説明

水系無機塗料、塗装方法および塗装体

【課題】平滑かつクリアーな塗膜を得ることができる水系無機塗料、塗装方法および塗装体を提供する。
【解決手段】水系無機塗料は、電解水を含む。水系無機塗料は、たとえば、ケイ酸アルカリに、硬化剤としてケイ酸カルシウム及び/またはリン酸亜鉛を添加し、無機充填材として、コレマナイト(2CaO,3B,5H2O)及び/またはウレキサイト(NaO,2CaO,5B,16HO)を主成分としたB23成分溶出作用を有する天然ガラスを平均粒径30μmで厚み1.0μm以下の微細な鱗片状として混合したものを含むものに好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミホイール、カーブミラー、ガラス板、ステンレス鋼板、等に塗布し得る水系無機塗料およびその水系無機塗料の塗装方法並びにその水系無機塗料が塗装された塗装体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地球的規模で環境問題が深刻化している近年、揮発性有機化合物(VOC)からの脱却を目的として水系無機塗料の開発が進められている。その中でも、水ガラス等のケイ酸アルカリ水溶液を結合剤とした水系無機塗料の開発が盛んである。しかし、ケイ酸アルカリ水溶液を結合剤とした水系無機塗料は、被塗装物に熱的影響で歪みが起こると、ガラス質である塗膜には微細なクラックが生ずるため、インキ、ソース等が沁み込んでその汚れが落ちなくなり、或いは薬品の滴下で品質が不良になる等の問題点があった。
そこで、特許文献1に開示された特許発明にかかる水系無機塗料においては、ケイ酸アルカリにケイ酸カルシウムまたはリン酸亜鉛を添加し、コレマナイト或いはウレキサイトを主成分としたB23成分溶出作用を有する鱗片状天然ガラスを配合することによって、塗膜に靭性を持たせて、被塗装物に熱的影響で歪みが起こっても塗膜にはクラックが生ずることがない水系無機塗料を完成している。
さらに、特許文献2に開示された発明にかかる水系無機塗料においては、ケイ酸アルカリにホウ酸塩を添加し、さらに無機充填材として鱗片状で透明な微細シリカを添加することによって、特許文献1にかかる水系無機塗料からなる塗膜が不透明であったのに対して、十分な透光性を有するとともに靭性をも有する無機塗膜を形成することができ、受光により特性を発揮する太陽光発電システムのソーラーパネルや光反射により特性を発揮するミラー等の表面保護にも適する水系無機塗料としている。
【特許文献1】特許第3140611号公報
【特許文献2】特開2005−015728号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上述した特許文献1、特許文献2に開示された水系無機塗料の塗膜は、速乾性が高いためスプレーガンにて塗装する場合に塗料の粒子がそのまま残り、完成塗膜に凹凸として表れたり、塗膜厚が不均一なため性能においてもムラが生じるといった問題点があった。
【0004】
本発明の目的は、平滑な塗膜を得ることができる水系無機塗料、塗装方法および塗装体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の水系無機塗料は、電解水を含むものである。
【0006】
本願発明者は、水系無機塗料を構成する水として電解水を用いることで、水系無機塗料の硬化が遅くなることを見出した。その結果、硬化が遅いとその分だけ初期段階で発生する粒が抑えられ、平滑でクリアーな塗膜が得やすいという利点がある。つまり、硬化が速いと硬化することが発生した粒が塗装時に飛散し、クリアーな塗膜が得にくいが、電解水により水系無機塗料を構成させることで、その硬化スピードを遅くすることができる。また、硬化スピードが遅くなったことで、粘性が高まるスピードも遅くすることができるため、粘性が低い状態の期間が長くなり、水系無機塗料が被塗装体によくなじむようになる。
【0007】
また、電解水が添加されていることで、膜厚の均一化を図ることができるため、塗膜面内の塗膜性能の均一化ないしは均質化を図ることができる。
【0008】
