説明

水系リチウムイオン二次電池

【課題】水系リチウムイオン二次電池において、初回の放電容量と初回の充電容量との比である充放電効率や充放電サイクルを繰り返したあとの容量維持率を高くする。
【解決手段】水系リチウムイオン二次電池10は、正極シートと負極シートとの間にセパレータを挟んで捲回した捲回型電極体Aが、リチウムイオンを水に溶解した水系電解液と共に電池容器30に収容されている。電池容器30は、鉄系金属に比べて水の電気分解が起きにくい電気分解抑制材料(ポリアセタールなど)で作製され、正極シートに電気的に接続された正極集電体14及び負極シートに電気的に接続された負極集電体18は、電池容器30から外部に露出している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,水系リチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、電解液として水溶液を用いた水系リチウムイオン二次電池が知られている(例えば特許文献1参照)。この水系リチウムイオン二次電池は、非水系リチウムイオン二次電池が有する問題に対して以下の利点がある。即ち、水系リチウムイオン二次電池は、電解液に有機溶媒を用いていないため、基本的には燃えることはない。また、製造工程においてドライ環境を必要としないため、製造にかかるコストを大幅に削減することができる。さらに、一般的に水系電解液は非水系電解液に比べて導電性が高いため、水系リチウムイオン二次電池は、非水系リチウムイオン二次電池に比べて内部抵抗が低くなる。このような利点を持つ反面、水系リチウムイオン二次電池は、水の電気分解反応が起こらない電位範囲での使用が求められるため、非水系リチウムイオン二次電池と比較して起電力が小さくなる。このように、水系リチウムイオン二次電池においては、高電圧・高エネルギー密度を犠牲として、高い安全性、低コスト及び低内部抵抗が確保される。
【0003】
特許文献1の水系リチウムイオン二次電池は、CR2016型コインセルが例示されている。このコインセルの電池容器は、SUS製である。具体的には、このコインセルは、SUS製の容器本体の内側に正極を形成し、この容器本体の内周に沿った形状のガスケットを配置し、正極の上にセパレータを介して負極を配置すると共に水系電解液を注入したあと、容器本体の開口をSUS製の蓋で塞いでかしめたものである。
【特許文献1】特開2007−103298
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述したコインセルでは、一般に水の電気分解が起こらないとされる電圧1.3V程度で充電したとしても、水の電気分解を十分抑制することができず、初回の放電容量と初回の充電容量との比である充放電効率が低く、また、充放電サイクルを繰り返したあとの容量維持率も低いという問題があった。このように水の電気分解を十分抑制できないのは、蓋が負極と同電位となり水系電解液と接触し、容器本体が正極と同電位となり水系電解液と接触していることが一因と考えられる。
【0005】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、水系リチウムイオン二次電池において、初回の放電容量と初回の充電容量との比である充放電効率や充放電サイクルを繰り返したあとの容量維持率を高くすることを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するために、本発明者らは、電池容器の材料を種々検討したところ、充放電効率や容量維持率が高くなるものを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の水系リチウムイオン二次電池は、充電時にリチウムイオンを放出し放電時にリチウムイオンを吸蔵する材料を正極活物質とする正極シートと充電時にリチウムイオンを吸蔵し放電時にリチウムイオンを放出する材料を負極活物質とする負極シートとの間にセパレータを挟んだ電極体を、リチウムイオンを水に溶解した水系電解液と共に電池容器に収容した構造の水系リチウムイオン二次電池であって、前記電池容器が、鉄系金属に比べて水の電気分解が起きにくい電気分解抑制材料で作製され、前記正極シートに電気的に接続された正極集電体及び前記負極シートに電気的に接続された負極集電体が、前記電池容器から外部に露出しているものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の水系リチウムイオン二次電池によれば、鉄系金属(例えばニッケルメッキ鉄とかSUSなど)製の電池容器を用いた場合に比べて充放電効率が高くなり、充放電サイクルを繰り返したあとの容量維持率も高くなる。