説明

水系塗布型制振材料

【課題】水系塗布型制振材料において、必要な箇所には厚く塗布することができ、実際に塗布される部位による乾燥炉の設定昇温条件からのばらつきがあっても、焼付け乾燥において膨れ・割れ・剥がれ等の塗膜欠陥を生ずることなく、20℃〜60℃の温度範囲で優れた制振性を発揮すること。
【解決手段】一種または二種以上の樹脂エマルジョンを主成分とし、一種または二種以上の造膜助剤と、一種または二種以上の無機質充填剤とを含有し、示差走査熱量測定(DSC)における吸熱反応の開始温度が70℃〜90℃の範囲内であり、樹脂エマルジョンの樹脂全体の重量平均分子量Mw=4万〜11万の範囲内とすることによって、乾燥特性・制振性・耐衝撃性の全てについて優れた特性が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂エマルジョンと無機質充填剤とを含有し、車両のフロア等に用いられ、20℃〜60℃の温度範囲において優れた剛性と制振性とを有し、塗布後に厳しい乾燥条件下に置かれた場合でも膨れ・割れ・剥がれ等の不具合を生じることがない水性エマルジョン系の塗布型制振材料に関するものである。
【0002】
ここで、「エマルジョン(emulsion,エマルションともいう。)」とは、乳濁液ともいい、液体中に液体粒子がコロイド粒子あるいはそれより粗大な粒子として乳状をなすもの(分散系)、が本来の意味であるが(長倉三郎他編「岩波理化学辞典(第5版)」152頁,1998年2月20日株式会社岩波書店発行)、本明細書及び特許請求の範囲、図面、要約書においては、より広い意味で一般的に用いられている「液体中に固体または液体の粒子が分散しているもの」として、「エマルジョン」という用語を用いるものとする。
【背景技術】
【0003】
従来、自動車等の車両のフロア等には振動を防止するために、アスファルトを主成分としたシート状の制振材が設置されていた。しかし、かかるシート状の制振材は車両等に用いる場合には、車種ごとに設置する部分の形状に合わせて切断しなければならず、更にシート状制振材の設置は作業者が行わなければならないため、自動化の障害になり工程時間の短縮を阻害していた。
【0004】
そこで、特許文献1に示されるように、ロボットによる自動化の可能な塗装式の制振組成物(水系制振材用エマルジョン)が開発されている。特許文献1においては、制振材として塗布された厚い塗膜を乾燥させる場合に表面から乾燥して硬化することによって、塗膜内部の水分が蒸発する際に塗膜に膨れを生じたり、クラックが発生したりするのを防止するために、制振材として形成された塗膜の乾燥性を向上させるように、凝固率を一定範囲内に制御した水系制振材用エマルジョンの発明について開示している。
【0005】
この発明に係る水系制振材用エマルジョンは、塗装ロボットによる自動化が可能であり工程時間を短縮できるだけでなく、水系塗料であるため、施工時に従来のシート状制振材におけるアスファルト臭や有機溶剤系塗料における有機溶剤臭を発生しないという長所も兼ね備えているとしている。
【0006】
しかし、かかる塗布型の水系制振材料の場合、塗布条件・乾燥条件等によって、しばしば平面部・垂直面部での塗装不具合(膨れ・割れ・剥がれ等)が発生している。これらの不具合は、部品取り付けの妨げになるとともに、不具合のある塗膜上に作業者が乗ったり、他の部品の装着時の接触・衝撃等を受けたりすることによって、塗膜が破損(剥離)を起こしてしまう等、自動車の生産に影響を及ぼす重大な問題となる。
【0007】
そこで、特許文献2においては、ガラス転移温度が0℃〜20℃でゲル分率が60%〜80%であるスチレン−ブタジエン共重合体、アクリル酸エステル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体から選ばれる少なくとも一種の第一粒状樹脂を含む水性エマルジョンと、第一粒状樹脂100重量部に対して200重量部以上の無機質充填剤とを含む焼付乾燥型水性塗料組成物の発明について開示している。この技術は、樹脂のゲル分率によって塗膜強度を適度に調整することで、塗膜の割れ・膨れ等を抑制する技術である。
