説明

水系ジルコニウム防食剤、それを用いた金属の防食方法及び水系ジルコニウム防食剤の製造方法

【課題】本発明は、クロム等の重金属化合物や、有機溶媒を含まず、作業環境を悪化させることがなく、密着性および耐食性に優れた防食皮膜を形成することが可能で、製造コストの低廉な安定性の優れた水系ジルコニウム防食剤及びその製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】溶媒としての水にジルコニウムアルコキシドと酢酸とを含有しており、前記ジルコニウムアルコキシドと前記酢酸とのモル数の割合が、1:1.6〜1:4であることを特徴とする水系ジルコニウム防食剤及び水系ジルコニウム防食剤製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は亜鉛めっきの防食等に好適に用いることができる水系ジルコニウム防食剤、それを用いた金属の防食方法及び水系ジルコニウム防食剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
6価のクロム酸塩溶液を用いて金属表面上に皮膜を作製するクロメート処理は優れた耐食性を安価で容易に付与できることより、亜鉛めっき鋼板をはじめとする各種金属製品の防錆処理として幅広く用いられて来た。しかし、近年、廃棄されたクロメート処理製品中に含まれる6価クロムが酸性雨により溶出して土壌河川を汚染するという問題やクロメート処理過程における処理液に含まれる6価クロムの有害性が問題となっている。さらに、2007年、欧州において自動車における6価クロムの環境規制が施行されたことで、クロムフリー処理法の開発が緊急課題となっており、亜鉛めっき用クロメートの代替となりうる、安価で毒性が低く、しかも高い耐食性を有する皮膜を作製できる、ノンクロムの水系処理剤の開発が急務となっている。
【0003】
6価クロムフリーの化成処理技術へのアプローチとしては、形成される皮膜の組成により、無機系皮膜、有機系皮膜、有機・無機複合皮膜の3つに大別される。無機系皮膜ではモリブデン系やリン酸皮膜系化成処理が開発されているが、クロメート処理に匹敵する耐食性は得られていない。また、有機系皮膜では、樹脂皮膜やシランカップリング剤を用いたものが、また、有機・無機複合皮膜では、官能基を有する有機系樹脂とリン酸塩、シリカ、金属塩化合物等の無機物を混合したものなどが開発されているが、十分な耐食性を得られるものはない。
【0004】
樹脂系のコート剤を用いた場合、樹脂が膨潤するために、高い耐食性を得るためには、数μmあるいはそれ以上の膜厚が必要となり、薄塗りが困難である。また、コート剤自身が懸濁状態の場合もあり、溶液の安定性に加えて、平滑性や均一性に優れた皮膜の作製が難しいことも多い。
【0005】
各種有機シランを有機溶媒に溶解した溶液を用いて有機・無機複合皮膜とする研究は多くなされており、耐食性皮膜の形成法として有望な手段であるが、最近の産業界においては、引火性を有する有機溶媒を用いない水系のコーティング溶液が求められている。最も安価なケイ素の金属アルコキシドであるテトラアルコキシシランの加水分解により生成するシラノール基はpH2〜5において安定に存在し、容易に水溶液が調製できる。発明者らは既に、水を溶媒とし、テトラアルコキシシラン、メチルトリアルコキシシランと酢酸を用いて調製した溶液の組成や濃度等を変化させて、亜鉛めっきを始めとする金属上における高耐食性皮膜の形成が可能な水系コーティング剤を開発している(特許文献1)。
【0006】
【特許文献1】特願2007−284745
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記特許文献1の水系コーティング剤では、その溶液は2〜3週間程度で白濁するため、その安定性を向上させることが課題となっていた。
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであり、クロム等の重金属化合物や、有機溶媒を含まず、作業環境を悪化させることがなく、密着性および耐食性に優れた防食皮膜を形成することが可能で、製造コストの低廉な安定性に優れた防食剤及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは、水を溶媒とし、ケイ素以外で比較的安価であり、作製皮膜の耐食性の向上が期待されるジルコニウムアルコキシドと酢酸を用いて、亜鉛めっき上でのコーティングにおいて適度なpHを有した安定性の高い水溶液を調製し、金属上での作製皮膜の耐食性を評価した。これまでに、ジルコニウム塩を用いた防錆を目的とした処理液は多く報告されているが、ジルコニウムアルコキシドは水との反応性が高く均一な水溶液とすることは困難であるため、出発原料として選ばれることはなかった。
