説明

水系重合性単量体組成物、ガスバリア性フィルム及び該フィルムの製造方法

【課題】ガスバリア性と透明性に優れたイオン架橋ポリカルボン酸重合体フィルムを含むガスバリア性フィルムを提供する。
【解決手段】基材上に、α,β−不飽和カルボン酸単量体、該α,β−不飽和カルボン酸単量体のカルボキシル基に対する化学当量が0.20〜1.50に相当する量の多価金属イオン、該α,β−不飽和カルボン酸単量体に対する重量比が0.001〜0.30となる量の無機酸及び有機酸からなる群より選ばれる少なくとも1種のその他の酸、並びに組成物全量基準で20〜85重量%の水を含有する水系重合性単量体組成物を塗布して湿潤状態の塗膜を形成し、湿潤状態の塗膜に電離放射線の照射及び/または加熱による重合処理を行ってイオン架橋ポリカルボン酸重合体フィルムを形成するガスバリア性フィルムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素ガスバリア性などのガスバリア性と透明性に優れ、食品包材などの包装材料に適した単層または多層のガスバリア性フィルム、その製造方法、及びその製造方法で用いられる水系重合性単量体組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ(メタ)アクリル酸と金属との間にイオン結合を導入することにより、ガスバリア性、耐熱水性、耐水蒸気性を改善したフィルムを製造する方法について、幾つかの提案がなされている。ポリ(メタ)アクリル酸とは、ポリアクリル酸またはポリメタクリル酸もしくはこれらの混合物を意味する。
【0003】
米国特許第6,022,913号明細書(特許文献1)には、ポリ(メタ)アクリル酸とポリビニルアルコールまたは糖類との混合物からなる塗膜を熱処理してフィルムを作製し、次いで、該フィルムをアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属を含む媒体中に浸漬処理して、ポリ(メタ)アクリル酸と金属との間にイオン結合を導入することにより、耐熱水性及び耐水蒸気性が向上したガスバリア性フィルムを製造する方法が提案されている。
【0004】
米国特許第6,605,344号明細書(特許文献2)には、ポリ(メタ)アクリル酸またはその部分中和物とポリビニルアルコールまたは糖類との混合物から形成された塗膜の表面に金属化合物層を形成し、該塗膜中への金属化合物の移行によりイオン結合を形成させて、ガスバリア性、耐熱水性、耐水蒸気性に優れたフィルムを製造する方法が提案されている。
【0005】
しかし、特許文献1及び2に記載の方法では、ガスバリア性フィルムを得るために、前記混合物を含有する塗膜を100℃以上の高温で長時間にわたって熱処理する必要がある。しかも、これらの方法は、イオン結合の形成方法が煩雑である。
【0006】
米国特許出願公開第2005/0131162号明細書(特許文献3)には、ポリカルボン酸重合体層と多価金属化合物を含有する層とを隣接して配置した多層フィルムを形成し、次いで、該多層フィルムを相対湿度20%以上の雰囲気下に置くことにより、多価金属化合物含有層からポリカルボン酸重合体層へ多価金属イオンを移行させ、ポリカルボン酸重合体のカルボキシル基と多価金属化合物との反応によるポリカルボン酸多価金属塩を生成させる方法が提案されている。この方法によれば、ガスバリア性に優れたフィルムを得ることができる。
【0007】
しかし、特許文献3に記載の方法では、(メタ)アクリル酸などのα、β−不飽和カルボン酸重合体を重合してポリカルボン酸重合体を合成する工程、ポリカルボン酸重合体を含有する塗工液を塗布する工程、及び多価金属化合物を含有する塗工液を塗布する工程が必要であり、操作が煩雑である。これに加えて、該方法では、多価金属化合物含有層からポリカルボン酸重合体層へ多価金属イオンを移行させるために、多層フィルムを長時間にわたって高湿雰囲気下に置く必要があり、連続的操作が困難である。
【0008】
特許文献3には、ポリカルボン酸重合体と多価金属化合物との混合物を含有する水系塗工液を塗布し、乾燥してガスバリア性フィルムを製造する方法も開示されている。しかし、ポリカルボン酸重合体と多価金属化合物とは、水溶液中で反応して不均一な沈殿を生じ易いため、各成分が均一に溶解した水系塗工液を調製することが困難である。該水系塗工液の調製に際し、アンモニア水の如き揮発性アミンを添加すると、ポリカルボン酸重合体と多価金属化合物との間の反応を抑制することができる。しかし、水系塗工液を塗布後、揮発性アミンを揮散させる必要があるため、作業環境に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0009】
国際公開2005/108440号パンフレット(特許文献4)には、基材の少なくとも片面に重合度20未満の不飽和カルボン酸化合物の多価金属塩溶液を塗布した後、該不飽和カルボン酸の多価金属塩を重合するガスバリア性膜またはガスバリア性積層体の製造方法が開示されている。特許文献4には、不飽和カルボン酸化合物の多価金属塩を形成するために用いる多価金属化合物として広範な開示があるものの、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化亜鉛、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化亜鉛などの2価の金属化合物が好ましいと記載されており、各実施例でも、これらの2価の金属化合物が用いられている。しかし、特許文献4に記載の製造方法は、透明性やガスバリア性などのバランス性能を持った単層または多層のガスバリア性フィルムを得るには、充分なものではない。
【0010】
【特許文献1】米国特許第6,022,913号明細書
【特許文献2】米国特許第6,605,344号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2005/0131162号明細書
【特許文献4】国際公開2005/108440号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、ガスバリア性に優れる上、透明性にも優れたイオン架橋ポリカルボン酸重合体フィルムを含む単層または多層のガスバリア性フィルムを提供することにある。
【0012】
また、本発明の目的は、該イオン架橋ポリカルボン酸重合体フィルムの製造原料として用いられる水系重合性単量体組成物を提供することにある。
【0013】
本発明の他の目的は、該水系重合性単量体組成物を用いて、該イオン架橋ポリカルボン酸重合体フィルムからなる単層または多層のガスバリア性フィルムを、簡単な方法により製造することができる製造方法を提供することにある。
【0014】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究した結果、(a)α,β−不飽和カルボン酸単量体、(b)該α,β−不飽和カルボン酸単量体のカルボキシル基に対する化学当量が0.20〜1.50に相当する量の多価金属イオン、(c)該α,β−不飽和カルボン酸単量体に対する重量比が0.001〜0.30となる量の無機酸及び有機酸からなる群より選ばれる少なくとも1種のその他の酸、並びに(d)組成物全量基準で20〜85重量%の水を含有する水系重合性単量体組成物に想到した。
【0015】
該水系重合性単量体組成物を塗工液として、基材上に塗工すると、均一な塗膜を形成することができる。湿潤状態の塗膜に、電離放射線を照射する方法及び/または加熱処理を施す方法により重合処理を行うと、ゲルの析出やフィルムの白化などの問題を生ずることなく、硬化塗膜を得ることができる。該硬化塗膜は、酸素ガスバリア性に優れるとともに、ヘーズ値(曇価)が小さく透明性に優れたイオン架橋ポリカルボン酸重合体フィルムである。
【0016】
本発明の製造方法は、ポリカルボン酸重合体フィルムをイオン架橋(イオン結合)する方法とは異なり、α,β−不飽和カルボン酸単量体を多価金属イオンの存在下に重合することにより、ポリカルボン酸重合体の生成と多価金属イオンによるイオン架橋とを同時に行う方法であり、フィルムの製造工程が大幅に簡略化される上、連続的生産に適している。
【0017】
本発明の製造方法により得られる硬化塗膜は、α,β−不飽和カルボン酸の重合により生成したポリカルボン酸重合体が多価金属イオンでイオン架橋された構造を有するイオン架橋ポリカルボン酸重合体フィルムである。本発明のイオン架橋ポリカルボン酸重合体フィルムは、酸素ガスバリア性などのガスバリア性と透明性に優れている。本発明のイオン架橋ポリカルボン酸重合体フィルムは、多価金属イオンでイオン架橋されているため、単層または多層のガスバリア性フィルムとして包装材料の用途に用いると、通常の使用条件下において、外観、形状、ガスバリア性、及び透明性が損なわれることがない。
【0018】
基材1上に該水系重合性単量体組成物を塗布して湿潤状態の塗膜を形成し、該湿潤状態の塗膜に重合処理を施すと、層間密着性に優れた多層のガスバリア性フィルムを得ることができる。基材1上に該水系重合性単量体組成物を塗布して湿潤状態の塗膜を形成し、該塗膜の表面に別の基材2を被覆して、基材1と基材2との間で塗膜の湿潤状態を保持させたまま、重合処理を施すことにより、層間密着性が良好な多層のガスバリア性フィルムを得ることができる。基材1及び/または基材2の種類を選択したり、付加的な層を配置したりすることにより、様々な機能を持つ多層のガスバリア性フィルムを得ることができる。本発明は、これらの知見に基づいて完成するに至ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明によれば、(a)α,β−不飽和カルボン酸単量体、(b)該α,β−不飽和カルボン酸単量体のカルボキシル基に対する化学当量が0.20〜1.50に相当する量の多価金属イオン、(c)該α,β−不飽和カルボン酸単量体に対する重量比が0.001〜0.30となる量の無機酸及び有機酸からなる群より選ばれる少なくとも1種のその他の酸、並びに(d)組成物全量基準で20〜85重量%の水を含有する水系重合性単量体組成物が提供される。
【0020】
また、本発明によれば、該水系重合性単量体組成物の塗膜を重合処理して形成された、温度30℃及び相対湿度80%の高湿度条件下で測定した酸素透過度が50×10−4cm(STP)/(m・s・MPa)以下のイオン架橋ポリカルボン酸重合体フィルムを含むガスバリア性フィルムが提供される。
【0021】
さらに、本発明によれば、少なくとも下記工程1乃至3:
(1)前記水系重合性単量体組成物を、該水系重合性単量体組成物を構成する各原料成分の混合により調製する工程1;
(2)基材1上に該水系重合性単量体組成物を塗布して、湿潤状態の塗膜を形成する工程2;並びに
(3)該湿潤状態の塗膜に電離放射線の照射または加熱もしくはこれら両方による重合処理を行って、α,β−不飽和カルボン酸単量体の重合体を多価金属イオンでイオン架橋した構造を有するイオン架橋ポリカルボン酸重合体フィルムを形成する工程3;
を含む、温度30℃及び相対湿度80%の高湿度条件下で測定した酸素透過度が50×10−4cm(STP)/(m・s・MPa)以下のイオン架橋ポリカルボン酸重合体フィルムを含むガスバリア性フィルムの製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、簡単な工程により、ガスバリア性と透明性に優れ、包装材料としての使用耐性が良好な単層または多層のガスバリア性フィルムを得ることができる。本発明の水系重合性単量体組成物は、各成分の均一溶解性または分散性に優れ、均一な組成と厚みの塗膜を形成することができる。
【0023】
