説明

水系組成物

【課題】多価アニオン性化合物およびポリカチオン型抗菌剤を成分として配合した場合においても著しい白濁や沈殿の発生が防止されている水系組成物を提供する。
【解決手段】ポリオキシエチレンアルキルエーテル、及び/またはポリエチレングリコール脂肪酸エステルを併せて配合させた水系組成物。ポリオキシエチレンアルキルエーテル、及び/またはポリエチレングリコール脂肪酸エステルのアルキル基がその炭素数が一定以上、直鎖であり、HLB値が一定以上のものを配合すると更によい。ポリオキシエチレンアルキルエーテル、及び/またはポリエチレングリコール脂肪酸エステルの配合量がポリカチオン型抗菌剤に対して一定以上配合されることがより好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水系組成物、例えば水系パーソナルケア製品である化粧品類、薬用化粧品類、洗口液、液体歯磨きなど、水系家庭用品である衣類用洗剤、衣類用柔軟剤、食器洗浄剤、風呂用洗浄剤、トイレ用洗浄剤、抗菌スプレーなどに関し、ポリカチオン型抗菌剤および多価アニオン性化合物を含有する水系組成物に関するものである。
【0002】
本発明の水系組成物中、ポリカチオン型抗菌剤は組成物の細菌、真菌などの微生物に起因する製品の変質、腐敗を防止するための防腐剤として、また組成物に抗菌性を付与することにより皮膚上や口腔中の細菌、真菌などの微生物による障害の予防や治療、処理した衣類や器物上の微生物除去、また処理面に抗菌性や防臭性を付与するために配合される。
【背景技術】
【0003】
従来からポリカチオン型抗菌剤は種々ある抗菌剤のひとつとして水系製品の多くの分野で用いられている。
【0004】
例えば防腐目的に化粧品類に配合される抗菌剤としては本邦薬事法での化粧基準の別表3、欧州化粧品指令別添6や米国香粧品業界CTFAによるInternational Cosmetic Ingredient Dictionary and Handbookなどに配合可能な成分が収載されている。
【0005】
組成物に抗菌性を付与するものとしては塩化ベンザルコニウムや塩化セチルピリジニウムを代表とする4級アンモニウム塩類、トリクロサンやイソプロピルメチルフェノールを代表とするフェノール類、グルコン酸クロルヘキシジンやポリヘキサメチレンビグアナイド塩酸塩を代表とするビグアナイド系化合物などが用いられ、手洗い石鹸、洗口液、ニキビ用洗顔料、抗菌効果を謳う繊維用柔軟剤など幅広い分野で応用が行われている。
【0006】
水系組成物には汎用で多価アニオン性化合物が配合される。例えばガム類やポリアクリル酸誘導体は組成物の粘度調整に、クエン酸及びその塩やEDTA及びその塩はキレート剤やpH調整剤として、グリチルリチン酸及びその塩やヒアルロン酸及びその塩やポリリン酸類及びその塩などがパーソナルケア製品等での訴求効果のために配合される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら水系組成物においてはその成分の組み合わせにより著しい白濁や沈殿を生じるという問題があり、透明外観を損ない、また品質保証に問題を生じる。水系組成物にポリカチオン型抗菌剤を多価アニオン性化合物とともに配合する場合、両者間での静電的作用により白濁を生じ、または沈殿が生じるためにその解決方法は有用である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは水系組成物においてポリオキシエチレンアルキルエーテル及び/またはポリエチレングリコール脂肪酸エステルを配合することにより、多価アニオン性化合物およびポリカチオン型抗菌剤をともに配合した場合においても著しい白濁や沈殿の発生が防止されることを見出した。すなわち、本発明は、ポリカチオン型抗菌剤、一般式(1)で表されるポリオキシエチレンアルキルエーテル及び/または一般式(2)で表わされるポリエチレングリコール脂肪酸エステル、多価アニオン性化合物、及び水を含有することを特徴とする水系組成物、
【化1】


