説明

水系アルミニウムろう付用組成物

【課題】アルミニウムまたはアルミニウム合金製の部材に対するフラックスの密着性が良好であり、かつ揮発性有機化合物の含有量を抑制して分散媒中の水の割合を多くしても、フラックスを安定して分散させることができる水系アルミニウムろう付用組成物を提供する。
【解決手段】フッ化物系フラックスと、バインダと、分散媒とを含み、前記バインダが水溶性ポリマーであり、前記分散媒が水または水と揮発性有機化合物との混合物であり、前記混合物中の揮発性有機化合物の含有量が、水系アルミニウムろう付用組成物総量に対して10質量%以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム材料のろう接に用いる水系アルミニウムろう付用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用熱交換器などの形成材料には、軽量化の観点から、アルミニウムやアルミニウム合金(以下、これらをまとめて単に「アルミニウム」と記載する場合がある)が用いられている。従来、アルミニウム製の部材をろう付により接合する際には、接合する部材同士を組み立てた後に、部材表面にフラックスを塗布して乾燥させ、ろう付温度に加熱する方法が一般的である。
【0003】
しかし、自動車用熱交換器のように、構造が複雑なものをろう付する場合には、部材を組み立てた後で接合部位にフラックスを塗布することが困難である。そこで、近年、アルミニウム製の部材の表面に予めフラックスを塗布しておき、その後、接合する部材同士を組み立てて、炉内でろう付温度に加熱するろう付方法が採用されている。また、このような用途において、フラックスには、フッ化物系フラックスが広く用いられている。フッ化物系フラックスはアルミニウムに対する腐食性を示さないことから、ろう付後の洗浄除去操作が不要である。このため、自動車用熱交換器のような部材のろう付に適しており、ろう付設備の連続運転にも適している。
【0004】
ろう付の精度を高めるには、アルミニウム製部材の表面においてフラックスが強固に付着し、摩擦や振動によって脱落することを抑制する必要がある。そこで、フラックスを、バインダとともに分散媒に分散させたろう付用組成物を調製し、得られた組成物をスプレー塗布などの手段によって部材表面に塗布する方法が用いられている。
【0005】
このような塗布方法に用いるバインダとして、特許文献1〜3は、メタクリル酸エステル系重合体を開示している。また、メタクリル酸エステル系重合体などのアクリル樹脂をバインダとして使用する場合において、これらを安定して分散させるための分散媒としては、有機溶媒や、有機溶媒と水との混合溶媒を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−208129号公報
【特許文献2】特開2009−166122号公報
【特許文献3】特開2009−142870号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、環境問題に対する関心の高まりから、ろう付用組成物に用いられる分散媒についても、揮発性有機溶剤(Volatile Organic Compounds:VOC)の含有量をできる限り低減させること、あるいは有機溶媒から水に切り替えることが求められている。なお、「揮発性有機化合物」とは、常温常圧で大気中に容易に揮発する有機化学物質のことをいう。
【0008】
しかし、分散媒中の水の割合が高くなると、フッ化物系フラックスから水素イオン(H+)が溶出しやすくなり、ろう付用組成物のpHが経時的に低くなる。pHが低くなると、バインダの溶解性や分散性が顕著に低下し、ろう付用組成物に沈殿物が生じるおそれがある。例えば、(メタ)アクリル酸エステル系重合体のようなバインダは、分子中のカルボキシル基をアミノアルコール類などで修飾することにより、水系分散媒中での溶解性を維持している。pHが低くなると、カルボキシラートとアミノアルコール類とのイオン結合が阻害され、メタ)アクリル酸エステル系重合体が不溶化する。そのため、ろう付用組成物中に沈殿物が生じ、この沈殿物は、スプレーを目詰まりさせるといった不具合の要因となる。
【0009】
本発明の課題は、アルミニウムまたはアルミニウム合金製の部材に対するフラックスの密着性が良好であり、かつ揮発性有機化合物の含有量を抑制して分散媒中の水の割合を多くしても、フラックスを安定して分散させることができる水系アルミニウムろう付用組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討を行った結果、以下の構成からなる解決手段を見出し、本発明を完成するに至った。
