説明

水系金属用油剤用(共)重合体およびそれを含む水系金属用油剤

【課題】非水系油剤と同等の潤滑性(一次性能)を有し、かつ、優れた防錆性、低発泡性、油剤自体の安定性(耐腐敗性、耐分離性)を有し、環境負荷や人体に対する有害性が低く、幅広い硬度の水に対して適用することができるなど、二次性能に優れる水系金属用油剤、及び、該油剤の主成分として用いるための(共)重合体を提供する。
【解決手段】スルホン酸(塩)基を有し、かつ、芳香族ビニル系化合物に由来する構成単位及び/又は脂肪族ジエン系化合物に由来する構成単位を含む水系金属用油剤用(共)重合体。該(共)重合体を水に溶解または分散させることによって、水系金属用油剤を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水系金属用油剤用(共)重合体、特にスルホン酸(塩)基を含む(共)重合体からなる水系金属用油剤用(共)重合体、及び、該(共)重合体を主成分として含む水系金属用油剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、圧延、プレス、切削、研削等の種々の加工が、金属材料に対して行われている。そして、この加工の際、加工される金属材料や加工工具の潤滑性の向上や、過熱の防止などを目的として、通常、液状の油剤(金属用油剤)が用いられている。
この金属用油剤は、鉱物油、動植物油脂、脂肪酸エステル、α−オレフィンオリゴマー、ポリアルキレングリコール等を主成分として、極圧添加剤、防錆剤、酸化防止剤等を添加してなる、水を含まない形態の非水系油剤と、鉱物油、動植物油脂、動植物油脂の分解脂肪酸、脂肪酸エステル等を主成分として、界面活性剤、極圧添加剤、防錆剤、酸化防止剤、消泡剤、防黴剤等を添加し、水と混合してなる、エマルジョン状(水分散性)またはソリューション状(水溶性)の水系油剤とに大別される。金属用油剤としては、従来、非水系油剤が多用されてきたが、防災性、環境性、経済性などの観点から、近年、水系油剤への注目が高まっている。
水系油剤は、鉱物油を主体とし水を含まない非水系油剤と異なり、火災発生などの危険性が低く、皮膚への刺激等が低いために作業環境が良好であり、使用後に洗浄処理等をする場合の環境負荷が低いといった利点を有している。
【0003】
ところで、金属用油剤は、その使用用途によって、金属塑性加工油剤(圧延油、伸線油、引抜き油、プレス油等)、金属加工油剤(切削油、研削油等)、金属表面処理剤(防錆油等)に大別される。中でも、金属加工油剤、特に切削油、研削油の用途において、水系油剤に対する注目が高く、種々の水系金属加工油剤が提案されている。
例えば、水およびミスト防止共重合体を含有する水性金属加工油剤であって、該共重合体は、特定の式で表される疎水性モノマー(アルキル置換アクリルアミド化合物)と、特定の式で表される親水性モノマー化合物(アクリルアミドスルホン酸)とを共重合させることにより、形成されるものである水性金属加工油剤が提案されている(特許文献1)。
また、アミド結合の構造単位を有する水溶性ポリマーと、活性化水素を持つポリマーとを含むことを特徴とする水性切削液が提案されている(特許文献2)。
また、特定の高分子分散剤成分(ポリスチレンスルホン酸等)を、特定の水溶性切研削組成物の全量に対して、0.1〜70質量%含有してなる水溶性切研削油剤組成物が提案されている(特許文献3)。
【特許文献1】特開2007−146175号公報
【特許文献2】特開2005−113039号公報
【特許文献3】特開2004−256771号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の水系油剤では、切削、研削などの作業において必要とされる性能をすべて具備することができないという問題があった。
すなわち、金属用油剤には、切研削作業に関わる性能(一次性能)と、環境性や防錆性などの性能(二次性能)に優れることが求められる。具体的には、一次性能としては、切研削などの加工精度、加工速度や、工具寿命(工具の耐摩耗性向上)に優れることが求められ、このような一次性能を達成するためには、油剤が高い潤滑性を有することが必要である。また、二次性能として、防錆性、低発泡性、油剤自体の安定性(耐腐敗性、耐分離性)などに優れること、悪臭や毒性が少ないこと、切研削作業後に洗浄する際に油剤の除去が容易であること、環境負荷が低いことなどが求められる。
従来の水系油剤では、非水系油剤に比して潤滑性が不十分であり、非水系油剤と同等の一次性能と、二次性能とを両立することが困難であるという問題があった。
また、水系油剤は水で希釈して(例えば、10〜100倍程度)使用されるのが一般的である。海外での使用に際しては、日本国内より高い硬度を有する水を希釈に用いる必要があるため(具体的には、水のJIS硬度は、日本で100〜200、海外で500〜1,000)、幅広い硬度の水に対して上記性能を維持することができることが要求されている。
