説明

水硬性組成物

【課題】 流動性、水平レベル性、速硬性に優れるとともに、優れた長期強度特性を有するセルフレベリング材(自己流動性水硬性組成物)の提供を目的とする。
【解決手段】 本発明は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分と、凝結調整剤とを含む水硬性組成物であり、凝結調整剤はアルミン酸塩と酒石酸塩と重炭酸塩とを含むことにより、流動性、水平レベル性、速硬性に優れるとともに、優れた長期強度特性を有するセルフレベリング材(自己流動性水硬性組成物)が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流動性、水平レベル性、速硬性に優れるとともに、高い長期強度が得られるセルフレベリング材(自己流動性水硬性組成物)に関する。
【背景技術】
【0002】
0℃以下の低温環境下において、凍害を受けることなく良好な強度発現性を示すセメント組成物として、ポルトランドセメント、CaO−Al2O3系化合物及び無水石膏からなる水硬性セメント組成物とアルカリ金属の炭酸塩、硫酸塩、アルミン酸塩及び塩化物からなる群より選ばれた1種以上の無機塩とを含有する低温硬化用セメント組成物が、特許文献1に開示されている。
また、冬場等の低温時にも良好な作業性を有し、強度の発現が良好で亀裂の発生が起こり難い速硬性セルフレベリング材について、特許文献2には、超速硬セメント、高炉水滓スラグ粉末、珪砂、かんらん石粉末、高性能減水剤、増粘剤からなり、更に凝結調整剤としてオキシカルボン酸又はその塩、アルミン酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、硫酸ソーダからなる薬剤を乾式混合してなる速硬性セルフレベリング材が開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開昭62−288150号公報
【特許文献2】特開平7−69704号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、流動性、水平レベル性、速硬性に優れるとともに、優れた長期強度特性を有するセルフレベリング材(自己流動性水硬性組成物)の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第一は、
アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分と、凝結調整剤とを含む水硬性組成物であり、
凝結調整剤はアルミン酸塩と酒石酸塩と重炭酸塩とを含むことを特徴とする自己流動性水硬性組成物である。
本発明の第二は、
本発明の自己流動性水硬性組成物と水とを混練して得られるモルタルである。
本発明の第三は、
本発明の自己流動性水硬性組成物と水とを混練して得られるモルタルを硬化させて得られる硬化体である。
【0006】
本発明の自己流動性水硬性組成物の好ましい態様を以下に示す。好ましい態様は複数組み合わせることができる。
1)水硬性成分が、アルミナセメント20〜75質量%、ポルトランドセメント10〜55質量%及び石膏5〜38質量%からなる水硬性成分であること。
2)アルミン酸塩はアルミン酸ナトリウムであり、水硬性成分100質量部に対してアルミン酸塩を0.05〜1.5質量部含むこと。
3)酒石酸塩は酒石酸ナトリウムであり、水硬性成分100質量部に対して酒石酸塩を0.05〜1.5質量部含むこと。
4)重炭酸塩は重炭酸ナトリウムであり、水硬性成分100質量部に対して重炭酸塩を0.05〜1.5質量部含むこと。
5)水硬性組成物は、さらに無機成分、流動化剤、増粘剤及び消泡剤から選ばれる成分を少なくとも1種以上を含むこと。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、凝結調節剤としてアルミン酸塩と酒石酸塩と重炭酸塩とを併せて用いることによって、適正な可使時間を確保しつつ、流動性、水平レベル性、速硬性に優れたセルフレベリング材(自己流動性水硬性組成物)を得ることができ、特に長期材齢において緻密なモルタル硬化体組織が形成されることによって、優れた圧縮強度と曲げ強度を有するセルフレベリング材(自己流動性水硬性組成物)のモルタル硬化体が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分と、凝結調整剤とを含む水硬性組成物であり、
凝結調整剤はアルミン酸塩と酒石酸塩と重炭酸塩とを含むことを特徴とする自己流動性水硬性組成物に関する。
【0009】