(1)フッ化物系フラックスと、バインダと、分散媒とを含む水系アルミニウムろう付用組成物であって、
前記バインダが水溶性ポリマーであり、
前記分散媒が水または水と揮発性有機化合物との混合物であり、
前記混合物中の揮発性有機化合物の含有量が、水系アルミニウムろう付用組成物総量に対して10質量%以下である、
水系アルミニウムろう付用組成物。
(2)前記水溶性ポリマーが、ポリビニルアルコールである、(1)に記載の水系アルミニウムろう付用組成物。
(3)前記フッ化物系フラックスと前記バインダとの含有量の比が、質量比で99.5:0.5〜75:25である、(1)または(2)に記載の水系アルミニウムろう付用組成物。
(4)前記バインダの含有割合が、固形分換算で、水系アルミニウムろう付用組成物の総量に対して0.1〜10質量%である、(1)〜(3)のいずれかの項に記載の水系アルミニウムろう付用組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、アルミニウムまたはアルミニウム合金製の部材に対するフラックスの密着性として良好な特性を得ることができる。さらに、分散媒中の水の割合を多くしてもフラックスを安定して分散させることができ、これにより、揮発性有機化合物の含有量が抑制された水系アルミニウムろう付用組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】ろう付性の評価サンプルを示す外観図である。
【図2】ろう付温度に加熱した後の評価用サンプルを模式的に示す側面図である。
【図3】スプレー密着性の評価方法を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(水系アルミニウムろう付用組成物)
本発明の水系アルミニウムろう付用組成物は、フッ化物系フラックスと、バインダと、分散媒とを含む。
【0014】
本発明に用いられるフッ化物系フラックスは、ろう付時において、アルミニウム表面の酸化被膜を除去する。フッ化物系フラックスとしては、アルミニウムのろう付に用いられる各種のものが挙げられる。具体的には、例えば、フルオロアルミン酸カリウム、フッ化カリウム、フッ化アルミニウム、フッ化リチウム、フッ化ナトリウム、フルオロアルミン酸カリウム−セシウム錯体(非反応性セシウム系フラックス)、フルオロアルミン酸セシウム(非反応性セシウム系フラックス)、フルオロ亜鉛酸カリウム(反応性亜鉛置換フラックス)、フルオロ亜鉛酸セシウム(反応性亜鉛置換フラックス)などが挙げられる。フッ化物系フラックスは、例示の化合物を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0015】
市販されているフッ化物系フラックスとしては、例えば、ソルベイ(Solvay)社製の「ノコロック(Nocolok、登録商標)フラックス(フルオロアルミン酸カリウム)」、「ノコロック(登録商標)Silフラックス」(フルオロアルミン酸カリウムと金属ケイ素粉末との混合物)、「ノコロック(登録商標)Csフラックス(セシウム系フラックス)」などが挙げられる。
【0016】
本発明に用いられるバインダは、水溶性ポリマーである。水溶性ポリマーの分子量は特に限定されない。しかし、従来のろう付用組成物において沈降防止剤として用いられるような低分子量のものではなく、ある程度高分子量のものが求められる。分子量がある程度大きい水溶性ポリマーを用いることで、アルミニウム製の部材に対するフラックスの密着性を良好にすることができる。具体的には、水溶性ポリマーの分子量は、GPC法による重量平均分子量で、50000〜300000であることが好ましく、80000〜200000であることがより好ましい。
【0017】
水溶性ポリマーとしては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、水系ポリエステル樹脂、メチルセルロース、水系エポキシ樹脂などが挙げられる。これらの水溶性ポリマーは、熱分解性に優れているため、ろう付時に揮発しやすく、炭化物の残渣が残りにくい。特に、本発明に用いられるバインダとしては、ポリビニルアルコールが好ましい。バインダは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0018】
