説明

水系塗料組成物

【課題】少量で効果を発現するレオロジーコントロール剤を使用することにより塗膜の耐水性に優れた水系塗料組成物を提供する。
【解決手段】 数平均繊維径が2〜150nmのセルロース繊維であって、そのセルロースが、セルロースI型結晶構造を有すると共に、セルロース分子中のグルコースユニットのC6位の水酸基が選択的に酸化されてアルデヒド基およびカルボキシル基に変性されており、カルボキシル基の量が0.6〜2.2mmol/gであるセルロース繊維 を含有することを特徴とする、水系塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水系塗料組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、水系塗料のレオロジーコントロール剤としては、合成系および天然系の高分子が使用され、安全性や環境に対する配慮からは、天然系の高分子が好まれる傾向にあることから、セルロースおよびセルロースの誘導体が使用されている。
従来の水系塗料組成物としては、レオロジーコントロール剤としてセルロース誘導体である水溶性セルロースエーテルを用いる水系塗料組成物が開示されている(特許文献1)。さらに、レオロジーコントロール剤として繊維径が10μm以下の微細セルロースを用いる水系塗料組成物が開示されている(特許文献2)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−67719号公報
【特許文献2】特開2006−111699号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、水溶性セルロースエーテルは水溶性であるため、該水系塗料組成物から得られる塗膜の耐水性を低下させるという問題があった(特許文献1)。
また、特許文献2に開示された微細セルロースは水溶性ではないため、特許文献1のような問題は解消される。
しかしながら、ほぼ例外なく天然物から得られるセルロースは、ミクロフィブリルと呼ばれるナノファイバーが繊維方向に集束してより大きな単位の繊維を形成しており、セルロース分子間およびナノファイバー表面間で主に水素結合を介した結合力によって強く集束していることが知られており、セルロースをそのままで微細化するには、多大なエネルギーとコストが必要であるという問題があった。
このような理由から、従来知られる微細セルロースは、完全にミクロフィブリルと呼ばれるナノファイバーにまで微細化されていないため、レオロジーコントロール剤としての粘度発現が不十分であり、添加量を多くしなければレオロジーコントロール機能が発現できないという問題があり、改良の余地があった。
すなわち、水系塗料のレオロジーコントロール剤として、塗膜の体水性を低下させることがなく、少量の添加でレオロジーコントロール効果を発現するセルロース系のレオロジーコントロール剤が求められていた。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、少量で効果を発現するレオロジーコントロール剤により塗膜の耐水性に優れた水系塗料組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、数平均繊維径が2〜150nmのセルロース繊維であって、そのセルロースが、セルロースI型結晶構造を有すると共に、セルロース分子中のグルコースユニットのC6位の水酸基が選択的に酸化されてアルデヒド基およびカルボキシル基に変性されており、カルボキシル基の量が0.6〜2.2mmol/gであるセルロース繊維を含有することを特徴とする水系塗料組成物を第一の要旨とする。
【0007】
