〜30%の範囲(但し合計100%)にあることが好ましい。
【0042】
α,β−不飽和カルボン酸の誘導体としてはまた、下記一般式(5)で表される単量体(f−2)が挙げられる。
【化6】

(式中、Zは二塩基酸とポリアルキレンポリアミンを縮合させたポリアミドポリアミン及び/又は該ポリアミドポリアミンの活性イミノ基、アミノ基、アミド残基1当量に対して炭素原子数2乃至4のアルキレンオキサイドを0.1乃至10モル付加させたポリアミドポリアミン変性物が、アミド結合を介して主鎖の炭素原子と結合する基を表す。)
【0043】
上記単量体において、Zを構成する上記二塩基酸としては総炭素原子数が2乃至10の脂肪族飽和二塩基酸、例えばシュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等が挙げられ、また、Zを構成する上記ポリアルキレンポリアミンとしてはエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ヘキサエチレンヘプタミン、あるいはエチレン単位と窒素原子を多く含む混合体である高分子ポリエチレンポリアミンの混合物等を挙げることができる。
【0044】
上記単量体は、これら二塩基酸とポリアルキレンポリアミンの縮合物であるポリアミドポリアミン及び/又は、該ポリアミドポリアミンの活性イミノ基、アミノ基、アミド残基1当量に対して、炭素原子数2乃至4のアルキレンオキサイドを0.1乃至10モル付加させたポリアミドポリアミン変性物が、無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸とアミド結合を介し、結合してなるものである。これらポリアミドポリアミン又はポリアルキレンオキサイド変性ポリアミドポリアミンは水溶液で塩基性を示す性質を有するものもある為、ポリカルボン酸系重合体の中和剤として作用することもある。
【0045】
また、単量体(d)乃至単量体(f−2)からなる共重合体(B)の共重合比は、質量基準で(d):(e):(f−2)=90〜50%:8〜40%:2〜10%、好ましくは(d):(e):(f−2)=90〜60%:8〜30%:2〜7%の範囲(但し、合計は100%である。)にあることが好ましい。
【0046】
<ポリアミドポリアミン及び/またはポリアミドポリアミン変性物>
本発明の水硬性組成物用混和剤は、上記ポリカルボン酸系重合体に加え、二塩基酸とポリアルキレンポリアミンを縮合させたポリアミドポリアミン及び/又は該ポリアミドポリアミンの活性イミノ基、アミノ基、アミド残基1当量に対して炭素原子数2乃至4のアルキレンオキサイドを0.1乃至10モル付加させたポリアミドポリアミン変性物を含有することが、コンクリート粘性を改良する点で好ましい。
これらポリアミドポリアミン及び/またはポリアミドポリアミン変性物の含有比率は、上記ポリカルボン酸系重合体:ポリアミドポリアミン及び/またはポリアミドポリアミン変性物=98乃至90質量%:2乃至10質量%の範囲にあることが好ましい。
【0047】
上記ポリアミドポリアミンを構成するポリアルキレンポリアミンとしては、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ヘキサエチレンヘプタミン、あるいはエチレン単位と窒素原子を多く含む混合体である高分子ポリエチレンポリアミンの混合物等や、ポリエチレンイミン、ポリプロピレンイミン、ポリ−3−メチルプロピルイミン、ポリ−2−エチルプロピルイミン等の環状イミンの重合体、ポリビニルアミン、ポリアリルアミンの如き不飽和アミンの重合体等が挙げられる。更にポリアルキレンポリアミンは、エチレンイミン、プロピレンイミン、3−メチルプロピルイミン、2−エチルプロピルイミン等の環状イミン、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルフタルイミド等の不飽和アミド、不飽和イミドと、これらと共重合可能な不飽和化合物との共重合体であってもよい。環状イミン、不飽和アミド、不飽和イミド等と共重合可能な不飽和化合物としては、例えばジメチルアクリルアミド、スチレン、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸、メタクリル酸、スチレンスルホン酸やこれらの塩、エチレンスルフィドやプロピレンスルフィド等の環状スルフィド化合物、オキセタン、モノ又はビスアルキルオキセタン、モノ又はビスアルキルクロロメチルオキセタン、テトラヒドロフラン、モノ又はビスアルキルテトラフロロフラン等の環状エーテル類、1,2−ジオキソフラン、トリオキソフラン等の環状ホルマール類、N−メチルエチレンイミン等のN置換アルキルイミン等が挙げられる。