本発明では、水硬性成分として、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分を用いる。
水硬性成分は、好ましくは
アルミナセメント20〜75質量部、ポルトランドセメント10〜55質量部及び石膏5〜38質量部(アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏の合計は、100質量部である。)からなる組成、
さらに好ましくはアルミナセメント27〜70質量部、ポルトランドセメント15〜50質量部及び石膏10〜36質量部(アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏の合計は、100質量部である。)からなる組成、
より好ましくはアルミナセメント35〜60質量部、ポルトランドセメント20〜46質量部及び石膏13〜34質量部(アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏の合計は、100質量部である。)、
特に好ましくはアルミナセメント38〜52質量部、ポルトランドセメント25〜42質量部及び石膏16〜30質量部(アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏の合計は、100質量部である。)からなる組成
を用いることにより、急硬性を有し、低収縮性又は低膨張性で硬化中の体積変化が少ない硬化体を得られやすいために好ましい。
【0010】
アルミナセメントとしては、鉱物組成の異なるものが数種知られ市販されているが、何れも主成分はモノカルシウムアルミネート(CA)であり、市販品はその種類によらず使用することができる。
【0011】
ポルトランドセメントは、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメントなどのポルトランドセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント、シリカセメントなどの混合セメントなどを用いることができる。
【0012】
石膏は、無水石膏、半水石膏、二水石膏等の各石膏がその種類を問わず、1種又は2種以上の混合物として使用できる。
石膏は、自己流動性水硬性組成物と水とを混練して得られるモルタルが硬化した後の寸法安定性を保持する成分として機能するものである。
【0013】
本発明の自己流動性水硬性組成物は、高炉スラグ微粉末、フライアッシュ及びシリカヒュームから選ばれる少なくとも1種以上の無機成分を含むことが好ましく、特に高炉スラグ微粉末を含むことにより、乾燥収縮による硬化体の耐クラック性を高めることができる。
自己流動性水硬性組成物において、無機成分の添加量は、水硬性成分100質量部に対し、好ましくは10〜350質量部、より好ましくは30〜200質量部、さらに好ましくは50〜150質量部、特に好ましくは70〜130質量部とするのが好ましい。
【0014】
自己流動性水硬性組成物において、高炉スラグ微粉末の添加量は、水硬性成分100質量部に対し、好ましくは10〜350質量部、より好ましくは30〜200質量部、さらに好ましくは50〜150質量部、特に好ましくは70〜130質量部とすることが好ましい。高炉スラグ微粉末の添加量が、少なすぎると硬化体の乾燥収縮が大きくなり、多すぎると初期強度の低下を招くことがある。
高炉スラグ微粉末は、JIS A 6206に規定されるブレーン比表面積3000cm/g以上のものを用いることができる。
【0015】
本発明の自己流動性水硬性組成物では、自己流動性水硬性組成物と水とを混練したモルタルが、適正な可使時間を確保しつつ、良好な流動性と高い水平レベル性と優れた速硬性を得て、さらに長期の硬化過程において緻密な硬化体組織を形成させるために、凝結調整剤としてアルミン酸塩と酒石酸塩と重炭酸塩とを併せて使用する。
【0016】
本発明では凝結遅延剤として酒石酸塩と重炭酸塩とを併せて使用し、水硬性組成物の可使時間と速硬性とを調整することができる。
酒石酸塩としては、酒石酸カリウム、酒石酸ナトリウムカリウム、酒石酸ナトリウム類(酒石酸一ナトリウム、酒石酸二ナトリウム)などを好適に使用でき、重炭酸塩としては、重炭酸カリウム、重炭酸ナトリウムなどを好適に使用できる。
本発明では特に酒石酸ナトリウムと重炭酸ナトリウムとを組合せて使用することにより良好に可使時間を調整することができることから特に好ましい。また、重炭酸ナトリウムや酒石酸一ナトリウムは、凝結遅延効果、入手容易性、価格の面から好ましい。