すなわち、本発明者らは、少量で効果を発現するレオロジーコントロール剤により塗膜の耐水性に優れた水系塗料組成物を得るために、鋭意研究を重ねた。その過程で、数平均繊維径が2〜150nmのセルロース繊維であって、そのセルロースが、セルロースI型結晶構造を有すると共に、セルロース分子中のグルコースユニットのC6位の水酸基が選択的に酸化されてアルデヒド基およびカルボキシル基に変性されており、カルボキシル基の量が0.6〜2.2mmol/gであるセルロース繊維を用いると、完全にミクロフィブリルと呼ばれるナノファイバーにまで容易にセルロース繊維を分散させることが可能であり、該セルロース繊維を用いると少量でレオロジーコントロール機能を発現し、そのことにより塗膜の耐水性に優れた水系塗料組成物が得られることを見出し、本発明に到達した。
【発明の効果】
【0008】
本発明の水系塗料組成物は、上記セルロース繊維が低濃度であっても高い粘性を示し、かつ、セルロースに固有の高いチキソトロピーインデックスを示すため、塗料のレオロジーコントロール剤として、従来の微細セルロースより少量でレオロジーコントロール効果を発揮することにより、塗料製造時の顔料分散性向上、塗料保管時の沈降・分離防止、沈降した顔料の再分散性向上、塗料のタレ防止効果の優れた効果を発揮する。
また、上記セルロース繊維の分散物は、一見すると透明に見えるが、ナノサイズにまで微細化された繊維の分散物であって、溶解しているわけではないため、塗料塗膜の耐水性を低下させる恐れがない。
【発明を実施するための形態】
【0009】
次に、本発明を実施するための形態について説明する。
【0010】
本発明の水系塗料組成物は上記特定のセルロース繊維、水系樹脂、着色剤及び水とを用いて得ることができる。
【0011】
上記特定のセルロース繊維は、数平均繊維径が2〜150nmのセルロース繊維であって、そのセルロースが、セルロースI型結晶構造を有すると共に、セルロース分子中のグルコースユニットのC6位の水酸基が選択的に酸化されてアルデヒド基およびカルボキシル基に変性されており、カルボキシル基の量が0.6〜2.2mmol/gであるセルロース繊維である。以下、さらに詳しく、本発明の組成物に使用するセルロース繊維について説明する。
【0012】
上記特定のセルロース繊維は、I型結晶構造を有する天然物由来のセルロース固体原料を表面酸化し、ナノサイズにまで微細化した繊維である。原料となる、天然物由来のセルロースはほぼ例外なくミクロフィブリルと呼ばれるナノファイバーが多束化して高次構造を取っているため、そのままでは容易にはナノサイズにまで微細化して分散させることができない。上記特定のセルロース繊維(成分A)はその水酸基の一部を酸化しアルデヒド基およびカルボキシル基を導入し、ミクロフィブリル間の強い凝集力の原動となっている表面間の水素結合を弱めて、分散処理し、ナノサイズにまで微細化したものである。
【0013】
上記特定のセルロース繊維の繊維径は、数平均繊維径が2〜150nmである。分散安定性の点から、さらに好ましくは、数平均繊維径が3〜80nmである。数平均繊維径が2nm未満であると、本質的に分散媒体に溶解してしまい、逆に数平均繊維径が150nmを超えると、セルロース繊維そのものの分散安定性が低下し、セルロース繊維を配合することによる機能性を発現することができない。
上記数平均繊維径は、例えば次のようにして測定することができる。すなわち、セルロース繊維に水を加え希釈した試料を分散処理し、親水化処理済みのカーボン膜被覆グリッド上にキャストして、これを透過型電子顕微鏡(TEM)で観察し、得られた画像から、数平均繊維径を測定算出することができる。
【0014】
上記特定のセルロース繊維を構成するセルロースが、I型結晶構造を有することは、例えば、広角X線回折像測定により得られる回折プロファイルにおいて、2シータ=14〜17°付近と、2シータ=22〜23°付近の2つの位置に典型的なピークを持つことから同定することができる。
【0015】
上記特定のセルロース繊維のカルボキシル基の量は、好ましくは0.6〜2.2mmol/gの範囲である。カルボキシル基の量が0.6mmol/g未満であると、セルロース繊維そのものの分散安定性に乏しく、セルロース繊維の沈澱を生じる場合があり、また水性農薬組成物の分散安定性が低下する。カルボキシル基の量が2.2mmol/g以上であると、セルロース繊維の水溶性が強くなり、水性農薬組成物の分散安定性が低下する傾向にある。