【0048】
上記ポリアミドポリアミンを構成する二塩基酸としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等の総炭素原子数が2乃至10の脂肪族飽和二塩基酸が挙げられる。
二塩基酸としてその誘導体も使用可能であり、例えば二塩基酸無水物(例えば上記二塩基酸の無水物)、二塩基酸エステル(例えば上記二塩基酸のモノメチルエステル、モノエチルエステル、モノブチルエステル、モノプロピルエステル、ジメチルエステル、ジエチルエステル、ジブチルエステル、ジプロピルエステル等)、又は二塩基酸ジハライド(前記二塩基酸の二塩化物、二臭素化物、二ヨウ化物等)を挙げることができる。
【0049】
また上記ポリアミドポリアミン変性物とは、上記ポリアミドポリアミンの活性イミノ基、アミノ基、アミド残基1当量に対し炭素原子数2乃至4のアルキレンオキサイドを0.1乃至10モル付加せしめた化合物を示す。すなわち、このアルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド等が挙げられ、これらは単独もしくは混合して用いることができ、2種以上のアルキレンオキサイドを用いる場合にはブロック状に重合していてもランダムに重合していても良い。
【0050】
本発明の共重合体を得るための製造方法としては、特に限定されず、例えば、重合開始剤を用いての溶液重合や塊状重合等の公知の重合方法が応用できる。
【0051】
溶液重合方法は回分式でも連続式でも行うことができ、その際使用される溶媒としては、水、アルコール類:メタノール、エタノール、イソプロパノールなど、芳香族あるいは脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、n−ヘキサンなど、エステルまたはケトン化合物類;酢酸エチル、アセトン、メチルエチルケトンなど、環状エーテル化合物類;テトラヒドロフラン、ジオキサンなどが挙げられるが原料単量体および得られる共重合体の溶解性から水および炭素原子数1〜4の低級アルコールよりなる群から選ばれた少なくとも1種を用いることが好ましく、その中でも水を溶媒に用いることがさらに好ましい。
【0052】
水溶液重合を行う場合は、ラジカル重合開始剤として、水溶性の重合開始剤、たとえば、過硫酸塩類;過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウムなど、過酸化水素、アゾアミジン化合物類;2,2’−アゾビス−2−メチルプロピオンアミジン塩酸塩など、環状アゾアミジン化合物類;2,2’−アゾビス−2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン塩酸塩など、水溶性アゾ系類;2−カルバモイルアゾイソブチリロニトリル等のアゾニトリル化合物のなどが使用され、この際、亜硫酸水素ナトリウム等のアルカリ金属亜硫酸塩、メタ二亜硫酸塩、次亜燐酸ナトリウム、モール塩等のFe(II)塩、ヒドロキシメタンスルフォン酸ナトリウム二水和物、ヒドロキシルアミン塩類、チオ尿素、L−アスコルビン酸(塩)、エリソルビン酸(塩)などの促進剤を併用することもできる。
【0053】
また、低級アルコール、芳香族あるいは脂肪族炭化水素、エステル化合物、あるいはケトン化合物を溶媒とする溶液重合には、パーオキシド類;ベンゾイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、ナトリウムパーオキシドなど、ハイドロパーオキシド類;t−ブチルハイドロパーオキシド、クメンハイドロパーオキシドなど、アゾ化合物類;アゾビスイソブチリロニトリルなどがラジカル重合開始時として用いられる。この際、アミン化合物等の促進剤を併用することもできる。さらに、水−低級アルコール混合溶媒を用いる場合には、上記の種々のラジカル重合開始剤あるいはラジカル重合開始剤と促進剤の組み合わせから適宜選択して用いることができる。
【0054】
塊状重合を行う場合は、ラジカル重合開始剤としてパーオキシド類;ベンゾイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、ナトリウムパーオキシドなど、ハイドロパーオキシド類;t−ブチルハイドロパーオキシド、クメンハイドロパーオキシドなど、アゾ化合物類;アゾビスイソブチリロニトリルなどが用いられる。
【0055】
共重合の際の反応温度は特に制限はないが、例えば過硫酸塩を開始剤とした場合は反応温度が30〜95℃の範囲が適当である。
【0056】
