説明

水系におけるスライムコントロール方法

【課題】 高pH域を含む広いpH範囲でスライムの生成を抑制し、かつスライムを剥離除去することができる水系におけるスライムコントロール方法を提供する。
【解決手段】 次亜塩素酸及び/又はその水溶性塩、水中で臭素イオンを放出する臭化物、及び5,5−ジアルキル置換ヒダントインを水系に添加混合して水系において(A)次亜臭素酸及び/又はその水溶性塩と(B)N−モノクロロ−5,5−ジアルキル置換ヒダントインを生成させてなる水系におけるスライムコントロール方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種産業の工程水、冷却水、洗浄水、排水などの工業用水系、貯水槽、水泳プール、鑑賞用池等における微生物に起因する各種スライム障害を抑制、ないし付着しているスライムを除去するスライムコントロール方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
パルプ工場、製紙工場においては、その工程において使用される用水中に微生物が繁殖すると種々の障害の原因となることはよく知られている。例えば、製紙工場の抄紙機における白水中には、栄養源となるパルプを多量に含み、かつ適度な温度条件にあることから、微生物の増殖にとって極めて都合の良い環境にある。白水中に微生物が繁殖すると、微生物やその代謝物が凝集して粘着性物質、所謂スライムを形成し、これが工程内の水の流れにより剥離して紙料中に混入するなど紙に汚点、斑点、目玉等製品の品質を損なう原因となり、更に、紙切れ、ワイヤーや毛布の目詰まり、腐食、悪臭等の工程上の障害を引き起こし操業上にも重大な影響を及ぼすこととなる。
【0003】
紙の抄紙方法にはpHが4〜6の条件で抄紙する酸性抄紙法と、pHが6〜8の条件で抄紙する中性ないしアルカリ抄紙法があるが、最近では機器に対する腐食性が小さいことや紙質が優れている等の理由から中性ないしアルカリ抄紙法が主流になりつつある。中性ないしアルカリ抄紙法では、従来の酸性抄紙法に較べて白水のpHが微生物類の増殖・生育に適しており、加えて最近では白水の循環再利用化が進んで、水中の栄養分が濃縮され、かつ水温が高くなってきていることもあって微生物の棲息にとって好都合となっている。しかしながら従来から用いられてきたスライムコントロール剤は、pHが4〜6の酸性抄紙条件では有効であっても、pHが6〜8の中性ないしアルカリ抄紙条件では十分なスライム抑制効果を示さず、使用量を多くしなければならなかった。
【0004】
開放式循環冷却水系においては、水の使用量と排水量を削減するため水を循環再使用する高濃縮度運転が進められている。高濃縮度運転では水中の溶解物が濃縮され、pHが上昇するなど水質は悪化する傾向にあり、スライムによる障害は増える方向に進んでいる。
【0005】
水系における微生物は水に浮遊しているよりも機器表面に付着する場合が多く、この付着微生物の多くは多糖類から成る細胞外ポリマーに包まれたミクロコロニーを形成し、水中の夾雑物が複雑に相互作用し合いスライムを形成する。開放式循環冷却水系等におけるスライムは、水路の閉塞や熱交換器における伝熱障害を引き起こすだけでなく微生物が腐食の原因となることもありその対策が強く望まれている。
【0006】
循環水系におけるスライムコントロールでは、塩素、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カルシウム、塩素化イソシアヌル酸等の塩素系殺微生物剤が広く使用されてきた。これら塩素系スライムコントロール剤は水に溶解すると次亜塩素酸を生成して殺微生物に効果を示すと考えられている。しかし、pHが高くなると次亜塩素酸イオンに解離して殺微生物効果が低下するという欠点を有している。最近では循環冷却水系は高濃縮度運転化によりpHが9前後にまで高くなっている場合が多く、このような高pHにある水系では塩素系スライムコントロール剤は十分な効果を示さず、スライム障害を充分に抑制できなかった。
【0007】
このような塩素系スライムコントロール剤の欠点を改善すべく、例えば次亜塩素酸塩類と臭化物とから生成した次亜臭素酸塩類を用いる方法(特許文献1参照)が提案されている。
【0008】
次亜臭素酸の解離は次亜塩素酸より高いpHで起きることから、高pHにおいても殺微生物菌効果が低下し難くいという長所をもっている。しかし、次亜臭素酸はスライムへの浸透性が低いためスライムの下に棲息する微生物を殺すには弱く、スライムを剥離除去する能力も小さい。
【0009】
また、ブロモクロロジメチルヒダントインを添加する方法(非特許文献1参照)が提案された。ブロモクロロジメチルヒダントインは水中で次亜臭素酸とクロロジメチルヒダントインを生成し(非特許文献2参照)、これらが微生物に作用する。しかし、ブロモクロロジメチルヒダントインは固体であり、水に溶解するのに時間がかかり、また溶解度も大きくないので特別の溶解・注入装置が必要であり、かつ作業時に粉塵を発生するなど取扱い難いといった問題点があった。
【0010】