このような効果が得られる理由は、明らかではないが、容器本体と蓋からなる電池容器が鉄系金属製の場合には、容器本体全体が一方の電極と同電位となり、蓋全体が他方の電極と同電位となるのに対して、電池容器が電気分解抑制材料製の場合には、各電極と同電位となるのは各電極の集電体のみであるから、各電極と同電位になる金属などの導電材の面積が前者の場合に比べて後者の方が圧倒的に少ないことによるものと推察される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の水系リチウムイオン二次電池は、電池容器が、鉄系金属に比べて水の電気分解が起きにくい電気分解抑制材料で作製され、正極シートに電気的に接続された正極集電体及び負極シートに電気的に接続された負極集電体が、電池容器から外部に露出しているものである。
【0010】
本発明の水系リチウムイオン二次電池において、正極は、充電時にリチウムイオンを放出し放電時にリチウムイオンを吸蔵する材料を正極活物質とするものであれば、特に限定されないが、例えばスピネル構造のリチウムマンガン複合酸化物やオリビン構造のリチウムマンガン複合酸化物、層状構造のリチウムマンガン複合酸化物、欠損型層状構造のリチウムマンガン複合酸化物、オリビン構造のリチウムリン酸化合物等を正極活物質とすることが好ましい。正極活物質は、水の電気分解による酸素が生じない電位範囲において、可逆的にできるだけ大量のリチウムイオンの吸蔵・放出が可能であることが好ましい。こうした観点から、正極活物質としては、オリビン構造のリチウムリン酸化合物が好ましく、Li及びFeを金属元素の主成分とするオリビン構造のリチウムリン酸化合物がより好ましく、LiFePO4が更に好ましい。
【0011】
本発明の水系リチウムイオン二次電池において、負極は、充電時にリチウムイオンを吸蔵し放電時にリチウムイオンを放出する材料を負極活物質とするものであれば、特に限定されないが、例えばバナジウム、鉄、チタン、マンガン等の金属を含有する酸化物や水酸化物、また、これらの金属とリチウムとの複合酸化物等を負極活物質とすることが好ましい。こうした負極活物質としては、例えばLiV24、LiV38、VO2、FeOOH等が挙げられる。負極活物質は、水の電気分解による水素が生じない電位範囲において、可逆的にできるだけ大量のリチウムイオンの吸蔵・放出が可能であることが好ましい。こうした観点から、負極活物質としては、スピネル構造のリチウム複合酸化物が好ましく、Li及びVを金属元素の主成分とするスピネル構造のリチウム複合酸化物がより好ましく、LiV24が更に好ましい。
【0012】
本発明の水系リチウムイオン二次電池において、正極及び負極は、導電材を含んでいてもよい。導電材としては、導電性を有する材料であれば特に限定されない。例えば、ケッチェンブラックやアセチレンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック等のカーボンブラック類でもよいし、鱗片状黒鉛のような天然黒鉛や人造黒鉛、膨張黒鉛などのグラファイト類でもよいし、炭素繊維や金属繊維などの導電性繊維類でもよいし、銅や銀、ニッケル、アルミニウムなどの金属粉末類でもよいし、ポリフェニレン誘導体などの有機導電性材料でもよい。また、これらを単体で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。
【0013】
本発明の水系リチウムイオン二次電池において、正極及び負極は、バインダや増粘剤を含んでいてもよい。バインダとしては、特に限定されるものではないが、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂などが挙げられる。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレンブタジエンゴム、フッ素ゴム、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−クロロトリフルオロエチレン共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE樹脂)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、フッ化ビニリデン−ペンタフルオロプロピレン共重合体、プロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−パーフルオロメチルビニルエーテル−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体などが挙げられる。これらの材料は単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。増粘剤としては、特に限定されるものではないが、カルボキシメチルセルロース(CMC)などが挙げられる。
