説明

水系分散体及びその製造方法、並びにその水系分散体を用いた水系防汚塗料

【課題】塗装当初からより高い耐汚染性改善効果が発揮され、かつ、その耐汚染性改善効果を長期間持続させることが可能である水系防汚塗料を提供する。
【解決手段】式(1)で表されるオルガノシランの縮合物であるポリオルガノシロキサン、アクリル系ポリマー、及びノニオン系水溶性ポリマーを構成成分とする水系分散体と、式(2)又は式(3)で表される有機錫化合物、及び乳化剤を含有する水系分散体と、から構成される2液混合型の水系防汚塗料。
(R14-nSi(OR2n …(1)
(式中、R1は水素原子、又は1価の有機基を示し、R2はアルキル基又はアシル基を示す。)
(R3)(R4)Sn(R5)(R6) …(2)
(R7)Sn(R8)(R9)(R10) …(3)
(式中、R3、R4及びR7はアルキル基を示し、R5、R6、R8、R9及びR10はエステル基を有する1価の有機基を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐汚染性に優れた塗膜を形成し得る水系の防汚塗料に関し、詳しくは、ポリオルガノシロキサン、アクリル系ポリマー、及びノニオン系水溶性ポリマー等を含有する水系分散体と、有機錫化合物を含有する水系分散体とから構成される2液混合型の水系防汚塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、環境問題を背景として、水系塗料は様々な分野で使用されており、その適用範囲は拡大の一途をたどっている。このような状況に伴って、より高性能な水系塗料が求められている。例えば、近年、水系塗料を外壁用塗料として使用した際に、排気ガスや砂塵に曝された塗装面に雨筋が付き、醜くなるという問題があり、耐汚染性に優れた水系塗料が求められている。
【0003】
水系塗料の耐汚染性を改善する方策としては、例えば、ポリエチレングリコール系化合物で変性したオルガノシリケートを水系塗料に添加する方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。このような方法は、相分離したオルガノシリケートのシラノール性水酸基が塗膜表面を親水化することにより水との接触角を下げ、雨筋が付きにくくなるという利点がある。しかしながら、この方法は、塗装当初の耐汚染性改善効果は高いものの、その効果が長期間持続しないという欠点がある。
【0004】
また、本出願人も、ポリオルガノシロキサン、アクリル系ポリマー、及び有機錫化合物を含有する水系分散体を既に開示している(例えば、特許文献2参照)。この水系分散体は、長期の貯蔵安定性を有し、かつ優れた耐汚染性を塗装後短期間で発現し得るものであり、水系塗料として有用である。しかしながら、近年にあっては、塗装当初からより高い耐汚染性改善効果を発揮する水系塗料が求められており、この水系分散体も塗装当初の耐汚染性改善効果の面で十分とはいえず、未だ改善の余地を残すものであった。
【特許文献1】国際公開第99/05228号パンフレット
【特許文献2】特開2004−161782号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、現在のところ、水系塗料の耐汚染性を改善する方策として、塗装当初からより高い耐汚染性改善効果が発揮され、その耐汚染性改善効果を長期間持続させることが可能であり、かつ、長期の貯蔵安定性を有するものは未だ開示されていない。従って、そのような方策を創出することが産業界から切望されている。
【0006】
本発明は、上述のような従来技術の課題を解決するべくなされたものであり、塗装当初からより高い耐汚染性改善効果が発揮され、その耐汚染性改善効果を長期間持続させることが可能であり、かつ、長期の貯蔵安定性を有するという、従来技術と比較して有利な効果を奏する水系防汚塗料、並びにその製造に好適に用いることができる水系分散体及びその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上述のような従来技術の課題を解決するために鋭意検討した結果、ポリオルガノシロキサン、アクリル系ポリマー、及びノニオン系水溶性ポリマー等を含有する水系分散体と、有機錫化合物を含有する水系分散体とから構成される2液混合型の水系防汚塗料により、上記課題が解決されることに想到し、本発明を完成させた。具体的には、本発明により、以下の水系分散体、水系分散体の製造方法、水系防汚塗料、塗装体の製造方法、及び建築材料が提供される。
【0008】
[1] 水性媒体中に、下記一般式(1)で表されるオルガノシラン(A’成分)から選ばれる少なくとも1種の縮合物であるポリオルガノシロキサン(A成分)と、ガラス転移点が−20℃〜+80℃のアクリル系ポリマー(B成分)と、ノニオン系水溶性ポリマー及び/又はアニオン基含有水溶性ポリマー(C成分)とを構成成分とし、前記A成分を、前記A成分と前記B成分の合計質量に対して2〜50質量%、前記B成分を、前記A成分と前記B成分の合計質量に対して50〜98質量%、前記C成分を、前記A成分と前記B成分の合計質量100質量部に対して0.1〜20質量部、含有する水系分散体であって、水性媒体中において、前記A成分、前記B成分を構成するモノマー(B’成分)の一部、及び乳化剤を混合してエマルジョン化した後、前記エマルジョンの平均粒子径を0.5μm以下に微細化し、次いで、ラジカル重合開始剤の存在下、pH4〜9で、前記B’成分の一部をラジカル重合することにより得られる反応液に対して、更にB’成分の残部を追加してラジカル重合することにより前記B成分を形成した後、前記C成分を添加し、混合したものである水系分散体。
(R14-nSi(OR2n …(1)
(式中、R1は水素原子、又は1価の有機基を示し、R2はアルキル基又はアシル基を示し、nは3又は4である。)
【0009】
[2] 水性媒体中に、下記一般式(1)で表されるオルガノシラン(A’成分)から選ばれる少なくとも1種の縮合物であるポリオルガノシロキサン(A成分)と、ガラス転移点が−20℃〜+80℃のアクリル系ポリマー(B成分)と、ノニオン系水溶性ポリマー及び/又はアニオン基含有水溶性ポリマー(C成分)とを構成成分とし、前記A成分を、前記A成分と前記B成分の合計質量に対して2〜50質量%、前記B成分を、前記A成分と前記B成分の合計質量に対して50〜98質量%、前記C成分を、前記A成分と前記B成分の合計質量100質量部に対して0.1〜20質量部、含有する水系分散体の製造方法であって、水性媒体中において、前記A成分、前記B成分を構成するモノマー(B’成分)の一部、及び乳化剤を混合してエマルジョン化した後、前記エマルジョンの平均粒子径を0.5μm以下に微細化し、次いで、ラジカル重合開始剤の存在下、pH4〜9で、前記B’成分の一部をラジカル重合することにより得られる反応液に対して、更にB’成分の残部を追加してラジカル重合することにより前記B成分を形成した後、前記C成分を添加し、混合する水系分散体の製造方法。
(R14-nSi(OR2n …(1)
(式中、R1は水素原子、又は1価の有機基を示し、R2はアルキル基又はアシル基を示し、nは3又は4である。)
【0010】
[3] 水性媒体中に、下記一般式(2)又は下記一般式(3)で表され、分子量が640以上の有機錫化合物(D成分)、及び乳化剤を含有する水系分散体。
(R3)(R4)Sn(R5)(R6) …(2)
(R7)Sn(R8)(R9)(R10) …(3)
(式中、R3、R4、及びR7は、各々がアルキル基を示し、R5、R6、R8、R9及びR10は、各々がエステル基を有する1価の有機基を示す。)
【0011】
[4] 前記[1]に記載の水系分散体と、前記[3]に記載の水系分散体とから構成され、前記D成分が、前記A成分と前記B成分の合計質量100質量部に対して0.01〜10質量部となるように、前記[1]に記載の水系分散体と前記[3]に記載の水系分散体とを混合する2液混合型の水系防汚塗料。
【0012】
[5] 前記[1]に記載の水系分散体と、前記[3]に記載の水系分散体とを混合して水系防汚塗料を生成させ、前記水系防汚塗料を基材の表面に塗布することにより、前記基材の表面に防汚塗膜が形成された塗装体を得る、塗装体の製造方法。
【0013】
[6] 前記[1]に記載の水系分散体を基材の表面に塗布して塗布層を形成した後、更に前記塗布層の表面に、前記[3]に記載の水系分散体を塗布ないしスプレーすることにより水系防汚塗料を生成させ、前記基材の表面に防汚塗膜が形成された塗装体を得る、塗装体の製造方法。
【0014】
[7] 前記[1]に記載の水系分散体と、前記[3]に記載の水系分散体とから生成される水系防汚塗料によって形成された防汚塗膜を、その表面に備えた建築材料。
【発明の効果】
【0015】
本発明の水系防汚塗料は、塗装当初からより高い耐汚染性改善効果が発揮され、その耐汚染性改善効果を長期間持続させることが可能であり、かつ、長期の貯蔵安定性を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の水系防汚塗料を実施するための最良の形態について具体的に説明する。但し、本発明の水系防汚塗料は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0017】
本発明の水系防汚塗料は、ポリオルガノシロキサン、アクリル系ポリマー、及びノニオン系水溶性ポリマー等を含有する水系分散体(以下、「第1の水系分散体」と記す)と、有機錫化合物を含有する水系分散体(以下、「第2の水系分散体」と記す)とから構成される2液混合型の水系防汚塗料である。
【0018】
[1]第1の水系分散体(主剤)
第1の水系分散体は、ポリオルガノシロキサン、アクリル系ポリマー、及びノニオン系水溶性ポリマー等を含有する水系分散体である。以下、構成成分毎に説明する。
【0019】
A成分:ポリオルガノシロキサン
本発明におけるA成分は、下記一般式(1)で表されるオルガノシラン(A’成分。以下、単に「オルガノシラン」と記す)から選ばれる少なくとも1種の縮合物である。ここにいう「縮合物」とは、加水分解により生成されるオルガノシランのシラノール基が縮合してSi−O−Si結合を形成した成分を含有するものである。即ち、ここにいう「縮合物」は、そのシラノール基がすべて縮合している必要はなく、一部のシラノール基のみが縮合したもの、縮合の程度が異なっているものの混合物等をも包む概念である。また、「縮合物」中には、未反応のオルガノシランが混在していてもよい。
(R14-nSi(OR2n …(1)
(式中、R1は水素原子、又は1価の有機基を示し、R2はアルキル基又はアシル基を示し、nは3又は4である。)
【0020】
A成分中には、前記一般式(1)におけるOR2基の一部が加水分解されないで残存していることが好ましい。A成分中にOR2基が残存していると、そのOR2基が、塗膜表面において、雨水等により加水分解されてシラノール性水酸基を生成する。その結果、塗膜表面が親水化されるため、耐汚染性が飛躍的に改善される。この場合、A成分中に残存するOR2基とは、Si−O−Si結合を形成した縮合物中に残存するOR2基の他、オルガノシラン中の未だ加水分解されていないOR2基を含む概念である。
【0021】
A成分中に残存するOR2基の量は、縮合前のA’成分(オルガノシラン)が有するOR2基の理論モル数に対し、好ましくは50モル%以上、更に好ましくは60モル%以上である。また、第1の水系分散体中に残存するOR2基の量は、第1の水系分散体中のA成分とB成分との合計質量に対し、好ましくは1〜25ミリモル/g、更に好ましくは2〜20ミリモル/gである。第1の水系分散体中に残存するOR2基の量が1ミリモル/g未満では、塗膜の耐汚染性が改善され難い傾向がある。一方、25ミリモル/gを超えると、水系分散体の貯蔵安定性が低下する傾向がある。