【0017】
凝結遅延剤として用いる酒石酸塩は、水硬性成分100質量部に対して、
好ましくは0.01〜1.5質量部であり、より好ましくは0.1〜1.2質量部、さらに好ましくは0.15〜1質量部、特に好ましくは0.2〜0.8質量部の範囲で用いることにより好適な流動性が得られる可使時間(ハンドリングタイム)を確保できることから好ましい。
凝結遅延剤として用いる重炭酸塩は、水硬性成分100質量部に対して、
好ましくは0.01〜1.5質量部であり、より好ましくは0.1〜1.2質量部、さらに好ましくは0.15〜1質量部、特に好ましくは0.2〜0.8質量部の範囲で用いることにより好適な流動性が得られる可使時間(ハンドリングタイム)を確保できることから好ましい。
【0018】
本発明では凝結促進剤としてアルミン酸塩を使用する。アルミン酸塩は水硬性成分の硬化を促進するとともに、硬化体組織をより緻密化する効果を有する。
アルミン酸塩としては、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カリウム、アルミン酸カルシウムおよびアルミン酸マグネシウム等の一般に公知のアルミン酸塩を使用でき、特にアルミン酸ナトリウムを好適に使用できる。
アルミン酸塩の使用量は、水硬性成分100質量部に対して、
好ましくは0.01〜1.5質量部であり、より好ましくは0.1〜1.2質量部、さらに好ましくは0.15〜1質量部、特に好ましくは0.2〜0.8質量部の範囲で用いることによりモルタルの流動特性を損なうことなく良好な速硬性と、緻密な硬化体組織を形成できることから好ましい。
アルミン酸塩の使用量が、0.05質量部未満では硬化促進効果が不十分であり、また硬化体組織の緻密化効果が充分に発揮されず、高い硬化体強度を得ることが困難なため好ましくない。また、1.0質量部を超えて添加した場合、速硬性はさらに向上しモルタル表面の水引きまでの時間が短縮されるものの、モルタル流動性の経時変化(流動性の低下)が大きくなって可使時間が短くなることから好ましくない。
【0019】
本発明の水硬性組成物は、必要に応じてさらに細骨材を本発明の特性を損なわない範囲で含むことができる。
本発明の水硬性組成物は、細骨材を水硬性成分100質量部に対して、好ましくは60〜300質量部、さらに好ましくは90〜275質量部、より好ましくは120〜250質量部、特に好ましくは150〜220質量部含むことが好ましい。
【0020】
細骨材としては、粒径2mm以下の骨材、好ましくは粒径0.1〜2mmの骨材、さらに好ましくは粒径0.15〜1.5mmの骨材、特に好ましくは0.2〜1mmの骨材を主成分としている。
細骨材としては、珪砂、川砂、海砂、山砂、砕砂などの砂類、アルミナクリンカー、シリカ粉、粘土鉱物、廃FCC触媒、石灰石などの無機質材などを用いることができる。
特に細骨材としては、珪砂、川砂、海砂、廃FCC触媒、石英粉末、アルミナクリンカーなどが好ましく用いることが出来る。
細骨材の粒径は、JIS・Z−8801で規定される呼び寸法の異なる数個のふるいを用いて測定する。
特に細骨材は、FCC触媒及び/又は砂類とを含むことが好ましく、FCC触媒0〜30質量部及び砂類は70〜100質量部、さらに好ましくはFCC触媒を1〜20質量部及び珪砂は80〜99質量部、特に好ましくはFCC触媒を2〜10質量部及び珪砂は90〜98質量部を併用することが好ましい。
FCC触媒は、市販のFCC触媒、使用済みのFCC廃触媒などを用いることが出来る。FCCとは、触媒と原料油が流動床雰囲気で接触分解する過程の総称であり、FCC触媒は、低品位の重質原料油からガソリンやLCOを分留する過程で、分子量の大きな残油の分解やV、Niなどのメタルトラップ剤として使用されるものである。
【0021】
本発明の水硬性組成物は、必要に応じてさらに流動化剤を本発明の特性を損なわない範囲で含むことができ、流動化剤の使用量は、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは0.01〜1質量部、さらに好ましくは0.02〜0.5質量部、特に好ましくは0.05〜0.3質量部の範囲で含むことが好ましい。
流動化剤は、ナフタレン系、メラミン系、ポリカルボン酸系などを用いることが出来、併用する増粘剤との最適な組合わせから、ポリカルボン酸系流動化剤を用いることが特に好ましい。
流動化剤の添加量が上記範囲より少ないと好適な効果(優れた流動性と高い硬化体強度)を発現せず、また添加量が多すぎても添加量に見合った効果は期待できず単に不経済であるだけでなく、場合によってはモルタル(スラリー)の粘稠性が大きくなり所要の流動性を得るための混練水量が増大して強度性状が悪化する場合が考えられる。
