説明

水系耐熱性樹脂組成物及び塗料

【課題】 有機溶剤含有量を低減させ、環境汚染や作業環境の悪化がなく、安全衛生面に対して有利で、150℃から230℃の低温で硬化した塗膜が優れた耐溶剤性を有する耐熱性樹脂組成物及びこれを塗膜成分としてなる塗料を提供する。
【解決手段】 (A)塩基性極性溶媒中で、ジイソシアネート化合物又はジアミン化合物と、三塩基酸無水物又は三塩基酸無水物クロライドとを反応させて得られるポリアミドイミド樹脂と、(B)塩基性化合物、(C)水及び(D)グリセロールポリグリシジルエーテルを配合してなる耐熱性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水系耐熱性樹脂組成物及びそれを用いた塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
環境保全面、安全衛生面、経済性及び塗装作業性等の面から有機溶剤に代わり媒体に水を使用する水性樹脂溶液が注目され、樹脂末端に残存するカルボキシル基と塩基性化合物を作用させるポリアミドイミド樹脂の水溶化方法が報告されている(例えば特開2002−284993号公報等)。
しかし、上記方法で作製された水溶性のポリアミドイミド樹脂は硬化性に劣り、耐溶剤性に優れる塗膜を形成するためには250℃から270℃の高温での塗膜の硬化が要求される。このため高温での硬化が不可能な用途において、150℃から230℃の低温で硬化した際に十分な耐溶剤性を有する塗膜を形成できる耐熱性樹脂組成物及び塗料の開発が強く望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−284993号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、有機溶剤含有量を低減させ、環境汚染や作業環境の悪化がなく、安全衛生面に対して有利であり、かつ150℃から230℃の低温で硬化した塗膜が優れた耐溶剤性を有する水系耐熱性樹脂組成物及びこれを塗膜成分としてなる塗料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述の150℃から230℃の低温で硬化した塗膜の耐溶剤性に関して検討した結果、ジイソシアネート化合物又はジアミン化合物と三塩基酸無水物又は三塩基酸無水物クロライドとを反応させて得られるポリアミドイミド樹脂と塩基性化合物によって得られる耐熱性樹脂組成物にグリセロールポリグリシジルエーテルを添加することによって耐溶剤性の低下が改善され、かつ有機溶剤の低減により環境にも寄与できることを見出して本発明に至った。
すなわち本発明は、(A)塩基性極性溶媒中で、ジイソシアネート化合物又はジアミン化合物と三塩基酸無水物又は三塩基酸無水物クロライドとを反応させて得られるポリアミドイミド樹脂と、(B)塩基性化合物、(C)水及び(D)グリセロールポリグリシジルエーテルを配合してなる水系耐熱性樹脂組成物に関する。
また、本発明は、前記の(B)成分の塩基性化合物が(A)成分のポリアミドイミド樹脂中に含まれるカルボキシル基及びポリアミドイミド樹脂中の酸無水物基を開環させたカルボキシル基を合わせた酸価に対して、1〜20当量配合されている前記の水系耐熱性樹脂組成物に関する。
また、本発明は、前記の(C)成分の水が(A)成分、(B)成分及び(C)成分の合計量に対して、5〜99質量%配合されている前記の水系耐熱性樹脂組成物に関する。
また、本発明は、前記のポリアミドイミド樹脂の数平均分子量が、5,000〜50,000で、カルボキシル基及び酸無水物基を開環させたカルボキシル基を合わせた酸価が10〜100mgKOH/gである前記の水系耐熱性樹脂組成物に関する。
また、本発明は、前記の(B)成分の塩基性化合物が、アルキルアミン又はアルカノールアミンである前記の水系耐熱性樹脂組成物に関する。
また、本発明は、(D)成分のグリセロールポリグリシジルエーテルの配合量が、ポリアミドイミド樹脂100質量%に対して、1〜100質量%配合されている前記の水系耐熱性樹脂組成物に関する。
