説明

水系塗料組成物

【課題】亜鉛による犠牲防食効果を高めるとともに、水分等の腐食因子の侵入を防止して、防食効果を長期にわたって持続することができる水系塗料組成物を提供すること。
【解決手段】亜鉛、アルミニウム、マグネシウム化合物を含有し水溶性もしくは加水分解性の有機チタネートを主成分とするバインダーで構成する水で希釈可能な水系塗料組成物であって、前記有機チタネート中のチタンの含有量が亜鉛に対して3重量%以上となるように配合されていることを特徴とする水系塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜鉛とアルミニウムとマグネシウムを含有し、金属表面を防食する水系塗料組成物に関するものであって、特に、バインダーとして水溶性もしくは加水分解性の有機チタネートを用いて、焼き付けを行う水系塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄等の金属の防錆を目的に使用される亜鉛粉末含有塗料組成物には、亜鉛粉末を結合して塗膜を形成するためのバインダーとして、無機バインダーと有機バインダーがあり、無機バインダーは、焼き付け用として、水ガラスのようなシリケートが用いられており、さらに、水溶性クロム化合物や水溶性クロム化合物とホウ酸とを用いるものもある(特許文献1参照)。
【0003】
また、有機バインダーとしては、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ウレタン樹脂等を用い、常温あるいは焼き付けによりバインダーを硬化させるものがある(特許文献2及び特許文献3参照)。
さらに、炭化水素等の有機溶剤を用い、有機チタネートとシリケートをバインダーとし、200℃で焼き付けしてバインダーを硬化させるようにしたものもある(特許文献4参照)。
【特許文献1】特公昭60ー50228号公報
【特許文献2】特開平11−293200号公報
【特許文献3】特開2001−81400号公報
【特許文献4】特表2004−501233号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前述したような無機バインダーを用いた塗膜では、内部に空隙が多いため、亜鉛の犠牲防食作用は強くなるが、腐食因子が塗膜中に侵入しやすくなり、白錆が多く発生して亜鉛の溶出量が多くなり、長期の防食作用を維持できないという問題がある。
また、水ガラスをバインダーとして用いたものでは、亜鉛含有塗料中の亜鉛が水ガラスの硬化剤となりゲル化するという問題があり、水溶性クロム化合物を用いたものでは、6価のクロムの有害性から使用が規制されるという問題がある。
【0005】
エポキシ樹脂等の有機バインダーを用いた塗膜では、常温または焼き付けによりバインダーを硬化させているが、塗膜が緻密であるため亜鉛同士の接触機会が少なく、しかも、エポキシ樹脂等の有機系樹脂は絶縁性であるため電気的な通電が極めて弱く、亜鉛の犠牲防食作用が少なくなり、鉄素地の腐食が早期に進行するという問題がある。有機チタネートやシリケートをバインダーとしたものは、溶剤系塗料であり、有害性の点で問題がある。
【0006】
そこで、本発明が解決しようとする課題、すなわち、本発明の目的は、亜鉛による犠牲防食効果を高めるとともに、水分等の腐食因子の侵入を防止して、防食効果を長期にわたって持続することができる水系塗料組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
まず、本請求項1に係る水系塗料組成物は、亜鉛、アルミニウム、マグネシウム化合物を含有し水溶性もしくは加水分解性の有機チタネートを主成分とするバインダーで構成する水で希釈可能な水系塗料組成物であって、前記有機チタネート中のチタンの含有量が亜鉛に対して3重量%以上となるように配合されていることにより、前記課題を解決したものである。
【0008】
また、本請求項2に係る水系塗料組成物は、請求項1に係る水系塗料組成物において、前記バインダーが、水系ポリシロキサン樹脂を含むことにより、上記課題を解決したものである。
【0009】
さらに、本請求項3に係る水系塗料組成物は、請求項1または請求項2に係る水系塗料組成物において、前記バインダーが、コロイダルシリカを含むことにより、上記課題を解決したものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、上述したような構成を備えることによって、以下のような特有の効果を奏することができる。