この他、2,2−ジブロモ−3−ニトリロプロピオンアミド、2−ブロモ−4−ヒドロキシアセトフェノン、1−ブロモアセトキシ−2−プロパノール、1,4−ビスブロモアセトキシ−2−ブテン等の有機ブロム系化合物(特許文献2参照)、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンと2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンの混合物を中心としたイソチアゾロン化合物(特許文献3参照)等有機系のスライムコントロール剤の提案が多くあるが、これらもpHが6より高い領域では殺微生物効果が劣るという欠点がある。上述のように最近の製紙工程用水、循環水系ではpHが6〜8となっていることが多く、高pH域での適用には従来のスライムコントロール剤は必ずしも満足のいくものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開昭60−129182号公報
【特許文献2】特開平8−198715号公報
【特許文献3】特公平6−57701号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】国際水処理会議(International WaterConference),報告番号:42(1987年)
【非特許文献2】冷却塔協会1989年年次大会、報告番号:TP−89−05(CoolingTower Inst.1989 Ann.Meeting,Paper No.TP−89−05)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の課題は、簡単に注入でき、水中で残留濃度を一定に維持管理し易く、かつ高pH域を含む広いpH範囲でスライムの生成を抑制し、スライムを剥離除去することができる水系におけるスライムコントロール方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、ブロモクロロジメチルヒダントインのもつ高pH域を含むpH範囲でのスライム抑制効果を維持しつつ、ブロモクロロジメチルヒダントインよりも取り扱い易いスライムコントロール方法を検討した結果、次亜塩素酸及び/又はその水溶性塩、水中で臭素イオンを放出する臭化物、5,5−ジアルキル置換ヒダントインを特定の混合割合で水系中で反応させることにより本目的を達成できることを見出し、本発明をなすに至った。
【0015】
すなわち、請求項1に係る発明は、次亜塩素酸及び/又はその水溶性塩、水中で臭素イオンを放出する臭化物、及び5,5−ジアルキル置換ヒダントインを水系に添加混合して水系において(A)次亜臭素酸及び/又はその水溶性塩と(B)N−モノクロロ−5,5−ジアルキル置換ヒダントインを生成させることを特徴とする水系におけるスライムコントロール方法であり、請求項2に係る発明は、水中で臭素イオンを放出する臭化物と5,5−ジアルキル置換ヒダントインとの混合水溶液、及び次亜塩素酸及び/又はその水溶性塩の水溶液を水系に添加混合して、水系において(A)次亜臭素酸及び/又はその水溶性塩と(B)N−モノクロロ−5,5−ジアルキル置換ヒダントインを生成させることを特徴とする水系におけるスライムコントロール方法であり、請求項3に係る発明は、次亜塩素酸及び/又はその水溶性塩、水中で臭素イオンを放出する臭化物、5,5−ジアルキル置換ヒダントインのそれぞれのモル比を1:(0.2〜3):(0.2〜0.9)とする請求項1又は2記載の水系におけるスライムコントロール方法であり、請求項4に係る発明は、水系がパルプ工場・製紙工場工程水である請求項1又は2記載の水系におけるスライムコントロール方法であり、請求項5に係る発明は、水系が工業用循環冷却水系である請求項1又は2記載の水系におけるスライムコントロール方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば次亜臭素酸とN−モノクロロ−5,5−ジアルキル置換ヒダントインとの相乗作用により、pHが7〜9のpH域においても殺微生物抑制効果が大きく、スライム中への浸透性が優れており、かつ残留ハロゲン濃度の持続性を有し、効率よくスライム抑制ならびにスライム除去することができる。
【0017】
然してパルプ工場、製紙工場の工程水中や開放式循環冷却水系等に生育するスライム構成菌を殺滅または生育阻害することができ、該工程に発生するスライム障害を未然に防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
塩素酸及び/又はその水溶性塩(以下、「次亜塩素酸類」と記す)は、水に溶解して次亜塩素酸ないし次亜塩素酸イオンを生成するものであり、具体的には、次亜塩素酸、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム、次亜塩素酸カルシウム、塩素が挙げられ、また塩素イオンを含む水を電気分解して生成した次亜塩素酸塩であってもよい。
【0019】
水中で臭素イオンを放出する臭化物(以下、「臭化物」と記す)は、具体的には臭化水素酸、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化リチウム、臭化亜鉛などがあり、好ましくは臭化ナトリウムである。
【0020】
