説明

水系塗料用組成物、その製造方法および被膜

【課題】有機溶剤を使用せずに、水系であってもプラスチック基材に対して密着性が高く、耐水性、耐アルコール性、耐薬品性を有する被膜を成形することができ、保存時においても安定して品質を保持することができる水系塗料用組成物やその製造方法を提供すること。また、火災や爆発の危険性を排除して、労働安全衛生上の問題がなく、健康上安全性が高く、環境汚染の問題を抑制して成形することができる被膜を提供すること。
【解決手段】特定の組成のコア重合体(A)および特定の組成のシェル重合体(B)からなる多段重合体と、2個以上のヒドラジド基を有するヒドラジド化合物とから得られるヒドラジド基含有多段重合体を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック基材に対して密着性、耐水性、耐アルコール性、耐薬品性に優れた被膜を形成することができる水系塗料用組成物やその製造方法、これを用いて基材上に成形された被膜に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック基材の表面保護或いは、これらの美観を保つ目的で、これらプラスチック基材表面に被膜を成形するのに、従来各種有機溶剤に溶解したコーティング剤が一般的に用いられている。しかし有機溶剤型コーティング剤は、火災や爆発の危険があり、また毒性を有するため労働安全衛生上、健康上、環境汚染等数多くの問題があり、水系コーティング剤への移行が望まれている。プラスチック基材と、この上にコーティング剤を塗布して成形されるコーティング被膜との密着は、有機溶剤型コーティング剤を用いた場合、コーティング剤に含まれる有機溶剤が、プラスチック基材表面を溶解し被膜成分とプラスチック基材とを一体化して強固なものとなる。しかし、水系コーティング剤を用いた場合、溶媒によるプラスチック基材表面と被膜成分との一体化作用は期待できず、コーティング被膜とプラスチック基材との密着性は充分でない。
【0003】
このような水系塗料における基材と被膜との密着性の向上を図るため、被膜形成用樹脂分散液として、カルボニル基を含有する乳化重合物にヒドラジン誘導体を配合した自己架橋型樹脂水性分散液(特許文献1)が報告されている。また、コア成分にカルボニル基を含有させたコア/シェル型エマルジョンに、ヒドラジド基が含まれた化合物を配合させた常温硬化性プラスチック水系塗料組成物(特許文献2)が報告されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載される自己架橋型樹脂水性分散液では、カルボニル基とヒドラジド基の架橋反応が充分でなく、耐薬品性や耐アルコール性は充分でない。また、架橋反応を充分に行おうとすると多量のカルボニル基とヒドラジド基が必要になり、貯蔵時の安定性の低下や塗料コストが高くなり実用性に問題がある。特許文献2に記載される常温硬化性プラスチック水系塗料組成物では、コア成分にカルボニル基を含有させたコア/シェル型エマルションに、ヒドラジド基が含まれた化合物を配合させた常温硬化性プラスチック水系塗料組成物が記載されているが、ヒドラジド基の架橋反応が充分でなく、塗膜の耐薬品性や耐アルコール性が充分ではない。
【特許文献1】特開平05−51559号公報
【特許文献2】特開平07−26208号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、有機溶剤を使用せずに、水系であってもプラスチック基材に対して密着性が高く、耐水性、耐アルコール性、耐薬品性を有する被膜を成形することができ、保存時においても安定して品質を保持することができる水系塗料用組成物やその製造方法を提供することにある。また、火災や爆発の危険性を排除して、労働安全衛生上の問題がなく、健康上安全性が高く、環境汚染を抑制して成形することができる被膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は鋭意検討の結果、特定の組成の単量体成分を乳化重合して得られる重合体を含むエマルジョン中で、特定の単量体成分を乳化重合し、多段重合によって得られる多段重合体を含むエマルジョンに、2個以上のヒドラジド基を有するヒドラジド化合物とを含有させて得られるエマルジョンは、これを用いてプラスチック基材上に成形した被膜において、基材との密着性に優れ、耐水性、耐アルコール性に優れるものであることの知見を得た。かかる知見に基づき本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明は、コア重合体(A)およびシェル重合体(B)からなる多段重合体と、ヒドラジド化合物とから得られるヒドラジド基含有多段重合体を含む水系塗料用組成物であって、コア重合体(A)が(メタ)アクリレート(a1)単位45〜99.9質量%、酸基含有単量体(a2)単位0.1〜5質量%、a1及びa2と共重合可能なビニル系単量体(a3)単位0〜50質量%(但し、a1単位、a2単位およびa3単位の質量%の総和が100質量%である。)とを含み、シェル重合体(B)が芳香族ビニル系単量体(b1)単位10〜90質量%、カルボニル基含有単量体(b2)単位1〜30質量%、酸基含有単量体(b3)単位0.1〜5質量%、b1、b2およびb3と共重合可能なビニル系単量体(b4)単位0〜80質量%(但し、b1単位、b2単位、b3単位およびb4単位の質量%の総和が100質量%である。)とを含み、多段重合体がコア重合体(A)とシェル重合体(B)とを質量比10/90〜90/10の範囲で含み、ヒドラジド化合物が2個以上のヒドラジド基を有し、ヒドラジド基含有多段重合体がシェル重合体(B)に含まれるカルボニル基1モルに対して、ヒドラジド基が0.1〜2.0モルとなる範囲でヒドラジド化合物単位を含むことを特徴とする水系塗料用組成物に関する。