【0022】
本発明の水硬性組成物は、必要に応じてさらに増粘剤を本発明の特性を損なわない範囲で含むことができる。
増粘剤は、ヒドロキシエチルメチルセルロースを含む増粘剤を好適に用いることができ、またヒドロキシエチルメチルセルロースと他のセルロース系、蛋白質系、ラテックス系、及び水溶性ポリマー系などの増粘剤とを併用して用いることが出来る。
増粘剤の使用量は、本発明の特性を損なわない範囲で添加することができ、好ましくは0.05〜1質量部、さらに好ましくは0.08〜0.7質量部、特に好ましくは0.1〜0.5質量部の範囲で含むことが好ましい。増粘剤の添加量が多くなると、モルタル(スラリー)粘度が増加して流動性の低下を招く恐れがあるために上記の好ましい範囲で用いることが好ましい。
【0023】
本発明の水硬性組成物は、必要に応じてさらに消泡剤を本発明の特性を損なわない範囲で含むことができる。
消泡剤は、シリコン系、アルコール系、ポリエーテル系などの合成物質、石油精製由来の鉱物油系又は植物由来の天然物質鉱油系など、公知のものを用いることが出来る。
消泡剤の添加量は、水硬性成分100質量部に対して0.05〜1質量部、さらに0.07〜0.7質量部、特に0.1〜0.5質量部含むことが好ましい。消泡剤の添加量は、上記より多く添加する場合、消泡効果の向上がみとめられない場合がある。
【0024】
増粘剤及び消泡剤を併用して用いることは、水硬性成分や細骨材などの骨材分離の抑制、気泡発生の抑制、硬化体表面の改善に好ましい効果を与え、水硬性組成物の硬化物の特性を向上させる上で好ましい。
【0025】
本発明の自己流動性水硬性組成物を構成する場合に、特に好適な成分構成は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分、アルミン酸塩と酒石酸塩と重炭酸塩とを含む凝結調整剤、珪砂などの細骨材、高炉スラグ微粉末などの無機成分、流動化剤、増粘剤及び消泡剤を含むものである。
【0026】
本発明では、自己流動性水硬性組成物を構成する場合に、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分、アルミン酸塩と酒石酸塩と重炭酸塩とを含む凝結調整剤、珪砂などの細骨材、高炉スラグ微粉末などの無機成分、流動化剤、増粘剤及び消泡剤などを混合機で混合し、自己流動性水硬性組成物のプレミックス粉体を得ることができる。
【0027】
自己流動性水硬性組成物のプレミックス粉体は、所定量の水と混合・攪拌して、スラリー状のセルフレベリング性(自己流動性)を有するモルタル(スラリー)を製造することができ、そのモルタル(スラリー)を硬化させて自己流動性水硬性組成物の硬化体を得ることができる。
【0028】
自己流動性水硬性組成物は、水と混合・攪拌してモルタルを製造することができ、水の添加量を調整することにより、モルタルの流動性、可使時間、材料分離性、モルタル硬化体の強度などを調整することができる。
水の添加量は、自己流動性水硬性組成物100質量部に対し、好ましくは10〜40質量部、さらに好ましくは14〜34質量部、より好ましくは18〜30質量部、特に好ましくは22〜28質量部の範囲で添加して用いることが好ましい。
【0029】
本発明の自己流動性水硬性組成物は、水と混合して調製したセルフレベリング性(自己流動性)を有するモルタル(スラリー)のフロー値が、好ましくは190〜280mm、さらに好ましくは200〜270mm、特に好ましくは210〜260mmに調整されていることが、施工の容易さ及び平滑性の高い硬化体表面を得られやすいという理由により好ましい。
【0030】
本発明の自己流動性水硬性組成物は、水と混合して調製したセルフレベリング性(自己流動性)を有するモルタルを高温環境下(35℃)で施工した場合、材齢7日の圧縮強度が、好ましくは20N/mm以上、さらに好ましくは20.5N/mm以上、特に好ましくは21N/mm以上の強度を発現し、材齢7日の曲げ強度が、好ましくは4N/mm以上、さらに好ましくは4.1N/mm以上、特に好ましくは4.2N/mm以上の強度が得られる。また、材齢28日の圧縮強度は、好ましくは40N/mm以上、さらに好ましくは41N/mm以上、特に好ましくは42N/mm以上の強度を発現し、材齢28日の曲げ強度は、好ましくは7N/mm以上、さらに好ましくは7.3N/mm以上、特に好ましくは7.5N/mm以上の強度を発現する。
【実施例】
【0031】