【0022】
水系分散体中に残存するOR2基の量は、A成分中のOR2基の量や、A成分とB成分との量比により、調整することができる。なお、A成分中や第1の水系分散体中のOR2基の量は、適当な触媒による加水分解により発生するアルコール(R2−OH)の量を測定することにより算出することができる。
【0023】
一般式(1)において、R1の有機基としては、炭素数1〜8の有機基が好ましい。例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基等のアルキル基;アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、バレリル基、ベンゾイル基、トリオイル基、カプロイル基等のアシル基;ビニル基、アリル基、シクロヘキシル基、フェニル基、エポキシ基、グリシジル基、(メタ)アクリルオキシ基、ウレイド基、アミド基、フルオロアセトアミド基、イソシアナート基等の他、これらの基の置換誘導体等を挙げることができる。
【0024】
1の置換誘導体における置換基としては、例えば、ハロゲン原子、置換もしくは非置換のアミノ基、水酸基、メルカプト基、イソシアナート基、グリシドキシ基、3,4−エポキシシクロヘキシル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、ウレイド基、アンモニウム塩基等を挙げることができる。但し、これらの置換誘導体からなるR1の炭素数は、置換基中の炭素原子を含めて8以下であることが好ましい。
【0025】
また、R2のアルキル基としては、炭素数1〜5のアルキル基が好ましい。例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基等を挙げることができる。一方、R2のアシル基としては、炭素数1〜6のアシル基が好ましい。例えば、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、バレリル基等を挙げることができる。一般式(1)中に複数存在するR2は、相互に同一でも異なっていてもよい。一般式(1)におけるnは3又は4である必要がある。このnが2以下であると、塗膜の耐汚染性が改善され難い傾向がある。
【0026】
n=4のオルガノシラン(四置換オルガノシラン)の具体例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトラ−i−プロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシシラン等を挙げることができる。
【0027】
また、n=3のオルガノシラン(三置換オルガノシラン)の具体例としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、i−プロピルトリメトキシシラン、i−プロピルトリエトキシシラン、n−ブチルトリメトキシシラン、n−ブチルトリエトキシシラン、n−ペンチルトリメトキシシラン、n−ヘキシルトリメトキシシラン、n−ヘプチルトリメトキシシラン、n−オクチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリエトキシシラン、
【0028】
フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、2−ヒドロキシエチルトリメトキシシラン、2−ヒドロキシエチルトリエトキシシラン、2−ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、2−ヒドロキシプロピルトリエトキシシラン、3−ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、3−ヒドロキシプロピルトリエトキシシラン、
【0029】
3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−イソシアナートプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアナートプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アタクリルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン等を挙げることができる。
【0030】
A成分を製造する際には、オルガノシランを単独で又は2種以上を混合して使用することができる。前記のオルガノシランの中では、四置換オルガノシランを単独で用いることが好ましい。四置換オルガノシランを単独で用いると、塗膜表面のシラノール性水酸基が増加するため、塗膜表面が親水化され易くなり、耐汚染性改善効果が高いという利点がある。但し、四置換オルガノシランと三置換オルガノシランとを混合して使用することもできる。
【0031】
A成分を構成する全ての構成単位の合計モル数に対し、四置換オルガノシラン由来の構成単位は、通常、2〜100モル%、好ましくは5〜80モル%、更に好ましくは50〜80モル%であり、三置換オルガノシラン由来の構成単位は、通常、98〜0モル%、好ましくは95〜20モル%、更に好ましくは50〜20モル%である。n=4の構成単位が2モル%未満では、耐汚染性が低下する傾向がある。なお、オルガノシランの縮合物として、三置換オルガノシラン由来の構成単位のみから構成されたものを用いると、塗膜表面のシラノール性水酸基が減少することになる。その結果、塗膜表面が親水化され難くなり、耐汚染性が改善され難い傾向がある。
【0032】
A成分は、オルガノシランを予め加水分解した後、縮合させることにより製造することができる。この加水分解・縮合反応に際しては、オルガノシランに、適量の水、及び後述する加水分解・縮合触媒を添加し、更に必要に応じて有機溶剤を添加して、反応させることが好ましい。この場合、水の使用量は、オルガノシラン1モルに対して、通常、1.2〜3.0モル、好ましくは1.3〜2.0モル程度である。
【0033】
加水分解・縮合触媒としては、例えば、酸性化合物、アルカリ性化合物、塩化合物、アミン化合物、有機金属化合物等を挙げることができる。これらを触媒として添加することにより、耐汚染性をより早期に発現させることができる。酸性化合物としては、酢酸、ドデシルベンゼンスルホン酸等;アルカリ性化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等;塩化合物としては、ナフテン酸、オクチル酸、亜硝酸、亜硫酸、アルミン酸、炭酸等のアルカリ金属塩等;アミン化合物としては、アルキルアミン類(エチレンジアミン等)、四級アンモニウム塩類の他、アミノアルキルシラン類(3−アミノプロピルトリメトキシシラン等)等;有機金属化合物としては、有機ジルコニウム化合物(トリ−n−ブトキシエチルアセトアセテートジルコニウム等)、有機チタン化合物(ジ−i−プロポキシビス(アセチルアセトナート)チタニウム等)、有機アルミニウム化合物(ジ−i−プロポキシエチルアセトアセテートアルミニウム等)等;を好適に用いることができる。
【0034】
加水分解・縮合触媒の添加量は、A成分とB成分との合計質量100質量部に対して、通常、0.01〜5質量部、好ましくは0.1〜5質量部、更に好ましくは0.1〜3質量部である。添加量が5質量部を超えると、塗膜にクラックが発生し易くなる傾向がある。
【0035】
また、必要に応じて用いられる有機溶剤としては、オルガノシランの縮合物や後述するB成分(アクリル系ポリマー)と均一に相溶するものであれば特に限定されない。例えば、アルコール類、芳香族炭化水素類、エーテル類、ケトン類、エステル類等を挙げることができる。
【0036】
前記アルコール類の具体例としては、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、i−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール、n−ヘキシルアルコール、n−オクチルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレンモノメチルエーテルアセテート、ジアセトンアルコール等を挙げることができる。
【0037】
また、前記芳香族炭化水素類の具体例としては、ベンゼン、トルエン、キシレン等を、エーテル類の具体例としては、テトラヒドロフラン、ジオキサン等を、ケトン類の具体例としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン等を、エステル類の具体例としては、酢酸エチル、酢酸n−プロピル、酢酸ブチル、炭酸プロピレン等を挙げることができる。
【0038】
これらの有機溶剤は、単独で又は2種以上を混合して使用することができる。なお、オルガノシランの縮合物が有機溶剤を含む場合には、後述するラジカル重合の前に、有機溶剤を水性媒体から除去しておくことが好ましい。
【0039】
A成分の平均縮合度は、通常、6〜1000量体、好ましくは8〜500量体である。平均縮合度が6量体未満であると、重合安定性や貯蔵安定性が低下する傾向がある。一方、1000量体を超えると、塗膜の透明性が低下する傾向がある。この場合、A成分全体としての平均縮合度が前記範囲内にある限りは、A成分中に、加水分解・縮合されていないオルガノシランや、オルガノシランの2〜5量体、1000量体を超える縮合物が含まれていてもよい。なお、ここにいう平均縮合度は、液体クロマトグラフィーによって測定される重量平均分子量から算出された平均縮合度を意味するものとする。A成分の平均縮合度は、オルガノシランの加水分解・縮合の際に用いられる水の量により調整することができる。
【0040】
A成分は、前記のように合成したものの他、市販品を用いてもよい。ポリオルガノシロキサンの市販品としては、例えば、MKCシリケート(商品名:三菱化学社製)、エチルシリケート(商品名:多摩化学工業社製)、エチルシリケート(商品名:コルコート社製)、シリコーンレジン(商品名:東レ・ダウコーニング・シリコーン社製)、シリコーンレジン(商品名:GE東芝シリコーン社製)、シリコーンレジン(商品名:信越化学工業社製)、シリコーンオリゴマー(商品名:日本ユニカ社製)等が挙げられる。これらをそのまま用いてもよいし、更に縮合させて使用してもよい。
【0041】
また、オルガノシランの平均縮合度が6量体以上であるポリオルガノシロキサンの市販品としては、四置換オルガノシランの縮合物として、シリケート45、シリケート48(以上全て商品名:多摩化学工業社製);エチルシリケート48(商品名:コルコート社製)等を、三置換オルガノシランの縮合物として、SR2402、DC3037、DC3074(以上全て商品名:東レ・ダウコーニング・シリコーン社製);X40−9220、X40−9225(以上全て商品名:信越化学工業社製);TSR165(商品名:GE東芝シリコーン社製)等を挙げることができる。
【0042】
一方、オルガノシランの平均縮合度が6量体未満であるポリオルガノシロキサンの市販品としては、四置換オルガノシランの縮合物として、シリケート40、Mシリケート51(以上全て商品名:多摩化学工業社製);エチルシリケート40、メチルシリケート51(以上全て商品名:コルコート社製);MS51(商品名:三菱化学社製)等を挙げることができる。
【0043】
