説明

水系塗材組成物および塗床

【課題】熱硬化性のエポキシ樹脂の物性を持ち、無溶剤で、発色性が良く、塗り継ぎが目立たない水系塗材組成物、塗床を提供する。
【解決手段】シアノエチル化ポリアミンを含むポリアミンとエポキシ樹脂を含む水系塗材組成物で、前記組成比率が、エポキシ樹脂10〜40重量%、顔料10〜30重量%、ポリアミン10〜40重量%、水20〜60重量%であり、無溶剤であるエポキシ樹脂を主剤、水とポリアミンを含む硬化剤、希釈用水を塗材構成とし、コーンプレート粘度計によりずり速度38.3sec−1の条件で、温度25℃の測定される混合初期の粘度が200〜1000mPa・sであること及びこれらの塗床であること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水系エポキシ樹脂による水系塗材組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
塗床材料としては用途によりエポキシ、ウレタン、アクリル等さまざまな樹脂が用いられ、数〜数十mmに及ぶ厚塗り工法がある一方、ペンキのようにローラーやスプレー等で数十〜数百μmの厚みで塗装する薄塗工法もある。簡易的な化粧や下地コンクリートの発塵を抑える目的で塗工される場合は薄塗工法が行われる場合が多い。ただし、この薄塗工法に用いられる材料は溶剤を含むものが多く、また、水性アクリル塗料など水性のものも開発されているが概して耐溶剤性や強度等が劣り、工場床、倉庫床、バックヤードなどある程度の耐久性が要求される部位では物性不足になりがちである。
【0003】
施工時の臭気の問題や環境への配慮などから水性材料の要求が高まる中、硬度が高く、工場床に適するエポキシ樹脂系塗材の水系化が検討されてきた。これらの多くは、液状や固形エポキシ樹脂を水に分散させてなるエマルションを主剤とし、水溶性アミンの水溶液を硬化剤とするものであり、硬化剤が水中にてエマルション粒子を架橋するバインダーとして働き、水の蒸散とともに乾燥、硬化する。そのため、従来の溶剤系のものと比較すると依然として物性に乏しく、また、低温での成膜性を確保するために成膜助剤として溶剤を含むものもある。
【0004】
これに対し、無溶剤エポキシを主剤とし、乳化力を持ったアミンを硬化剤とする自己乳化型水系エポキシ樹脂があり、これは塗工時にアミンの乳化力により塗材を強制的に水に分散させる、あるいは塗材中に水を分散させるというもので、水の蒸散を伴う以外は無溶剤型塗材と同様の硬化過程をとる。乾燥性は概してエマルション型のものに劣るが、得られる塗膜の物性が高くまた、有機揮発分を含まなくとも良好な低温成膜性が得られるというメリットがある。
【0005】
(I)分子内に平均1個より多くの隣接エポキシ基を有するエポキシ樹脂、(II)平均分子量が 250〜10000 又はエチレンオキサイド含量が45重量%以上のポリアルキレンポリエーテルポリオールのポリグリシジルエーテルと分子内に平均1個より多くの隣接エポキシ基を有する疎水性エポキシ化合物との混合物であるエポキシ基含有化合物と、脂環式ポリアミン、芳香族ポリアミン及びヘテロ環族ポリアミンからなる群から選ばれる1種以上のポリアミン類とを、ポリアミン過剰で反応させて得られる自己乳化型活性有機アミン硬化剤、及び(III) 水を含有する水性エポキシ樹脂硬化性組成物が塗膜のレベリング性、造膜性に優れ、硬化フィルムが透明で、表面光沢、硬度、密着性、耐水性、耐薬品性に優れることが開示されている。(特許文献1)
【0006】
エポキシ樹脂、平均分子量 200〜12000 でエチレンオキサイド含有量80重量%以上のポリアルキレンポリエーテルポリオール化合物と過剰のポリイソシアネート化合物とを反応させて得られるウレタン結合含有化合物と、エポキシ化合物と、平均分子量 300〜5000のアルキルフェノールエトキシレートとを、特定割合で反応させて得られるエポキシ基含有乳化性化合物、及び水 を含む乳化性エポキシ樹脂組成物、並びにこれと活性有機アミノ化合物 とを混合し、硬化させて得られる硬化性組成物が乳化性、貯蔵安定性に優れ、また活性有機アミノ化合物で硬化した場合、硬化速度、硬化物の皮膜強度、耐水性等に優れることが開示されている。 (特許文献3)
【0007】