臭化物は水中で臭素イオンを放出し、次亜塩素酸類と反応して次亜臭素酸、又はその塩(以下「次亜臭素酸類」と記す)を生成する。
【0021】
5,5−ジアルキル置換ヒダントインは、一般式(I)にて表される化合物である。
【0022】
ここで、R1、R2はアルキル基であり、アルキル基の炭素数はそれぞれ独立に1〜6、好ましくは1〜4であり、かつR1とR2のアルキル基炭素数の合計が10以下、好ましくは6以下である。アルキル基の炭素数がこの範囲より大きい化合物は水に対する溶解度が低下するため好ましくない。具体的な例として5,5−ジメチルヒダントイン、5,5−ジエチルヒダントイン、5−メチル−5−エチルヒダントインが挙げられる。
【0023】
【化1】

【0024】
5,5−ジアルキル置換ヒダントインは水中で次亜塩素酸類と反応して塩素原子が1つ結合したN−モノクロロ−5,5−ジアルキル置換ヒダントインを生成する。塩素原子が結合するのはヒダントイン環にある2つの窒素原子のいずれか一方であり、本発明ではその位置を限定するものではない。本発明の条件では5,5−ジアルキル置換ヒダントインに対し次亜塩素酸類を2倍モル以上を反応させてもクロル原子が2つ入ったN,N'−ジクロロ−5,5−ジアルキル置換ヒダントインは生成せず、N−モノクロロ置換体のみ生成する。
【0025】
本発明の好ましい実施形態は、対象とする水系内において次亜臭素酸類及びN−モノクロロ−5,5−ジアルキル置換ヒダントインを生成させ、その両者が存在することによって優れたスライムコントロール効果を発揮する。
【0026】
本発明の効果が発揮される次亜臭素酸類とN−モノクロロ−5,5−ジアルキル置換ヒダントインとの構成比は、好ましくは1:9〜9:1(モル比)、より好ましくは3:7〜7:3(モル比)である。この範囲の外でもそれなりのスライムコントロール効果はあるが、本発明の組み合わせによる相乗効果が充分発揮されないことがある。特にN−モノクロロ−5,5−ジアルキル置換ヒダントインの比率がこの範囲より低い場合には、スライム中への浸透性が悪くなり、充分なスライム剥離効果が得られないことがある。
【0027】
本発明の実施の形態は、適宜選ばれるが、(1)臭化物、5,5−ジアルキル置換ヒダントイン、及び次亜塩素酸類を水中で予め反応させて(A)次亜臭素酸類と(B)N−モノクロロ−5,5−ジアルキル置換ヒダントインを含有する反応混合物を作り、これを水系に作用させる方式と、(2)臭化物、5,5−ジアルキル置換ヒダントイン、及び次亜塩素酸類をどれぞれ水系に添加して、水系において(A)次亜臭素酸酸類と(B)N−モノクロロ−5,5−ジアルキル置換ヒダントインを生成させる方式がある。
【0028】
このうち、(1)の臭化物、5,5−ジアルキル置換ヒダントイン、及び次亜塩素酸類を水中で予め反応させて(A)次亜臭素酸類と(B)N−モノクロロ−5,5−ジアルキル置換ヒダントインを含有する反応混合物を作り、これを水系に作用させる方式では、得られた反応混合物は調製後速やかに対象水系に加えるのが好ましい。
【0029】
本発明は臭化物、5,5−ジアルキル置換ヒダントインがそれぞれ次亜塩素酸類と水中で反応して、次亜臭素酸類とN−モノクロロ−5,5−ジアルキル置換ヒダントインが生成することに基礎を置いている。このとき、臭化物と次亜塩素酸類から次亜臭素酸類を生成する反応と、5,5−ジアルキル置換ヒダントインと次亜塩素酸類からN−モノクロロ−5,5−ジアルキル置換ヒダントインを生成する反応を同じ系内で同時に行わせると、次亜塩素酸類に対して2つの反応が競争するので、臭化物、5,5−ジアルキル置換ヒダントイン、及び次亜塩素酸類の混合順序、混合モル比は、次亜臭素酸類とN−モノクロロ−5,5−ジアルキル置換ヒダントインの生成比率に関係するために重要である。
【0030】
混合の態様は、(1)対象とする水系、あるいは別途用意した水に臭化物と5,5−ジアルキル置換ヒダントインを加え混合水溶液とし、これに次亜塩素酸類を加えて反応させる方式、(2)対象とする水系、あるいは別途用意した水に5,5−ジアルキル置換ヒダントインと次亜塩素酸類を反応させ、次いでこれに臭化物を加えて反応させる方式、(3)対象とする水系、あるいは別途用意した水に臭化物と次亜塩素酸類を反応させ、次いでこれに5,5−ジアルキル置換ヒダントインを加えて反応させる方式がある。
【0031】
このうち最も好ましい実施形態は、(1)の臭化物、5,5−ジアルキル置換ヒダントインを水中で混合し、この混合物と次亜塩素酸類をそれぞれ水系に添加して、(A)次亜臭素酸類と(B)N−モノクロロ−5,5−ジアルキル置換ヒダントインを生成させる方式である。臭化物と5,5−ジアルキル置換ヒダントインは、水中で相互に反応しないので長期間安定に保存でき、かつ水系へ注入する際の混合比を一定にでき、さらに注入装置の数を少なくできるなど、注入管理が簡略化できる利点がある。
【0032】