共重合の際には連鎖移動剤を用いることができる。連鎖移動剤としては、メルカプトエタノール、チオグリセロール、チオグリコール酸、2−メルカプトプロピオン酸、3−メルカプトプロピオン酸、チオリンゴ酸、チオグリコール酸オクチル、3−メルカプトプロピオン酸オクチル、2−メルカプトエタンスルホン酸等のチオール系連鎖移動剤等を用いることができ、2種類以上の連鎖移動剤の併用も可能である。
【0057】
共重合の際の重合時間は、特に限定されないが、例えば、0.5〜10時間の範囲が適当であり、好ましくは0.5〜8時間、さらに好ましくは0.5〜6時間の範囲が良い。重合時間がこの範囲より短すぎたり長すぎたりすると、重合率の低下や生産性の低下をもたらし好ましくない。
【0058】
共重合の際の滴下方法は特に限定されないが、各単量体の一部または全量を反応容器に仕込み開始剤等を滴下する方法、各単量体の1種以上を反応容器に仕込みその他単量体、開始剤、連鎖移動剤等を滴下する方法、また単量体の混合物、ラジカル重合開始剤、連鎖移動剤を各々滴下する方法、各単量体と連鎖移動剤の混合物、ラジカル重合開始剤を各々滴下する方法が挙げられる。また各単量体の反応性に合わせて、各単量体の仕込みタイミングをずらすことも一般的に行われる手法である。
【0059】
上記の製造方法により得られる共重合体は、酸性のままでもセメント分散剤として適用することができるが、酸性によるエステルの加水分解を抑制する観点から、アルカリによる中和によって塩の形にすることが好ましい。このアルカリとしては、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、アンモニア、モノ、ジ、トリアルキル(炭素原子数2〜8)アミン、モノ、ジ、トリアルカノール(炭素原子数2〜8)アミン等を挙げることができる。本発明の共重合体をセメント分散剤として使用する場合は、一部又は完全中和することが好ましい。本発明における共重合体の塩とは、この酸型の共重合体を一部又は完全中和した塩のことをいう。なお、酸型の共重合体には、単量体(b)或いは(e)として一部塩を用いて得られる共重合体混合物も含まれる。
【0060】
最終的に得られる本発明の共重合体は、重量平均分子量(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(以下「GPC法」と呼ぶ)、ポリエチレングリコール換算)で1,000〜100,000の範囲が適当であり、この範囲を外れると減水性が著しく低下するか、あるいは所望のスランプロス低減効果を得ることができない。より好ましくは、重量平均分子量が5,000〜30,000の範囲であることが、更に減水性を発現するため望ましい。また水溶液重合においてラジカル重合開始剤等の種類及び/又は使用量を調整することにより、分子量を制御することが可能である。さらに、連鎖移動剤等を併用すれば分子量分布の制御を行うことも可能であるが、前述のアルキレンオキサイドの付加モル数が少ないものの含有割合を低減したポリアルキレングリコールアルキルエーテルと不飽和カルボン酸のエステル化合物を用いることで、分子量分布が狭くなることを確認しており、本発明の効果と何らかの関連性があることが推測される。なお、本発明において、「重合体」とは、重合体そのもののみでもよく、或いは、各々の重合工程、アルキレンオキサイド付加工程等で発生した未反応成分、副反応物も含めた成分も包含して広義に重合体としてもよい。
【0061】
本発明の水硬性組成物用混和剤の用途を挙げると、例えばセメント分散剤、各種コンクリート製品用添加剤、グラウト用添加剤、コンクリート補修材料用添加剤、石膏ボード用添加剤、水硬性セルフレベリング用添加剤、セメント石膏複合材料用添加剤に用いることができる。
【0062】
本発明の水硬性組成物用混和剤をセメント分散剤として使用する場合、種々のコンクリート製造条件に応じ、好適な公知公用の混和剤等を採用して組合せ、セメント混和剤とすることができる。具体的には、本発明のセメント分散剤以外のセメント分散剤、空気連行剤、凝結遅延剤、促進剤、分離低減剤、増粘剤、消泡剤、収縮低減剤等である。なお、本発明の共重合体からなるセメント分散剤とは、上述のポリカルボン酸系重合体以外に公知公用の混和剤を配合しセメント混和剤とした形態、又はコンクリート製造時に上述のポリカルボン酸系重合体と公知公用の混和剤が別々に添加され最終的にコンクリート中で混合される形態の何れをも含む。以下公知公用の混和剤を例示する。
【0063】