上記特定のセルロース繊維のカルボキシル基量の測定は、例えば電位差滴定により行うことができる。すなわち、乾燥させた上記特定のセルロース繊維(成分A)を水に分散させ、0.01規定の塩化ナトリウム水溶液を加えて、十分に攪拌して分散させる。つぎに、0.1規定の塩酸溶液をpH2.5〜3.0になるまで加え、0.04規定の水酸化ナトリウム水溶液を毎分0.1mlの速度で滴下し、得られたpH曲線から過剰の塩酸の中和点と、セルロース繊維由来のカルボキシル基の中和点との差から、カルボキシル基量を算出することができる。
【0016】
なお、上記カルボキシル基量の調整は、後述するように、セルロース繊維の酸化工程で用いる共酸化剤の添加量や反応時間を制御することにより、行うことができる。
上記特定のセルロース繊維を構成するグルコースユニットのC6位の水酸基のみが選択的にアルデヒド基およびカルボキシル基に酸化されているかどうかは、例えば、13C-NMR分析により確認することができる。すなわち、酸化前のセルロースの13C-NMRチャートで確認できるグルコース単位の1級水酸基のC6位に相当する62ppmのピークが、酸化反応後は消失し、代わりに178ppmにカルボキシル基に由来するピークが現れることで確認できる。
【0017】
本発明の水系塗料組成物は、上記特定のセルロース繊維と共に水系樹脂が用いられる。
【0018】
本発明の水系塗料組成物に使用する水系樹脂としては、何ら制約はなく、例えば、水溶性、ディスパージョン、エマルション、ミクロゲル、等の形態を有する樹脂が使用できる。
さらに具体的に上記水系樹脂を例示すると、アクリル系樹脂、アルキド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリルウレタン樹脂、ブロックイソシアネート、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、エポキシアクリレート樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ビニル系樹脂、ポリアミド樹脂、セルロース系樹脂、等が挙げられる。
さらに、本発明の水系塗料組成物に使用する水系樹脂には、重合または架橋により樹脂を潜在的に形成しうる化合物、いわゆる、モノマーやオリゴマーも含む。
【0019】
本発明の水系塗料組成物は、上記特定のセルロース繊維及び水系樹脂と共に着色剤が用いられる。
本発明の水系塗料組成物に使用する着色剤としては、何ら制約はなく、例えば、有機および無機の、顔料、体質顔料、蛍光顔料、染料、蛍光染料、等が挙げられる。
さらに具体的に例示すると、亜鉛華、亜酸化銅、一酸化鉛、ウォッチングレッド、マイカ、酸化チタン、オイルファーネスブラック、黄鉛、黄色酸化鉄、オキシサルファイド蛍光体、カオリンクレー、滑石、石筆石、石鹸石、カドミウムイエロー、カドミウムレッド、燐酸カルシウム、アルミナ、群青、蛍光顔料、軽質炭酸カルシウム、合成マイカ、黒鉛、黒色酸化鉄、コバルト青、コバルト緑、コバルト紫、胡粉、紺青、サーマルブラック、酸化クロム、酸化チタン(アタナース)、酸化チタン(ルチル)、ジスアゾイエロー、重質炭酸カルシウム、焼成クレー、赤色酸化鉄、カーボンブラック、茶色酸化鉄、チャンネルブラック、超微粒酸化亜鉛、超微粒子状酸化チタン、硫酸バリウム、鉄黒、天然黒鉛粉末、天然土状黒鉛、銅フタロシアニンブルー、銅フタロシアニングリーン、パーマネントレッド、バナデート蛍光体、表面処理硫酸バリウム、微粒子硫酸バリウム、微粒子水酸化アルミニウム、ファストイエロー10G、ベンガラ、ホワイトカーボン、モリブデンレッド、等が挙げられる。
これら着色剤は表面処理されたものを使用しても良く、また、予め樹脂または媒質中に分散処理されたものを使用しても良い。
【0020】