【特許文献1】特開2004−115665号公報
【特許文献2】国際公開WO2003/080746号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献2に係る焼付乾燥型水性塗料組成物においては、緩やかな乾燥条件においては塗膜の割れ・膨れ等を防止できても、厚膜(6mm厚以上)で塗布されて直ちに急昇温(160℃×5min等)されるような厳しい乾燥条件下では、塗膜の割れ・膨れ等を防止することができない。すなわち、乾燥機の設定昇温条件がこれより緩やかであったとしても、塗布される部位によって実際の昇温条件は大きくばらつくため、このような厳しい乾燥条件下に曝される部位においては、塗装不具合(膨れ・割れ・剥がれ等)を防止することができないという問題点があった。
【0009】
そこで、本発明は、必要な箇所には厚く塗布することができ、実際に塗布される部位による乾燥炉の設定昇温条件からのばらつきがあっても、焼付け乾燥において膨れ・割れ・剥がれ等の塗膜欠陥を生ずることなく、20℃〜60℃の温度範囲で優れた制振性を発揮する水系塗布型制振材料を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1の発明に係る水系塗布型制振材料は、一種または二種以上の樹脂エマルジョンを主成分とし、一種または二種以上の造膜助剤と、一種または二種以上の無機質充填剤とを含有する水系塗布型制振材料であって、示差走査熱量測定(DSC)における吸熱反応の開始温度が70℃〜90℃の範囲内であるものである。
【0011】
ここで、「樹脂エマルジョン」としては、アクリル樹脂(メタクリル樹脂を含む)エマルジョン、アクリル酸エステル樹脂(メタクリル酸エステル樹脂を含む)エマルジョン、アクリル−スチレンエマルジョン、スチレン−ブタジエンエマルジョン、スチレン−ブタジエン−ラテックス(SBR)エマルジョン、酢酸ビニルエマルジョン、エチレン−酢酸ビニルエマルジョン、エチレン−アクリルエマルジョン、エポキシ樹脂エマルジョン、ウレタン樹脂エマルジョン、フェノール樹脂エマルジョン、ポリエステル樹脂エマルジョン、アクリロニトリル−ブタジエン−ラテックス(NBR)エマルジョン、等のうち一種または二種以上を用いることができる。
【0012】
また、「造膜助剤」としての有機化合物としては、エーテル類・エステル類・グリコール類・グリコールエーテル類またはアルコール類である、イソアミルアルコール、n−オクチルアルコール、n−へキシルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジカルボン酸ジメチル、ジプロピレングリコール−n−ブチルエーテル、3―メチル―3−メトキシブタノール、2−ブトキシエタノール、等のうち一種または二種以上を用いることができる。
【0013】
更に、「無機質充填剤」としては、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、クレイ、タルク(滑石)、マイカ(雲母)、珪藻土、アルミナ、石膏、セメント、転炉スラグ粉末、シラス粉末、ガラス粉末、ガラスフレーク、グラファイト、ヒル石、カオリナイト、ゼオライト、等を用いることができる。
【0014】
請求項2の発明に係る水系塗布型制振材料は、請求項1の構成において、前記一種または二種以上の樹脂エマルジョンの樹脂全体の重量平均分子量がMw=4万〜11万の範囲内であるものである。
【0015】
ここで、「重量平均分子量(Mw)」は、一種または二種以上の樹脂エマルジョンについて、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)によって実際に測定した値をいう。
【0016】