すなわち、本請求項1に係る水系塗料組成物は、亜鉛、アルミニウム、マグネシウム化合物を含有し水溶性もしくは加水分解性の有機チタネートを主成分とするバインダーで構成する水で希釈可能な水系塗料組成物であって、前記有機チタネート中のチタンの含有量が亜鉛に対して3重量%以上となるように配合されていることにより、焼き付け時に、塗料中の有機チタネートが熱分解して生成されるチタンが、亜鉛やアルミニウムやマグネシウムおよび被塗布物を化学的あるいは物理的に結合して空隙を有する塗膜を形成するため、亜鉛同士の接触する機会が多くなり、亜鉛の犠牲防食作用を向上させることができる。また、アルミニウムとマグネシウムは、亜鉛よりも先に溶出することで亜鉛の溶出量を抑制すると共に、亜鉛とアルミニウムは外部からの腐食因子の侵入を防止して、長期にわたって防錆効果を持続させることができる。
【0011】
また、請求項2に係る水系塗料組成物は、前記バインダーが、水系ポリシロキサン樹脂を含むことにより、請求項1に係る水系塗料組成物が奏する効果に加えて、水系ポリシロキサン樹脂は、亜鉛やアルミニウムの粒子間の空隙に入り込み硬化するため、水分等の腐食因子の侵入を防止して、耐水性を向上させるとともに、例えば、チェーン部品やボルト・ナット等やファスナー類のような鉄素地からなる基材に対して被塗装物との付着性を高めることができる。
【0012】
さらに、請求項3に係る水系塗料組成物は、前記バインダーが、コロイダルシリカを含むことにより、請求項1または請求項2に係る水系塗料組成物が奏する効果に加えて、亜鉛の犠牲防食作用を長期間維持することができ、防食効果を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、亜鉛、アルミニウム、マグネシウム化合物を含有し水溶性もしくは加水分解性の有機チタネートを主成分とするバインダーで構成する水で希釈可能な水系塗料組成物であって、特に、焼き付けによる塗装に用いるものである。
【0014】
また、本発明で用いる亜鉛とアルミニウムの具体的形状については、粉末状であってもフレーク状であっても良い。
【0015】
本発明で用いるバインダーとしては、水溶性もしくは加水分解性の有機チタネート単独であってもよく、また、水系ポリシロキサン樹脂及び/またはコロイダルシリカを併用して用いてもよい。
【0016】
本発明で用いる水溶性もしくは加水分解性の有機チタネートとしては、チタンアルコキシドやチタンキレートを用いることができ、前記チタンアルコキシドとしては、テトライソプロピルチタネート、テトラノルマルブチルチタネート、テトラ(2−エチルヘキシル)チタネート、テトラメチルチタネート等が挙げられ、前記チタンキレートとしては、チタンアセチルアセトネート、チタンテトラアセチルアセトナート、ポリチタンアセチルアセトナート、チタンオクチレングリコレート、チタンエチルアセトアセテート、チタンラクテート、チタントリエタノールアミネート等が挙げられ、これら化合物の1種または2種以上を用いてもよい。
【0017】
本発明で用いる水溶性もしくは加水分解性の有機チタネートは、焼き付け時の熱分解により生成したチタンをバインダーとして機能させるものであって、有機チタネート中のチタンの含有量が亜鉛に対して3重量%以上となるように配合されており、3重量%未満では、被塗装物との付着性が悪い。
【0018】
本発明で用いる水系ポリシロキサン樹脂の添加量は、樹脂固形分として、亜鉛含有量の1〜30重量%が好ましく、1重量%未満では、亜鉛及びアルミニウムとチタンの間の空隙に入り込む量が少なく、耐水性および被塗装物との付着性を向上させることはできず、30重量%を越えると亜鉛の犠牲防食効果が有効に発揮できない。
【0019】
本発明で用いるコロイダルシリカは、水または水溶性の有機溶剤に縣濁したものであり、その添加量は、亜鉛含有量の1重量%以上とすることが好ましい。
【0020】
本発明では、一般的な塗料の添加剤である、ポリカルボン酸系等の分散剤、ノニオン系あるいはアニオン系等の界面活性剤、ウレタン系等の増粘剤、シリコン系あるいはアクリル系等の消泡剤を配合してもよく、さらに、レベリング剤や水溶性有機溶剤を配合してもよい。
【0021】
以下、本発明の実施例を説明する。
【0022】
表1のように配合することによって本発明の水系塗料組成物を調製した。
【0023】
上記実施例及び比較例の塗料組成物を用い、ボルトを被塗布物としてディプスピン法に被覆して、150℃で15分間予熱した後、350℃で25分間焼き付け、厚さ10μmの塗膜が形成されたボルトを得た。
このようにして得られたボルトについて、下記の試験を行った。この結果を下記の表1および表2に示す。
(1)付着試験(付着性)
塗装したボルトに粘着テープを強く貼り付けた後、手前に勢いよく引っ張り、塗膜の状態を目視により観察した。
(2)塩水噴霧試験1(耐食性1)
2000時間塩水噴霧した後の赤錆の発生状態を目視により観察した。
(3)塩水噴霧試験2(耐食性2)
2500時間塩水噴霧した後の赤錆の発生状態を目視により観察した。
(4)耐水試験(耐水性)
40℃の水に10日間浸漬した後の赤錆の発生状態を目視により観察した。

