説明

水系速乾性組成物及び速乾性塗料組成物

【課題】
作業時に臭気を発生せず、環境に優しく、さらに、水系塗料の欠点である速乾性・速硬性に優れる水系速乾性組成物及び速乾性塗料組成物を提供すること。
【解決手段】
本発明は、水分散性ポリエステルの存在下でエチレン性不飽和単量体組成物を乳化重合して得られる複合樹脂組成物が水分散した水性複合樹脂エマルジョン、セメント及び乳化剤を含有することを特徴とする水系速乾性組成物及びこれを用いた速乾性塗料組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境に優しく、さらに、水系塗料の欠点である速乾性に優れる水系速乾性組成物及び速乾性塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自然や人間環境への負担低減の面から、溶剤系塗料の水系化が強く望まれている。しかし、通常、水系塗料は溶剤系塗料に比べ、乾燥性に劣るという大きな欠点があるため、使用上の制約が多い。そこで、水系塗料に速乾性を付与するため、使用用途にあった様々な改良手段が提案されている。例えば、路面表示用塗料、フロアーポリッシュ、印刷インキ等の用途において、揮発性塩基を用い、pHが変化することによるアニオン性ポリマーとカチオン性ポリマーとのイオンコンプレックスを利用したものが数多く提案されている(例えば、特許文献1〜3を参照)。これらの速乾システムは揮発性塩基が必須であり、作業時の臭気が強く、さらに、塗布した塗料表面からゲル化が進行するため、厚膜塗布した場合、塗料表層のみが膜形成し、塗料中間層のゲル化が大幅に遅延する問題がある。
【0003】
上記問題を解決すべく、路面に塗布した塗料上に、水と反応し発熱する無機物を散布する方法が提案されており(例えば、特許文献4を参照)、また、水に不溶でアルカリ水溶液に可溶である金属化合物水溶液を塗布した塗料上に散布する方法が提案されている(例えば、特許文献5を参照)。しかし、これらは塗膜表面を完全に覆う必要があり、さらに、散布する作業工程が増すため、作業性に難がある。
【0004】
また、架橋反応を利用して水系塗料に速乾性、速硬性を付与する方法も提案されている、例えば、アミノ化合物とポリイソシアネートの架橋反応(特許文献6参照)、エポキシ樹脂とポリアミンの架橋反応(特許文献7参照)、カルボニル基含有ポリマーとヒドラジン化合物の架橋反応(特許文献8参照)、アクリロイル基含有ポリマーと過酸化物のラジカル反応(特許文献9参照)などを利用した方法が提案されている。しかし、これらは常温・低温での反応速度が遅く、また架橋硬化しても水分が揮発するまでは十分な硬度が出ない場合がある。
【0005】
ところで、常温・低温で硬化する材料としてはセメントが知られている。セメントはその成分調整により超速硬タイプから硬化速度の異なるさまざまなバリエーションがある。また、硬化に水を消費し、且つ、発熱することも塗膜の乾燥を向上させると考えられ、上記問題を解決する有用な速硬化剤として利用可能と考えられる。さらに、塗膜の乾燥時間を短くするだけでなく、施工性、耐水性に優れるポリマーセメント組成物を提供する目的で、アルミナセメントとエマルジョンとを含むポリマーセメント組成物(特許文献10参照)が提案されている。しかし、この組成物を用いても、十分な速乾性は得られていない。
【0006】
ところで、近年の環境問題に対応して、作業時に臭気を発生せず、耐摩耗性および耐水性に優れる舗装用水系バインダー組成物を提供する目的で、水溶性または水分散性ポリエステルを保護コロイドとする合成樹脂エマルジョンを含有することを特徴とする舗装用水系バインダー組成物(特許文献11参照)が提案されている。この組成物はセメント類と混和して使用することも可能である。しかし、このバインダー組成物は作業性、耐摩耗性、および耐水性には優れているものの、セメントによる硬化が速過ぎ、十分なポットライフを得られるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−309158号公報
【特許文献2】特開2004−168998号公報
【特許文献3】特開2001−329182号公報
【特許文献4】特開2004−244467号公報
【特許文献5】特開2008−7745号公報
【特許文献6】特開2003−96154号公報
【特許文献7】特表2004−532288号公報
【特許文献8】特開平05−59305号公報
【特許文献9】特開2001−163935号公報
【特許文献10】特開2006−327899号公報