極端に膜厚が厚い部分があると、その塗膜がはがれ落ち易くなったりするなどの問題が生じるが、電解水を加えることで、このような問題が生じるのを抑えることができる。一方で、膜厚が極端に薄いと、多孔質化してしまう問題が生じるが、電解水を加えることで、このような問題が生じるのを抑えることができる。
【0009】
さらに、電解水が添加された水系無機塗料は、塗料自身の寿命、保存性を大幅に長くすることができる。
【0010】
この他、従来、水系無機塗料は硬化スピードが早いため、硬化スピードが遅い必要のある塗装方法(ディッピング、流し塗り、スピンコートなど)により塗装をすることができなかったが、電解水を加えることで、このような塗装方法により塗装をすることができるようになった。
【0011】
特に、以下に示す第1〜第5の水系無機塗料において、特に有用である。
【0012】
(1)第1の水系無機塗料
本発明の第1の水系無機塗料は、ケイ酸アルカリに、硬化剤としてケイ酸カルシウム及び/またはリン酸亜鉛を添加し、無機充填材として、コレマナイト(2CaO,3B,5H2O)及び/またはウレキサイト(NaO,2CaO,5B,16HO)を主成分としたB23成分溶出作用を有する天然ガラスを平均粒径30μmで厚み1.0μm以下の微細な鱗片状として混合したものを含む。
【0013】
ここで、「ケイ酸アルカリ」としては、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、ケイ酸リチウム等を用いることができ、また無機充填材として、コレマナイト及び/またはウレキサイトを主成分とした天然ガラスを用いるのは、コレマナイト及びウレキサイトに含有されるB23成分のガラス化により強固な塗膜が形成されるためである。なお、他の天然ガラスにコレマナイト及び/またはウレキサイトを混合させてもよいが、コレマナイト及び/またはウレキサイトの混合量はたとえば少なくとも無機充填材総量の約10重量%以上で、最適量は30重量%以上である。
【0014】
コレマナイト及び/またはウレキサイトを主成分としたB23成分溶出作用を有する天然ガラスを平均粒径30μmで厚み1.0μm以下の微細な鱗片状として混合することによって、ワーク表面に膜厚5μm以下で塗布することができ、かかる薄膜としても強固かつ均一・平滑な欠陥の無い塗膜となる。
(2)第2の水系無機塗料
本発明の第2の水系無機塗料は、ケイ酸アルカリ100重量部に、硬化剤としてケイ酸カルシウム及び/またはリン酸亜鉛を合計5重量部〜20重量部添加し、コレマナイト(2CaO,3B,5HO)及び/またはウレキサイト(NaO,2CaO,5B,16HO)を主成分としたB23成分溶出作用を有する鱗片状天然ガラスを合計20重量部〜80重量部混合したものを含む。
【0015】
ここで、「ケイ酸アルカリ」としては、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、ケイ酸リチウム等を用いることができ、また無機充填材としてコレマナイト及び/またはウレキサイトを主成分とした天然ガラスを用いるのは、コレマナイト及びウレキサイトに含有されるB23成分のガラス化により強固な塗膜が形成されるためである。
ケイ酸アルカリ100重量部に対して、硬化剤としてのケイ酸カルシウム及び/またはリン酸亜鉛の合計添加量としては、5重量部〜20重量部の範囲内で添加することによって、長時間放置しても安定な状態が保たれる。また、無機充填材としてのコレマナイト及び/またはウレキサイトの鱗片状天然ガラスの合計添加量としては、20重量部〜80重量部の範囲内で添加することによって、長時間放置しても安定な状態が保たれる。したがって、通常の工場の稼動時間である8時間程度では、塗料としての特性が安定して保たれ、ワークに膜厚5μm以下で塗布することができ、かかる薄膜としても強固かつ均一・平滑な欠陥の無い塗膜となる。
【0016】
(3)第3の水系無機塗料
本発明の第3の水系無機塗料は、ケイ酸アルカリ100重量部に、硬化剤としてケイ酸カルシウム及び/またはリン酸亜鉛を合計5重量部〜20重量部添加し、コレマナイト(2CaO,3B,5HO)及び/またはウレキサイト(NaO,2CaO,5B,16HO)を主成分としたB成分溶出作用を有する鱗片状天然ガラスを合計20重量部〜80重量部混合し、厚み0.5μm以下の極薄状のガラスフレークを1重量部〜20重量部配合されたものを含む。