【0009】
一般的に金属アルコキシドを出発原料にして金属水溶液を調製するためには、1)加水分解速度が非常に遅い金属アルコキシドを用いる、2)加水分解後の重合を適度に抑えるために水酸基をキレート化して保護する、3)生成する金属水酸化物が溶解するように調製溶液のpHを調整する、などの条件を最適化しなければならない。また、金属アルコキシドの加水分解により生じるアルコール分を加熱により除去するためには、メタノール(64.7℃)、エタノール(78.3℃)、1−プロパノール(97.2℃)、2−プロパノール(82.3℃)、2−メチル−2−プロパノール(82.5℃)等の水よりも低い沸点のアルコールを発生させるアルコキシドを使用することが望ましい。これらの有機成分を完全に除去することはできないにしても、溶液が引火性を有しないレベルに引き下げることは可能である。
【発明の効果】
【0010】
ジルコニウムアルコキシドを単に酢酸水に添加しても、ジルコニウムアルコキシドの加水分解および重合反応速度が速いために、均一な水溶液を調製することはできないし、硫酸や硝酸等の強酸を用いれば、pHが1以下の強酸の水溶液となってしまう。そこで、ジルコニウムアルコキシドからの水溶液の調製法について鋭意研究をおこなったところ、あらかじめ、ジルコニウムアルコキシドに酢酸を混合し、その後に水を添加して加水分解および重合速度を適度に制御することにより、pHが3〜4で、ディップコーティングにより基板上に製膜性を有したほぼ透明な水溶液が調製できることを見出した。この水溶液は長期にわたってゲル化することなく安定であるが、水溶性の酢酸ジルコニルを水に溶解して調製した溶液とは明らかに異なる。酢酸ジルコニルの同濃度の水溶液はディップコーティングによる基板上への製膜性は全く有していないし、pHが1程度の強酸性を示す。前記ジルコニウムアルコキシドと前記酢酸とを所定の割合で混合して調製した液が、亜鉛めっきの水系ジルコニウム防食剤として好適に用いることができることを発見し、本発明をなすに至った。
【0011】
すなわち、本発明の水系ジルコニウム防食剤は、溶媒としての水にジルコニウムアルコキシドと酢酸とを含有しており、(前記ジルコニウムアルコキシドのモル数):(前記酢酸のモル数)の割合が、1:1.6〜1:4であることを特徴とする。
【0012】
発明者らの試験結果によれば、溶媒としての水にジルコニウムアルコキシドと酢酸とを含有しており、(前記ジルコニウムアルコキシドのモル数):(前記酢酸のモル数)の割合が、1:1.6〜1:4である本発明の水系ジルコニウム防食剤は、これを用いて金属の表面処理を行なった場合、均一で緻密な防食皮膜を形成させることができる。特に好ましいのは(前記ジルコニウムアルコキシドのモル数):(前記酢酸のモル数)の割合が、1:1.8〜1:3の範囲であり、さらに好ましいのは1:2.0〜1:2.4の範囲である。
【0013】
これは、次のような理由によると推測される。適度に加水分解および重合したpH3〜4のほぼ透明な水酸化ジルコニウムゾル溶液を用いると、亜鉛めっき上に密着性及び耐食性に優れた防食皮膜を形成することが可能となる。水系ジルコニウム防食剤の組成において、ジルコニウムアルコキシドに対してあらかじめ添加する酢酸量は、多過ぎると作製皮膜の耐食性が低下し、少な過ぎると不溶物が多量に生成して透明性を有したゾル溶液は調製できない。酢酸はジルコニウムアルコキシドに対して2モル量程度加えることが望ましく、これにより溶液のpHは3〜4で、室温下において長期にわたり安定な水系ジルコニウム防食剤を調製することができる。
【0014】
ジルコニウムアルコキシドの種類としては、特に限定は無く、ジルコニウムテトラエトキシド、ジルコニウムテトラプロポキシド、ジルコニウムテトラブトキシド等が挙げられる。ジルコニウムテトラプロポキシドは安価で入手が容易であり、金属へのコーティングを施したとき、緻密で均一な皮膜が形成されることを発明者らは確認しており、特に好適に用いることができる。
【0015】
本発明の水系ジルコニウム防食剤は、クロム等の重金属や有機溶媒を含まないため、毒性が少なく、作業環境を悪化させることもない。また、密着性及び耐食性に優れた防食皮膜を形成することが可能である。さらに、原料としてのジルコニウムアルコキシドは、安価であるため、製造コストも低廉となる。