【特許文献11】特開2009−215831号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、作業時に臭気を発生せず、環境に優しく、さらに、水系塗料の欠点である速乾性に優れる水系速乾性組成物及びこれを用いた速乾性塗料組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行なった結果、水分散性ポリエステルの存在下でエチレン性不飽和単量体組成物を乳化重合して得られる水性複合樹脂エマルジョン、セメント及び乳化剤を用いることで上記課題を解決することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、(A)水性媒体中、水分散性ポリエステルの存在下でエチレン性不飽和単量体組成物を乳化重合して得られる複合樹脂組成物が水分散した水性複合樹脂エマルジョン及び(B)セメントを含有し、さらに、(A)水性複合樹脂エマルジョン中の複合樹脂組成物に対して固形分比率で0.5質量%〜10質量%の(C)乳化剤を含有することを特徴とする水系速乾性組成物である。
【0011】
本発明の水系速乾性組成物は、(A)水性複合樹脂エマルジョン中の複合樹脂組成物に対して固形分比率で1質量%〜50質量%の(B)セメントを含有することが好ましい。
【0012】
(C)乳化剤は、ノニオン性乳化剤であることが好ましい。
【0013】
複合樹脂組成物における水分散性ポリエステルは、エチレン性不飽和単量体組成物に対して固形分比率で5質量%〜70質量%使用することが好ましい。
【0014】
また、本発明は水系速乾性組成物を用いた速乾性塗料組成物である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、環境に優しく、さらに、水系塗料の欠点である速乾性に優れる水系速乾性組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0017】
本発明による水系速乾性組成物は、水性媒体中、水分散性ポリエステルの存在下でエチレン性不飽和単量体組成物を乳化重合して得られる複合樹脂組成物が水分散した水性複合樹脂エマルジョンを含有するものである。複合樹脂組成物における水分散性ポリエステルの量としては、エチレン性不飽和単量体組成物に対して固形分比率で5質量%〜70質量%であることが好ましく、10質量%〜50質量%であることがより好ましい。水分散性ポリエステルが5質量%未満の場合、水性複合樹脂エマルジョンの安定性に難があり、70質量%を超えると、塗膜の耐水性が低下する場合がある。
【0018】
本発明における複合樹脂組成物は、水性媒体中、水分散性ポリエステルの存在下で、エチレン性不飽和単量体をラジカル重合することで得られる。本発明において使用するエチレン性不飽和単量体としては、少なくとも1個の重合可能なビニル基を有するものであればよく、例えば、直鎖状、分岐状または環状のアルキル鎖を有する(メタ)アクリル酸エステル類、スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物、ビニルピロリドン等の複素環式ビニル化合物、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、アルキルアミノ(メタ)アクリレート、酢酸ビニルやアルカン酸ビニルに代表されるビニルエステル類、モノオレフィン類(エチレン、プロピレン、ブチレン、イソブチレン等)、共役ジオレフィン類(ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等)、α,β−不飽和モノあるいはジカルボン酸(アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸等)、アクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物、アクロレインやダイアセトンアクリルアミド等のカルボニル基含有エチレン性不飽和単量体、p−トルエンスルホン酸等のスルホン酸基含有エチレン性不飽和単量体が挙げられる。これらのエチレン性不飽和単量体は、1種単独もしくは2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの中でも、ラジカル重合の容易さや耐久性の観点から、メチルメタクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、スチレン、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、酢酸ビニル、エチレンが好ましい。
【0019】