(式中、Rは飽和または不飽和アルキル基である)
【化2】


(式中、Rは飽和または不飽和アルキル基である)を提供する。
【0009】
本発明に用いられるポリカチオン型抗菌剤は水に溶解すると電離して2以上の正電荷を有する有機化合物であり、例えばグルコン酸クロルヘキジン、塩酸クロルヘキシジン、ポリヘキサメチレングアニジン塩酸塩、ポリヘキサメチレングアニジンリン酸塩、ポリヘキサメチレンビグアナイド塩酸塩、ポリヘキサメチレンビグアナイドステアリン酸塩、ポリ[オキシエチレン(ジメチルイミニオ)エチレン(ジメチルイミニオ)エチレンジクロリド]が挙げられる。特にポリヘキサメチレンビグアナイド塩は水溶性が高い一方、皮膚刺激が非常に低いことから水系のパーソナルケア製品や水系の家庭用品により好適な材料である。
【0010】
ポリヘキサメチレンビグアナイド塩はアーチ・ケミカルズ社より、VANTOCIL IB、VANTOCIL TG、VANTOCIL P、PROXEL IBの製品名でその塩酸塩の20%水溶液が市販されている。ポリヘキサメチレンビグアナイドの別称としてポリアミノプロピルビグアナイド(香粧品類でのINCI名称)、ポリヘキサニド(医薬品類でのINN名称)があり、アーチ・ケミカルズ社よりCOSMOCIL CQ、COSMOCIL PGの製品名で塩酸塩の20%水溶液が市販されている。ポリヘキサメチレンビグアナイドには塩酸塩の他にステアリン酸塩が知られている。
【0011】
本発明の水系組成物に用いられる多価アニオン性化合物は水に溶解すると電離して2価以上の負電荷を有する有機化合物または無機化合物であり、例えばガム類やポリアクリル酸誘導体は組成物の粘度調整に、クエン酸及びその塩やEDTA及びその塩はキレート剤やpH調整剤として、グリチルリチン酸及びその塩やヒアルロン酸及びその塩やポリリン酸類及びその塩などがパーソナルケア製品等での訴求効果のために配合される。
【0012】
グリチルリチン酸、及びその塩はその抗炎作用や抗アレルギー作用から化粧水、美容液、洗顔料などの化粧品類、薬用化粧品類、洗口液などに配合される。また甘味料として各種口腔用途の水系製品の味覚改良のために配合される。
【0013】
キレート剤は、洗浄剤において重金属イオンのマスキングや泡安定化による洗浄性の向上成分としてや、各種水系製品のpH調整剤として配合される。例えば、クエン酸及びその塩類、エチレンジアミン四酢酸及びその塩類、エチドロン酸及びその塩類、リンゴ酸及びその塩類、ニトリロ三酢酸及びその塩類、グルタミン酸二酢酸及びその塩類、エチレンジアミンヒドロキシエチル三酢酸及びその塩類、酒石酸及びその塩類、ポリリン酸及びその塩類、トリポリリン酸及びその塩類、メタリン酸及びその塩類が用いられる。これらの内、クエン酸及びその塩類は安全性が高く、水溶性が高く、また酸と塩類の組み合わせにより組成物のpHを弱酸性〜弱アルカリ性に容易に調整できることから幅広い水系のパーソナルケア製品や水系の家庭用品類に配合される。
【0014】
本発明の水系組成物に用いられる一般式(1)で表わされるポリオキシエチレンアルキルエーテルは加水分解性が低く、水系組成物の高温での調合時においても、また幅広いpHの製品で使用可能であることが特長である。Rの炭素数が単一のものと分布をもつもの、Rが直鎖のものと分岐のもの、Rが飽和アルキルのものと不飽和アルキルのものなどの種類がある。エチレンオキサイドの繰り返し数nは2以上100程度までのものが汎用され、分子量分布が割合に広いものから、分子量分布のない単一繰り返し数のものがある。Rの種類とエチレンオキサイドの繰り返し数nの組み合わせにより、幅広いHLB値(親水性/親油性バランス)のものが選択可能で顔料の分散、香料やオイルなどの油性成分の水相への可溶化などに用いられている。このうち、Rの炭素数が12以上で、直鎖、HLB値が18.0以上のものが本発明の水系組成物により好適である。Rの炭素数は好ましくは24以下である。エチレンオキサイドの繰り返し数nは、好ましくは2〜200である。
【0015】
【化3】