【0016】
溶液中に含まれるジルコニウムアルコキシドの濃度は、ジルコニウム換算で1.8〜5.5質量%含まれていることが好ましい。こうであれば、亜鉛めっき等の金属からなる基材に付着させる付着工程において、均一で緻密な皮膜の形成に好適である。
【0017】
本発明の金属の防食方法は、請求項1又は2の水系ジルコニウム防食剤を金属からなる基材に付着させる付着工程と、水系ジルコニウム防食剤を付着させた前記基材を乾燥させる乾燥工程とを備えることを特徴とする。
【0018】
発明者らによれば、上記の水系ジルコニウム防食剤を金属からなる基材に付着させ、乾燥させれば、防食性の優れた皮膜を形成させることができる。付着方法については特に限定はないが、浸漬法や、スプレーによる噴霧、ロールコーティング法等の方法を用いることができる。塗布後は常温〜80℃程度で乾燥することが望ましい。コーティングは1回で十分であるが、複数回コーティングすることも可能である。
【0019】
本発明の防食方法は様々な金属の耐食性を向上させることが可能であるが、特に亜鉛めっきや亜鉛合金めっき、亜鉛ダイキャスト等、亜鉛や亜鉛合金の耐食性を向上させるために好適に用いることができる。
【0020】
また、本発明の水系ジルコニウム防食剤の製造方法は、ジルコニウムアルコキシドと酢酸とを、(前記ジルコニウムアルコキシドのモル数):(前記酢酸のモル数)の割合が、1:1.6〜1:4の割合となるように混合する混合工程と、前記混合工程で得られた混合液に水を添加する水添加工程と、水を添加した前記混合液を加熱してアルコールを留去させるアルコール除去工程とを備えることを特徴とする。
【0021】
本発明の水系ジルコニウム防食剤の製造方法では、あらかじめ、混合工程においてジルコニウムアルコキシドと酢酸とを混合した後、水添加工程で、水を添加することが重要である。その後得られた溶液をアルコール除去工程において所定温度で加熱することにより溶解させて反応させることが肝要である。あらかじめ、酢酸を添加することにより、ジルコニウムアルコキシドのアルコキシド基が酢酸のアセテート基に置き換わることによりその後の水の添加による加水分解反応と重合反応が抑制されるために、適度に重合した安定なZrOx/2(OAc)(OH)4−x−y(x+y=4)ゾルの水溶液が調製できるのである。添加する酢酸の量により、その反応性を制御することができるので、亜鉛めっき上において緻密で均一な光沢皮膜の作製できる酢酸の添加量を見出した。
【0022】
上記で述べたように、有害なクロム等の重金属化合物を含まず、また、アルコール除去工程においてアルコールを除去するため、有機溶媒を含有せず、作業環境を悪化させることもなく、溶液の保存性も良い。
【0023】
混合工程では、水を添加した前記混合液を60〜90℃に加熱してアルコールを留去させることが好ましい。加熱温度が90℃以上であれば溶液中のジルコニウムアルコキシドの加水分解反応および重合反応を促進し過ぎるため、溶液中に沈殿が生じて白濁化が起きる。また、加熱温度が60℃以下であれば溶液中のジルコニウムアルコキシドの加水分解反応および重合反応が不十分となり、作製皮膜の耐食性が低下する。また、溶液中のアルコールの留去に十分な温度でないために、アルコール除去が困難となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0025】
ジルコニウムアルコキシドとしては、高純度化学研究所、和光純薬工業、アヅマックス等から販売されているジルコニウムテトラエトキシド、ジルコニウムテトラノルマルプロポキシド、ジルコニウムテトライソプロポキシド、ジルコニウムテトライソブトキシド等を挙げることができる。
【実施例】
【0026】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく述べる。実施例において述べるジルコニウムテトラノルマルプロポキシド(和光純薬工業)および酢酸の配合量は、溶液全体におけるmol/Lで示した。また、ジルコニウムテトラノルマルプロポキシド及び酢酸の表記として、Zr(OnPr)、AcOHの略号を用いた。
【0027】
(溶液濃度) 作製溶液の濃度をICP発光分析装置で測定した。
【0028】
(密着性評価)JIS H8504規格の中の引きはがし試験法の1つであるテープ試験方法に準じて、基板上に作製した皮膜表面にテープを接着し、その後勢い良くテープを剥離して、皮膜の表面状態を目視で評価した。