請求項3の発明に係る水系塗布型制振材料は、請求項1または請求項2の構成において、前記樹脂エマルジョンはアクリル樹脂(メタクリル樹脂を含む)エマルジョン、アクリル酸エステル樹脂(メタクリル酸エステル樹脂を含む)エマルジョン、アクリル−スチレンエマルジョン、スチレン−ブタジエンエマルジョン、スチレン−ブタジエン−ラテックス(SBR)エマルジョン、酢酸ビニルエマルジョン、エチレン−酢酸ビニルエマルジョン、エチレン−アクリルエマルジョン、エポキシ樹脂エマルジョン、ウレタン樹脂エマルジョン、フェノール樹脂エマルジョン、ポリエステル樹脂エマルジョン、アクリロニトリル−ブタジエン−ラテックス(NBR)エマルジョンのうち一種または二種以上であるものである。
【0017】
請求項4の発明に係る水系塗布型制振材料は、請求項1乃至請求項3のいずれか1つの構成において、前記無機質充填剤は炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、クレイ、タルク(滑石)、マイカ(雲母)、珪藻土、アルミナ、石膏、セメント、転炉スラグ粉末、シラス粉末、ガラス粉末、ガラスフレーク、グラファイト、ヒル石、カオリナイト、ゼオライトのうち一種または二種以上であるものである。
【0018】
請求項5の発明に係る水系塗布型制振材料は、請求項1乃至請求項4のいずれか1つの構成において、前記一種または二種以上の樹脂エマルジョン100重量部に対して、前記一種または二種以上の造膜助剤を5重量部〜20重量部の範囲内で、前記一種または二種以上の無機質充填剤を50重量部〜200重量部の範囲内で含有するものである。
【発明の効果】
【0019】
請求項1の発明に係る水系塗布型制振材料は、一種または二種以上の樹脂エマルジョンを主成分とし、一種または二種以上の造膜助剤と、一種または二種以上の無機質充填剤とを含有する水系塗布型制振材料であって、示差走査熱量測定(DSC)における吸熱反応の開始温度が70℃〜90℃の範囲内である。
【0020】
本発明者らが鋭意実験研究を積み重ねた結果、樹脂エマルジョンを主成分とし造膜助剤と無機質充填剤とを含有し、DSCにおける吸熱反応の開始温度が70℃〜90℃の範囲内である水系塗布型制振材料は、厚く塗布された後に焼付け乾燥において急激な温度上昇に曝されても、膨れ・割れ・剥がれ等の塗膜欠陥が発生せず、かつ、20℃〜60℃の温度範囲で優れた制振性を発揮することを見出し、この知見に基づいて本発明を完成したものである。
【0021】
すなわち、水系塗布型制振材料についてのDSCにおける吸熱反応は、水分の気化反応に相当するものであり、吸熱反応の開始温度は塗膜からの水分の蒸発の開始温度に相当する。この開始温度が70℃未満であると、塗膜の表面のみが始めに乾燥し、100℃近くの本格的な水分の蒸発時には、この表面の乾燥塗膜が蓋となって乾燥の不具合を生ずることになる。一方、開始温度が90℃を超えると、水分の気化の開始が遅過ぎて突沸状態となり、表面と内部との乾燥のバランスが悪くなって、塗膜に膨れ等が生ずることになるものと考えられる。
【0022】
これに対して、DSCにおける吸熱反応の開始温度が70℃〜90℃の範囲内であれば、水分の気化の開始が適切なタイミングとなって、適度に軟化した塗膜の全体からバランス良く水分が蒸発するために、急激に温度が上昇しても塗膜に膨れ・割れ・剥がれ等の欠陥が発生せず、良好な乾燥塗膜を得ることができる。したがって、実際に水系塗布型制振材料が塗布される部位による乾燥炉の設定昇温条件からのばらつきが大きくても、また塗布膜厚が厚くても、塗膜欠陥が生ずることのない水系塗布型制振材料となる。
【0023】
そして、かかる条件を満たす水系塗布型制振材料であって、樹脂エマルジョンを主成分とし造膜助剤と無機質充填剤とを含有するものは、必要な箇所には厚く塗布することができるため、20℃〜60℃の温度範囲で優れた制振性を発揮することができる。
【0024】
このようにして、必要な箇所には厚く塗布することができ、実際に塗布される部位による乾燥炉の設定昇温条件からのばらつきがあっても、焼付け乾燥において膨れ・割れ・剥がれ等の塗膜欠陥を生ずることなく、20℃〜60℃の温度範囲で優れた制振性を発揮する水系塗布型制振材料となる。
【0025】
