説明

水系分散体及び水系化粧料

【課題】水性溶媒中に疎水性粉体が安定的に分散されてなる水系分散体の提供。また、使用時に肌なじみが良くべたつき感の少なく、且つ、耐水性と分散性に優れた水系化粧料の提供。
【解決手段】平均重合度(DP)が300以下であり結晶化率が50%以下であるセルロースを少なくとも一部に有してなり且つ平均粒子径が5μm以下であるセルロース含有微粒子と、疎水性粉体とを含有する水系分散体。該水系分散体を含有する水系化粧料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水系分散体及び水系化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
水性溶媒を用いた水系化粧料は、みずみずしく、のびの良い使用感を有することから、例えば、ファンデーション、アイシャドー等のメイクアップ化粧品、サンスクリーン化粧品、乳液、クリームなどの各種化粧料として好まれている。
しかし、該水系化粧料は、通常、親水性の乳化剤や親水性の粉体を含んで構成されているため、該化粧料を塗布してなる化粧膜が耐水性に劣るという問題がある。
【0003】
そこで、斯かる水系化粧料に、粉体表面が疎水化処理されてなる疎水性粉体を配合し、これによって化粧膜の耐水性を向上させる方法が提案されている。しかるに、該疎水性粉体は表面が疎水化処理されているため、水系化粧料への分散性が悪く、粒子同士が凝集したり、経時により沈降するといった新たな問題を招きやすい。
【0004】
斯かる問題に対し、例えば、下記特許文献1に開示されたような方法、即ち、疎水性粉体とともにノニオン界面活性剤および水溶性高分子を添加する方法が提案されている。
【0005】
【特許文献1】特開2004−91423号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記特許文献1記載の方法では、疎水性粉体の分散性を改善するべく充分な量の界面活性剤を添加すると、耐水性の低下という問題を生じやすく、逆に、界面活性剤の添加量を減らすと疎水性粉体の分散性が悪化するという問題を生じやすい。また、水溶性高分子を添加した化粧料は、水溶性高分子特有のべたつき感をもたらす、という問題もある。
【0007】
本発明は、水性溶媒中に疎水性粉体が安定的に分散されてなる水系分散体を提供することを一の目的とする。また、本発明は、使用時に肌なじみが良くべたつき感の少ない水系化粧料であって、且つ、耐水性と分散性に優れた水系化粧料を提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような課題を解決すべく、本発明に係る水系分散体は、平均重合度(DP)が300以下であり結晶化率が50%以下であるセルロースを少なくとも一部に有してなり且つ平均粒子径が5μm以下であるセルロース含有微粒子と、疎水性粉体とを含有することを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る水系化粧料は、前記水系分散体を含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る水系分散体によれば、平均重合度(DP)が300以下であり結晶化率が50%以下であるセルロースを少なくとも一部に有してなり且つ平均粒子径が5μm以下であるセルロース含有微粒子が、前記疎水性粉体を安定的に分散させるため、水性溶媒中に疎水性粉体が安定的に分散された水系分散体となる。
【0011】
また、本発明に係る水系化粧料によれば、前記セルロース含有微粒子を用いて疎水性粉体の安定的な分散が図られているため、耐水性が維持されやすく、しかも肌なじみが良くべたつき感の少ない水系化粧料となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について説明する。
本発明で用いられるセルロースは、平均重合度(DP)が300以下であり、好ましくは10以上100以下であり、より好ましくは20以上50以下である。
平均重合度(DP)が300を超える場合には、分散媒体に微細かつ高度に均一分散したセルロース分散体を得ることが難しく、増粘性や分散安定性に乏しいものとなる。
また、平均重合度(DP)が10未満の場合には、大部分のセルロースが水溶性となり、粘性の原動力となる微粒子が形成されにくくなるため、該セルロースによる粘度調整の効果が得られ難くなる虞がある。