本発明において、A成分のポリオルガノシロキサンは、単独で又は2種以上を混合して使用することができる。第1の水系分散体におけるA成分の使用量は、A成分とB成分との合計質量に対し、2〜50質量%、好ましくは10〜30質量%、更に好ましくは15〜25質量%である。使用量が2質量%未満では、耐汚染性が改善され難い傾向がある。一方、50質量%を超えると、水系分散体の貯蔵安定性が低下する場合がある。
【0044】
B成分:アクリル系ポリマー
本発明におけるB成分は、B’成分(B成分を構成するモノマー)を重合させることにより得られるポリマーであり、B’成分のモノマー中にはアクリル系モノマーが含まれる。通常、B’成分のモノマーとしては、ラジカル重合性のモノマーが用いられ、そのモノマーをラジカル重合させることによって、B成分:アクリル系ポリマーを形成する。
【0045】
B’成分に含まれるアクリル系モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸アンモニウム、(メタ)アクリル酸ナトリウム、(メタ)アクリル酸カリウム等の(メタ)アクリル酸塩類;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、i−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、n−ペンチル(メタ)アクリレート、i−ペンチル(メタ)アクリレート、n−へキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルへキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル類;
【0046】
エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等の多官能性(メタ)アクリル酸エステル類;2,2,2−トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、1H,1H−ペンタデカフルオロ−n−オクチル(メタ)アクリレート等のフッ素含有(メタ)アクリルエステル類;グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル類、等を挙げることができる。
【0047】
これらのアクリル系モノマーの中でも、(メタ)アクリル酸エステル類、水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル類を使用することが好ましく、n−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、メチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート等を使用することが更に好ましい。前記アクリル系モノマーは、単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
【0048】
B’成分には、前記アクリル系モノマーの他、他のラジカル重合性モノマーを含ませてもよい。
【0049】
他のラジカル重合性モノマーとしては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、4−エチルスチレン、4−t−ブチルスチレン、2−ヒドロキシメチルスチレン、3−ヒドロキシメチルスチレン、4−ヒドロキシメチルスチレン、4−メトキシスチレン、4−エトキシスチレン、3,4−ジメチルスチレン、3,4−ジエチルスチレン、2−クロロスチレン、3−クロロスチレン、4−クロロスチレン、3−メチル−4−クロロスチレン、2,4−ジクロロスチレン、2,6−ジクロロスチレン、1−ビニルナフタレン等の芳香族ビニル単量体;ジビニルベンゼン等の多官能性(メタ)アクリル酸エステル類以外の多官能性モノマー;
【0050】
(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−n−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N,N’−メチレンビスアクリルアミド等の不飽和アミド化合物;(メタ)アクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物;ジカプロラクトン、等を挙げることができる。
【0051】
また、他のラジカル重合性モノマーとして、ジアルキルアミド基を有するモノマーや、ポリオキシエチレン鎖を有するモノマーを使用してもよい。ジアルキルアミド基を有するモノマーとしては、例えば、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジ−n−プロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジ−i−プロピル(メタ)アクリルアミド等のN,N−ジアルキル(メタ)アクリルアミド類を挙げることができる。中でも、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド等を使用することが好ましい。
【0052】
ポリオキシエチレン鎖を有するモノマーとしては、例えば、ポリオキシエチレン鎖を有する(メタ)アクリル酸エステル類が挙げられ、中でも、ポリオキシエチレン鎖のオキシエチレン単位数が2〜30であるモノマーを使用することが好ましい。このようなモノマーの市販品としては、ブレンマーPE−90、PE−200、PE−350、PME−100、PME−200、PME−400、AE−350(以上全て商品名:日本油脂社製);MA−30、MA−50、MA−100、MA−150、RA−1120、RA−2614、RMA−564、RMA−568、RMA−1114、MPG130−MA(以上全て商品名:日本乳化剤社製)等を挙げることができる。
【0053】
更に、他のラジカル重合性モノマーとして、ホルミル基及び/又はケト基を有するラジカル重合性モノマーを使用することもできる。ホルミル基及び/又はケト基を有するラジカル重合性モノマーとしては、例えば、ジアセトン(メタ)アクリルアミド;ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニル−n−プロピルケトン、ビニル−i−プロピルケトン、ビニル−n−ブチルケトン、ビニル−i−ブチルケトン、ビニル−t−ブチルケトン等のアルキル基の炭素数が4〜7のビニルアルキルケトンや、ビニルフェニルケトン、ビニルベンジルケトン、ジビニルケトン等のビニルケトン類;
【0054】
ジアセトン(メタ)アクリルリレート、アセトニトリル(メタ)アクリルリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリルリレート−アセチルアセテート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリルリレート−アセチルアセテート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリルリレート−アセチルアセテート、3−ヒドロキシブチル(メタ)アクリルリレート−アセチルアセテート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリルリレート−アセチルアセテート、ブタンジオール−1,4−(メタ)アクリルリレート−アセチルアセテート等のホルミル基及び/又はケト基を有する(メタ)アクリル酸エステル類等を挙げることができる。
【0055】
更にまた、他のラジカル重合性モノマーとして、紫外線吸収作用を有する成分、光安定化作用を有する成分、又はシランカップリング剤のうち、ラジカル重合性の化合物を使用することもできる。これらの成分の詳細については後述する。
【0056】
なお、B’成分に含ませるモノマーとして、単体では酸性を示すモノマーや、単体では塩基性を示すモノマーを使用する場合には、これらのモノマーを中和した後に使用することが好ましい。
【0057】
「単体では酸性を示すモノマー」としては、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の不飽和カルボン酸類;無水マレイン酸、無水イタコン酸等の不飽和カルボン酸無水物類等を挙げることができる。これらのモノマーは、アンモニア、非ラジカル重合性アミノ化合物、水酸化ナトリウム等の金属水酸化物類のようなアルカリ性物質の他、後述する「単体では塩基性を示すモノマー」等により、中和して使用することが好ましい。
【0058】
「単体では塩基性を示すモノマー」としては、例えば、2−アミノエチル(メタ)アクリレート、2−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2−アミノプロピル(メタ)アクリレート、3−アミノプロピル(メタ)アクリレート、2−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、3−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート等のアミノアルキル基含有(メタ)アクリル酸エステル類;2−アミノエチルビニルエーテル等のアミノ基含有ビニル系モノマー;1,1,1−トリメチルアミン(メタ)アクリルイミド、1−メチル−1−エチルアミン(メタ)アクリルイミド、1,1−ジメチル−1−(2−ヒドロキシプロピル)アミン(メタ)アクリルイミド、1,1−ジメチル−1−(2−フェニル−2−ヒドロキシエチル)アミン(メタ)アクリルイミド、1,1−ジメチル−1−(2−ヒドロキシ−2−フェノキシプロピル)アミン(メタ)アクリルイミド等のアミンイミド基含有ビニル系モノマー等を挙げることができる。これらのモノマーは、塩酸、硫酸等の無機酸類、酢酸等の有機酸類、上述した「単体では酸性を示すモノマー」等により、中和して使用することが好ましい。
【0059】
B’成分中におけるアクリル系モノマーの含有率は、B’成分中の全ての構成モノマーの合計質量に対し、通常、30〜100質量%、好ましくは40〜98質量%、更に好ましくは50〜95質量%である。アクリル系モノマーの含有率が30質量%未満の場合、塗膜の耐候性が低下する傾向がある。
【0060】
B成分のガラス転移点は、−20℃〜+80℃であることが必要であり、0〜60℃であることが好ましく、10〜40℃であることが更に好ましい。ガラス転移点が−20℃より低いと耐汚染性が改善され難い傾向がある。一方、80℃を超えると、塗膜にクラックを生じ易くなる傾向がある。ここで、「ガラス転移点」とは、B成分を構成するモノマーX,Y,Z…等について、下記式(4)に示すフォックスの式を用いて算出したガラス転移点(理論値)を意味するものとする。B成分のガラス転移点は、構成モノマーの種類、組み合わせ、或いは比率を適宜変更することにより調整することができる。また、B成分のポリスチレン換算重量平均分子量は、通常、1万〜500万、好ましくは10万〜100万である。
1/TgB=(a/TgX)+(b/TgY)+(c/TgZ)+… (4)
(但し、TgB:B成分のガラス転移点(K)、TgX:Xのホモポリマーのガラス転移点(K)、TgY:Yのホモポリマーのガラス転移点(K)、TgZ:Zのホモポリマーのガラス転移点(K)、a:Xの質量分率、b:Yの質量分率、c:Zの質量分率)
【0061】
本発明において、B成分のアクリル系ポリマーは、単独で又は2種以上を混合して使用することができる。第1の水系分散体におけるB成分の使用量は、A成分及びB成分の合計質量に対し、50〜98質量%、好ましくは60〜90質量%、更に好ましくは65〜85質量%である。B成分の使用量が50質量%未満では、ラジカル重合時の反応安定性や、水系分散体の貯蔵安定性が低下する場合がある。一方、98質量%を超えると、耐汚染性が改善され難い傾向がある。