請求項2の発明に係る水系塗布型制振材料においては、一種または二種以上の樹脂エマルジョンの樹脂全体の重量平均分子量がMw=4万〜11万の範囲内である。
【0026】
ここで、「重量平均分子量(Mw)」は、一種または二種以上の樹脂エマルジョンについて、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)によって実際に測定した値をいう。
【0027】
本発明者らは、一種または二種以上の樹脂エマルジョンを主成分とし、一種または二種以上の造膜助剤と、一種または二種以上の無機質充填剤とを含有する水系塗布型制振材料において、示差走査熱量測定(DSC)における吸熱反応の開始温度を70℃〜90℃の範囲内とするための手法について、鋭意実験研究を重ねた結果、一種または二種以上の樹脂エマルジョンの樹脂全体の重量平均分子量をMw=4万〜11万の範囲内とすることが有効であることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成したものである。
【0028】
すなわち、樹脂エマルジョンの樹脂全体の重量平均分子量(Mw)が4万未満であると、塗膜強度が弱くなるため低温での水蒸気圧に耐えられず、蒸発開始温度(吸熱反応の開始温度)が70℃未満になり、一方重量平均分子量(Mw)が11万を超えると、塗膜強度が高くなるとともに水蒸気の通る微細孔が塗膜内部に形成され難くなり、蒸発開始温度が90℃を超えてしまうものと考えられる。したがって、樹脂エマルジョンの樹脂全体の重量平均分子量はMw=4万〜11万の範囲内とすることが必要である。
【0029】
そして、かかる条件を満たす水系塗布型制振材料であって、樹脂エマルジョンを主成分とし造膜助剤と無機質充填剤とを含有するものは、必要な箇所には厚く塗布することができるとともに、Mw=4万〜11万の範囲内という適切な重量平均分子量を持った樹脂エマルジョンを主成分とするため、20℃〜60℃の温度範囲で優れた制振性を発揮することができる。
【0030】
このようにして、必要な箇所には厚く塗布することができ、実際に塗布される部位による乾燥炉の設定昇温条件からのばらつきがあっても、焼付け乾燥において膨れ・割れ・剥がれ等の塗膜欠陥を生ずることなく、20℃〜60℃の温度範囲で優れた制振性を発揮する水系塗布型制振材料となる。
【0031】
請求項3の発明に係る水系塗布型制振材料においては、樹脂エマルジョンがアクリル樹脂(メタクリル樹脂を含む)エマルジョン、アクリル酸エステル樹脂(メタクリル酸エステル樹脂を含む)エマルジョン、アクリル−スチレンエマルジョン、スチレン−ブタジエンエマルジョン、スチレン−ブタジエン−ラテックス(SBR)エマルジョン、酢酸ビニルエマルジョン、エチレン−酢酸ビニルエマルジョン、エチレン−アクリルエマルジョン、エポキシ樹脂エマルジョン、ウレタン樹脂エマルジョン、フェノール樹脂エマルジョン、ポリエステル樹脂エマルジョン、アクリロニトリル−ブタジエン−ラテックス(NBR)エマルジョンのうち一種または二種以上である。
【0032】
これらの樹脂エマルジョンは、汎用性があって入手が容易であり、一種または二種以上で樹脂全体の重量平均分子量をMw=4万〜11万の範囲内とすることも容易であるため、本発明に係る水系塗布型制振材料の主成分となる樹脂エマルジョンとして用いるのに適している。
【0033】
特に、アクリル樹脂(メタクリル樹脂を含む)エマルジョン、アクリル−スチレンエマルジョン、スチレン−ブタジエン−ラテックス(SBR)エマルジョンを単独で、または混合して用いることが好ましい。
【0034】
このようにして、必要な箇所には厚く塗布することができ、実際に塗布される部位による乾燥炉の設定昇温条件からのばらつきがあっても、焼付け乾燥において膨れ・割れ・剥がれ等の塗膜欠陥を生ずることなく、20℃〜60℃の温度範囲で優れた制振性を発揮する水系塗布型制振材料となる。
【0035】