さらに、本発明は前記の水系耐熱性樹脂組成物を塗膜成分としてなる塗料に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明の水系耐熱性樹脂組成物は、150℃から230℃の低温で硬化した時に耐溶剤性が低下せず、かつ有機溶剤含有量を低減させていることより、各種の用途の中でも従来の水系ポリアミドイミド樹脂に要求された250℃から270℃等の高温での硬化が不可能な用途や基材に対して有用であり、かつ環境汚染や作業環境の悪化がなく、エネルギー面、安全衛生面に対して有利であることから、工業的に多大な有効性を有するものである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明で用いるポリアミドイミド樹脂は、ジイソシアネート化合物又はジアミン化合物と、三塩基酸無水物又は三塩基酸無水物クロライドとを反応させて得られるものである。ジイソシアネート化合物又はジアミン化合物と、三塩基酸無水物又は三塩基酸無水物クロライドは、それぞれ芳香族化合物を使用することが好ましい。上記製造法に用いられる代表的な化合物を次に列挙する。
ジイソシアネート化合物としては、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、パラフェニレンジイソシアネート、ナフチレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネートおよびトリジンジイソシアネート等が挙げられる。
また、ジアミンとしては、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルエーテル、ジアミノジフェニルスルホン、ジアミノベンゾフェノン、スルホンジアニリン、ジアミノベンズアニリド、キシリレンジアミン、フェニレンジアミンおよびトリジン等が挙げられる。
また、三塩基酸無水物としては、トリメリット酸無水物、3,4,4’−ベンゾフェノントリカルボン酸無水物、3,4,4’−ビフェニルトリカルボン酸無水物等が挙げられ、三塩基酸無水物クロライドとしては、トリメリット酸無水物クロライド等が挙げられる。
【0008】
ポリアミドイミド樹脂を合成する際に、ジカルボン酸、テトラカルボン酸二無水物等をポリアミドイミド樹脂の特性を損なわない範囲で同時に反応させることができる。
ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸およびセバシン酸等が挙げられ、テトラカルボン酸二無水物としては、ピロメリット酸二無水物、オキシジフタル酸二無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物およびジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。
前記ジイソシアネート化合物又はジアミン化合物と、三塩基酸無水物又は三塩基酸無水物クロライドと、必要に応じて使用するジカルボン酸及びテトラカルボン酸二無水物の使用量は、生成されるポリアミドイミド樹脂の分子量、架橋度の観点から酸成分の総量1.0モルに対してジイソシアネート化合物又はジアミン化合物を0.8〜1.5モルとすることが好ましく、0.95〜1.3モルとすることがより好ましく、特に、1.0〜1.2モル使用されることが好ましい。また、酸成分中、ジカルボン酸及びテトラカルボン酸二無水物は、これらの総量が0〜50モル%の範囲で使用されるのが好ましい。
【0009】
本発明で用いるポリアミドイミド樹脂は、ジイソシアネート化合物又はジアミン化合物と、三塩基酸無水物又は三塩基酸無水物クロライドとを塩基性極性溶媒中で反応させる。ここで、塩基性極性溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミドなどを用いることができるが、ポリアミドイミド化反応を高温で短時間に行うためには、N−メチル−2−ピロリドン等の高沸点溶媒を用いるのが好ましい。また、溶媒の使用量に特に制限はないが、ジイソシアネート成分と酸成分の総量100質量部に対して100〜500質量部とするのが好ましい。ポリアミドイミド樹脂の合成条件は、多様であり、一概に特定できないが、通常、120〜155℃の温度で行われ、空気中の水分の影響を低減するため、窒素などの雰囲気下で行うのが好ましい。
【0010】
本発明に用いられるポリアミドイミド樹脂は、数平均分子量が5,000〜50,000のものが好ましい。数平均分子量が5,000未満では、塗膜としたときの、塗膜の耐熱性や機械的特性等の諸特性が低下する傾向があり、50,000を超えると、塗料として適正な濃度で溶媒に溶解したときに粘度が高くなり、塗装時の作業性に劣る傾向がある。このことから、ポリアミドイミド樹脂の数平均分子量は10,000〜45,000とすることが好ましく、15,000〜4,000とすることが特に好ましい。
なお、ポリアミドイミド樹脂の数平均分子量は、樹脂合成時にサンプリングしてゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)により、標準ポリスチレンの検量線を用いて測定し、目的の数平均分子量になるまで合成を継続することにより上記範囲に管理される。
