説明

水系ポリウレタン樹脂用ウレタンプレポリマー組成物及びこれを含有してなる水系ポリウレタン樹脂組成物

【課題】対環境汚染のみならず、労働衛生等の安全性の面でも優れ、塗料、接着剤、バインダー、コーティング剤等に好適な、耐食性に優れると共に、耐摩耗性、接着性、非粘着性、ゴム弾性を有するポリウレタン樹脂の塗膜や成形品を形成することができる、水系ポリウレタン樹脂組成物を提供する。
【解決手段】水酸基を含まない不活性有機溶剤を分散溶媒とするオルガノシリカゾルを含有する水系ポリウレタン樹脂組成物用ウレタンプレポリマー組成物、及び、該ウレタンプレポリマー組成物を水に分散してなる水系ポリウレタン樹脂組成物。前記オルガノシリカゾルによって導入されるシリカ分が、前記ウレタンプレポリマー組成物の固形分中に5〜40質量%含有されることが特徴である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐食性に優れた皮膜を形成することのできる水系ポリウレタン樹脂組成物に関し、特に、オルガノシリカゾルを含有したウレタンプレポリマー組成物及び水系ポリウレタン樹脂組成物並びにこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタン樹脂は、耐摩耗性、接着性、非粘着性、ゴム弾性を有する塗膜や成形品を形成することができるので、対環境汚染、労働衛生等の安全性の面から、塗料、接着剤、バインダー、コーティング剤等として、水系ポリウレタン樹脂組成物が広く使用されている。
【0003】
一方、自動車、家電製品、建材に用いられる材料としては、電気亜鉛めっき鋼板及び溶融亜鉛めっき鋼板等の亜鉛系めっき鋼板や、より一層の耐食性及び塗装性の向上を目的として、該亜鉛めっき鋼板上にクロメート処理やリン酸塩処理等の化成処理を施した無機系表面処理鋼板が多く用いられている。また、更なる耐食性等の向上を目的として、クロメート処理が施された表面処理鋼板の上に、有機樹脂皮膜を形成させた樹脂塗装鋼板が提案されている。
【0004】
しかしながら、クロム酸塩を使用する表面処理方法には、処理工程においてクロム酸塩ヒュ−ムが飛散するという問題があるだけでなく、排水処理設備に多大な費用を要するという問題、更には、化成処理皮膜からクロム酸が溶出するという問題等がある。また6価クロム化合物については、IARC(International Agency for Research on Cancer Review)を初めとする多くの公的機関が、人体に対する発癌性物質として認定しているため、クロメート処理や6価クロムを使用しない、他の架橋性金属で代替したクロムフリーの技術が実用に供されているが、この場合には、従来のクロメート処理に比べて耐食性が劣るという問題があった。
【0005】
更に、上記のような有機樹脂皮膜に適用する樹脂系として、ポリウレタン樹脂が、優れた硬さ及び伸びを有しているという理由から一部用いられているが、ポリウレタン樹脂は極性基を多く有しているために、他の樹脂系に比べて、耐食性に劣るものが多いという問題があった。
【0006】
このような水系ポリウレタン樹脂の耐食性を向上させることを目的として、水溶性シリカ(特許文献1〜3)やシリカ粒子(特許文献4〜6)等のシリカを配合する技術が提案されている。更に、鱗片状シリカ(特許文献7及び8)、カチオン界面活性剤やアミン系アルカリ物質で処理された鱗片状シリカ(特許文献9)、或いはCaイオン交換シリカ(特許文献10及び11)を使用することも提案されている。
【0007】
しかしながら、上記従来のシリカを配合する方法は、いずれも水分散コロイダルシリカやシリカ粒子を水系ウレタン樹脂等の水系樹脂に後から添加するために、耐食性の点で満足することのできるものは未だ得られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−133173号公報
【特許文献2】特開2006−114891号公報
【特許文献3】特開2007−162098号公報
【特許文献4】特開2005−043913号公報
【特許文献5】特開2006−043913号公報
【特許文献6】特開2008−255466号公報
【特許文献7】特開2004−322573号公報
【特許文献8】特開2007−076005号公報
【特許文献9】特開2002−348538号公報
【特許文献10】特開2007−204770号公報
【特許文献11】特開2009−287078号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、水系ポリウレタン樹脂の耐食性を向上させるために鋭意研究を重ねた結果、ウレタンプレポリマーに予めオルガノシリカ(表面が有機物によって処理されたシリカ)を分散させた後、水系ポリウレタン樹脂を製造することにより、良好な結果が得られることを見出し本発明に到達した。
従って本発明の第1の目的は、耐食性に優れた皮膜を形成することのできる水系ポリウレタン樹脂組成物用として好適な、ウレタンプレポリマー組成物を提供することにある。
本発明の第2の目的は、耐食性に優れた皮膜を形成することのできる水系ポリウレタン樹脂組成物を提供することにある。
更に本発明の第3の目的は、耐食性に優れた皮膜を形成することのできる水系ポリウレタン樹脂組成物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
即ち本発明は、水酸基を含まない不活性有機溶剤を分散溶媒とするオルガノシリカゾルを含有する水系ポリウレタン樹脂組成物用ウレタンプレポリマー組成物であって、前記オルガノシリカゾルによって導入されるシリカ分が、前記ウレタンプレポリマー組成物の固形分中に5〜40質量%含有されていることを特徴とするウレタンプレポリマー組成物、該ウレタンプレポリマー組成物を水に分散させてなることを特徴とする水系ポリウレタン樹脂組成物、及び該水系ポリウレタン樹脂組成物の製造方法である。但し、上記ウレタンプレポリマー組成物の固形分とは、「全原料成分」を意味する。又、上記ウレタンプレポリマー組成物の末端はNCOであってもOHであっても良い。
本発明のウレタンプレポリマー組成物は、下記一般式(1)で表される親水性化合物を、全固形分中に5〜40質量%含有していることが好ましい。

但し、上式中のRは、エチレンオキシド構造化合物の末端水酸基とジ-又はトリイソシアネート化合物とのウレタン化反応の残基、又は、ジ-若しくはトリオール化合物とのエチレンオキシド付加反応の残基を表し、Rはメチル基又はエチル基、nは5〜100の数を表す。
又、上記一般式(1)で表される親水性化合物は、片末端がメトキシ基又はエトキシ基で、数平均分子量が200〜5000の直鎖のポリオキシエチレン鎖を有するモノオール化合物1モルと、ジ又はトリイソシアネート化合物1モルとのウレタン化反応物、若しくは、前記モノオール化合物1モルと、ジ又はトリオール化合物1モルとの脱水縮合反応によるポリエーテル化合物であることが好ましい。
本発明の水系ポリウレタン樹脂組成物は、前記本発明のウレタンプレポリマーを水に分散させることによって容易に得ることができ、更にアミン鎖伸長剤を反応させても良い。特に前記ウレタンプレポリマーとして末端NCOのプレポリマーを使用した場合には、該イソシアネート基1当量に対し、第1級又は第2級アミノ基を有するアルカノールアミン化合物を、アミノ基の当量比で0.1〜1.0の割合で反応させてなる、水酸基を有する水系ポリウレタン樹脂組成物とすることが好ましく、該水酸基1当量に対して、水分散ポリイソシアネート化合物をイソシアネート基の当量比で0.5〜2.5配合してなる水系ポリウレタン樹脂組成物とすることが特に好ましい。
本発明の水系ポリウレタン樹脂組成物は、特に、塗料用及び水系金属表面処理剤用として好適である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の水系ポリウレタン樹脂組成物は、耐食性に優れると共に、耐摩耗性、接着性、非粘着性、ゴム弾性を有するポリウレタン樹脂の塗膜や成形品を形成することができるので、対環境汚染のみならず、労働衛生等の安全性の面でも優れ、塗料、接着剤、バインダー、コーティング剤等に好適である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の水系ポリウレタン樹脂組成物用ウレタンプレポリマー組成物及び水系ポリウレタン樹脂組成物について詳述する。
本発明の水系ポリウレタン樹脂組成物用ウレタンプレポリマー組成物は、ウレタンプレポリマーに、このウレタンプレポリマーに対して不活性である、水酸基を含まない有機溶剤を分散溶媒とするオルガノシリカゾルを配合する点に最大の特徴がある。
【0013】
本発明で使用するウレタンプレポリマーは、公知の原料(ポリイソシアネート成分(a)、ポリオール成分(b)、イオン性基導入成分(c)、イオン性基中和剤成分(d)、乳化剤成分(e)及び鎖伸長剤成分(f)等)及び方法によって適宜製造することができる。
【0014】