一般にセメント分散剤は、コンクリートの製造条件及び性能要求等に応じて、適宜組み合わされ使用される。本発明のセメント分散剤の場合も同様であり、セメント分散剤として単独、あるいは主剤として使用されるものであるが、スランプロスの大きいセメント分散剤の改質助剤として、或いは、初期減水性が高いセメント分散剤として併用して使用され得るものである。本発明以外の公知のセメント分散剤としては先に挙げた特許文献1のほか、特許2628486号公報、特許第2774445号公報、特許第3235002号公報、特許第3336456号公報、特許第3780456号公報などのポリカルボン酸系共重合体の塩があり、またナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物の塩、メラミンスルホン酸ホルマリン縮合物の塩、リグニンスルホン酸塩、グルコン酸ソーダ、糖アルコールも挙げられる。本発明のセメント分散剤と本発明以外のセメント分散剤との配合割合は1:99〜99:1質量%である。
【0064】
空気連行剤を具体的に例示すると<1>アニオン系空気連行剤、<2>ノニオン系空気連行剤、及び<3>両性系空気連行剤が挙げられる。<1>アニオン系空気連行剤としては高級アルコール(又はそのアルキレンオキサイド付加物)の硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ロジン石鹸などの樹脂石鹸塩、高級アルコール(又はそのアルキレンオキサイド付加物)の燐酸エステル塩など、<2>ノニオン系空気連行剤としてはアルキレングリコール、高級アルコールのアルキレンオキサイド付加物、脂肪酸とアルキレングルコールとのエステル、糖アルコールのアルキレングルコール付加物など、<3>アニオン、カチオンからなる両性系空気連行剤としてはアルキルベタイン型、アルキルアミドベタイン型、アミノ酸系両性活性剤型などが挙げられる。本空気連行剤の好ましい添加量はセメント分散剤に対し0.001〜0.03質量%である。
【0065】
凝結遅延剤を例示すると、<1>無機質系凝結遅延剤:リン酸塩、珪フッ化物、酸化亜鉛、炭酸化亜鉛、塩化亜鉛、一酸化亜鉛、水酸化銅、マグネシア塩、ホウ砂、酸化ホウ素、<2>有機質系凝結遅延剤:ホスホン誘導体、糖類やその誘導体、オキシカルボン酸塩、リグニンスルホン酸塩が挙げられ、さらに詳しく例示するとホスホン誘導体:アミノトリ(メチレンホスホン酸)、アミノトリ(メチレンホスホン酸)5ナトリウム塩、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)及びアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩のホスホン酸及びその誘導体、糖類:サッカロース、マルトース、ラフィノース、ラクトース、グルコース、フラクトース、マンノース、アラビノース、キシロース、アビトース、リポーズ、オキシカルボン酸塩:グルコン酸、クエン酸、グルコヘプトン酸、リンゴ酸、酒石酸、これらのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩が挙げられる。本凝結遅延剤の好ましい添加量はセメント等の結合材料に対して0.01〜1.5質量%である。
【0066】
促進剤を例示すると塩化カルシウム、亜硝酸カルシウムなどで代表される無機系促進剤、アルカノールアミンなどで代表される有機系促進剤が挙げられる。本促進剤の好ましい添加量はセメント等の結合材料に対して0.5〜5質量%である。
【0067】
増粘剤・分離低減剤を例示すると、<1>セルロース系水溶性高分子:セルロースエーテル(MCなど)、<2>ポリアクリルアミド系水溶性高分子:ポリアクリルアミド、<3>バイオポリマー:カードラン、ウエランガム、<4>非イオン系増粘剤:ポリアルキレングリコールの脂肪酸ジエステル、ポリアルキレングリコールのウレタン縮合物などが挙げられる。本増粘・分離低減剤の好ましい配合割合はコンクリート組成物に対し0.01〜0.5質量%である。
【0068】
消泡剤を例示すると脂肪族アルコールアルキレンオキサイド付加物、脂肪酸アルキレンオキサイド付加物、アルキレンオキサイドジ脂肪酸エステル、多価アルコールアルキレンオキサイド付加物、ポリアルキレンポリアミンアルキレンオキサイド付加物等の非イオン系消泡剤類、シリコーンオイルをエマルションとしたシリコーン系消泡剤類、高級アルコールをエマルションとした高級アルコール類、これらを主成分とした混合物などが挙げられる。本消泡剤の好ましい添加量はセメント分散剤に対し0.001〜1質量%である。
【0069】
収縮低減剤を例示するとポリアルキレングリコール、低級アルコールアルキレンオキサイド付加物、これらが油性である場合はエマルションとしたものであり、好ましい添加量はセメント等の結合材料に対し0.1〜5質量%である。
