説明

水系コーティング組成物、複合シート、化粧シート、化粧材

【課題】天然素材や生分解性素材への密着性が良好で、耐水性が高く、環境への影響が少ない水系コーティング組成物、該水系コーティング組成物を用いて得られる複合シート、該複合シートを有する化粧シート、該化粧シートを有する化粧材を提供する。
【解決手段】多糖類を酸化して得られる酸化多糖類と、1分子中に2つ以上の反応性官能基を有する化合物とを含む水溶液または水分散液からなることを特徴とする水系コーティング組成物。脂肪族ポリエステル系樹脂および/または植物由来樹脂から構成される基材シートに、前記水系コーティング組成物を塗布してなる複合シート。天然繊維から構成される基材シートに、前記水系コーティング組成物を塗布および/または含浸してなる複合シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水系コーティング組成物、該水系コーティング組成物を用いた複合シート、該複合シートを用いた化粧シート、および該化粧シートを用いた化粧材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の環境問題に対する意識の高まりから、天然素材または生分解性素材を利用した商品の開発が盛んに行われている。このような世の中の流れから、ポリ乳酸に代表される植物由来樹脂製のフィルムや、植物繊維製の不織布、紙等の利用も見直されつつあり、各種包装材料や工業用材料、建装用材料などの用途への利用が検討されている。
これらの用途においては、用いられる素材に対して印刷を施したり、接着剤層やシーラント層等の他の層を張り合わせることが一般的に行われる。しかし、素材として天然素材または生分解性素材を用いる場合、特に植物由来樹脂製のフィルムを用いる場合の印刷・張り合わせの技術は未だ解決すべき課題が多い。そのうちの大きな問題の1つとして、それらの素材に対するインキや接着剤の密着が不充分であることが挙げられる。
【0003】
一方、紙や樹脂フィルムの改質のために多糖類を用いることが提案されている。多糖類としては、地球上で最も存在量の多い炭水化物であるセルロースをはじめ、澱粉、ムコ多糖(たとえばキチン)、それらの誘導体など、種々のものが利用されている。
多糖類を誘導体化する方法としては、主に、多糖類の水酸基に置換基を導入する方法が用いられている。しかし、通常これらの誘導体の製造には、多くの毒性の高い物質や大量の有機溶剤を使用する必要があり、環境問題への対応という本来の目的に沿っていない。
また、多糖類を酸化させる方法も提案されている。近年、TEMPO触媒酸化と呼ばれる方法について研究が進められている(たとえば非特許文献1参照。)。この方法は、多糖類の水溶液または水分散液中、2,2,6,6−テトラメチルピペリジニルオキシラジカル(TEMPO)を触媒として用いて多糖類の酸化反応を行い、多糖類の水酸基をホルミル基、カルボキシル基またはその塩類まで変換し、親水化する手法である。
【非特許文献1】Y.Kato等,カーボハイドレートポリマーズ(Carbohydratepolymers),第51巻,第69−75頁(2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来技術において、多糖類を用いて天然素材または生分解性素材を改質しようとした場合、種々の問題がある。たとえば、いずれの多糖類を用いた場合でも、天然素材や生分解性素材への密着性が悪く、耐水性も不充分である。特に澱粉や澱粉誘導体は耐水性が低い。また、セルロースやキチンは、水やその他の溶媒に溶け難く、水溶液や水分散液として使用することが難しい。さらに、その溶解性を改善するために誘導体化を行った場合、合成された誘導体が天然には存在しない物質であると、万が一環境内に廃棄された場合等において環境や生体に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、天然素材や生分解性素材への密着性が良好で、耐水性が高く、環境への影響が少ない水系コーティング組成物、該水系コーティング組成物を用いて得られる複合シート、該複合シートを有する化粧シート、該化粧シートを有する化粧材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する本発明の第一の態様は、多糖類を酸化して得られる酸化多糖類と、1分子中に2つ以上の反応性官能基を有する化合物とを含む水溶液または水分散液からなることを特徴とする水系コーティング組成物である。
本発明の第二の態様は、脂肪族ポリエステル系樹脂および/または植物由来樹脂から構成される基材シートに、前記本発明の第一の態様の水系コーティング組成物を塗布してなる複合シート(以下、複合シート(1)ということがある。)である。
本発明の第三の態様は、天然繊維から構成される基材シートに、前記本発明の第一の態様の水系コーティング組成物を含浸または塗布してなる複合シート(以下、複合シート(2)ということがある。)である。
本発明の第四の態様は、前記第二または第三の態様の複合シートを有する化粧シートである。