本発明に使用するオルガノシリカゾルの分散溶媒として用いられる、水酸基を含まない不活性な有機溶剤は、ウレタン化の反応に不活性なものであれば特に限定されず、例えば、ケトン系、エステル系、エーテル系、炭化水素系等、及びその他の不活性有機溶剤を使用することができる。
【0015】
上記ケトン系溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、2−ペンタノン、3−ペンタノン、メチルイソブチルケトン、2−ヘプタノン、シクロヘキサノン等が挙げられる。
【0016】
前記エステル系溶剤としては、例えば、ギ酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセタート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセタート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、メタクリル酸メチル、ヘキサンジオールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパンEO変性トリアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、イソボニルアクリレート、トリプロピレングリコールジアリレート等が挙げられる。
【0017】
前記エーテル系溶剤としては、例えば、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等が挙げられる。
【0018】
前記炭化水素系溶剤としては、例えば、n−ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ソルベントナフサ、スチレン、ハロゲン化炭化水素系としてはジクロロメタン、トリクロロエチレン等が挙げられる。
【0019】
前記その他の不活性有機溶剤としては、アセトニトリル、アセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン等が挙げられる。
【0020】
本発明においては、オルガノシリカゾルの製造容易性の観点から前記不活性有機溶剤としてN−メチル−2−ピロリドンを使用することが好ましく、反応温度及び溶剤除去の観点からケトン系溶剤を使用することが特に好ましい。本発明では、特に、N−メチル−2−ピロリドン、メチルエチルケトン及びメチルイソブチルケトンが好適に使用される。
【0021】
本発明で使用する不活性有機溶剤を分散溶媒とするオルガノシリカゾルの製造方法は特に限定されず、公知のいずれの方法を用いても良い。例えば、水分散コロイダルシリカ又は水酸基を有する溶剤のシルカゾルと不活性有機溶剤とを混合した後、水又はアルコール系溶剤を、共沸や限外ろ過等によって除去する方法等により製造することができる。
【0022】
上記水分散コロイダルシリカは特に限定されず、市販のものを使用することができる。市販品としては、例えば、スノーテックスC、スノーテックスO、スノーテックスN、スノーテックスNXS、スノーテックスOS、スノーテックスOUP、スノーテックスOL、スノーテックスPS−MO、スノーテックスPS−S、スノーテックスS、スノーテックスUP、スノーテックスPS−M、スノーテックスPS−L、スノーテックス20、スノーテックス30、スノーテックス40(何れも日産化学工業(株)製の商品名)、シリカドール−20、シリカドール−30、シリカドール−40、シリカドール−30S、シリカドール−20AL、シリカドール−20A、シリカドール−30S、シリカドール−20G、シリカドール−20GA、シリカドール−40G−80、シリカドール−20P、シリカドール−12S−4(何れも日本化学工業(株)製の商品名)、AT−20、AT−30、AT−40、AT−50、AT−20A、AT−300(何れも(株)ADEKA製の商品名)等が挙げられる。
また、アエロジル50、アエロジル130、アエロジル200、アエロジル300、アエロジル380、アエロジルTT600、アエロジルMOX80、アエロジルMOX170(何れも日本アエロジル(株)製の商品名)、AERODISP VP W7622、AERODISP W7520N(何れもdegussa社製の商品名)、CAB-O-SPERSE 2017A、CAB-O-SPERSE GP32/12、CAB-O-SIL M5(CABOT CORPRATION社製の商品名)、NIPGEL AY200、NIPGEL AY220、NIPGEL AY420、NIPGEL AY451、NIPGEL AY460、NIPGEL AY401、NIPGEL AY601、NIPGEL AY603、NIPGEL AZ200、NIPGEL AZ201、NIPGEL AZ204、NIPGEL AZ260、NIPGEL AZ360、NIPGEL AZ400、NIPGEL AZ410、NIPGEL AZ600、NIPGEL BY200、NIPGEL BY400(何れも日本シリカ工業(株)製の商品名)等のシリカを、水に分散させて使用することもできる。
【0023】
前記水酸基を有する溶剤のシリカゾルとしては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、イソブチルアルコール、2-ブタノール、エチレングリコール、グリセリン、プリピレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ベンジルアルコール、1,5−ペンタンジオール及びジアセトンアルコール等のアルコール系溶剤や、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等に分散させたオルガノシリカゾルが挙げられる。市販品としては、例えば、オルガノシリカゾルIPA−ST、NPC−ST−30,EG−ST,BA−ST,PGM−ST(何れも日産化学(株)製の商品名)等が挙げられる。
【0024】
本発明で使用する、不活性有機溶剤を分散溶媒とするオルガノシリカゾルのウレタンプレポリマーへの配合は、ウレタン化反応前後の何れのタイミングでも良いが、不活性有機溶剤の沸点がウレタン化反応温度より低い(約80℃未満)場合には、ウレタン化反応後に配合することが好ましい。また、シリカのウレタンへの分散混合性の観点からは、50〜80℃で1〜3時間混合させることが好ましい。
【0025】
本発明で使用するオルガノシリカゾルの配合量は、ウレタンプレポリマー組成物の全固形分(全原料成分)中におけるシリカ換算量として5〜40質量%となる量であり、好ましくは10〜30質量%、より好ましくは15〜25質量%である。含有される上記シリカ固形分の割合が5質量%未満であると、本発明の組成物から得られる塗膜の耐食性向上効果を十分に得ることができず、40質量%を超える量である場合には、上記耐食性向上効果に更なる改善が見られないだけでなく、塗膜の強度及び基材との接着性等の物性面が不十分となるので好ましくない。
【0026】
本発明のウレタンプレポリマー組成物は、下記一般式(1)で表される親水性化合物を、組成物の全固形分中に5〜40質量%含有していることが好まし、特に10〜30質量%含有することが好ましい。5質量%未満では、本発明のウレタンプレポリマー組成物の分散安定性が低下しやすく、40質量%を超える量含有させた場合には、塗膜を形成させた場合の耐水性や機械物性等が悪化する場合がある。

但し、上式中のRは、エチレンオキシド構造化合物の末端水酸基とジ-又はトリイソシアネート化合物とのウレタン化反応の残基、又は、ジ-若しくはトリオール化合物とのエチレンオキシド付加反応の残基を表し、Rはメチル基又はエチル基、nは5〜100の数を表す。
【0027】
本発明においては、上記一般式(1)で表される親水性化合物として、特に、片末端がメトキシ基又はエトキシ基で、数平均分子量が200〜5000の直鎖のポリオキシエチレン鎖を有するモノオール化合物1モルと、ジ又はトリイソシアネート化合物1モルとのウレタン化反応物、若しくは、上記モノオール化合物1モルと、ジ又はトリオール化合物1モルとの脱水縮合反応によるポリエーテル化合物を、全固形分中に5〜40質量%含有していることが好ましい。
【0028】
前記ジ-又はトリイソシアネート化合物としては、後述するポリイソシアネート成分(a)の2価又は3価のイソシアネート化合物を挙げることができる。これらの中でも、前記一般式(1)で表される化合物におけるイソシアネート基が2価となり、ウレタンプレポリマー主鎖中に組み込まれることが可能となるという観点から、トリイソシアネートを使用することが好ましい。本発明においては、ジイソシアネートの三量化物を使用することがより好ましく、特に、入手容易性の観点から2,4−、及び/又は、2,6−トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート又はジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネートの三量化物を使用することが好ましい。
【0029】