次亜塩素酸類と5,5−ジアルキル置換ヒダントインとの反応は、次亜塩素酸類と臭化物との反応より速く進行するので、次亜塩素酸類は5,5−ジアルキル置換ヒダントインと優先的に反応し、残った次亜塩素酸類が臭化物が反応することになる。特に、pHが高いときには反応速度の差が大きいのでこの傾向は高くなる。従って、この場合の混合モル比は、臭化物は次亜塩素酸類に対して好ましくは0.2〜3倍(モル比)、より好ましくは0.3〜2倍(モル比)とし、5,5−ジアルキル置換ヒダントインは次亜塩素酸類に対して好ましくは0.2〜0.9倍(モル比)、より好ましくは0.3〜0.7倍(モル比)とする。臭化物が0.2倍(モル比)より少ないと次亜臭素酸類濃度が低くなり、また3倍(モル比)より大きいと、次亜臭素酸類濃度は充分満たされるが、未反応臭化物が残ることになり経済的には不利となる。5,5−ジアルキル置換ヒダントインが0.2倍(モル比)より小さいとN−モノクロロ−5,5−ジアルキル置換ヒダントイン濃度が低くなり、また0.9倍(モル比)より大きいと、臭化物と反応するための次亜塩素酸類がなくなり、その結果として次亜臭素酸類の濃度が低くなり好ましくないことがある。
【0033】
(2)の対象とする水系、あるいは別途用意した水に5,5−ジアルキル置換ヒダントインと次亜塩素酸類を加えて水中で反応させ、次いでこれに臭化物を加える方法では、まず5,5−ジアルキル置換ヒダントインを次亜塩素酸類に対して好ましくは0.2〜0.9倍(モル比)、より好ましくは0.3〜0.7倍(モル比)を加える。5,5−ジアルキル置換ヒダントインを0.2倍(モル比)より少なくするとN−モノクロロ−5,5−ジアルキル置換ヒダントイン濃度が低くなり、また0.9倍(モル比)より大きいと、後で加えられる臭化物と反応するための次亜塩素酸類がなくなり、その結果として次亜臭素酸類の濃度が低くなり好ましくない。
【0034】
臭化物は、次亜塩素酸類と5,5−ジアルキル置換ヒダントインとの反応により残存した次亜塩素酸類に対応して加えられ、残存次亜塩素酸類に対して好ましくは0.1〜3倍(モル比)、より好ましくは0.3〜2倍(モル比)加える。臭化物が残存次亜塩素酸類に対し0.1倍(モル比)より少ないと次亜臭素酸類濃度が低くなり、また3倍(モル比)より大きいと、次亜臭素酸類濃度は充分満たされるが、未反応臭化物が残ることになり経済的には不利となることがある。なお、次亜塩素酸類と5,5−ジアルキル置換ヒダントインとの反応は通常ほぼ定量的に速やかに進行するので、残存次亜塩素酸類量は、次亜塩素酸類量(モル数)から5,5−ジアルキル置換ヒダントイン量(モル数)を差し引いた量(モル数)に相当する。
【0035】
(3)の対象とする水系、あるいは別途用意した水に臭化物と次亜塩素酸類を加えて水中で反応させ、次いでこれに5,5−ジアルキル置換ヒダントイン水溶液を加える方法では、まず臭化物を次亜塩素酸類に対して好ましくは0.2〜0.9倍(モル比)、より好ましくは0.3〜0.7倍(モル比)を加える。次亜塩素酸類に対し臭化物を0.2倍(モル比)より小さいと次亜臭素酸濃度が低くなり、また0.9倍(モル比)より大きいと、後で加えられる5,5−ジアルキル置換ヒダントインと反応するための次亜塩素酸類がなくなることがあり、その結果、N−モノクロロ−5,5−ジアルキル置換ヒダントインの濃度が低くなり好ましくない。後で加える5,5−ジアルキル置換ヒダントインの添加量は、次亜塩素酸類と臭化物との反応により残存した次亜塩素酸類に対し加えられ、残存次亜塩素酸類に対し好ましくは0.1〜1倍(モル比)、より好ましくは0.3〜0.7倍混合する。0.1倍(モル比)より小さいとN−モノクロロ−5,5−ジアルキル置換ヒダントイン濃度が低くなり、また1倍(モル比)より大きいと、N−モノクロロ−5,5−ジアルキル置換ヒダントイン濃度は充分満たされ、5,5−ジアルキル置換ヒダントイン、臭化物が残ることになり経済的に不利となることがある。
【0036】
いずれの場合においても、臭化物と5,5−ジアルキル置換ヒダントインの合計モル数が次亜塩素酸類のモル数より小さいと、次亜塩素酸類が残ることになるが、次亜塩素酸類はそのもの自身スライムコントロール機能があり、本発明の効果発現にとって何ら障害になるものではない。
【0037】
次亜塩素酸類、臭化物、5,5−ジアルキル置換ヒダントインはいずれも水溶性であるので、それぞれの成分を固形物のまま対象とする水系へ加えることもでき、あるいはそれぞれ水溶液を作り、これを対象とする水系に添加してもよい。しかし固形物の状態で水系に加えた場合には溶解に要する時間が異なり、また水溶液にして水系に加えた場合でも水中への拡散状態にも依るので、次亜塩素酸類、臭化物及び5,5−ジアルキル置換ヒダントインの各成分を同時、あるいは同時に近い状況で加えたときの反応の進行は、溶解速度、拡散状況によって変わるのはいうまでもない。
【0038】
次亜塩素酸類と臭化物を予め水中で混合し反応させる場合、次亜塩素酸類と5,5−ジアルキル置換ヒダントインを予め水中で混合し反応させる場合、あるいは次亜塩素酸類、臭化物及び5,5−ジアルキル置換ヒダントインを予め水中で混合し、反応させる場合においては、これらが混合される水のpHは4〜12、好ましくは5〜9である。pHが4未満では次亜塩素酸塩類、次亜臭素酸塩類が分解し、塩素ガスや臭素ガスとなって揮発し易く、またpHが12を超えると5,5−ジアルキル置換ヒダントインが加水分解することがあり好ましくない。次亜塩素酸類と臭化物の混合液のpHが9を超えると、混合液中での次亜臭素酸への転化率が低下するが、混合液中での転化が不充分であっても被処理水のpHが9以下であれば被処理水において次亜臭素酸への転化が完結するため、処理効果には支障ない。