本発明の第五の態様は、少なくとも、前記第四の態様の化粧シートを基材に貼合してなる木化粧材である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、天然素材や生分解性素材への密着性が良好で、耐水性が高く、環境への影響が少ない水系コーティング組成物、該水系コーティング組成物を用いて得られる複合シート、該複合シートを有する化粧シート、該化粧シートを有する化粧材を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に本発明を詳細に説明する。
<水系コーティング組成物>
[酸化多糖類]
酸化多糖類は、多糖類を酸化して得られるものである。酸化される多糖類としては、でんぷん、プルラン、ヒアルロン酸などの水溶性多糖類、セルロース、キチン・キトサン等を用いることができる。原料の調達、コスト、期待される機能、また、構造をほとんど変えずに水溶化することもできるといった利点を考えると、デンプン、セルロース、キチン・キトサンが好ましい。
ここで、キチン・キトサンとは、N−アセチルグルコサミン残基および/またはグルコサミン残基が連なるポリマーからなる多糖類のことである。
キチン・キトサンは主にカニやエビの殻や昆虫の外殻に含まれる多糖類であり、天然の状態ではほぼN−アセチルグルコサミン残基から成るとされている。これらから単離する際の処理により、脱アセチル化が進み、グルコサミン残基の割合が増加していくと考えられている。
一般に、グルコサミン残基の割合よりもN−アセチルグルコサミン残基の割合の高いものはキチン、N−アセチルグルコサミン残基の割合よりもグルコサミン残基の割合の高いものはキトサンと呼ばれている。
N−アセチルグルコサミン残基およびグルコサミン残基の割合は、グルコサミン残基のアミノ基のN−アセチル化やN−アセチルグルコサミン残基の脱アセチル化反応により、任意の割合でコントロールすることもできる。
本発明においては、前記多糖類が、デンプン、セルロース、キチンおよびキトサンからなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0009】
多糖類の酸化方法としては、多くの手法が考えられるが、2,2,6,6−テトラメチルピペリジニルオキシラジカル(以下、TEMPOと略記する。)等のN−オキシル化合物を触媒に用いた酸化方法が好ましい。
本発明においては、多糖類を、水中にて、N−オキシル化合物の存在下で酸化させる方法が好ましい。これにより、酸化多糖類を含む水溶液または水分散液が得られる。かかる水溶液または水分散液はそのまま本発明の水系コーティング組成物の製造に用いることができる。たとえば該水溶液または水分散液中に、1分子中に2つ以上の反応性官能基を有する化合物を添加することにより、本発明の水系コーティング組成物が得られる。
N−オキシル化合物としては、TEMPOのほか、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、2,2,6,6−テトラメチル−4−ヒドロキシピペリジン−1−オキシル、2,2,6,6−テトラメチル−4−フェノキシピペリジン−1−オキシル、2,2,6,6−テトラメチル−4−ベンジルピペリジン−1−オキシル、2,2,6,6−テトラメチル−4−アクリロイルオキシピペリジン−1−オキシル、2,2,6,6−テトラメチル−4−メタクリロイルオキシピペリジン−1−オキシル、2,2,6,6−テトラメチル−4−ベンゾイルオキシピペリジン−1−オキシル、2,2,6,6−テトラメチル−4−シンナモイルオキシピペリジン−1−オキシル、2,2,6,6−テトラメチル−4−アセチルアミノピペリジン−1−オキシル、2,2,6,6−テトラメチル−4−アクリロイルアミノピペリジン−1−オキシル、2,2,6,6−テトラメチル−4−メタクリロイルアミノピペリジン−1−オキシル、2,2,6,6−テトラメチル−4−ベンゾイルアミノピペリジン−1−オキシル、2,2,6,6−テトラメチル−4−シンナモイルアミノピペリジン−1−オキシル、4−プロピオニルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、4−メトキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、4−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、4−アセトアミド−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、4−オキソ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、2,2,4,4−テトラメチルアゼチジン−1−オキシル、2,2−ジメチル−4,4−ジプロピルアゼチジン−1−オキシル、2,2,5,5−テトラメチルピロリジン−N−オキシル、2,2,5,5−テトラメチル−3−オキソピロリジン−1−オキシル、2,2,6,6−テトラメチル−4−アセトキシピペリジン−1−オキシル、ジtert−ブチルアミン−N−オキシル、ポリ[(6−[1,1,3,3−テトラメチルブチル]アミノ)−s−トリアジン−2,4−ジイル][(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ]ヘキサメチレン[(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ等が挙げられる。
【0010】