【0062】
C成分:ノニオン系水溶性ポリマー及び/又はアニオン基含有水溶性ポリマー
本発明におけるC成分は、塗膜表面を親水化させ、塗膜表面と水との接触角を小さくすることによって、耐汚染性を改善させるための成分である。
【0063】
ノニオン系水溶性ポリマーとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリグリセリン、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール(モノ,ジ)アルキルエーテル等のポリグリコールないしその誘導体;ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース等の水溶性セルロース誘導体;ポリビニルアルコール、等を挙げることができる。また、アニオン基含有水溶性ポリマーとしては、例えば、水溶性ポリアクリレート、水溶性ポリウレタン、水溶性ポリアクリルアミド、等を挙げることができる。
【0064】
本発明において、C成分のノニオン系水溶性ポリマー及び/又はアニオン基含有水溶性ポリマーは、単独で又は2種以上を混合して使用することができる。第1の水系分散体におけるC成分の使用量は、A成分とB成分の合計質量100質量部に対し、0.1〜20質量部、好ましくは1〜10質量部、更に好ましくは2〜8質量部である。C成分の使用量が0.1質量部未満では、塗膜表面を親水化させる効果に乏しく、耐汚染性改善効果が不十分となるおそれがある。一方、20質量%を超えると、塗膜表面が親水化され過ぎて塗膜の耐水性が低下し、耐汚染性改善効果を長期間持続させることが困難となる場合がある。
【0065】
第1の水系分散体は、水性媒体中において、A成分:ポリオルガノシロキサン、B’成分:B成分(アクリル系ポリマー)を構成するモノマーの一部、及び乳化剤を混合してエマルジョン化した後、そのエマルジョンの平均粒子径を0.5μm以下に微細化し、次いで、ラジカル重合開始剤の存在下、pH4〜9で、B’成分の一部をラジカル重合することにより得られる反応液に対して、更にB’成分の残部を追加してラジカル重合することにより前記B成分を形成した後、C成分を添加し、混合することにより得られるものである。
【0066】
このような方法により第1の水系分散体を調製すると、比較的高濃度のA成分が、B成分と相溶して複合化した粒子として得られる。従って、第1の水系分散体の貯蔵時にA成分中のOR2基が加水分解されることが抑制され、貯蔵安定性を向上させることが可能である。また、形成される塗膜の透明性や表面光沢が良好となり、かつ耐汚染性を長期に渡り持続させることができる。更には、重合安定性が良好であることから、塗膜の耐温水性にも優れるという利点を有する。
【0067】
また、この方法で採用しているエマルジョンの微細化後のB’成分のラジカル重合は、1種のミニエマルジョン重合といえるものであり、従来公知の方法では得られない以下のような利点を有する。
【0068】
(i) B’成分のラジカル重合中には、A成分の加水分解・縮合反応が進行しないため、重合の阻害因子となる低分子量アルコキシシランの加水分解物、或いは加水分解反応の副生成物であるアルコールが発生することが少ない。このことにより、エマルジョン中のモノマー油滴を分散状態が安定しており、比較的多量のA成分を含んでいても、ラジカル重合が安定的に進行する。
【0069】
(ii) エマルジョン粒子中、A成分の存在下において、B’成分のラジカル重合が進行するため、A成分がB成分中に極めて微分散した構造が形成される。この結果、シロキサン成分として相溶性に劣るメチル系ポリオルガノシロキサンを使用しても、透明性に優れた塗膜を形成することができる。
【0070】
(iii) エマルジョン粒子中では、ポリマー同士が無溶剤状態で共存するため、シロキサン成分中のOR2基の自由度が制限を受け、その反応活性が低下する。その結果、反応性に富むOR2基の加水分解が抑制され、貯蔵安定性が向上する。
【0071】
(iv) A成分中に特定構造のOR2基を一定量以上含有するため、エマルジョン粒子中でOR2基が良好な状態で拘束される一方、その高い反応活性が温存される。このことにより、塗膜形成後にはその表面から加水分解が進行するため、親水性の発現が早く、かつ長期に渡り親水性が保持される。従って、極めて優れた耐汚染性改善効果を発現させることができる。
【0072】
ところで、ポリマーエマルジョンを製造する場合、多くは乳化重合で製造される。一般的な乳化重合は、粒径が数μm〜数mmの大きなモノマー油滴から、モノマー分子が水性媒体中を通じて、粒径が数nmの乳化剤ミセルへ移動しつつ重合が進行し、最終的に数百nmの粒径のポリマー粒子が生成する。これに対して、上記のようなミニエマルジョン重合は、予めモノマー油滴を所望の粒径に微細乳化しておき、その粒径のまま重合を進行・完了させる方法である。即ち、水性媒体中でのモノマー分子の移動が必要ないことから、特に疎水性モノマーを重合させる場合に用いられる重合法である。第1の水系分散体は、ミニエマルジョン重合によって調製することにより、多くのA成分を含む水系分散体を重合安定性よく調製することが可能である。
【0073】
また、B’成分を2段階で添加するラジカル重合は、1種のコア/シェル重合といえるものである。この方法によると、A成分及びB成分(最初に添加したB’成分に由来する)から形成されるコア粒子と、B成分(追加されたB’成分に由来する)から形成された、コア粒子を被覆するシェル部とから構成される2層構造のポリマー粒子(コア−シェル粒子)が得られる。このようなコア−シェル粒子は、コア粒子のA成分がB成分から形成されたシェル部によって保護されるため、水の存在下におけるA成分の加水分解がより効果的に抑制され、水系分散体の貯蔵安定性が更に改善される。
【0074】
この際、最初に添加するB’成分と、追加されるB’成分の質量比としては、2:98〜70:30であることが好ましく、5:95〜50:50であることが更に好ましい。質量比が、2:98未満では、塗膜の耐汚染性が改善され難い傾向がある。一方、70:30を超えると、水系分散体の貯蔵安定性が低下する傾向がある。
【0075】
なお、この方法における水性媒体とは水を主体とする媒体を意味する。水の使用量は、A成分及びB’成分の合計質量100質量部に対して、通常、50〜2000質量部、好ましくは80〜1000質量部、更に好ましくは100〜500質量部である。水の使用量が50質量部未満では、エマルジョン化が困難となったり、エマルジョンの分散安定性が低下する傾向がある。一方、2000質量部を超えると、生産性が低下するおそれがある。
【0076】
ラジカル重合における乳化剤としては、例えば、アルキル硫酸エステル塩、アルキルアリール硫酸エステル塩、アルキルリン酸エステル塩、脂肪酸塩等のアニオン系界面活性剤;アルキルアミン塩、アルキル四級アミン塩等のカチオン系界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ブロック型ポリエーテル等のノニオン系界面活性剤;カルボン酸型(例えば、アミノ酸型、ベタイン酸型等)、スルホン酸型等の両性界面活性剤の他、以下全て商品名で、ラテムルS−180A(花王社製);エレミノールJS−2(三洋化成社製);アクアロンKH−10(第一工業製薬社製);アデカリアソープSE−10N、SR−10N(以上、旭電化工業社製);Antox MS−60(日本乳化剤社製);サーフマーFP−120(東邦化学工業社製)等の反応性乳化剤等を使用することができる。中でも、反応性乳化剤が、耐候性や耐水性に優れた塗膜が得られる点で好ましい。
【0077】
乳化剤は、単独で又は2種以上を混合して使用することができる。乳化剤の使用量は、B’成分のラジカル重合時のA成分とB’成分との合計質量100質量部に対して、通常、0.1〜5質量部、好ましくは0.2〜4質量部、更に好ましくは0.5〜3質量部である。使用量が0.1質量部未満では、均一なエマルジョン化が困難となったり、ラジカル重合時の反応安定性が低下する傾向がある。一方、5質量部を超えると、泡立ちが問題となり作業性が低下する傾向がある。
【0078】
ラジカル重合に使用されるラジカル重合開始剤としては、例えば、過酸化水素、t−ブチルハイドロパーオキサイド、2,2′−アゾビス〔2−N−ベンジルアミジノ〕プロパン塩酸塩等の水溶性開始剤;ベンゾイルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、クミルパーオキシネオデカノエート、クミルパーオキシオクトエート、アゾビスイソブチロニトリル等の油溶性開始剤;パーオキサイド系開始剤と、ロンガリット、アスコルビン酸ナトリウム等の還元剤とを併用したレドックス系開始剤等を挙げることができる。中でも、重合安定性の面から、油溶性開始剤が好ましい。一方、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩や、t−ブチルパーオキシマレイン酸、コハク酸パーオキサイド等の、pHを酸性にするものは使用しないことが好ましい。
【0079】
これらのラジカル重合開始剤は、単独で又は2種以上を混合して使用することができる。ラジカル重合開始剤の使用量は、A成分とB成分の合計質量100質量部に対して、通常、0.01〜8質量部、好ましくは0.05〜6質量部、更に好ましくは0.1〜5質量部である。使用量が0.01質量部未満では、ラジカル重合反応が途中で失活するおそれがある。一方、5質量部を超えると、耐候性が低下するおそれがある。
【0080】
第1の水系分散体には、紫外線吸収作用及び/又は光安定化作用を有する成分(以下、「紫外線吸収・光安定化成分」という。)を配合することが好ましい。紫外線吸収・光安定化成分とは、B成分とは本質的に分離して存在するものと、B’成分中の他のモノマーとして使用された化合物に由来し、B成分の構成単位となっているものとの両者を包含する概念である。
【0081】
紫外線吸収・光安定化成分としては、例えば、シュウ酸アニリド系、サリチル酸系、ベンゾフェノン系、トリアジン系、ベンゾトリアゾール系、シアノアクリレート系等の有機系紫外線吸収剤;酸化チタン、酸化亜鉛、酸化セリウム等の無機系紫外線吸収剤;有機ニッケル化合物、ヒンダードアミン系等の光安定化剤等、従来より塗料、合成ゴム、合成樹脂、合成繊維用として使用し得る紫外線吸収作用及び/又は光安定化作用を有するものならいずれでもよい。
【0082】
これらの紫外線吸収・光安定化成分のうち、トリアジン系、ベンゾトリアゾール系又はシアノアクリレート系の有機紫外線吸収剤;酸化亜鉛の微粒子又は酸化セリウムの微粒子からなる無機紫外線吸収剤;及びヒンダードアミン系光安定化剤の群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。前記酸化亜鉛の微粒子及び酸化セリウムの微粒子の平均粒子径は、通常、0.003〜0.5μm、好ましくは0.005〜0.2μmである。
【0083】
前記紫外線吸収・光安定化成分は、単独で又は2種以上を混合して使用することができる。紫外線吸収・光安定化成分の配合量は、水系分散体の固形分総量100質量部に対して、通常、0.1質量部〜10質量部、好ましくは0.2質量部〜5質量部である。
【0084】
第1の水系分散体には、B’成分とラジカル共重合可能な重合性不飽和基、及びA成分と共縮合可能なアルコキシシリル基等のシロキサン結合を形成し得る基の双方を有するシランカップリング剤を配合することができる。本発明の水系分散体にシランカップリング剤を配合することにより、水系分散体中の有機成分と無機成分とのハイブリッド性が向上するため、耐クラック性、透明性や耐候性を更に向上させることができる。