【0039】
本発明の方法が適用される被処理水のpHは、好ましくは4〜10、さらに好ましくは5〜9である。被処理水のpHが9を超えると次亜塩素酸塩と臭化物の反応において効率良く次亜臭素酸類を生成することができず、スライムコントロール効果が悪くなる。またpH4以下では好ましい比率のN−モノクロロ−5,5−ジアルキル置換ヒダントインは生成しない。
【0040】
本発明の好ましい実施態様における次亜塩素酸類、臭化物及び5,5−ジアルキル置換ヒダントインの被処理水系への添加量は、これらスライムコントロール剤組成物の構成比、対象とする水系の水質、スライム発生の程度、添加頻度等によって異なり一律に決められるものではないが、通常は該水系の水に対して次亜臭素酸(次亜臭素酸塩は次亜臭素酸に換算して)とN−モノクロロ−5,5−ジアルキル置換ヒダントインの合計量として0.1〜100ppm、好ましくは0.2〜50ppm、さらに好ましくは0.5〜20ppmである。添加量が0.1ppmより低いと実質的に本発明の効果発現が期待できず、また100ppmより多いと効果は充分あるが、それ以上の効果の向上がみられず経済的に不利であり、さらに環境汚染の面からも好ましくない。
【0041】
次亜塩素酸類、臭化物及び5,5−ジアルキル置換ヒダントインの対象水系への添加方法は特に限定されるものではないが、通常定量ポンプを使用して行う。添加量は、水中の微生物の種類や量、また工程変動もあるので、被処理水中における次亜臭素酸及びN−モノクロロ−5,5−ジアルキル置換ヒダントインそれぞれの残留濃度を測定し、所定の残留濃度が得られるように注入量を管理するのが好ましい。
【0042】
次亜臭素酸類、N−モノクロロ−5,5−ジアルキル置換ヒダントインの残留濃度は、ジエチル―p―フェニレンジアンモニウム(DPD)比色法、DPD−硫酸アンモニウム鉄(II)滴定法〔JIS K 0101〕等の公知の方法により測定できる。DPD比色法やDPD−FAS滴定法では、水中の遊離ハロゲン量、遊離臭素量、残留ハロゲン量が定量される。ここで遊離ハロゲン量は遊離塩素量と遊離臭素量の和であり、残留ハロゲン量は遊離ハロゲン量と結合ハロゲン量の和である。遊離臭素はここでは次亜臭素酸と次亜臭素酸イオンの合計であり、結合ハロゲンはN−モノクロロ−5,5−ジアルキル置換ヒダントインである。
【0043】
DPD比色法、DPD−硫酸アンモニウム鉄(II)滴定法は、ハック(Hach)社、ラモットケミカルプロダクツ(LaMotte Chemical Products)社から簡易な分析キットが市販されており、本発明方法での残留濃度管理に使用できる。
【0044】
また、次亜臭素酸類の残留濃度が酸化還元電位に影響を及ぼすことを利用し、濃度と酸化還元電位の相関関係を別途求めておくことにより、酸化還元電位から次亜臭素酸類の残留濃度を求めることができ、実用上は便利である。
【0045】
例えば、次亜塩素酸類、臭化物、5,5−ジアルキル置換ヒダントインの混合比率を一定にして添加する場合、酸化還元電位を自動計測し、その出力信号を基に、次亜塩素酸塩類、臭化物、5,5−ジアルキル置換ヒダントインを含む水溶液の注入用定量ポンプを制御することができ、該水系における微生物数を一定にすることが出来る。
【0046】
本発明スライムコントロール方法は、パルプ工場、製紙工場における工程水、開放式循環水系、その他各種水系に適用できる。
【0047】
パルプ工場、製紙工場工程水は、砕木工程、抄紙工程、スクリーン工程、漂白工程等の所謂白水と総称される工程水、その他パルプ工場、製紙工場の工程で扱う全ての水が含まれ、本発明薬剤を上述の濃度で添加しても工程上影響なく、また製品品質を損なうことがないことが確かめられた。
【0048】
水系でのスライムの生成を抑制するスライムコントロールでは、本発明における次亜塩素酸類、5,5−ジアルキル置換ヒダントイン及び臭化物を、一定間隔で高濃度を加える衝撃添加、あるいは間欠的添加する方法、または連続的に添加して常に一定濃度に保つ方法があるが、これらの方法に限定されるものではない。
【0049】
また、開放式循環水系にも適用した場合、スライム生成による熱交換器、配管などの閉塞、熱伝導の劣化が抑制される。本発明のスライムコントロール方法は、好気性バクテリアの一種である鉄バクテリアの殺微生物に有効であるばかりでなく、スライムへの浸透性がよく、スライム除去効果にも優れていることから、スライム下部の嫌気性雰囲気下で発生し易い硫酸塩還元菌にも効果的に作用し、鉄バクテリアや硫酸塩還元菌等により誘発される腐食を防止することもできる。
【0050】
開放式循環冷却水系における冷水塔の充填材や木材に付着した藻類や熱交換器に付着したスライムを除去するためには、次亜塩素酸類、5,5−ジアルキル置換ヒダントイン及び臭化物を高濃度で間欠的に衝撃添加する方法が有効である。次亜塩素酸塩を単独で高濃度添加すると冷水塔の木材中のリグニン成分を溶解して木材を劣化させることがあるが、次亜塩素酸類に5,5−ジアルキル置換ヒダントイン及び臭化物を組み合わせて用いた場合には高濃度添加しても木材の劣化作用が小さく好適である。