【0070】
本発明のセメント分散剤はコンクリートの材料を含めた配合条件によりその添加量が変わるが、セメント質量に対し固形分換算で通常0.05〜5.0質量%程度添加される。減水性、スランプフロー保持性を得るためには添加量が多いほど良いが、多過ぎると凝結遅延を起こし、場合によっては硬化不良を引き起こす。使用方法は一般のセメント分散剤の場合と同様であり、コンクリート混練時に原液添加するか、予め混練水に希釈して添加する。あるいはコンクリート又はモルタルを練り混ぜた後に添加し、再度均一に混練しても良い。ここで、セメント分散剤以外の成分は従来慣用のコンクリート用成分であり、セメント(例えば普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、低熱・中庸熱ポルトランドセメント又は高炉セメント等)、骨材(すなわち細骨材及び粗骨材)、混和材(例えばシリカフューム、炭酸カルシウム粉末、高炉スラグ粉末)、膨張材及び水を挙げることができる。また本発明のセメント分散剤以外の混和剤で調合時に別に添加できる混和剤としては、前記の公知公用の空気連行剤、凝結遅延剤、促進剤、分離低減剤、増粘剤、消泡剤、収縮低減剤等があり、これらも適宜配合し得る。それら各成分の配合割合は選択された成分の種類や使用目的に応じて適宜決定され得る。
【実施例】
【0071】
次に、実施例に基づいて本発明をより詳しく説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。なお、特に記載のない限り、以下に示す%は質量%を表す。
【0072】
<ガスクロマトグラフィー(GC)測定条件>
装置:GC−2010、AOC−20i((株)島津製作所社製)
カラム:DB−1701(J&Wscientific社製)、長さ:30.0m、カラムオーブン:170℃、
キャリアガス:He、全流量:33.3ml/min、注入量:0.8μL
昇温レート:10℃/min、ホールド温度/時間:170℃/17min、220℃/5min、280℃/15min
検出器:FID、検出器温度:300℃、気化室温度:280℃、空気流量:400ml/min、水素流量:40ml/min
【0073】
<液体クロマトグラフィー(LC)測定条件>
装置:LC20A((株)島津製作所社製)
カラム:東ソー(株)製ODSカラム
移動相:水/メタノール=80/20〜50/50(vol%)
検出器:RID
【0074】
<ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定条件>
カラム:OHpak SB−802.5HQ、OHpak SB−803HQ、OHpak SB−804HQ(昭和電工(株)(製)
溶離液:50mM硝酸ナトリウム水溶液とアセトニトリルの混合液(体積比80/20)
検出器:示差屈折計、検量線:ポリエチレングリコール
【0075】
<ポリエチレングリコールモノメチルエーテルの製造>
(合成例1)
窒素およびエチレンオキサイド導入管を備えたステンレス製オートクレーブにメタノール140部を仕込み、次いでナトリウムメトキシド0.10部を仕込んだ。その後系内の窒素置換を行い、反応温度120℃にてエチレンオキサイド545部を導入し、その後125℃45分間の熟成を行い、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル合成液678部を得た。合成液を蒸留することによりエチレンオキサイドの付加モル数が3モル以下の留分を除去し、化合物a1を得た。この化合物の組成をGCで測定したところ、エチレンオキサイドの付加モル数が3モル以下のポリエチレングリコールモノメチルエーテルの含有率は0.5%であった。また、平均分子量は230であった。
【0076】
(比較合成例)
合成例1と同様の装置と反応条件で、メタノール112部、ナトリウムメトキシド0.10部、エチレンオキサイド573部を導入し、ポリエチレングリコールモノメチルエーテルx1の合成液680部を得た。この化合物の組成をGCで測定したところ、エチレンオキサイドの付加モル数が3モル以下の含有率は、32.8%であった。また、平均分子量は230であった。
x1と同様にして、ポリエチレングリコールモノメチルエーテルx2(平均分子量400)、同x3(平均分子量1,000)を得た。
【0077】
(合成例2)
前記化合物a1に対し、同様の装置にて触媒としてナトリウムメトキシドを用い、エチレンオキサイドを付加し、ポリエチレングリコールモノメチルエーテルa2を得た。この化合物の分子量を水酸基価を測定して算出したところ400であった。