【0085】
シランカップリング剤としては、例えば、ビニル基含有シランカップリング剤や(メタ)アクリロイルオキシ基含有シランカップリング剤、等を挙げることができる。これらのシランカップリング剤は、単独で又は2種以上を混合して使用することができる。シランカップリング剤の配合量は、A成分とB’成分(又はB成分)の合計質量100質量部に対して、通常、20質量部以下、好ましくは10質量部以下である。
【0086】
なお、シランカップリング剤は、A成分とB’成分とのエマルジョン化前に添加してもよいし、ラジカル重合時に添加してもよいし、水系分散体の調製後に添加してもよい。エマルジョン化前に添加する場合には、A成分やB’成分に予め添加しておいてもよいし、A成分とB’成分とを混合した混合液に添加してもよい。これらの中では、エマルジョン化前において、A成分とB’成分とを混合した混合液に添加することが好ましい。
【0087】
第1の水系分散体の調製に際し、各成分を混合してエマルジョン化するに当たっては、各成分の混合物が液状である温度及び圧力下に、目視上で均一な混合状態となるよう撹拌すればよい。また、エマルジョンの微細化に際しては、高圧ホモジナイザー、ホモミキサー、超音波等の機械的ないし物理的手段を用いて処理することにより、エマルジョンの平均粒子径を、0.5μm以下、好ましくは0.05〜0.2μmにする。エマルジョンの平均粒子径が0.5μmを超えると、耐水性が不十分となるおそれがある。
【0088】
ラジカル重合における反応温度は、通常、25〜100℃、好ましくは40〜90℃である。反応時間は、通常、0.5〜15時間、好ましくは1〜8時間である。また、ラジカル重合時のpH及びラジカル重合後のpHは、4〜9、好ましくは5〜8である。ラジカル重合時のpHが4より低くても9より高くても、ラジカル重合時の反応安定性や水系分散体の貯蔵安定性が低下するおそれがある。また、ラジカル重合後のpHが4より低くても9より高くても、水系分散体の貯蔵安定性が低下する場合がある。更には、ラジカル重合時に、好ましくはラジカル重合後においても、pHを4〜9、好ましくは5〜8に調整することにより、A成分中のOR2基が加水分解されることなく残存する。そして、塗膜形成後にはOR2基が塗膜表面に移行し、雨水等により加水分解される結果、塗膜表面が親水性化される。これにより、耐汚染性を飛躍的に改善させることができる。
【0089】
第1の水系分散体の調製に用いられるA成分やB’成分がカルボキシル基やカルボン酸無水物基等の酸性基を有する場合には、ラジカル重合後に、少なくとも1種の塩基性化合物を添加して、pHを前記範囲内に調整することが好ましい。また、前記各成分が、アミノ基やアミンイミド基等の塩基性基を有する場合には、ラジカル重合後に、少なくとも1種の酸性化合物を添加して、pHを前記範囲内に調整することが好ましい。更に、前記各成分が酸性基と塩基性基の両者を有する場合には、ラジカル重合後に、これらの基の割合に応じて、少なくとも1種の塩基性化合物或いは酸性化合物を添加して、pHを前記範囲内に調整することが好ましい。いずれの場合も、得られるポリマー粒子の親水性を高めて、分散性を向上させることができるとともに、貯蔵時のA成分の加水分解を防止することができる。
【0090】
前記塩基性化合物としては、例えば、アンモニア、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール等のアミン類;水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属水酸化物等を挙げることができる。これらの塩基性化合物は、単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
【0091】
また、前記酸性化合物としては、例えば、塩酸、リン酸、硫酸、硝酸等の無機酸類;ギ酸、酢酸、プロピオン酸、乳酸、シュウ酸、クエン酸、アジピン酸、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の有機酸類を挙げることができる。これらの酸性化合物は、単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
【0092】
第1の水系分散体の分散状態は、通常、粒子状ないしはゾル状である。水系分散体中におけるポリマー粒子の平均粒子径は、通常、0.01〜0.5μm、好ましくは0.05〜0.2μmである。また、本発明の水系分散体の固形分濃度は、その水系分散体の全質量に対して、通常、10〜60質量%、好ましくは20〜50質量%である。この固形分濃度は、通常、水性媒体となる水の量によって調整することができる。
【0093】
第1の水系分散体における水性媒体は、本質的に水からなるが、A成分中のOR2基が加水分解されると、アルコール(R2−OH)を含有するようになる。水性媒体中のアルコール含有量が高くなり過ぎると、ラジカル重合時の反応安定性が低下したり、耐汚染性が十分に改善されないおそれがある。従って、本発明においては、ラジカル重合中及びラジカル重合後の水性媒体中のアルコール含有量は、その水系分散体の全質量に対して、2質量%以下とすることが好ましい。アルコール含有量が2質量%を超えると、塗膜表面に曇りを発生するおそれがある。
【0094】
水性媒体中のアルコール含有量が多過ぎる場合には、例えば、ラジカル重合後、必要に応じてpH調整した後、水の追加、アルコールの分離除去等の処理を行う。水性媒体中のアルコールを分離除去する方法としては、例えば、蒸発缶による方法、遠心薄膜式蒸発装置(例えば、商品名:エバポール、大川原製作所製)による方法、外部循環式装置(例えば、商品名:バブレス、日曹エンジニアリング社製)による方法、流下薄膜式装置による方法、撹拌薄膜式装置による方法(例えば、商品名:ワイプレン、神鋼パンテック社製)等を挙げることができる。
【0095】
これらの方法の中では、蒸発缶による方法は付加的な装置を必要としない点において好ましく、遠心薄膜式蒸発装置による方法や外部循環式装置による方法は工業的な生産効率の点において好ましい。なお、水系分散体の貯蔵安定性を損なわない範囲内で、アルコールの分離除去と同時に、水を揮発ないし蒸発させることにより、水系分散体の固形分濃度を高くすることもできる。なお、アルコール含有量が望ましい範囲内である場合でも、水の追加、水の揮発ないし蒸発等により、水系分散体の固形分濃度を調整してもよい。
【0096】
[2]第2の水系分散体(硬化剤)
第2の水系分散体は、有機錫化合物、及び乳化剤を含有する水系分散体である。以下、構成成分毎に説明する。
【0097】
D成分:有機錫化合物
本発明におけるD成分は、下記一般式(2)又は(3)で表され、分子量が640以上、好ましくは700以上の化合物からなる。
(R3)(R4)Sn(R5)(R6) …(2)
(R7)Sn(R8)(R9)(R10) …(3)
(式中、R3、R4、及びR7は各々がアルキル基を示し、R5、R6、R8、R9及びR10は各々がエステル基を有する1価の有機基を示す。)
【0098】
D成分の分子量が640未満では、D成分自体の貯蔵安定性が劣る場合があり、水系分散体の貯蔵安定性についても低下するおそれがある。なお、D成分の分子量の上限は、入手容易性や取扱性等の観点から、通常、5000程度、好ましくは2000程度である。また、R3、R4、及びR7のアルキル基は炭素数4〜18のアルキル基であることが好ましく、R5、R6、R8、R9及びR10の有機基が有するエステル基は炭素数4〜24のエステル基であることが好ましい。
【0099】
一般式(2)で表される有機錫化合物の具体例としては、(C492Sn(OCOCH=CHCOOC8172、(C492Sn(OCOCH=CHCOOC12252、(C8172Sn(OCOC8172、(C8172Sn(OCOC11232、(C8172Sn(OCOCH=CHCOOC492、(C8172Sn(OCOCH=CHCOOC8172、(C8172Sn(OCOCH=CHCOOC13272、(C8172Sn(OCOCH=CHCOOC16332、(C8172Sn(OCOCH=CHCOOC17352、(C8172Sn(OCOCH=CHCOOC18372、(C8172Sn(OCOCH=CHCOOC20412等のカルボン酸型有機錫化合物;
【0100】
(C492Sn(SCH2COOC8172、(C492Sn(SCH2CH2COOC8172、(C8172Sn(SCH2COOC8172、(C8172Sn(SCH2CH2COOC8172、(C8172Sn(SCH2COOC12252、(C8172Sn(SCH2CH2COOC12252、(C492Sn(SCOC8172、(C492Sn(SCOC11232、(C492Sn(SCOCH=CHCOOC8172、(C492Sn(SCOCH=CHCOOC12252、(C8172Sn(SCOC8172、(C8172Sn(SCOC11232、(C8172Sn(SCOCH=CHCOOC492、(C8172Sn(SCOCH=CHCOOC8172、(C8172Sn(SCOCH=CHCOOC13272、(C8172Sn(SCOCH=CHCOOC16332、(C8172Sn(SCOCH=CHCOOC17352、(C8172Sn(SCOCH=CHCOOC18372、(C8172Sn(SCOCH=CHCOOC20412等のメルカプチド型有機錫化合物等を挙げることができる。
【0101】
また、一般式(3)で表される有機錫化合物の具体例としては、(C49)Sn(OCOC8173、(C49)Sn(OCOC11233、(C49)Sn(OCOCH=CHCOOC8173、(C49)Sn(OCOCH=CHCOOC12253、(C817)Sn(OCOC8173、(C817)Sn(OCOC11233、(C817)Sn(OCOCH=CHCOOC493、(C817)Sn(OCOCH=CHCOOC8173、(C817)Sn(OCOCH=CHCOOC13273、(C817)Sn(OCOCH=CHCOOC16333、(C817)Sn(OCOCH=CHCOOC17353、(C817)Sn(OCOCH=CHCOOC18373、(C817)Sn(OCOCH=CHCOOC20413等のカルボン酸型有機錫化合物;
【0102】
(C49)Sn(SCH2COOC8173、(C49)Sn(SCH2CH2COOC8173、(C817)Sn(SCH2COOC8173、(C817)Sn(SCH2CH2COOC8173、(C817)Sn(SCH2COOC12253、(C817)Sn(SCH2CH2COOC12253
【0103】
(C49)Sn(SCOC8173、(C49)Sn(SCOC11233、(C49)Sn(SCOCH=CHCOOC8173、(C49)Sn(SCOCH=CHCOOC12253、(C817)Sn(SCOC8173、(C817)Sn(SCOC11233、(C817)Sn(SCOCH=CHCOOC493、(C817)Sn(SCOCH=CHCOOC8173、(C817)Sn(SCOCH=CHCOOC13273、(C817)Sn(SCOCH=CHCOOC16333、(C817)Sn(SCOCH=CHCOOC17353、(C817)Sn(SCOCH=CHCOOC18373、(C817)Sn(SCOCH=CHCOOC20413等のメルカプチド型有機錫化合物等を挙げることができる。
【0104】