【0008】
また、本発明は、コア重合体(A)とシェル重合体(B)とからなる多段重合体と、ヒドラジド化合物とから得られるヒドラジド基含有多段重合体を含む水系塗料用組成物の製造方法であって、(メタ)アクリレート(a1)45〜99.9質量%、酸基含有単量体(a2)0.1〜5質量%、a1及びa2と共重合可能なビニル系単量体(a3)0〜50質量%(但し、a1単位、a2単位およびa3単位の質量%の総和が100質量%である。)とを乳化重合して得られるコア重合体(A)を含むエマルジョン(a)中で、芳香族ビニル系単量体(b1)10〜90質量%、カルボニル基含有単量体(b2)1〜30質量%、酸基含有単量体(b3)0.1〜5質量%、b1、b2およびb3と共重合可能なビニル系単量体(b4)0〜80質量%(但し、b1単位、b2単位、b3単位およびb4単位の質量%の総和が100質量%である。)とを乳化重合してシェル重合体(B)を生成し、コア重合体(A)とシェル重合体(B)とを質量比として10/90〜90/10の範囲で含む多段重合体を含むエマルジョン(b)に、2個以上のヒドラジド基を有するヒドラジド化合物を、シェル重合体(B)に含まれるカルボニル基1モルに対して、ヒドラジド基が0.1〜2.0モルとなる範囲で含有させることを特徴とする水系塗料用組成物の製造方法に関する。
【0009】
また、本発明は、上記水系塗料用組成物を用いて基材上に成形したものであることを特徴とする被膜に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の水系塗料用組成物は、有機溶剤を使用せずに、水系であってもプラスチック基材に対して密着性が高く、耐水性、耐アルコール性、耐薬品性を有する被膜を成形することができ、保存時においても安定して品質を保持することができる。また、本発明の水系塗料用組成物の製造方法や、本発明の被膜は、火災や爆発の危険性を排除して、労働安全衛生上の問題がなく、健康上安全性が高く、環境汚染を抑制して水系塗料用組成物を製造し、被膜を成形することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の水系塗料用組成物は、コア重合体(A)およびシェル重合体(B)からなる多段重合体と、ヒドラジド化合物とから得られるヒドラジド基含有多段重合体を含む水系塗料用組成物であって、コア重合体(A)が(メタ)アクリレート(a1)単位45〜99.9質量%、酸基含有単量体(a2)単位0.1〜5質量%、a1及びa2と共重合可能なビニル系単量体(a3)単位0〜50質量%(但し、a1単位、a2単位およびa3単位の質量%の総和が100質量%である。)とを含み、シェル重合体(B)が芳香族ビニル系単量体(b1)単位10〜90質量%、カルボニル基含有単量体(b2)単位1〜30質量%、酸基含有単量体(b3)単位0.1〜5質量%、b1、b2およびb3と共重合可能なビニル系単量体(b4)単位0〜80質量%(但し、b1単位、b2単位、b3単位およびb4単位の質量%の総和が100質量%である。)とを含み、多段重合体がコア重合体(A)とシェル重合体(B)とを質量比10/90〜90/10の範囲で含み、ヒドラジド化合物が2個以上のヒドラジド基を有し、ヒドラジド基含有多段重合体がシェル重合体(B)に含まれるカルボニル基1モルに対して、ヒドラジド基が0.1〜2.0モルとなる範囲でヒドラジド化合物単位を含むことを特徴とする。
【0012】
本発明の水系塗料用組成物に含まれるヒドラジド基含有多段重合体は、多段重合体と、ヒドラジド化合物とから得られるものであり、これに用いる多段重合体は、コア重合体(A)およびシェル重合体(B)からなり、核となるコア重合体(A)の表面にシェル重合体(B)が形成された多段構造を有するものである。このような多段重合体から得られる水系塗料用組成物において、単層重合体では得られない基材、特にプラスチック基材との密着性、耐アルコール性などの被膜性能を向上させることができる。
【0013】
上記多段重合体に含まれるコア重合体(A)は、(メタ)アクリレート(a1)単位45〜99.9質量%、酸基含有単量体(a2)単位0.1〜5質量%、a1及びa2と共重合可能なビニル系単量体(a3)単位0〜50質量%(但し、a1単位、a2単位およびa3単位の質量%の総和が100質量%である。)とを含む。ここで「(メタ)アクリレート」の表示はメチルアクリレートまたはアクリレートを示し、「(メタ)アクリル酸」の表示は、メチルアクリル酸またはアクリル酸を示す。
【0014】
コア重合体(A)に含まれる(メタ)アクリレート(a1)単位を構成する(メタ)アクリレート(a1)としては、具体的には、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−ラウリル(メタ)アクリレート、n−ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレートなどを挙げることができる。これらは必要に応じて1種または2種以上を適宜選択して含有させることができる。これらのうち、成形した被膜の基材への密着性への点から、メチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0015】