請求項4の発明に係る水系塗布型制振材料においては、無機質充填剤が炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、クレイ、タルク(滑石)、マイカ(雲母)、珪藻土、アルミナ、石膏、セメント、転炉スラグ粉末、シラス粉末、ガラス粉末、ガラスフレーク、グラファイト、ヒル石、カオリナイト、ゼオライトのうち一種または二種以上である。
【0036】
これらの無機材料は、入手が容易で安価であるため、水系塗布型制振材料に用いられる無機質充填剤として適している。
【0037】
特に、無機質充填剤が炭酸カルシウム、硫酸バリウム、タルク(滑石)、マイカ(雲母)、珪藻土のうち一種または二種以上であることがより好ましい。これらの無機質充填剤は、いずれも入手がより容易でより安価であり、樹脂エマルジョンとの相性も良いので、水系塗布型制振材料に配合することによって、水系塗布型制振材料の製造コストを低減できるとともに、良好な制振特性を得ることができる。
【0038】
このようにして、必要な箇所には厚く塗布することができ、実際に塗布される部位による乾燥炉の設定昇温条件からのばらつきがあっても、焼付け乾燥において膨れ・割れ・剥がれ等の塗膜欠陥を生ずることなく、20℃〜60℃の温度範囲で優れた制振性を発揮する水系塗布型制振材料となる。
【0039】
請求項5の発明に係る水系塗布型制振材料においては、一種または二種以上の樹脂エマルジョン100重量部に対して、一種または二種以上の造膜助剤を5重量部〜20重量部の範囲内で、より好ましくは7重量部〜15重量部の範囲内で、一種または二種以上の無機質充填剤を50重量部〜200重量部の範囲内で、より好ましくは100重量部〜150重量部の範囲内で含有する。
【0040】
本発明者らは、本発明に係る水系塗布型制振材料における各成分の配合比について、鋭意実験研究を重ねた結果、樹脂エマルジョン100重量部に対して、造膜助剤を5重量部〜20重量部の範囲内で、無機質充填剤を50重量部〜200重量部の範囲内で、それぞれ配合した場合に塗膜の乾燥性についても、乾燥塗膜の制振性についても、より好ましい結果が得られることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成したものである。
【0041】
更に、樹脂エマルジョン100重量部に対して、造膜助剤を7重量部〜15重量部の範囲内で、無機質充填剤を100重量部〜150重量部の範囲内で、それぞれ配合した場合には、塗膜の乾燥性についても、乾燥塗膜の制振性についても、更に好ましい結果が得られるため、より好ましい。
【0042】
このようにして、必要な箇所には厚く塗布することができ、実際に塗布される部位による乾燥炉の設定昇温条件からのばらつきがあっても、焼付け乾燥において膨れ・割れ・剥がれ等の塗膜欠陥を生ずることなく、20℃〜60℃の温度範囲で優れた制振性を発揮する水系塗布型制振材料となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
以下、本発明の実施の形態に係る水系塗布型制振材料について、図1を参照して説明する。図1は本実施の形態(実施例1,2,3)に係る水系塗布型制振材料についての示差走査熱量測定(DSC)の測定結果を、比較例(比較例1,2)に係る水系塗布型制振材料と比較して示すグラフである。
【0044】
まず、本実施の形態に係る水系塗布型制振材料の配合について説明する。本実施の形態に係る水系塗布型制振材料においては、樹脂エマルジョンとして、アクリル樹脂エマルジョン(重量平均分子量Mw=8万)(実施例1)、アクリル樹脂エマルジョンとスチレン−ブタジエン−ラテックス(SBR)エマルジョンの混合物(Mw=11万)(実施例2)、アクリル−スチレンエマルジョンとSBRエマルジョンの混合物(Mw=4万)(実施例3)、をそれぞれ用いた。
【0045】
また、比較例として、SBRエマルジョンを単体で(Mw=15万以上)(比較例1)、アクリル−スチレンエマルジョンを単体で(Mw=3万)(比較例2)、それぞれ用いた。本実施の形態に係る水系塗布型制振材料の配合を、比較例とともに、表1の上段に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