また、必要に応じて、グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有α,β−エチレン性不飽和化合物、ビニルトリエトキシシランやγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等の加水分解性アルコキシシリル基含有α,β−エチレン性不飽和化合物、多官能ビニル化合物(エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、ジアリルフタレート等)等の架橋性モノマーを共重合体に導入してもよい。
【0020】
水分散性ポリエステルは、多塩基酸とポリオールとを重合した重合体を中和することで得られる公知のものである。ここで、水分散性ポリエステルとは、ポリエステルの分子内に疎水性の部分(疎水性部分)と親水性の部分(親水性部分)を持つもので、水中において疎水性部分の周りを親水性部分が取り囲む形で粒子となり、安定に分散するものをいう。水分散性ポリエステルを用いることで、水系速乾性組成物の速乾性が向上する理由としては、セメントから溶出するカルシウムイオンと、水分散性ポリエステルが有する官能基(カルボキシル基やスルホン酸基等)によるキレート効果であると推測される。
【0021】
多塩基酸成分としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタリンジカルボン酸、アジピン酸、コハク酸、セバチン酸、ドデカン二酸などであり、これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0022】
ポリオール成分として代表的なものを挙げれば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールなどであり、これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0023】
中でも多塩基成分がテレフタル酸もしくはイソフタル酸であり、ポリオール成分がエチレングリコール、プロピレングリコールあるいは1,6−ヘキサンジオールである水分散性ポリエステルが水分散安定性の点で好ましい。
【0024】
また、ポリエステルの水分散性をさらに向上させるために、カルボキシル基やスルホン酸基等の親水性基を有する重合成分を共重合させてもよい。
【0025】
これらの重合成分の具体例として、カルボキシル基をポリエステル分子内に導入するためには、例えば、(無水)トリメリット酸、(無水)ピロメリット酸、トリメシン酸等を重合成分の一部に用い、得られた重合体をアミノ化合物、アンモニア、アルカリ金属塩等で中和すればよい。なかでも、水分散性の点で、(無水)トリメリット酸が好ましい。
【0026】
また、スルホン酸基をポリエステル分子内に導入するには、例えば、5−スルホイソフタル酸、スルホテレフタル酸、4−スルホフタル酸、4−スルホナフタレン−2,7−ジカルボン酸又はこれらのエステル化合物(メチルエステル等)などのアルカリ金属塩やアンモニウム塩を重合成分の一部に用いればよい。なかでも、水分散性の点で、5−スルホイソフタル酸、5−スルホイソフタル酸1,3−ジメチルが好ましい。
【0027】
本発明で用いる水分散性ポリエステルとしては、市販の水分散性ポリエステル、または、その水分散体をそのまま使用してもよく、例えば、プラスコートZ−561、Z−730およびRZ−142(互応化学工業株式会社製)、ペスレジンA−110、A−210およびA−620(高松油脂株式会社製)、バイロナール(登録商標)MD−1200、MD−1220、MD−1250、MD−1335、MD−1400、MD−1480およびMD−1500(東洋紡績株式会社製)等が挙げられる。
【0028】
先に述べたように、本発明における(A)水性複合樹脂エマルジョンは、水性媒体中、水分散性ポリエステルの存在下で、エチレン性不飽和単量体組成物をラジカル重合することで得られる。重合反応は、常圧反応器もしくは耐圧反応器を用い、バッチ式、半連続式、連続式のいずれかの方法で行われる。反応温度は通常10℃から100℃で行われるが、30℃から90℃が一般的である。反応時間は、特に制限されることはなく、各成分の配合量及び反応温度などに応じて適宜調整すればよい。ラジカル重合する際、保護コロイドである水分散性ポリエステルがエマルジョン粒子の安定性に寄与するが、必要に応じてアニオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤を使用してもよい。乳化剤の種類や使用量は、水分散性ポリエステルの使用量や重合する単量体組成をはじめとした種々の条件によって適宜調整すればよい。
【0029】