上記コア重合体(A)に含まれる酸基含有単量体(a2)単位を構成する酸基含有単量体(a2)としては、具体的には、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、シトラコン酸、マレイン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノブチル、イタコン酸モノメチル、イタコン酸モノブチル、ビニル安息香酸、シュウ酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフタル酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフタル酸モノヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、5−メチル−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、フタル酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、フタル酸モノヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、マレイン酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、マレイン酸ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフタル酸モノヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。これらは必要に応じて1種または2種以上を適宜選択して含有させることができる。これらのうち、成形した被膜の基材への密着性への点から、(メタ)アクリル酸が好ましい。
【0016】
上記コア重合体(A)に含まれるa1及びa2と共重合可能なビニル系単量体(a3)単位を構成するビニル系単量体(a3)としては、具体的には、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、アルキル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、またはこれらとε−カプロラクトンとの付加物などの水酸基含有ビニル系単量体、N−シクロヘキシルマレイミド、N−ブチルマレイミド等のマレイミド誘導体、アクロレイン、ジアセトンアクリルアミド、ホルミルスチロ−ル、ビニルアルキルケトン、(メタ)アクリルアミドピバリンアルデヒド、ジアセトン(メタ)アクリレ−ト、アセトニルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレ−トアセチルアセテート、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、ブタンジオ−ル−1,4−アクリレート−アセチルアセテート、アクリルアミドメチルアニスアルデヒドのアルデヒド基またはカルボニル基を有するビニル単量体、(メタ)アクリルアミド、クロトンアミド、N−メチロールアクリルアミド等のアミド基含有ビニル性単量体、アリルグリシジルエーテル、グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有ビニル性単量体、スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル性単量体、アクリロニトリル等のニトリル基含有ビニル性単量体、ブタジエン等のオレフィン系単量体、更に、内部架橋反応するジビニルベンゼンや、ジアリルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート;1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、メチレンビス(メタ)アクリルアミド、トリアリルシアヌレート、などの分子中に重合性不飽和二重結合を2個以上有する単量体等を挙げることができる。これらは1種または2種以上を組み合わせて含有させることができる。
【0017】
上記コア重合体(A)中における(メタ)アクリレート(a1)単位の含有量としては、45〜99.9質量%であり、好ましくは50〜99.9質量%であり、より好ましくは60〜99.9質量%である。(メタ)アクリレート(a1)単位のコア重合体(A)中の含有量が、上記範囲であると基材、特にプラスチック基体への密着性が良好な被膜を成形することができる。
【0018】
また、コア重合体(A)中における酸基含有単量体(a2)単位の含有量としては、0.1〜5質量%であり、好ましくは0.3〜3質量%であり、より好ましくは0.5〜3質量%である。この酸基含有単量体(a2)単位のコア重合体(A)中の含有量が、0.1質量%以上であると基材、特にプラスチック基材への密着性が良好な被膜を得ることができ、5質量%以下であると耐水性や耐アルコール性が良好な被膜を得ることができる。
【0019】
また、コア重合体(A)中におけるa1及びa2と共重合可能なビニル系単量体(a3)単位の含有量としては、0〜50質量%である。このビニル系単量体(a3)単位のコア重合体(A)中の含有量が50質量%以下であると、基材、特にプラスチック基材への密着性が良好な被膜を得ることができる。このビニル系単量体(a3)単位はコア重合体(A)の単位として含まれない場合もある。
【0020】
上記a1単位、a2単位およびa3単位の質量%の総和は100質量%であり、コア重合体(A)は上記a1単位、a2単位、a3単位以外の単位を含まない。
【0021】
上記多段重合体に含まれるシェル重合体(B)は、芳香族ビニル系単量体(b1)単位10〜90質量%、カルボニル基含有単量体(b2)単位1〜30質量%、酸基含有単量体(b3)単位0.1〜5質量%、b1、b2およびb3と共重合可能なビニル系単量体(b4)単位0〜80質量%(但し、b1単位、b2単位、b3単位およびb4単位の質量%の総和が100質量%である。)とを含む。
【0022】