本発明の水系塗料組成物には、上記特定のセルロース繊維、水系樹脂及び着色剤に加えて、水が用いられる。本発明の水系塗料組成物においては、上記特定のセルロース繊維、水系樹脂及び着色剤、下記の任意成分の含有量を除いた残量が水の含有量となる。
【0021】
本発明の水系塗料組成物には、必要に応じ、本発明の効果を妨げない範囲で、任意成分を含むことができる。
上記任意成分としては、ラメ剤、パール剤、防腐剤、香料、可塑剤、消泡剤、充填剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、硬化剤、触媒、溶剤、界面活性剤、水溶性高分子、難燃剤、帯電防止剤、熱安定剤、pH調整剤、凍結防止、湿潤、顔料分散、乳化、皮張り防止、レベリング、乾燥促進、等の目的で添加される添加剤、
等が挙げられる。
【0022】
上記特定のセルロース繊維(成分A)は、例えば、次のようにして作成することができる。すなわち、木材パルプ等の天然セルロースを、水に分散させてスラリー状としたものに、臭化ナトリウム、N-オキシラジカル触媒を加え、十分攪拌して分散・溶解させる。つぎに、次亜塩素酸ナトリウム水溶液等の共酸化剤を加え、pH10〜11を保持するように0.5規定水酸化ナトリウム水溶液を滴下しながらpH変化がなくなるまで反応を行う。上記反応により得られたスラリーから未反応原料、触媒等を除去するために、水洗、ろ過を行い精製することにより、繊維表面が酸化され、カルボキシル基の量が0.6〜2.2mmol/gであるセルロース繊維の水分散物が得られる。このようにして得られた該セルロース繊維の水分散物を水中で混合・分散処理することで、数平均繊維径が2〜150nmの上記特定のセルロース繊維(成分A)が得られる。
上記N-オキシラジカル触媒としては、例えば2,2,6,6−テトラメチル− 1−ピペリジン−N−オキシル(TEMPO)、4-アセトアミド-TEMPO等が挙げられる。特に好ましくは、2,2,6,6−テトラメチル− 1−ピペリジン−N−オキシル(TEMPO)である。上記N−オキシラジカル触媒の添加量は触媒量で十分であり、好ましくは0.1〜4mmol/l、さらに好ましくは、0.2〜2mmol/lの範囲で反応水溶液に添加する。
上記共酸化剤としては、例えば、次亜ハロゲン酸またはその塩、亜ハロゲン酸またはその塩、過ハロゲン酸またはその塩、過酸化水素、過有機酸等が挙げられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。なかでも、次亜塩素酸ナトリウム、次亜臭素酸ナトリウム等のアルカリ次亜ハロゲン酸塩が好ましい。そして、上記次亜塩素酸ナトリウムを使用する場合は、臭化ナトリウム等の臭化アルカリ金属の存在下で反応を進めることが、反応速度の点において好ましい。上記臭化アルカリ金属の添加量は、上記N-オキシラジカル触媒に対して約1〜40倍モル量、好ましくは約10〜20倍モル量である。
【0023】
本発明の水系塗料組成物は、特定のセルロース繊維、水系樹脂、着色剤、および、必要であれば、濃度調整用の水、その他の任意の添加物を混合・分散することにより製造される。その混合方法と混合順序には制約はない。
【0024】
本発明の水系塗料組成物の製造方法は具体的には下記の通りである。すなわち、上記のセルロース繊維を、予め水中で混合・分散処理して、平均繊維径を2〜150nmにした水分散体を調製しておき、本発明の水系塗料組成物に配合しても良く、また、本発明の水系塗料組成物を製造する際に実施される、混合・分散処理と同時に、上記のセルロース繊維の分散を行い、平均繊維径を2〜150nmにした上記特定のセルロース繊維としても良い。
本発明の水系塗料組成物を製造する際の合理性からすれば、後者の方法が好ましい。
上記混合・分散を行う装置としては、プロペラ型、パドル型、アンカー型等の混合機、ホモミキサー、ホモディスパー、ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、振動ミル、ボールミル、遊星ボールミル、サンドミル、真空乳化装置、ペイントシェーカー、等が挙げられる。