表1に示されるように、実施例1,2,3及び比較例1,2の各配合を通して、樹脂エマルジョン(アクリル樹脂エマルジョン、アクリル−スチレンエマルジョン、SBRエマルジョンのうちいずれか1種以上)の合計配合量は全て40重量%に統一した。また、無機質充填剤の配合量も全て50重量%に、添加剤の配合量も全て10重量%に、それぞれ統一した。
【0048】
ここで、無機質充填剤としては、炭酸カルシウムを使用した。また、添加剤としては、分散剤を0.5重量%、消泡剤を0.5重量%、タレ止め剤を5重量%、膨れ防止剤を1重量%、造膜助剤を3重量%用いて、合計10重量%とした。したがって、樹脂エマルジョン100重量部に対する無機質充填剤の配合量は125重量部であり、造膜助剤の配合量は7.5重量部となり、請求項5に係る発明の要件を満たしている。
【0049】
したがって、実施例1,2,3及び比較例1,2の各配合において異なるのは、表1に示されるエマルジョン樹脂の種類のみである。これらの配合にしたがって、それぞれの成分を混合し、高速攪拌器を用いて脱泡攪拌して、各配合の水系塗布型制振材料を作製した。
【0050】
表1に示されるように、実施例1においては、エマルジョン樹脂としてアクリル樹脂エマルジョン(Mw=8万)を用いており、実施例2においては、アクリル樹脂エマルジョンとSBRエマルジョンの混合物(Mw=11万)を用いており、実施例3においては、アクリル−スチレンエマルジョンとSBRエマルジョンの混合物(Mw=4万)を用いている。したがって、本実施の形態の実施例1,2,3の各配合においては、いずれも樹脂全体の重量平均分子量がMw=4万〜11万の範囲内であり、請求項2に係る発明の要件を満たしている。
【0051】
これに対して、表1に示されるように、比較例1においては、エマルジョン樹脂としてSBRエマルジョンを単体で(Mw=15万以上)用いており、比較例2においては、アクリル−スチレンエマルジョンを単体で(Mw=3万)用いている。したがって、比較例1,2の各配合においては、いずれも樹脂全体の重量平均分子量がMw=4万〜11万の範囲内になく、請求項2に係る発明の要件を満たしていない。
【0052】
これらの各配合に係る水系塗布型制振材料について、示差走査熱量測定(DSC)を実施した。測定方法としては、装置として熱流束型DSCを使用し、試料容器には蓋付きの簡易密閉型アルミニウム容器を使用し、各水系塗布型制振材料の試料を上記容器に20mg±1%内に秤量して入れ、アルミニウム製の蓋をした。測定容器内の雰囲気は、窒素を30ml/minの流量で流して不活性ガス雰囲気とし、室温20℃から135℃まで昇温速度10℃/minで測定した。測定結果を、図1に示す。
【0053】
図1に示されるように、実施例1,2,3の試料については、いずれもDSCにおける吸熱反応(水分の気化反応)の開始温度が70℃〜90℃の範囲内であり、請求項1に係る発明の要件を満たしている。
【0054】
これに対して、比較例1の試料については、DSCにおける吸熱反応の開始温度が90℃を超えており、一方比較例2の試料については、60℃以下においてDSCにおける吸熱反応が始まっている。したがって、比較例1,2の試料については、DSCにおける吸熱反応の開始温度が70℃〜90℃の範囲内になく、請求項1に係る発明の要件を満たしていない。
【0055】
次に、各配合に係る水系塗布型制振材料について、乾燥特性・制振性・耐衝撃性の評価を行った。乾燥特性の評価方法としては、150mm×150mm×0.8mmの電着鋼板に、100mm×100mm×7mm厚に水系塗布型制振材料を塗布して、直ちに100℃/130℃/160℃に調整した乾燥炉へ投入して、30分間の焼付け乾燥を行った。乾燥後、塗膜を観察して、膨れ・割れ・剥がれのないものを合格(○)とし、膨れ・割れ・剥がれのあるものを不合格(×)とした。
【0056】
また、制振性の評価方法としては、10mm×220mm×1.6mmのED鋼板に、10mm×200mmの面積で面密度4kg/m2 となるように水系塗布型制振材料を塗布して、130℃で30分間焼付け乾燥したものを、片持ち梁法で二次共振周波数を測定し、半値幅法で損失係数を算出した。