本発明の水系重合性単量体組成物を用いて形成した湿潤状態の塗膜に、電離放射線を照射したり、加熱したりすることにより、α,β−不飽和カルボン酸の重合反応が円滑に進行し、ゲルの析出や白化などの問題を生ずることなく、ガスバリア性に優れることに加えて、ヘーズ値が小さく透明性にも優れたイオン架橋ポリカルボン酸重合体フィルムを連続的に製造することができる。本発明の製造方法によれば、生成するイオン架橋ポリカルボン酸重合体フィルムと他のプラスチックフィルムなどの基材層との間の密着性に優れた多層のガスバリア性フィルムを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
1.α,β−不飽和カルボン酸単量体
本発明で使用するα,β−不飽和カルボン酸単量体とは、不飽和カルボン酸の炭素−炭素二重結合を形成する2つの炭素原子のうちの少なくとも1つの炭素原子にカルボキシル基が結合した構造の不飽和カルボン酸化合物である。炭素−炭素二重結合は、エチレン性の二重結合であるため、この不飽和カルボン酸は、重合性単量体としての機能を有している。
【0025】
本発明で使用するα,β−不飽和カルボン酸単量体は、一般に、カルボキシル基が1つの不飽和モノカルボン酸と、カルボキシル基が2つの不飽和ジカルボン酸とに分けることができる。不飽和ジカルボン酸には、エチレン性炭素−炭素二重結合を形成する2つの炭素原子の各々にカルボキシル基が結合した構造のものと、エチレン性炭素−炭素二重結合を形成する2つの炭素原子のうちの1つの炭素原子にカルボキシル基が結合し、その他の炭素原子にカルボキシル基が結合した構造のものとがある。α,β−不飽和カルボン酸単量体は、エチレン性炭素−炭素二重結合に加えて、別の炭素−炭素二重結合を有するものであってもよい。
【0026】
本発明で使用するα,β−不飽和カルボン酸単量体は、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、けい皮酸、セネシオ酸、チグリン酸、ソルビン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、及びこれらの酸無水物からなる群より選ばれる少なくとも1種の不飽和カルボン酸化合物を含む。
【0027】
これらのうち、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、けい皮酸、セネシオ酸(すなわち、β,β−ジメチルアクリル酸)、及びチグリン酸(すなわち、2−メチルクロトン酸)は、α,β−モノエチレン性不飽和モノカルボン酸化合物である。ソルビン酸は、α,β−不飽和モノカルボン酸化合物であるが、炭素−炭素二重結合を2個有している。けい皮酸としては、シス型及びトランス型のものを使用することができる。
【0028】
マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、及びメサコン酸は、α,β−モノエチレン性不飽和ジカルボン酸化合物である。酸無水物としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、及び無水シトラコン酸が好ましい。ただし、これらの酸無水物は、水系重合性単量体組成物中では、遊離酸の形態となっていることが多い。
【0029】
原料として使用するα,β−不飽和カルボン酸単量体は、前記の如きα,β−不飽和カルボン酸単量体の形態であり得るが、α,β−不飽和カルボン酸の多価金属塩の形態であってもよい。例えば、完全に中和されたα,β−不飽和カルボン酸の2価の金属塩(例えば、ジアクリル酸亜鉛)は、α,β−不飽和カルボン酸(アクリル酸)のカルボキシル基に対する多価金属イオン(亜鉛イオン)の化学当量が1.0となる。
【0030】
α,β−不飽和カルボン酸単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、けい皮酸、セネシオ酸、チグリン酸、ソルビン酸、イタコン酸、マレイン酸、及びシトラコン酸が好ましく、アクリル酸及びメタクリル酸がより好ましく、ガスバリア性などの特性とコストの面でアクリル酸が特に好ましい。イタコン酸、シトラコン酸、マレイン酸などの(メタ)アクリル酸以外の単量体は、50重量%未満の少量成分としてアクリル酸またはメタクリル酸と併用することが好ましい。α,β−不飽和カルボン酸単量体は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0031】
2.多価金属イオン:
多価金属イオンは、多価金属化合物に由来する多価金属イオンである。多価金属化合物としては、一般に、水中でイオン解離して多価金属イオンを生成するものが用いられる。多価金属化合物は、金属イオンの価数が2以上の多価金属原子単体及び多価金属化合物である。したがって、本発明で使用する多価金属化合物には、多価金属原子単体も含まれる。
【0032】
多価金属の具体例としては、ベリリウム、マグネシウム、カルシウムなどの周期表2A族の金属;チタン、ジルコニウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛などの遷移金属;アルミニウムを挙げることができるが、これらに限定されない。これらの中でも、亜鉛、カルシウム、銅、マグネシウム、アルミニウム、及び鉄が好ましい。α,β−不飽和カルボン酸金属塩は、金属の種類によって水に対する溶解性が異なるが、溶解性の観点からは、金属種として亜鉛及びカルシウムが特に好ましい。
【0033】
多価金属化合物の具体例としては、多価金属の酸化物、水酸化物、有機酸塩、及び無機酸塩が挙げられるが、これらに限定されない。多価金属の酸化物としては、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、及び酸化鉄(III)が好ましい。
【0034】
有機酸塩としては、例えば、酢酸塩、シュウ酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、リン酸塩、亜リン酸塩、次亜リン酸塩、ステアリン酸塩、α,β−モノエチレン性不飽和カルボン酸塩が挙げられるが、これらに限定されない。α,β−モノエチレン性不飽和カルボン酸塩には、例えば、ジアクリル酸亜鉛、ジアクリル酸カルシウム、ジアクリル酸マグネシウム、ジアクリル酸銅、及びアクリル酸アルミニウムが含まれる。多価金属化合物が多価金属の酢酸塩、クエン酸塩、乳酸塩などの有機酸塩である場合には、水系重合性単量体組成物中で有機酸と多価金属イオンに解離する。その場合、解離して生成する有機酸の量が、α,β−不飽和カルボン酸単量体に対する重量比で0.001〜0.30の範囲内となるように調節する必要がある。
【0035】
無機酸塩としては、例えば、塩化物、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩が挙げられるが、これらに限定されない。多価金属のアルキルアルコキシドも多価金属化合物として使用することができる。これらの多価金属化合物は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。多価金属化合物が多価金属の塩化物、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩などである場合には、水系重合性単量体組成物中で無機酸と多価金属イオンに解離する。その場合、解離して生成する無機酸の量が、α,β−不飽和カルボン酸単量体に対する重量比で0.001〜0.30の範囲内となるように調節する必要がある。
【0036】
多価金属化合物の中でも、水系重合性単量体組成物(塗工液)の分散安定性と該水系重合性単量体組成物から形成されるフィルムのガスバリア性の観点から、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、銅、コバルト、ニッケル、亜鉛、アルミニウム、鉄、及びジルコニウムの化合物が好ましく、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、銅、亜鉛、コバルト、及びニッケルなどの2価金属の化合物:鉄、アルミニウムなどの3価金属化合物がより好ましい。
【0037】
好ましい2価金属化合物としては、例えば、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化銅、酸化ニッケル、酸化コバルトなどの酸化物;塩化亜鉛などの塩化物;炭酸カルシウムなどの炭酸塩;酢酸亜鉛、酢酸カルシウム、乳酸カルシウム、乳酸亜鉛、ジアクリル酸亜鉛、ジアクリル酸カルシウム、ジアクリル酸マグネシウム、ジアクリル酸銅などの有機酸塩;マグネシウムメトキシドなどのアルコキシド;を挙げることができるが、これらに限定されない。3価金属化合物としては、酸化鉄(III)などの酸化物;アクリル酸アルミニウムなどの有機酸塩;を挙げることができる。
【0038】
これらの中でも、多価金属化合物として、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化銅、酸化ニッケル、酸化コバルトなどの酸化物;ジアクリル酸亜鉛、ジアクリル酸カルシウム、ジアクリル酸マグネシウム、ジアクリル酸銅などのジアクリル酸塩;酸化鉄(III)、及びアクリル酸アルミニウムが好ましい。多価金属化合物は、水溶液または水分散液として用いられる。多価金属化合物は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0039】
ガスバリア性や透明性を損なわない範囲において、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アクリル酸ナトリウム、アクリル酸カリウムなどの1価の金属化合物を併用することができる。1価の金属化合物は、α,β−不飽和カルボン酸単量体のカルボキシル基に対する化学当量が好ましくは0.30以下、より好ましくは0.20以下となる量で用いられる。1価の金属化合物の割合が大きくなりすぎると、イオン架橋ポリカルボン酸重合体フィルムのガスバリア性、高温水蒸気に対する耐性、熱水に対する耐性等が低下する。
【0040】
3.その他の酸:
本発明で使用するその他の酸とは、α,β−不飽和カルボン酸単量体以外の酸を意味する。その他の酸は、無機酸及び有機酸に分類される。無機酸と有機酸とを併用してもよい。その他の酸は、無機酸または有機酸の多価金属塩に由来する酸であってもよい。無機酸または有機酸の多価金属塩は、水系重合性単量体組成物中で酸と多価金属イオンに解離する。
【0041】
無機酸としては、例えば、炭酸、塩酸、硫酸、硝酸、フッ化水素酸、臭化水素酸、シアン化水素酸、及び過酸化水素が挙げられる。有機酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、イソ吉草酸、ヘプタン酸、オクタン酸などの飽和モノカルボン酸;グリコール酸、乳酸などのモノヒドロキシモノカルボン酸;安息香酸などの芳香族モノカルボン酸;シュウ酸、アジピン酸、グルタル酸などの飽和ジカルボン酸;りんご酸(飽和ジカルボン酸)、クエン酸(飽和トリカルボン酸)などのヒドロキシポリカルボン酸;オキサロ酢酸(ケトカルボン酸)などの飽和ジカルボン酸;アスパラギン酸、L−アルギニン、グルタミン酸などのアミノ酸;アスコルビン酸、及びニコチン酸が挙げられる。これらの無機酸及び有機酸は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0042】