【0025】
本発明の水系塗料組成物における、セルロース繊維の配合量は、通常0.01%〜3%、好ましくは0.05%〜2%の範囲内である。0.01%以下では水系塗料組成物への粘性付与が困難となり、増粘安定効果が不十分となるので好ましくない。3%以上では水系塗料組成物の粘度が高過ぎて、塗料製造時のハンドリング性、及び塗料使用時の塗工性、塗膜性が悪化するので好ましくない。
【0026】
本発明の水系塗料組成物の粘度は、上記特定のセルロース繊維の配合量により調整することができる。すなわち、上記特定のセルロース繊維の配合量を増やすと粘度は増加する傾向にあり、上記特定のセルロース繊維の配合量を減らすと粘度は低下する傾向にある。上記特定のセルロース繊維の配合量により、本発明の水系塗料組成物の粘度は100mPa・sから100000mPa・sの範囲に調整することが可能であり、流動状態の水系塗料組成物から、必要に応じて、ペースト状またはゲル状の水系塗料組成物とすることができる。
また、本発明の水性農薬組成物の粘度は、上記特定のセルロース繊維の配合量以外に、水系樹脂成分や着色剤の種類と配合量、および任意成分の種類と配合量の影響を受けるので、個別の水系塗料組成物ごとに、粘度の調整を行うことが好ましい。
【0027】
本発明の水系塗料組成物における上記水系樹脂の配合量は、樹脂固形分として、通常、0%〜80%、好ましくは0.1%〜60%の範囲である。本発明の水系塗料組成物が水性インクの場合には配合量は少なくなる傾向があり、場合によっては配合しない場合もあり得る。本発明の水系塗料組成物が塗料の場合には、配合量は多くなる傾向にある。80%以上では水性農薬組成物の流動性を保つことが困難となり、ハンドリング性が悪くなるため好ましくない。
【0028】
本発明の水系塗料組成物における上記着色剤の配合量は、通常、0%〜80%、好ましくは0%〜60%の範囲である。本発明の水系塗料組成物がクリヤー塗料の場合には配合量は0%となる。80%以上では水性農薬組成物の流動性を保つことが困難となり、ハンドリング性が悪くなるため好ましくない。
【0029】
本発明の水系塗料組成物の塗工方法にはなんら制約はなく、例えば
刷毛、バーコーター、ロールコーター、スプレー、浸漬、電着、焼付、筆記、印刷、インクジェット印刷、等により塗工できる。
【0030】
本発明の水系塗料組成物に配合される上記特定のセルロース繊維は、チキソトロピーインデックスが大きいため、水系塗料組成物の粘度が高い場合であっても、スプレー塗工が可能となる特徴がある。
本発明の水系塗料組成物を塗工する基材、としては、何ら制約はなく、例えば、紙、木材、樹脂、金属、ガラス、セメント、アスファルト、皮革、等が挙げられる。
本発明の水系塗料組成物の用途としては、何ら制約はなく、例えば、建築、建材、自動車、船舶、鉄道、航空機、機械、構造物、自動車補修、家電、繊維、皮革、文房具、木工、家具、雑貨、鋼板、缶、電子基板、電子部品、印刷、等の用途に水系塗料または水系インクとして利用することができる。
【実施例】
【0031】
つぎに、実施例について比較例と併せて説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0032】
先ず、実施例に先立ち、次のようにしてセルロース繊維を作製した。
〔セルロース繊維T1(実施例用)の作製〕
針葉樹パルプ2g(乾燥重量)に対し水150g、臭化ナトリウム0.025g、2,2,6,6−テトラメチル− 1−ピペリジン−N−オキシル(TEMPO)0.025gを加え十分攪拌して分散させた後、13重量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、1gのパルプに対して次亜塩素酸ナトリウム量が5.4mmol/g-セルロースとなるように加え、pHを10〜11に保持するように0.5規定水酸化ナトリウム溶液を滴下しながらpH変化が見られなくなるまで反応させた。(反応時間は120分)反応終了後、0.1規定塩酸を添加して中和した後、ろ過と水洗を繰り返して精製し、繊維表面が酸化されたセルロース繊維を得た。