本発明に用いられる分散媒は、水単独または水とVOCとの混合物が挙げられる。特に、分散媒として水を単独で用いることが好ましい。分散媒が、水とVOCとの混合物である場合において、分散媒中に含まれるVOCの量は、水系アルミニウムろう付用組成物の総量に対して10質量%以下となるように設定される。VOCの含有割合が水系アルミニウムろう付用組成物の総量に対して10質量%以下であるならば、従来のアルミニウムろう付用組成物と比べて、十分に「低VOC」の組成物であるということができる。水系アルミニウムろう付用組成物の総量に対するVOCの含有割合は、特に5質量%以下であることがより好ましい。
【0019】
VOCとしては特に限定されないが、水との相溶性が高いものが好ましい。具体的には、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、1,3−ブタンジオール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール(MMB)などのアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、イソブチルケトンなどのケトン類;ジエチルエーテルなどのエーテル類;ナフテン系脂環式炭化水素類;エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコールブチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテル、ジエチレングリコールブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテルなどのグリコールエーテル類、などが挙げられる。
【0020】
上記フッ化物系フラックス、バインダ、および分散媒の配合量は、水系アルミニウムろう付用組成物としての機能を発揮し得る範囲であれば特に限定されない。例えば、フッ化物系フラックスの配合量は、バインダの配合量にもよるが、水系アルミニウムろう付用組成物の総量に対して5〜50質量%が好ましく、10〜40質量%がより好ましい。フッ化物系フラックスの配合量が少ない場合には、ろう付時に塗布される水系アルミニウムろう付用組成物の量が過大になる傾向がある。フッ化物系フラックスの配合量が多い場合には、水系アルミニウムろう付用組成物の粘度が高くなる傾向があり、バインダの配合量によって、アルミニウム製部材の表面にフッ化物系フラックスを付着させる効果が低下するおそれがある。
【0021】
バインダの配合量は、フッ化物系フラックスの配合量にもよるが、水系アルミニウムろう付用組成物の総量に対して0.1〜10質量%が好ましく、0.3〜4質量%がより好ましい。バインダの配合量が少ない場合には、フッ化物系フラックスの配合量によって、アルミニウム製部材の表面にフッ化物系フラックスを付着させる効果が低下するおそれがある。バインダの配合量が多い場合には、水系アルミニウムろう付用組成物の粘度が高くなる傾向がある。
【0022】
フッ化物系フラックスとバインダとの質量比は、特に限定されないが、99.5:0.5〜75:25が好ましく、99:1〜80:20がより好ましく、99:1〜90:10が特に好ましい。フッ化物系フラックスとバインダとを、このような質量比で含有することにより、ろう付性と粘着性とのバランスをとることができる。
【0023】
本発明の水系アルミニウムろう付用組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲で、必要に応じて他の添加剤を配合することができる。他の添加剤としては、例えば、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)などの酸化防止剤;ベンゾトリアゾールなどの腐食防止剤;シリコンオイル、グリセリンなどの消泡剤;ワックス、硬化油、脂肪酸アミド、ポリアミドなどの増粘剤;着色剤などが挙げられる。
【0024】
本発明の水系アルミニウムろう付用組成物は、例えば、高温に加熱された被着物に対してスプレー塗布される。このようにスプレー塗布することによって、水系アルミニウムろう付用組成物に含まれる分散媒が一気に揮散し、フラックスおよびバインダの塗膜がろう接部分に形成される。また、本発明の水系アルミニウムろう付用組成物は、後述するろう付用部材の材料としても用いられる。
【0025】
(ろう付用部材)
本発明の水系アルミニウムろう付用組成物は、例えば、アルミニウムの基材表面に塗布し、乾燥させた状態で、ろう付用部材として供給することができる。
【0026】
基材は、アルミニウムまたはアルミニウム合金製であり、その厚みは特に限定されず、所望の用途(形成品)に応じて適宜設定することができる。また、基材の表面には、ろう材が塗布される。ろう材としては、金属ケイ素、ケイ素−アルミニウム合金、これらに少量のマグネシウム、銅、ゲルマニウムなどを含む合金などが挙げられる。