シェル重合体(B)に含まれる芳香族ビニル系単量体(b1)単位を構成する芳香族ビニル系単量体(b1)としては、具体的には、スチレン、α−メチルスチレン、クロルスチレン等のスチレン系モノマー、ビニルトルエン、エチルビニルベンゼン等のアルキルビニルベンゼン、ビニルナフタレン等の多環芳香族ビニル化合物を挙げることができる。これらは1種または2種以上を組み合わせて含有させることができる。これらのうち、特に、スチレン系モノマーが好ましく、なかでもスチレンが好ましい。
【0023】
シェル重合体(B)に含まれるカルボニル基含有単量体(b2)単位を構成するカルボニル基含有単量体(b2)としては、具体的には、アクロレイン、ダイアセトンアクリルアミド、ホルミルスチロール、ビニルアルキルケトン等を挙げることができる。好ましくは、炭素数4〜7個のビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルイソブチルケトン、(メタ)アクリルオキシアルキルプロパナールの他、(メタ)アクリルアミド、ピバリンアルデヒド、ジアセトン(メタ)アクリレート、アセトニトリルアクリレート、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート等を挙げることができ、中でも、ダイアセトンアクリルアミドが特に好ましい。これらは1種または2種以上を組み合わせて含有させることができる。
【0024】
シェル重合体(B)に含まれる酸基含有単量体(b3)単位を構成する酸基含有単量体(b3)としては、具体的には、上記コア重合体(A)に含まれる酸基含有単量体(a2)において例示した酸基含有単量体と同様のものを挙げることができる。
【0025】
シェル重合体(B)に含まれるb1、b2およびb3と共重合可能なビニル系単量体(b4)単位を構成するビニル系単量体(b4)としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−ラウリル(メタ)アクリレート、n−ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、アルキル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、またはこれらとε−カプロラクトンとの付加物などの水酸基含有ビニル系単量体、N−シクロヘキシルマレイミド、N−ブチルマレイミド等のマレイミド誘導体、(メタ)アクリルアミド、クロトンアミド、N−メチロールアクリルアミド等のアミド基含有ビニル性単量体、アリルグリシジルエーテル、グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有ビニル性単量体、アクリロニトリル等のニトリル基含有ビニル性単量体、ブタジエン等のオレフィン系単量体、更に、内部架橋反応するジビニルベンゼンや、ジアリルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート;1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、メチレンビス(メタ)アクリルアミド、トリアリルシアヌレートなどの分子中に重合性不飽和二重結合を2個以上有する単量体等を挙げることができる。これらは1種または2種以上を組み合わせて含有させることができる。
【0026】
上記シェル重合体(B)中における芳香族ビニル系単量体(b1)単位の含有量としては、10〜90質量%であり、好ましくは20〜90質量%、より好ましくは30〜80質量%である。芳香族ビニル系単量体(b1)単位のシェル重合体(B)中の含有量が、上記範囲であると基材、特にプラスチック基材への密着性や耐アルコール性が良好な被膜を得ることができる。
【0027】
また、上記シェル重合体(B)中におけるカルボニル基含有単量体(b2)単位の含有量としては、1〜30質量%であり、好ましくは5〜30質量%、より好ましくは10〜25質量%である。カルボニル基含有単量体(b2)単位のシェル重合体(B)中の含有量が、1質量%以上であると耐アルコール性や耐薬品性が良好な被膜を得ることができ、30質量%以下であると基材、特にプラスチック基材への密着性や耐水性が良好な被膜を得ることができる。
【0028】
また、上記シェル重合体(B)中における酸基含有単量体(b3)単位の含有量としては0.1〜5質量%であり、好ましくは0.3〜3質量%であり、より好ましくは0.5〜3質量%である。酸基含有単量体(b3)単位のシェル重合体(B)中の含有量が、0.1質量%以上であると基材、特にプラスチック基材への密着性が良好な被膜を得ることができ、5質量%以下とあると耐水性や耐アルコール性が良好な被膜を得ることができる。
【0029】
また、コア重合体(B)中におけるb1、b2およびb3と共重合可能なビニル系単量体(b4)単位の含有量としては、0〜80質量%である。ビニル系単量体(b4)単位のシェル重合体(B)中の含有量が80質量%以下であると、基材、特にプラスチック基材への密着性が良好な被膜を得ることができる。このビニル系単量体(b4)単位はシェル重合体(B)の単位として含まれない場合もある。
【0030】
上記b1単位、b2単位、b3単位およびb4単位の質量%の総和は100質量%であり、シェル重合体(B)は上記b1単位、b2単位、b3単位、b4単位以外の単位を含まない。
【0031】
このようなコア重合体(A)とシェル重合体(B)とを含む多段重合体中、コア重合体(A)とシェル重合体(B)との質量比は10/90〜90/10の範囲である。コア重合体(A)とシェル重合体(B)とをこの範囲で含有することにより、耐アルコール性や耐薬品性が良好な被膜を得ることができる。
【0032】