無機酸の多価金属塩としては、前記多価金属化合物として使用する塩化物、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩などが挙げられる。これらの中でも、塩化亜鉛及び炭酸カルシウムが好ましい。有機酸の多価金属塩としては、前記多価金属化合物として使用する酢酸塩、クエン酸塩、乳酸塩などが挙げられる。これらの中でも、酢酸亜鉛が好ましい。
【0043】
4.水系重合性単量体組成物:
本発明の水系重合性単量体組成物は、イオン架橋ポリカルボン酸重合体フィルムを塗工法により製造する際に、基材上に塗布する塗工液(コーティング液)として使用される。本発明の水系重合性単量体組成物は、(a)α,β−不飽和カルボン酸単量体、(b)該α,β−不飽和カルボン酸単量体のカルボキシル基に対する化学当量が0.20〜1.50に相当する量の多価金属イオン、(c)該α,β−不飽和カルボン酸単量体に対する重量比が0.001〜0.30となる量の無機酸及び有機酸からなる群より選ばれる少なくとも1種のその他の酸が、(d)組成物全量基準で20〜85重量%の水に溶解または分散したものである。これら各成分(a)〜(c)は、水中に均一に溶解していることが好ましい。これら各成分(a)〜(c)の化学当量や重量比などは、これらの各成分を形成するために使用したα,β−不飽和カルボン酸単量体の多価金属塩、多価金属化合物、無機酸または有機酸の多価金属塩などの原料成分が、水の存在下に、すべてが各成分(a)〜(c)に解離しているものと仮定して算出する。
【0044】
本発明の水系重合性単量体組成物は、α,β−不飽和カルボン酸単量体と、該α,β−不飽和カルボン酸単量体のカルボキシル基に対する化学当量が0.20〜1.50、好ましくは0.30〜1.40、より好ましくは0.40〜1.30に相当する量の多価金属イオンとを含有している。α,β−不飽和カルボン酸単量体としては、少なくとも1種の前記α,β−不飽和カルボン酸が用いられる。多価金属イオン源としては、水中で多価金属イオンに解離する前記の如き多価金属化合物が用いられる。
【0045】
化学当量の算出方法として、水系重合性単量体組成物中に、例えば、アクリル酸3000gと亜鉛イオン1360gが存在する場合を例にとって説明する。アクリル酸の分子量は72.06であるから、アクリル酸3000gのモル数は、41.6(3000÷72.06=41.6)になる。他方、亜鉛の原子量は65.39であるから、亜鉛イオン1360gのモル数は、20.8(1360÷65.39=20.8)になる。亜鉛は2価の金属原子であるから、アクリル酸のカルボキシル基に対する亜鉛イオンの化学当量は、(20.8×2)/41.6=1.00となる。
【0046】
同様に、水系重合性単量体組成物中に、アクリル酸3000gとカルシウムイオン930gが存在する場合には、カルシウムの原子量は40.078であるから、カルシウムイオンのモル数は、23.2(930÷40.078=23.2)になる。カルシウムは2価の原子であるから、アクリル酸のカルボキシル基に対するカルシウムイオンの化学当量は、(23.2×2)/41.6=1.12となる。
【0047】
α,β−不飽和カルボン酸単量体のカルボキシル基に対する多価金属イオンの化学当量が小さすぎると、生成するフィルムの高湿条件下での酸素ガスバリア性が低下する。α,β−不飽和カルボン酸単量体のカルボキシル基に対する多価金属イオンの化学当量が大きくなりすぎると、金属イオンの溶解性が低下して均一な水系重合性単量体組成物が得られなかったり、湿潤状態での塗膜の重合反応性が低下したり、生成するフィルムが白化したりする。多価金属イオンの量は、使用するα,β−不飽和カルボン酸単量体の種類、多価金属化合物の種類と価数などを考慮して、α,β−不飽和カルボン酸単量体のカルボキシル基に対する化学当量が前記範囲内となるように調節することが好ましい。
【0048】
本発明の水系重合性単量体組成物には、溶液としての均一性を損なわない範囲において、イオン架橋ポリカルボン酸重合体フィルムの架橋度やガスバリア性などを調整するために、前述したように、ナトリウム及びカリウムなどの1価の金属イオンを含有させることができる。1価の金属イオンを含有させる場合には、前記化学当量は、1価の金属イオンの量を加えずに算出する。
【0049】
本発明の水系重合性単量体組成物は、α,β−不飽和カルボン酸単量体に対する重量比が0.001〜0.30、好ましくは0.01〜0.25、より好ましくは0.02〜0.20となる量の無機酸及び有機酸からなる群より選ばれる少なくとも1種のその他の酸を含有する。この重量比が小さすぎると、硬化塗膜が白化するおそれがあり、大きすぎると、高湿度条件下での酸素ガスバリア性が低下する。その他の酸は、酸として使用してもよいが、無機酸または有機酸の多価金属塩として使用し、水系重合性単量体組成物中で酸を遊離させてもよい。
【0050】
α,β−不飽和カルボン酸単量体以外のその他の酸を、上記の如く限定された量比で含有させた水系重合性単量体組成物を使用することにより、イオン架橋ポリカルボン酸重合体フィルムの酸素ガスバリア性を低下させることなく、ヘーズ値を大幅に小さくすることができる。ヘーズ値(曇価)は、JIS K7105に従って、積分球式光線透過率測定装置を用いて、試験片の拡散透過率及び全光線透過率を測定し、その比(%)によって表す。ヘーズ値が小さいほど、イオン架橋ポリカルボン酸重合体フィルムまたは該フィルムを含む多層フィルムの透明性が高くなる。
【0051】
本発明の水系重合性単量体組成物を用いることにより、ヘーズ値が好ましくは50.0%以下、より好ましくは40.0%以下、特に好ましくは35.0%以下のイオン架橋ポリカルボン酸重合体フィルムを得ることができる。高度の透明性が要求される用途には、イオン架橋ポリカルボン酸重合体フィルムのヘーズ値を10.0%以下にまで低くすることができる。
【0052】
本発明の水系重合性単量体組成物は、組成物全量基準で20〜85重量%の水を含有するものである。水の含有量が少なすぎると、各成分が均一に溶解または分散し難くなる。水系重合性単量体組成物中において、各成分は、均一に溶解していることが好ましい。例えば、未溶解の多価金属化合物が多量に存在すると、均質なフィルムを得ることが困難になる。他方、水の含有量が多すぎると、湿潤状態の塗膜を重合させる工程でゲルを析出してフィルムの外観を低下させたり、重合後の水分除去が困難になったりする。
【0053】
水の含有量は、使用する多価金属化合物の水に対する溶解性にもよるが、組成物全量基準で、好ましくは25〜83重量%、より好ましくは28〜82重量%である。湿潤状態の塗膜における重合反応性と重合後の水分除去効率とをバランスさせるには、水の含有量の下限値を30重量%とすることがより好ましい。
【0054】
本発明の水系重合性単量体組成物の固形分濃度は、15〜80重量%、好ましくは17〜75重量%、より好ましくは18〜72重量%である。本発明において、「固形分濃度」とは、水以外の各成分の合計量が占める重量%を意味するものとする。したがって、各成分が常温で固形物を形成しないものである場合も、その濃度を固形分濃度という。例えば、水の含有量を30重量%にするには、固形分濃度が70重量%となるように調節する。水系重合性単量体組成物を調製する際に、α,β−不飽和カルボン酸単量体と多価金属化合物(例えば、多価金属酸化物)との反応により、多価金属イオンとともに水が生成することがある。このような場合、本発明の水系重合性単量体組成物における水の含有量は、α,β−不飽和カルボン酸単量体と多価金属化合物との反応に起因する水分を考慮して算出する。α,β−不飽和カルボン酸単量体と無機酸または有機酸の多価金属塩との反応によって、無機酸または有機酸とともに水分が発生する場合には、この水分量を考慮して水の含有量を算出する。
【0055】
本発明の水系重合性単量体組成物は、溶媒として水を使用するが、各成分の均一な溶解または分散を阻害せず、かつ、重合反応を阻害しない範囲内で、少量の有機溶媒(例えば、アルコール類)を添加してもよい。
【0056】
5.その他の成分:
本発明の水系重合性単量体組成物には、必要に応じて、重合開始剤を含有させることができる。重合開始剤としては、光重合開始剤と熱重合開始剤とが代表的なものである。光重合開始剤と熱重合開始剤とを組み合わせて使用してもよい。熱重合開始剤には、電離放射線の照射により活性化するアゾ化合物や過酸化物も含まれる。
【0057】
湿潤状態の塗膜に紫外線を照射する場合には、水系重合性単量体組成物に光重合開始剤を含有させることが好ましい。光重合開始剤は、単に光開始剤または増感剤と呼ばれることがある。光重合開始剤には、例えば、アセトフェノン類、ベンゾフェノン類、ミヒラーケトン類、ベンジル類、ベンゾイン類、ベンゾインエーテル類、ベンジルジメチルケタール類、チオキサントン類、及びこれらの2種以上の混合物が含まれる。
【0058】
光重合開始剤の好ましい具体例としては、アセトフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、m−クロロアセトフェノン、p−tert−ブチルトリクロロアセトフェノン、4−ジアルキルアセトフェノンなどのアセトフェノン類;ベンゾフェノンなどのベンゾフェノン類;ミヒラーケトンなどのミヒラーケトン類;ベンジル、ベンジルメチルエーテルなどのベンジル類;ベンゾイン、2−メチルベンゾインなどのベンゾイン類;ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインブチルエーテルなどのベンゾインエーテル類;ベンジルジメチルケタールなどのベンジルジメチルケタール類;チオキサントンなどのチオキサントン類;プロピオフェノン、アントラキノン、アセトイン、ブチロイン、トルオイン、ベンゾイルベンゾエート、α−アシロキシムエステル;などのカルボニル化合物を挙げることができる。
【0059】
光重合開始剤としては、上記カルボニル化合物以外に、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド、チオキサンソン、2−クロロチオキサンソンなどの硫黄化合物;アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリルなどのアゾ化合物;ベンゾイルパーオキサイド、ジ−tert−ブチルパーオキサイドなどの過酸化物;が挙げられる。
【0060】
これらの光重合開始剤を水系重合性単量体組成物中に添加する場合には、水系重合性単量体組成物中に、通常0.001〜10重量%、好ましくは0.01〜5重量%の割合で添加する。光重合開始剤は、必ずしも添加する必要はないが、紫外線の照射による重合を行う場合には、重合効率を高める上で光重合開始剤を添加することが好ましい。ベンゾフェノンなどの水素引抜き型の光重合開始剤を使用すると、α,β−不飽和カルボン酸単量体の一部が、基材として使用するプラスチックフィルムにグラフトして、該基材とイオン架橋ポリカルボン酸重合体フィルム層との間の層間密着性を高めることができる。光重合開始剤とともに、その他の増感剤、光安定剤などの汎用の添加剤を添加してもよい。
【0061】