これらの有機錫化合物の中でも、(C8172Sn(OCOCH=CHCOOC8172、(C8172Sn(OCOCH=CHCOOC13272、(C8172Sn(OCOCH=CHCOOC16332、(C8172Sn(OCOCH=CHCOOC17352、(C8172Sn(OCOCH=CHCOOC18372等が特に好ましい。第2の水系分散体においては、D成分は、単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
【0105】
第2の水系分散体における乳化剤としては、既述の第1の水系分散体を調製する際に用いた乳化剤と同様のものを用いることができる。中でも、ドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ等のアニオン系界面活性剤や、ポリオキシエチレンラウリルエーテル(例えば、商品名:エマルゲン147、花王社製)等のノニオン系界面活性剤を好適に用いることができる。
【0106】
乳化剤は、単独で又は2種以上を混合して使用することができる。乳化剤の使用量は、D成分100質量部に対して、通常、1〜100質量部、好ましくは5〜80質量部、更に好ましくは10〜70質量部である。使用量が1質量部未満では、水系分散体の貯蔵安定性が低下するおそれがある。一方、100質量部を超えると、塗膜の耐水性が低下する場合がある。
【0107】
第2の水系分散体は、例えば、以下のような方法で調製することができる。まず、D成分と水とを撹拌・混合する。次いで、その混合液に対して乳化剤を添加し、撹拌・混合した後(予備分散)、超音波ホモジナイザー(例えば、商品名:ウルトラソニックジェネレーターET−30S−7、島田理化工業社製)を用いて更に分散を行うことにより、第2の水系分散体を得る。
【0108】
水の使用量は、D成分100質量部に対して、通常、100〜2000質量部、好ましくは500〜1500質量部、更に好ましくは700〜1200質量部である。使用量が10質量部未満では、水系分散体の乳化安定性が不十分になるおそれがある。一方、200質量部を超えると、水系分散体の貯蔵安定性が低下する場合がある。また、超音波ホモジナイザーによる分散の粒子径としては、通常、粒子径0.05〜10μm、好ましくは0.1〜1μmである。
【0109】
以上説明した第1の水系分散体、又は第2の水系分散体(以下、「本発明の水系分散体」)には、塗膜において要求される特性に応じて、充填材として、粉末状、ゾルないしコロイド状の無機化合物を添加することができる。これらの平均粒子径は、粉末状の場合には、通常、0.01〜1000μm程度であり、ゾルないしコロイド状の場合には、通常、0.001〜100μm程度である。
【0110】
充填材として利用可能な無機化合物としては、TiO3、SrTiO3、FeTiO3等の光触媒能を有する半導体の他、SiO2、Al23、AlGa等を挙げることができる。これらの無機化合物は、単独で又は2種以上を混合して使用することができる。無機化合物の添加量は、A成分とB成分との合計質量100質量部に対して、固形分で、通常、500質量部以下、好ましくは400質量部以下である。これらの無機化合物は、水系分散体の調製時に添加してもよいし、水系分散体の調製後に添加してもよい。
【0111】
また、本発明の水系分散体には、得られる塗膜の着色、厚膜化等のために、別途、上記の無機化合物以外の充填材を添加することができる。充填材としては、例えば、非水溶性の有機顔料や無機顔料;顔料以外の粒子状、繊維状もしくは鱗片状のセラミックス;金属、合金、金属酸化物、金属水酸化物、金属炭化物、金属窒化物や金属硫化物等を挙げることができる。これらの充填材は、単独で又は2種以上を混合して使用することができる。充填材の添加量は、A成分とB成分の合計質量100質量部に対して、通常、300質量部以下である。
【0112】
更に、本発明の水系分散体には、塗膜の形成を促進させるために造膜助剤を添加することができる。このような造膜助剤としては、例えば、n−ヘキシルアルコール等の沸点100℃以上のアルコール類;メチルセロソルブ等のセロソルブ類;メチルカルビトール等のカルビトール類;メチルセロソルブアセテート等のセロソルブアセテート類;ブチルカルビトールアセテート等のカルビトールアセテート類;トリ−n−ブトキシメチルホスフェート等のホスフェート類等を挙げることができる。
【0113】
これらの造膜助剤は、単独で又は2種以上を混合して使用することができる。造膜助剤の添加量は、2つの水系分散体の合計質量100質量部に対して、通常、20質量%以下、好ましくは10質量%以下、更に好ましくは5質量%以下である。造膜助剤は、水系分散体を調製する際に添加してもよいし、塗膜を形成する段階で添加してもよいし、水系分散体を調製する際と塗膜を形成する際の双方で添加してもよい。
【0114】
更にまた、本発明の水系分散体には、コーティング性をより向上させるためにレベリング剤を添加することができる。レベリング剤を添加することにより、塗膜の仕上がり外観が更に改善され、薄膜として均一に塗布することができる。
【0115】
このようなレベリング剤としては、フッ素系のレベリング剤(例えば、商品名:BM1000、ビーエムヘミー(BM−CHEMIE)社製)、シリコーン系のレベリング剤(例えば、商品名:BYKシリーズ、ビックケミー社製)、エーテル系又はエステル系のレベリング剤(例えば、商品名:カーフィノール、日信化学工業社製)等を挙げることができる。
【0116】
これらのレベリング剤は、単独で又は2種以上を混合して使用することができる。レベリング剤の添加量は、水系分散体の固形分総量100質量部に対して、通常、5質量部以下、好ましくは3質量部以下である。レベリング剤は、水系分散体を調製する際に添加してもよいし、塗膜を形成する段階で添加してもよいし、水系分散体を調製する際と塗膜を形成する際の双方で添加してもよい。
【0117】
また、本発明の水系分散体には、所望により、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等の分散剤;メチルセルロース等のセルロース類;ひまし油誘導体等の増粘剤;炭酸アンモニウム等の無機発泡剤;アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物等の有機発泡剤の他、チタンカップリング剤、染料等の他の添加剤を添加することもできる。
【0118】
本発明の水系分散体の全固形分濃度は、通常、10〜55質量%、好ましくは15〜50質量%であり、使用目的に応じて適宜調整される。なお、全固形分濃度が55質量%を超えると、レベリング性が低下する傾向がある。
【0119】
本発明の水系防汚塗料は、以上説明した第1の水系分散体と、第2の水系分散体と、から構成される2液混合型の水系防汚塗料である。即ち、第1の水系分散体と、第2の水系分散体とを混合させると、第2の水系分散体中のD成分:有機錫化合物によって、第1の水系分散体中のA成分:オルガノシロキサンの、相互に架橋する反応、エステル部分の加水分解反応、或いはC成分:ノニオン系水溶性ポリマー等との縮合反応が促進され、防汚塗料としての性能が発揮される。但し、第2の水系分散体中のD成分の反応性によっては、貯蔵安定性が比較的高い場合もあり、予め、第1の水系分散体と、第2の水系分散体とが混合された、1液型の水系防汚塗料として用いることもできる。
【0120】
本発明の水系防汚塗料においては、D成分が、A成分とB成分の合計質量100質量部に対して0.01〜10質量部、好ましくは0.1〜5質量部、更に好ましくは0.5〜3質量部となるように、第1の水系分散体と第2の水系分散体とを混合する。D成分の使用量が0.01質量部未満では、耐汚染性が十分に改善されないおそれがある。一方、10質量部を超えると、水系分散体の貯蔵安定性が低下する場合がある。
【0121】
本発明の水系防汚塗料は、それ単独で又は他の樹脂ないしは樹脂エマルジョンと混合した状態で使用することができ、上塗り用にも下塗り用にも使用することができる。
【0122】
本発明の水系防汚塗料の実施態様としては、例えば、第1の水系分散体と、第2の水系分散体とを混合して水系防汚塗料を生成させ、その水系防汚塗料を基材の表面に塗布することにより、基材の表面に防汚塗膜が形成された塗装体を得る態様の他、第1の水系分散体を基材の表面に塗布して塗布層を形成した後、更にその塗布層の表面に、第2の水系分散体を塗布ないしスプレーすることにより水系防汚塗料を生成させ、基材の表面に防汚塗膜が形成された塗装体を得る態様等が挙げられる。
【0123】
そして本発明の水系防汚塗料の特に好ましい適用対象としては、優れた耐汚染性が要求される建築材料、特に外壁用建築材料等が挙げられる。このような用途においては、第1の水系分散体と、第2の水系分散体とから生成される水系防汚塗料によって形成された防汚塗膜を、その表面に備えた建築材料を好適に用いることができる。
【0124】
本発明の水系防汚塗料を適用し得る基材としては、例えば、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン類、ポリ(メタ)アクリレート樹脂、フッ素系樹脂、AN樹脂、ABS樹脂、MBS樹脂、AES樹脂、ポリ塩化ビフェニル、ポリビニルアルコール、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリイミド等のプラスチック基材の他、木材、紙等の有機系基材;鉄、アルミニウム、ステンレス等の金属基材;セメント、コンクリート、ALC、フレキシブルボード、モルタル、スレート、石膏、セラミックス、レンガ等の無機窯業系基材等を挙げることができる。
【0125】
これらの基材には、下地調整、密着性向上、多孔質基材の目止め、平滑化、模様付け等を目的として、例えば、ブラスト処理、薬品処理、脱脂、火炎処理、酸化処理、蒸気処理、コロナ放電処理、紫外線照射処理、プラズマ処理、イオン処理等の下地処理を施しておいてもよい。
【0126】
本発明の水系防汚塗料による基材の塗装には、刷毛、ロールコーター、フローコーター、遠心コーター、超音波コーター、(マイクロ)グラビアコーター等の塗装手段や、ディップコート、流し塗り、スプレーコート、スクリーンプロセス、電着塗装等の塗装方法を採用することができる。
【0127】
本発明の水系防汚塗料による塗装厚さは、乾燥膜厚として、通常、0.05〜200μm程度である。その後、常温で乾燥するか、或いは30〜200℃程度の温度で、通常、1〜60分程度加熱して乾燥することにより、塗膜を形成することができる。
【0128】
また、本発明の水系防汚塗料或いは他の塗料を用いて下塗りを施す場合の塗装厚さは、乾燥膜厚として、1回塗りで0.05〜20μm程度、2回塗りでは0.1〜40μm程度である。その後、常温で乾燥するか、或いは30〜200℃程度の温度で、通常、1〜60分程度加熱して乾燥することにより、下塗り層を形成することができる。本発明の水系防汚塗料を用いた塗装体の下塗り層と上塗り層の合計膜厚は、乾燥膜厚で、通常、0.1〜400μm、好ましくは、0.2〜300μm程度である。
【0129】
本発明の水系防汚塗料による塗装仕様は、基材の種類や状態、塗装目的、塗装方法等によって異なり、基材と塗膜との密着性の確保、防錆、エフロ防止、水分浸入防止等の目的で下塗り層を設ける。下塗り層に用いられる材料としては、充填材を含まないプライマーと、前記した目的に加えて、塗膜外観の意匠性を付与する目的で用いられる、充填材を含むシーラーを挙げることができる。プライマー及びシーラーの種類は特に限定されるものではなく、基材の種類、使用目的等に応じて適宜選択することができる。
【0130】