本発明の水系塗料用組成物に用いられるヒドラジド化合物は1分子中に2個以上のヒドラジド基を有し、上記多段重合体との架橋を形成し、且つ、基材との結合を形成するものである。このようなヒドラジド化合物として、10個、好ましくは4〜6個の炭素原子を有するジカルボン酸とヒドラジンとの脱水縮合物であるジカルボン酸ジヒドラジドを挙げることができる。具体的には、シュウ酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、イタコン酸ジヒドラジド、フタル酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジドなどを挙げることができる。また、例えば、エチレン−1,2−ジヒドラジン、プロピレン−1,3−ジヒドラジン、ブチレン−1,4−ジヒドラジンなどの2〜4個の炭素原子を有する脂肪族水溶性ジヒドラジン;ピロメリット酸のジ、トリまたはテトラヒドラジド;1分子中に少なくとも2個、多くの場合20〜100個のヒドラジド基を有するポリアクリル酸のポリヒドラジド;ニトリロトリ酢酸トリヒドラジドなどのトリヒドラジド;エチレンジアミンテトラ酢酸テトラヒドラジドなどのテトラヒドラジド等を挙げることができる。更に、ジ−またはトリヒドラジン−トリアジン;チオカルボヒドラジドまたはN,N’−ジアミノグアニジン;2−ヒドラジノピリジン−5−カルボン酸ヒドラジド、3−クロル−ヒドラジノピリジン−5−カルボン酸ヒドラジド、6−クロル−2−ヒドラジノピリジン−4−カルボン酸ヒドラジド、2,5−ジヒドラジノピリジン−4−カルボン酸などのヒドラジン−ピリジン誘導体;ビス−チオセミカルバジド;アルキレンビスアクリルアミドのビスヒドラジン;ジヒドラジンアルカン;1,4−ジヒドラジノベンゾール、1,3−ジヒドラジノベンゾール、2,3−ジヒドラジンナフタリンなどの芳香族炭化水素のジヒドラジン等を挙げることができる。これらは1種または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0033】
上記ヒドラジド基含有化合物が親水性が強すぎるとエマルジョンの貯蔵安定性が劣るようになり、他方疎水性が強すぎると水分散化が困難となり、均一な架橋塗膜が得られないようになることから、適度な親水性を有する比較的低分子量(300以下程度)の化合物であることが好ましい。このようなヒドラジド基含有化合物としては炭素原子数4〜12のジカルボン酸のジヒドラジド化合物が好ましい。具体的には、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバチン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド等を挙げることができ、これらのうち、特に、アジピン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジドを好ましいものとして挙げることができる。
【0034】
上記ヒドラジド基含有化合物はヒドラジド基含有多段重合体中、多段重合体のシェル重合体(B)に含まれるカルボニル基1モルに対してヒドラジド基が0.1〜2.0モルとなる範囲で含まれる。好ましくは0.25〜2.00モルの範囲、より好ましくは0.50〜1.50モルの範囲である。ヒドラジド基含有化合物の含有量がシェル重合体(B)に含まれるカルボニル基1モルに対してヒドラジド基が0.1モル以上となる範囲であれば、カルボニル基とヒドラジド基との反応が進行し、充分な架橋が形成され被膜において耐水性が優れたものとなる。一方、ヒドラジド基含有化合物の含有量がシェル重合体(B)に含まれるカルボニル基1モルに対してヒドラジド基が2.0モル以下となる範囲であれば、未反応のヒドラジド基が被膜中に異物となって残留するのを抑制することができ、被膜特性の低下を抑制することができる。
【0035】
上記ヒドラジド基含有多段重合体は、水系塗料用組成物中において平均粒子径が20〜300nmの範囲であることが好ましい。平均粒子径が20nm以上であることにより、水系塗料用組成物中において、固形分の含有量を上昇することができる。より好ましくは30nm以上であり、さらに好ましくは40nm以上である。また、平均粒子径が300nm以下であることにより、被膜の外観が優れたものとなる。より好ましくは200nm以下であり、造膜性の向上を図るため100nm以下であることが更に好ましい。
【0036】
ここで平均粒子径は、ヒドラジド基含有多段重合体を60倍に水で希釈し水性分散体とした後、濃厚系粒径アナライザーFPAR−1000(大塚電子社製)にてエマルジョン粒子の重量平均を測定し、測定値から得られる粒子径を採用することができる。
【0037】
このようなヒドラジド基含有多段重合体を粒子として分散して含む本発明の水系塗料用組成物中の分散媒は水系である。かかる水系分散媒としては、水のみからなるものの他、これにアルコール、ケトン等の親水性溶媒が併用できる。水性溶媒の使用量は特に限定されず、得られるヒドラジド基含有多段重合体の固形分が所望の含有量になるように適宜設定すればよい。
【0038】
本発明の水系塗料用組成物には、上記ヒドラジド基含有多段重合体の他、界面活性剤、重合開始剤、分子量調整剤、pH調整剤を含有させることができる。更に、その他、各種顔料、消泡剤、顔料分散剤、レベリング剤、たれ防止剤、艶消し剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、耐熱性向上剤、スリップ剤、防腐剤などを含んでもよい。さらに、他のエマルション樹脂、水溶性樹脂、粘性制御剤、メラミン類等の硬化剤を含有させることができる。
【0039】