前記ジ-又はトリオール化合物としては、後述する低分子ポリオール類化合物を挙げることができるが、これらの中でも、前記一般式(1)で表される化合物の水酸基が2価となり、ウレタンプレポリマー主鎖中に組み込むことが可能となることから、トリオールを使用することが好ましく、特にトリメチロールエタン、トリメチロールプロパン又はグリセリンを使用することが好ましい。
【0030】
前記一般式(1)におけるRがメチル基又はエチル基に限定される理由は、炭素原子数3以上のアルキル基であると親水性が阻害され、水系ポリウレタン樹脂の分散安定性や貯蔵安定性が劣ることになるためである。
【0031】
前記一般式(1)におけるnは5〜100の数であるが、好ましくは10〜50の数、より好ましくは15〜35の数である。nが5未満であると親水性が不足するため、水系ポリウレタン化した場合のウレタンプレポリマーやシリカの水分散安定性が劣り、100を超えても、水分散安定性が向上しないばかりか塗膜強度や基材との接着性が劣り、好ましくない。
【0032】
また、本発明においては、前記親水性化合物以外のノニオン性基導入化合物を用いることもできる。このような化合物としては、例えば、アンモニア及びメチルアミン、エチルアミン、アニリン、フェニレンジアミン、イソホロンジアミン等の、活性水素を2個以上有する低分子量アミン化合物のエチレンオキシド重付加物、又はエチレンオキシド/プロピレンオキシド共重付加物;ジイソシアネート化合物のヌレート体(三量体)のポリエチレングリコールモノアルキルエステル等が挙げられる。
【0033】
本発明の水系ポリウレタン樹脂組成物は、前記した本発明のウレタンプレポリマー組成物を水に分散させることにより容易に得ることができるが、特に、上記ウレタンプレポリマーとして末端にNCOを有するプレポリマーを用い、その鎖伸長剤として、第1級又は第2級アミン基を有するアルカノールアミン化合物を、ウレタンプレポリマーのイソシアネート基1当量に対するアミノ基の当量比で、0.1〜1.0となるように反応させて、水酸基を有する水系ポリウレタン樹脂組成物としておくことが好ましい。
上記アルカノールアミン化合物の使用量は、上記したようにウレタンプレポリマーのイソシアネート基1当量に対するアミノ基の当量比で0.1〜1.0であるが、本発明においては特に0.2〜0.9であることがより好ましい。前記0.1〜1.0の範囲から外れると、形成させるポリウレタン塗膜の白化や物性の低下等を引き起こす傾向となり好ましくない。
【0034】
上記第1級又は第2級アミン基を有するアルカノールアミン化合物としては、例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノプロパノールアミン、ジプロパノールアミン、N−(β−アミノエチル)エタノールアミン、N−(β−アミノエチル)イソプロパノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N−エチルエタノールアミン、N−n-ブチルエタノールアミン、N−t-ブチルエタノールアミン及び2−アミノ−2−メチルプロパノール(2−アミノイソブタノール)等を挙げることができる。ウレタンプレポリマーの鎖伸長反応を行わせるためには、アミノ基を2個有するものを使用することが好ましく、更に、後記する水分散イソシアネートと架橋させるという観点からは、水酸基が1個であるものが好ましい。このような水分散ポリイソシアネートとの反応性及び鎖伸長反応とのバランスの観点から、本発明においては、N−(β−アミノエチル)エタノールアミンを使用することが好ましく、これに加えて更に、その他のアルカノールアミンを併用することがより好ましい。
【0035】
前記水分散イソシアネートは、本発明の水系ポリウレタン樹脂組成物を1液硬化型の水系ポリウレタン樹脂組成物とするための架橋剤であり、その配合量は、前記水酸基を有する水系ポリウレタン樹脂の水酸基1当量に対して水分散イソシアネート化合物のイソシアネート基の当量比で0.5〜2.5となる量であることが好ましく、0.8〜2.0であることがより好ましく、特に1.2〜1.8であることが好ましい。上記当量比が0.5未満であると水系ポリウレタン樹脂中の水酸基が残存するため、形成させる塗膜のタック(ベタツキ)が残る等の問題があり、2.5を超える場合には、水分散イソシアネート化合物が大過剰に残存するため硬化性が劣り、塗膜の物性も脆くなる傾向となる。
【0036】
本発明で架橋剤として使用する前記水分散ポリイソシアネートとしては、後述するポリイソシアネート成分(a)のジイソシアネート化合物、ポリイソシアネート化合物又はそれらの変性体若しくはブロック化体を水に分散させたものを用いることができる。これらの水分散ポリイソシアネートの分散方法としては、例えば、ノニオン性乳化剤を用いた強制乳化法、上記ポリイソシアネートを、エチレンオキサイド鎖等の親水性基を有する親水性基含有化合物と共重合して、分子中にエチレンオキサイド鎖等の親水性基を導入する自己乳化法、及びこれらを併用した方法が挙げられる。
市販されている自己乳化可能なポリイソシアネート化合物としては、CR−60N(DIC(株)製の商品名)、ディスオジュールDA、スミジュール(住化バイエルウレタン社製の商品名)、タケネートWDシリーズ(三井化学(株)社製の商品名)、コロネートC3062、コロネートC3053、アクアネートシリーズ(日本ポリウレタン工業社製の商品名)、バイヒジュール3100、バイヒジュールVPLS2150BA、バイヒジュールVPLS2306、バイヒジュールVPLS2319、バイヒジュールVPLS2336(バイエル社製の商品名)等が挙げられる。
【0037】
前記ポリイソシアネート成分(a)としては、ジイソシアネート、一分子中にイソシアネート基を3つ以上有するポリイソシアネート化合物等の1種類又は2種以上を混合して用いることができる。
【0038】
上記ジイソシアネート化合物としては、例えば、2,4−及び/又は2,6−トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、2,2’−ジメチルジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、ジフェニルジメチルメタン−4,4’−ジイソシアネート、2,5,2’,5’−テトラメチルジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、シクロヘキシルビス(4−イソシアントリフェニル)メタン、3,3’−ジメトキシジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、4,4’−ジメトキシジフェニルメタン−3,3’−ジイソシアネート、4,4’−ジエトキシジフェニルメタン−3,3’−ジイソシアネート、2,2’−ジメチル−5,5’−ジメトキシジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、3,3’−ジクロロジフェニルジメチルメタン−4,4’−ジイソシアネート、ベンゾフェノン−3,3’−ジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート、3,3’−ジメチルジフェニル−4,4’−ジイソシアネート、ジアニシジンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、ビフェニルジイソシアネート、3,3’−ジメチルビフェニルジイソシアネート、3,3’−ジメトキシビフェニルジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート;イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート、トランス−1,4−シクロヘキシルジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート等の脂環式ジイソシアネート;メチレンジイソシアネート、ジメチレンジイソシアネート、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ジプロピルエーテルジイソシアネート、2,2−ジメチルペンタンジイソシアネート、3−メトキシヘキサンジイソシアネート、オクタメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルペンタンジイソシアネート、ノナメチレンジイソシアネート、デカメチレンジイソシアネート、3−ブトキシヘキサンジイソシアネート、1,4−ブチレングリコールジプロピルエーテルジイソシアネート、チオジヘキシルジイソシアネート、メタキシリレンジイソシアネート、パラキシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネートが挙げられる。
【0039】
上記のジイソシアネートは、カルボジイミド変性、イソシアヌレート変性、ビウレット変性等の変性物の形で用いてもよく、各種のブロッキング剤によってブロックされたブロックイソシアネートの形で用いてもよい。
【0040】