尚、セルロースの平均重合度(DP)は、下記実施例に記載された方法により測定されるものである。
【0013】
また、本発明で用いられるセルロースは、結晶化率が50%以下であり、好ましくは30%以下であり、より好ましくは1〜30%である。
結晶化率が50%を超える場合には、セルロース含有微粒子自体の分散性が低下するため、疎水性粉体の分散性改善を図ることができない。
【0014】
また、本発明で用いられるセルロースは、I型結晶成分及びII型結晶成分の割合については特に限定されるものではないが、I型結晶成分の量が好ましくは10%以下、より好ましくは6%以下であり、II型結晶成分の量が好ましくは40%以下、好ましくは30%以下である。
【0015】
尚、セルロースの結晶化率は、下記実施例に記載された方法により測定されるものである。
【0016】
前記セルロースの結晶化率を調整する方法としては、例えば、セルロースを溶解させうる一般的な溶媒(硫酸、ジメチルアセトアミド、銅エチレンジアミン錯体)等にセルロースを一旦溶解させ、その後、該セルロースを再生させる方法が挙げられる。
【0017】
また、本発明で用いられ前記セルロース含有微粒子としては、前記セルロースを少なくとも一部に有してなるものを使用でき、具体的には、前記セルロースのみで構成されたセルロース微粒子や、該セルロースと他の材料とが複合されてなるセルロース複合体微粒子を使用できる。
【0018】
セルロース複合体微粒子を構成する他の材料としては、例えば、オイル系化合物、水溶性高分子、保湿剤、界面活性剤、金属酸化物、紫外線遮蔽剤、無機塩、金属粉、ガム類、染料、顔料、肥料、カーボンブラック、シリカ化合物、ラテックス、エマルジョン剤、アミノ酸類、香料、生薬及び防腐剤からなる群から選ばれた少なくとも一種が挙げられる。
より詳しくは、メチルポリシロキサン、シリコーンポリエーテルコポリマー等のシリコンオイル、オリーブ油、マカデミアナッツ油、ヒマシ油等の植物油、動物油、ラノリン、流動パラフィン、スクワラン等のオイル系化合物、水溶性高分子、ヒアルロン酸、グリセリン、1,3−ブチリレングリコール、ソルビトール、ポリプロピレングリコール、ジプロピレングリコール、部分アセチル化キチン、シフィンゴ脂質等の保湿剤、アルキル硫酸塩、アルキルエーテル硫酸塩、N−アシルグルタミン酸塩、N−アシルメチリタウリン、アシルコラーゲンペプチド、酢酸ベタイン、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、アルキルグルコシド、レシチン等の界面活性剤、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化鉄、酸化アルミニウム等の金属化合物、ウロカニン酸、オキシベンゾン、フェニルサリシレート、サリチル酸オクチル、パラメトキシケイ皮酸エチルヘキシルエステル、パラアミノ安息香酸、パラアミノ安息香酸エチル、パラアミノ安息香酸グリセリル、パラジメチルアミノ安息香酸アミル、パラジメチルアミノ安息香酸オクチル、ジベンゾイルメタン等の紫外線遮蔽剤、スチレン−ブタジエンラテックス、アクリル系ラテックス等のラテックスが挙げられる。
【0019】
また、前記水溶性高分子としては、カラギーナン、寒天、ファーセラン、グアーガム、クインスシード(マルメロ)、コンニャクマンナン、タマリンドガム、タラガム、デキストリン、デンプン(コメ、トウモロコシ、バレイショ、コムギ)ローカストビーンガム、アラビアガム、ガッティガム、カラヤガム、トラガカントガム、アラビノガラクタン、ペクチン、カードラン、キサンタンガム、ジェランガム、シクロデキストリン、デキストラン、サクシノグルカン、プルラン、カゼイン、アルブミン、ゼラチン、ポリビニルピロリドンの他、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース誘導体、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルアルコールなどが挙げられる。特に、疎水性粉体の分散安定化作用の向上という観点から、該水溶性高分子のうち、非イオン性の水溶性高分子を好適に使用することができる。
【0020】
また、セルロース複合体微粒子に占める前記セルロースの割合は、好ましくは50重量%以上とし、より好ましくは70重量%以上とする。
セルロース複合体微粒子に占める前記セルロースの割合を50重量%以上とすることにより、前記疎水性粉体の分散性が向上するという効果がある。
【0021】