また、本発明に用いられるポリアミドイミド樹脂は、カルボキシル基及び酸無水物基を開環させたカルボキシル基を合わせた酸価が10〜100mgKOH/gであることが好ましく、10mgKOH/g未満であると塩基性化合物と反応するカルボキシル基が不足するため、水溶化が困難となり、100mgKOH/gを超えると最終的に得られる水系耐熱性樹脂組成物が経日にてゲル化しやすくなる。このことから、カルボキシル基及び酸無水物基を開環させたカルボキシル基を合わせた酸価が15〜80mgKOH/gとすることがより好ましく、20〜60mgKOH/gとすることが特に好ましい。
なお、ポリアミドイミド樹脂のカルボキシル基及び酸無水物基を開環させたカルボキシル基を合わせた酸価は、以下の方法で得ることができる。まず、ポリアミドイミド樹脂を約0.5gとり、これに1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタンを約0.15g加え、さらにN−メチル−2−ピロリドンを約60g及びイオン交換水を約1ml加え、ポリアミドイミド樹脂が完全に溶解するまで攪拌する。これを0.05モル/lエタノール性水酸化カリウム溶液を使用して電位差滴定装置で滴定し、ポリアミドイミド樹脂のカルボキシル基及び酸無水物基を開環させたカルボキシル基を合わせた酸価を得る。
【0011】
本発明で用いる(B)塩基性化合物として、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリエチレンジアミン、N−メチルモルフォリン等のアルキルアミン、メチルアニリン、ジメチルアニリン等のアルキルアニリン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジプロパノールアミン、トリプロパノールアミン、N−エチルエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、シクロヘキサノールアミン、N−メチルシクロヘキサノールアミン、N−ベンジルエタノールアミン等のアルカノールアミン類が適しているが、これら以外の塩基性化合物、例えば水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等の苛性アルカリ又はアンモニア水等を使用してもよく特に制限はない。好ましくは、トリエチルアミン、N−メチルモルフォリン、トリエチレンジアミン、N,N−ジメチルエタノールアミンが使用される。
【0012】
塩基性化合物は、上記の有機溶媒中で反応させて得られるポリアミドイミド樹脂中に含まれるカルボキシル基及び開環させた酸無水物基を合わせた酸価に対して、1〜20当量用いられる。1当量未満では樹脂の水溶化が困難となり、20当量を超えると樹脂の加水分解が促進され、長期の保存により粘度又は特性低下をきたすことがある。このことから、カルボキシル基及び酸無水物基を開環させたカルボキシル基を合わせた酸価に対して、2〜10当量とすることが好ましく、3〜8当量とすることが特に好ましい。
塩基性化合物は、ポリアミドイミド樹脂の末端にあるカルボキシル基と塩を形成して親水性基となる。塩形成に際しては水の共存下に行ってもよいし、塩基性化合物を添加した後、水を加えてもよい。塩を形成させる温度は0℃〜200℃、好ましくは40℃〜130℃の範囲で行われる。
塩基性化合物の種類と量及び水の添加方法によって、得られる水性樹脂組成物の形態はエマルジョン状、半透明溶液、透明溶液等となるが、貯蔵安定性、塗装作業性の点から、半透明あるいは透明溶液にすることが好ましい。
【0013】
水としてはイオン交換水が好ましく用いられ、(A)成分、(B)成分、(C)成分の合計量に対して好ましくは5〜99質量%、より好ましくは20〜60質量%配合される。この配合量が5質量%未満では含有する水が少ないことから一般に水溶性ポリマーとして称されず、99質量%を超えると塗料として機能しなくなる傾向がある。
【0014】
本発明で用いる(D)成分のグリセロールポリグリシジルエーテルの配合量は、ポリアミドイミド樹脂100質量%に対し、1〜100質量%の範囲とされる。塗膜硬化時の温度と時間にもよるが、1質量%未満では硬化した塗膜に十分な耐溶剤性が得られず、100質量%を超えると塗料の安定性が著しく低下する。このことから、グリセロールポリグリシジルエーテルの配合量は、ポリアミドイミド樹脂100質量%に対し、5〜50質量%とすることが好ましい。
【0015】