前記の1分子中にイソシアネート基を3つ以上有するポリイソシアネート化合物としては、例えば、1−メチルベンゼン−2,4,6−トリイソシアネート、1,3,5−トリメチルベンゼン−2,4,6−トリイソシアネート、1,3,7−ナフタレントリイソシアネート、ビフェニル−2,4,4’−トリイソシアネート、ジフェニルメタン−2,4,4’−トリイソシアネート、3−メチルジフェニルメタン−4,6,4’−トリイソシアネート、トリフェニルメタン−4,4’,4”−トリイソシアネート、1,6,11−ウンデカントリイソシアネート、1,8−ジイソシアネート−4−イソシアネートメチルオクタン、1,3,6−ヘキサメチレントリイソシアネート、ビシクロヘプタントリイソシアネート、トリス(イソシアネートフェニル)チオホスフェート及びジメチルトリフェニルメタンテトライソシアネート、並びに前記例示のジイソシアネートのイソシアヌレート三量化物、ビューレット三量化物、及びトリメチロールプロパンアダクト化物等;の三官能以上のイソシアネート等が挙げられ、これらのイソシアネート化合物はカルボジイミド変性、イソシアヌレート変性、ビウレット変性等の変性物の形で用いてもよく、各種のブロッキング剤によってブロックされたブロックイソシアネートの形で用いてもよい。
【0041】
前記ポリイソシアネート化合物成分(a)は、耐黄変性、入手容易性及び製造容易性の観点から、特に、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート及びジシクロヘキシルメタンジイソシアネートであることが好ましい。
【0042】
本発明の水系ポリウレタン樹脂組成物に用いられる前記ポリオール成分(b)は、ジオール化合物やヒドロキシル基を3個以上有するポリオール化合物等が挙げられる。これらは、1種類又は2種類以上を混合して用いることができる。
【0043】
前記ジオール化合物及びヒドロキシル基を3個以上有するポリオール化合物としては、低分子ポリオール類、ポリエーテルポリオール類、ポリエステルポリオール類、ポリエステルポリカーボネートポリオール類、結晶性又は非結晶性のポリカーボネートポリオール類、ポリブタジエンポリオール類、シリコーンポリオール類等が挙げられる。本発明においては、特に、ポリエーテルポリオール類、ポリエステルポリオール類、及びポリカーボネートポリオール類を好適に使用することができる。
【0044】
前記低分子ポリオール類としては、例えば、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、3−メチル−2,4−ペンタンジオール、2,4−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、3,5−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール及び1,10−デカンジオール並びに、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール及びトリプロピレングリコール等のエーテル系ジオール類等の脂肪族ジオール;シクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジオール等の脂環式ジオール;トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ヘキシトール類、ペンチトール類、グリセリン、ポリグリセリン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、テトラメチロールプロパン等の、三価以上のポリオールが挙げられる。
【0045】
前記ポリエーテルポリオール類としては、例えば、前記の低分子ポリオールのエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイド付加物、ポリテトラメチレングリコール等が挙げられる。本発明に用いられる該ポリエーテルポリオール類の数平均分子量は、500〜7000であることが好ましく、より好ましくは1000〜5000である。
【0046】
前記ポリエステルポリオール類としては、前記した低分子ポリオール等のポリオールと、その化学量論量より少ない量の多価カルボン酸又はそのエステル、無水物、ハライド等のエステル形成性誘導体、及び/又は、ラクトン類若しくはそれを加水分解開環して得られるヒドロキシカルボン酸との直接エステル化反応、及び/又は、エステル交換反応により得られるものが挙げられる。多価カルボン酸又はそのエステル形成性誘導体としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、2−メチルコハク酸、2−メチルアジピン酸、3−メチルアジピン酸、3−メチルペンタン二酸、2−メチルオクタン二酸、3,8−ジメチルデカン二酸、3,7−ジメチルデカン二酸、水添ダイマー酸、ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸類;フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸類;シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸類;トリメリト酸、トリメシン酸、ひまし油脂肪酸の三量体等のトリカルボン酸類;ピロメリット酸等のテトラカルボン酸類などの多価カルボン酸が挙げられる。また、そのエステル形成性誘導体としては、これらの多価カルボン酸の酸無水物;該多価カルボン酸クロライド、ブロマイド等のハロゲン化物;該多価カルボン酸のメチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、イソプロピルエステル、ブチルエステル、イソブチルエステル、アミルエステル等の低級脂肪族エステル等が挙げられる。また、前記ラクトン類としてはγ−カプロラクトン、δ−カプロラクトン、ε−カプロラクトン、ジメチル−ε−カプロラクトン、δ−バレロラクトン、γ−バレロラクトン、γ−ブチロラクトン等のラクトン類が挙げられる。本発明に用いられる該ポリエステルポリオール類の数平均分子量は、500〜7000であることが好ましく、より好ましくは1000〜5000である。
【0047】
前記イオン性基導入成分(c)としては、アニオン性基を導入するものとカチオン性基を導入するものが挙げられる。アニオン性基を導入するものとしては、例えば、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸、ジメチロール酪酸、ジメチロール吉草酸等のカルボキシル基を含有するポリオール類、1,4−ブタンジオール−2−スルホン酸等のスルホン酸基を含有するポリオール類が挙げられ、カチオン性基を導入するものとしては、例えば、N,N−ジアルキルアルカノールアミン類、N−メチル−N,N−ジエタノールアミン、N−ブチル−N,N−ジエタノールアミン等のN−アルキル−N,N−ジアルカノールアミン類、トリアルカノールアミン類が挙げられる。
【0048】
前記イオン性基導入成分(c)の使用量は、用いるポリオール及びポリイソシアネートの種類や乳化剤使用との関係にもよるが、イオン性基導入成分を用いた自己乳化系においては、通常、水系ポリウレタン樹脂を構成する全ての反応成分に対して、0.5〜50質量%、好ましくは1〜30質量%である。0.5質量%未満では保存安定性が劣り、また、50質量%を超えて使用すると、ウレタンプレポリマーの水分散性やウレタン塗膜の物性に悪影響を及ぼすことがある。
【0049】
前記イオン性基中和剤成分(d)としては、アニオン性基の中和剤として、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン等のトリアルキルアミン類、N,N−ジメチルエタノールアミン、N,N−ジメチルプロパノールアミン、N,N−ジプロピルエタノールアミン、1−ジメチルアミノ−2−メチル−2−プロパノール等のN,N−ジアルキルアルカノールアミン類、N−アルキル−N,N−ジアルカノールアミン類、トリエタノールアミン等のトリアルカノールアミン類等の3級アミン化合物;アンモニア、トリメチルアンモニウムヒドロキシド、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等の塩基性化合物が挙げられる。カチオン性基の中和剤としては、蟻酸、酢酸、乳酸、コハク酸、グルタル酸、クエン酸等の有機カルボン酸、パラトルエンスルホン酸、スルホン酸アルキル等の有機スルホン酸、塩酸、リン酸、硝酸、スルホン酸等の無機酸、エピハロヒドリン等のエポキシ化合物の他、ジアルキル硫酸、ハロゲン化アルキル等の4級化剤が挙げられる。これらの中和剤の使用量は、通常、イオン性基1当量に対して過不足が大きいと、水系ポリウレタン樹脂から得られる塗膜等の耐水性、強度、伸び等の物性が低下するおそれがあるので0.5〜2.0当量であることが好ましく、0.8〜1.5当量であることがより好ましい。
【0050】