該セルロース含有微粒子の平均粒子径は5μm以下であり、好ましくは5〜500nm、より好ましくは5〜200nmである。
セルロース含有微粒子の平均粒子径が5μmを超える場合、疎水性粉体を安定化させる作用が低下し、該疎水性粉体の凝集や沈降が生じる虞がある。
【0022】
尚、セルロース含有微粒子の平均粒子径は、下記実施例に記載された方法により測定されるものである。
【0023】
本発明で使用される疎水性粉体は、粉体を撥水化処理したもの、又は親油性の粉体である。該粉体としては任意の粉体、即ち、球状、板状、針状等の任意の形状を有し、煙霧状、微粒子状、顔料級等の任意の粒子径を有し、多孔質、無孔質等の任意の粒子構造を有するものを使用でき、斯かる粉体としては、無機粉体類、光輝性粉体類、有機粉体類、色素粉体類、複合粉体類等が挙げられる。該粉体として、具体的には、酸化チタン、低次酸化チタン、コンジョウ、群青、ベンガラ、黄酸化鉄、黒酸化鉄、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、二酸化珪素、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、酸化クロム、水酸化クロム、カーボンブラック、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、雲母、合成雲母、合成セリサイト、セリサイト、タルク、カオリン、炭化珪素、硫酸バリウム、ベントナイト、スメクタイト、窒化硼素等の無機粉体類、オキシ塩化ビスマス、雲母チタン、酸化鉄コーティング雲母、酸化鉄雲母チタン、有機顔料処理雲母チタン、アルミニウムパウダー等の光輝性粉体類、ナイロンパウダー、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレンパウダー、ポリスチレンパウダー、オルガノポリシロキサンエラストマーパウダー、ポリメチルシルセスキオキサンパウダー、ウールパウダー、シルクパウダー、結晶セルロース、N−アシルリジン等の有機粉体類、有機タール系顔料、有機色素のレーキ顔料等の色素粉体類、微粒子酸化チタン被覆雲母チタン、微粒子酸化亜鉛被覆雲母チタン、硫酸バリウム被覆雲母チタン、酸化チタン含有二酸化珪素、酸化亜鉛含有二酸化珪素等の複合粉体等が挙げられ、これらを一種又は二種以上用いることができる。
【0024】
特に、本発明の水系分散体では、これまで均一分散が困難であるとされていた粒子径0.03〜0.1μmの疎水性粉体についても使用でき、斯かる粒子径の疎水性粉体についても、優れた分散安定化を図ることができる。
【0025】
前記粉体を撥水化処理するための処理剤としては、例えば、ジメチルポリシロキサン,メチルハイドロジェンポリシロキサン、高粘度シリコーン、架橋型シリコーン、アクリル変性シリコーン、シリコーン樹脂等のシリコーン化合物、非イオン界面活性剤、リン脂質等の界面活性剤、ラウリン酸亜鉛,ステアリン酸亜鉛等の金属石鹸、ポリイソブチレン、イソステアリルセバシン酸等のエステル油、ポリエチレン、ワックス,高級脂肪酸、高級アルコール等の油剤、N−ラウロイルリジン等のN−長鎖アシルアミノ酸、パーフルオロアルキルリン酸及びその塩、パーフルオロポリエーテル、パーフルオロポリエーテルアルキルリン酸、ポリビニルピロリドン−ヘキサデセンのコポリマー等のポリビニルピロリドン変性ポリマー等が挙げられ、これらを一種又は二種以上用いることができる。
【0026】
本発明に係る水系分散体は、前記セルロース含有微粒子と前記疎水性粉体とが水系溶媒中に分散されてなるものである。
該水系溶媒としては、水、又は、水と相溶性の溶媒との混合液を使用することができ、該混合液としては、例えば、水10重量%以上、好ましくは20重量%以上とメタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類との混合液、又は、ソルビトール、ショ糖等の固形状の糖アルコールの水溶液を挙げることができる。
【0027】
また、本発明に係る水系分散体は、さらに、アルコール又は分散剤のうち少なくとも何れか一種を含有することが好ましい。アルコール又は分散剤のうち少なくとも何れか一種を含有することにより、前記疎水性粉体の分散性がより一層良好となり、安定性にも優れたものとなる。しかも、該水系分散体を化粧料に使用した場合、皮膚へ布する際のべたつきが抑制され、のびの良い使用感が得られやすくなる。
【0028】