【0029】
(皮膜の表面状態および膜厚測定)得られた皮膜の表面状態を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。膜厚に関しては、得られる皮膜が薄膜のため、膜厚測定のための試料の破断面を亜鉛めっき基板において作製することが困難であった。そこで、参考値として、金属基板をコーティングする場合と同条件でシリコン基板をコーティングし、80℃で30分加熱処理後に得られた試料を切断して破断面を作製した。これをSEMにより観察し、皮膜の断面像から膜厚を見積もった。
【0030】
(耐食性評価)亜鉛めっき上に作製した皮膜の耐食性についてはJIS Z 2371規格の塩水噴霧試験機を用いた。35℃で5質量%NaCl水溶液の噴霧を行い、72時間後における白錆び発生の面積率は試料写真に対して、画像処理ソフト(Win ROOF, Mitani Corporation)を用いた色抽出による2値化により計測した。
【0031】
(溶液調製)図1に水系ジルコニウム溶液の調製方法を示した。Zr(OnPr)(約70%)にジルコニウムに対してモル比で1.6〜4モル量のAcOHを添加して均一に攪拌後に0.1〜0.3mol/L程度の濃度になるように水を添加した。60〜90℃で混合溶解後、プロパノールを蒸発除去するために所定濃度まで加熱攪拌により濃縮してほぼ透明ゾル水溶液を作製した。加熱濃縮により少量生じた不溶物は吸引濾過により除去した。
【0032】
(コーティング)上記溶液を用いて、8μmの厚さで亜鉛めっきを施した鋼板を、室温において溶液へ1分間浸漬した後、引き上げ速度6mm/sでディップコーティングした。コーティング後、大気中室温下で約72時間乾燥した。
【0033】
(結果)Zr(OnPr)が加水分解されて生じる水酸化ジルコニウムはpH2〜3で沈殿が生成しはじめるが、酢酸と共存させることにより、安定で透明なゾル溶液が調製できることがわかった。酢酸の代わりにギ酸やプロピオン酸を用いて、同様に溶液調製を行ったが、透明なゾル溶液は調製できず、酢酸を用いたときに安定な透明ゾル溶液が調製できることがわかった。表1にZr(OnPr)にモル比で1.6〜5モル量の酢酸を添加して調製した溶液の性質について調べた結果をまとめた。Zr(OnPr)に対して1.6モル量の酢酸を添加した場合には0.1mol/L程度の濃度においても完全な均一ゾル溶液を調製することはできなかった。Zr(OnPr)に対して1.8モル量の酢酸を添加した場合には濃縮途中でゲル化が起きるため、均一なゾル溶液は0.2mol/L(ジルコニウム換算で1.8質量%)程度の濃度までしか得られなかった。2モル量の酢酸を添加して調製した場合には、0.5mol/L程度の均一でほぼ透明なゾル溶液が作製できた。3モル量の酢酸を添加した場合には0.6mol/L(ジルコニウム換算で5.5質量%)程度の均一でほぼ透明なゾル溶液が作製でき、4モル量の添加では0.6mol/L程度の透明溶液が作製できた。均一に調製できた溶液のpHは全て3〜4を示し、長期にわたって沈殿生成のない安定性を示した。Zr(OnPr)はアセテート基と置き換わることのできるプロポキシ基を4つ有しているので、4モル量以上の過剰な酢酸の添加はその後の水の添加による加水分解反応と重合反応を必要以上に抑制するため好ましくない。よって、水系ジルコニウム溶液の調製において、適した酢酸の添加量はジルコニウムに対してモル比で1.6〜4モル量である。
【0034】
これらの水系ジルコニウム溶液はガラス基板上での製膜が可能であり、テープ試験法により剥離のない、水に不溶性の透明皮膜が得られた。亜鉛めっき上に作製した皮膜では、溶液作製時に添加した酢酸濃度が0.36mol/L以上1.8mol/L未満、すなわち、(前記ジルコニウムアルコキシドのモル数):(前記酢酸のモル数)の割合が、1:1.8〜1:3の範囲であれば、その溶液から作製した皮膜を室温下で乾燥することにより光沢膜が得られた。亜鉛めっき上に光沢性を有した皮膜が得られる場合、それは均一で緻密な皮膜が形成したことをあらわしている。高耐食性皮膜を形成するためには、できるだけ少ない酢酸含有量で高濃度のジルコニウムを含有する水系ジルコニウム溶液が望ましいと考えられる。よって、光沢皮膜を形成し、かつ、ジルコニウム濃度の高い溶液の調製可能であるZr(OnPr)に対してモル比で2.0〜2.4モル量の酢酸を添加して調製した溶液が耐食皮膜の作製には特に好適であると考えられる。
【0035】