このようにして得られた水系耐熱性樹脂組成物は使用する際に必要に応じて適当な濃度に希釈される。希釈溶媒としては、水、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルフォキシド、N−メチル−2−ピロリドン等の極性溶媒の他に、助溶媒として、ポリオール類、これらの低級アルキルエーテル化物、アセチル化物等を用いてもよい。例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、イソプロピルアルコール、又はそれらのモノメチルエーテル化物、モノエチルエーテル、モノイソプロピルエーテル化物、モノブチルエーテル化物、ジメチルエーテル化物及びこれらのモノアセチル化物等が使用される。
【0016】
本発明の水系耐熱性樹脂組成物を塗膜成分として含有する塗料には、通常、前記の希釈溶媒に加え、必要に応じ、揺変性付与剤、顔料、充填材、硬化促進剤、重合禁止剤、等を配合することができる。揺変性付与剤としては、例えば、微粒子シリカ、有機ベントナイト、有機高分子微粒子等が挙げられる。顔料、充填材としては、例えば、酸化鉄、酸化チタン、酸化アルミニウム、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、タルク、クレーシリカ等が挙げられる。
【0017】
本発明になる水系耐熱性樹脂組成物を塗膜成分としてなる塗料は、被塗物に塗布、硬化させて、被塗物表面に塗膜を形成する。
【実施例】
【0018】
次に本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではなく、発明の主旨に基づいたこれら以外の多くの実施態様を含むことは言うまでもない。
(実施例1)
無水トリメリット酸1.0モル、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート0.8モル、1,5−ナフチレンジイソシアネート0.25モルおよびN−メチル−2−ピロリドンを温度計、攪拌機、冷却管を備えたフラスコに入れ、乾燥させた窒素気流中で攪拌しながら徐々に昇温して120℃まで上げた。反応により生ずる炭酸ガスの急激な発泡に注意しながら120℃を保持し、このまま約7時間加熱を続けた後反応を停止させ、ポリアミドイミド樹脂溶液を得た。 このポリアミドイミド樹脂の数平均分子量は、約21,000で、カルボキシル基及び酸無水物基を開環させたカルボキシル基を合わせた酸価は約35mgKOH/gであった。なお、数平均分子量は、次の条件にて測定した。
機種:日立 L6000
検出器:日立 L4000型UV
波長:270nm
データ処理機:ATT 8
カラム:Gelpack GL−S300MDT−5×2
カラムサイズ:直径8mm×300mm
溶媒:DMF/THF=1/1(リットル)+リン酸0.06M+臭化リチウム0.06M
試料濃度:5mg/1ml
注入量:5μl
圧力:49kgf/cm(4.8×10Pa)
流量:1.0ml/min
このポリアミドイミド樹脂溶液を温度計、攪拌機、冷却管を備えたフラスコに入れ、乾燥させた窒素気流中で攪拌しながら徐々に昇温して60℃まで上げた。60℃に達したところでトリエチルアミンを4当量添加し、60℃に保ちながら十分に攪拌した後、攪拌しながら徐々にイオン交換水を加えた。最終的にイオン交換水が35質量%となるまで加えて、透明で均一な耐熱性樹脂組成物を得た。
上記方法で作製された耐熱性樹脂組成物100質量%にグリセロールポリグリシジルエーテル20質量%を配合し、耐熱性樹脂組成物を得た。
【0019】
(実施例2)
無水トリメリット酸0.8モル、無水ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物0.2モル、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート0.6モル、o−トリジンジイソシアネート0.4モルおよびN−メチル−2−ピロリドンを温度計、攪拌機、冷却管を備えたフラスコに入れ、乾燥させた窒素気流中で攪拌しながら徐々に昇温して130℃まで上げた。反応により生ずる炭酸ガスの急激な発泡に注意しながら130℃を保持し、このまま約6時間加熱を続けた後反応を停止させ、ポリアミドイミド樹脂溶液を得た。
このポリアミドイミド樹脂の数平均分子量は約19,000で、カルボキシル基及び酸無水物基を合わせた酸価は約40mgKOH/gであった。