【0017】
このように、厚み0.5μm以下の極薄状のガラスフレークをケイ酸アルカリ100重量部に対して1重量部〜20重量部配合するのは、ケイカル板のように軽量で吸水率が高く熱歪みの大きい被塗装物に対して、被覆力をより強くして安定した強固な塗膜を厚さ5μm以下の薄膜に形成するためである。
【0018】
(4)第4の水系無機塗料
本発明の第4の水系無機塗料は、ケイ酸アルカリにホウ酸塩を添加し、さらに無機充填材として厚さ0.01μm〜0.5μm、径2μm〜5μmの鱗片状で透明なシリカを混合したものを含む。
【0019】
無機充填材として鱗片状で透明なシリカを混合することによって、透明な塗膜が形成されて、十分な透光性を有するとともに靭性をも有する無機塗膜となり、受光により特性を発揮する太陽光発電システムのソーラーパネルや光反射により特性を発揮するミラー等の表面保護にも適する水系無機塗料となる。
(5)第5の水系無機塗料
本発明の第5の水系無機塗料は、ケイ酸アルカリ100重量部に、ホウ酸塩を0.5重量部〜35重量部添加し、さらに無機充填材として厚さ0.01μm〜0.5μm、径2μm〜5μmの鱗片状で透明なシリカを0.5重量部〜50重量部混合されている。
【0020】
本発明の第5の水系無機塗料は、電解水が含まれるため、本発明の第1の水系無機塗料と同様に平滑でクリアーな塗膜を得ることができる。
【0021】
無機充填材として鱗片状で透明なシリカを混合することによって、透明な塗膜が形成されて、十分な透光性を有するとともに靭性をも有する無機塗膜となり、受光により特性を発揮する太陽光発電システムのソーラーパネルや光反射により特性を発揮するミラー等の表面保護にも適する水系無機塗料となる。なお、シリカの混合量が0.5重量部未満の場合には塗膜の被覆力が不十分となり、また50重量部を超えると塗膜の透明性が低下するとともに塗料が高粘度になって均一に塗装するのが困難になるため、シリカの混合量は0.5重量部〜50重量部の範囲内が好ましい。
本発明の第1〜第5の水系無機塗料において、前記電解水は、電解水の製造装置によって製造されるものであって、
前記電解水の製造装置は、
陽極が設けられた陽極室と、
陰極が設けられた陰極室と、
前記陽極室と前記陰極室との間に設けられ、電解質水溶液を収容する中間室と、
前記陽極室と前記中間室とを隔てる陰イオン交換膜からなる第1の隔膜と、
前記陰極室と前記中間室とを隔てる陽イオン交換膜からなる第2の隔膜と、を含むことができる。
【0022】
本発明によれば、平滑でクリアーな塗膜をより確実に得ることができる。
【0023】
また、前記電解水は、陰極側にて生成された電解水および陽極側にて生成された電解水であると、アルカリ性を示すため、本発明の水系無機塗料の性能を確実に発揮させることができる。
【0024】
前記電解水の含有量は、前記水系無機塗料に対して0.1〜99.9重量%とすると、より確実かつ優れた効果を奏することができる。
【0025】
本発明の塗装方法は、本発明の水系無機塗料を被塗装体に塗装する工程を含む。このため、本発明によれば、平滑かつクリアーな塗膜を形成することができる。
【0026】
本発明の塗装体は、本発明の水系無機塗料が塗装されている。このため、平滑かつクリアーな塗膜が形成された塗装体を構成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の好適な実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0028】
1.水系無機塗料
(1)第1の水系無機塗料
第1の水系無機塗料は、ケイ酸アルカリとしてケイ酸ナトリウム20〜70重量部及びケイ酸リチウム20〜70重量部、硬化剤としてケイ酸カルシウム2〜20重量部及びリン酸亜鉛3〜30重量部、無機充填材として平均粒径30μmで厚み1.0μm以下の鱗片状としたコレマナイト50〜200重量部、さらに極薄厚み0.5μm以下のガラスフレーク5〜20重量部を、水20〜80重量部とともに、たとえばボールミルで3時間粉砕混合し、その後、電解水を加えることにより得られる。電解水は、得られる水系無機塗料中、たとえば0.1〜99重量%、好ましくは0.5〜80重量%となるように添加される。なお、電解水は、粉砕混合前に水とともに又は水の代わりに添加してもよい。