Zr(OnPr)に対してモル比で2モル量の酢酸を添加して調製した0.5mol/Lの溶液を用いてシリコン基板上に作製した皮膜の表面及び断面をSEM観察したところ、表面に亀裂の見られない緻密な皮膜であり、1回のコーティングにより260nmの膜厚を有する皮膜が得られた。
【0036】
図2にこの溶液を用いて亜鉛めっき上に作製した皮膜の耐食性を塩水噴霧試験(72時間)により調べた結果を示す。腐食率を示す白錆発生率は面積率で3.5%を示し、5%以下の耐食性を示した。その他の組成を有した水系ジルコニウム溶液を用いて作製した皮膜において、これ以上の高耐食性を示すものはみられなかった。また、ジルコニウムの含有濃度が低い溶液を用いて作製した皮膜や光沢性を示さない皮膜は耐食性を示さず、皮膜の光沢性が強いほど高い耐食性を示すことがわかった。よって、Zr(OnPr)に対して添加する最適な酢酸のモル比は2モル程度であることがわかった。
【0037】
以上の結果より、亜鉛めっき上に均一で緻密な耐食性皮膜を作製するのに最も好ましいのはジルコニウムアルコキシドのモル数:酢酸のモル数の割合が、1:2.0〜1:2.4の範囲であると考えられる。
【0038】
このようにして、金属アルコキシドを出発原料として、酢酸を用いて高い安定性を有した水系ジルコニウム溶液を調製できることがわかった。その溶液を用いて亜鉛めっき上に作製したコーティング皮膜は、72時間の塩水噴霧試験により白錆発生の面積率が5%以下の耐食性を示した。
【0039】
この発明は上記発明の実施の態様及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の水系ジルコニウム防食剤は、クロム等の重金属化合物を含まず、密着性および耐食性に優れた皮膜を亜鉛めっき上に作製することができるため、亜鉛めっき用クロメートの代替として広く利用することができる。クロメート処理をした亜鉛めっき製品を使用する自動車産業、電子産業等、様々な産業分野において利用可能である。

【表1】

【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】水系ジルコニウム溶液の調製法
【図2】水系ジルコニウム溶液を用いて亜鉛めっき上に皮膜を作製した試料の塩水噴霧試験後(72時間)の写真

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒としての水にジルコニウムアルコキシドと酢酸とを含有しており、
(前記ジルコニウムアルコキシドのモル数):(前記酢酸のモル数)の割合が、1:1.6〜1:4であることを特徴とする水系ジルコニウム防食剤。
【請求項2】
前記溶液中に含まれるジルコニウムアルコキシドの濃度は、ジルコニウム換算で1.8〜5.5質量%含まれていることを特徴とする請求項1記載の水系ジルコニウム防食剤。
【請求項3】
請求項1又は2の水系ジルコニウム防食剤を金属からなる基材に付着させる付着工程と、
水系ジルコニウム防食剤を付着させた前記基材を乾燥させる乾燥工程と、
を備えることを特徴とする金属の防食方法。
【請求項4】
前記金属は亜鉛又は亜鉛合金であることを特徴とする請求項3記載の金属の防食方法。
【請求項5】
ジルコニウムアルコキシドと酢酸とを、(前記ジルコニウムアルコキシドのモル数):(前記酢酸のモル数)の割合が、1:1.6〜1:4の割合となるように混合する混合工程と、
前記混合工程で得られた混合液に水を添加する水添加工程と、
水を添加した前記混合液を加熱してアルコールを留去させるアルコール除去工程と、
を備えることを特徴とする水系ジルコニウム防食剤の製造方法。
【請求項6】
混合工程では、水を添加した前記混合液を60〜90℃に加熱してアルコールを留去させることを特徴とする請求項5記載の水系ジルコニウム防食剤の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−161840(P2009−161840A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−2857(P2008−2857)
【出願日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度、経済産業省、戦略的基盤技術高度化支援事業委託研究、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(591270556)名古屋市 (77)
【Fターム(参考)】