【0027】
次いで、水系アルミニウムろう付用組成物が基材に塗布される。塗布方法は、例えば、スプレー法、ロールコート法、浸漬法などから適宜選択できるが、スプレー法が特に好ましい。
【0028】
水系アルミニウムろう付用組成物の塗布量は、ろう付性と塗布安定性との観点から、塗布面1m2あたりの乾燥質量として、好ましくは5〜60g、より好ましくは10〜40gである。なお、水系アルミニウムろう付用組成物がろう材を含む場合は、上記ろう材の塗布量と水系アルミニウムろう付用組成物の塗布量との合計量を塗布すればよい。
【0029】
ろう材や水系アルミニウムろう付用組成物は、用途に応じて、基材表面の片面のみに塗布してもよく、両面に塗布してもよい。また、基材がある程度の厚みを有する場合は、側面に塗布してもよい。
【0030】
本発明の水系アルミニウムろう付用組成物やろう付用部材は、車両に搭載されるエバポレータ、コンデンサなど自動車用熱交換器などの材料として用いられ、得られる形成品(自動車用熱交換器など)の外観は、ろう付不良や塗膜にひび割れなどが存在せず、良好である。
【実施例】
【0031】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0032】
<水系アルミニウムろう付用組成物の調製>
以下の実施例および比較例において、フラックスとしては、ソルベイ社製の「ノコロック(登録商標)Silフラックス」(フルオロアルミン酸カリウムと金属ケイ素粉末との混合物)を用いた。バインダとしては、日本酢ビ・ポバール株式会社製のポリビニルアルコール(PVA、品番JF−20、重量平均分子量15万)を用いた。重量平均分子量は、ビスコテック社(Viscotek Corp.)製のゲル浸透クロマトグラフ(GPC)、型番TDA−302を用いて、GPC法により測定した。また、分散媒としては、水単独、または水とVOC(3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール(MMB))との混合溶媒を用いた。
【0033】
(実施例1)
フラックスとPVAとを水に加えて、攪拌することにより、水系アルミニウムろう付用組成物を得た。組成物の全量に対する各成分の含有割合は、表1に示すように、フラックスが5質量%、PVAが0.4質量%および残量が水であり、フラックスとバインダ(PVA)との質量比は92.6:7.4であった。
【0034】
(実施例2〜10および12〜17)
フラックスおよびPVAの含有割合を表1に示すように設定したこと以外は、実施例1と同様にして水系アルミニウムろう付用組成物を得た。
【0035】
(実施例11)
フラックスとPVAとを、水およびMMBの混合分散媒中に加えて、攪拌することにより、水系アルミニウムろう付用組成物を得た。組成物の全量に対する各成分の含有割合は、表1に示すように、フラックスが30質量%、PVAが2.2質量%、MMBが10質量%および残量が水であり、フラックスとPVAとの質量比は93.2:6.8であった。
【0036】
(比較例1〜3)
フラックス、PVA、水およびMMBの含有割合を表1に示すように設定したこと以外は、実施例11と同様にして水系アルミニウムろう付用組成物を得た。
【0037】
(参考例1)
<アクリル樹脂の合成>
従来用いられているアクリル系バインダを、次のように合成した。撹拌装置、冷却管、滴下ロートおよび窒素導入管を備えた反応装置に、600質量部のイソプロピルアルコールを仕込み、窒素気流下で系内温度が80℃となるまで昇温した。次いで、100質量部のメタクリル酸メチル、275質量部のメタクリル酸イソブチル、25質量部のメタクリル酸および4質量部の過酸化ベンゾイルを含む混合溶液を約3時間かけて系内に滴下した。滴下終了後、さらに10時間、反応温度を80℃に保って重合を完結させ、樹脂溶液を得た。
【0038】
次いで、撹拌装置、蒸気凝集除去装置および窒素導入管を備えた反応装置に、750質量部の上記樹脂溶液、700質量部のイオン交換水および18質量部のジメチルアミノエタノールを仕込み、窒素気流下で系内が還流するまで昇温した。蒸気凝集除去装置を用いて、系内のイソプロピルアルコール450質量部を除去し、アルミニウムろう付け用バインダ(固形分:30質量%)を得た。なお、従来用いられているこのアクリル系バインダを用いてろう付用組成物を調製する場合は、当該アクリル系バインダの水溶媒中での溶解性が低いため、VOCの含有量を多くして、安定化を図っていた。
【0039】
<ろう付用組成物の調製>