上記重合開始剤としては、ラジカル重合開始剤を挙げることができる。具体的には、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩類、アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2−フェニルアゾ−4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル等の油溶性アゾ化合物類や2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[2−(1−ヒドロキシエチル)]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[2−(1−ヒドロキシブチル)]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]およびその塩類、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]およびその塩類、2,2’−アゾビス[2−(3,4,5,6−テトラヒドロピリミジン−2−イル)プロパン]およびその塩類、2,2’−アゾビス{2−[1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾリン−2−イル]プロパン}およびその塩類、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)およびその塩類、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピンアミジン)およびその塩類、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]およびその塩類等の水溶性アゾ化合物、過酸化ベンゾイル、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソブチレート等の有機過酸化物類等を挙げることができる。これらは1種または2種以上を組み合わせて使用することができる。また、重合速度の促進、および70℃以下で重合を進行させるためには、例えば、重亜硫酸ナトリウム、ロンガリット、硫酸第一鉄、アスコルビン酸塩等の還元剤をラジカル重合触媒と組み合わせて用いることが好ましい。
【0040】
ラジカル重合開始剤の含有量としては、単量体成分の全量に対して0.01〜10質量%の範囲を挙げることができ、重合の進行や反応の制御を考慮に入れると、0.05〜5質量%の範囲が好ましい。
【0041】
上記分子量調整剤は重合体の分子量を調整するために使用することができる。分子量調整剤としては、具体的には、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−テトラデシルメルカプタン、n−ヘキシルメルカプタン等のメルカプタン類;四塩化炭素、臭化エチレン等のハロゲン化合物;α−メチルスチレンダイマー等の連鎖移動剤を挙げることができる。耐候性を低下させないために、連鎖移動剤の含有量は単量体成分の全量に対して1質量%以下であることが好ましい。
【0042】
界面活性剤としては、各種のアニオン性、カチオン性、またはノニオン性の界面活性剤、さらには高分子乳化剤を挙げることができる。また、界面活性剤成分中にエチレン性不飽和結合を持つ、いわゆる反応性乳化剤も使用できる。中でも被膜の耐候性、耐水性の点から反応性乳化剤を使用することが好ましい。
【0043】
界面活性剤の含有量は、単量体成分全体100質量部に対し、0.1〜10質量部とすることができる。界面活性剤が単量体成分全体100質量部に対し0.1質量部以上存在することによって、エマルジョンの重合安定性および貯蔵安定性を向上することができる。また、界面活性剤の含有量が10質量部以下であれば、耐水性を損なうことなく水系塗料用組成物の安定性、経時的安定性等を維持することができる。より好ましい含有量としては、0.5〜8質量部である。
【0044】
pH調整剤としては、乳化重合反応後のエマルジョンのpHを中性領域から弱アルカリ性、すなわちpH6.5〜10.0程度の範囲に調整し、水系塗料用組成物の安定性を高めることができる塩基性化合物を挙げることができる。具体的には、アンモニア、トリエチルアミン、プロピルアミン、ジブチルアミン、アミルアミン、1−アミノオクタン、2−ジメチルアミノエタノール、エチルアミノエタノール、2−ジエチルアミノエタノール、1−アミノ−2−プロパノール、2−アミノ−1−プロパノール、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、3−アミノ−1−プロパノール、1−ジメチルアミノ−2−プロパノール、3−ジメチルアミノ−1−プロパノール、2−プロピルアミノエタノール、エトキシプロピルアミン、アミノベンジルアルコール、モルホリン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等を挙げることができる。
【0045】
本発明の水系塗料用組成物の製造方法は、コア重合体(A)とシェル重合体(B)とからなる多段重合体と、ヒドラジド化合物とから得られるヒドラジド基含有多段重合体を含む水系塗料用組成物の製造方法であって、(メタ)アクリレート(a1)45〜99.9質量%、酸基含有単量体(a2)0.1〜5質量%、a1及びa2と共重合可能なビニル系単量体(a3)0〜50質量%(但し、a1単位、a2単位およびa3単位の質量%の総和が100質量%である。)とを乳化重合して得られるコア重合体(A)を含むエマルジョン(a)中で、芳香族ビニル系単量体(b1)10〜90質量%、カルボニル基含有単量体(b2)1〜30質量%、酸基含有単量体(b3)0.1〜5質量%、b1、b2およびb3と共重合可能なビニル系単量体(b4)0〜80質量%(但し、b1単位、b2単位、b3単位およびb4単位の質量%の総和が100質量%である。)とを乳化重合してシェル重合体(B)を生成して、コア重合体(A)とシェル重合体(B)とを質量比として10/90〜90/10の範囲で含む多段重合体を含むエマルジョン(b)に、2個以上のヒドラジド基を有するヒドラジド化合物を、シェル重合体(B)に含まれるカルボニル基1モルに対して、ヒドラジド基が0.1〜2.0モルとなる範囲で含有させることを特徴とする。