湿潤状態の塗膜を加熱して、熱重合を行う場合には、熱解離して開始剤としての機能を発揮する熱重合開始剤を使用することが好ましい。熱重合開始剤としては、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩;2,2′−アゾビス〔2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド〕、2,2′−アゾビス[2−メチル−N−〔1,1−ビス(ヒドロキシメチル)エチル〕プロピオンアミド]、2,2′−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、4,4′−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、2,2′−アゾビス(メチルイソブチレート)、1,2′−アゾビス(N,N′−ジメチレンイソブチルアミジン)ジヒドロクロリド、2,2′−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)−プロピオンアミド、1,1′−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリルなどのアゾ系重合開始剤;tert−アルキルヒドロパーオキサイドなどのヒドロパーオキサイド;ジ−tert−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、tert−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、tert−ブチルパーオキシピバレート、ジ−イソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−tert−ブチルパーオキシイソフタレート、1,1′,3,3′−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、tert−ブチルパーオキシブチレートなどの過酸化物;が含まれる。熱重合開始剤を使用する場合には、水系重合性単量体組成物中に、通常0.001〜10重量%、好ましくは0.01〜5重量%の割合で添加する。
【0062】
本発明の水系重合性単量体組成物には、α,β−不飽和カルボン酸単量体の重合と多価金属イオンによるイオン架橋反応を阻害しない範囲内において、必要に応じて、他の重合体(例えば、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、キトサンなど)、グリセリン、増粘剤、無機層状化合物、分散剤、界面活性剤、柔軟剤、熱安定剤、酸化防止剤、酸素吸収剤、着色剤、アンチブロッキング剤、多官能モノマーなどを含有させることができる。
【0063】
多官能モノマーとしては、例えば、ジエチレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ポリエチレングリコール400ジアクリレート、1,3−ブタンジオールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ヒドロキシピバリン酸エステルネオペンチルジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、ジシクロペンテニルアクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテルジアクリレート、ジエチレングリコールジグリシジルエーテルジアクリレート、ジプロピレングリコールジグリシジルエーテルジアクリレートなどのジアクリレート類;エチレングリコールジメタクリレート、ジプロピレングリコールジメタクリレートなどのジメタクリレート類;トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレートなどのトリアクリレート類;トリメチロールエタントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレートなどのトリメタクリレート類;ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ポリメチロールプロパンポリアクリレートなどの四官能以上のアクリレート類;などの多官能(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0064】
本発明の水系重合性単量体組成物は、多官能モノマーを添加しなくても、耐水性、耐熱水性、耐水蒸気性が良好なイオン架橋ポリカルボン酸重合体フィルムを得ることができるが、架橋度を高める必要がある場合には、多官能モノマーを少量の範囲で添加することができる。多官能モノマーは、α,β−不飽和カルボン酸単量体100重量部に対して、好ましくは30重量部以下、より好ましくは20重量部以下、特に好ましくは10重量部以下の割合で用いられる。多官能モノマーを使用する場合、その使用量の下限値は、α,β−不飽和カルボン酸単量体100重量部に対して、好ましくは0.001重量部である。
【0065】
イオン架橋ポリカルボン酸重合体フィルムの架橋度を調整するために、2−エチルヘキシルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレートなどの単官能のアクリル酸エステル類やメタクリル酸エステル類を少量の割合で添加することができる。水系重合性単量体組成物の粘度を調整するために、少量の光重合性プレポリマーを添加してもよい。
【0066】
6.ガスバリア性フィルムの製造方法:
本発明では、少なくとも下記工程1乃至3:
(1)前記水系重合性単量体組成物を、該水系重合性単量体組成物を構成する各原料成分の混合により調製する工程1;
(2)基材1上に該水系重合性単量体組成物を塗布して、湿潤状態の塗膜を形成する工程2;並びに
(3)該湿潤状態の塗膜に電離放射線の照射または加熱もしくはこれら両方による重合処理を行って、α,β−不飽和カルボン酸単量体の重合体を多価金属イオンでイオン架橋した構造を有するイオン架橋ポリカルボン酸重合体フィルムを形成する工程3;
により、ガスバリア性フィルムを製造する。
【0067】
水系重合性単量体組成物を構成する各原料成分としては、前述のα,β−不飽和カルボン酸単量体、α,β−不飽和カルボン酸単量体の多価金属塩、多価金属化合物、無機酸、有機酸、無機酸または有機酸の多価金属塩、水などが挙げられる。
【0068】
本発明の製造方法によれば、「基材1/イオン架橋ポリカルボン酸重合体フィルム」の層構成を持つ多層のガスバリア性フィルムが得られる。この多層ガスバリア性フィルムから基材1を剥離する工程を配置すると、イオン架橋ポリカルボン酸重合体フィルムからなる単層のガスバリア性フィルムを得ることができる。
【0069】
前記各工程もしくは各工程間または工程3の後に、必要に応じて、様々な付加的な工程を配置してもよい。前述の「基材1とイオン架橋ポリカルボン酸重合体フィルムとの剥離工程」も付加工程の1つである。
【0070】
好ましい付加的な工程としては、前記工程2において、基材1上に該水系重合性単量体組成物を塗布して湿潤状態の塗膜を形成する工程2Aの後、該湿潤状態の塗膜の表面を別の基材2で被覆する工程2Bを配置する工程を挙げることができる。次に、前記工程3において、該基材1と該基材2との間で湿潤状態が保持された塗膜に、電離放射線の照射または加熱もしくはこれら両方による重合処理を行う。この付加的工程により、「基材1/イオン架橋ポリカルボン酸重合体フィルム/基材2」の層構成を持つ多層フィルムを得ることができる。
【0071】
「基材1/イオン架橋ポリカルボン酸重合体フィルム/基材2」の層構成を含有する多層フィルムから、基材1及び基材2の少なくとも一方を剥離する付加的工程を配置してもよい。この付加的工程により、イオン架橋ポリカルボン酸重合体フィルムからなる単層のガスバリア性フィルム、または「基材1/イオン架橋ポリカルボン酸重合体フィルム」もしくは「イオン架橋ポリカルボン酸重合体フィルム/基材2」の層構成を持つ多層のガスバリア性フィルムを得ることができる。
【0072】
付加的な工程として、「基材1/イオン架橋ポリカルボン酸重合体フィルム」または「基材1/イオン架橋ポリカルボン酸重合体フィルム/基材2」の層構成を含有する多層のガスバリア性フィルムの少なくとも一方の面上に、積層法や塗工法などにより、他の層を形成する工程を挙げることができる。この付加的工程によって、3層または4層以上の多層のガスバリア性フィルムを得ることができる。
【0073】
付加的な工程として、イオン架橋ポリカルボン酸重合体フィルムからなる単層フィルム、または「基材1/イオン架橋ポリカルボン酸重合体フィルム」もしくは「基材1/イオン架橋ポリカルボン酸重合体フィルム/基材2」の層構成を持つ多層のガスバリア性フィルムの少なくとも一方の面と、任意の成形体とを貼り合わせる工程を挙げることができる。これにより、ガスバリア性に優れた成形体を得ることができる。
【0074】
基材(基材1及び2)としては、特に限定されないが、紙及びプラスチックフィルム(シートを含む)が好ましく用いられる。基材は、一般に、フィルムまたはシートの形態で使用されるが、所望によりプラスチック容器などの立体形状を有する成形体であってもよい。この他の基材として、ガラス板、金属板、アルミニウム箔などを挙げることができる。水系重合性単量体組成物を塗布するのに使用する基材は、塗膜の支持体として機能する。
【0075】
基材のプラスチックフィルムを構成するプラスチックの種類としては、特に制限されないが、例えば、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ4−メチルペンテン、環状ポリオレフィンなどのオレフィン重合体類及びその酸変性物;ポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物、ポリビニルアルコールなどの酢酸ビニル重合体類及びその変性物;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル類;ポリε−カプロラクトン、ポリヒドロキシブチレート、ポリヒドロキシバリレートなどの脂肪族ポリエステル類;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12、ナイロン6/66共重合体、ナイロン6/12共重合体、メタキシレンアジパミド・ナイロン6共重合体などのポリアミド類;ポリエチレングリコール、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンオキシドなどのポリエーテル類;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデンなどのハロゲン化重合体類;ポリメチルアクリレート、ポリエチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、ポリアクリロニトリルなどのアクリル重合体類;ポリイミド樹脂;その他、塗料用に用いるアルキド樹脂、メラミン樹脂、アクリル樹脂、硝化綿、ウレタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、アミノ樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂などの樹脂;セルロース、澱粉、プルラン、キチン、キトサン、グルコマンナン、アガロース、ゼラチンなどの天然高分子化合物;などを挙げることができる。
【0076】
基材としては、これらプラスチック類からなる未延伸フィルムまたは延伸フィルムが好ましい。プラスチックフィルムには、必要に応じて、エッチング、コロナ放電などの前処理を施したり、接着剤を予め塗布したりすることができる。基材として、プラスチックフィルムの表面に、例えば、ケイ素酸化物、酸化アルミニウム、アルミニウム、窒化ケイ素などの無機物;金属化合物などの薄膜を、蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などによって形成した多層基材を用いることができる。
【0077】
基材として使用するプラスチックフィルムの表面には、印刷が施されていてもよい。プラスチックフィルムは、複数のプラスチックフィルムからなる多層フィルムや紙などの他の材質のものとの積層フィルムであってもよい。さらに、プラスチックフィルムは、酸素吸収能を有する酸素吸収性樹脂組成物フィルム、または該フィルムと他のプラスチックフィルムとの酸素吸収性多層フィルムであってもよい。