該アルコールとしては、一価のアルコールであるエタノール、メタノール、プロパノール、t−ブタノール、イソプロピルアルコール等が挙げられ、これらを一種又は二種以上用いることができる。中でも、化粧品に用いることができ、且つ、疎水性粉体の分散が容易になり、安定性も向上するという観点から、エタノールを好適に使用することができる。水系分散体中の該アルコールの含有量は、通常、1〜70重量%であり、好ましくは5〜30重量部である。
【0029】
また、該分散剤としては、非イオン性界面活性剤や水溶性高分子を使用でき、非イオン性界面活性剤として、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ラウリン酸ジエタノールアミド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ジステアリン酸スクロース、ステアリン酸スクロース、パルミチン酸スクロース、ミリスチン酸スクロース、ラウリン酸スクロース、セスキオレイン酸ソルビタン、モノオレイン酸ソルビタン、モノステアリン酸ソルビタン、ヤシ油脂肪酸ソルビタン、モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、イソステアリン酸デカグリセリル、ポリエーテル変性シリコン等が挙げられ、これらを一種又は二種以上用いることができる。
中でも、ゲル化を阻害し難いという観点から、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリエーテル変性シリコン、イソステアリン酸デカグリセリル等を好適に使用することができる。
また、水溶性高分子としては、前記セルロース複合体微粒子を構成する他の材料として挙げたものと同様のものを使用することができる。
【0030】
前記水系分散体における、分散剤の含有量は、特に限定されるものでなく、通常0.05〜10重量%、好ましくは、0.1〜5重量%である。
【0031】
また、本発明に係る水系分散体は、さらに、多価アルコールを含有することが好ましい。多価アルコールを含有することにより、前記疎水性粉体の分散性がより一層優れたものとなる。
【0032】
該多価アルコールとしては、1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ポリエチレングリコール、ジグリセリン、ジプロピレングリコール等が挙げられ、これらを一種又は二種以上用いることができる。中でも、疎水性粉体の分散安定化作用の向上という観点から、1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコールを好適に使用することができる。
【0033】
また、本発明の水系分散体を得る方法としては、例えば、前記疎水性粉体と、前記セルロース含有微粒子と、前記水系溶媒とを、例えば、ホモディスパー型攪拌混合機(プライミクス社製、T.K.ロボミックス)を用いて同時に混合して分散させる方法や、予め前記疎水性粉体と、前記アルコールや多価アルコールとを、例えば、ホモディスパー型攪拌混合機(同上)を用いて分散させておき、その後、前記セルロース含有微粒子を添加して、例えば、ホモミキサー型攪拌混合機(同上)を用いて分散させる方法などを採用することができる。
【0034】
前記水系分散体中におけるセルロース含有微粒子及び疎水性粉体の含有量は、該水系分散体の用途等に応じて適宜調整しうるが、好ましくは、前記疎水性粉体100重量部に対するセルロース含有微粒子の量は、2〜200重量部であり、より好ましくは5〜50重量部である。
疎水性粉体100重量部に対してセルロース含有微粒子の量を5〜50重量部とすることにより、該疎水性粉体の分散安定性をより一層向上させて凝集や沈降を低減し、さらに、該セルロース含有微粒子による系のゲル化作用をより一層向上させることができる。
【0035】
本発明に係る水系化粧料は、上述のような水系分散体を含有するものである。
該水系化粧料中におけるセルロース固形分濃度は、好ましくは0.5〜30重量%とし、より好ましくは1〜20重量%とする。セルロース固形分濃度を1〜20重量%とすることにより、疎水性粉体に対する分散安定化作用がより一層向上し、凝集や沈降をより効果的に抑制するという効果がある。
【0036】
本発明に係る水系化粧料は、油を配合する必要はなく、また、油相と水相との比率も特に限定されないが、好ましくは重量比で油相:水相=60:40〜1:99、より好ましくは油相:水相=40:60〜20:80である。油剤を入れることにより保湿性を高め、使用感を向上させることができるが、油相が60重量%を超えると粉体を分散させる水相が少なくなり、好ましくない。