【0014】
本発明の水系リチウムイオン二次電池において、水系電解液は、リチウム塩を主電解質とするものであれば、特に限定されない。リチウム塩としては、例えばLiNO3、LiOH、LiCl及びLi2S等が挙げられる。これらのリチウム塩は、それぞれ単独で用いることもできるが、2種以上を併用することもできる。水系電解液のpHは、4〜11であることが好ましい。水系電解液のpHが4未満の場合には、一般に正極活物質や負極活物質が不安定になりやすく、電池の容量や充放電サイクル特性が低下するおそれがある。一方、pHが11を超える場合には、水の電気分解電位、即ち水素発生電位及び酸素発生電位が低下するため、正極や負極で酸素や水素が発生し易くなるおそれがある。
【0015】
本発明の水系リチウムイオン二次電池において、セパレータは、特に限定されるものではないが、例えば、親水性処理を施した多孔性ポリオレフィンフィルム又はポリオレフィン不織布が好ましい。こうしたセパレータは、正極と負極とを物理的に分離すること、短絡を防ぐために電気絶縁性を持つこと、水系電解液に対して濡れやすく保液性に優れること、リチウムイオンの伝導性を阻害しないこと、耐電解液性があり物理的・化学的に安定なこと、電池反応を阻害する有害物質を発生しないことなど、セパレータに要求される特性を満足する。また、こうしたセパレータは、撥水性(疎水性)のポリオレフィンに、スルホン化処理やアクリル酸グラフト重合処理、プラズマ処理、フッ素ガス処理などの親水性処理を施すことにより得られる。このうち、スルホン化処理が耐熱性や耐酸化性など化学的安定性に優れるため好ましい。ポリオレフィンとしては、特に限定されないが、ポリエチレンやポリプロピレンが入手しやすさの点で好ましい。
【0016】
本発明の水系リチウムイオン二次電池において、電池容器は、鉄系金属に比べて水の電気分解が起きにくい電気分解抑制材料で作製されている。電気分解抑制材料としては、高分子材料やアルミニウムが挙げられるが、このうち高分子材料が好ましい。高分子材料としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレンなどのポリオレフィン樹脂;ポリエーテルケトン (PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリエーテルエーテルケトンケトン (PEEKK)などの芳香族ポリエーテルケトン樹脂;ポリアセタールなどのポリオキシメチレン樹脂;ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素系樹脂などが挙げられる。また、正極シートには正極集電体が電気的に接続され、負極シートには負極集電体が電気的に接続されるが、各集電体は電池容器から外部に露出している。なお、こうした集電体は、アルミニウム製が好ましい。こうした電池容器は、筒状に形成された容器本体の一端及び他端にそれぞれ第1及び第2キャップを接合したものとし、正極集電体は、容器本体の一端と第1キャップとの間に液密に配置され、負極集電体は、容器本体の他端とキャップとの間に液密に配置されるようにすることが好ましい。各キャップと容器本体との接合は、ねじ込みのほか、熱融着などが挙げられる。
【0017】
本発明の水系リチウムイオン二次電池は、単体として用いてもよいが、複数直列に接続して用いてもよい。また、用途としては、各種電気機器用の電源のほか、電気自動車用電源としてもよい。電気自動車としては、例えば、電池のみで駆動する電池電気自動車や内燃機関とモータ駆動とを組み合わせたハイブリッド電気自動車、燃料電池で発電する燃料電池自動車等が挙げられる。
【実施例】
【0018】
以下、本発明の具体例を実施例を用いて説明する。
【0019】
[実施例1]
正極活物質を以下のようにして作製した。すなわち、出発原料として鉄の価数が2価であるシュウ酸鉄、炭酸リチウム、リン酸二水素アンモニウムをモル比でLi:Fe:Pが1:1:2となるように混合し、ペレット状に成形して650℃、アルゴンガス雰囲気下で24時間焼成し、オリビン構造のLiFePO4を得た。これを正極活物質とした。
【0020】
負極活物質を以下のようにして作製した。すなわち、炭酸リチウム(Li2CO3)、五酸化バナジウム(V25)を化学量論比に従って秤量し、自動乳鉢で120分間混合した。次いで、この混合物をプレス成形し、水素気流中、700℃で3時間焼成した。得られた混合物を乳鉢にて十分に解砕した後、炭酸ガスと酸素とよりなる酸素含有ガス中で650℃で48時間焼成した。更に乳鉢で十分に解砕して再度650℃、48時間の条件で焼成してスピネル構造のLiV24を得た。これを負極活物質とした。