【0078】
水系重合性単量体組成物を基材上に塗布する方法としては、該基材の片面または両面に、スプレー法、ディッピング法、コーターを用いた塗布法、印刷機による印刷法など任意の塗工法を利用することができる。コーターや印刷機を用いて塗布する場合には、例えば、ダイレクトグラビア方式、リバースグラビア方式、キスリバースグラビア方式、オフセットグラビア方式などのグラビアコーター;リバースロールコーター、マイクログラビアコーター、エアナイフコーター、ディップコーター、バーコーター、コンマコーター、ダイコーターなどの各種方式を採用することができる。
【0079】
本発明では、基材上に水系重合性単量体組成物を塗布して塗膜を形成した後、該塗膜の水分を実質的に乾燥させることなく、湿潤状態を保持した塗膜に、電離放射線を照射したり、加熱したり、またはこれら両方の処理を行うことにより、α,β−不飽和カルボン酸単量体を重合させる。多官能モノマーなどの他の重合性単量体を添加した場合には、α,β−不飽和カルボン酸単量体と共に、これらの重合性単量体も重合する。
【0080】
このように、水系重合性単量体組成物から形成された湿潤状態の塗膜への電離放射線の照射及び/または加熱処理により、α,β−不飽和カルボン酸単量体が重合して、ポリカルボン酸重合体が生成する。同時に、生成したポリカルボン酸重合体は、多価金属イオンによってイオン架橋される。イオン架橋ポリカルボン酸重合体は、硬化塗膜を形成する。硬化塗膜は、多価金属イオンでイオン架橋されたポリカルボン酸重合体フィルムであるため、水分を含んだ状態でもフィルム形状を保持し、かつ、良好な酸素ガスバリア性を発現する。使用した水系重合性単量体組成物の固形分濃度が低い場合には、硬化塗膜中の水分を除去することにより、酸素ガスバリア性をさらに高めることができる。硬化塗膜中に水分が残存する場合は、該硬化塗膜を熱処理して水分を揮散させたり、透湿性の基材を透過させて水分を揮散させたりすることにより、水分を除去することができる。
【0081】
湿潤状態の塗膜の厚みは、生成するイオン架橋ポリカルボン酸重合体フィルムの厚みが通常0.001μm〜1mm、好ましくは0.01〜100μm、より好ましくは0.1〜10μmの範囲となるように調整することが好ましい。水系重合性単量体組成物の塗布量〔wet(g/m)〕は、水の含有量または固形分濃度にもよるが、好ましくは0.01〜1000g/m、好ましくは0.1〜100g/m、より好ましくは1〜80g/mである。
【0082】
電離放射線としては、紫外線、電子線(ベータ線)、ガンマ線、アルファ線が好ましく、紫外線及び電子線がより好ましい。電離放射線を照射するには、それぞれの線源を発生する装置を使用する。電子線を照射するには、通常20〜2000kVの電子線加速器から取り出される加速電子線を利用する。加速電子線の照射線量は、通常、1〜300kGy、好ましくは5〜200kGyである。電子線は、加速電圧によって被照射体に対する浸透する深さが変化する。加速電圧が高いほど、電子線は深く浸透する。電子線を用いると、プラスチックフィルムなどの基材に対するα,β−不飽和カルボン酸単量体のグラフト反応により、基材と硬化塗膜との間の密着性を改善することができる。
【0083】
紫外線を照射するには、殺菌灯、紫外用蛍光灯、カーボンアーク、キセノンランプ、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライドランプ、無電極ランプなどのUV照射装置を用いて、200〜400nmの波長領域を含む光を照射する。UV照射装置のランプ出力は、発光長1cm当りの出力ワット数(W/cm)で表示する。単位長当りのワット数が大きくなれば、発生する紫外強度が大きくなる。ランプ出力は、通常30〜300W/cmの範囲から選択される。発光長は、通常40〜2500mmの範囲から選ばれる。
【0084】
湿潤状態の塗膜の加熱により重合処理を行うには、湿潤状態の塗膜を通常50〜250℃、好ましくは60〜220℃、より好ましくは70〜200℃の温度に加熱する。加熱手段としては、加熱ヒータを用いて塗膜を加熱する方法、塗膜を温度制御した加熱炉を通過させる方法などが挙げられる。加熱時間は、通常1分間〜24時間、好ましくは3分間〜3時間、より好ましくは5〜30分間である。加熱温度が低いほど、加熱時間を長くし、加熱温度が高いほど、加熱時間を短くすることが、硬化塗膜のガスバリア性の観点から好ましい。
【0085】
硬化塗膜を形成するに際し、酸素による重合禁止効果を除去する必要がある場合には、電離放射線の照射及び/または加熱処理を、窒素ガス、炭酸ガス、希ガスなどの不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。塗膜の湿潤状態を保持し、同時に酸素による重合禁止効果を除去するには、基材(支持体)上に形成した湿潤状態の塗膜の表面を他の基材(被覆材)で被覆することが好ましい。被覆材として用いる他の基材としては、光線透過性プラスチックフィルム、ガラス板、紙、アルミニウム箔などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0086】
加熱により硬化塗膜を形成する場合には、支持体として用いる基材(以下、「基材1」という)及び被覆材として用いる基材(以下、「基材2」という)は、必ずしも電離放射線透過性基材とする必要はない。支持体として使用する基材1が電離放射線透過性基材であって、紫外線などの電離放射線の照射を塗膜の裏面(該基材1の裏面)から行う場合には、被覆材として使用する基材2として、必ずしも電離放射線透過性基材を用いる必要はない。電離放射線として紫外線を用いる場合、電離放射線透過性基材としては、例えば、光線透過性のプラスチックフィルム、ガラス板などの光線透過性基材を用いることが好ましい。
【0087】
したがって、前記工程2においては、基材1(支持体)上に形成された湿潤状態の塗膜表面を別の基材2(被覆材)で被覆することにより、塗膜の湿潤状態を保持しながら、該湿潤状態の塗膜に、電離放射線の照射または加熱もしくはこれら両方による処理を行うことが好ましい。基材1と基材2の材質は、同種または異種であってもよい。紫外線などの電離放射線の照射を行う場合には、基材1及び基材2の少なくとも一方を電離放射線透過性基材(例えば、光線透過性のプラスチックフィルム)とすることが好ましく、塗膜表面を被覆する基材2として電離放射線透過性基材を使用することがより好ましい。
【0088】
該光線透過性プラスチックフィルムとしては、例えば、ポリオレフィンフィルム、ポリエステルフィルム、ポリアミドフィルムなど、支持体として用いることができる前述のプラスチックフィルムの中から適宜選択することができる。光線透過性とは、紫外線などの電離放射線を透過できる性質を意味しており、光線透過率の程度は問わない。目視で透明または半透明なプラスチックフィルムであれば、一般に、光線透過性プラスチックフィルムとして使用することができる。電離放射線として電子線を用いる場合には、加速電子線が透過する電離放射線透過性基材を用いればよく、基材の種類は、光線透過性プラスチックフィルムなどの透明または半透明の基材に限定されない。
【0089】
本発明の製造方法では、プラスチックフィルムや紙などの基材(支持体)上に水系重合性単量体組成物の塗膜を形成し、直ちに該塗膜の表面を他の基材(被覆材)で被覆して、塗膜の湿潤状態を保持した状態で、電離放射線照射装置及び/または加熱装置に搬送することにより、連続的な処理を行うことが好ましい。搬送速度は、電離放射線の照射及び/または加熱処理によって、生成するイオン架橋ポリカルボン酸重合体フィルムが十分な酸素ガスバリア性を発揮できる処理効率を考慮して適宜設定することができる。
【0090】
本発明の製造方法では、紫外線などの電離放射線の照射により硬化塗膜を形成した後、熱処理(追加の加熱処理)を行うことができる。加熱により硬化塗膜を形成する場合にも、追加の熱処理を行ってもよい。硬化塗膜は、多価金属イオンでイオン架橋されたポリカルボン酸重合体フィルムであるため、水分を含んだ状態でもフィルム形状を保持しかつ良好な酸素ガスバリア性を発揮するが、含水量が多すぎる場合には、硬化塗膜中の水分を除去することにより、酸素ガスバリア性をさらに高めることができる。硬化塗膜中の水分は、基材1(支持体)及び/または基材2(被覆材)を透過して揮散するが、熱処理を行うことによって、水分の除去効率と除去速度を高めることができる。熱処理は、基材1及び/または基材2を剥離した後に行うこともできる。
【0091】
追加の熱処理は、必ずしも行う必要はないが、行う場合には、硬化塗膜を乾熱雰囲気下で通常40〜300℃、好ましくは50〜250℃、より好ましくは60〜200℃の温度で熱処理することにより行う。処理時間は、加熱温度やその他の処理条件にもよるが、通常0.1秒間から72時間、好ましくは1秒間から60分間、特に好ましくは5秒間から30分間である。乾熱雰囲気下での熱処理による効果を十分に発揮させるには、熱処理時間の下限値を1分間または2分間とすることが好ましい。
【0092】
この追加の熱処理は、「基材1/湿潤状態の塗膜/基材2」の層構成を持つ多層構造物を加熱炉内に搬送することにより乾熱雰囲気で行うことが好ましいが、該多層構造物を加熱ロールと接触させることにより行うこともできる。基材1及び2のいずれか一方がガラス板やアルミニウム箔などの場合、該基材を剥離してから熱処理を行うことができる。
【0093】
連続的な熱処理ではなく、バッチ式での熱処理を行う場合には、「基材1/湿潤状態の塗膜/基材2」の層構成を持つ多層構造物をロール状に巻回または巻回することなく、比較的低温(例えば、30〜100℃の温度)に保持した加熱炉内に放置することにより行うことができる。放置時間は、特に限定されず、熱処理温度によって適宜選定することができるが、生産効率の観点から、通常30分間から24時間の範囲が好ましい。
【0094】
上記の追加の熱処理を行うことなく、前記多層構造物を常温常湿下に長時間放置することによっても水分の除去を行うことができる。単層または多層のガスバリア性フィルムを用いて形成した容器(バッグ、トレー、チューブなど)を大気中に放置することによっても、水分を除去することができる。
【0095】
本発明のイオン架橋ポリカルボン酸重合体フィルムは、酸素ガスバリア性に優れている。すなわち、本発明のイオン架橋ポリカルボン酸重合体フィルムの温度30℃及び相対湿度80%の高湿条件下で測定した酸素透過度は、通常50×10−4cm(STP)/(m・s・MPa)以下、好ましくは30×10−4cm(STP)/(m・s・MPa)以下、より好ましくは25×10−4cm(STP)/(m・s・MPa)以下である。多くの場合、この酸素透過度を20×10−4cm(STP)/(m・s・MPa)以下にまで低くすることができる。本発明のイオン架橋ポリカルボン酸重合体フィルムの酸素透過度の下限値は、通常1×10−6cm(STP)/(m・s・MPa)、多くの場合1×10−5cm(STP)/(m・s・MPa)である。
【0096】
本発明のイオン架橋ポリカルボン酸フィルムのJIS K7105に従って測定したヘーズ値は、前述したとおり、好ましくは50.0%以下、より好ましくは40.0%以下、特に好ましくは35.0%以下である。高度の透明性が要求される用途には、イオン架橋ポリカルボン酸重合体フィルムのヘーズ値を10.0%以下にまで低くすることができる。
【0097】