このようなラジカル重合に使用する乳化剤としては、例えば、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルフェノールエーテル、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル等のノニオン性乳化剤、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルフォン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルフォン酸塩、ポリオキシアルキレンアルキル硫酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルリン酸エステル等のアニオン性乳化剤が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、得られる水系速乾性組成物の耐水性を損なわない範囲で、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン等の水溶性高分子を使用してもよい。ノニオン性乳化剤の具体例としては、後述するノニオン性乳化剤と同じものを使用することができる。
【0030】
水性媒体としては、水または水と水溶性溶媒の混合溶媒が挙げられる。混合溶媒中での水溶性溶媒の比率は0〜30質量%が好ましい。水溶性溶媒の比率が30質量%を超えると、水性複合樹脂エマルジョンの重合安定性やセメントと混和した際の安定性を著しく低下させる傾向にある。水溶性溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、アセトン等のケトン類、エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル等のエーテル類等が挙げられる。
【0031】
ラジカル重合に際して使用される重合開始剤としては公知慣用のものであればよく、例えば、過酸化水素、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、t−ブチルハイドロパーオキサイド等が挙げられる。また、必要に応じてこれらの重合開始剤をナトリウムスルホキシレートホルムアルデヒド、アスコルビン酸類、亜硫酸塩類、酒石酸又はその塩類等と組合わせてレドックス重合としてもよい。また、必要に応じて、アルコール類、メルカプタン類を連鎖移動剤として使用してもよい。
【0032】
本発明による水系速乾性組成物は、(B)セメントを含有するものである。セメントは水和反応により自ら硬化すると共に、水の消費と発熱により乾燥性を向上させる。また、溶出するカルシウムイオンが水性複合樹脂エマルジョン中の水分散性ポリエステルの官能基(カルボキシル基やスルホン酸基等)とキレート結合して不溶化させることで、速乾性、速硬性を発現させている。
【0033】
(B)セメントは水硬性のものであり、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメントなどのポルトランドセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント、シリカセメントなどの混合セメント、アルミナセメントなどを用いることができるが、着色性の面から白色ポルトランドセメント、白色アルミナセメントが好ましい。
【0034】
(B)セメントの量としては、水性複合樹脂エマルジョン中の複合樹脂組成物に対して固形分比率で1質量%〜50質量%であることが好ましく、2質量%〜30質量%がより好ましい。セメントが1質量%未満の場合、硬化が弱く十分な速乾性が得られない。50質量%を超えると、水性複合樹脂エマルジョンの安定性を著しく低下させるため、ゲル化時間の調整が困難な場合がある。
【0035】
本発明による水系速乾性組成物は(C)乳化剤を含有するものである。(C)乳化剤は(A)水性複合樹脂エマルジョンの重合安定性、貯蔵安定性を向上させる等の目的で(A)水性複合樹脂エマルジョンに含有されている乳化剤、及び、(A)水性複合樹脂エマルジョンと(B)セメントを配合する際に別途添加する乳化剤の両方を指すものであり、これらの乳化剤の合計量が水性複合樹脂エマルジョン中の複合樹脂組成物に対して固形分比率で0.5質量%〜10質量%である。水系速乾性組成物の乾燥時間は、(C)乳化剤の総量によって調整する。(C)乳化剤にはノニオン性及びアニオン性の乳化剤が挙げられるが、中でも水性複合樹脂エマルジョンに対する安定性付与の点でノニオン性乳化剤が好ましい。
【0036】