【0021】
次に、図1に示す捲回型電極体Aを作製した。具体的には、LiFePO4、カーボンブラック、カルボキシメチルセルロース(増粘剤)、スチレンブタジエンゴム(バインダ)を85:10:3:2の重量割合で混合し、水を加えてスラリー状にしたものを、厚さ25μmのアルミニウム箔の両面に塗布したあと乾燥し、幅56mm、長さ500mmの矩形状に切り出して正極シート12とした。この正極シート12に、幅4mm、長さ70mm、厚さ100μmのアルミニウムタブを超音波溶接して、正極タブ12aとした。
【0022】
また、LiV24、カーボンブラック、カルボキシメチルセルロース(増粘剤)、スチレンブタジエンゴム(バインダ)を85:10:3:2の重量割合で混合し、水を加えてスラリー状にしたものを、厚さ25μmのアルミニウム箔の両面に塗布したあと乾燥し、幅54mm、長さ450mmの矩形状に切り出して負極シート16とした。この負極シート16に、幅4mm、長さ70mm、厚さ100μmのアルミニウムタブを超音波溶接して、負極タブ16aとした。
【0023】
セパレータ13は、幅58mm、長さ約1100mmの親水性を有するシート状部材であり、以下のようにして作製した。すなわち、厚さ85μmでシート状のポリエチレンとポリプロピレンとの共重合体製不織布を、窒素ガスで希釈した硫酸ガス雰囲気中でスルホン化処理を行い、脱イオン水で水洗し、乾燥することでスルホン化処理済みのセパレータ13を得た。得られたセパレータ13につき、親水性確認試験を行った。すなわち、厚さ25μmのセパレータ13の上面に脱イオン水を1滴滴下し、1分後にセパレータ13の背面に脱イオン水が透過したか否かを調べた。そうしたところ、このスルホン化処理済みのセパレータ13は脱イオン水が透過していたため、親水性を有すると判断した。
【0024】
そして、正極シート12とセパレータ13と負極シート16とを積層したものを円筒型に捲回して捲回型電極体Aとした。
【0025】
一方、図2に示すように、電池容器30として、ポリアセタール製で筒状の容器本体32と、この容器本体32の上端にねじ込み可能なポリアセタール製の第1キャップ34と、容器本体22の下端にねじ込み可能なポリアセタール製の第2キャップ36とを用意した。各キャップ34,36には、各集電体14,18を露出するための開口34a,36aを設けた。そして、捲回型電極体Aを、上側に正極タブ12a、下側に負極タブ16aがくるようにして容器本体32に挿入し、正極タブ12aにアルミニウム製の正極集電体14を接続し、負極タブ16aに同じくアルミニウム製の負極集電体18を接続した。このとき、容器本体32の上側開口と正極集電体14との間、容器本体32の下側開口と負極集電体18との間には、それぞれフッ素系樹脂(バイトン(登録商標))製のOリング20,22を介在させた。続いて、第2キャップ36を閉めたあと、水系電解液として6M LiNO3水溶液(pH4.9)を約5mL注入し、第1キャップ34を閉めた。この電池容器30は、Oリング20,22によって液密性が確保されている。このようにして、図2に示す18650型の水系リチウムイオン二次電池10を作製した。
【0026】
[実施例2]
電池容器30の材料をポリエーテルエーテルケトン(PEEK)とした以外は、実施例1と同様の方法で水系リチウムイオン二次電池10を作製した。
【0027】
[実施例3]
電池容器30の材料をポリプロピレンとした以外は、実施例1と同様の方法で水系リチウムイオン二次電池10を作製した。
【0028】
[比較例1]
図3に示すように、ニッケルメッキを施した鉄製の電池容器130を用意した。ここでも、実施例1と同様にして捲回型電極体Aを作製した。そして、電池容器130に捲回型電極体Aを挿入し、負極タブ16aを電池容器130の底面に接続し、正極タブ12aを正極集電体14に接続し、実施例1と同様の水系電解液を注入したあと、電池容器130と正極集電体14との間にガスケット136を介在させた状態で、電池容器130を密封した。なお、実際には電池容器130はコップ型の容器本体と蓋とに分かれており、両者をかしめることにより密封した。このようにして、図3に示す水系リチウムイオン二次電池110を作製した。
【0029】
[比較例2]
電池容器130の材料をSUS304とした以外は、比較例1と同様にして、水系リチウムイオン二次電池110を作製した。
【0030】
[評価]
以下のように、各二次電池につき、(1)初回放電容量及び充放電効率、(2)サイクル試験(容量維持率)を評価した。なお、電流の単位の「C」の定義は次のとおりである。すなわち、1Cは、電池を完全に充電したあと定電流放電した場合に1時間で完全放電できる電流値を意味する。本明細書では、電池容量がすべて150mAhになるように調整しているため、1Cは150mAとなる。