本発明のイオン架橋ポリカルボン酸重合体フィルム(硬化塗膜)は、基材1または基材1及び2を剥離して、単層のガスバリア性フィルムとして使用することができる。本発明のイオン架橋ポリカルボン酸重合体フィルムは、基材1もしくは基材1及び/または基材2と一体化した多層のガスバリア性フィルムとして使用することができる。本発明のイオン架橋ポリカルボン酸重合体フィルムからなる単層フィルムまたは該イオン架橋ポリカルボン酸重合体フィルム層を持つ多層のガスバリア性フィルムを、他の層もしくは成形体と一体化して用いることができる。他の層または成形体との一体化には、積層法や塗工法などを含む各種方法を採用することができる。
【0098】
本発明の「基材1/イオン架橋ポリカルボン酸重合体フィルム」の層構成を持つ多層のガスバリア性フィルムは、前記の工程1乃至3を含む製造方法により得ることができる。本発明の「基材1/イオン架橋ポリカルボン酸重合体フィルム/基材2」の層構成を持つ多層のガスバリア性フィルムは、工程2において、基材1上に湿潤状態の塗膜を形成した後、該塗膜の表面を別の基材2で被覆する付加的工程を配置することにより得ることができる。以下、「基材1/イオン架橋ポリカルボン酸重合体フィルム/基材2」の層構成を持つ多層のガスバリア性フィルムの製造方法について、さらに詳細に説明する。
【0099】
すなわち、本発明の「基材1/イオン架橋ポリカルボン酸重合体フィルム/基材2」の層構成を持つ多層ガスバリア性フィルムの製造方法は、少なくとも下記工程1乃至3:
(1)前記水系重合性単量体組成物を、該水系重合性単量体組成物を構成する各原料成分の混合により調製する工程1;
(2)基材1上に該水系重合性単量体組成物を塗布して、湿潤状態の塗膜を形成する工程2Aの後、該湿潤状態の塗膜の表面を別の基材2で被覆する工程2B;並びに
(3)該基材1と該基材2との間で湿潤状態が保持された塗膜に電離放射線の照射または加熱もしくはこれら両方による重合処理を行って、α,β−不飽和カルボン酸単量体の重合体を多価金属イオンでイオン架橋した構造を有するイオン架橋ポリカルボン酸重合体フィルムを形成する工程3;
により製造することができる。
【0100】
基材1及び2としては、紙やプラスチックフィルムを用いることができる。紙またはプラスチックフィルムは、単層でも多層でもよく、紙とプラスチックフィルムとの複合体であってもよい。プラスチックフィルムには、必要に応じて、エッチング、コロナ放電などの前処理を施したり、接着剤を予め塗布したりすることができる。基材1及び2は、無機物や金属の薄膜が形成されたプラスチックフィルムであってもよい。本発明の多層のガスバリア性フィルムには、必要に応じて、基材1及び/または基材2の表面に他のプラスチックフィルムや紙、金属箔などをラミネーション法やコーティング法により積層することができる。本発明の多層のガスバリア性フィルムには、蒸着法によりケイ素酸化物などの無機物の蒸着膜を形成することができる。
【0101】
ガスバリア性フィルムを多層化することにより、イオン架橋ポリカルボン酸重合体フィルムを保護することに加えて、例えば、耐熱性、耐屈曲性、耐摩耗性、遮光性、ヒートシール性、耐油性など様々な機能を具備させることができる。このような機能を備えた多層のガスバリア性フィルムは、ガスバリア性の包装材料として好適である。多層のガスバリア性フィルムを包装材料以外の用途に適用する場合にも、それぞれの用途に適した多層構成とすることができる。例えば、基材1または基材2をポリオレフィンフィルムとすることにより、ヒートシール性を有する多層のガスバリア性フィルムを得ることができる。基材1または基材2をポリエステルフィルムやポリアミドフィルムとすることにより、耐熱性、耐摩耗性などに優れた多層のガスバリア性フィルムを得ることができる。基材1または基材2をアルミニウム蒸着フィルムやアルミニウム箔積層フィルムとすることにより、遮光性を賦与したり、ガスバリア性をさらに向上させたりすることができる。基材1及び/または基材2の表面には、印刷が施されていてもよい。さらに、基材1及び/または基材2を酸素吸収性フィルムとすることにより、酸素ガスバリア性をさらに向上させることができる。
【0102】
本発明の製造方法では、α,β−不飽和カルボン酸単量体を含有する水系重合性単量体組成物を用いて形成された湿潤状態の塗膜に、電離放射線の照射や加熱による重合処理を施すことにより、α,β−不飽和カルボン酸単量体を重合して硬化塗膜を形成するため、生成するイオン架橋ポリカルボン酸重合体フィルムと基材1及び基材2との密着性に優れた多層フィルムを得ることができる。前記したとおり、光重合開始剤として、水素引抜き型のものを使用すると、基材との接着性をさらに改善することができる。電離放射線として電子線を用いると、α,β−不飽和カルボン酸単量体の基材1及び/または基材2へのグラフト反応により、硬化塗膜(イオン架橋ポリカルボン酸重合体フィルム)との間の密着性を向上させることができる。
【0103】
本発明の「基材1/イオン架橋ポリカルボン酸重合体フィルム/基材2」の層構成を有する多層フィルムにおいて、基材1及び基材2のいずれか一方または両方がプラスチックフィルムであることが好ましい。各層の厚みは、使用目的に合わせて適宜定めることができる。イオン架橋ポリカルボン酸重合体フィルムの厚み(乾燥厚み)は、ガスバリア性の観点から、通常0.001μm〜1mm、好ましくは0.01〜100μm、より好ましくは0.1〜10μmの範囲となるように調整することが好ましい。
【0104】
本発明の製造方法において、基材1及び基材2の少なくとも一方をプラスチックフィルムとし、工程3において、基材1及び/または基材2を通して、該湿潤状態の塗膜に電離放射線の照射処理を行う方法を採用することが好ましい。プラスチックフィルムとしては、通常の光線透過性の透明または半透明のプラスチックフィルムを用いることができる。特に、工程2において、基材1上に形成された湿潤状態の塗膜表面を光線透過性プラスチックフィルム基材2で被覆し、そして、工程3において、該プラスチックフィルム基材2を通して、該湿潤状態の塗膜に紫外線または電子線の照射処理を行う方法を採用することが好ましい。基材1及び基材2は、同種の基材であっても、あるいは異種の基材であってもよい。工程3の後に、所望により、硬化塗膜を熱処理する工程4をさらに配置することができる。熱処理条件は、前述と同じである。
【0105】
7.用途
本発明の単層及び多層のガスバリア性フィルムは、ガスバリア性包装材料及び加熱殺菌用包装材料として利用することができる。本発明のガスバリア性フィルムは、酸素によって変質を受け易い食品、飲料、薬品、医薬品、電子部品、精密金属部品などの包装材料として特に好適である。本発明のガスバリア性フィルムは、真空断熱材料などとして利用することもできる。
【0106】
本発明のガスバリア性フィルムを用いて形成する包装体の具体的な形状としては、例えば、平パウチ、スタンディングパウチ、ノズル付きパウチ、ピロー袋、ガゼット袋、砲弾型包装袋などが挙げられる。多層ガスバリア性フィルムの層構成(基材の種類や付加的な層の種類など)を選択することにより、包装体に、易開封性、易引裂性、収縮性、電子レンジ適性、紫外線遮蔽性、酸素吸収性、意匠性などを付与することができる。
【0107】
本発明のガスバリア性フィルムを用いて形成する包装容器の具体的な形状としては、例えば、バッグ、ボトル、トレー、カップ、チューブなどが挙げられる。本発明のガスバリア性フィルムは、包装容器の蓋材、口部シール材などの用途にも用いることができる。これら包装容器や蓋材などについても、多層ガスバリア性フィルムの層構成を選択することにより、易開封性、易引裂性、収縮性、電子レンジ適性、紫外線遮蔽性、酸素吸収性、意匠性などを付与することができる。包装袋や包装容器への成形加工法としては、熱融着法など当該技術分野で採用されている各種方法を採用することができる。
【0108】
8.本発明の主要な構成
本発明の主要な構成をまとめると、以下の通りである。
【0109】
1. (a)α,β−不飽和カルボン酸単量体、(b)該α,β−不飽和カルボン酸単量体のカルボキシル基に対する化学当量が0.20〜1.50に相当する量の多価金属イオン、(c)該α,β−不飽和カルボン酸単量体に対する重量比が0.001〜0.30となる量の無機酸及び有機酸からなる群より選ばれる少なくとも1種のその他の酸、並びに(d)組成物全量基準で20〜85重量%の水を含有する水系重合性単量体組成物。
【0110】
2. 該α,β−不飽和カルボン酸単量体が、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、けい皮酸、セネシオ酸、チグリン酸、ソルビン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、及び無水シトラコン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種のα,β−不飽和カルボン酸化合物である第1項記載の水系重合性単量体組成物。
【0111】
3. 該多価金属イオンが、2価金属イオン及び3価金属イオンからなる群より選ばれる少なくとも1種の多価金属イオンである第1項記載の水系重合性単量体組成物。
【0112】
4. 該多価金属イオンが、多価金属の酸化物、水酸化物、有機酸塩、及び無機酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の多価金属化合物に由来する多価金属イオンである第1項記載の水系重合性単量体組成物。
【0113】
5. 該多価金属化合物が、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、銅、コバルト、ニッケル、亜鉛、アルミニウム、鉄、及びジルコニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の多価金属の化合物である第4項記載の水系重合性単量体組成物。
【0114】
6. 該多価金属化合物が、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化銅、酸化ニッケル、酸化コバルト、炭酸カルシウム、乳酸カルシウム、乳酸亜鉛、ジアクリル酸亜鉛、ジアクリル酸カルシウム、ジアクリル酸マグネシウム、ジアクリル酸銅、マグネシウムメトキシドからなる群より選ばれる少なくとも1種の2価金属化合物である第5項記載の水系重合性単量体組成物。
【0115】
7. 該多価金属化合物が、酸化鉄(III)及びアクリル酸アルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の3価金属化合物である第5項記載の水系重合性単量体組成物。
【0116】
8. 該無機酸が、炭酸、塩酸、硫酸、硝酸、フッ化水素酸、臭化水素酸、シアン化水素酸、及び過酸化水素からなる群より選ばれる少なくとも1種の無機酸である第1項記載の水系重合性単量体組成物。
【0117】
9. 該有機酸が、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、イソ吉草酸、ヘプタン酸、オクタン酸、グリコール酸、乳酸、安息香酸、シュウ酸、アジピン酸、グルタル酸、りんご酸、クエン酸、オキサロ酢酸、アスパラギン酸、L−アルギニン、グルタミン酸、アスコルビン酸、及びニコチン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種の有機酸である第1項記載の水系重合性単量体組成物。
【0118】
10. 前記その他の酸が、クエン酸、酢酸、乳酸、塩酸、及び炭酸からなる群より選ばれる少なくとも1種の有機酸または無機酸である第1項記載の水系重合性単量体組成物。
【0119】
11. 前記その他の酸が、無機酸または有機酸の多価金属塩に由来する酸である第1項記載の水系重合性単量体組成物。
【0120】