〔セルロース繊維T2、T3(実施例用)、セルロース繊維H1、H2(比較例用)〕
添加する次亜塩素酸ナトリウム量および反応時間を、下記の表1に示すとおりに変更する以外は、セルロース繊維T1の作製に準じて、各セルロース繊維を作製した。
〔セルロース微粒子分散体〕
繊維表面が酸化されていない、セルロース微粒子分散体を調製した。
すなわち、セルロース(木材パルプから製造したサルファイトパルプ)を、濃度1重量%となるように水に分散させ、石臼型グラインダーで15回処理を行い、繊維表面が酸化されていないセルロース微粒子分散体を調製した。下記の方法でセルロース繊維の数平均繊維径を測定したところ、4μmであった。
【0033】
【表1】

このようにして得られたセルロース繊維T1〜T3(実施例用)、セルロース繊維H1、H2(比較例用)を用い、下記の基準に従って各項目の測定を行った。これらの結果を、上記の表1に併せて示した。
<数平均繊維径>
得られたセルロース繊維の数平均繊維径を、次のようにして測定した。
すなわち、セルロース繊維に水を加え希釈した試料をホモミキサーを用いて12000rpmで15分間分散した後、親水化処理済みのカーボン膜被覆グリッド上にキャストして、これを透過型電子顕微鏡(TEM)で観察し、得られた画像から、数平均繊維径を測定算出した。その結果、数平均繊維径は7nmであった。
なお、後述する実施例で得られる水系塗料組成物中のセルロース繊維の数平均繊維径は、本方法で測定された値と一致することを確認している。
<セルロースI型結晶構造の確認>
得られたセルロース繊維がI型結晶構造を有することの確認を次のようにして行った。
すなわち、広角X線回折像測定により得られた回折プロファイルにおいて、2シータ=14〜17°付近と、2シータ=22〜23°付近の2つの位置に典型的なピークを持つことからI型結晶構造を有することを確認した。
<カルボキシ基量の測定>
得られたセルロース繊維のカルボキシル基量を、次のようにして測定した。
すなわち、乾燥させたセルロース繊維0.3gを水55mlに分散させ、0.01規定の塩化ナトリウム水溶液5mlを加えて、十分に攪拌してセルロース繊維を分散させた。つぎに、0.1規定の塩酸溶液をpH2.5〜3.0になるまで加え、0.04規定の水酸化ナトリウム水溶液を毎分0.1mlの速度で滴下し、得られたpH曲線から過剰の塩酸の中和点と、セルロース繊維由来のカルボキシル基の中和点との差から、カルボキシル基量を算出した。その結果、セルロース繊維固形分あたりのカルボキシル基量は1.00mmol/gであった。
<アルデヒド基量の測定>
得られたセルロース繊維のアルデヒド基量を、次のようにして測定した。
すなわち、得られたセルロース繊維を水に分散させ、酢酸酸性下で亜塩酸ナトリウムを用いてアルデヒド基を全てカルボキシル基まで酸化させた試料のカルボキシル基量を測定し、酸化前のカルボキシル基量との差をもってアルデヒド基量とした。その結果、セルロース繊維固形分あたりのアルデヒド基量は0.18mmol/gであった。
<アルデヒド基およびカルボキシル基の確認>
得られたセルロース繊維を構成するグルコースユニットのC6位の水酸基のみが選択的にアルデヒド基およびカルボキシル基に酸化されているかどうかの確認を行った。
すなわち、酸化前のセルロースの13C-NMRチャートで確認されたグルコース単位の1級水酸基のC6位に相当する62ppmのピークが、酸化反応後は消失し、代わりに178ppmにカルボキシル基に由来するピークが現れたことを確認した。
つぎに、上記で得られたセルロース繊維(T1〜T3、H1〜H2)を用いて以下のようにして水性農薬組成物を調整した。
〔実施例1〕
着色剤である酸化チタン15.0部並びに炭酸カルシウム7.0部、界面活性剤であるポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロック重合体0.6部、及び水(顔料分散用)20.0部を計量し、ビーズミルで分散処理をして、顔料分散液を調製した。