【0046】
本発明の水系塗料用組成物の製造方法としては、具体的には、上記コア重合体(A)の単量体単位を構成する単量体a1とa2、必要に応じてa3を上記割合で含む単量体成分100質量部に対して、例えば、水50〜200質量部を加えた水系分散液を、界面活性剤、ラジカル重合開始剤の上記範囲量の存在下、例えば、室温〜100℃などで反応を行い、コア重合体(A)の粒子を含むエマルション(a)を得る。このコア重合体(A)の粒子を含むエマルジョン(a)に、上記シェル重合体(B)の単量体単位を構成する単量体b1、b2およびb3、必要に応じてb4を上記範囲で含む単量体成分100質量部に対して、例えば、水50〜100質量部を加えた水系分散液と、界面活性剤、ラジカル重合開始剤を上記範囲量で添加して、例えば、室温〜100℃などで反応を行い、コア重合体(A)の粒子表面にシェル重合体(B)が形成された多段重合体の粒子を含むエマルジョン(b)を得る。
【0047】
その後、得られたエマルジョン(b)に上記ヒドラジド化合物を上記範囲で添加して、例えば、室温〜45℃で反応を行い、ヒドラジド基含有多段重合体を含む水系塗料用組成物得る方法などによることができる。
【0048】
本発明の被膜は、上記水系塗料用組成物を用いて基材上に成形したものであることを特徴とする。
【0049】
本発明の被膜を成形する基材としては、その材質は問わないが、プラスチック基材であることが好ましい。プラスチック基材としては、ABS、PST、PC、PC/ABS、PMMA、PPOを挙げることができる。
【0050】
このような基材に被膜を成形する方法としては、上記水系塗料用組成物をそのまま、あるいは、固形分が10〜80質量%の範囲となるように調整し、塗工液として用い、これを塗工して塗工膜を形成する。この塗工膜を、例えば、60〜90℃程度での温度で、10分〜30分間加熱して成形することができる。このような加熱により、ヒドラジド基とカルボニル基との架橋反応を促進すると共に、基材のプラスチックなどとの結合を促進することができ、密着性を向上させることができる。基材への水系塗料用組成物の塗工方法としては、塗布、噴霧、ディップなどいずれの方法であってもよい。
【0051】
上記被膜の厚さとしては、5〜40μmを挙げることができる。
【0052】
このような本発明の被膜は、基材との密着性、耐水性、耐アルコール性、耐薬品性に優れ、成形時においても、火災や爆発の危険性を排除して、労働安全衛生上、健康上、環境汚染がなく、安全上極めて優れている。
【実施例】
【0053】
以下、実施例により本発明を詳しく説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。ここで、実施例、比較例における「部」、「%」は質量を基準としたものである。
【0054】
[実施例1]
[塗料の調製]
温度計、サーモスタット、攪拌器、還流冷却器、滴下装置を備えた反応容器に、脱イオン水140部を加え、窒素気流中で混合攪拌しながら80℃に昇温した。ついで、メチルメタクリレート40部、イソボルニルメチルメタクリレート57部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート2部、メタクリル酸1部、アクアロンHS−10(ポリオキシエチレンアルキルプロペニルエーテル硫酸エステル、第一工業製薬社製)3.0部、アデカリアソープNE−20(α−[1−[(アリルオキシ)メチル]−2−(ノニルフェノキシ)エチル]−ω−ヒドロキシオキシエチレン、旭電化社製、80%溶液)1部及び脱イオン水50部からなるモノマー乳化物と、過硫酸アンモニウム0.2部、及び脱イオン水10部からなる開始剤溶液とを4時間かけて定量ポンプを用いてそれぞれ反応器内に滴下し、滴下終了後1時間同温度で、熟成を行った。
【0055】
ついで、スチレン60部、ダイアセトンアクリルアミド20部、イソボルニルメタクリレート8部、ラウリル(メタ)アクリレート10部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート1部、メタクリル酸1部、アクアロンHS−10(ポリオキシエチレンアルキルプロペニルエーテル硫酸エステル、第一工業製薬社製)3.0部、アデカリアソープNE−20(α−[1−[(アリルオキシ)メチル]−2−(ノニルフェノキシ)エチル]−ω−ヒドロキシオキシエチレン、旭電化社製、80%溶液)1部及び脱イオン水50部からなるモノマー乳化物と、過硫酸アンモニウム0.2部、及び脱イオン水10部からなる開始剤溶液とを4時間かけて定量ポンプを用いてそれぞれ反応器内に滴下し、滴下終了後1時間同温度で、熟成を行った。
【0056】
ついで、1%ジメチルアミノエタノール水溶液10部を加えながら40℃まで冷却し、30分間攪拌後、イソフタル酸ジヒドラジド11.5部と脱イオン水30部を混合した水溶液を加え15分間攪拌し、その後300メッシュのナイロンクロスでろ過した。平均粒子径0.065μm、不揮発分40%のアクリルエマルションを得た。
【0057】
[被膜の調製]
得られたエマルション100gをpH8.0に調整し造膜助剤としてジエチレングリコールモノブチルエーテル16gをディスパーで攪拌し、各樹脂成型板に乾燥膜厚が25μmとなるように塗布し、70℃の不囲気中20分間乾燥させ塗膜を硬化させ被膜を成形した試験片を得た。
【0058】
[被膜の評価]
試験片について、密着性、耐水性、耐アルコール性、耐薬品性をについて以下のように評価した。結果を表1に示す。
[密着性]