酸化多糖類は、水溶性であってもよく、水難溶性または水不溶性であってもよい。酸化多糖類が水溶性であると、酸化多糖類を水溶液として用いることができ、酸化多糖類が水難溶性または水不溶性であると、酸化多糖類を水分散液として用いることができる。コーティングにより得られる塗膜の均一性、透明度(屈折率)、平滑性、密着性に関して優れていることから、水溶性であることが好ましい。
原料として、セルロースやキチンなど結晶性の高い多糖類を用いて水溶性のものを得る場合は、前処理として、当該原料に対し、再生処理などの結晶性を低下させるための処理を施すことが好ましい。
ここで、「水溶性である」とは、ある任意の濃度の水溶液を5μmのメンブレンフィルターでろ過したときの残渣の重量が全固形分の1%以下であることを言う。
【0011】
本発明においては、特に、上記酸化方法を、水中にて、N−オキシル化合物の存在下、共酸化剤を併用して実施することが好ましい。これにより、温和な条件下でも酸化反応を円滑に進行させ、カルボキシ基の導入効率を大きく改善できる。
また、このとき、反応系内に、その他の触媒として、臭化物またはヨウ化物を存在させることが好ましい。
共酸化剤としては、臭素、塩素、ヨウ素等のハロゲン、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸や過ハロゲン酸、またはそれらの塩、ハロゲン酸化物、窒素酸化物、過酸化物など、目的の酸化反応を推進し得る共酸化剤であれば、いずれの共酸化剤も使用できる。手軽な共酸化剤として、次亜塩素酸ナトリウムがより好ましい。
臭化物としては、臭化ナトリウム等の臭化アルカリ金属塩が挙げられる。ヨウ化物としては、ヨウ化ナトリウム等のヨウ化アルカリ金属塩が挙げられる。
このとき反応系内においては、順次、N−オキシル化合物が共酸化剤により酸化されてオキソアンモニウム塩を生成し、該オキソアンモニウム塩により、多糖類が酸化される。この酸化方法は、デンプンやプルランなどの水溶性多糖類から、セルロース、キチン・キトサンなど様々な多糖類に適用できる。
こうして酸化された多糖類は、その一級水酸基(一級炭素原子に結合した水酸基)のみが高い選択性で酸化され、カルボキシル基またはその塩に変換されたポリウロン酸型の構造を有する。この合成ポリウロン酸は、高い親水性を有し、出発多糖類の結晶性によっては水溶性を有し、水溶化されたものは天然に存在する糖類からなる均一な構造を有し、高い水溶性と高濃度でも低粘度の水溶液が得られる。
また、このTEMPO触媒酸化の過程では、通常の酸化手法とは異なり、かなりの量のホルミル基がヘミアセタールなどの形で残っている。本発明の効果は、カルボキシ基や水酸基の他に、該ホルミル基と、1分子中に2つ以上の反応性官能基を有する化合物との相互作用(たとえば架橋反応)によっても得られるものと推測される。
【0012】
上記酸化方法で添加する試薬の量や種類、温度やpHなどの反応条件は、多糖類の酸化が進行し、目的の多糖類が得られる条件であればよく、適宜変更可能である。
N−オキシル化合物の使用量は、触媒としての量でよく、例えば、酸化させる多糖類の構成単糖のモル数に対し、10ppm〜5%(ppc)の範囲内が好ましく、0.05〜3%がより好ましい。
また、共酸化剤の使用量は、得られる酸化多糖類の酸化度に大きく影響し、多糖類の一級水酸基のモル数に対し、1〜400%が好ましく、5〜250%がより好ましく、160〜250%がさらに好ましい。
また、臭化物またはヨウ化物の使用量は、酸化反応を促進できる範囲で選択することができ、例えば、多糖類の構成単糖のモル数に対し、0〜100%が好ましく、1〜50%がより好ましい。
また、構成単糖の一級水酸基への酸化の選択性を向上させ、副反応を抑える目的で、反応温度は、室温(30℃)以下が好ましく、5℃以下がより好ましい。反応温度の下限は、特に限定されないが、0℃以上が好ましい。
さらに、反応中は系内をアルカリ性に保つことが好ましい。このときのpHは、9〜12が好ましく、pH10〜11がより好ましい。pHは、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリを添加することにより調節できる。
【0013】
さらに、上記酸化方法においては、共酸化剤の量、およびpHを一定に保つ際に添加されるアルカリの量により、多糖類の酸化度を制御することができる。例えば、多糖類の一級水酸基と当量のアルカリと、2倍当量の酸化剤とが添加されれば、ほぼ全てのピラノース環6位の一級水酸基がカルボキシル基にまで酸化され、水溶性のポリウロン酸が得られる。
この酸化多糖類は水溶性が高く、水溶液とすることができる。特に水溶性ポリウロン酸の水溶液は、高濃度でも比較的低粘度であるため、乾燥の負荷を低減したり、イソシアネートなどの反応性官能基との反応効率を上げるために固形分濃度を高く(たとえば1〜50質量%)することも可能である。
【0014】
本発明の水系コーティング組成物中、酸化多糖類の濃度は、当該水系コーティング組成物の用途、目的、望まれる物性などにより自由に選択することができるが、粘度、乾燥、反応効率などの点から、0.1〜50質量%が好ましく、5〜20質量%がより好ましい。
【0015】
[1分子中に2つ以上の反応性官能基を有する化合物]
1分子中に2つ以上の反応性官能基を有する化合物(以下、多官能化合物ということがある。)における反応性官能基は、酸化多糖類中の反応基(水酸基、アミノ基、ホルミル基、カルボニル基、カルボキシ基やその塩(COO))と反応する官能基であり、前記反応基と反応して架橋を形成するか、或いは機能性を付与する側鎖的な役割として機能する。