また、金属基材の場合、防錆の必要があればプライマーやシーラー等の下塗り層を設ける。無機窯業系基材の場合、基材の性状(表面荒さ、含浸性、アルカリ性等)により塗膜の隠蔽性が異なるため、通常、プライマー又はシーラーを用いる。有機樹脂系基材の場合も、通常、プライマー又はシーラーを用いる。また劣化塗膜の再塗装の場合、旧塗膜の劣化が著しいときは、プライマー又はシーラーを用いる。それ以外の基材、例えば、防錆を必要としない金属、タイルやガラス等の場合は、用途に応じて下塗り層を設けても設けなくてもよい。
【0131】
下塗り層に用いられる材料としては、例えば、アルキド樹脂、アミノアルキド樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、フッ素樹脂、アクリルシリコーン樹脂、アクリルエマルジョン、エポキシエマルジョン、ポリウレタンエマルジョン、ポリエステルエマルジョン、アクリルウレタンエマルジョンや、アクリルシリコーンエマルジョン、ポリシロキサン等のシリコーン含有エマルジョン等を挙げることができる。これらの材料は、単独で又は2種以上を混合して使用することができ、また本発明の水系分散体と混合して使用することもできる。
【0132】
本発明の水系防汚塗料を使用する際の好ましい下塗り層の材料の組み合わせとしては、例えば、アクリルエマルジョン/本発明の水系分散体、アクリルエマルジョン/エポキシエマルジョン、シリコーン含有エマルジョン/エポキシエマルジョン、エポキシエマルジョン/アクリルウレタンエマルジョン、アクリルシリコーンエマルジョン/エポキシエマルジョン/アクリルエマルジョン等を挙げることができる。
【0133】
本発明の水系防汚塗料により塗装した塗装体の典型的な構成としては、例えば、以下のものを挙げることができる。
(イ):基材(プライマー処理あり又は無し)/本発明の水系防汚塗料のクリアー又はエナメル。
(ロ):基材(プライマー処理あり又は無し)/本発明の水系防汚塗料のエナメル(下塗り層)/本発明の水系防汚塗料のクリアー(上塗り層)。
(ハ):基材(プライマー処理あり又は無し)/他の樹脂のクリアー又はエナメル(下塗り層)/本発明の水系防汚塗料のクリアー又はエナメル(上塗り層)。
【実施例】
【0134】
以下、実施例を挙げて、本発明の実施の形態を更に具体的に説明する。但し、本発明は、これらの実施例に何ら制約されるものでない。
【0135】
[測定・評価]
実施例及び比較例の水系防汚塗料については、以下の試験を行うことにより、その親水性、耐汚染性改善効果、効果持続性、及び貯蔵安定性について評価を行った。
【0136】
(親水性)
実施例及び比較例の水系防汚塗料を塗装した試験片について、その塗膜表面の水接触角を測定することにより、塗膜表面の親水性を評価した。具体的には、以下の方法により評価を行った。まず、基板となる硬質アルミ板に、下塗り層として、シリコーンアクリルエマルジョン(商品名:B7302、JSR社製)をワニスとする白エナメル(ピグメント濃度40%)を乾燥重量で50g/m2dry塗布した後、上塗り層として、実施例ないし比較例の水系防汚塗料をスプレーガンを用いて乾燥重量で25g/m2dry塗布し、ギアーオーブンを用いて140℃で4分間加熱することにより、基板表面に塗膜が形成された試験片を作製した。次いで、この試験片をJSR社四日市工場内に設置した北面垂直の曝露台に設置し、1箇月間放置した。その後、試験片表面の水接触角を自動接触角計(商品名:CA−V150、協和界面科学社製)にて測定し、下記の基準により親水性を評価した。
○:水接触角が65°以下(良好)
△:水接触角が65°超、75°以下(やや不良)
×:水接触角が75°超(不良)
【0137】
(耐汚染性改善効果)
実施例及び比較例の水系防汚塗料を塗装した試験片について、その塗膜表面を強制的に汚染させ、これを洗い流した後の塗膜表面を目視観察することにより、水系防汚塗料の耐汚染性改善効果を評価した。具体的には、以下の方法により評価を行った。まず、上記の親水化効果評価用に作製したものと同様の試験片をカーボンスラリー液(商品名:EP−510ブラック、大日精化社製)に浸漬した後、すぐに取り出し、ギアーオーブンを用いて140℃で4分間加熱した。次いで、このものを室温まで冷却した後、食器洗浄用スポンジで塗膜表面を軽く擦りながら水洗し、カーボンスラリーを洗い流した。その後、試験片の表面を目視観察し、以下の基準により耐汚染性改善効果を評価した。
○:全体に評価前の白さを保持している(良好)
△:全体に評価前の白さより黒色化している(やや不良)
×:カーボン汚れが残存し、全体的に黒色化している(不良)
【0138】
(効果持続性)
実施例及び比較例の水系防汚塗料を塗装した試験片について、数箇月間の長期に渡り屋外に曝露させて塗膜表面を汚染させ、塗膜表面を目視観察することにより、水系防汚塗料の効果持続性を評価した。具体的には、以下の方法により評価を行った。まず、上記の親水化効果評価用に作製したものと同様の試験片をJSR社四日市工場内に設置した北面垂直の曝露台に設置し、8箇月間放置した。その後、試験片の表面を目視観察し、下記の基準により効果持続性を評価した。
○:雨筋が目立たず、全体に曝露前の白さを保持している(良好)
△:雨筋は目立たないが、全体に曝露前の白さより黒色化している(やや不良)
×:雨筋が目立つ(不良)
【0139】
(貯蔵安定性)
実施例及び比較例の水系防汚塗料について、過酷な条件で一定期間放置した後、水系防汚塗料の様態を目視観察することにより、水系防汚塗料の貯蔵安定性を評価した。具体的には、以下の方法により評価を行った。まず、実施例ないし比較例の水系防汚塗料をプラスチックびんに入れて密栓し、50℃で1箇月放置した。その後、水系防汚塗料の様態を目視評価し、以下の基準により貯蔵安定性を評価した。
○:固化、凝集物の生成、及び粘度上昇のいずれも認められない(良好)
△:固化及び凝集物の生成は認められないものの、明らかに粘度の上昇が認められる(やや不良)
×:固化及び凝集物の生成が認められる(不良)
【0140】
なお、表中の「テトラエトキシシラン縮合物」としては、テトラエトキシシランの10量体(商品名:エチルシリケート48、コルコート社製)を、「メチルトリメトキシシラン縮合物」としては、メチルトリメトキシシランの10〜15量体(商品名:X40−9220、信越化学工業社製)を、「ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム」としては、花王社製のものを、「ポリオキシエチレンラウリルエーテル」としては、花王社製のエマルゲン147(商品名)を用いた。
【0141】
また、表中の「ポリエチレングリコール(I)」としては、重量平均分子量3万のポリエチレングリコールを、「ポリエチレングリコール(II)」としては、重量平均分子量5千のポリエチレングリコールを、「ポリエチレングリコール(III)」としては、重量平均分子量1千のポリエチレングリコールを、「有機錫化合物(I)」としては、ジn−ブチル錫ジラウレートを、「有機錫化合物(II)」としては、ジオクチル錫ジマレイン酸アルキルエステル塩(アルキル基の炭素数は13)を、「有機錫化合物(III)」としては、ブチル錫ノナン酸塩を用いた。
【0142】
[実施例1]
(1)第1の水系分散体
まず、表1に示すように、A成分:テトラエトキシシラン縮合物20質量部、B’−1成分:メチルメタクリレート10質量部、シクロヘキシルメタクリレート9質量部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート1質量部、n−ブチルアクリレート9質量部、γ−メタクリロキシトリメトキシシラン1質量部、乳化剤:アニオン系界面活性剤であるドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1.0質量部、ノニオン界面剤であるポリオキシエチレンラウリルエーテル0.5質量部、及び水120質量部を室温で10分間撹拌してエマルジョン化した。
【0143】
次いで、上記のエマルジョンを70MPaの圧力下で、高圧ホモジナイザーにより、その平均粒子径が0.5μm以下となるように微細化した。この時のpHは6.5であった。エマルジョンの平均粒子径が0.5μm以下に微細化されたことは、大塚電子社製の粒子径測定器FPAR−1000(商品名)により確認した。「高圧ホモジナイザー」としては、みずほ工業社製のマイクロフルイダイザーM110Y(商品名)を使用した。
【0144】
その後、上記のエマルジョンを四つ口セパラブルフラスコに投入して、撹拌しながら、窒素置換した後、A成分及びB’成分の合計質量100質量部に対して、ラジカル重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル3質量部を添加し、75℃で2時間重合した。
【0145】
更に、反応温度を75℃に維持したまま、表1に示すように、B’−2成分:メチルメタクリレート15質量部、n−ブチルアクリレート19質量部、シクロヘキシルメタクリレート8質量部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート1質量部、ジアセトンアクリルアミド5質量部、γ−メタクリロキシトリメトキシシラン1質量部、エチレングリコールジメタクリレート1質量部、乳化剤:アニオン系界面活性剤であるドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.6質量部、ノニオン界面剤であるポリオキシエチレンラウリルエーテル0.5質量部、及び水70質量部を撹拌機により予め乳化させたものを、2時間かけて滴下した。
【0146】
滴下終了後、反応温度を85℃に上昇させ、更に1時間重合して、B成分(アクリル系ポリマー)を形成し、A成分及びB成分を含有する水系分散体を得た。この時の固形分濃度は約35%であった。ここで得られたB成分はコア−シェル型のポリマー粒子であった。この水系分散体に、表1に記載の比率で表1に示すC成分:ポリエチレングリコール(試薬、分子量3万)5質量部を添加し、撹拌混合することにより第1の水系分散体を得た。
【0147】
(2)第2の水系分散体
まず、表1示すD成分:ジn−ブチル錫ジラウレート(有機錫化合物)に対して水を添加し、室温で10分間撹拌することによりこれらを混合した。この際、D成分と水との質量比が1:9となるように水を添加した。
【0148】
次いで、その混合液に対して、乳化剤としてアニオン系界面活性剤であるドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、及びノニオン系界面活性剤であるポリオキシエチレンラウリルエーテルを添加し、撹拌・混合した(予備分散)。この際、各成分の量比は、D成分及び水の合計質量100質量部に対して、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを5質量部、ポリオキシエチレンラウリルエーテルを2質量部とした。
【0149】
更に、この混合液(予備分散液)を超音波ホモジナイザーを用いて分散を行うことにより、第2の水系分散体を得た。この時の固形分濃度は約15%であった。「超音波ホモジナイザー」としては、島田理化工業社製のウルトラソニックジェネレーターET−30S−7(商品名)を用いた。
【0150】
(3)水系防汚塗料
上記のようにして調製した第1の分散体と第2の分散体とを、D成分のジn−ブチル錫ジラウレートの10%水溶液とが、A成分とB成分の合計質量100質量部に対して固形分換算で5質量部となるように、第1の水系分散体と第2の水系分散体とを混合した。更に、この混合液に対して、架橋剤としてアジピン酸ジヒドラジドを、及び成膜助剤としてエチレングリコールモノブチルエーテルの50%水溶液を添加し混合して水系防汚塗料を得た。この際、各成分の量比は、A成分とB成分の合計質量100質量部に対して、アジピン酸ジヒドラジドを2質量部、エチレングリコールモノブチルエーテルを固形分換算で5質量部とした。これらの水系防汚塗料について各種評価を行った。その結果を表1に示す。