評価は、以下のように行った。
(1)付着試験(※9)
○は、塗膜が剥離しない。
△は、ごく僅か塗膜が剥離した。
×は、大部分の塗膜が剥離した。
(2)塩水噴霧試験1(※10)、塩水噴霧試験2(※11)、耐水試験(※12)
○は、赤錆の発生なし。
×は、赤錆が発生した。
【0024】
【表1】

【0025】
比較例1〜6
表2のように配合することによって水系塗料組成物を調製した。
【0026】
【表2】

【0027】
上記※1〜※8は以下のとおりである。
※1 亜鉛フレークをプロピレングリコールでスラリーとしたもの。
※2 旭化成社製アルミペースト「AW−620」。
※3 (HO)2Ti(C3532のイソプロピルアルコール溶液。
※4 (C37O)2Ti(C6143N)2のイソプロピルアルコール溶液。
※5 信越シリコン社製ジメチルシリコーンエマルション「X41−5301」。
※6 ROHM AND HAAS社製増粘剤「PRIMAL RM2020NPR」(ポリウレタン系)。
※7 サンノプコ社製消泡剤「SNディフォーマー1070」(シリコン系)。
※8 日産化学社製コロイダルシリカ「DMAC−ST」。
※9 塗装したボルトにセロテープ(登録商標)を強く貼り付けた後、手前に勢いよく引っ張り、剥離した塗膜の状態を観察する。○塗膜がほとんど剥離しない、△ごく僅か塗膜が剥離する、×大部分の塗膜が剥離する。
※10 塩水噴霧試験2000時間後の赤錆の状態。○赤錆の発生無し、×赤錆が発生。
※11 塩水噴霧試験2500時間後の赤錆の状態。○赤錆の発生無し、×赤錆が発生。
※12 40℃の水に浸漬10日後の赤錆の状態。○赤錆の発生無し、×赤錆が発生。
なお、表1〜表2中の配合量は、重量部である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛、アルミニウム、マグネシウム化合物を含有し水溶性もしくは加水分解性の有機チタネートを主成分とするバインダーで構成する水で希釈可能な水系塗料組成物であって、前記有機チタネート中のチタンの含有量が亜鉛に対して3重量%以上となるように配合されていることを特徴とする水系塗料組成物。
【請求項2】
前記バインダーが、水系ポリシロキサン樹脂を含むことを特徴とする請求項1記載の水系塗料組成物。
【請求項3】
前記バインダーが、コロイダルシリカを含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の水系塗料組成物。

【公開番号】特開2008−143945(P2008−143945A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−329631(P2006−329631)
【出願日】平成18年12月6日(2006.12.6)
【出願人】(000003355)株式会社椿本チエイン (861)
【Fターム(参考)】