反応性官能基としては、イソシアネート基、カルボジイミド基、ブロック化イソシアネート基、エポキシ基、オキサゾリン基、アミノ基、水酸基、ホルミル基、ハロヒドリン基、ヒドラジド基等が挙げられ、これらの中でも、イソシアネート基、カルボジイミド基、ブロック化イソシアネート基、エポキシ基、オキサゾリン基およびアミノ基からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
ここで、ブロック化イソシアネート基とは、系内または空気中に存在する水と反応してイソシアネート基が消費されてしまうのを防ぐ、あるいは一液中にイソシアネート基と、該イソシアネート基と反応する官能基の両方が存在しうる系のポットライフを長くする目的で、イソシアネート基が保護(ブロック)された基である、熱や放射線の照射などによって該ブロックがはずれ、イソシアネート基が生じる。イソシアネート基のブロックに用いられるブロック剤としては、オキシム類[アセトオキシム、メチルイソブチルケトオキシム、ジエチルケトオキシム、シクロペンタノンオキシム、シクロヘキサノンオキシム、メチルエチルケトオキシム等];ラクタム類[γ−ブチロラクタム、ε−カプロラクタム、γ−バレロラクタム等];炭素数1〜20の脂肪族アルコール[エタノール、メタノール、オクタノール等];フェノール類[フェノール、m−クレゾール、キシレノール、ノニルフェノール等];活性メチレン化合物[N,N−ジエチルヒドロキシルアミン、2−ヒドロキシピリジン、ピリジン−N−オキサイド、2−メルカプトピリジン等];およびこれらの2種以上の混合物が挙げられる。これらのうち、好ましいのはオキシム類であり、特に好ましいのはメチルエチルケトオキシムである。
多官能化合物中、反応性官能基の数は、2つ以上であればよく、特に限定されない。
1分子の多官能化合物中に含まれる反応性官能基は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。
多官能化合物には、上記反応性官能基をポリマー末端に持つウレタンプレポリマーや、ポリイソシアネート、ポリカルボジイミドなどのポリマーも含まれる。
【0016】
多官能化合物としては、特に、反応性官能基として、イソシアネート基を有するイソシアネート化合物、カルボジイミド基を有するカルボジイミド化合物、エポキシ基を有するエポキシ化合物が好ましく、イソシアネート化合物および/またはカルボジイミド化合物がより好ましい。これらの化合物は、それぞれ、イソシアネート基、カルボジイミド基、エポキシ基以外の反応性官能基を有していてもよい。
イソシアネート化合物としては、フェニレンジイソシアネート(PDI)、トリレンジイソシアネート(TDI)、ナフタレンジイソシアネート(NDI)、4,4’ジイソシアネートジフェニルメタン(MDI)等の芳香族ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート(XDI)等の芳香族脂肪族ジイソシアネート、水添TDI、水添XDI、水添MDI、ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)等の脂肪族若しくは脂環族ジイソシアネート、およびこれらの誘導体であるポリオール付加物またはビュレット体、上記ジイソシアネートを3分子以上反応させて得られる3官能以上のポリイソシアネート、リジントリイソシアネート(LTI)等の3官能イソシアネート、ならびに、イソシアネート基を含む各種のオリゴマー、ポリマー等が挙げられる。
カルボジイミド化合物としては、ポリカルボジイミド等のカルボジイミド基を含むオリゴマーやポリマー等が挙げられる。
エポキシ化合物としては、両末端エポキシ化合物あるいは多価エポキシ化合物が好ましい。多価エポキシ化合物としては、グリシジルエーテル系エポキシ化合物、脂環式エポキシ化合物、グリシジルアミン系エポキシ化合物などが挙げられる。
【0017】
本発明の水系コーティング組成物中、多官能化合物の配合割合は、当該多官能化合物中の反応性官能基の数が、酸化多糖類中の反応基の数に対し、0.1〜250%の範囲にあるよう混合させるのが好ましく、1〜150%がより好ましく、60〜120%がさらに好ましい。上記範囲の下限値以上であると、形成される塗膜の耐水性が向上し、上限値以下であると、塗膜中の酸化多糖類の割合、つまりバイオマス由来度が高く、環境や人体への影響がより低減される。
水系コーティング組成物中の「酸化多糖類中の反応基の数」に対する「官能化合物中の反応性官能基の数」の割合は、以下の手順で求められる。
まず、多糖類は、予め水酸基の量が決まっている。たとえばデンプンやセルロースは、1つのグルコースユニットに3つの水酸基を有し、一方、キチンは2つの水酸基を有する。本発明において、酸化多糖類に酸化により導入されるカルボキシ基やホルミル基の数は、もともとあった水酸基の数に等しいため、酸化多糖類中の反応基の数は容易に求められる。
また、多官能化合物中の反応性官能基の数は、それぞれの官能基における一般的な求め方で求められる数であってよい。たとえばイソシアネート基の場合、アミン当量(ジ−n−ブチルアミンと反応して尿素結合を作るイソシアネートのグラム数)から求めることができる。また、エポキシ基の場合、JIS K7236:2001 エポキシ樹脂のエポキシ当量の求め方などにより求められる。また、市販品の場合は、カタログ等に記載されている値をそのまま採用できる。