【0029】
(2)第2の水系無機塗料
第2の水系無機塗料は、ケイ酸アルカリとしてケイ酸ナトリウム100重量部に対して、ホウ酸カルシウム5〜20重量部、厚さ0.1μm〜0.5μm、径2μm〜5μmの鱗片状で透明なシリカ3〜10重量部を、水20〜80重量部とともに、たとえばボールミルで3時間粉砕混合し、その後、電解水を加えることにより得られる。電解水は、得られる水系無機塗料中、たとえば0.1〜99重量%、好ましくは0.5〜80重量%となるように添加される。なお、電解水は、粉砕混合前に水とともに又は水の代わりに添加してもよい。
【0030】
(3)第3の水系無機塗料
第3の水系無機塗料は、ケイ酸アルカリとしてケイ酸ナトリウム40〜100重量部及びケイ酸リチウム10〜50重量部、硬化剤としてケイ酸カルシウム5〜20重量部及びリン酸亜鉛2〜15重量部、無機充填材として平均粒径30μmで厚み1.0μm以下の鱗片状としたコレマナイト5〜25重量部及びウレキサイト1〜10重量部、さらに極薄厚み0.5μm以下のガラスフレーク0.3〜5重量部を、水50〜200重量部とともにたとえばボールミルで3時間粉砕混合し、その後、電解水を加えることにより得られる。電解水は、得られる水系無機塗料中、たとえば0.1〜99重量%、好ましくは0.5〜80重量%となるように添加される。なお、電解水は、粉砕混合前に水とともに又は水の代わりに添加してもよい。
【0031】
2.電解水
本実施の形態に適用される電解水の製造装置を説明する。
【0032】
図1は、電解水の製造装置(以下、「電解装置」という)に係る模式図を示す。
【0033】
電解装置10は、陽極室20と陰極室30と中間室40とを含む。中間室40は、陽極室20と陰極室30の間に設けられている。
【0034】
中間室40には電解質水溶液が充填されている。中間室40に供給された電解室水溶液は、陽イオン(たとえばナトリウムイオン)が陰極室30に供給され、陰イオン(たとえば塩化物イオン)が陽極室20に供給される。中間室40を通過した水溶液を電解質水溶液の供給源80に戻して、電解質水溶液を再利用し循環させてもよいし、または、消費した分だけの電解質を中間室40に追加してもよい。電解質水溶液は、たとえば、塩化物塩水溶液(塩化ナトリウム水溶液や塩化カリウム水溶液)を挙げることができる。電解質水溶液の濃度としては、たとえば、電解質の飽和濃度とすることができる。
【0035】
中間室40と陽極室20とは、陰イオン交換膜からなる第1の隔膜24により隔てられている。第1の隔膜24が陰イオン交換膜からなることで、中間室40の陽イオンが第1の隔膜24を通過せず、陰イオンのみが選択的に第1の隔膜24を通過することとなる。第1の隔膜24に適用される陰イオン交換膜は、公知のものを適用することができる。
【0036】
中間室40と陰極室30とは、陽イオン交換膜からなる第2の隔膜34により隔てられている。第2の隔膜34が陽イオン交換膜からなることで、中間室40の陰イオンが第2の隔膜34を通過せず、陽イオンのみが選択的に第2の隔膜34を通過することとなる。第2の隔膜34に適用される陽イオン交換膜は、公知のものを適用することができる。
【0037】
第1の隔膜24と第2の隔膜34との間に、隔膜固定枠(図示せず)を設けてもよい。
【0038】
陰極32は直流電源の−側に接続され、陽極22は直流電源の+側に接続されている。直流電源70は、その電圧や電流を任意に設定できる構成になっている。電極の材質は公知のものを適用することができる。
【0039】
電解装置10は、陽極室20に水を給水するための第1の給水口26と、陰極室30に水を供給するための第2の給水口36とが設けられている。
【0040】
また、電解装置10は、陽極室20の液を吐出する第1の吐出口28と、陰極室30の液を吐出する第2の吐出口38とが設けられている。
【0041】
次に、電解装置10の動作を説明する。
【0042】