【0057】
更に、耐衝撃性の評価方法としては、乾燥特性の評価に用いた試験片(130℃乾燥品)を使用して、試験片の塗膜面を下向きとして接地しないようにスペーサーを挟んで設置し、塗膜中央部に高さ2mから1kgの鉄球を落下させ、塗膜の割れ・剥がれの有無を評価することによって、塗膜の強度(密着性)を試験した。そして、塗膜に割れ・剥がれが生じなかったものを合格(○)とし、塗膜に割れ・剥がれが生じたものを不合格(×)とした。
【0058】
以上の評価結果及び総合判定の結果を、表1の下段に示す。表1の下段に示されるように、本実施の形態の実施例1,2,3に係る水系塗布型制振材料については、100℃,130℃,160℃のいずれの乾燥温度においても、膨れ・割れ・剥がれは一切生ぜず、乾燥性については全て合格(○)の評価となっている。これに対して、比較例1,2については、比較例1の100℃のみが合格(○)の評価で、他は全て膨れ・割れ・剥がれが発生して不合格(×)の評価となっている。
【0059】
また、制振性についても、本実施の形態の実施例1,2,3に係る水系塗布型制振材料は、20℃,40℃,60℃のいずれの測定温度においても、損失係数が0.06以上であり制振性が優れていることが分かる。これに対して、比較例1については、60℃の測定温度において損失係数が0.03と小さく、比較例2については、20℃の測定温度において損失係数が0.04と小さく、いずれも制振性に劣る温度領域を有している。
【0060】
更に、耐衝撃性についても、本実施の形態の実施例1,2,3に係る水系塗布型制振材料は、いずれも塗膜に割れ・剥がれが生じずに合格(○)の評価となっている。これに対して、比較例1については塗膜に割れ・剥がれが生じずに合格(○)の評価となっているが、比較例2については塗膜に割れ・剥がれが生じて不合格(×)の評価となっている。
【0061】
そして、総合判定として、請求項1及び請求項2に係る発明の要件を満たしている本実施の形態の実施例1,2,3に係る水系塗布型制振材料は、乾燥特性・制振性・耐衝撃性の全てについて優れており、合格(○)の評価となっている。これに対して、請求項1及び請求項2に係る発明の要件をいずれも満たしていない比較例1,2については、乾燥特性・制振性・耐衝撃性のうち2つ以上に問題があり、総合判定においても不合格(×)の評価となっている。
【0062】
したがって、本実施の形態に係る水系塗布型制振材料(実施例1〜実施例3)は、車両のフロア部、トランクルーム、ダッシュ部等に塗装ロボット等を用いて自動施工が可能であり、揮発性有機化合物(VOC)を殆ど含有しないため環境にも優しく、必要な箇所には厚く塗布することができ、実際に塗布される部位による乾燥炉の設定昇温条件からのばらつきがあっても、焼付け乾燥において膨れ・割れ・剥がれ等の塗膜欠陥を生ずることなく、20℃〜60℃の温度範囲で優れた制振性を発揮する。
【0063】
本実施の形態においては、樹脂エマルジョンとして、重量平均分子量Mw=8万のアクリル樹脂エマルジョン、重量平均分子量Mw=11万のアクリル樹脂エマルジョンとSBRエマルジョンの混合物、重量平均分子量Mw=4万のアクリル−スチレンエマルジョンとSBRエマルジョンの混合物を用いた例について説明したが、これら以外にも、重量平均分子量Mw=4万〜11万の範囲内であれば、メタクリル樹脂エマルジョン、アクリル酸エステル樹脂(メタクリル酸エステル樹脂を含む)エマルジョン、スチレン−ブタジエンエマルジョン、酢酸ビニルエマルジョン、エチレン−酢酸ビニルエマルジョン、エチレン−アクリルエマルジョン、エポキシ樹脂エマルジョン、ウレタン樹脂エマルジョン、フェノール樹脂エマルジョン、ポリエステル樹脂エマルジョン、アクリロニトリル−ブタジエン−ラテックス(NBR)エマルジョンのうち一種または二種以上を用いることができる。
【0064】