(R及びnは上記のとおりである)
【0016】
例えば、表1のポリオキシエチレンアルキルエーテルが使用可能である。
【0017】
【表1】

【0018】
本発明の水系組成物に用いられる一般式(2)で表わされるポリエチレングリコール脂肪酸エステルは安全性が高く、水系組成物の高温での調合時においても、また幅広いpHの製品で使用可能であることが特長である。エチレンオキサイドの繰り返し数mは2以上150程度までのものが汎用され、Rの種類とエチレンオキサイドの繰り返し数mの組み合わせにより、幅広いHLB値(親水性/親油性バランス)のものが選択可能で顔料の分散、香料やオイルなどの油性成分の水相への可溶化などに用いられている。このうち、Rの炭素数が11以上で、直鎖、HLB値が18.0以上のものが本発明の水系組成物により好適である。Rの炭素数は好ましくは23以下である。エチレンオキサイドの繰り返し数mは、好ましくは2〜200である。
【0019】
【化4】


(R及びmは上記のとおりである)
【0020】
例えば、表2のポリエチレングリコール脂肪酸エステルが使用可能である。
【0021】
【表2】

【0022】
本発明の水系組成物には必要に応じて、例えば香料の可溶化剤としてや肌への感触向上剤としてや洗浄剤などとしてポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル以外の界面活性剤を添加することができる。
【0023】
本発明の水系組成物には必要に応じて、例えば増粘剤、香料、甘味料、染料、顔料、UV吸収剤、溶剤、油剤、抗炎症剤、収斂剤、酸化防止剤、ポリカチオン型抗菌剤以外の抗菌剤、多価アニオン性化合物以外のpH調整剤などを添加してもよい。
【0024】
本発明の水系組成物は香粧品や家庭用品の製造での定法で調合可能であるが、多価アニオン性化合物とポリオキシエチレンアルキルエーテル及び/またはポリエチレングリコール脂肪酸エステルを含む液を予め調合し、これにポリカチオン型抗菌剤を添加する手順がより好ましい。
【0025】
本発明の水系組成物中のポリカチオン型抗菌剤の濃度は組成物の防腐の目的には好ましくは0.001重量%から0.3重量%、より好ましくは0.005重量%から0.1重量%の濃度で配合される。組成物に抗菌性を付加する目的には好ましくは0.01重量%から0.5重量%、より好ましくは0.02重量%から0.3重量%の濃度で配合される。
【0026】
本発明の水系組成物中の多価アニオン性化合物は好ましくは0.001重量%から0.5重量%の範囲で配合される。
【0027】
本発明の水系組成物中のポリオキシエチレンアルキルエーテル及び/またはポリエチレングリコール脂肪酸エステルは、好ましくはポリカチオン型抗菌剤の濃度に対して2倍以上の濃度で配合される。より好ましくは、ポリカチオン型抗菌剤の濃度に対するポリオキシエチレンアルキルエーテル及び/またはポリエチレングリコール脂肪酸エステルの濃度は4,000倍以下、より好ましくは2,000倍以下である。
【実施例】
【0028】
以下、実施例、比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって制限されるものではない。実施例、比較例中の「%」は「重量%」を表す。
【0029】
(実施例1)
10%のポリオキシエチレンアルキルエーテル、またはポリエチレングリコール脂肪酸エステル(界面活性剤)の精製水溶液を調製した。リン酸一カリウム(KHPO)0.24%、リン酸二ナトリウム(NaHPO)0.36%、グリチルリチン酸ジカリウム0.05%、所定濃度となるようポリオキシエチレンアルキルエーテル、またはポリエチレングリコール脂肪酸エステルの10%精製水溶液を加えた精製水溶液を50mL調製した。スターラーで撹拌しながら、これにポリヘキサメチレンビグアナイド塩酸塩の2%水溶液を1.25g滴下した(ポリヘキサメチレンビグアナイド塩酸塩0.05%)。混合後の溶液の外観を観察した。結果を表3に示した。
【0030】
【表3】

【0031】
(比較例1)
界面活性剤を表4に示したものに変更した以外は実施例1と同一の精製水溶液を50mL調製した。スターラーで撹拌しながら、これにポリヘキサメチレンビグアナイド塩酸塩の2%水溶液を1.25g滴下した(ポリヘキサメチレンビグアナイド塩酸塩0.05%)。混合後の溶液の外観を観察した。結果を表4に示した。
【0032】
【表4】

【0033】
(実施例2)
界面活性剤を表5に示したものに変更した以外は実施例1と同一の精製水溶液を50mL調製した。スターラーで撹拌しながら、これにポリヘキサメチレンビグアナイド塩酸塩の2%水溶液を0.5g滴下した(ポリヘキサメチレンビグアナイド塩酸塩0.02%)。混合後の溶液の外観を観察した。結果を表5に示した。
【0034】
【表5】