得られた顔料分散液、セルロース繊維T1を固形分換算値で0.2部、及び水系ウレタン樹脂エマルションを固形分換算値で18.0部を計量し水を加えて100部とした。次に、ホモミキサーを用いて、12000rpmで15分間混合して、水系塗料組成物を得た。
〔実施例2、3、比較例1〜4〕
下記の表2に示すように、各成分の種類及び配合量を変更する以外は、実施例1に準じて水系塗料組成物を得た。
【0034】
【表2】

〔実施例4〕
着色剤としてカーボンブラック5.0部、界面活性剤としてポリアクリル酸ナトリウム0.5部、ポリオキシエチレンラウリルエーテル1.0部、並びにナフタレンスルホン酸ナトリウム0.3部、及び水(顔料分散用)28.0部を計量しビーズミルで分散処理をして、顔料分散液を調製した。
【0035】
得られた顔料分散液、セルロース繊維T3を固形分換算値で0.2部、水系樹脂として水系アクリル樹脂エマルションを固形分換算値で20.0部、消泡剤としてシリコーン消泡剤0.01部、及び防腐剤として1,2−ベンツチアゾリン−3−オン0.1部を計量し、水を加えて100部とした。次にホモミキサーを用いて、12000rpmで15分間混合して、水系塗料組成物を得た。
〔実施例4〜9〕
下記の表3に示すように、各成分の種類及び配合量を変更する以外は、実施例4に準じて水系塗料組成物を得た。尚、実施例6の水系塗料組成物は樹脂の配合量が少ないインクの製造例である。
【0036】
【表3】

〔実施例10〕
セルロース繊維T2を固形分換算値で0.5部、水系樹脂として水系エポキシ樹脂エマルションを固形分換算値で19.0部、消泡剤としてシリコーン消泡剤0.01部、及び防腐剤として1,2−ベンツチアゾリン−3−オン0.1部を計量し、水を加えて100部とした。次にホモミキサーを用いて、12000rpmで15分間混合して、水系塗料組成物を得た。尚、本実施例の水系塗料組成物は着色剤を配合しないクリヤー塗料の製造例である。
このようにして得られた各水系塗料組成物を用い、下記の基準に従って、各特性の評価を行った。これらの結果を、上記の表2及び表3に併せて示した。
(粘度の評価)
BM型粘度計を用い、25℃にて、ローター番号3番、60rpm、で180秒後に測定される粘度を測定した。
(分散性の評価)
製造直後の水系塗料組成物を目視観察し、顔料の分散状態を下記の判定基準に従い、判定した。
◎:全く分離がなく、顔料が均一に分散している。
○:ほとんど分離がない、または、顔料の凝集がない。
△:僅かに分離が認められる、または、僅かに顔料の凝集が認められる。
× :完全に分離している、または、完全に顔料が凝集している。
(保存安定性の評価)
得られた水系塗料組成物を、共栓付メスシリンダーに移し、40℃で1ヵ月放置した後、下記の判定基準に従い、組成物の分離状態を目視で判定した。
◎:全く分離が認められない。
○:ほとんど分離が認められない。
△:僅かに分離が認められる。
× :完全に分離している。
(再分散性の評価)
得られた水系塗料組成物を、共栓付メスシリンダーに移し、40℃で1ヵ月放置した後、10回倒立混合し、再分散状態を、下記の判定基準に従い、目視で判定した。
◎:均一に再分散する。
○:ほぼ均一に再分散し、沈澱物がない。
△:僅かに再分散しない沈澱物が認められる。
× :沈澱物が再分散しない。
(タレ性の評価)
得られた水系塗料組成物を、ローラーコーター(家庭用市販品、万能タイプ、ローラー幅 150mm)を用いて、垂直に保持した亜鉛メッキ鋼板に塗工し、塗料のタレ状態を、下記の判定基準に従い、目視で判定した。
◎:全くタレがない。
○:ほとんどタレがない。
△:僅かにタレが認められる。
× :明らかにタレが認められる。
(スプレー性の評価)
得られた水系塗料組成物を、エアガン(種類を特定してください)を用いて、噴霧し、塗料の噴霧状態を、下記の判定基準に従い、目視で判定した。