平均1個より多いエポキシ基を持つポリエポキシドと、水性エマルションタイプのポリアミン誘導体とを含み、後者は、ポリオキシエチレングリコールのジグリシジルエーテル1当量に対し、分子内に2個の活性水素を持つアミンを1.01〜2当量反応させ、疎水性ジエポキシドをエポキシ基過剰量で反応させて得られるエポキシ基含有化合物、第一又は/及び第二アミノ基を2個以上持つポリアミン類、平均1個より多いエポキシ基を持つ疎水性ポリエポキシド、モノエポキシド及びアクリロニトリルから選択される単独又は混合物IVを反応させて作られる組成物が、水希釈可能な水性ポリエポキシド組成物となることが開示されている。(特許文献4)
【0008】
(A)ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂および/またはビスフェノールF型液状エポキシ樹脂、 (B)無溶剤型ポリアミンおよび/または無溶剤型ポリアミドアミン、(C) 溶解性パラメーター10以上で、沸点130 ℃以下のアルコール系溶剤、を主成分とする塗り床用下塗塗料組成物は旧塗膜を溶解、膨潤軟化させることなしに簡便かつ円滑に塗装補修ができることが開示されている。(特許文献5)
【0009】
主剤が無溶剤エポキシ樹脂であり、硬化剤が自己乳化型アミンと非自己乳化エマルジョン型アミンからなることを特徴とする水系エポキシ樹脂組成物とすること、また無溶剤であり、成膜助剤を含まない水系エポキシ樹脂組成物とすることで、低温での成膜性が良く、硬度が高く、耐摩耗性が高く、顔料の色別れがない塗材となり、成膜助剤、溶剤を含まないことから作業環境が改善でき、環境負荷が少ない、また住環境のシックハウスを防げることが開示されている。(特許文献6)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平6−179801号公報
【特許文献2】特開平6−212059号公報
【特許文献3】特開平6−228272号公報
【特許文献4】特開平10−130372号公報
【特許文献5】特開平5−302059号公報
【特許文献6】特開2009−73879号公報
【0011】
しかし、自己乳化型水系エポキシ樹脂は水性でありながら優れた塗膜が得られるが、水を含んだまま無溶剤型の硬化が起こるため、混合してから塗装するまでの時間により発色、特に明度が安定し難いという欠点があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
解決しようとする課題は、色安定性が良いエポキシ樹脂水系塗材組成物及び塗床を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1の発明は、エポキシ樹脂とポリアミンおよび水を成分とする水系塗材組成物であって、前記ポリアミンがシアノエチル化ポリアミンを含む水系塗材組成物で塗工時経時色安定性が良く、物性の優れた塗り床となる。
【0014】
請求項2の発明は、前記塗材組成物が、エポキシ樹脂10〜40重量%、顔料10〜30重量%、ポリアミン10〜40重量%、水20〜60重量%を含有する請求項1に記載の水系塗材組成物で薄塗り用途で安定した作業性と発色性が得られる。
【0015】
請求項3の発明は、前記エポキシ樹脂が無溶剤であることを特徴とする請求項1乃至2いずれかに記載の水系塗材組成物で簡便で、塗装時の作業環境が良く、硬化物性も高い水系塗材組成物となる。
【0016】
請求項4の発明は、前記水系塗材組成物がコーンプレート粘度計によりずり速度38.3sec−1の条件で、温度25℃の測定される混合初期の粘度が200〜1000mPa・sである請求項1乃至3のいずれかに記載の水系塗材組成物で薄塗り塗材として安定した発色性と仕上がりが得られる。
【0017】
請求項5の発明は、請求項3及び4のいずれかに記載の水系塗材組成物が塗布された塗床で塗膜物性が高く、塗り継ぎが目立たず、安定した発色の仕上がりの塗床が得られる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の水系塗材組成物は、熱硬化性エポキシ樹脂で、成膜助剤等の有機溶剤を全く含まずに強靭で、また、特に塗装時間に起因する色むらが出にくく、仕上がりに優れ、得られる塗床は塗り継ぎ面が目立たず、発色が安定した仕上がりとなる特徴を有する。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、エポキシ樹脂水系塗材組成物がシアノエチル化ポリアミンを含み、塗材粘度を調整することにより主剤、硬化剤の混合から塗装までの時間による発色の安定性を向上できることで発明に到った。