この水の供給と併せて、陽極22と陰極32の間に電位を印加し、電気分解を行う。陽極22と陰極32との間に電位を印加すると、中間室40の陽イオン(たとえば電解質が塩化ナトリウムの場合にはナトリウムイオン)が第2の隔膜34を通過し陰極室30に移動する一方で、中間室40の陰イオン(たとえば電解質が塩化ナトリウムの場合には塩化物イオン)が第1の隔膜24を通過し陽極室20に移動する。
【0043】
陽極室20では、陽極22にて塩化物イオンが次式の反応を起こし、塩素が発生する。
2Cl→Cl+2e
この塩素は、さらに、水と反応して次亜塩素酸が生成される。
Cl+HO→HClO+HCl
一方で、陰極室30では、陰極にて次式の反応が起こる。
O+2e→1/2H+OH
電解装置は、たとえば、特開平7−155760号公報、特開平9−108673号公報、特開2000−246249号公報、特開2001−286868号公報、特開2004−58006号公報および特開2008−264746号公報に開示された技術を適用することができる。
【0044】
3.塗装体
実施の形態に係る塗装体は、実施の形態に係る水系無機塗料が被塗装体に塗装されたものである。被塗装体の材質としては、アルミニウム、ステンレス鋼、SP鋼(通常のスチール)、SG鋼、SE鋼(ボンデ鋼)、チタン、ガラス、等の耐アルカリ性、セラミックス、耐酸性を有し、親水性のあるものが好ましい。被塗装体の形状は、たとえば、パンチングされたもの体若しくはメッシュ状のもの又はその積層体、発泡体、多孔質体などであってもよい。
【0045】
4.塗装方法
次に、水系無機塗料の塗装方法について説明する。
【0046】
まず、被塗装体に実施の形態に係る水系無機塗料を塗装し、乾燥させて塗膜を得る。水系無機塗料を塗装する方法としては、刷毛塗り、スプレー塗装、ディッピング塗装、真空蒸着、流し塗り、スピンコート等の従来の塗装方法によることもできるが、より確実に薄膜の塗膜を得るためには、遠心塗装、延伸塗装、等の方法によることが好ましい。
【0047】
塗膜を乾燥させる工程は、たとえば、被塗装体に水系無機塗料が塗装されたものを熱風乾燥機に入れて、まず30〜150℃で5〜30分間加熱し、続いて10〜60分かけて220℃以上まで昇温し、220℃以上で10〜30分間以上加熱する。
【0048】
なお、水系無機塗料を塗装する前に適宜、前処理を行ってもよい。
【0049】
5.作用効果
本願発明者は、水系無機塗料を構成する水として電解水を用いることで、水系無機塗料の硬化が遅くなることを見出した。その結果、硬化が遅いとその分だけ初期段階で発生する粒が抑えられ、平滑でクリアーな塗膜が得やすいという利点がある。つまり、硬化が速いと硬化することが発生した粒が塗装時に飛散し、クリアーな塗膜が得にくいが、電解水により水系無機塗料
を構成させることで、その硬化スピードを遅くすることができる。また、硬化スピードが遅くなったことで、粘性が高まるスピードも遅くすることができるため、粘性が低い状態の期間が長くなり、水系無機塗料が被塗装体によくなじむようになる。
【0050】
また、電解水が添加されていることで、塗膜性能が向上する。さらに、電解水が添加された水系無機塗料は、塗料自身の性能や寿命、保存性を大幅に長くすることができる。本願発明者が確認したところによると、上記の第2の水系無機塗料に電解水を添加した場合に、半日の寿命を3日に延ばすことができた。
【0051】
この実施の形態に係る水系無機塗料は、多孔質体に塗装する際に特に有用である。本願発明者は、25PPI(pores per inch)の多孔質体についても本実施の形態に係る水系無機塗料を塗装できることを確認した。
【0052】
つまり、電解水が添加されていない水系無機塗料を、孔のある部材(たとえば、パッチqング若しくは金属メッシュ又はその積層体、発泡体(発泡金属など)、多孔質体など)の場合に、塗料のみだとメッシュの隙間(孔)に塗料がつまり、つまった塗料が膜厚となり、乾燥後にクラックが生じたり又は発泡したりし、塗膜を形成することが困難であったが、電解水を添加することで容易に塗膜を形成することができるようになった。
【0053】
上記の実施の形態は、本発明の範囲内において、種々の変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】電解装置を示す模式図である。
【符号の説明】
【0055】
10 電解装置