前記乳化剤成分(e)としては、例えば、脂肪酸塩、高級アルコールの硫酸エステル塩、液体脂肪油の硫酸エステル塩、脂肪族アミンおよび脂肪族アマイドの硫酸塩、脂肪族アルコールのリン酸エステル、二塩基酸性脂肪酸エステルのスルホン酸塩、脂肪酸アミドのスルホン酸塩、アルキルアリルスルホン酸、ホルマリン縮合ナフタリンスルホン酸塩等のアニオン系界面活性剤、第一アミン塩、第二アミン塩、第三アミン塩、第四級アミン塩、ピリジニウム塩等のカチオン系界面活性剤、ベタイン型、硫酸エステル型、スルホン酸型等の両性界面活性剤、及びノニオン系界面活性剤等が挙げられる。
【0051】
前記鎖伸長剤成分(f)としては、水系ポリウレタン樹脂組成物に用いられる、公知の鎖伸長剤を一種類又は二種類以上混合して使用することができるが、本発明においては、特に多価アミン化合物及び多価一級アルコール化合物等が好ましく、多価アミン化合物がより好ましい。
【0052】
前記多価アミン化合物としては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン等の、前記した低分子ジオールのアルコール性水酸基がアミノ基に置換されたものである低分子ジアミン類;ポリオキシプロピレンジアミン、ポリオキシエチレンジアミン等のポリエーテルジアミン類;メンセンジアミン、イソホロンジアミン、ノルボルネンジアミン、ビス(4−アミノ−3−メチルジシクロヘキシル)メタン、ジアミノジシクロヘキシルメタン、ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、3,9−ビス(3−アミノプロピル)2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン等の脂環式ジアミン類;m−キシレンジアミン、α−(m/pアミノフェニル)エチルアミン、m−フェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、ジアミノジエチルジメチルジフェニルメタン、ジアミノジエチルジフェニルメタン、ジメチルチオトルエンジアミン、ジエチルトルエンジアミン、α,α’−ビス(4−アミノフェニル)−p−ジイソプロピルベンゼン等の芳香族ジアミン類;ヒドラジン;前記のポリエステルポリオールに用いられる多価カルボン酸において例示したジカルボン酸とヒドラジンとの化合物である、ジカルボン酸ジヒドラジド化合物が挙げられる。
【0053】
前記鎖伸長剤成分(f)の使用量は特に制限されることはなく、適宜使用することができるが、例えば、プレポリマー法を選択した場合には、プレポリマー中のイソシアネート基の1当量に対して鎖伸長剤の第1級及び第2級アミノ基の当量比が0.1〜1.5となる範囲であることが、得られる水系ポリウレタン樹脂の分散性が良好であるので好ましく、0.5〜1.0であることがより好ましい。
【0054】
また、本発明のウレタンプレポリマー組成物又は水系ポリウレタン樹脂組成物には、必要に応じて、ポリウレタン分子に架橋構造を与える公知の架橋剤を用いてもよい。上記水系ポリウレタン樹脂に好適な架橋剤としては、メラミン、モノメチロールメラミン、ジメチロールメラミン、トリメチロールメラミン、テトラメチロールメラミン、ペンタメチロールメラミン、ヘキサメチロールメラミン、メチル化メチロールメラミン、ブチル化メチロールメラミン、メラミン樹脂等が挙げられる。本発明においては、中でも、ポリウレタンの分散性が優れると共に安価でもあるメラミンを使用することが特に好ましい。
【0055】
本発明のウレタンプレポリマー組成物の製造においては、必要に応じて、反応に不活性な溶媒を使用することもできる。該溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、N−メチル−2−ピロリドン等を挙げることができる。これらの溶媒は、通常、プレポリマーを製造するために用いられる上記原料の合計量100質量部に対して、3〜100質量部用いられる。本発明においては、これらの溶媒の中でも、特に沸点が100℃以下の溶媒を使用することが、ウレタンプレポリマーを水分散した後に、減圧留去することができるので好ましい。
【0056】
本発明のウレタンプレポリマー組成物に使用されるポリイソシアネート成分(a)のイソシアネート基とポリオール成分(b)のアルコール性水酸基の当量比(NCO/OH)は、1.0〜5.0であることが好ましく、1.05〜3.0の範囲であることがより好ましい。前記(a)と(b)とからなるウレタンプレポリマーは、必要に応じて用いられる前記イオン性基導入成分(c)を反応させるために、末端がイソシアネート基であることが好ましい。したがって、当量比(NCO/OH)が1.0より小さいと、末端が水酸基であるウレタンプレポリマーとなるため好ましくない。また、5.0を超えると、ウレタンプレポリマーを水に分散して得られる水系ポリウレタン樹脂組成物の保存安定性に影響を及ぼす場合があるので好ましくない。
【0057】
また、本発明の水系ポリウレタン樹脂組成物においては、ウレタン樹脂100質量部に対して、水が30〜900質量部、好ましくは80〜400質量部配合されることが好ましい。水の配合量が30質量部よりも少ないと、水系ポリウレタン樹脂組成物の粘度が高く取扱いが困難になり、900質量部よりも多い場合には、塗膜を形成させるときの硬化性が低下し、塗膜の物性が低下するので好ましくない。
【0058】
本発明の水系ポリウレタン樹脂組成物は、一液型として使用することができるだけでなく、水分散イソシアネート等の硬化剤を用いた二液型として使用することもできる。本発明の水系ポリウレタン樹脂組成物に、水系エポキシ樹脂、水系アミノ樹脂、ブロック化イソシアネート等の架橋剤を併用することにより、防食性等をさらに向上させることもできる。
【0059】
本発明の水系ポリウレタン樹脂組成物には、必要に応じて、公知の各種の添加剤を更に用いてもよい。該添加剤としては、例えば、光安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、顔料、染料、造膜助剤、硬化剤、ブロッキング防止剤、レベリング剤、ゲル化防止剤、分散安定剤、ラジカル捕捉剤、耐熱性付与剤、無機及び有機充填剤、可塑剤、滑剤、帯電防止剤、補強剤、触媒、揺変剤、抗菌剤、防カビ剤、防腐触剤、消泡剤、非会合型増粘剤、有機溶剤、表面調整剤、沈降防止剤等が挙げられる。
【0060】
また、本発明の水系ポリウレタン樹脂組成物を塗料やコーティング剤に用いる場合には、特に基材に対する強固な密着性を付与するシランカップリング剤、コロイダルシリカ、テトラアルコキシシラン及びその縮重合物、キレート剤、及びエポキシ化合物等を更に用いてもよい。
【0061】
前記の各種添加剤の中でも、本発明の水系ポリウレタン樹脂組成物を塗膜や塗装に用いる場合には、ヒンダードアミン系光安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤(リン系、フェノール系又は硫黄系抗酸化剤)等を使用することが好ましい。
【0062】
上記ヒンダードアミン系光安定剤としては、例えば、2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルステアレート、1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジルステアレート、2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルベンゾエート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1−オクトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジルメチルメタクリレート、2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルメチルメタクリレート、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、テトラキス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)・ビス(トリデシル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)・ビス(トリデシル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)−2−ブチル−2−(3,5−ジ第3−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)マロネート、1−(2−ヒドロキシエチル)−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジノール/コハク酸ジエチル重縮合物、1,6−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルアミノ)ヘキサン/ジブロモエタン重縮合物、1,6−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルアミノ)ヘキサン/2,4−ジクロロ−