【0037】
本発明に係る水系化粧料には、本発明の効果を損わない範囲内において、通常、化粧料に添加される成分を配合することができる。このような成分としては、例えば水、油分、保湿剤、ワックス、界面活性剤、顔料、分散剤、防腐剤、香料、紫外線吸収剤、増粘剤等が挙げられる。
【0038】
本発明に係る水系化粧料は、例えば、上述のような水系分散体と、油剤、保湿剤、分散剤、防腐剤等を添加し、ホモミキサー型攪拌混合機(同上)を用いて分散させる方法などによって得ることができる。
【0039】
本発明に係る水系化粧料は、種々の形態の化粧料として適用されうるものである。適用される化粧料の具体例としては、例えば、化粧下地、リップグロス、口紅、マスカラ、ファンデーション、アイカラー、アイライナー、アイブロウ、チークカラー等のメイクアップ化粧料や、サンスクリーン剤等の化粧料などが挙げられる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例を挙げて本発明についてさらに詳細に説明する。
【0041】
(1)セルロース微粒子分散体の調製
−5℃の65重量% 硫酸水溶液に、セルロース(サルファイト法により木材パルプから製造したサルファイトパルプ)を、濃度2〜10重量%となるよう溶解させ、セルロースドープを得た。続いて、セルロースドープに対して2.5倍重量の5℃に維持された水中に、前記ドープを攪拌しながら添加し、セルロースをフロック状に凝集させた。得られた産物を、85℃で20分間維持し、ついで、pH4以上になるまで、該産物の水洗と脱水とを繰り返し、ゲル状物を得た。
【0042】
次に、前記ゲル状物に、固形分濃度4重量%となるように水を添加した。その後、得られた産物を、分散機(プライミクス社製、機種名:TKロボミックス)に供して、10000rpmにて10分間処理することにより分散させた。さらに、得られた産物を、超高圧ホモジナイザー(みづほ工業社製、機種名:マイクロフルイダイザーM−110−E/H、圧力:100MPa)に供して超高圧分散処理し、ゲル状のセルロース微粒子の分散体(固形分濃度4重量%)を得た。
【0043】
(2)セルロースの平均重合度の測定
前記(1)で得られたゲル状のセルロース微粒子の分散体を、70℃で乾燥させた。乾燥させたセルロース微粒子 200mg、400mg、600mg、800mgまたは1000mgを、カドキセン 50mlに溶解して得られた希薄セルロース溶液の25℃における比粘度をウベローデ型粘度計を用いて測定し、極限粘度数ηを、濃度0に外挿したときの比粘度として算出した。ついで、得られた極限粘度数ηに基づき、式(I):
η=3.85×10-2×Mw0.76 (I)
(式中、Mwは、重量平均分子量を示す)
と、式(II):
平均重合度=Mw/162 (II)
(式中、Mwは、重量平均分子量を示す)
とにより、平均重合度を算出した。
その結果、得られた分散体中のセルロースの平均重合度は、約40であった。
【0044】
(3)セルロースの結晶化率の測定
前記(1)で得られたゲル状のセルロース微粒子の分散体を、70℃で乾燥させた後、粉砕し、錠剤に成形して、線源CuKα、反射法での広角X線回折法(リガク社製、RINT−ULtimaIII)により得られた回折図において、セルロースI型結晶(110)面ピークに帰属される2θ=15.0°における絶対ピーク強度h0と、この面間隔におけるベースラインからのピーク強度h1から下記(III)式よりセルロースI型結晶成分の分率(χI)を求めた。同様に、前記回折図において、セルロースII型結晶(110)面ピークに帰属される2θ=12.6°における絶対ピーク強度h0*と、この面間隔におけるベースラインからのピーク強度h1*から下記(IV)式よりセルロースII型結晶成分の分率(χII)を求めた。
χI=h1/h0 (III)
χII=h1*/h0* (IV)
そして、セルロースI型結晶成分の分率(χI)とセルロースII型結晶成分の分率(χII)とを用い、下記(V)式よりセルロースの結晶化率を求めた。
結晶化率(%)=(χI+χII)×100 (V)
その結果、得られた分散体中のセルロースの結晶化率は、20(%)であった。
【0045】
(4)セルロース微粒子の平均粒子径の測定