◎:完全な霧状にスプレーされる。
○:ほぼ霧状にスプレーされる。
△:荒い粒子となってスプレーされる。
× :棒状となる、または、スプレーできない。
(耐水性の評価)
得られた水系塗料組成物を、バーコーター(K−ハンドコーター、RK PrInt−Coat Instrument社製)を用いて、亜鉛メッキ鋼板に塗工した後、40℃で24時間乾燥し、さらに、25℃の水中に10日間浸漬した後、塗膜の状態を、下記の判定基準に従い、目視で判定した。
◎:塗膜の剥がれや膨れが全く認められない。
○:塗膜の剥がれや膨れがほぼ認められない。
△:若干塗膜の剥がれや膨れが認められる。
× :完全に塗膜の剥がれや膨れが認められる。
上記表2の結果から明らかなように実施品1〜10はいずれも分散性、保存安定性、再分散性、タレ性、スプレー性、耐水性が良好であった。尚、実施例1〜10品に含有されるセルロース繊維(T1〜T3)の数平均繊維径を、前述の方法で測定し、算出した結果、農薬有効成分等の配合前と実質的変化は無かった。また、本発明者らは、上記セルロース繊維T1〜T3に代えて、カルボキシル基量が0.6mmol/g(下限)のセルロース繊維、及びカルボキシル基量が2.2mmol/g(上限)のセルロース繊維を用いた場合にも、セルロース繊維T1〜T3を用いた場合と同様の優れた効果が得られることを実験により確認している。
これに対して、セルロース繊維H1を用いた比較例1品はセルロース繊維中のカルボキシル基量が0.5mmol/gと低いため、水系塗料組成物の粘度発現が不十分で200mPa・sと低く、分散性、保存安定性、再分散性、タレ性、スプレー性、耐水性ともに実施例品より劣っていた。
また、セルロース繊維H2を用いた比較例2品はセルロース繊維中のカルボキシル基量が2.2.mmol/gと高いため水溶性が強く、分散性、再分散性は実施例品より少し劣る程度であったが、保存安定性、タレ性、スプレー性、耐水性は実施例品 より明らかに劣っていた。
セルロース微粒子分散体を用いた比較品3品は、水系塗料組成物の粘度発現が不十分で100mPa・sと低く、スプレー性は実施例品より若干劣る程度であったが、分散性、保存安定性、再分散性、タレ性、耐水性何れもに実施例品より明らかに劣っていた。
【0037】
カルボキシメチルセルロースを用いた比較例4品は、分散性とスプレー性は実施例品より若干劣る程度であったが、カルボキシメチルセルロースは水溶性であるため、耐水性が実施例より劣ることに加え、保存安定性、再分散性、タレ性、及び分散安定性が実施例より明らかに劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の活用例として、建築、建材、自動車、船舶、鉄道、航空機、機械、構造物、自動車補修、家電、繊維、皮革、文房具、木工、家具、雑貨、鋼板、缶、電子基板、電子部品、印刷、等の用途に水系塗料または水系インクとして利用することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
数平均繊維径が2〜150nmのセルロース繊維であって、そのセルロースが、セルロースI型結晶構造を有すると共に、セルロース分子中のグルコースユニットのC6位の水酸基が選択的に酸化されてアルデヒド基およびカルボキシル基に変性されており、カルボキシル基の量が0.6〜2.2mmol/gであるセルロース繊維を含有することを特徴とする、水系塗料組成物。
【請求項2】
上記のセルロース繊維が、N−オキシル化合物の存在下、共酸化剤を用いて酸化されたものであることを特徴とする請求項1記載の水系塗料組成物。






【公開番号】特開2011−57749(P2011−57749A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−205930(P2009−205930)
【出願日】平成21年9月7日(2009.9.7)
【出願人】(000003506)第一工業製薬株式会社 (491)
【Fターム(参考)】