6−モルホリノ−s−トリアジン重縮合物、1,6−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルアミノ)ヘキサン/2,4−ジクロロ−6−第3オクチルアミノ−s−トリアジン重縮合物、1,5,8,12−テトラキス[2,4−ビス(N−ブチル−N−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)アミノ)−s−トリアジン−6−イル]−1,5,8,12−テトラアザドデカン、1,5,8,12−テトラキス[2,4−ビス(N−ブチル−N−(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)アミノ)−s−トリアジン−6−イル]−1,5,8,12−テトラアザドデカン、1,6,11−トリス[2,4−ビス(N−ブチル−N−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)アミノ)−s−トリアジン−6−イルアミノ]ウンデカン、1,6,11−トリス[2,4−ビス(N−ブチル−N−(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)アミノ)−s−トリアジン−6−イルアミノ]ウンデカン、3,9−ビス〔1,1−ジメチル−2−[トリス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルオキシカルボニルオキシ)ブチルカルボニルオキシ]エチル〕−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカン、3,9−ビス〔1,1−ジメチル−2−[トリス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジルオキシカルボニルオキシ)ブチルカルボニルオキシ]エチル〕−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカン等が挙げられる。
【0063】
前記紫外線吸収剤としては、例えば、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノン、5,5’−メチレンビス(2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン)等の2−ヒドロキシベンゾフェノン類;2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−5−第3オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ第3ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3−第3ブチル−5−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ジクミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2’−メチレンビス(4−第3オクチル−6−ベンゾトリアゾリルフェノール)、2−(2−ヒドロキシ−3−第3ブチル−5−カルボキシフェニル)ベンゾトリアゾールのポリエチレングリコールエステル、2−〔2−ヒドロキシ−3−(2−アクリロイルオキシエチル)−5−メチルフェニル〕ベンゾトリアゾール、2−〔2−ヒドロキシ−3−(2−メタクリロイルオキシエチル)−5−第3ブチルフェニル〕ベンゾトリアゾール、2−〔2−ヒドロキシ−3−(2−メタクリロイルオキシエチル)−5−第3オクチルフェニル〕ベンゾトリアゾール、2−〔2−ヒドロキシ−3−(2−メタクリロイルオキシエチル)−5−第3ブチルフェニル〕−5−クロロベンゾトリアゾール、2−〔2−ヒドロキシ−5−(2−メタクリロイルオキシエチル)フェニル〕ベンゾトリアゾール、2−〔2−ヒドロキシ−3−第3ブチル−5−(2−メタクリロイルオキシエチル)フェニル〕ベンゾトリアゾール、2−〔2−ヒドロキシ−3−第3アミル−5−(2−メタクリロイルオキシエチル)フェニル〕ベンゾトリアゾール、2−〔2−ヒドロキシ−3−第3ブチル−5−(3−メタクリロイルオキシプロピル)フェニル〕−5−クロロベンゾトリアゾール、2−〔2−ヒドロキシ−4−(2−メタクリロイルオキシメチル)フェニル〕ベンゾトリアゾール、2−〔2−ヒドロキシ−4−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)フェニル〕ベンゾトリアゾール、2−〔2−ヒドロキシ−4−(3−メタクリロイルオキシプロピル)フェニル〕ベンゾトリアゾール等の2−(2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール類;2−(2−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン、2−(2−ヒドロキシ−4−ヘキシロキシフェニル)−4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン、2−(2−ヒドロキシ−4−オクトキシフェニル)−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン、2−〔2−ヒドロキシ−4−(3−C12〜C13混合アルコキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル〕−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン、2−〔2−ヒドロキシ−4−(2−アクリロイルオキシエトキシ)フェニル〕−4,6−ビス(4−メチルフェニル)−1,3,5−トリアジン、2−(2,4−ジヒドロキシ−3−アリルフェニル)−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4,6−トリス(2−ヒドロキシ−3−メチル−4−ヘキシロキシフェニル)−1,3,5−トリアジン等の2−(2−ヒドロキシフェニル)−4,6−ジアリール−1,3,5−トリアジン類;フェニルサリシレート、レゾルシノールモノベンゾエート、2,4−ジ第3ブチルフェニル−3,5−ジ第3ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、オクチル(3,5−ジ第3ブチル−4−ヒドロキシ)ベンゾエート、ドデシル(3,5−ジ第3ブチル−4−ヒドロキシ)ベンゾエート、テトラデシル(3,5−ジ第3ブチル−4−ヒドロキシ)ベンゾエート、ヘキサデシル(3,5−ジ第3ブチル−4−ヒドロキシ)ベンゾエート、オクタデシル(3,5−ジ第3ブチル−4−ヒドロキシ)ベンゾエート、ベヘニル(3,5−ジ第3ブチル−4−ヒドロキシ)ベンゾエート等のベンゾエート類;2−エチル−2’−エトキシオキザニリド、2−エトキシ−4’−ドデシルオキザニリド等の置換オキザニリド類;エチル−α−シアノ−β,β−ジフェニルアクリレート、メチル−2−シアノ−3−メチル−3−(p−メトキシフェニル)アクリレート等のシアノアクリレート類;各種の金属塩又は金属キレート、特にニッケル又はクロムの塩又はキレート類等が挙げられる。
【0064】
前記リン系抗酸化剤としては、例えば、トリフェニルホスファイト、トリス(2,4−ジ第3ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,5−ジ第3ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(ジノニルフェニル)ホスファイト、トリス(モノ、ジ混合ノニルフェニル)ホスファイト、ジフェニルアシッドホスファイト、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ第3ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ジフェニルデシルホスファイト、ジフェニルオクチルホスファイト、ジ(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト、トリブチルホスファイト、トリス(2−エチルヘキシル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリラウリルホスファイト、ジブチルアシッドホスファイト、ジラウリルアシッドホスファイト、トリラウリルトリチオホスファイト、ビス(ネオペンチルグリコール)・1,4−シクロヘキサンジメチルジホスファイト、ビス(2,4−ジ第3ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,5−ジ第3ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ第3ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、テトラ(C12−C15混合アルキル)−4,4’−イソプロピリデンジフェニルホスファイト、ビス[2,2’−メチレンビス(4,6−ジアミルフェニル)]・イソプロピリデンジフェニルホスファイト、テトラトリデシル・4,4’−ブチリデンビス(2−第3ブチル−5−メチルフェノール)ジホスファイト、ヘキサ(トリデシル)・1,1,3−トリス(2−メチル−5−第3ブチル−4−ヒドロキシフェニル)ブタン・トリホスファイト、テトラキス(2,4−ジ第3ブチルフェニル)ビフェニレンジホスホナイト、トリス(2−〔(2,4,7,9−テトラキス第3ブチルジベンゾ〔d,f〕〔1,3,2〕ジオキサホスフェピン−6−イル)オキシ〕エチル)アミン、9,10−ジハイドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナンスレン−10−オキサイド、トリス(2−〔(2,4,8,10−テトラキス第三ブチルジベンゾ〔d,f〕〔1,3,2〕ジオキサホスフェピン−6−イル)オキシ〕エチル)アミン、2−(1,1−ジメチルエチル)−6−メチル−4−[3−[[2,4,8,10−トラキス(1,1−ジメチルエチル)ジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピン−6−イル]オキシ]プロピル]フェノール2−ブチル−2−エチルプロパンジオール・2,4,6−トリ第3ブチルフェノールモノホスファイト等が挙げられる。
【0065】
前記フェノール系抗酸化剤としては、例えば、2,6−ジ第3ブチル−p−クレゾール、2,6−ジフェニル−4−オクタデシロキシフェノール、ステアリル(3,5−ジ第3ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ジステアリル(3,5−ジ第3ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ホスホネート、トリデシル・3,5−ジ第3ブチル−4−ヒドロキシベンジルチオアセテート、チオジエチレンビス[(3,5−ジ第3ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、4,4’−チオビス(6−第3ブチル−m−クレゾール)、2−オクチルチオ−4,6−ジ(3,5−ジ第3ブチル−4−ヒドロキシフェノキシ)−s−トリアジン、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−第3ブチルフェノール)、ビス[3,3−ビス(4−ヒドロキシ−3−第3ブチルフェニル)ブチリックアシッド]グリコールエステル、4,4’−ブチリデンビス(2,6−ジ第3ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(6−第3ブチル−3−メチルフェノール)、2,2’−エチリデンビス(4,6−ジ第3ブチルフェノール)、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−第3ブチルフェニル)ブタン、ビス[2−第3ブチル−4−メチル−6−(2−ヒドロキシ−3−第3ブチル−5−メチルベンジル)フェニル]テレフタレート、1,3,5−トリス(2,6−ジメチル−3−ヒドロキシ−4−第3ブチルベンジル)イソシアヌレート、1,3,5−トリス(3,5−ジ第3ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、1,3,5−トリス(3,5−ジ第3ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2,4,6−トリメチルベンゼン、1,3,5−トリス[(3,5−ジ第3ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシエチル]イソシアヌレート、テトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ第3ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、2−第3ブチル−4−メチル−6−(2−アクリロイルオキシ−3−第3ブチル−5−メチルベンジル)フェノール、3,9−ビス[2−(3−第3ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルヒドロシンナモイルオキシ)−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、トリエチレングリコールビス[β−(3−第3ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート]、トコフェノール等が挙げられる。
【0066】
前記硫黄系抗酸化剤としては、例えば、チオジプロピオン酸のジラウリル、ジミリスチル、ミリスチルステアリル、ジステアリルエステル等のジアルキルチオジプロピオネート類及びペンタエリスリトールテトラ(β−ドデシルメルカプトプロピオネート)等のポリオールのβ−アルキルメルカプトプロピオン酸エステル類が挙げられる。
【0067】
前記ヒンダードアミン系光安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤のそれぞれの使用量は、本発明の水系ポリウレタン樹脂組成物の固形分100質量部に対して0.001質量部より小さいと充分な添加効果を得られない場合があり、10質量部より大きいと分散性や塗装物性に影響を及ぼすおそれがあるので0.001〜10質量部であることが好ましく、0.01〜5質量部であることがより好ましい。また、これらのヒンダードアミン系光安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤の添加方法は、ポリオール成分に添加する方法、ウレタンプレポリマーに添加する方法、水分散時に水相に添加する方法、水分散後に添加する方法等が挙げられるが、操作が容易であるという観点から、ポリオール成分に添加する方法又はウレタンプレポリマーに添加する方法が好ましい。
【0068】
本発明の水系ポリウレタン樹脂組成物の用途としては、塗料、接着剤、表面改質剤、有機及び/又は無機粉体のバインダー、成形体等が挙げられる。具体的には、ガラス繊維集束剤、感熱紙のコート剤、インクジェット記録紙のコート剤、印刷インクのバインダー剤、鋼板用コート剤、農業用フィルム用コート剤、ガラス、スレート、コンクリート等無機系構造材用塗料、木工塗料、繊維処理剤、スポンジ、パフ、手袋、コンドーム等が挙げられる。これらの中でも、塗料、木材、紙、繊維、ガラス、電子材料部品及び鋼板へのコーティング材料用途として使用することが好ましく、特に表面処理鋼板用の塗料として使用することが好ましい。
【0069】
また、本発明の水系ポリウレタン樹脂組成物は、例えば、ポリ酢酸ビニル、エチレン酢酸ビニル共重合体、アクリル樹脂等の合成樹脂エマルジョン及び天然ゴム、SBR、NBR等のゴムラテックス等、他の水系樹脂エマルジョンとの相溶性が良好であるので、これらの改質剤としても有用である。
【0070】
以下、実施例及び比較例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらによって制限を受けるものではない。尚、実施例及び比較例における「部」及び「%」は、特にことわりのない限り「質量部」及び「質量%」を表す。
【0071】
[合成例1]
<オルガノシリカゾルの製造:N-メチル-2-ピロリドン(以下NMP)ゾル>
水分散シリカ((株)ADEKA製、アデライトAT−30A:平均粒径12.5nm、固形分30%)にNMPを混合し、65〜80℃で脱水操作を行って、固形分が30.5%のNMPゾルを得た。得られたNMPゾルの水分含有率は0.05%であった。
【0072】
[実施製造例1−1〜1−4]
<ウレタンプレポリマーの製造>
下記表1に記載した配合に基づき、(a)ポリイソシアネート成分、(b)ポリオール成分、(c)イオン性基導入成分、一般式(1)で表される化合物及び溶媒を配合し、80〜100℃で2〜3時間反応させた。所定のイソシアネート含有量への到達を確認した後、下記表1に記載したシリカ(オルガノシリカゾル)を配合し、70〜80℃で1〜2時間攪拌して本発明のウレタンプレポリマーを得た。
【0073】
[比較製造例1−1及び1−2]
下記表1に記載した配合に基づき、(a)ポリイソシアネート成分、(b)ポリオール成分、(c)イオン性基導入成分、一般式(1)で表される化合物及び溶媒を配合し、80〜100℃で2〜3時間反応させた。所定のイソシアネート含有量への到達を確認した後、ウレタンプレポリマーを得た。
【0074】
[比較製造例1−3]
下記表1に記載した配合に基づき、(a)ポリイソシアネート成分、(b)ポリオール成分、(c)イオン性基導入成分、一般式(1)で表される化合物及び溶媒を配合し、80〜100℃で2〜3時間反応させた。所定のイソシアネート含有量への到達を確認した後、粉末シリカを添加し、70〜80℃で1〜2時間攪拌してウレタンプレポリマーを得た。
【0075】
【表1】