添加するノニオン性乳化剤は、公知のものでよく、例えば、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルフェノールエーテル、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル等が挙げられる。中でも、ポリオキシエチレンアルキルエーテルが好ましく、さらにはHLBが13〜19のものが好ましい。HLBが13より低くなると、(C)乳化剤の水分散性が悪く、19より高くなると、塗膜の耐水性低下が懸念される。ノニオン性乳化剤の量は、水性複合樹脂エマルジョン中の複合樹脂組成物に対して固形分比率で0.5質量%〜10質量%であることが好ましく、1質量%〜5質量%がより好ましい。0.5質量%未満の場合、乾燥性が速過ぎて作業性に支障をきたす場合があり、10質量%を超えると乾燥遅延効果が大きすぎて十分な乾燥性を得られにくい。
【0037】
添加するアニオン性乳化剤は、公知のものでよく、例えば、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルフォン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルフォン酸塩、ポリオキシアルキレンアルキル硫酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルリン酸エステル等を適宜用いることができる。
【0038】
また、本発明の水系速乾性組成物の不揮発分は、30%から80%の範囲で使用することが好ましい。30%より低いと水分揮発の時間が律速となり、速乾性の効果が得られない、80%より高いと、水系速乾性組成物のポットライフが短くなり、また高粘度となるため作業性に支障をきたす場合がある。
【0039】
本発明の水系速乾性組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、アクリル系樹脂、エチレン−酢酸ビニル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、エポキシ樹脂、アミノ樹脂、ウレタン系樹脂などの樹脂成分、イソシアネート系およびエポキシ系架橋剤、粘性改良剤、着色剤、ブロッキング防止剤、消泡剤、防腐剤、成膜助剤等の各種添加剤および炭酸カルシウム、酸化チタン、珪砂、着色骨材、遮熱顔料、中空バルーン等の無機物を混和して使用することも可能である。
【0040】
本発明による水系速乾性組成物の使用用途としては、施工時に直接降雨の影響を受けやすい屋上防水保護や歩道及び公園内の園路といった屋外施設のカラー塗装が挙げられる。つまり、降水確率の高い日で施工や天候の不安定な梅雨時期などには、事前に水性複合樹脂エマルジョンへセメントを添加することにより乾燥時間が自由にコントロール出来る点が大きなメリットと言える。また、施工方法としては、ローラー刷毛、金鏝、スプレー等、汎用的な施工道具にて施工でき、その使用量としては塗材単体では0.1〜1.0kg/m、乾燥珪砂等の骨材を添加した場合でも0.5〜3.0kg/mといった薄層被覆である。また、本発明の水系速乾性組成物を用いて塗料とする場合は、速乾性塗料組成物の顔料体積濃度が、5〜70%程度であることが好ましい。また、複合樹脂組成物に対して固形分比率で、酸化チタンを5〜200質量%添加することが好ましい。顔料体積濃度が5%より少なくなる或いは酸化チタンが5質量%より少なくなると、塗料の隠蔽性が低くなる傾向にある。顔料体積濃度が70%を越えると造膜性及び膜強度が低下する傾向にある。
【実施例】
【0041】
以下に実施例および比較例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。実施例および比較例で作製した水性複合樹脂エマルジョンの物性および評価方法は以下のようにした。
【0042】
(不揮発分)
直径5cmのアルミ皿に樹脂約1gを秤量し、105℃で1時間乾燥させ、残分を秤量することで算出した。
【0043】
(粘度)
ブルックフィールド型回転粘度計を用いて、液温23℃、回転数60rpm、No.2ローターにて測定した。
【0044】
(最低成膜温度、MFT)
JIS K 6828に準じて測定した。
【0045】
(乾燥時間)
表1〜3に記載の配合にて作製した水系速乾性組成物を、スレート板の上に約1kg/m塗布し、23℃×65%RH下で放置し、水系速乾性組成物表面に水を流しても、水系速乾性組成物が流出しなくなる時間を乾燥時間とした。また、この塗装条件において乾燥時間が60分以内であることを「速乾性」があると判断した。
【0046】
(合成例1)