【0051】
水系においては、スライムコントロールの他に、パルプ工場、製紙工場における工程水では、ピッチコントロール剤、消泡剤などが、開放式循環水系では亜鉛塩、重合リン酸塩、有機ホスホン酸、アゾール化合物、モリブデン酸塩などの腐食抑制剤、アクリル酸やマレイン酸などを含む重合体を用いるスケール抑制剤、各種界面活性剤を用いる分散剤などが同時に用いられることがあるが、本発明の効果が損なわれない範囲において本発明はこれら各種薬剤との併用を妨げるものではない。特に腐食抑制剤との併用は、本発明のスライムコントロール薬品の分解を促進する触媒となる可能性のある金属イオンの溶出を抑制するため好ましい。
【実施例】
【0052】
以下に本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0053】
[遊離塩素、遊離臭素、結合ハロゲンの分析]試験水中の遊離塩素、遊離臭素及び結合ハロゲンの濃度測定は以下の「DPD−FAS滴定法方法」に依った。
【0054】
1)DPD粉末試薬の調製:N,N−ジエチル−p−フェニレンジアミン硫酸塩(DPD)1.0g、エチレンジアミンテトラ酢酸二ナトリウム二水塩(EDTA2Na・2H2O)1.0g、リン酸一水素カリウム(K2HPO4)38.2g、リン酸二水素カリウム(KH2PO4)59.8gを乳鉢で良く混合してDPD粉末試薬とした。
【0055】
2)分析方法:
〔1〕遊離ハロゲン量の測定
(1) 300mLトールビーカーに、DPD粉末試薬0.5gを加えた。
(2) 被試験水100mLを加え、攪拌してDPD粉末試薬を溶解させた。
(3) 別途調製した2.82mM硫酸第一鉄アンモニウム水溶液(FAS溶液)で滴定し、被試験水の赤色が無色になった点を終点とした。滴定量をA[mL]として次式から遊離ハロゲン量を求めた。
遊離ハロゲン量[mgCl2/L]=A×100/v
(vは被試験水量[mL]であり、本例の場合100である)
【0056】
〔2〕 遊離臭素量の測定
(1) 300mLトールビーカーに被試験水100mLを採った。
(2) 別途調製した10wt/v%グリシン溶液2mLを加え攪拌した。
(3) DPD粉末試薬0.5gを加え、溶解させた。
(4) FAS溶液(2.82mM)で滴定して、液の赤色が無色になった点を終点とした。滴定量をB[mL]として次式から遊離臭素量を求めた。
遊離臭素量[mgCl2/L]=B×100/v(vは被試験水量[mL]であり、本例の場合100である)
【0057】
〔3〕 残留ハロゲン量の測定
(1) 300mLトールビーカーにDPD粉末試薬0.5gを加えた。
(2) 被試験水100mLを加え、攪拌してDPD粉末試薬を溶解させた。
(3) ヨウ化カリウムを約1gを加えて溶解し、約2分間静置して赤色に発色させた。
(4) 速やかにFAS溶液(2.82mM)で滴定して、液の赤色が無色になった点を終点とした。滴定量をC[mL]として次式から残留ハロゲン量を求めた。
残留ハロゲン[mgCl2/L]=C×100/v
(vは被試験水の量[mL]であり、本例の場合100である)
【0058】
3)ここでは、遊離塩素、遊離臭素、結合ハロゲンは全て塩素(Cl2)換算にて表わした。
ここで 遊離ハロゲン量=(遊離塩素量)+(遊離臭素量)
残留ハロゲン量=(遊離ハロゲン量)+(結合ハロゲン量)
であり、
故に、 遊離塩素量[mgCl2/L]=(A−B)×100/v
遊離臭素量[mgCl2/L]=B×100/v
結合ハロゲン量[mgCl2/L]=(C−A)×100/v
となる。
(vは被試験水量[mL]であり、本例の場合100である)
【0059】
[5,5−ジメチルヒダントインと次亜塩素ナトリウムとの反応]
5,5−ジメチルヒダントイン水溶液のpHを調整し、ここに次亜塩素酸ナトリウムを添加し、室温で10分間放置後の遊離塩素と結合ハロゲンの濃度を測定した。結果を表1に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
検討したいずれのpHにおいても、5,5−ジメチルヒダントイン1モルに対して次亜塩素酸ナトリウム1モルを反応させた場合、結合ハロゲン(即ち、クロロ化−5,5−ジメチルヒダントイン)が1モル検出され、遊離塩素は検出されなかった。また5,5−ジメチルヒダントイン1モルに対して次亜塩素酸ナトリウム2モルを反応させた場合、1モルの遊離塩素と1モルの結合ハロゲンが検出された。即ち、5,5−ジメチルヒダントイン1モルに対して次亜塩素酸ナトリウム2モルを反応させても、5,5−ジメチルヒダントインと結合する塩素は1つでN−モノクロロ−5,5−ジメチルヒダントインのみを生成し、塩素が2つ結合したN,N’−ジクロロ−5,5−ジメチルヒダントインは実質生成していないことを確認した。すなわち、pH7.0〜9.0の水中では次亜塩素酸と5,5−ジメチルヒダントイン(DMH)は1:1のモル比で選択的に反応してN−モノクロロ−5,5−ジメチルヒダントイン(Cl−DMH)を生成することが確認された。これらの反応式を下記に示す。
【0062】
(1)
5,5−ジメチルヒダントイン:次亜塩素酸塩=1:1モルの反応
NaOCl+DMH → Cl−DMH+NaOH