前記(1)で得られたセルロース微粒子の分散体を、1.5重量%濃度となるように、水で希釈し、続いて超高圧ホモジナイザー(マイクロフルタイザーM−110−E/H、圧力:100MPa)により超高圧分散処理した。得られた分散液を、マイクロトラック粒度分布測定装置UPA(日機装社製)で平均粒子径を測定した。なお、平均粒子径としては、体積基準径における50%径である累積中位径(メジアン径)を採用した。
その結果、セルロース微粒子の平均粒子径は、20nmであった。
【0046】
水系分散体についての試験
(実施例1)
シリコーン処理微粒子酸化亜鉛(三好化成社製、SAS-UFZO-450(13%))9重量部と、シリコーン処理微粒子酸化チタン(三好化成社製、SA-TTO-S-4(10%)、平均粒径0.05μm)5重量部とを混合して均一な状態とし、得られた産物を、前記(1)により得られたセルロース微粒子分散体(セルロースの結晶化率20%、平均重合度40、平均粒子径20nm)86重量部と混合し、ホモディスパー型攪拌混合機(プライミクス社製、商品名:TKロボミックス)にて3000rpmで60分間処理し、実施例1の水系分散体を調製した。
【0047】
(実施例2)
シリコーン処理微粒子酸化亜鉛(同上)12.5重量部と、エタノール12.5重量部とをホモディスパー型攪拌混合機(同上)にて3000rpmで10分間処理することにより均一に分散し、得られた産物と、前記セルロース含有微粒子分散体(同上)75重量部とを混合し、ホモミキサー型攪拌混合機(同上)にて10000rpmで10分間処理し、実施例2の水系分散体を調製した。
【0048】
(実施例3)
前記エタノール12.5重量部に替えて、エタノール6.25重量部と1,3−ブチレングリコール6.25重量部とを用いること以外、実施例2と同様にして実施例3の水系分散体を調製した。
【0049】
(実施例4)
前記シリコーン処理微粒子酸化チタンに替えてシリコーン処理酸化チタン(三好化成社製、SA−チタン CR−50(100%)、平均粒径0.25μm)を用いること以外、実施例1と同様にして実施例4の水系分散体を調製した。
【0050】
(実施例5〜11)
疎水性粉体として以下の材料を用い、表1及び表2に記載した配合量とすることを除き、他は実施例1と同様にして、実施例5〜11の水系分散体をそれぞれ調製した。
<疎水性粉体>
・パーフルオロアルキルリン酸DEA処理酸化チタン:PF-5 TiO2 CR-50,大東化成工業社製、平均粒径0.25μm
・ラウロイルリジン処理酸化チタン:LL-5 TiO2 CR-50,大東化成工業社製、平均粒径0.25μm
・n−オクチルトリエトキシシラン処理酸化チタン:OTS-2 TiO2 CR-50,大東化成工業社製、平均粒径0.25μm
・パーフルオロアルキルリン酸DEA及びトリエトキシカプリルシラン複合化処理酸化チタン:FSx TiO2 CR-50,大東化成工業社製、平均粒径0.25μm
・(アクリル酸アルキル/ジメチコン)コポリマー処理酸化チタン:ASC-2,TiO2 CR-50,大東化成工業社製、平均粒径0.25μm
・レシチン処理酸化タルク:L1-タルク,三好化成社製
【0051】
(比較例1)
n−オクチルトリエトキシシラン処理酸化チタン9重量部とパーフルオロアルキルリン酸DEA及びトリエトキシカプリルシラン複合化処理酸化チタン5重量部とを均一に混合し、得られた産物と、精製水86重量部とをホモディスパー型攪拌混合機(同上)にて3000rpmで60分間処理し、比較例1の水系分散体を調製した。
【0052】
[経時安定性の評価]
実施例及び比較例の水系分散体を、ガラス製サンプル瓶に充填し、40℃で1ヶ月放置した後、組成物の分離状態を目視にて観察し、下記の基準に従い評価した。
◎:全く分離が認められない。
○:ほとんど分離が認められない。
△:わずかに分離が認められる。
×:完全に分離している。
評価結果を表1及び表2に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
【表2】

【0055】
表1及び表2に示したように、比較例の水系分散体では、疎水性粉体が完全に分離してしまい、分散体の経時安定性が悪かったのに対し、実施例の水系分散体では、疎水性粉体がほとんど分離せず、経時安定性に優れていることが認められた。
【0056】
水系化粧料についての試験
水系化粧料の一実施形態であるサンスクリーン剤として、表3に示した成分と配合により実施例及び比較例のサンスクリーン剤を作成した。具体的な手順を以下に示す。
(実施例12)