また、本実施の形態においては、無機質充填剤として炭酸カルシウムを用いているが、他にも、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、クレイ、タルク(滑石)、マイカ(雲母)、珪藻土、アルミナ、石膏、セメント、転炉スラグ粉末、シラス粉末、ガラス粉末、ガラスフレーク、グラファイト、ヒル石、カオリナイト、ゼオライト、等を単独で、または混合物として用いることができる。
【0065】
水系塗布型制振材料のその他の組成、成分、配合量、材質、大きさ、製造方法等についても、本実施の形態に限定されるものではない。なお、本発明の実施の形態で挙げている数値は、臨界値を示すものではなく、実施に好適な好適値を示すものであるから、上記数値を若干変更してもその実施を否定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】図1は本実施の形態(実施例1,2,3)に係る水系塗布型制振材料についての示差走査熱量測定(DSC)の測定結果を、比較例(比較例1,2)に係る水系塗布型制振材料と比較して示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一種または二種以上の樹脂エマルジョンを主成分とし、一種または二種以上の造膜助剤と、一種または二種以上の無機質充填剤とを含有する水系塗布型制振材料であって、
示差走査熱量測定(DSC)における吸熱反応の開始温度が70℃〜90℃の範囲内であることを特徴とする水系塗布型制振材料。
【請求項2】
前記一種または二種以上の樹脂エマルジョンの樹脂全体の重量平均分子量がMw=4万〜11万の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の水系塗布型制振材料。
【請求項3】
前記樹脂エマルジョンはアクリル樹脂(メタクリル樹脂を含む)エマルジョン、アクリル酸エステル樹脂(メタクリル酸エステル樹脂を含む)エマルジョン、アクリル−スチレンエマルジョン、スチレン−ブタジエンエマルジョン、スチレン−ブタジエン−ラテックス(SBR)エマルジョン、酢酸ビニルエマルジョン、エチレン−酢酸ビニルエマルジョン、エチレン−アクリルエマルジョン、エポキシ樹脂エマルジョン、ウレタン樹脂エマルジョン、フェノール樹脂エマルジョン、ポリエステル樹脂エマルジョン、アクリロニトリル−ブタジエン−ラテックス(NBR)エマルジョンのうち一種または二種以上であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の水系塗布型制振材料。
【請求項4】
前記無機質充填剤は炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、クレイ、タルク(滑石)、マイカ(雲母)、珪藻土、アルミナ、石膏、セメント、転炉スラグ粉末、シラス粉末、ガラス粉末、ガラスフレーク、グラファイト、ヒル石、カオリナイト、ゼオライトのうち一種または二種以上であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1つに記載の水系塗布型制振材料。
【請求項5】
前記一種または二種以上の樹脂エマルジョン100重量部に対して、前記一種または二種以上の造膜助剤を5重量部〜20重量部の範囲内で、前記一種または二種以上の無機質充填剤を50重量部〜200重量部の範囲内で含有することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1つに記載の水系塗布型制振材料。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2009−73925(P2009−73925A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−243982(P2007−243982)
【出願日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【出願人】(000100780)アイシン化工株式会社 (171)
【Fターム(参考)】