撹拌装置、温度計および還流冷却器を備えた四つ口フラスコ反応器に、水分散性ポリエステル樹脂の水分散体としてプラスコートZ−730(不揮発分25質量%)138質量部、プラスコートZ−561(不揮発分25質量%)207質量部、イオン交換水33質量部を仕込み、80℃に昇温した。スチレン150質量部、メチルメタクリレート115質量部、2−エチルヘキシルアクリレート81質量部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート7質量部、アニオン性乳化剤(第一工業製薬株式会社製、ハイテノール08E)3質量部、イオン交換水110質量部をホモミキサーにて予め混合乳化した。反応器に過硫酸カリウム0.4質量部を投入し、同時にエチレン性不飽和単量体乳化物も滴下を開始し、3時間で滴下した。あわせて過硫酸カリウム0.8質量部をイオン交換水46質量部で溶解したものを3時間かけて滴下した。なお、反応中の内温は80℃に保った。乳化物および重合開始剤の滴下終了後、80℃で1時間反応し、その後室温に冷却した。成膜助剤として2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール モノイソブチレート(チッソ株式会社製、CS−12)99質量部を添加し、水性複合樹脂エマルジョンA−1を得た。得られた水性複合樹脂エマルジョンA−1の性状は、不揮発分50.0質量%、粘度300mPa・s、pH7.2、MFT0℃だった。
【0047】
(合成例2)
撹拌装置、温度計および還流冷却器を備えた四つ口フラスコ反応器に、水分散性ポリエステル樹脂の水分散体としてプラスコートZ−730(不揮発分25質量%)138質量部、プラスコートZ−561(不揮発分25質量%)207質量部、イオン交換水33質量部を仕込み、80℃に昇温した。スチレン150質量部、メチルメタクリレート115質量部、2−エチルヘキシルアクリレート81質量部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート7質量部、アニオン性乳化剤(第一工業製薬株式会社製、ハイテノール08E)3質量部、25%ノニオン性乳化剤水溶液(HLB18.5のポリオキシエチレンアルキルエーテルの固形分濃度25%の水溶液)10質量部、イオン交換水100質量部をホモミキサーにて予め混合乳化した。反応器に過硫酸カリウム0.4質量部を投入し、同時にエチレン性不飽和単量体乳化物も滴下を開始し、3時間で滴下した。あわせて過硫酸カリウム0.8質量部をイオン交換水46質量部で溶解したものを3時間かけて滴下した。なお、反応中の内温は80℃に保った。乳化物および重合開始剤の滴下終了後、80℃で1時間反応し、その後室温に冷却した。成膜助剤として2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール モノイソブチレート(チッソ株式会社製、CS−12)99質量部を添加し、水性複合樹脂エマルジョンA−2を得た。得られた水性複合樹脂エマルジョンA−2の性状は、不揮発分50.5質量%、粘度350mPa・s、pH7.2、MFT0℃だった。
【0048】
(合成例3)
撹拌装置、温度計および還流冷却器を備えた四つ口フラスコ反応器に、水分散性ポリエステル樹脂の水分散体としてプラスコートZ−730(不揮発分25質量%)138質量部を仕込み、80℃に昇温した。スチレン150質量部、メチルメタクリレート115質量部、2−エチルヘキシルアクリレート81質量部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート7質量部、プラスコートZ−561(不揮発分25質量%)207質量部、アニオン性乳化剤(第一工業製薬株式会社製、ハイテノール08E)1.4質量部、イオン交換水143質量部をホモミキサーにて予め混合乳化した。反応器に過硫酸カリウム0.4質量部を投入し、同時にエチレン性不飽和単量体乳化物も滴下を開始し、3時間で滴下した。あわせて過硫酸カリウム0.8質量部をイオン交換水46質量部で溶解したものを3時間かけて滴下した。なお、反応中の内温は80℃に保った。乳化物および重合開始剤の滴下終了後、80℃で1時間反応し、その後室温に冷却した。成膜助剤として2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール モノイソブチレート(チッソ株式会社製、CS−12)99質量部を添加し、水性複合樹脂エマルジョンA−3を得た。得られた水性複合樹脂エマルジョンA−3の性状は、不揮発分50.2質量%、粘度100mPa・s、pH7.1、MFT0℃だった。
【0049】
(実施例1)
合成例1で得られた水性複合樹脂エマルジョンA−1の100質量部に対し、攪拌下で酸化チタン(石原産業株式会社製、タイペークCR−50)30質量部、炭酸カルシウム(日東粉化株式会社製、NC#100)30質量部、25%ノニオン性乳化剤水溶液(HLB18.5のポリオキシエチレンアルキルエーテルの固形分濃度25%の水溶液)1質量部を添加した。さらに、白色ポルトランドセメント(太平洋セメント株式会社製、ホワイトセメント)を3質量部添加し、5分間攪拌して水系速乾性組成物を得た。乾燥時間は40分だった。