こうして求めた酸化多糖類中の反応基の数(a)と、多官能化合物中の反応性官能基の数(b)を用いて、式:[(b)/(a)]×100により当該割合を求めることができる。
【0018】
本発明の水系コーティング組成物には、必要に応じて、その他、従来から公知の添加物を配合することもできる。該添加物としては、たとえば有機顔料、天然色素、無機顔料などの着色剤、着色・体質・メタリック・着色パール顔料、シリカゲル、ワックスなどのブロッキング防止剤、流動性調整剤、はじき防止剤、垂れ止め防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、紫外線安定剤、つや消し剤、艶出し剤、防腐剤、硬化促進剤、硬化触媒、擦り傷防止剤、消泡剤、溶媒などが挙げられる。
【0019】
本発明の水系コーティング組成物は、たとえば、酸化多糖類の水溶液または水分散液を調製し、これに、多官能化合物および任意の添加物を添加することにより製造できる。また、予め、酸化多糖類、多官能化合物をそれぞれ水溶液または水分散液に調製しておき、使用前に混合してもよい。
【0020】
本発明の水系コーティング組成物は、様々な基材に塗布および/または含浸させることができる。
基材の材質としては、特に限定されず、たとえばポリオレフィン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂などの各種合成樹脂、ポリ乳酸などの植物由来系樹脂、ケナフ、木材パルプ、天然素材等が挙げられる。
基材の形状は、任意の形状であってよく、たとえばフィルム、不織布、紙、シート、繊維等の基材が挙げられる。
本発明の水系コーティング組成物を塗布および/または含浸する基材としては、特に、後述する本発明の複合シートのように、脂肪族ポリエステル系樹脂および/または植物由来樹脂から構成される基材シート、または天然繊維から構成される基材シート(たとえば紙や不織布)が好ましい。本発明の水系コーティング組成物は、これらの材料に対する密着性が良い。また、これらの基材シートは、バイオマス系由来材料であるため、得られる製品が、環境適合商品として大きな効力を発揮する。
【0021】
本発明の水系コーティング組成物を基材に塗布および/または含浸する方法としては、公知の方法が利用でき、たとえばスプレーコート、ダイコート、ナイフコート、グラビアコート、ディップコート、バーコート、ロールコート、ブレードコート、カーテンコート、サイズプレスなどが挙げられる。また、インラインコートであっても、オフラインコートであっても構わない。
水系コーティング組成物は、基材全体に塗布および/または含浸してもよく、基材の一部に塗布および/または含浸してもよい。
また、塗布および/または含浸した後、該水系コーティング組成物を乾燥させることが好ましい。乾燥は、オーブン、熱風等の公知の手法により行うことができる。乾燥温度は、50〜150℃が好ましく、80〜120℃がより好ましい。
【0022】
本発明の水系コーティング組成物の用途としては、特に限定されず、たとえばシーラー、プライマー、プラスチック用ハードコート、アンカーコート剤、インキ、シーリング剤または接着剤に用いることが可能である。
【0023】
<複合シート(1)>
本発明の複合シート(1)は、脂肪族ポリエステル系樹脂および/または植物由来樹脂から構成される基材シートに、前記本発明の水系コーティング組成物を塗布してなるものである。
脂肪族ポリエステル系樹脂としては、ポリ乳酸、ポリエチレンサクシネート、ポリプロピレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリペンタンサクシネート、ポリヘキサンサクシネートなどのポリサクシネート樹脂、カプロラクトン―ブチレンサクシレート、ポリブチレンアジペート・テレフタレート、ポリブチレンサクシネートアジペート変性、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネートカーボネート変性、ポリエチレンテレフタレートサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリヒドロキシブチレートなどが挙げられる。
植物由来系樹脂としては、最も代表的なものがポリ乳酸である。また、植物由来系樹脂には、例えば植物などから合成した場合の上記脂肪族ポリエステル系樹脂も含まれる。また、これらのほかに、酢酸セルロースなどのセルロース系、デンプン系のものも含まれる。
これらの脂肪族ポリエステル系樹脂および植物由来系樹脂は、適宜選択が可能で、いずれか1種の単独であってもよく、複数種の混合でも構わない。
基材シートの厚さは、特に限定されず、任意の厚さであってよい。
【0024】
前記基材シートに本発明の水系コーティング組成物を塗布または含浸する方法は、前記本発明の水系コーティング組成物を基材に塗布および/または含浸する方法と同様である。
水系コーティング組成物の塗布量は、特に限定されず、当該基材シートの用途、密着強度等に応じて適宜設定すればよい。
【0025】
<複合シート(2)>
本発明の複合シート(2)は、天然繊維から構成される基材シートに、前記本発明の水系コーティング組成物を含浸または塗布してなるものである。