以下、本発明を実施例に基づき、さらに詳細に説明する。但し、本発明は下記実施例により制限されるものでない。
【0032】
(特性の評価方法)
・モルタル(スラリー)の流動性評価(フロー値):
評価に用いるモルタル(スラリー)は、自己流動性水硬性組成物と水とを混練し、混練後直ぐのモルタル(スラリー)を用い、JASS・15M−103に準拠して測定する。
厚さ5mmのみがき板ガラスの上に内径50mm、高さ51mmの塩化ビニル製パイプ(内容積100ml)を置き、練り混ぜたモルタル(スラリー)を充填した後、パイプを引き上げる。モルタル(スラリー)の広がりが静止した後、直角2方向の直径を測定し、その平均値をフロー値とする。
・水引き時間:
練り混ぜたモルタル(スラリー)を縦100mm、横150mm、深さ20mmの樹脂容器に10mm深さまで充填して静置し、モルタル(スラリー)表面の光沢がなくなるまでの経過時間を水引き時間とする。
・硬化体表面のショア硬度:
打設後からの所定の経過時間において、硬化した表面の硬度をスプリング式硬度計タイプD型((株)上島製作所製)を用いて、任意の3〜5カ所の表面硬度を測定し、そのスプリング式硬度計タイプD型のゲージの読み取り値の平均値をその時間の表面硬度とする。
・強度の評価(曲げ強度、圧縮強度):
JIS・R−5201に示される4×4×16cmの型枠にモルタル(スラリー)を型詰めして、温度35℃、湿度100%の条件で24時間湿空養生した後、脱型し、さらに同条件の気中にて所定期間(7日及び28日)追加養生して成型体を得る。成型体は、JIS・R−5201記載の方法に従って曲げ強度と圧縮強度を測定する。
・水硬性成分の反応状況の評価
X線回折装置(メーカー:理学電気、型式:RINT2500)を使用して、材齢28日のモルタル(スラリー)硬化体を微粉砕した試料について水硬性成分の反応状況を分析する。比較のため、モルタル(スラリー)の調製に用いた自己流動性水硬性組成物についても同様にX線回折分析を行う。
・モルタル(スラリー)硬化体組織の評価
材齢28日のモルタル(スラリー)硬化体を粗砕した試料を用いて、水銀圧入式細孔径分布測定装置(メーカー:マイクロメリテックス、型式:オートポアIII9420)により硬化体中の細孔径の性状を分析する。
【0033】
原料は以下のものを使用した。
1)水硬性成分
・アルミナセメント(フォンジュ、ラファージュアルミネート社製、ブレーン比表面積3100cm/g)。
・ポルトランドセメント(早強セメント、宇部三菱セメント社製、ブレーン比表面積4500cm/g)。
・石膏:II型無水石膏(セントラル硝子社製、ブレーン比表面積3460cm/g)。
2)無機成分
・高炉スラグ微粉末(リバーメント、千葉リバーメント社製、ブレーン比表面積4400cm/g)。
3)細骨材
・珪砂:4号珪砂(S4、東海サンド社製)
・FCC触媒:使用済みのFCC廃触媒、比表面積100m/g(出光興産社製)
・珪砂及びFCC触媒の粒度構成を表3に示す。
4)凝結促進剤:
・アルミン酸塩:アルミン酸ナトリウム(北陸化成社製)
5)凝結遅延剤:
・重炭酸Na:重炭酸ナトリウム(東ソー社製)。
・酒石酸Na:L−酒石酸ニナトリウム(扶桑化学工業社製)。
6)混和剤
・流動化剤:ポリカルボン酸系流動化剤(花王社製)。
・増粘剤:ヒドロキシエチルメチルセルロース系増粘剤(マーポローズMX−30000、松本油脂社製)。
・消泡剤:ポリエーテル系消泡剤(サンノプコ社製)。
【0034】
(実施例1〜3、比較例1、2)
表1に示す水硬性成分、細骨材、無機成分、凝結調整剤、流動化剤、増粘剤及び消泡剤(総量:1.5kg)を、ケミスタラーを用いて混練して水硬性組成物を調整し、さらに水390gを加えて3分間混練して、モルタル(スラリー)を得た。水硬性組成物及びモルタル(スラリー)の調製は、温度35℃、湿度65%の雰囲気下で行った。
得られたモルタル(スラリー)を用いて、流動性状(フロー、SL特性)、モルタル硬化体強度の評価を行った結果を表2に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
【表2】

【0037】
凝結調整剤として酒石酸塩と重炭酸塩とを用いた比較例1に対して、酒石酸塩と重炭酸塩とアルミン酸塩とを用いた実施例1の場合、材齢7日の曲げ強度は21.5%向上し、圧縮強度は23%向上した。また、材齢28日の曲げ強度は22.7%向上し、圧縮強度は38.8%向上した。
【0038】
比較例1及び実施例1で用いた水硬性組成物(水和反応前)と、比較例1及び実施例1のモルタル(スラリー)硬化体(材齢28日)のX線回折分析結果を図1に示す。