(a)メトキシケイヒ酸オクチル(アイエスピージャパン社製、商品名「エスカロール557」)5重量部と、オクタン酸イソセチル(高級アルコール工業社製、商品名「ICEH」)12重量部と、デカメチルシクロペンタシロキサン(信越化学工業社製、商品名「シリコンKF995」)5重量部と、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(第一工業製薬社製、商品名「ノイゲンHC−800」)1重量部とを、手攪拌で75℃に加熱しながら混合した。
(b)さらに、シリコーン処理微粒子酸化チタン(三好化成社製、SA-TTO-S-4(10%)、平均粒径0.05μm)5重量部と、シリコーン処理微粒子酸化亜鉛(三好化成社製、SAS-UFZO-450(13%))9重量部と、エタノール12.85重量部とをホモディスパー型攪拌混合機(同上)にて均一に分散した。
(c)前記(1)で調製したセルロース微粒子分散体50重量部と、メチルパラベン0.1重量部と、フェノキシエタノール0.05重量部とをホモミキサー型攪拌混合機(同上)にて均一に分散した。
(d)前記(b)工程で得た産物に前記(a)工程で得た産物を加え、ホモミキサー型攪拌混合機(同上)を用いて乳化させた。
(e)前記(d)工程で得た産物に前記(c)工程で得た産物を加え、ホモミキサー型攪拌混合機(同上)を用いて均一な分散状態とすることにより、実施例12のサンスクリーン剤を得た。
【0057】
(実施例13)
前記(a)工程においてポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(「ノイゲンHC−800」)の添加量を0.5重量部とし、前記(b)工程においてポリオキシエチレンオレイルセチルエーテル(第一工業製薬社製、「ノイゲンET−69」)0.5重量部をさらに添加することを除き、他は実施例12と同様にして実施例13のサンスクリーン剤を得た。
【0058】
(実施例14)
前記(a)工程においてポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(「ノイゲンHC−800」)に替えてショ糖脂肪酸エステル(第一工業製薬社製、商品名「S−160」)を0.5重量部添加し、前記(b)工程においてショ糖脂肪酸エステル(第一工業製薬社製、商品名「S−50」)をさらに添加するとともに得られた産物に1,3−ブチレングリコール6重量部を添加して加熱混合することにより(b)の産物を得ることを除き、他は実施例12と同様にして実施例14のサンスクリーン剤を得た。
【0059】
(比較例2)
前記(c)工程においてセルロース微粒子分散体に替えて、精製水50重量部と、カルボキシビニルポリマー(ノベオン社製、商品名「カーボポール」)を用いることを除き、他は実施例14と同様にして比較例2のサンスクリーン剤を得た。
【0060】
[経時安定性の評価]
各実施例及び比較例のサンスクリーン剤をガラス製サンプル瓶に充填し、40℃で1ヶ月放置した後、組成物の分離状態を目視にて観察し、下記の基準に従い評価した。結果を表3に示す。
◎:全く分離が認められない。
○:ほとんど分離が認められない。
△:わずかに分離が認められる。
×:完全に分離している。
【0061】
[使用感の評価]
各実施例及び比較例のサンスクリーン剤について5名のパネルによる官能試験を行い、顔面での使用感(のびの軽さ、べたつきのなさ)を下記の基準に従い評価した。結果を表3に示す。
◎:非常に良い。
○:良い。
△:やや悪い。
×:悪い。
【0062】
【表3】

【0063】
表3に示したように、実施例のサンスクリーン剤は、比較例のサンスクリーン剤に比して経時安定性に優れ、しかも使用感も良好であることが認められた。
【0064】
(実施例15)
水系化粧料の一実施形態である水中油型乳化ファンデーションとして、表4に示した成分と配合により実施例及び比較例の水中油型乳化ファンデーションを作成した。具体的な手順を以下に示す。
(f)スクワラン(日光ケミカルズ社製、商品名「スクワラン」)10重量部と、デカメチルシクロペンタシロキサン(信越化学工業社製、商品名「シリコンKF995」)5重量部と、ショ糖脂肪酸エステル(第一工業製薬社製、商品名「コスメライクS−160」)を0.5重量部とを手攪拌で分散させた。
(g)前記(1)で調製したセルロース微粒子分散体50重量部と、1,3−ブチレングリコール8重量部と、グリセリン5重量部と、ショ糖脂肪酸エステル(第一工業製薬社製、商品名「コスメライクS−50」)0.5重量部と、メチルパラベン0.1重量部と、フェノキシエタノール0.05重量部とを手攪拌で分散させた。