試験片の被膜面に、素地に達するように縦横1mm間隔で各11本の切り込みを入れ100個の碁盤目を作り、この上にセロハン粘着テープを張りつけた後、該粘着テープを急激に剥がした後の塗膜の状態を観察し、下記の基準で評価した。
【0059】
○:全く剥がれがない
△:50個剥がれ
×:100個全て剥がれ。
【0060】
[耐水性]
試験片を40℃の温水に3日間浸漬した後、被膜の外観状態を下記の基準で評価し、密着性を上記と同様の方法により評価した。
【0061】
○:全く異常ない
△:一部白化、ふくれ等がある
×:全面に白化、ふくれ等がある。
【0062】
[耐アルコール性]
試験片をエタノールに含浸させた5枚重ねのガーゼで、1kgf/cm2の荷重をかけ被膜上を200往復させ、被膜の擦り傷の発生状態を観察し、下記の基準で評価した。
【0063】
◎:擦り傷が全く認められない
○:擦り傷がわずかに認められる
△:擦り傷が認められるものの基材が全く露出していない
×:基材が露出している。
【0064】
[耐薬品性]
試験片をひまし油に浸漬させ、60℃の温度で24時間放置後、外観を観察した。被膜の外観状態を観察し、下記の基準で評価した。
【0065】
◎:全く異常がない
○:わずかに塗膜が溶出している
△:かなり塗膜が溶出している
×:基材が露出している。
【0066】
[重量平均粒子径]
固形分を脱イオン水で60倍希釈し、濃厚系粒径アナライザーFPAR−1000(大塚電子社製)にて水性分散体のエマルジョン粒子径(重量平均)を測定した。
【0067】
[実施例2、3、比較例1〜12]
表1に示すモノマーを用い、実施例1と同様にエマルジョンを得て、被膜を成形し、その物性について評価を行った。結果を表1に示す。
【0068】
【表1】

【0069】
表中、略号は以下のものを表す。
【0070】
St:スチレン
MMA:メチルメタクリレート
i−BMA:イソブチルメタクリレート
IBXMA:イソボルニルメタクリレート
LMA:ラウリルメタクリレート
2−HEMA:2−ヒドロキシエチルメタクリレート
MAA:メタクリル酸
DAAm:ダイアセトンアクリルアミド
ADH:アジピン酸ジヒドラジド
IDH:イソフタル酸ジヒドラジド
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は、従来の水系塗料では困難であった、プラスチック基材に対する優れた密着性を有し、耐水性、耐アルコール性、耐薬品性に優れた被膜を成形することができる水系塗料用組成物やその製造方法を提供するものであり、工業上極めて有益である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア重合体(A)およびシェル重合体(B)からなる多段重合体と、ヒドラジド化合物とから得られるヒドラジド基含有多段重合体を含む水系塗料用組成物であって、
コア重合体(A)が(メタ)アクリレート(a1)単位45〜99.9質量%、酸基含有単量体(a2)単位0.1〜5質量%、a1及びa2と共重合可能なビニル系単量体(a3)単位0〜50質量%(但し、a1単位、a2単位およびa3単位の質量%の総和が100質量%である。)とを含み、
シェル重合体(B)が芳香族ビニル系単量体(b1)単位10〜90質量%、カルボニル基含有単量体(b2)単位1〜30質量%、酸基含有単量体(b3)単位0.1〜5質量%、b1、b2およびb3と共重合可能なビニル系単量体(b4)単位0〜80質量%(但し、b1単位、b2単位、b3単位およびb4単位の質量%の総和が100質量%である。)とを含み、
多段重合体がコア重合体(A)とシェル重合体(B)とを質量比10/90〜90/10の範囲で含み、
ヒドラジド化合物が2個以上のヒドラジド基を有し、
ヒドラジド基含有多段重合体がシェル重合体(B)に含まれるカルボニル基1モルに対して、ヒドラジド基が0.1〜2.0モルとなる範囲でヒドラジド化合物単位を含むことを特徴とする水系塗料用組成物。
【請求項2】
コア重合体(A)とシェル重合体(B)とからなる多段重合体と、ヒドラジド化合物とから得られるヒドラジド基含有多段重合体を含む水系塗料用組成物の製造方法であって、
(メタ)アクリレート(a1)45〜99.9質量%、酸基含有単量体(a2)0.1〜5質量%、a1及びa2と共重合可能なビニル系単量体(a3)0〜50質量%(但し、a1単位、a2単位およびa3単位の質量%の総和が100質量%である。)とを乳化重合して得られるコア重合体(A)を含むエマルジョン(a)中で、
芳香族ビニル系単量体(b1)10〜90質量%、カルボニル基含有単量体(b2)1〜30質量%、酸基含有単量体(b3)0.1〜5質量%、b1、b2およびb3と共重合可能なビニル系単量体(b4)0〜80質量%(但し、b1単位、b2単位、b3単位およびb4単位の質量%の総和が100質量%である。)とを乳化重合してシェル重合体(B)を生成し、
コア重合体(A)とシェル重合体(B)とを質量比として10/90〜90/10の範囲で含む多段重合体を含むエマルジョン(b)に、
2個以上のヒドラジド基を有するヒドラジド化合物を、シェル重合体(B)に含まれるカルボニル基1モルに対して、ヒドラジド基が0.1〜2.0モルとなる範囲で含有させることを特徴とする水系塗料用組成物の製造方法。
【請求項3】
請求項1記載の水系塗料用組成物を用いて基材上に成形したものであることを特徴とする被膜。

【公開番号】特開2007−291212(P2007−291212A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−119438(P2006−119438)
【出願日】平成18年4月24日(2006.4.24)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】