天然繊維としては、パルプ(コットン、種毛(カポック、ポンパックスなど)、靱皮繊維(亜麻、大麻、ラミー、ジュート、こうぞ、みつまた、ケナフなど)、単子葉植物繊維(竹、わら、バガス、エスパルトなど)、木材繊維(例えば、針葉樹、広葉樹などの木材繊維)、葉繊維(マニラ麻、サイザル麻など)など)又は再生パルプ、前記靱皮繊維、単子葉植物繊維、葉繊維をパルプ化せずに直接的に得られた繊維などの植物由来繊維が挙げられる。紙類は、古紙であってもよい。
これらの天然繊維は、適宜選択が可能で、いずれか1種の単独であってもよく、複数種の混合でも構わない。
基材シートとしては、たとえば、前記天然繊維からなる不織布、紙等が挙げられる。
基材シートの厚さは、特に限定されず、任意の厚さであってよい。
【0026】
前記基材シートに本発明の水系コーティング組成物を塗布または含浸する方法は、前記本発明の水系コーティング組成物を基材に塗布および/または含浸する方法と同様である。
水系コーティング組成物の塗布量または含浸量は、特に限定されず、当該基材シートの用途、密着強度等に応じて適宜設定すればよい。
【0027】
<化粧シート>
本発明の化粧シートは、前記本発明の複合シート(1)または(2)(以下、これらをまとめて複合シートということがある。)を有する。
複合シートは、化粧シートの全部を構成してもよく、一部を構成してもよい。
本発明の複合シートが化粧シートの一部を構成する場合の化粧シートの構成としては、様々なものが挙げられるが、例えば、基材シートと、該基材シートの片側または両側に前記水系コーティング組成物をアンカーコート的に塗布して形成された酸化多糖類含有層と、該酸化多糖類含有層の上に設けられた印刷層とを有する構成が挙げられる。また、該構成に、更に、印刷層を保護するための層を設けた構成が挙げられる。
また、複合シートの片面あるいは両面に、更に、例えば柔軟性や、強度、隠蔽性を付与するための層を設けることもできる。その他、本発明の水系コーティング組成物を用いて形成された層を接着剤層として用い、該接着剤層上に別の層をラミネートして作製した化粧シートも挙げることができる。
また、本発明の水系コーティング組成物に顔料を配合し、これをインキとして用いて化粧シートを得ることもできる。
化粧シートの用途としては、特に限定されず、たとえばテレビ、オーディオ、レコーダー等の筐体、冷蔵庫の扉等の電気製品の表面材、箪笥、棚、机等の各種収納家具、ユニット家具等の家具、家具扉等の家具部材、壁、床、天井等の建築物の内装材、外壁、屋根、扉外面、窓枠等の建築物の外装材、ドア、ドア枠、窓枠、廻縁、巾木、開口枠、床材、天井材等の建材、自動車、電車、船等の乗物内装材、文具、オフィス用品等の用途に好適に使用できる。
【0028】
<化粧材>
本発明の化粧材は、少なくとも、前記本発明の化粧シートを基材に貼合してなるものである。
基材としては、当該化粧材の用途に応じたものが使用される。具体例としては、各種素材からなる平板、曲面板等の板材、立体形状物品、シート(あるいはフィルム)等が挙げられる。基材の素材としては、たとえば、木材単板、木材合板、パーティクルボード、MDF(中質繊維板)等の木質繊維板等の木質素材;鉄、アルミニウム等の金属素材;ガラス、陶磁器等のセラミックス、石膏等の非セメント窯業系材料、ALC(軽量気泡コンクリート)板等の非陶磁器窯業系材料等の窯業系素材;アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等のポリオレフィン系樹脂、ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体)樹脂、フェノール樹脂、塩化ビニル樹脂、セルロース系樹脂、ゴム等の樹脂素材;上質紙、和紙等の紙;炭素繊維、ガラス繊維、樹脂繊維等の繊維からなる不織布または織布;これらを2種以上複合した複合素材等が挙げられる。
基材と化粧シートとは、たとえば、接着剤を介して貼合できる。接着剤としては、従来公知の任意の接着剤を利用できる。また、本発明の水系コーティング組成物を接着剤として用いてもよい。
化粧材の用途としては、特に制限はなく、前記化粧シートの用途と同様のものが挙げられる。
【0029】
上記本発明の水系コーティング組成物は、天然素材や生分解性素材との親和性が高く、これらの物質から成る基材への密着性が良好である。また、耐水性が高い。さらに、本発明の水系コーティング組成物に用いられる酸化多糖類が、天然材料である多糖類を酸化したものであるため、環境や人体への悪影響も少ない。
また、従来、天然素材や生分解性素材のコーティングには主に澱粉等の水溶性多糖類が用いられているが、本発明によれば、セルロースやキチン等の水に溶けにくい多糖類であっても、水系で酸化させ、酸化多糖類の水溶液または水分散液として用いることができる。そのため、多様な材料を用いて水系でコーティング処理を行うことも可能である。
さらに、本発明の水系コーティング組成物を用いて形成した塗膜はバリア性にも優れている。そのため、本発明の水系コーティング組成物を、ガス透過度の高いポリ乳酸系フィルムのコーティング剤として用いることにより、フィルム内部、外部からの様々な低分子化合物の移動を防止し、フィルムの劣化を抑えることも可能である。
したがって、本発明の水系コーティング組成物を用いて得られる複合シート、該複合シートを有する化粧シート、該化粧シートを有する化粧材は、焼却時にも有毒ガスを発生せず地球環境と人体に優しいものである。また、耐久性等にも優れている。