【0050】
(実施例2〜4、比較例1〜3)
実施例1における配合を表1、表2に示す配合に変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例2〜4、及び、比較例1〜3の水系速乾性組成物を得た。
【0051】
(比較例4)
実施例1の水性複合樹脂エマルジョンA−1の代わりに、スチレン−アクリル酸エステル共重合エマルジョン(昭和高分子株式会社製、ポリゾールAP−1330、不揮発分45%、MFT35℃、界面活性剤としてアニオン性乳化剤を用いて乳化重合)を用い、成膜助剤として2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレートを7質量部用い、25%ノニオン性乳化剤水溶液を除いた以外は、実施例1と同様にして比較例4の水系速乾性組成物を得た。
【0052】
【表1】

【0053】
【表2】

【0054】
(実施例5)
合成例1で得られた水性複合樹脂エマルジョンA−1の100質量部に対し、攪拌下で7号珪砂100質量部、1.5%HEC水溶液15.5質量部、25%ノニオン性乳化剤水溶液(HLB18.5のポリオキシエチレンアルキルエーテルの固形分濃度25%の水溶液)1質量部を添加。さらに、白色ポルトランドセメント(太平洋セメント株式会社製、ホワイトセメント)を3質量部添加し、5分間攪拌して水系速乾性組成物を得た。乾燥時間は50分だった。ここで、1.5%HEC水溶液はHERCULES社製ナトロゾール250HRの1.5質量部、イオン交換水98.0質量部を混合し、攪拌下で25%アンモニア水0.5質量部を添加して作製した。
【0055】
(実施例6、比較例5)
実施例5における配合を表3に示す配合に変更した以外は、実施例5と同様にして、実施例6、比較例5の水系速乾性組成物を得た。
【0056】
【表3】

【0057】
(実施例7)
実施例1における配合を表4に示す配合に変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例7の水系速乾性組成物を得た。
【0058】
(実施例8)
実施例1の25%ノニオン性乳化剤水溶液の代わりに、10%アニオン性乳化剤水溶液(第一工業製薬株式会社製、ハイテノール08Eの10%の水溶液)を用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例8の水系速乾性組成物を得た。
【0059】
【表4】

【0060】
表1、表3、及び表4に示したように、実施例1〜8で得られた水系速乾性組成物は、乾燥時間が10分〜60分と速乾性及び作業性に優れていた。これに対し表2及び表3に示した比較例1〜5で得られた水系速乾性組成物は、塗布する前にゲル化するか、又は乾燥時間が長く、速乾性と作業性がともに優れた加工品は得られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)水性媒体中、水分散性ポリエステルの存在下でエチレン性不飽和単量体組成物を乳化重合して得られる複合樹脂組成物が水分散した水性複合樹脂エマルジョン及び
(B)セメントを含有し、
さらに、(A)水性複合樹脂エマルジョン中の複合樹脂組成物に対して固形分比率で0.5質量%〜10質量%の(C)乳化剤を含有することを特徴とする水系速乾性組成物。
【請求項2】
(A)水性複合樹脂エマルジョン中の複合樹脂組成物に対して固形分比率で1質量%〜50質量%の(B)セメントを含有することを特徴とする請求項1記載の水系速乾性組成物。
【請求項3】
(C)乳化剤がノニオン性乳化剤であることを特徴とする請求項1又は2のいずれかに記載の水系速乾性組成物。
【請求項4】
複合樹脂組成物における水分散性ポリエステルは、エチレン性不飽和単量体組成物に対して固形分比率で5質量%〜70質量%使用することを特徴とする請求項1、2又は3のいずれかに記載の水系速乾性組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の水系速乾性組成物を用いた速乾性塗料組成物。

【公開番号】特開2011−195760(P2011−195760A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−66423(P2010−66423)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】