実施例1の硬化体の場合、比較例1と対比して早強ポルトランドセメントの主要構成鉱物である3CaO・SiO2(エーライト)のピークの消失が大きく、一方で、早強ポルトランドセメントの水和反応生成物のひとつであるストラトリンガイトの生成量を示すピークは、実施例1の方が高くなっていて、比較例1より実施例1の方が早強ポルトランドセメントの水和反応はより進行していた。
【0039】
比較例1及び実施例1のモルタル(スラリー)硬化体(材齢28日)の細孔径を分析した結果を図2に示す。
累積細孔容積は、比較例1と実施例1の間に殆ど差は認められないが、細孔径の大きさと細孔容積の関係から実施例1の細孔は比較例1の細孔よりも、より微細な細孔を有し、硬化体組織がより緻密になっている。
【0040】
実施例1の硬化体強度(曲げ強度、圧縮強度)が、比較例1の硬化体強度よりも大幅に優れているのは、凝結促進剤として添加したアルミン酸ナトリウムが速硬性を付与するのみならず、長期強度発現に寄与する早強ポルトランドセメントの硬化促進にも寄与し、さらに硬化体組織の緻密化に寄与したものと考えられる。
【0041】
本発明は、凝結調節剤としてアルミン酸塩と酒石酸塩と重炭酸塩とを併せて用いることによって、適正な可使時間を確保しつつ、流動性、水平レベル性、速硬性に優れたセルフレベリング材(自己流動性水硬性組成物)を得ることができ、特に長期材齢において緻密なモルタル硬化体組織が形成されることによって、優れた圧縮強度と曲げ強度を有するセルフレベリング材(自己流動性水硬性組成物)のモルタル硬化体が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】自己流動性水硬性組成物と自己流動性水硬性組成物のモルタル(スラリー)硬化体の水硬性成分の反応状況をX線回折分析した結果である。(3CaO・SiO2:早強ポルトランドセメントの主要構成鉱物、ストラトリンガイト:早強ポルトランドセメントの反応生成物のひとつ)
【図2】モルタル(スラリー)硬化体中の細孔径を水銀圧入法で分析した結果である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分と、凝結調整剤とを含む水硬性組成物であり、
凝結調整剤はアルミン酸塩と酒石酸塩と重炭酸塩とを含むことを特徴とする自己流動性水硬性組成物。
【請求項2】
水硬性成分が、アルミナセメント20〜75質量%、ポルトランドセメント10〜55質量%及び石膏5〜38質量%からなる水硬性成分であること
を特徴とする請求項1に記載の自己流動性水硬性組成物。
【請求項3】
アルミン酸塩はアルミン酸ナトリウムであり、水硬性成分100質量部に対してアルミン酸塩を0.05〜1.5質量部含むこと
を特徴とする請求項1または請求項2に記載の自己流動性水硬性組成物。
【請求項4】
酒石酸塩は酒石酸ナトリウムであり、水硬性成分100質量部に対して酒石酸塩を0.05〜1.5質量部含むこと
を特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の自己流動性水硬性組成物。
【請求項5】
重炭酸塩は重炭酸ナトリウムであり、水硬性成分100質量部に対して重炭酸塩を0.05〜1.5質量部含むこと
を特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の自己流動性水硬性組成物。
【請求項6】
水硬性組成物は、さらに無機成分、流動化剤、増粘剤及び消泡剤から選ばれる成分を少なくとも1種以上を含むこと
を特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の自己流動性水硬性組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の自己流動性水硬性組成物と水とを混練して得られるモルタル。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の自己流動性水硬性組成物と水とを混練して得られるモルタルを硬化させて得られる硬化体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−115062(P2008−115062A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−302280(P2006−302280)
【出願日】平成18年11月8日(2006.11.8)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】