このポリアミドイミド樹脂溶液を温度計、攪拌機、冷却管を備えたフラスコに入れ、乾燥させた窒素気流中で攪拌しながら徐々に昇温して60℃まで上げた。60℃に達したところでN,N−ジメチルエタノールアミンを6当量添加し、60℃に保ちながら十分に攪拌した後、攪拌しながら徐々にイオン交換水を加えた。最終的にイオン交換水が20質量%となるまで加えて、透明で均一な耐熱性樹脂組成物を得た。
上記方法で作製された耐熱性樹脂組成物100質量%にグリセロールポリグリシジルエーテル30質量%を配合し、耐熱性樹脂組成物を得た。
【0020】
(比較例1)
無水トリメリット酸1.0モル、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート1.2モルおよびN−メチル−2−ピロリドンを温度計、攪拌機、冷却管を備えたフラスコに入れ、乾燥させた窒素気流中で攪拌しながら約1時間かけて徐々に昇温して120℃まで上げた。反応により生ずる炭酸ガスの急激な発泡に注意しながら120℃を保持し、このまま約6時間加熱を続けた後反応を停止させ、ポリアミドイミド樹脂溶液を得た。
このポリアミドイミド樹脂の数平均分子量は約24,000で、カルボキシル基及び酸無水物基を開環させたカルボキシル基を合わせた酸価は約30mgKOH/gであった。
このポリアミドイミド樹脂溶液を温度計、攪拌機、冷却管を備えたフラスコに入れ、乾燥させた窒素気流中で攪拌しながら徐々に昇温して60℃まで上げた。60℃に達したところでトリエチルアミンを4当量添加し、60℃に保ちながら十分に攪拌した後、攪拌しながら徐々にイオン交換水を加えた。最終的にイオン交換水が35質量%となるまで加えて、透明で均一な耐熱性樹脂組成物を得た。
【0021】
[試験例]
実施例1及び2、比較例1で得られた樹脂組成物を鋼板(SPCC)に塗布し、80℃で10分間硬化させた後に200℃で30分間硬化させて、膜厚約20μmの塗膜板を形成した。この塗膜板をジメチルホルムアミド中に浸漬させ、20℃から30℃の温度で1時間超音波処理を行い、浸漬前後での質量を比較し塗膜の質量減少率を算出した。この結果を表1に示した。
【0022】
【表1】

【0023】
実施例1及び2の質量減少率が0%というのはジメチルホルムアミドの浸漬後に塗膜の質量減少が見られなかったことを示し、比較例1の100%は塗膜がジメチルホルムアミドに完全に溶解したことを示す。
表1から、(D)成分のグリセロールポリグリシジルエーテルを配合した実施例1及び2で得られた塗料から得られた塗膜は、それを配合していない比較例1の塗料から得られた塗膜と比較して、耐溶剤性が著しく優れていることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)塩基性極性溶媒中で、ジイソシアネート化合物又はジアミン化合物と、三塩基酸無水物又は三塩基酸無水物クロライドとを反応させて得られるポリアミドイミド樹脂と、(B)塩基性化合物、(C)水及び(D)グリセロールポリグリシジルエーテルを配合してなる水系耐熱性樹脂組成物。
【請求項2】
(B)成分の塩基性化合物が(A)成分のポリアミドイミド樹脂中に含まれるカルボキシル基及びポリアミドイミド樹脂中の酸無水物基を開環させたカルボキシル基を合わせた酸価に対して、1〜20当量配合されている請求項1に記載の水系耐熱性樹脂組成物。
【請求項3】
(C)成分の水が(A)成分、(B)成分及び(C)成分の合計量に対して、5〜99質量%配合されている請求項1または2に記載の水系耐熱性樹脂組成物。
【請求項4】
ポリアミドイミド樹脂の数平均分子量が、5,000〜50,000で、カルボキシル基及び酸無水物基を開環させたカルボキシル基を合わせた酸価が10〜100mgKOH/gである請求項1〜3のいずれかに記載の水系耐熱性樹脂組成物。
【請求項5】
(B)成分の塩基性化合物が、アルキルアミン又はアルカノールアミンである請求項1〜4のいずれかに記載の水系耐熱性樹脂組成物。
【請求項6】
(D)成分のグリセロールポリグリシジルエーテルの配合量が、ポリアミドイミド樹脂100質量%に対して、1〜100質量%配合されている請求項1〜5のいずれかに記載の水系耐熱性樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の水系耐熱性樹脂組成物を塗膜成分としてなる塗料。

【公開番号】特開2011−79963(P2011−79963A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−233358(P2009−233358)
【出願日】平成21年10月7日(2009.10.7)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】