20 陽極室
22 陽極
24 第1の隔膜
26 第1の給水口
28 第1の吐出口
30 陰極室
32 陰極
34 第2の隔膜
36 第2の給水口
38 第2の吐出口
40 中間室
80 電解質水溶液の供給源


【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解水を含む水系無機塗料。
【請求項2】
請求項1において、
前記水系無機塗料は、ケイ酸アルカリに、硬化剤としてケイ酸カルシウム及び/またはリン酸亜鉛を添加し、無機充填材として、コレマナイト(2CaO,3B,5H2O)及び/またはウレキサイト(NaO,2CaO,5B,16HO)を主成分としたB23成分溶出作用を有する天然ガラスを平均粒径30μmで厚み1.0μm以下の微細な鱗片状として混合したものを含む水系無機塗料。
【請求項3】
請求項1において、
前記水系無機塗料は、ケイ酸アルカリ100重量部に、硬化剤としてケイ酸カルシウム及び/またはリン酸亜鉛を合計5重量部〜20重量部添加し、コレマナイト(2CaO,3B,5HO)及び/またはウレキサイト(NaO,2CaO,5B,16HO)を主成分としたB23成分溶出作用を有する鱗片状天然ガラスを合計20重量部〜80重量部混合したものを含む水系無機塗料。
【請求項4】
請求項1において、
前記水系無機塗料は、ケイ酸アルカリ100重量部に、硬化剤としてケイ酸カルシウム及び/またはリン酸亜鉛を合計5重量部〜20重量部添加し、コレマナイト(2CaO,3B,5HO)及び/またはウレキサイト(NaO,2CaO,5B,16HO)を主成分としたB成分溶出作用を有する鱗片状天然ガラスを合計20重量部〜80重量部混合し、厚み0.5μm以下の極薄状のガラスフレークを1重量部〜20重量部配合されたものを含む水系無機塗料。
【請求項5】
請求項1において、
前記水系無機塗料は、
ケイ酸アルカリにホウ酸塩を添加し、さらに無機充填材として厚さが0.01μm〜0.5μm、径が2μm〜5μmの鱗片状で透明なシリカを混合したものを含む水系無機塗料。
【請求項6】
請求項1において、
前記水系無機塗料は、
ケイ酸アルカリ100重量部に、ホウ酸塩を0.5重量部〜35重量部添加し、さらに無機充填材として厚さ0.01μm〜0.5μm、径2μm〜5μmの鱗片状で透明なシリカを0.5重量部〜50重量部混合したものを含む水系無機塗料。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかにおいて、
前記電解水は、電解水の製造装置によって製造されるものであって、
前記電解水の製造装置は、
陽極が設けられた陽極室と、
陰極が設けられた陰極室と、
前記陽極室と前記陰極室との間に設けられ、電解質水溶液を収容する中間室と、
前記陽極室と前記中間室とを隔てる陰イオン交換膜からなる第1の隔膜と、
前記陰極室と前記中間室とを隔てる陽イオン交換膜からなる第2の隔膜と、を含む、水系無機塗料。
【請求項8】
請求項7において、
前記電解水は、陰極側にて生成された電解水および陽極側にて生成された電解水である、水系無機塗料。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかにおいて、
前記電解水の含有量は、前記水系無機塗料に対して0.1〜99.9重量%である水系無機塗料。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の水系無機塗料を被塗装体に塗装する工程を含む塗装方法。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれかに記載の水系無機塗料が塗装された塗装体。


【図1】
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【公開番号】特開2010−138233(P2010−138233A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−313789(P2008−313789)
【出願日】平成20年12月9日(2008.12.9)
【出願人】(505199739)株式会社五合 (11)
【Fターム(参考)】