(h)シリコーン処理酸化チタン(三好化成社製、SA-チタン CR-50(100%)、平均粒径0.25μm)8重量部と、シリコーン処理タルク(三好化成社製、SA-JA-68R、平均粒径10μm)4重量部と、シリコーン処理酸化黄酸化鉄(三好化成社製、SA-LL-XLO、平均粒径10μm)0.5重量部と、シリコーン処理酸化黒酸化鉄(三好化成社製、SA-BL-100、平均粒径0.4μm)0.06重量部と、シリコーン処理ベンガラ(三好化成社製、SA-ベンガラ七宝)0.5重量部と、エタノール7.79重量部とをホモディスパー型攪拌混合機(同上)を用いて均一な分散状態とした。
(i)前記(g)工程で得た産物に(f)工程で得た産物を加え、ホモミキサー型攪拌混合機を用いて乳化させた。
(e)前記(i)工程で得た産物に前記(h)工程で得た産物を加え、ホモミキサー型攪拌混合機を用いて均一な分散状態とすることにより、実施例15の水中油型乳化ファンデーションを得た。
【0065】
(実施例16)
前記(f)工程においてショ糖脂肪酸エステル(第一工業製薬社製、商品名「コスメライクS−160」)に替えてポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(第一工業製薬社製、「ノイゲンHC−800」)を用い、前記(g)工程においてショ糖脂肪酸エステル(第一工業製薬社製、商品名「コスメライクS−50」)に替えてポリオキシエチレンオレイルセチルエーテル(第一工業製薬社製、「ノイゲンET−69」)を用いることを除き、他は実施例15と同様にして、実施例16の水中油型乳化ファンデーションを得た。
【0066】
(比較例3)
前記(g)工程においてセルロース微粒子分散体50重量部に替え、精製水49.3重量部、カルボキシメチルセルロースナトリウム0.2重量部、及びベントナイト0.5重量部を用いることを除き、他は実施例15と同様にして、比較例3の水中油型乳化ファンデーションを得た。
【0067】
得られた実施例及び比較例の水中油型乳化ファンデーションにつき、前記サンスクリーン剤と同様にして、経時安定性および使用感(のびの軽さ、べたつきの無さ)の評価を行った。結果を表4に示す。
【0068】
【表4】

【0069】
表4に示したように、実施例の水中油型乳化ファンデーションは、比較例の水中油型乳化ファンデーションに比して経時安定性に優れ、しかも使用感も良好であることが認められた。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明に係る水系分散体は、化粧下地、リップグロス、口紅、マスカラ、ファンデーション、アイカラー、アイライナー、アイブロウ、チークカラー等のメイクアップ化粧料や、サンスクリーン剤等の化粧料、及びクリーム製剤などの医薬軟膏品などに好適に使用することができる。
【0071】
また、本発明に係る水系化粧料は、例えば、化粧下地、リップグロス、口紅、マスカラ、ファンデーション、アイカラー、アイライナー、アイブロウ、チークカラー等のメイクアップ化粧料や、サンスクリーン剤等の化粧料として好適に適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均重合度(DP)が300以下であり結晶化率が50%以下であるセルロースを少なくとも一部に有してなり且つ平均粒子径が5μm以下であるセルロース含有微粒子と、疎水性粉体とを含有することを特徴とする水系分散体。
【請求項2】
さらに、アルコール又は分散剤のうち少なくとも何れか一種を含有することを特徴とする請求項1記載の水系分散体。
【請求項3】
さらに、多価アルコールを含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の水系分散体。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載の水系分散体を含有することを特徴とする水系化粧料。

【公開番号】特開2010−138074(P2010−138074A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−106301(P2007−106301)
【出願日】平成19年4月13日(2007.4.13)
【出願人】(000003506)第一工業製薬株式会社 (491)
【Fターム(参考)】