【0020】
本発明に用いるエポキシ樹脂はビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ノボラック型、脂環型、グリシジルアミン型、水添ビスフェノールA型などのエポキシ樹脂を上げることができ、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,6ヘキサンジオール、トリメチロールプロパンのグリシジルエーテルやネオデカン酸グリシジルエステルなどの反応性希釈剤を混合して用いることもできる。
【0021】
水系塗材組成物の主剤のエポキシ樹脂は液状で、無溶剤であれば良く、エポキシ樹脂と希釈剤を適宜選択して、硬化剤と混合した状態で乳化でき、必要に応じて水で希釈できるものとする。

【0022】
塗材組成物の硬化剤は、混合時に乳化して水系塗材となれば良く、自己乳化型アミンを含み、シアノエチル化ポリアミンが含まれていれば良い。
自己乳化型アミンはエポキシ樹脂の硬化剤に用いられるポリアミンにポリアルキレングリコールのグリシジルエーテルをアダクト変性するなどして得られる親水基を有し、乳化する能力を付与したもので、市販品にアデカEH4227((株)ADEKA、商品名)、フジキュアーFXI−919(富士化成工業(株)、商品名)、ダイトクラールI6020、ダイトクラールI5995(大都産業(株)、商品名)等があげられる。
シアノエチル化ポリアミンはエポキシ硬化剤として用いられる各種ポリアミンをアクリロニトリルに付加させることにより得られる物である。
ポリアミンは、メタキシリレンジアミン、イソホロンジアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ヘキサメチレンジアミン、アミノメチルピペラジン、ポリオキシアルキレンジアミンやこれらのエポキシアダクト生成物、マンニッヒ反応生成物、カルボン酸との反応により生成するポリアミドなどが代表的なものとして挙げることがてきる。
自己乳化型アミンとシアノエチル化ポリアミンの混合した市販品にダイトクラールI6020がある。
【0023】
この他、希釈剤や消泡剤等の添加剤を配合することができる。
硬化剤にはシリカ、セルロース、ポリアクリル酸、変性ポリウレア、アマイドワックスなどの粘度調整剤や、三級アミンやアルキルフェノール類などの硬化促進剤を添加することができる。
【0024】
本発明で使用する顔料は普く知られた顔料、体質顔料、トーナーをいい、チタン白、カーボンブラック、炭酸カルシウム粉、硫酸バリウム、タルク、シリカ粉、アルミナ、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、窒化ホウ素、酸化亜鉛、酸化鉄、フタロシアニン銅等を使うことができる。
【0025】
本発明の水系塗材組成物はエポキシ樹脂と硬化剤とは、エポキシ当量と硬化剤のアミン価等との関係は概ね普く知られた手法で配合され、重量比のみでは表せないが、エポキシ樹脂10〜40重量%、顔料10〜30重量%、ポリアミン10〜40重量%、水20〜60重量%を配合することが好ましい。このうちポリアミンに含まれるシアノエチル化ポリアミンの含有量はベースとなるアミンの構造、種類により異なり、効果が得られる配合量と硬化性、硬化物性の均衡を採り適宜選択する。

【0026】
本発明の水系塗材組成は、コーンプレート粘度計で温度25℃、ずり速度38.3sec−1の条件で測定される混合初期の粘度が200〜1000mPa・sである時、着色顔料の分離や系中に分散している水分の揮発が抑制されると考えられ、混合後長い時間安定した発色が得られ、好ましい。
【0027】
使用混合初期の粘度が1000mPa・sを超えると薄塗り用途としては塗装作業性が著しく低下し、適さない。薄塗り塗り床塗材用途としては、実用上問題ない色差は、JIS K5600−4−5及びJIS K5600−4−6に基づく測定で、ΔEが1.00以下であり、本発明の水系塗材組成物は良好な仕上がりを得ることができる。
【0028】
以下 実施例・比較例・参考例で詳細に説明する。結果は表1に記す。
【実施例1】
【0029】