【0035】
(実施例3)
クエン酸3ナトリウム2水和物0.15%、無水クエン酸0.05g、表6に記載の界面活性剤を所定濃度含んだ精製水溶液を50mL調製した。スターラーで撹拌しながら、これにポリヘキサメチレンビグアナイド塩酸塩の2%水溶液を0.5g滴下した(ポリヘキサメチレンビグアナイド塩酸塩0.02%)。混合後の溶液の外観を観察した。結果を表6に示した。
【0036】
【表6】

【0037】
(比較例2)
界面活性剤を表7に示したものに変更した以外は実施例3と同一の精製水溶液を50mL調製した。スターラーで撹拌しながら、これにポリヘキサメチレンビグアナイド塩酸塩の2%水溶液を0.5g滴下した(ポリヘキサメチレンビグアナイド塩酸塩0.02%)。混合後の溶液の外観を観察した。結果を表7に示した。
【0038】
【表7】

【0039】
(実施例4 化粧水)


(*20%ポリアミノプロピルビグアナイド(アーチ・ケミカルズ社製))
(製法)A、Bを50℃で混合、Cを常温で混合する。撹拌しながらBをAに徐々に加える。更にCを滴下し撹拌を続けながら放冷し30〜35℃で撹拌を停止する。
【0040】
(比較例3 化粧水)


(*20%ポリアミノプロピルビグアナイド(アーチ・ケミカルズ社製))
(製法)A、Bを50℃で混合、Cを常温で混合する。撹拌しながらBをAに徐々に加える。更にCを滴下し撹拌を続けながら放冷し30〜35℃で撹拌を停止する。
【0041】
(実施例5 洗口液)


(*20%ポリアミノプロピルビグアナイド(アーチ・ケミカルズ社製))
(製法)Aを60℃で混合、B、Cは常温で混合する。撹拌しながらBをAに徐々に加える。更にCを滴下し撹拌を続けながら放冷し30〜35℃で撹拌を停止する。
【0042】
(比較例4 洗口液)


(*20%ポリアミノプロピルビグアナイド(アーチ・ケミカルズ社製))
(製法)Aを60℃で混合、B、Cは常温で混合する。撹拌しながらBをAに徐々に加える。更にCを滴下し撹拌を続けながら放冷し30〜35℃で撹拌を停止する。
【0043】
実施例4および5と比較例3および4の調合時の外観と−3℃で1日間保管した場合の製剤の安定性を観察した。結果を表8に示した。
【0044】
【表8】

【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の水系組成物は多価アニオン性化合物およびポリカチオン型抗菌剤を成分として配合した場合においても著しい白濁や沈殿の発生が防止されている水系組成物を提供するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカチオン型抗菌剤、一般式(1)で表されるポリオキシエチレンアルキルエーテル及び/または一般式(2)で表わされるポリエチレングリコール脂肪酸エステル、多価アニオン性化合物、及び水を含有することを特徴とする水系組成物、
【化1】


(式中、Rは飽和または不飽和アルキル基である。)
【化2】


(式中、Rは飽和または不飽和アルキル基である。)。
【請求項2】
ポリカチオン型抗菌剤が、ポリヘキサメチレンビグアナイド塩であることを特徴とする請求項1に記載の水系組成物。
【請求項3】
一般式(1)で表わされるポリオキシエチレンアルキルエーテル及び/または一般式(2)で表わされるポリエチレングリコール脂肪酸エステルのR、Rが炭素数11以上、直鎖であり、そのHLB値が18.0以上であることを特徴とする請求項1に記載の水系組成物。
【請求項4】
多価アニオン性化合物がグリチルリチン酸、及び/またはその塩であることを特徴とする請求項1に記載の水系組成物。
【請求項5】
多価アニオン性化合物がキレート剤であることを特徴とする請求項1に記載の水系組成物。
【請求項6】
キレート剤がクエン酸、及び/またはその塩であることを特徴とする請求項6に記載の水系組成物。
【請求項7】
一般式(1)で表わされるポリオキシエチレンアルキルエーテル及び/または一般式(2)で表わされるポリエチレングリコール脂肪酸エステルの配合量がポリカチオン抗菌剤の2倍以上であることを特徴とする請求項1に記載の水系組成物。

【公開番号】特開2011−32306(P2011−32306A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−177170(P2009−177170)
【出願日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【出願人】(502239380)アーチ・ケミカルズ・ジャパン株式会社 (11)
【Fターム(参考)】