【0151】
【表1】

【0152】
[実施例2〜7、比較例1〜6]
(1)第1の水系分散体
まず、表1ないし表2に示すA成分(オルガノシロキサン)及びB’−1成分(構成モノマー)に対して、乳化剤としてアニオン系界面活性剤であるドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ノニオン系界面活性剤であるポリオキシエチレンラウリルエーテル、及び水を添加し、室温で10分間撹拌してエマルジョン化した。この際、各成分の量比は、A成分、及びB’成分(表中の「B’−1成分」、「B’−2成分」の双方を含む)の合計質量100質量部に対して、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを1.0質量部、ポリオキシエチレンラウリルエーテルを0.5質量部、及び水を120質量部とした。
【0153】
【表2】

【0154】
次いで、上記のエマルジョンを70MPaの圧力下で、高圧ホモジナイザーにより、その平均粒子径が0.5μm以下となるように微細化した。この際、エマルジョンの平均粒子径が0.5μm以下に微細化されたことは、大塚電子社製の粒子径測定器FPAR−1000(商品名)により確認した。「高圧ホモジナイザー」としては、みずほ工業社製のマイクロフルイダイザーM110Y(商品名)を使用した。
【0155】
その後、上記のエマルジョンを四つ口セパラブルフラスコに投入して、撹拌しながら、窒素置換した後、A成分、及びB’成分の合計質量100質量部に対して、ラジカル重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル3質量部を添加し、75℃で2時間重合した。
【0156】
更に、反応温度を75℃に維持したまま、表1ないし表2に示す組成のB’−2成分、乳化剤としてアニオン系界面活性剤であるドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(花王社製)、及び水を撹拌機により予め乳化させたものを、2時間かけて滴下した。滴下終了後、反応温度を85℃に上昇させ、更に1時間重合して、B成分(アクリル系ポリマー)を形成し、A成分、及びB成分を含有する水系分散体を得た。ここで得られたB成分はコア−シェル型のポリマー粒子である。この水系分散体に、表1ないし表2に記載の比率で表1ないし表2に示すC成分(ノニオン性水溶性ポリマー)を添加し、混合することにより第1の水系分散体を得た。
【0157】
[比較例7]
B成分のアクリル系ポリマーとして、コア/シェル型ポリマーに代えて、アクリルエマルジョンポリマー(商品名:B7302、JSR社製、ガラス転移点35℃(計算値))を用い、このB成分をA成分及びC成分と混合することにより、表2に記載の組成を有する、第1の水系分散体を得た。
【0158】
(2)第2の水系分散体
まず、表1ないし表2に示すD成分(有機錫化合物)に対して水を添加し、室温で10分間撹拌することによりこれらを混合した。この際、D成分と水との質量比が1:9となるように水を添加した。
【0159】
次いで、その混合液に対して、乳化剤としてアニオン系界面活性剤であるドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、及びノニオン系界面活性剤であるポリオキシエチレンラウリルエーテルを添加し、撹拌・混合した(予備分散)。この際、各成分の量比は、D成分及び水の合計質量100質量部に対して、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを5質量部、ポリオキシエチレンラウリルエーテルを2質量部とした。
【0160】
更に、この混合液(予備分散液)を超音波ホモジナイザーを用いて分散を行うことにより、固形分濃度が約15%の第2の水系分散体を得た。「超音波ホモジナイザー」としては、島田理化工業社製のウルトラソニックジェネレーターET−30S−7(商品名)を用いた。
【0161】
(3)水系防汚塗料
上記のようにして調製した第1の分散体と第2の分散体とを、D成分(固形分濃度、約15%)が、A成分とB成分の合計質量100質量部に対して固形分換算で0.01〜10質量部となるように、第1の水系分散体と第2の水系分散体とを混合した。更に、この混合液に対して、架橋剤としてアジピン酸ジヒドラジド、及び成膜助剤としてエチレングリコールモノブチルエーテルの50%水溶液を添加し混合して水系防汚塗料を得た。この際、各成分の量比は、A成分とB成分の合計質量100質量部に対して、アジピン酸ジヒドラジドを2質量部、エチレングリコールモノブチルエーテルを固形分換算で5質量部とした。これらの水系防汚塗料について各種評価を行った。その結果を表1ないし表2に示す。
【0162】
(評価結果)
実施例1〜7の水系防汚塗料は、親水性、対汚染性改善効果、効果持続性、及び貯蔵安定性の全ての項目において良好な結果を示した。即ち、実施例1〜7の水系防汚塗料は、塗装当初からより高い耐汚染性改善効果が発揮され、かつ、その耐汚染性改善効果を長期間持続させることが可能なものであった。
【0163】
一方、比較例1〜7の水系防汚塗料は、親水性、対汚染性改善効果、効果持続性、及び貯蔵安定性のいずれかの項目において不満足な結果を示した。具体的には、比較例1の水系防汚塗料は、貯蔵安定性がやや不良であった。これはA成分の使用量がA成分とB成分との合計質量に対し50質量%を超えていることによるものと考えられた。比較例2の水系防汚塗料は、親水性が不良であり、対汚染性改善効果がやや不良であった。これはA成分の使用量がA成分とB成分との合計質量に対し2質量%に満たないことによるものと考えられた。比較例3の水系防汚塗料は、親水性、対汚染性改善効果とも不良であった。これはC成分の使用量がA成分とB成分との合計質量100質量部に対し0.1質量部に満たないことによるものと考えられた。
【0164】
また、比較例4の水系防汚塗料は、貯蔵安定性がやや不良であった。これはC成分の使用量がA成分とB成分との合計質量100質量部に対し20質量部を超えていることによるものと考えられた。比較例5の水系防汚塗料は、対汚染性改善効果がやや不良であった。これはD成分の使用量がA成分とB成分との合計質量に対し0.01質量部に満たないことによるものと考えられた。比較例6の水系防汚塗料は、貯蔵安定性が不良であった。これはC成分の使用量がA成分とB成分との合計質量100質量部に対し10質量部を超えていることによるものと考えられた。比較例7の水系防汚塗料は、貯蔵安定性が不良であった。これはB成分のアクリル系ポリマーがコア−シェル粒子を形成していないことによるものと考えられた。
【産業上の利用可能性】
【0165】
本発明の防汚塗料は、耐汚染性に優れた塗膜を形成し得る水系の防汚塗料として好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性媒体中に、下記一般式(1)で表されるオルガノシラン(A’成分)から選ばれる少なくとも1種の縮合物であるポリオルガノシロキサン(A成分)と、ガラス転移点が−20℃〜+80℃のアクリル系ポリマー(B成分)と、ノニオン系水溶性ポリマー及び/又はアニオン基含有水溶性ポリマー(C成分)とを構成成分とし、
前記A成分を、前記A成分と前記B成分の合計質量に対して2〜50質量%、前記B成分を、前記A成分と前記B成分の合計質量に対して50〜98質量%、前記C成分を、前記A成分と前記B成分の合計質量100質量部に対して0.1〜20質量部、含有する水系分散体であって、
水性媒体中において、前記A成分、前記B成分を構成するモノマー(B’成分)の一部、及び乳化剤を混合してエマルジョン化した後、前記エマルジョンの平均粒子径を0.5μm以下に微細化し、次いで、ラジカル重合開始剤の存在下、pH4〜9で、前記B’成分の一部をラジカル重合することにより得られる反応液に対して、更にB’成分の残部を追加してラジカル重合することにより前記B成分を形成した後、前記C成分を添加し、混合したものである水系分散体。
(R14-nSi(OR2n …(1)
(式中、R1は水素原子、又は1価の有機基を示し、R2はアルキル基又はアシル基を示し、nは3又は4である。)
【請求項2】
水性媒体中に、下記一般式(1)で表されるオルガノシラン(A’成分)から選ばれる少なくとも1種の縮合物であるポリオルガノシロキサン(A成分)と、ガラス転移点が−20℃〜+80℃のアクリル系ポリマー(B成分)と、ノニオン系水溶性ポリマー及び/又はアニオン基含有水溶性ポリマー(C成分)とを構成成分とし、
前記A成分を、前記A成分と前記B成分の合計質量に対して2〜50質量%、前記B成分を、前記A成分と前記B成分の合計質量に対して50〜98質量%、前記C成分を、前記A成分と前記B成分の合計質量100質量部に対して0.1〜20質量部、含有する水系分散体の製造方法であって、
水性媒体中において、前記A成分、前記B成分を構成するモノマー(B’成分)の一部、及び乳化剤を混合してエマルジョン化した後、前記エマルジョンの平均粒子径を0.5μm以下に微細化し、次いで、ラジカル重合開始剤の存在下、pH4〜9で、前記B’成分の一部をラジカル重合することにより得られる反応液に対して、更にB’成分の残部を追加してラジカル重合することにより前記B成分を形成した後、前記C成分を添加し、混合する水系分散体の製造方法。
(R14-nSi(OR2n …(1)
(式中、R1は水素原子、又は1価の有機基を示し、R2はアルキル基又はアシル基を示し、nは3又は4である。)
【請求項3】
水性媒体中に、下記一般式(2)又は下記一般式(3)で表され、分子量が640以上の有機錫化合物(D成分)、及び乳化剤を含有する水系分散体。
(R3)(R4)Sn(R5)(R6) …(2)
(R7)Sn(R8)(R9)(R10) …(3)
(式中、R3、R4、及びR7は、各々がアルキル基を示し、R5、R6、R8、R9及びR10は、各々がエステル基を有する1価の有機基を示す。)
【請求項4】
請求項1に記載の水系分散体と、請求項3に記載の水系分散体とから構成され、
前記D成分が、前記A成分と前記B成分の合計質量100質量部に対して0.01〜10質量部となるように、請求項1に記載の水系分散体と請求項3に記載の水系分散体とを混合する2液混合型の水系防汚塗料。
【請求項5】
請求項1に記載の水系分散体と、請求項3に記載の水系分散体とを混合して水系防汚塗料を生成させ、前記水系防汚塗料を基材の表面に塗布することにより、前記基材の表面に防汚塗膜が形成された塗装体を得る、塗装体の製造方法。
【請求項6】
請求項1に記載の水系分散体を基材の表面に塗布して塗布層を形成した後、更に前記塗布層の表面に、請求項3に記載の水系分散体を塗布ないしスプレーすることにより水系防汚塗料を生成させ、前記基材の表面に防汚塗膜が形成された塗装体を得る、塗装体の製造方法。
【請求項7】
請求項1に記載の水系分散体と、請求項3に記載の水系分散体とから生成される水系防汚塗料によって形成された防汚塗膜を、その表面に備えた建築材料。

【公開番号】特開2006−160880(P2006−160880A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−354141(P2004−354141)
【出願日】平成16年12月7日(2004.12.7)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】