*1:ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート
*2:イソホロンジイソシアネート
*3:ポリオキシプロピレングリコールMw1000((株)ADEKA製)
*4:メチルペンタンジオール/アジピン酸ポリエステルジオールMw1000((株)クラレ製)
*5:ポリカーボネートジオールMw1000((株)クラレ製)
*6:ポリテトラメチレングリコールMw1000((株)保土ヶ谷化学製)
*7:トリメチロールプロパン
*8:ジメチロールプロピオン酸
*9: Perstorp社製、製品名Ymer N120、OH官能基数2、Mw1000
*10:HDI(ヘキサメチレンジイソシアネート)ヌレート+メトキシPEG-1000の1/1モル反応化合物
*11:前記合成例1によって得られたNMPゾル
*12:日産化学工業(株)製MEK(メチルエチルケトンシリカゾル)、製品名:MEK-ST(SiO2 30%、水分0.5%≧)
*13:アエロジル200((株)アエロジル化学工業製の商品名)
【0076】
[実施例1−1〜1−3及び比較例1−1〜1−2]
<水系ポリウレタン樹脂の製造>
下記表2に記載した配合に基づき、60〜70℃のウレタンプレポリマーに、予め(d)イオン性基中和剤成分を添加したイオン交換水を攪拌しながら注ぎ込み、30〜40℃で30分間分散させた後、(f)鎖伸長剤を添加し、IR(赤外分光光度計)にてイソシアネート基が消失するまで1〜2時間攪拌し、溶媒(MEK)を除去して水系ポリウレタン樹脂組成物を得、下記保存安定性の評価を行った。また、得られた水系ポリウレタン樹脂組成物を用いて形成させた塗膜について、下記耐食性の評価を行った。結果を表2に併せて記す。
【0077】
[比較例1−3]
下記表2に記載した配合に基づき、前記実施例1と同様の条件で水系ポリウレタン樹脂を製造し、これに水分散シリカ((株)ADEKA製、製品名アデライトAT−30A、固形分30%)を室温にて1時間攪拌混合し、試験液を得た。実施例と同様にして耐食性及び保存安定性を評価した結果を表2に併せて記す。
【0078】
[実施例2−1〜2−3及び比較例2−1]
下記表3に記載した配合に基づき、前記実施例1と同様の条件で水系ポリウレタン樹脂を製造し、保存安定性の評価を行った。また、水系ポリウレタン樹脂の水酸基当量に対して表3に記載した配合にしたがって、1.0〜2.0倍当量(NCO Index1.0〜2.0)となる量の水分散イソシアネート(三井化学(株)製、製品名タケネートWD-725、NCO%15.8)を混合して試験液を得た後、実施例1−1と同様にして耐食性の評価を行った。結果を表3に併せて記す。
【0079】
[比較例2−2及び2−3]
下記表3に記載した配合に基づき、前記比較例1−3と同様の条件で水分散シリカを配合した水系ポリウレタン樹脂を製造し、保存安定性の評価を行った。また、前記実施例2−1と同様の条件で水分散イソシアネートを配合して試験液を得た後、実施例2−1と同様にして耐食性の評価を行った。結果を表3に併せて記す。
【0080】
<耐食性評価>
表面処理を施していない亜鉛メッキ鋼板に、実施例及び比較例で得られた水系ウレタン樹脂組成物を、乾燥膜が60μmとなるように塗布して塗膜を形成させた後、得られた塗膜について下記のようにして耐食性試験を行った。
【0081】
<耐食性試験>
JIS Z 2371に基づいて塩水噴霧試験を行い、96時間後の錆の発生状況を観察した。
評価基準 ◎:錆発生が全面積の10%未満
○:錆発生が全面積の10%〜40%未満
△:錆発生が全面積の40%〜70%未満
×:錆発生が全面積の70%以上
【0082】
<水系ポリウレタン樹脂の保存安定性評価>
前記実施例及び比較例により得られた水系ポリウレタン樹脂を25℃で30日間保存したときの保存安定性を、下記の基準に基づき、目視により評価した。
◎:粘度の増加、分離及び沈降が全くない。
○:僅かに粘度の増加、分離または沈降が認められる。
△:粘度の増加、分離または沈降は認められるが、使用可能。
×:粘度の増加、分離または沈降が著しく、使用不可。
【0083】
【表2】

*1:トリエチルアミン
*2:エチレンジアミン
*3:アジピン酸ジヒドラジド
*4: (株)ADEKA製、AT−30A、固形分30%
*5:ウレタンプレポリマーのイソシアネート1当量に対するアミノ基の当量比
【0084】
【表3】

*1:ジエタノールアミン
*2:N−(β−アミノエチル)エタノールアミン
*3:三井化学(株)製、タケネートWD-725、NCO%15.8%
表中数値は、水系ポリウレタン樹脂100質量部に対する質量部
*4:(水分散イソシアネート配合前の)水系ポリウレタン樹脂の保存安定性
*5:ウレタンプレポリマーのイソシアネート1当量に対するアミノ基の当量比
*6:水系ポリウレタン樹脂の水酸基当量に対する水分散ポリイソシアネートのイソシアネート基の当量比(イソシアネート基/水酸基)
【0085】
オルガノシリカゾルをウレタンプレポリマーに配合して製造した本発明の水系ポリウレタン樹脂組成物から得られた塗膜は、シリカ粉を配合(比較例1−2)したものや、水分散シリカを配合(比較例1−3)したものから得られた塗膜に比べて、耐食性に顕著な効果があることが確認された。また、アルカノールアミン化合物を鎖伸長剤として使用し、水分散イソシアネートを2液型の硬化剤として配合した場合の本発明(実施例2−1)は、更に顕著な効果を有することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明の水系ポリウレタン樹脂組成物は、耐食性に優れると共に、耐摩耗性、接着性、非粘着性、ゴム弾性を有するポリウレタン樹脂の塗膜や成形品を形成することができるので、対環境汚染のみならず、労働衛生等の安全性の面でも優れた、塗料、接着剤、バインダー、コーティング剤等に好適であり、産業上極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸基を含まない不活性有機溶剤を分散溶媒とするオルガノシリカゾルを含有する水系ポリウレタン樹脂組成物用ウレタンプレポリマー組成物であって、前記オルガノシリカゾルによって導入されるシリカ分が、前記ウレタンプレポリマー組成物の固形分中に5〜40質量%含有されていることを特徴とするウレタンプレポリマー組成物。
【請求項2】
下記一般式(1)で表される親水性化合物が、ウレタンプレポリマーの全固形分に対して5〜40質量%含有されている、請求項1に記載されたウレタンプレポリマー組成物;

但し、上式中のRは、エチレンオキシド構造化合物の末端水酸基とジ-又はトリイソシアネート化合物とのウレタン化反応の残基、又は、ジ-若しくはトリオール化合物とのエチレンオキシド付加反応の残基を表し、Rはメチル基又はエチル基、nは5〜100の数を表す。
【請求項3】
前記一般式(1)で表される親水性化合物が、片末端がメトキシ基又はエトキシ基で、数平均分子量が200〜5000の直鎖のポリオキシエチレン鎖を有するモノオール化合物1モルと、ジ又はトリイソシアネート化合物1モルとのウレタン化反応物、若しくは、前記モノオール化合物1モルと、ジ又はトリオール化合物1モルとの脱水縮合反応によるポリエーテル化合物である、請求項2に記載されたウレタンプレポリマー組成物。
【請求項4】
末端がNCO基である、請求項1〜3の何れかに記載されたウレタンプレポリマー組成物。
【請求項5】
末端がOH基である、請求項1〜3の何れかに記載されたウレタンプレポリマー組成物。
【請求項6】
請求項4又は5に記載されたウレタンプレポリマー組成物を水に分散させてなることを特徴とする水系ポリウレタン樹脂組成物。
【請求項7】
請求項4に記載されたウレタンプレポリマー組成物を水に分散させてなる水系ポリウレタン樹脂組成物のイソシアネート基1当量に対し、第1級又は第2級アミノ基を有するアルカノールアミン化合物を、アミノ基の当量比で0.1〜1.0の割合で反応させてなることを特徴とする、水酸基を有する水系ポリウレタン樹脂組成物。
【請求項8】
請求項7に記載された水酸基を有する水系ポリウレタン樹脂組成物の該水酸基1当量に対して、水分散ポリイソシアネート化合物をイソシアネート基の当量比で0.5〜2.5配合してなることを特徴とする水系ポリウレタン樹脂組成物。
【請求項9】
塗料用として使用される、請求項3〜8の何れかに記載された水系ポリウレタン樹脂組成物。
【請求項10】
水系金属表面処理剤として使用される、請求項3〜8の何れかに記載された水系ポリウレタン樹脂組成物。
【請求項11】
オルガノシリカゾルを含有してなるウレタンプレポリマー組成物を水に分散させることを特徴とする、水系ポリウレタン樹脂組成物の製造方法。

【公開番号】特開2012−201787(P2012−201787A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−67348(P2011−67348)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000000387)株式会社ADEKA (987)
【Fターム(参考)】