12. 前記無機酸または有機酸の多価金属塩が、酢酸亜鉛、塩化亜鉛、及び炭酸カルシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の多価金属塩である第11項記載の水系重合性単量体組成物。
【0121】
13. 光重合開始剤または熱重合開始剤もしくはこれら両者をさらに含有するものである第1項記載の水系重合性単量体組成物。
【0122】
14. 第1項乃至第13項のいずれか1項に記載の水系重合性単量体組成物の塗膜を重合処理して形成された、温度30℃及び相対湿度80%の高湿度条件下で測定した酸素透過度が50×10−4cm(STP)/(m・s・MPa)以下のイオン架橋ポリカルボン酸重合体フィルムを含むガスバリア性フィルム。
【0123】
15. 該イオン架橋ポリカルボン酸重合体フィルムのJIS K7105に従って測定したヘーズ値(曇価)が、50.0%以下である第14項記載のガスバリア性フィルム。
【0124】
16. 該重合処理が、該水系重合性単量体組成物から形成された湿潤状態の塗膜に対する電離放射線の照射または加熱もしくはこれら両方による重合処理である第14項記載のガスバリア性フィルム。
【0125】
17. 該イオン架橋ポリカルボン酸重合体フィルムからなる単層フィルムである第14項記載のガスバリア性フィルム。
【0126】
18. 基材1上に該イオン架橋ポリカルボン酸重合体フィルムが形成された「基材1/イオン架橋ポリカルボン酸重合体フィルム」の層構成を有する多層のガスバリア性フィルムである第14項記載のガスバリア性フィルム。
【0127】
19. 基材1と基材2との間に該イオン架橋ポリカルボン酸重合体フィルムが形成された「基材1/イオン架橋ポリカルボン酸重合体フィルム/基材2」の層構成を有する多層のガスバリア性フィルムである第14項記載のガスバリア性フィルム。
【0128】
20. 少なくとも下記工程1乃至3:
(1)第1項乃至第13項のいずれか1項に記載の水系重合性単量体組成物を、該水系重合性単量体組成物を構成する各成分の混合により調製する工程1;
(2)基材1上に該水系重合性単量体組成物を塗布して、湿潤状態の塗膜を形成する工程2;並びに
(3)該湿潤状態の塗膜に電離放射線の照射または加熱もしくはこれら両方による重合処理を行って、α,β−不飽和カルボン酸単量体の重合体を多価金属イオンでイオン架橋した構造を有するイオン架橋ポリカルボン酸重合体フィルムを形成する工程3;
を含む、温度30℃及び相対湿度80%の高湿度条件下で測定した酸素透過度が50×10−4cm(STP)/(m・s・MPa)以下のイオン架橋ポリカルボン酸重合体フィルムを含むガスバリア性フィルムの製造方法。
【0129】
21. 前記工程2において、基材1上に該水系重合性単量体組成物を塗布して湿潤状態の塗膜を形成する工程2Aの後、該湿潤状態の塗膜の表面を別の基材2で被覆する工程2Bを配置し、次いで、前記工程3において、該基材1と該基材2との間で湿潤状態が保持された塗膜に、電離放射線の照射または加熱もしくはこれら両方による重合処理を行う第20項記載の製造方法。
【0130】
22. 前記電離放射線が、紫外線、電子線、ガンマ線またはアルファ線である第20項記載の製造方法。
【0131】
23. 前記電離放射線の照射による重合処理が、200〜400nmの波長領域を含む光を30〜300W/cmの出力で照射する紫外線の照射による重合処理である第20項記載の製造方法。
【0132】
24. 前記電離放射線の照射による重合処理が、20〜2000kVの電子線加速器から取り出される加速電子線を照射線量1〜300kGyで照射する電子線の照射による重合処理である第20項記載の製造方法。
【0133】
25. 前記加熱による重合処理が、温度50〜250℃、処理時間1〜120分間の条件下での加熱による重合処理である第20項記載の製造方法。
【0134】
26. 前記工程3において、該湿潤状態の塗膜に電離放射線の照射または加熱もしくはこれら両方による重合処理を行った後、重合処理した塗膜を熱処理する工程4をさらに配置する第20項記載の製造方法。
【0135】
27. 前記工程4において、重合処理した塗膜を、乾熱雰囲気下、温度40〜300℃、処理時間0.1秒間から72時間の条件下で熱処理する第26項記載の製造方法。
【0136】
28. 該イオン架橋ポリカルボン酸重合体フィルムのJIS K7105に従って測定したヘーズ値(曇価)が、50.0%以下である第20項記載の製造方法。
【0137】
29. 前記工程3において、該湿潤状態の塗膜上から直接もしくは基材1を通して、または湿潤状態の塗膜上から直接及び基材1を通して、電離放射線を照射する第20項記載の製造方法。
【0138】
30. 前記基材1が、電離放射線透過性基材である第20項記載の製造方法。
【0139】
31. 該電離放射線透過性基材が、プラスチックフィルムである第30項記載の製造方法。
【0140】
32. 前記工程3において、基材1及び基材2のすくなくとも一方を通して電離放射線を照射する第21項記載の製造方法。
【0141】
33. 前記の基材1及び基材2の少なくとも一方が、電離放射線透過性基材である第32項記載の製造方法。
【0142】
34. 該電離放射線透過性基材が、プラスチックフィルムである第33項記載の製造方法。
【0143】
35. 前記ガスバリア性フィルムが、「基材1/イオン架橋ポリカルボン酸重合体フィルム」の層構成を有する多層のガスバリア性フィルムである第20項記載の製造方法。
【0144】
36. 前記ガスバリア性フィルムが、「基材1/イオン架橋ポリカルボン酸重合体フィルム/基材2」の層構成を有する多層のガスバリア性フィルムである第21項記載の製造方法。
【0145】
37. 「基材1/イオン架橋ポリカルボン酸重合体フィルム」の層構成を有する多層のガスバリア性フィルムを作製した後、該基材1を剥離する工程をさらに配置して、単層のイオン架橋ポリカルボン酸重合体フィルムを得る第20項記載の製造方法。
【0146】
38. 「基材1/イオン架橋ポリカルボン酸重合体フィルム/基材2」の層構成を有する多層のガスバリア性フィルムを作製した後、該基材1及び2を剥離する工程をさらに配置して、単層のイオン架橋ポリカルボン酸重合体フィルムを得る第21項記載の製造方法。
【0147】
39. 「基材1/イオン架橋ポリカルボン酸重合体フィルム/基材2」の層構成を有する多層のガスバリア性フィルムを作製した後、該基材1または2を剥離する工程をさらに配置して、多層のイオン架橋ポリカルボン酸重合体フィルムを得る第21項記載の製造方法。
【実施例】
【0148】
以下に、実施例及び比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明する。
【0149】
1.酸素透過度:
本発明における酸素透過度は、次の測定法によって測定されたものである。
【0150】
フィルムの酸素透過度は、モダンコントロール(Modern Control)社製の酸素透過度試験器Oxtran(登録商標)2/20を用いて、温度30℃及び相対湿度80%の条件下で測定した。測定方法は、ASTM D 3985−81(JIS K 7126のB法に相当)に従って行った。測定値の単位は、cm(STP)/(m・s・MPa)である。「STP」は、酸素の体積を規定するための標準条件(0℃、1気圧)を意味する。
【0151】
多層フィルムの酸素透過度の測定は、多層フィルムの状態で行ったが、基材として使用するフィルムや紙の酸素透過度は十分に大きいため、測定値は、イオン架橋ポリカルボン酸重合体フィルムの酸素透過度と実質的に一致していると評価することができる。
【0152】
2.ヘーズ値(曇価):
ヘーズ値(曇価)は、JIS K7105に従って、積分球式光線透過率測定装置を用いて、試験片の拡散透過率及び全光線透過率を測定し、その比(%)によって表した。具体的には、単層または多層フィルムを50×50mmの大きさの試験片として切り出し、この試験片3枚についてヘーズ値測定し、その平均値を算出した。ヘーズ値は、下記式によって算出する。
【0153】
H=(T/T)×100
ここに、H:ヘーズ値(曇価)(%)
:拡散透過率(%)
:全光線透過率(%)
実施例で使用する各基材のヘーズ値は十分に低いため、多層のガスバリア性フィルムのヘーズ値は、実質的にイオン架橋ポリカルボン酸重合体フィルムのヘーズ値に等しいと評価することができる。
【0154】
3.基材の種類:
以下の実施例及び比較例において、基材として使用しているプラスチックフィルムは、下記の通りである。
【0155】
(1)PET#12:ポリエチレンテレフタレートフィルム、東レ(株)製ルミラー(登録商標)P60、厚さ12μm;
(2)ONy#15:2軸延伸6ナイロンフィルム、ユニチカ(株)製エムブレム(登録商標)ONBC、厚さ15μm、内面コロナ処理品;
(3)OPP#20:2軸延伸ポリプロピレンフィルム、東レ(株)製トレファン(登録商標)BO、厚さ20μm、片面コロナ処理品;
(4)PE#30:未延伸ポリエチレンフィルム(LLDPEフィルム)、東セロ(株)製T.U.X(登録商標)−HC、厚さ30μm;
(5)CPP#60:未延伸ポリプロピレンフィルム、昭和電工プラスチックプロダクツ(株)製ショウレックスアロマ−フィルム(登録商標)ET20、厚さ60μm、内面コロナ処理品。
【0156】
[実施例1](組成物No.1)
アクリル酸(和光純薬製)0.14g、ジアクリル酸マグネシウム(日本蒸留工業製)1.37g、及び塩化亜鉛0.31gを4.98gの蒸留水で溶解し、得られた水溶液にベンゾフェノン(和光純薬製)0.01gを添加して、水系重合性単量体組成物No.1を調製した。組成物No.1の多価金属イオンは2価のマグネシウムイオンと亜鉛イオンであり、これらの合計含有量は0.35gとなる。アクリル酸のカルボキシル基に対する多価金属イオンの化学当量は1.14となる。塩化亜鉛から遊離した塩酸の含有量は、0.17gであり、アクリル酸に対する重量比は、0.13となる。組成物No.1の固形分濃度は27重量%であり、水の含有量は73重量%となる。組成物No.1の各原料成分の組成と、水系重合性単量体組成物を構成する各成分の組成を表1及び2に示す。
【0157】
[実施例2〜8](組成物No.2〜8)
表1に示す各原料成分を用いて、実施例1と同様にして水系重合性単量体組成物No.2〜8を調製した。各水系重合性単量体組成物を構成する各成分の組成を表2に示す。使用した原料成分の種類と出所は、アクリル酸(和光純薬製)、メタクリル酸(和光純薬製)、イタコン酸(和光純薬製)、ジアクリル酸カルシウム(日本蒸留工業製)、ジアクリル酸銅(日本蒸留工業製)、ジアクリル酸亜鉛(Aldrich製)、酸化マグネシウム(和光純薬製)、酸化亜鉛(和光純薬製)、酸化鉄(III)(和光純薬製)、炭酸カルシウム(和光純薬製)、酢酸亜鉛(和光純薬製)、水酸化ナトリウム(和光純薬製)、クエン酸(和光純薬製)、酢酸(和光純薬製)、乳酸(和光純薬製)、塩酸(和光純薬製)、ベンゾフェノン(和光純薬製)、過硫酸アンモニウム(和光純薬製)である。
【0158】
[比較例1〜8](組成物No.51〜58)
表1に示す各原料成分を用い、実施例1と同様にして組成物No.51〜58を形成した。これらの組成物を構成する各成分の組成を表2に示す。使用した原料成分の種類と出所は、前記と同じである。
【0159】
【表1】

【0160】
【表2】

【0161】
[実施例9]