【0078】
ここで、平均分子量が同じである比較例合成例で合成したポリエチレングリコールモノメチルエーテルx2と、合成例2で合成した同a2の、エチレンオキサイドの付加モル数分布をLCを用いて分析した結果を図1に示す。
図1に示すように、ポリエチレングリコールモノメチルエーテルa2の方が、同x2と比べて、より狭く鋭い付加モル数分布になっていることが確認された。
【0079】
(合成例3)
合成例1と同様のメタノールとエチレンオキサイドの仕込み比率、同様の装置と反応条件にて合成と蒸留を行い、化合物a3を得た。エチレンオキサイドの付加モル数が3モル以下の含有率は3.6%、GC測定による平均分子量は230であった。
【0080】
<単量体(a)の製造>
合成例1〜3又は比較合成例で得られたポリエチレングリコールモノメチルエーテル(a1〜a3、x1〜x3)とアクリル酸又はメタアクリル酸とを常法により脱水エステル化し、ポリエチレングリコールモノメチルエーテルのメタクリル酸エステル又はアクリル酸エステルを得た。
なお、後述する重合体の製造に用いたポリエチレングリコールモノメチルエーテルのアクリル酸エステル又はメタクリル酸エステルについて表1に示す。
【0081】
<その他共重合可能な単量体(c)の製造>
(合成例4:単量体c1及びc2の合成)
合成例1に記載されたものと同様の装置を使用し、メタノールに対して触媒としてナトリウムメトキシドを用いてエチレンオキサイドを付加し、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(分子量:1,000及び2,000)を得た。
これらをメタクリル酸と常法により脱水エステル化し、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(単量体c1及びc2)を得た。
【0082】
(合成例5:単量体c3の合成)
分子量が4,000であるポリエチレングリコールモノメチルエーテルとメタクリル酸を常法により脱水エステル化し、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(単量体c3)を得た。
【0083】
(合成例6:単量体c4の合成)
撹拌機付き反応容器にポリアルキレンポリアミン「ポリエイト」(東ソー(株)製)250部、アジピン酸86部を仕込み、窒素の導入による窒素雰囲気下で撹拌混合した。150℃になるまで昇温し、縮重合反応に伴い生成する脱水物を反応系外へと追い出しながら、酸価が18となるまで20時間反応させた。次にハイドロキノンメチルエーテル1.7部、メタクリル酸2.5部を仕込み、同温度で10時間反応させた。これにより反応留出水の合計21部と共にポリアマイドポリアミン318部を得た。このポリアマイドポリアミン全量を水414部に溶解させ温度50℃となるまで昇温した。同温度でエチレンオキサイド239部を2時間かけて逐次導入し、その後2時間の熟成を行い、目的物であるポリアマイドポリアミンエチレンオキサイド付加物(単量体c4)971部を得た。
【0084】
(単量体c5)
単量体c5として、3−メチル−3−ブテン−1−オールのエチレンオキサイド付加物(分子量:1,200)を使用した。
【0085】
(単量体c6)
単量体c6として、メトキシポリエチレングリコールジフマレート(分子量約500)を使用した。
【0086】
<共重合体A1〜A9、P1〜P4の調製>
(製造例6:共重合体A1の調製)
窒素導入管、撹拌機、温度計を備えた反応容器に水330部を仕込み、窒素を導入し反応容器内部を窒素雰囲気下とし温度が80℃になるまで昇温した。そこへ、ポリエチレングリコールモノメチルエーテルa1のメタクリル酸エステルを308部、メタクリル酸76.8部を水87部に溶解した混合液と、10%チオグリコール酸水溶液63部、10%過硫酸ナトリウム水溶液81部の3液を反応容器内に3時間かけて滴下した。滴下終了後、同温にて2時間熟成したのちに水酸化ナトリウムにて化合物を中和し、共重合体A1を984部得た。化合物の重量平均分子量(Mw)をGPCにて測定したところ、6,800であった。
【0087】
共重合体A1と同様の工程にて、表2に示す構成の共重合体A2乃至A9並びに比較共重合体P1乃至P4を得た。なお、表2中の成分(a)における括弧内の数字は、成分(a)における使用したメトキシポリエチレングリコールの(メタ)アクリル酸エステルの質量割合を示すものである。
【0088】
<共重合体B1〜B5の調製>
(製造例1:共重合体B1の調製)