【実施例】
【0030】
<製造例1>
コーンスターチ10gを水100gに分散させた。水100gにTEMPO0.1g、臭化ナトリウム2gを溶解した溶液を加え、次亜塩素酸ナトリウム水溶液100gを滴下により添加し、酸化反応を開始した。反応温度は2〜5℃に維持した。反応中は、系内のpHが低下するが、0.5N−NaOH水溶液を逐次添加し、pH10.75に維持した。
反応開始から1時間後、系内のコーンスターチは完全に溶解した。これは、コーンスターチがすべて酸化され、酸化澱粉となったためと思われる。
そして、この水溶液にエタノールを添加して反応を停止させ、この水溶液から、限外ろ過装置を用いて不純物を取り除くと同時に酸化澱粉の濃縮を行い、100mlの酸化澱粉水溶液を調製した。
【0031】
<製造例2>
製造例1の酸化澱粉水溶液に対し、酸化澱粉中のCOONaをCOOHに置換するために、0.1N−塩酸を加え、更に限外ろ過を行い、100mlのCOOH型酸化澱粉の水溶液を調製した。
【0032】
<製造例3>
市販の再生セルロース(旭化成工業(株)製ベンリーゼ)10gを水300gに懸濁し、水100gにTEMPO0.1g、臭化ナトリウム2gを溶解した溶液を加え、5℃以下まで冷却した。ここに次亜塩素酸ナトリウム水溶液100gを滴下により添加し、酸化反応を開始した。反応温度は2〜5℃に維持した。反応中は系内のpHが低下するが、0.5N−NaOH水溶液を逐次添加し、pH10.75に維持した。
反応開始から2時間後、再生セルロースは完全に溶解した。これは、再生セルロースがすべて酸化されたためと思われる。
そして、この水溶性の酸化再生セルロースの水溶液にエタノールを添加して反応を停止させ、この水溶液から、限外ろ過装置を用いて不純物を取り除くと同時に酸化再生セルロースの濃縮を行い、100mlの酸化再生セルロース水溶液を調製した。この水溶液を、5μmのメンブランフィルターを用いてろ過を行ったところ、不溶解残渣は1%以下であった。
【0033】
<製造例4>
市販のキチン(大日本精化製キチンP)10gを45%水酸化ナトリウム水溶液200gに浸漬し、充分に浸透させてから、700gの氷で希釈した。氷とキチンが溶解したころで、塩酸を添加して系内を中和し、再びキチンを析出させた。水で充分に洗浄した後、固形分2%のスラリーとした。これに、TEMPO0.1g、臭化ナトリウム2gを加え、5℃以下まで冷却した。ここに次亜塩素酸ナトリウム水溶液100gを滴下により添加し、酸化反応を開始した。反応温度は2〜5℃に維持した。反応中は系内のpHが低下するが、0.5N−NaOH水溶液を逐次添加し、pH10.75に調整した。
反応開始から2時間後、キチンは完全に溶解した。これは、キチンがすべて酸化されたためと思われる。
そして、この水溶性の酸化キチンの水溶液にエタノールを添加して反応を停止させ、この水溶液から、限外ろ過装置を用いて不純物を取り除くと同時に酸化キチンの濃縮を行い、100mlの酸化キチンの水溶液を調製した。
【0034】
<製造例5>
市販のキチン(大日本精化製キチンP)10gをそのまま、水400gに懸濁させた。TEMPO0.1g、臭化ナトリウム2gを加え、5℃以下まで冷却した。ここに次亜塩素酸ナトリウム水溶液60gを滴下により添加し、酸化反応を開始した。反応温度は2〜5℃に維持した。反応中は系内のpHが低下するが、0.5N−NaOH水溶液を逐次添加し、pH10.75に調整した。
反応開始から2時間後、エタノールを添加して反応を停止させ、水とエタノールの混合溶液で洗浄し、最後アセトンで洗浄して酸化キチンの粉末12gを得た。
【0035】
<実施例1〜5>
製造例1から4で調製した酸化多糖類の水溶液、および製造例5で調製した酸化多糖類の粉末を10%濃度となるように調製した水懸濁液に対し、それぞれ、タケネートWD−725(三井化学ポリウレタン(株)製)を表1に示す割合だけ添加し、実施例1〜5の水系コーティング組成物を得た。
得られた実施例1〜5の水系コーティング組成物中、「酸化多糖類中の反応基の数」に対する「多官能化合物中の反応性官能基(イソシアネート基)の数」の割合(%)を表1に示す。
【0036】
<実施例6〜10>
製造例1から4で調製した酸化多糖類の水溶液、および製造例5で調製した酸化多糖類の粉末を10%濃度となるように調製した水懸濁液に対し、それぞれ、ポリカルボジイミドV−02(日清紡(株)製)をおよびタケネートWD−725(三井化学ポリウレタン(株)製)を同量ずつ、かつ表1に示す割合になるよう添加し、実施例6〜10の水系コーティング組成物を得た。
得られた実施例6〜10の水系コーティング組成物中、「酸化多糖類中の反応基の数」に対する「多官能化合物中の反応性官能基(カルボジイミド基およびイソシアネート基)の数」の割合(%)を表1に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
<実施例11>
厚さ80μmのポリ乳酸基材の片面に、実施例6の水系コーティング組成物を、膜厚0.1μmとなるように塗布した後、形成された塗膜上に、バイオテックカラーHGP墨(大日精化工業(株)製)を、厚さ5μmとなるように塗布して実施例11の複合シートを得た。
【0039】
<比較例1>