前記で調製した水系重合性単量体組成物No.1と同じ組成を持つ塗工液を、卓上コーター(RK Print−Coat Instruments社製K303ROOFER)を用いて、ポリエチレンテレフタレートフィルム(PET#12)上に、湿潤状態での塗工量〔wet(g/m)〕が12g/mのバーで塗工した。塗工後、速やかに2軸延伸6ナイロンフィルム(ONy#15)を塗膜表面に被せて、「基材(PET)/湿潤状態の塗膜/基材(ONy)」の層構成を持つ多層構造物を得た。次いで、基材(ONy)の上から、UV照射装置(COMPACT UV CONVEYOR CSOT−40 GS YUASA製)を用いて、ランプ出力120W/cm、搬送速度5m/min、ランプ高さ24cmの条件で紫外線(UV光)を照射した。
【0162】
照射後、多層構造物をギアオーブンで、120℃及び5分間の条件で熱処理して、マグネシウムイオンと亜鉛イオンとでイオン架橋したポリカルボン酸重合体フィルム(ガスバリア性フィルム)を中間層に有する多層フィルムを得た。該多層フィルムの酸素透過度及びヘーズ値を測定した。層構成、UV照射条件、熱処理条件、酸素透過度、及びヘーズ値を表3に示す。
【0163】
以下の実施例及び比較例では、特に断りのない限り、前記と同じ卓上コーターを用いて塗工を行い、また、紫外線を照射する場合には、前記と同じUV照射装置を用いた。
【0164】
[実施例10〜15]
水系重合性単量体組成物No.1と同じ組成の塗工液に代えて、水系重合性単量体組成物No.2〜7のそれぞれと同じ組成を持つ各塗工液を用い、表3に示す基材1及び2、UV照射条件、及び熱処理条件を採用して、多層フィルムを作製し、同様に評価した。評価結果を表3に示す。
【0165】
[比較例9〜16]
水系重合性単量体組成物No.1と同じ組成の塗工液に代えて、組成物No.51〜58のそれぞれと同じ組成を持つ各塗工液を用い、表3に示す基材1及び2、UV照射条件、及び熱処理条件を採用して、多層フィルムを作製し、同様に評価した。評価結果を表3に示す。
【0166】
【表3】

【0167】
表3の結果から明らかなように、本発明の水系重合性単量体組成物を用いて作製した多層フィルム(実施例9〜15)は、酸素透過度が十分に小さく酸素ガスバリア性に優れることに加えて、ヘーズ値も小さく透明性に優れている。
【0168】
これに対して、アクリル酸のみの組成物No.51を用いた場合(比較例9)には、高湿度雰囲気下での酸素ガスバリア性が劣悪であり、基材フィルム1及び2の酸素ガスバリア性を改善することができなかった。アクリル酸を含まない組成物No.52及び53を用いた場合(比較例10〜11)には、酸素ガスバリア性が劣悪であった。
【0169】
水系重合性単量体組成物中に酸を含有させることなく、α,β−不飽和カルボン酸単量体に対する多価金属イオンの化学当量を1.0とした組成物No.54を用いた場合(比較例12)には、紫外線照射後に白化して酸素ガスバリア性が劣悪な多層フィルムしか得ることができなかった。他方、α,β−不飽和カルボン酸単量体に対する酸の重量比が大きすぎる組成物No.55を用いた場合(比較例13)には、酸がイオン架橋ポリカルボン酸重合体フィルムを溶かしてしまい、酸素ガスバリア性が劣悪となった。
【0170】
固形分濃度が小さすぎる(水の含有量が多すぎる)組成物No.56を用いた場合(比較例14)には、満足できる膜厚のイオン架橋ポリカルボン酸重合体フィルムを得ることができず、酸素ガスバリア性も劣悪であった。他方、固形分濃度が大きすぎる(水の含有量が少なすぎる)組成物No.57を用いた場合(比較例15)には、塗膜が白化してヘーズ値が大きくなり、酸素ガスバリア性も劣悪であった。
【0171】
水系重合性単量体組成物中に酸を含有することなく、α,β−不飽和カルボン酸単量体に対する多価金属イオンの化学当量を0.85とした組成物No.58を用いた場合(比較例16)には、酸素ガスバリア性に優れるものの、ヘーズ値が大きく、透明性は劣悪であった。
【0172】
[実施例16]
前記で調製した水系重合性単量体組成物No.4と同じ組成を持つ塗工液を、卓上コーターを用いて、ポリエチレンテレフタレートフィルム(PET#12)上に、湿潤状態での塗工量〔wet(g/m)〕が12g/mのバーで塗工した。塗工後、速やかに同じポリエチレンテレフタレートフィルムを塗膜表面に被せて、「基材(PET)/湿潤状態の塗膜/基材(PET)」の層構成を持つ多層構造体を得た。次いで、基材(PET)の上から、トレー搬送コンベア方式のEB照射装置(CB250/15/180L 岩崎電気製EB装置)を用いて、加速電圧100kV、搬送速度10m/min、照射線量50kGyの条件で、電子線(EB)を照射した。
【0173】
照射後、多層構造物をギアオーブンで、180℃、15分間の条件で熱処理して、亜鉛イオンでイオン架橋したポリカルボン酸重合体フィルム(ガスバリア性フィルム)を中間層に有する多層フィルムを得た。多層フィルムの酸素透過度及びヘーズ値を測定した。層構成、EB照射条件、熱処理条件、酸素透過度、及びヘーズ値を表4に示す。以下の実施例及び比較例において、前記と同じEB照射装置を用いた。
【0174】
[実施例17〜22]
水系重合性単量体組成物No.4と同じ組成の塗工液に代えて、水系重合性単量体組成物No.4〜7のそれぞれと同じ組成を持つ各塗工液を用い、表4に示す基材1及び2、EB照射条件、及び熱処理条件を採用して、多層フィルムを作製し、同様に評価した。評価結果を表4に示す。
【0175】
[比較例17〜24]
水系重合性単量体組成物No.4と同じ組成の塗工液に代えて、組成物No.51〜58のそれぞれと同じ組成を持つ各塗工液を用い、表4に示す基材1及び2、EB照射条件、及び熱処理条件を採用して、多層フィルムを作製し、同様に評価した。評価結果を表4に示す。
【0176】
【表4】

【0177】
表4の結果から明らかなように、本発明の水系重合性単量体組成物を用いて作製した多層フィルム(実施例16〜22)は、酸素透過度が十分に小さく酸素ガスバリア性に優れることに加えて、ヘーズ値も小さく透明性に優れている。
【0178】
これに対して、比較例17〜24の多層フィルムは、酸素ガスバリア性が劣悪または不充分であり、ヘーズ値も50.0%を超える場合(比較例18〜20及び23〜24)が多かった。
【0179】
[実施例23]
前記で調製した重合性単量体組成物No.8と同じ組成を持つ塗工液を、卓上コーターを用いて、ポリエチレンテレフタレートフィルム(PET#12)上に、湿潤状態での塗工量〔wet(g/m)〕が12g/mのバーで塗工した。塗工後、速やかに2軸延伸6ナイロンフィルム(ONy#15)を塗膜表面に被せて、「基材(PET)/湿潤状態の塗膜/基材(ONy)」の層構成を持つ多層構造物を得た。次いで、多層構造物をギアオーブンで、180℃、15分間の条件で加熱して、多層フィルムを得た。多層フィルムの酸素透過度及びヘーズ値を測定した。層構成、加熱による重合処理条件、酸素透過度、及びヘーズ値を表5に示す。
【0180】
【表5】

【0181】
実施例23は、加熱による重合処理を行って、イオン架橋ポリカルボン酸重合体層を持つ多層フィルムを作製した実験例である。その結果、表5に示されているように、酸素ガスバリア性に優れる上、ヘーズ値が小さく透明性にも優れたイオン架橋ポリカルボン酸重合体フィルムを有する多層のガスバリア性フィルムを得ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0182】
本発明のガスバリア性フィルムは、酸素によって変質を受け易い食品、飲料、薬品、医薬品、電子部品、精密金属部品などの包装材料として利用することができる。本発明のガスバリア性フィルムは、例えば、平パウチ、スタンディングパウチ、ノズル付きパウチ、ピロー袋、ガゼット袋、砲弾型包装袋などの包装袋;ボトル、カップ、トレー、チューブなどの包装容器;の形状に加工して利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)α,β−不飽和カルボン酸単量体、(b)該α,β−不飽和カルボン酸単量体のカルボキシル基に対する化学当量が0.20〜1.50に相当する量の多価金属イオン、(c)該α,β−不飽和カルボン酸単量体に対する重量比が0.001〜0.30となる量の無機酸及び有機酸からなる群より選ばれる少なくとも1種のその他の酸、並びに(d)組成物全量基準で20〜85重量%の水を含有する水系重合性単量体組成物。
【請求項2】
該無機酸が、炭酸、塩酸、硫酸、硝酸、フッ化水素酸、臭化水素酸、シアン化水素酸、及び過酸化水素からなる群より選ばれる少なくとも1種の無機酸である請求項1記載の水系重合性単量体組成物。
【請求項3】
該有機酸が、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、イソ吉草酸、ヘプタン酸、オクタン酸、グリコール酸、乳酸、安息香酸、シュウ酸、アジピン酸、グルタル酸、りんご酸、クエン酸、オキサロ酢酸、アスパラギン酸、L−アルギニン、グルタミン酸、アスコルビン酸、及びニコチン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種の有機酸である請求項1記載の水系重合性単量体組成物。
【請求項4】
光重合開始剤または熱重合開始剤もしくはこれら両者をさらに含有するものである請求項1記載の水系重合性単量体組成物。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の水系重合性単量体組成物の塗膜を重合処理して形成された、温度30℃及び相対湿度80%の高湿度条件下で測定した酸素透過度が50×10−4cm(STP)/(m・s・MPa)以下のイオン架橋ポリカルボン酸重合体フィルムを含むガスバリア性フィルム。
【請求項6】
該イオン架橋ポリカルボン酸重合体フィルムのJIS K7105に従って測定したヘーズ値(曇価)が、50.0%以下である請求項5記載のガスバリア性フィルム。
【請求項7】
少なくとも下記工程1乃至3:
(1)請求項1乃至4のいずれか1項に記載の水系重合性単量体組成物を、該水系重合性単量体組成物を構成する各原料成分の混合により調製する工程1;
(2)基材1上に該水系重合性単量体組成物を塗布して、湿潤状態の塗膜を形成する工程2;並びに
(3)該湿潤状態の塗膜に電離放射線の照射または加熱もしくはこれら両方による重合処理を行って、α,β−不飽和カルボン酸単量体の重合体を多価金属イオンでイオン架橋した構造を有するイオン架橋ポリカルボン酸重合体フィルムを形成する工程3;
を含む、温度30℃及び相対湿度80%の高湿度条件下で測定した酸素透過度が50×10−4cm(STP)/(m・s・MPa)以下のイオン架橋ポリカルボン酸重合体フィルムを含むガスバリア性フィルムの製造方法。
【請求項8】
前記工程2において、基材1上に該水系重合性単量体組成物を塗布して湿潤状態の塗膜を形成する工程2Aの後、該湿潤状態の塗膜の表面を別の基材2で被覆する工程2Bを配置し、次いで、前記工程3において、該基材1と該基材2との間で湿潤状態が保持された塗膜に、電離放射線の照射または加熱もしくはこれら両方による重合処理を行う請求項7記載の製造方法。
【請求項9】
前記工程3において、該湿潤状態の塗膜に電離放射線の照射または加熱もしくはこれら両方による重合処理を行った後、重合処理した塗膜を熱処理する工程4をさらに配置する請求項7記載の製造方法。
【請求項10】
該イオン架橋ポリカルボン酸重合体フィルムのJIS K7105に従って測定したヘーズ値(曇価)が、50.0%以下である請求項7記載の製造方法。

【公開番号】特開2007−291180(P2007−291180A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−118061(P2006−118061)
【出願日】平成18年4月21日(2006.4.21)
【出願人】(000001100)株式会社クレハ (477)
【Fターム(参考)】