窒素導入管、撹拌機、温度計付きステンレス製オートクレーブに3−メチル−3−ブテン−1−オール50EO2PO付加物(MBO50EO2PO)400部(ブロック付加物)、イオン交換水286部、フマル酸62.6部を撹拌しながら仕込んだ。充分に窒素置換を行い、60℃まで昇温させた後、過硫酸ナトリウム14%水溶液22.2部を仕込み、同温度を維持しながら6時間反応させた。反応終了後80℃まで昇温し、1時間撹拌を継続した。次いで単量体C4を37.9部、イオン交換水164部を添加し、更に1時間撹拌した。重合液を50℃まで冷却し、48%苛性ソーダ水溶液を用いて中和し、共重合体B1を998部得た。化合物の重量平均分子量(Mw)をGPCにて測定したところ、26,000であった。
【0089】
(製造例2:共重合体B2の調製)
製造例1と同様の装置に、3−メチル−3−ブテン−1−オールの55EO付加物434部、イオン交換水286部、過硫酸ナトリウム14%水溶液22.2部を仕込み、60℃まで昇温させた後、アクリル酸47.6部を3時間かけて滴下した。滴下終了後、80℃まで昇温し、1時間撹拌を継続した。重合液を50℃まで冷却し、48%苛性ソーダ水溶液を用いて中和し、共重合体B2を811部(Mw:31,000)を得た。
【0090】
(製造例3:共重合体B3の調製)
製造例1と同様の装置に、イオン交換水286部、3−メチル−3−ブテン−1−オールの25EO付加物386部、フマル酸48.3部、単量体c6を48.3部仕込み、60℃まで昇温させた後、過硫酸ナトリウム14%水溶液22.2部を3時間かけて滴下した。滴下終了後、80℃まで昇温し、1時間撹拌を継続した。重合液を50℃まで冷却し、48%苛性ソーダ水溶液を用いて中和し、共重合体B3を820部(Mw:14,000)を得た。
【0091】
(製造例4:共重合体B4の調製)
製造例1と同様の装置に、アリルアルコールの28EO2PO付加物408部、フマル酸36.0部、イオン交換水286部、過硫酸ナトリウム14%水溶液22.2部を仕込み、60℃まで昇温させた後、アクリル酸36.0部を3時間かけて滴下した。滴下終了後、80℃まで昇温し、1時間撹拌を継続した。重合液を50℃まで冷却し、48%苛性ソーダ水溶液を用いて中和し、共重合体B4を811部(Mw:12,000)を得た。
【0092】
(製造例5:共重合体B5の調製)
製造例1と同様の装置に、アリルアルコールの25EO付加物408部、フマル酸39.6部、無水マレイン酸32.4部、イオン交換水286部、過硫酸ナトリウム14%水溶液22.2部を仕込み、60℃まで昇温させた後、同温度を維持しながら6時間反応させた。反応終了後80℃まで昇温し、1時間撹拌を継続した。重合液を50℃まで冷却し、48%苛性ソーダ水溶液を用いて中和し、共重合体B5を810部(Mw:9,500)を得た。
【0093】
<混和剤1〜20、比較混和剤1〜4の調製>
表3に各共重合体を配合して調製した混和剤の組成を記す。表3中に記載されている重量比は、共重合体の固形分比率を表すものである。また、表4には表3に示した混和剤に対し、任意の成分を外割で配合したものを記している。
【0094】
【表1】

【0095】
【表2】

MBO50EO2PO:3−メチル−3−ブテン−1−オールの50EO2PO付加物
MBO55EO:3−メチル−3−ブテン−1−オールの55EO付加物
MBO25EO:3−メチル−3−ブテン−1−オールの25EO付加物
ALO28EO2PO:アリルアルコールの28EO2PO付加物
ALO25EO:アリルアルコールの25EO付加物
FA:フマル酸、Man:無水マレイン酸、AA:アクリル酸
【0096】
【表3】

【0097】
≪フレッシュコンクリート試験≫
前記配合例の混和剤1〜20につき、下記表5に示すコンクリート配合にて、フレッシュコンクリート試験を行った。コンクリートの練り混ぜは55リットル強制二軸ミキサを使用し、粗骨材、セメント、細骨材に、各々の混和剤(1〜20)を予め加え調製した水を加えて、所定の時間練り混ぜを行った。
その後、コンクリートの排出直後に、フレッシュコンクリート試験としてスランプ試験(JIS A 1101)、空気量(JIS A 1128)、凝結性試験(モルタル貫入抵抗が3.5N/mmに達するまでの時間に相当し、これを凝結始発時間としている)、並びにコンクリート粘性評価を行った。
≪圧縮強度試験≫
フレッシュコンクリート試験の項において作製した直後のコンクリートを、φ10×20cmの型枠に充填した。一日封緘養生後、脱型しその後28日間水中養生した供試体について、JIS A 1108に従って28日圧縮強度を測定した。
≪モルタル粘性評価≫
(粘性評価A:流下時間測定)