実施例6の水系コーティング組成物を塗布せず、ポリ乳酸基材上に直接、バイオテックカラーHGP墨(大日精化工業(株)製)を厚さ5μmとなるように塗布した以外は実施例11と同様にして、比較例1の複合シートを得た。
【0040】
実施例11、比較例1で得られた複合シートについて、以下の評価を行った。
(密着性評価1)
実施例11、比較例1の複合シートについて、JIS K5400に準拠して、バイオテックカラーHGP墨の塗布面に、縦×横にそれぞれ10本×10本の碁盤目(間隔1mm、計100カット)をきり、その上にセロテープ(登録商標)を貼り付けて剥離試験を行った。
剥離後、複合シート表面に、剥離せず残った碁盤目の数を表2に示す。
【0041】
(耐水性評価1)
水の染み込んだ綿棒にて塗膜表面を20回擦り、塗膜の性状を観察した。その結果を表2に示す。
【0042】
【表2】

【0043】
<実施例12>
厚さ35μmの二軸延伸ポリ乳酸基材の片面に、実施例2の水系コーティング組成物を、塗工量が3.5g/mとなるようにバーコーターで塗布し、80度のオーブンで2分間乾燥させて複合シートを得た。同様にしてもう1枚複合シートを作成した後、これら2枚の積層シートの、水系コーティング組成物を塗布した面同士を接触させ、60℃の熱ローラーで張り合わせて実施例12の複合シートを得た。
【0044】
また、この複合シートについて、下記の評価を行った。
(密着性評価2)
実施例12の複合シートを巾25mmの短冊に切り出し、剥離速度50mm/minでのT型剥離試験を行った。
その結果、各短冊はいずれもポリ乳酸基材が破壊されており、実施例2の水系コーティング組成物を用いて形成した塗膜が、ポリ乳酸基材に対して充分な密着性を持つことがわかった。
【0045】
<実施例13>
坪量100g/mの厚紙に、実施例4の水系コーティング組成物を1分間含浸させ、80℃の熱プレスで圧縮し、実施例13の複合シートを得た。
【0046】
<比較例2>
実施例4の水系コーティング組成物の代わりに、酸化させていない澱粉水溶液を用いた以外は実施例13と同様にして、比較例2の複合シートを得た。
【0047】
実施例13および比較例2で得られた複合シートについて、以下の評価を行った。
(耐水性評価2)
実施例13および比較例2の複合シートを、それぞれ、巾10mmの短冊に切り出し、乾燥状態での引張試験、及び1時間水に浸した後の引張試験を、JIS P8113に準拠して行った。
乾燥状態での破断強度(乾燥紙力)に対する湿潤状態での破断強度(湿潤紙力)の比(wet/dry)を下記式により求め、耐水性を評価した。このwet/dryが大きいほど、耐水性が高いことを示す。その結果を表3に示す。
wet/dry(%)=(湿潤紙力/乾燥紙力)×100
【0048】
【表3】

【0049】
<実施例14>
膜厚80μmのポリ乳酸基材に、実施例8の水系コーティング組成物を、膜厚0.2μmとなるように塗布した後、形成された塗膜上に、更に変性澱粉系インキにより柄層を印刷し、この表面に、2液硬化型アクリルウレタン樹脂を6g/m(dry)の厚みに塗布し、実施例14の化粧シートを得た。
【0050】
上記結果から明らかなように、本発明の水系コーティング組成物によれば、天然素材である多糖類に由来する成分を用いた水系の塗布または含浸が可能である。また、酸化多糖類と多官能化合物とを併用しているために、耐水性が高く、かつポリ乳酸や紙のような天然素材や生分解性素材への密着性が良好な塗膜を形成することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多糖類を酸化して得られる酸化多糖類と、1分子中に2つ以上の反応性官能基を有する化合物とを含む水溶液または水分散液からなることを特徴とする水系コーティング組成物。
【請求項2】
前記多糖類が、デンプン、セルロース、キチンおよびキトサンからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の水系コーティング組成物。
【請求項3】
前記反応性官能基が、イソシアネート基、ブロック化イソシアネート基、エポキシ基、カルボジイミド基、オキサゾリン基およびアミノ基からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1または2に記載の水系コーティング組成物。
【請求項4】
シーラー、プライマー、プラスチック用ハードコート、アンカーコート剤、インキ、シーリング剤または接着剤に用いられる請求項1〜3のいずれか一項に記載の水系コーティング組成物。
【請求項5】
脂肪族ポリエステル系樹脂および/または植物由来樹脂から構成される基材シートに、請求項1〜4のいずれか一項に記載の水系コーティング組成物を塗布してなる複合シート。
【請求項6】
天然繊維から構成される基材シートに、請求項1〜4のいずれか一項に記載の水系コーティング組成物を塗布および/または含浸してなる複合シート。
【請求項7】
請求項5または6に記載の複合シートを有する化粧シート。
【請求項8】
少なくとも、請求項7に記載の化粧シートを基材に貼合してなる化粧材。

【公開番号】特開2008−239830(P2008−239830A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−83181(P2007−83181)
【出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】