jER828(三菱化学(株)、商品名、ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂、エポキシ当量190)を50重量部、ネオデカン酸グリシジルエステルを9重量部、沈降性硫酸バリウムを10重量部、タイピュアR−960(デュポン(株)、商品名、チタン白)29重量部、カーボンMA−100(三菱化学(株)、カーボンブラック)1重量部を混合し、三本ロールミルにて分散・混錬させた後、添加剤としてBYK−333(ビックケミー(株)、商品名、シリコン系ハジキ防止剤)0.5重量部、及びBYK−077(ビックケミー(株)、商品名、シリコン系消泡剤)0.5重量部を配合して水系塗材組成物主剤とし、硬化剤として、ダイトクラールI6020(大都産業(株)、商品名、エポキシ変性イソホロンジアミンと水およびシアノエチル化キシリレンジアミンの混合物)を50重量部と水を50重量部を混合・撹拌したものとし、主剤と硬化剤を混合し、撹拌したものを実施例1の水系塗材組成物とした。
【実施例2】
【0030】
実施例1の硬化剤にSNシックナー651(サンノプコ(株)、商品名、アクリル系増粘剤)2重量部を添加し、水を48重量部に変えた以外は実施例1と同じに行い、さらに希釈水とし、水60重量部を加えて撹拌し、実施例2の水系塗材組成物とした。
【0031】
比較例1
実施例2のダイトクラールI6020に変えて、ダイトクラールI5995(大都産業(株)、商品名、エポキシ変性イソホロンジアミンと水の混合物)に変えた以外同じに行い、比較例1の水系塗材組成物とした。
【0032】
参考例1
実施例1の水系塗材組成物200重量部に希釈水として水30重量部を加えて撹拌し、参考例1の水系塗材組成物とした。
【0033】
【表1】

初期粘度
実施例、比較例、参考例の水系塗材組成物(主剤、硬化剤及び希釈水を混合直後)をE型粘度計TV−20(東機産業(株))でJIS K5600−2−3の方法に準じて測定した。使用したコーンプレートは角度が1°34′、半径が24mmであり、測定時のずり速度は38.3sec−1(10回転/分)、温度は25℃で実施した。
色差ΔE
JIS A5430に規定されるフレキシブルボードにエポキシ樹脂プライマーを塗布し、吸い込みを無くした状態のものに、実施例、比較例、参考例の水系塗材組成物を、刷毛で150g/mの塗布量にて塗布し、撹拌直後に塗布したものと10分、20分及び30分静置後塗布したもの(いずれも23℃24時間静置にて硬化させたもの)との色差ΔEを測定した。なお、測定は色彩色差計CR−410(ミノルタ(株))を用い、JIS K5600−4−5に準拠して行い、色差の計算はJIS K5600−4−6に従い計算した。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の水系塗材組成物は、薄塗りであり、簡便な作業で、仕上がりと物性に優れる床防塵が水系で実現でき、大きな面積でも、塗り継ぎが目立たず、経時により発色性が同じであり、綺麗な床が得られ、たとえば食品工場の床などの、作業環境中の臭気が問題となる場合でも容易に適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂とポリアミンおよび水を成分とする水系塗材組成物であって、前記ポリアミンがシアノエチル化ポリアミンを含むことを特徴とする水系塗材組成物。
【請求項2】
前記塗材組成物が、エポキシ樹脂10〜40重量%、顔料10〜30重量%、ポリアミン10〜40重量%、水20〜60重量%を含有する請求項1に記載の水系塗材組成物。
【請求項3】
前記エポキシ樹脂が無溶剤であることを特徴とする請求項1乃至2いずれかに記載の水系塗材組成物。
【請求項4】
前記水系塗材組成物がコーンプレート粘度計によりずり速度38.3sec−1の条件で、温度25℃の測定される混合初期の粘度が200〜1000mPa・sである請求項1乃至3のいずれかに記載の水系塗材組成物。
【請求項5】
請求項3及び4のいずれかに記載の水系塗材組成物が塗布された塗床。

【公開番号】特開2012−201775(P2012−201775A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−66979(P2011−66979)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000100698)アイカ工業株式会社 (566)
【Fターム(参考)】