上述のアクリル樹脂と、フラックスとを、水およびMMBの混合分散媒中に加えて、攪拌することにより、アルミニウムろう付用組成物を得た。フラックスは、実施例1で用いたものと同じものを用いた。組成物の全量に対する各成分の含有割合は、表1に示すように、フラックスが30質量%、アクリル樹脂が3質量%、MMBが3質量%および残量が水であり、フラックスとバインダ(アクリル樹脂)との質量比は90.9:9.1であった。
【0040】
(参考例2)
上述のアクリル樹脂、フラックス、水、およびMMBの含有割合を表1に示すように設定したこと以外は、参考例1と同様にしてアルミニウムろう付用組成物を得た。
【0041】
(参考例3)
表1に示すように、フラックスを5質量%、PVAを0.1質量%、MMBを20質量%および残量を水としたこと以外は、実施例11と同様にして水系アルミニウムろう付用組成物を得た。なお、フラックスとPVAとの質量比は98:2であった。
【0042】
<アルミニウムろう付用組成物の評価>
上記実施例、比較例および参考例で得られたアルミニウムろう付用組成物を用いて、下記(1)〜(5)の測定および評価を行った。結果を表2に示す。
【0043】
(1)ろう付性
ろう付性の評価サンプルの外観図を図1に示し、ろう付温度に加熱した後の評価サンプルの側面図を図2に示す。
【0044】
<評価サンプルの作製>
まず、図1を参照して、ろう付性の評価サンプル10の作製工程を説明する。ろう付性の評価サンプル10は、幅W1およびW2が25mm、長さL1およびL2が70mm、厚さが2.0mm(アルミニウム平板11)と0.8mm(アルミニウム平板12)である2枚のアルミニウム平板11、12と、直径1.6mmのステンレス線13とを備える。第1のアルミニウム平板11には、上面にろう材面となるアルミニウム−ケイ素系合金(JIS−A4047P、0.2mm)を、下面に心材となる純アルミニウム(JIS−A1050P、1.8mm)を圧延した平板を用いた。第2のアルミニウム平板12には、純アルミニウム(JIS−A1050P)製の平板を用いた。
【0045】
第1のアルミニウム平板11を200℃に加熱して、ろう材表面にアルミニウムろう付用組成物を塗布することにより、表面に塗布層を形成した。アルミニウムろう付用組成物としては、上述の実施例、比較例および参考例で作成したものを用いた。
【0046】
次に、第2のアルミニウム平板12の長辺側における一の端縁E1を、第1のアルミニウム平板11の表面14に対して突き合わせて、端縁E1が第1のアルミニウム平板11の長さ方向L1に沿うように配置した。この時、第2のアルミニウム平板12における端縁E1の一の角部C1を、第1のアルミニウム平板11の表面14に接触させた。また、端縁E1の他の角部C2側を、第1のアルミニウム平板11の表面14に配置されたステンレス線13と接触させた。このようにステンレス線13を挟むことにより、第1のアルミニウム平板11の表面14と第2のアルミニウム平板12の端縁E1との間には、一の角部C1から他の角部C2にかけて間隔が広がる楔形の隙間が形成された。第2のアルミニウム平板12の角部C1側から、第1のアルミニウム平板11とステンレス線13との接線までの距離Dを45mmに設定し、第1のアルミニウム平板11と第2のアルミニウム平板12とを図示しないワイヤーで固定した。
【0047】
<ろう付性の評価>
上記評価サンプル10をろう付温度である600℃に加熱して、第1のアルミニウム平板11と第2のアルミニウム平板12とをろう付した。ろう付性の評価は、ろう付後におけるろう材の充填長さL3(図2参照)が大きいほど良好である。なお、充填長さL3の最大値は、上述の距離Dに相当する45mmである。
【0048】
ろう付性の評価基準は下記のとおりである。
A:充填長さL3が40mm以上で、ろう付性が極めて良好な場合。
B:充填長さL3が20mm以上40mm未満で、実用上許容できるろう付性が得られる場合。
C:充填長さL3が20mm未満で、ろう付性が不十分な場合。
【0049】
(2)密着性
密着性の評価方法を示す概略図を図3に示す。
【0050】
<評価用サンプルの作製>
図3を参照して、スプレー密着性の評価用サンプル20は、アルミニウム平板21と、その一方の表面に形成された塗布層22と、を備える。アルミニウム平板21には、長さ150mm、幅70mmの純アルミニウム(JIS−A1050P)製の平板を用いた。塗布層22は、予め200℃に加熱されたアルミニウム平板21の表面に、アルミニウムろう付組成物をスプレー塗布して、加熱により分散媒を除去することにより形成した。アルミニウムろう付用組成物としては、上記実施例、比較例、および参考例で作成したものを用い、その塗布量は15g/m2に設定した。
【0051】
<密着性の評価>