【0031】
(1)初回放電容量及び充放電効率
実施例1〜3及び比較例1,2につき、初回放電容量及び充放電効率の評価を行った。すなわち、各水系リチウムイオン二次電池について、電流15mA(0.1C相当)で1.3Vまで充電したあと、同じく0.15mAで0.7Vまで放電した。そして、最初の放電電流容量を「初期放電容量」(単位mAh)とした。また、初回放電容量を初回充電容量で除して100を乗じた値を「充放電効率」(単位%)とした。その結果を表1に示す。
【0032】
比較例1,2では、鉄系金属製の電池容器を用いているため、初回充電時に副反応(おそらく水素発生又は酸素発生)と考えられる電流が流れていることが確認された。そのため、充放電効率は低い値となった。一方、実施例1〜3の高分子材料製の電池容器を用いた場合には、そのような副反応がみられず、比較的良好に充放電が行われ、充放電効率も約87%と高い値となった。
【0033】
(2)サイクル試験(容量維持率)
初回の充放電を終えた電池を電流300mA(2C相当)で1.3Vまで充電し、同じく300mAで0.7Vまで放電するというサイクル試験を20℃で50サイクル行った。そして、50サイクル目の放電容量を1サイクル目の放電容量で除して100を乗じた値を「容量維持率」(単位%)とした。その結果を表1に示す。
【0034】
比較例1,2では、サイクル試験中にも副反応が起こっていると考えられるため容量維持率は大きく低下したが、実施例1〜3では、そのような副反応が見られないため容量維持率は非常に高い値となった。
【0035】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】捲回型電極体Aの斜視図である。
【図2】実施例の水系リチウムイオン二次電池10の断面図である。
【図3】比較例の水系リチウムイオン二次電池110の断面図である。
【符号の説明】
【0037】
10 水系リチウムイオン二次電池、12 正極シート、12a 正極タブ、13 セパレータ、14 正極集電体、16 負極シート、16a 負極タブ、18 負極集電体、20,22 Oリング、30 電池容器、32 容器本体、34 第1キャップ、36 第2キャップ、34a,36a 開口、110 水系リチウムイオン二次電池、130 電池容器、136 ガスケット。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
充電時にリチウムイオンを放出し放電時にリチウムイオンを吸蔵する材料を正極活物質とする正極シートと充電時にリチウムイオンを吸蔵し放電時にリチウムイオンを放出する材料を負極活物質とする負極シートとの間にセパレータを挟んだ電極体を、リチウムイオンを水に溶解した水系電解液と共に電池容器に収容した構造の水系リチウムイオン二次電池であって、
前記電池容器は、鉄系金属に比べて水の電気分解が起きにくい電気分解抑制材料で作製され、
前記正極シートに電気的に接続された正極集電体及び前記負極シートに電気的に接続された負極集電体は、前記電池容器から外部に露出している、
水系リチウムイオン二次電池。
【請求項2】
前記電極体は、前記正極シートと前記負極シートとの間に前記セパレータを挟んで捲回した捲回型電極体である、
請求項1に記載の水系リチウムイオン二次電池。
【請求項3】
前記電気分解抑制材料は、高分子材料で作製されている、
請求項1又は2に記載の水系リチウムイオン二次電池。
【請求項4】
前記電気分解抑制材料は、ポリオレフィン樹脂、芳香族ポリエーテルケトン樹脂、ポリオキシメチレン樹脂及びフッ素系樹脂からなる群より選ばれた材料である、
請求項3に記載の水系リチウムイオン二次電池。
【請求項5】
前記正極集電体及び前記負極集電体は、いずれもアルミニウム製である、
請求項1〜4のいずれか1項に記載の水系リチウムイオン二次電池。
【請求項6】
前記電池容器は、筒状に形成された容器本体の一端及び他端にそれぞれ第1及び第2キャップを接合したものであり、前記正極集電体は、前記容器本体の一端と前記第1キャップとの間に液密に配置され、前記負極集電体は、前記容器本体の他端とキャップとの間に液密に配置されている、
請求項5に記載の水系リチウムイオン二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−113963(P2010−113963A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−285796(P2008−285796)
【出願日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】