表6に示した配合によって作製したモルタルを、下部に蓋を備えた上部内径φ70mm、下部内径φ25mm、高さ250mmのロートに充填し、蓋を取り外してからモルタルが流れ落ちきるまでの時間(流下時間)を測定した。この流下時間が短いものほど、施工性に優れるものと評価できる。得られた結果を表7に示す。
(粘性評価B:5打フロー測定)
前記モルタルを上部内径φ50mm、下部内径φ100mm、高さ150mmのミニスランプコーンに充填し、JIS R 5201に規定されるフロー試験に用いられるフローテーブル上でコーンを上方に引き抜き、前記モルタルのスランプを測定した(およそ10cmとなったものをその後の試験に用いた)。その後、フローテーブルを5打した後のモルタルのスランプフローを測定した。得られた結果を表7に示す。
同一スランプ値において5打フローの値が大きいものほど、荷重に対する変形性が高く、すなわち粘性が低いと評価できる。なお、この5打フロー測定による粘性評価の有効性については、森博嗣、谷川恭雄:フレッシュコンクリートの各種コンシステンシー試験方法に関するレオロジー的考察、日本建築学会構造系論文報告集、No.377,pp16−26,1987.7を参照のこと。
【0098】
【表4】

【0099】
【表5】

【0100】
【表6】

【0101】
上記表6に示すとおり、本発明の混和剤1乃至20を用いた実施例1乃至実施例20は、減水性に優れ、凝結遅延がなく、さらにフレッシュコンクリートの粘性が低く練り混ぜが容易にすることができることが分かった。
これに対し、比較混和剤1乃至4を用いた比較例1乃至比較例4は、減水性や凝結時間がやや劣る上、フレッシュコンクリートの粘性、とりわけ30分後の粘性が高く、作業性に劣る結果となった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記単量体(a)乃至(c);
(a)下記一般式(1):
O−(AO)n−H (1)
(式中、Rは炭素原子数1〜12のアルキル基を表し、Aは炭素原子数2〜4のアルキレン基を表し、nはアルキレンオキサイドの付加モル数であって0〜7の整数を表す。)
で表される少なくとも一種の化合物1モルに対し、炭素原子数2〜4のアルキレンオキサイドを0〜10モル付加し、さらに該付加物をα,β−不飽和カルボン酸と反応させて得られるエステル化合物であって、ただし、前記式(1)で表される化合物として、該式(1)で表される化合物全体の質量に基づいてnが3以下の化合物の含有割合が5質量%以下であるものを用いて得られたエステル化合物、
(b)α,β−不飽和カルボン酸又はその塩、及び
(c)必要に応じその他の共重合可能な単量体
を反応して得られる共重合体もしくはその塩と、
(B)下記単量体(d)乃至(f);
(d)ポリアルキレングリコールアルケニルエーテル
(e)α,β−不飽和カルボン酸又はその塩、及び
(f)必要に応じその他の共重合可能な単量体
を反応して得られる共重合体もしくはその塩を含有する水硬性組成物用混和剤。
【請求項2】
(A)下記単量体(a)乃至(c)
(a)下記一般式(2):
【化1】

(式中、Rは炭素原子数1〜12のアルキル基を表し、Rは水素原子又はメチル基を表し、Aは炭素原子数2〜4のアルキレン基を表し、mはアルキレンオキサイドの付加モル数であって0〜15の整数を表す。)
で表される少なくとも一種のエステル化合物であって、該化合物のうちmが3以下の化合物の含有割合が、該化合物全体の質量に基づいて5質量%以下であり、かつ、mの平均値が4.0〜8.5である化合物、
(b)α,β−不飽和カルボン酸又はその塩、及び
(c)必要に応じその他の共重合可能な単量体
を反応して得られる共重合体もしくはその塩と、
(B)下記単量体(d)乃至(f)
(d)ポリアルキレングリコールアルケニルエーテル
(e)α,β−不飽和カルボン酸又はその塩、及び
(f)必要に応じその他の共重合可能な単量体
を反応して得られる共重合体もしくはその塩を含有する水硬性組成物用混和剤。
【請求項3】
前記(A)と(B)の比率が、質量比で(A)/(B)=1/99〜99/1 である請求項1又は2に記載の水硬性組成物用混和剤。

【図1】
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【公開番号】特開2013−82560(P2013−82560A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−221404(P2011−221404)
【出願日】平成23年10月5日(2011.10.5)
【出願人】(000221797)東邦化学工業株式会社 (188)
【Fターム(参考)】