塗布層22が形成されたアルミニウム平板21を、塗布層22を上に向けて平台上に設置した。塗布層22の表面にプラスチック製の字消し23(三菱鉛筆株式会社製の「uniプラスチック字消し」)を載せて、鉛直方向に1kgf(9.8N)の荷重をかけながら、アルミニウム平板21の表面を一方向に往復させた。こうして、プラスチック字消しの摩擦によって塗布層22が完全に削られたときの往復回数(以下、単に「往復回数」という)をカウントした。密着性は、往復回数が多いほど良好である。
【0052】
密着性の評価基準は下記のとおりである。
A+:往復回数が10回以上で、密着性が極めて良好な場合。
A:往復回数が4回以上10回未満で、密着性が良好な場合。
B:往復回数が2回以上4回未満で、実用上許容できる密着性が得られる場合。
C:往復回数が2回未満で、密着性が不十分な場合。
【0053】
(3)粘度
上記実施例、比較例、および参考例の各アルミニウムろう付用組成物について、E型粘度計(東機産業株式会社製の型番「TV−22」)を用いて粘度を測定することにより、スプレー塗布に適しているか否かを評価した。測定条件は、測定温度を25℃とし、測定サンプルの回転速度を100回転/分とした。
【0054】
粘度の測定結果とスプレー塗布への使用の可否の判断基準は、下記のとおりである。
A:粘度が200mPa・s-1以下であって、スプレー塗布に極めて適している場合。
B:粘度が200mPa・s-1を超え500mPa・s-1以下であって、スプレー塗布への適用に実用上許容できる範囲である場合。
C:粘度が500mPa・s-1を超えるスプレー塗布に適していない場合。
【0055】
(4)低VOC性
VOCの含有量の程度を下記の段階でランク分けした。
A:VOCの含有割合が5質量%以下であって、低VOC性が極めて良好な場合。
B:VOCの含有割合が5質量%を超え10質量%以下で良好な場合。
C:VOCの含有割合が10質量%を超え、VOC量の低減が不十分な場合。
【0056】
(5)安定性
上記実施例、比較例および参考例のアルミニウムろう付用組成物各2kgを、40℃の環境下で30日間保管した後、40メッシュ(目開き0.35mm)のろ過フィルタを用いてろ過した。次いで、ろ過フィルタを乾燥させて、ろ過フィルタ上の残渣の質量を測定した。アルミニウムろう付用組成物の全量に対する残渣の質量割合が小さいほど、安定性が良好である。
【0057】
安定性は、下記の基準により評価した。
A:残渣の割合が0.05質量%以下であり、安定性が極めて良好な場合。
B:残渣の割合が0.05質量%を超え0.2質量%以下であって、実用上許容できる安定性が得られる場合。
C:残渣の割合が0.2質量%を超え安定性が不十分な場合。
【0058】
【表1】

【0059】
【表2】

【0060】
表2に示すように、本発明の組成物(実施例1〜17)は、ろう付性、密着性、粘度、低VOC性および安定性のいずれも良好であることがわかる。一方、比較例1〜3の組成物は、VOCの含有量が多く、ろう付性、密着性および粘度のいずれかに劣ることがわかる。
【符号の説明】
【0061】
10 ろう付性の評価サンプル
11 第1のアルミニウム平板
12 第2のアルミニウム平板
13 ステンレス線
14 第1のアルミニウム平板の表面(ろう材面)
20 スプレー密着性の評価用サンプル
21 アルミニウム平板
22 塗布層
23 プラスチック製の字消し

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ化物系フラックスと、バインダと、分散媒とを含む水系アルミニウムろう付用組成物であって、
前記バインダが水溶性ポリマーであり、
前記分散媒が水または水と揮発性有機化合物との混合物であり、
前記混合物中の揮発性有機化合物の含有量が、水系アルミニウムろう付用組成物総量に対して10質量%以下である、
水系アルミニウムろう付用組成物。
【請求項2】
前記水溶性ポリマーが、ポリビニルアルコールである、請求項1に記載の水系アルミニウムろう付用組成物。
【請求項3】
前記フッ化物系フラックスと前記バインダとの含有量の比が、質量比で99.5:0.5〜75:25である、請求項1または2に記載の水系アルミニウムろう付用組成物。
【請求項4】
前記バインダの含有割合が、固形分換算で、水系アルミニウムろう付用組成物の総量に対して0.1〜10質量%である、請求項1〜3のいずれかの項に記載の水系アルミニウムろう付用組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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