N−モノクロロ−5,5−ジメチルヒダントインを定量的に生成した。
(2)
5,5−ジメチルヒダントイン:次亜塩素酸塩=1:2モルの反応
2NaOCl+DMH
→ Cl−DMH+NaOCl+NaOH
【0063】
N−モノクロロ−5,5−ジメチルヒダントインと次亜塩素ナトリウム1:1モル混合物となった。(N,N'−ジクロロ−5,5−ジメチルヒダントインは生成しない)
【0064】
[N−モノクロロ−5,5−ジメチルヒダントインと臭化物の反応]
5,5−ジメチルヒダントイン水溶液に次亜塩素酸ナトリウムを加え(次亜塩素酸ナトリウム:5,5−ジメチルヒダントイン=1:1モル比)、N−モノクロロ−5,5−ジメチルヒダントイン溶液を調製した。溶液のpHを、7,8,9のそれぞれに調整し、臭化ナトリウムを添加して(臭化ナトリウム:N−モノクロロ−5,5−ジメチルヒダントイン=1:1モル比)、室温で30分間放置後、遊離臭素と結合ハロゲンの濃度を測定した。いずれのpHにおいても遊離臭素は検出されなかった。
【0065】
N−モノクロロ−5,5−ジメチルヒダントイン:
臭化ナトリウム=1:1モルの反応
Cl−DMH+NaBr
→ 未反応のまま
【0066】
N−モノクロロ−5,5−ジメチルヒダントインと臭化ナトリウムは反応しない。
【0067】
[次亜臭素酸ナトリウムと5,5−ジメチルヒダントインの反応]
臭化ナトリウムを含む水溶液をpH7、及び9にそれぞれ調整し、ここに次亜塩素酸ナトリウムを加え(次亜塩素酸ナトリウム:臭化ナトリウム=1:1モル)、室温で10分間反応させ、次亜臭素酸溶液を調製した。この溶液に5,5−ジメチルヒダントイン(次亜臭素酸:5,5−ジメチルヒダントイン=1:1モル比)を添加して、室温で30分放置後、遊離臭素と結合ハロゲンの濃度を測定した。pHが7の場合、9の場合いずれも遊離臭素が検出されたのみで、結合ハロゲンは検出されなかった。すなわちpH7〜9の水中では次亜臭素酸と5,5−ジメチルヒダントインは反応しないことが判明した。これらの反応式を下記に示す。
【0068】
(1)
次亜塩素酸ナトリウム:臭化ナトリウム=1:1の反応
NaBr+NaOCl
→ NaOBr+NaCl
反応生成物:1モルの次亜臭素酸が生成。
(2)
次亜臭素酸:5,5−ジメチルヒダントイン=1:1モルの反応
NaOBr+DMH
→ 未反応のまま
反応生成物:なし。次亜臭素酸と5,5−ジメチルヒダントインは反応しない。
【0069】
[実施例1]工業冷却水系から採取した水に臭化ナトリウムと5,5−ジメチルヒダントインを溶解させ、pHを調整し、ここに次亜塩素酸ナトリウムを添加した。室温で10分間軽く攪拌した後、遊離塩素、遊離臭素、結合ハロゲン濃度をそれぞれ測定した。ここで、遊離塩素は次亜塩素酸(イオン)に、遊離臭素は次亜臭素酸(イオン)に、結合ハロゲンは塩素化されたN−モノクロロ−5,5−ジメチルヒダントインにそれぞれ相当する。また30分後の該水溶液中の生菌数を測定した。結果を表2に示した。
【0070】
【表2】

【0071】
pH7〜9の範囲では、次亜塩素酸ナトリウム、臭化ナトリウム、5,5−ジメチルヒダントインの混合モル比が1:0.5:0.5のとき、5,5−ジメチルヒダントインはほぼ100%がN−モノクロロ−5,5−ジメチルヒダントインに転化したが、臭化ナトリウムの次亜臭素酸ナトリウムへの転化率はpHが7ではほぼ100%であるが、pHが上昇するに伴ない低下し、pHが9では、70%になった。pHが7のときの反応式は下記に示される。
【0072】
2NaOCl+NaBr+DMH→
Cl−DMH+NaOBr+NaOH+NaCl
【0073】
次亜塩素酸ナトリウム、臭化ナトリウム、5,5−ジメチルヒダントインのモル比を1:0.5:1としたときでは、pH7では次亜臭素酸ナトリウムとN−モノクロロ−5,5−ジメチルヒダントインの両者が検出されたが、pH9ではN−モノクロロ−5,5−ジメチルヒダントインのみが検出され次亜臭素酸ナトリウムは検出されなかった。
【0074】
これより被処理水のpHが高い場合には、次亜塩素酸ナトリウムに対し、臭化ナトリウムと5,5−ジメチルヒダントインを同時に作用させるときは、次亜塩素酸ナトリウムに対して5,5−ジメチルヒダントインの反応モル比を1以下にしないと次亜臭素酸とN−モノクロロ−5,5−ジメチルヒダントインの混合物が得られないことがわかる。
【0075】
生菌数の測定結果をみると、次亜臭素酸ナトリウムとN−モノクロロ−5,5−ジメチルヒダントインの両者が存在するときは、生菌数が少なく殺微生物効果がみられている。
【0076】
[実施例2]開放循環冷却水における殺微生物効果を評価した。循環水(pH:8.5)に臭化ナトリウムと5,5−ジメチルヒダントインを加え均一に溶解させた後、次亜塩素酸ナトリウムを加え、室温で30分放置した。遊離塩素(次亜塩素酸と次亜塩素酸イオン)、遊離臭素(次亜臭素酸と次亜臭素酸イオン)、結合ハロゲン(N−モノクロロ−5,5−ジメチルヒダントイン)濃度を測定した結果を表3に示した。
【0077】
【表3】

【0078】
またこれらの試験水をさらに日照下で6時間放置した後の遊離塩素、遊離臭素、結合ハロゲンの各残留濃度、残留ハロゲン残留率及び全菌数を測定した結果を表3に示した。
【0079】
ここで、有効ハロゲン残留率は下記の式により計算した。
有効ハロゲン残留率(%)=
{有効ハロゲン濃度/有効ハロゲン初期濃度}×100
但し、有効ハロゲン濃度は、遊離塩素、遊離臭素、結合ハロゲン濃度の和である。
【0080】
5,5−ジメチルヒダントインの添加量の増加とともに、遊離臭素に対する結合ハロゲン濃度の比率が増加し、残留ハロゲン濃度の残留率も増加した。ただし殺微生物効果は次亜塩素酸ナトリウムと5,5−ジメチルヒダントインの添加モル比が1:0.5〜0.6のとき最も優れていた。また次亜臭素酸とN−モノクロロ−5,5−ジメチルヒダントインが共存した場合、相乗効果的な殺微生物作用を示すことが確認された。
【0081】
以上の試験結果より本発明の次亜臭素酸とN−モノクロロ−5,5−ジメチルヒダントインを含む場合には、次亜塩素酸ナトリウム単独使用時と比較して殺微生物効果が高く、また残留ハロゲン濃度の維持効果が優れていることが確認された。
【0082】
[参考例1]
製紙工場における中性抄紙工程白水から分離した4種の細菌〔シュウドモナス(Pseudomonas)1種、アチネトバクター(Acinetobacter)1種、ストレプトコッカス(Streptococcus)2種〕をTGY液体培地〔トリプトン(Tryptone)5g、グルコース(Glucose)1g、イーストエクストラクト(Yeast
Extract)2.5gを脱イオン水1リットルに溶解し、pHを7に調整したもの〕で1日前培養した液を滅菌水で1000倍に希釈して試験液とした。この試験液のpHは7.5、生菌数は3×107個/mLであった。
【0083】
臭化ナトリウムと5,5−ジメチルヒダントインを含む水溶液に次亜塩素酸ナトリウム水溶液を添加、1分間攪拌して調製した次亜臭素酸とN−クロロ−5,5−ジアルキル置換ヒダントインを含む溶液を試験液に所定濃度添加した。30℃の恒温器中でロータリーシェーカーにより160rpmの回転速度で振とう培養した。殺微生物剤添加30分後と3時間後の試験水の菌数を測定した。結果を表4に示した。
【0084】
【表4】

【0085】
試験結果より本発明の次亜臭素酸とN−クロロ−5,5−ジアルキル置換ヒダントインの混合物は、それぞれを単独で使用した場合や、次亜塩素酸塩単独使用時と比較して卓越した殺微生物効果を示すことが確認された。
【0086】
[参考例2]
紙パルプ工場の工程水でしばしば検出される菌であるフラボバクテリウム(Flavobacterium)、シュードモナス(Pseudomonas)、アシネトバクター(Acinetbacter)の3種、及び酵母クリプトコッカス(Cryptococcus)を各々100mL、ブイヨン液体培地に接種した。100メッシュ金網(5×7mm)を円筒状(直径約10mm)にして浸し、30℃にて5日間培養し、金網にスライム性付着物を生成させた。臭化ナトリウムと5,5−ジメチルヒダントインを含む水溶液に次亜塩素酸ナトリウム水溶液を添加して得た次亜臭素酸とN−クロロ−5,5−ジアルキル置換ヒダントインを含む溶液を添加して3時間放置した後の金網上のスライム付着状況を観察した。試験結果を表5に示す。
【0087】
【表5】

【0088】
以上の試験結果より本発明の次亜臭素酸とN−クロロ−5,5−ジアルキル置換ヒダントインよりなる混合物は優れたスライム除去効果を示すことが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次亜塩素酸及び/又はその水溶性塩、水中で臭素イオンを放出する臭化物、及び5,5−ジアルキル置換ヒダントインを水系に添加混合して水系において(A)次亜臭素酸及び/又はその水溶性塩と(B)N−モノクロロ−5,5−ジアルキル置換ヒダントインを生成させることを特徴とする水系におけるスライムコントロール方法。
【請求項2】
水中で臭素イオンを放出する臭化物と5,5−ジアルキル置換ヒダントインとの混合水溶液、及び次亜塩素酸及び/又はその水溶性塩の水溶液を水系に添加混合して、水系において(A)次亜臭素酸及び/又はその水溶性塩と(B)N−モノクロロ−5,5−ジアルキル置換ヒダントインを生成させることを特徴とする水系におけるスライムコントロール方法。
【請求項3】
次亜塩素酸及び/又はその水溶性塩、水中で臭素イオンを放出する臭化物、5,5−ジアルキル置換ヒダントインのそれぞれのモル比を1:(0.2〜3):(0.2〜0.9)とする請求項1又は2記載の水系におけるスライムコントロール方法。
【請求項4】
水系がパルプ工場・製紙工場工程水である請求項1又は2記載の水系におけるスライムコントロール方法。
【請求項5】
水系が工業用循環冷却水系である請求項1又は2記載の水系におけるスライムコントロール方法。

【公開番号】特開2009−226409(P2009−226409A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−159778(P2009−159778)
【出願日】平成21年7月6日(2009.7.6)
【分割の表示】特願平11−218647の分割
【原出願日】平成11年8月2日(1999.8.2)
【出願人】(000234166)伯東株式会社 (135)
【Fターム(参考)】