そこで、本発明は、非水系油剤と同等の一次性能(切研削作業等において、加工精度、工具寿命などに優れること)を有し、かつ、優れた防錆性、低発泡性、油剤自体の安定性(耐腐敗性、耐分離性)を有し、環境負荷や人体に対する有害性が低く、幅広い硬度の水に対して適用することができるなど、優れた二次性能を有する水系金属用油剤、及び、該水系金属用油剤の主成分として用い得る(共)重合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、スルホン酸(塩)基を有し、かつ、特定の構成単位を含む水系金属用油剤用(共)重合体、及び、該(共)重合体を含む水系金属用油剤によれば、本発明の上記目的を達成することができることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[5]を提供するものである。
[1] スルホン酸(塩)基を有し、かつ、芳香族ビニル系化合物に由来する構成単位及び/又は脂肪族ジエン系化合物に由来する構成単位を含むことを特徴とする水系金属用油剤用(共)重合体。
[2] 上記(共)重合体は、スルホン酸(塩)基を有する単量体を(共)重合してなるものである上記[1]に記載の水系金属用油剤用(共)重合体。
[3] 上記スルホン酸(塩)基を有する単量体は、スルホン酸(塩)基を有する芳香族ビニル系化合物及び/又はスルホン酸(塩)基を有する脂肪族ジエン系化合物である上記[2]に記載の水系金属用油剤用(共)重合体。
[4] 上記(共)重合体は、芳香族ビニル系化合物及び/又は脂肪族ジエン系化合物を含む単量体を(共)重合してなる(共)重合体をスルホン化してなるものである上記[1]に記載の水系金属用油剤用(共)重合体。
[5] 上記(共)重合体は、芳香族ビニル系化合物及び/又は脂肪族ジエン系化合物を含む単量体を(共)重合してなる(共)重合体の水素添加物を、スルホン化してなるものである上記[1]に記載の水系金属用油剤用(共)重合体。
[6] 上記[1]〜[5]のいずれかに記載の(共)重合体を含むことを特徴とする水系金属用油剤。
【発明の効果】
【0007】
本発明の(共)重合体を含む水系金属用油剤によると、スルホン酸(塩)基を有する(共)重合体が自己乳化して微小粒子として該油剤中に分散することができるため、切研削などの作業において優れた潤滑性を達成することができる。
また、本発明の(共)重合体を含む水系金属用油剤によると、特定のスルホン酸(塩)基含有(共)重合体を含むため、切研削加工時に油剤において、金属由来の多価イオンを安定させて析出物の発生を抑制することができ、あるいは析出する場合であっても緻密な析出層を形成させることができるため、優れた防錆性を達成することができる。
また、本発明の(共)重合体を含む水系金属用油剤によると、上記特定の(共)重合体に起因して、低発泡性、高安定性(耐腐敗性、耐分離性)を達成することができる。また、幅広い硬度の水に対して適用可能であることから、水質差がある海外での使用においても、上記性能を安定的に発揮することができる。
さらに、本発明の(共)重合体を含む水系金属用油剤は、水系であることから、環境負荷の低減や作業環境の向上などにも貢献することができる。
本発明の(共)重合体を含む水系金属用油剤は、圧延油、伸線油、引抜き油、プレス油等の金属塑性加工油剤、切削油、研削油等の金属加工油剤、防錆油等の金属表面処理剤などとして用いることができ、特に、金属加工油剤(切削油、研削油)として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の水系金属用油剤用(共)重合体は、スルホン酸(塩)基を有し、かつ、芳香族ビニル系化合物に由来する構成単位及び/又は脂肪族ジエン系化合物に由来する構成単位を含む(共)重合体(以下、スルホン酸基含有重合体ともいう。)である。
本明細書において、「水系金属用油剤」とは、金属を加工する際に、加工性の向上(例えば、潤滑性の付与)などを目的として用いられる水系の油剤を意味する。ここで、「水系」とは、水を溶媒とすることを意味し、「水溶性」と「水分散性」を包含する。
本明細書において、「水系金属用油剤用(共)重合体」とは、水に溶解または分散させることによって水系金属用油剤を調製するための材料としての、1種の単量体からなる重合体、または、2種以上の単量体からなる共重合体を意味する。
本発明のスルホン酸基含有重合体は、スルホン酸基(−SOH)、又は、スルホン酸塩基(−SOA;ここで、Aは、Na、K、Li、NH3から選ばれる1種を示す。)を含み、かつ、芳香族ビニル系化合物に由来する構成単位及び/又は脂肪族ジエン系化合物に由来する構成単位を含む(共)重合体である。
具体的には、本発明のスルホン酸基含有重合体は、スルホン酸(塩)基を含み、芳香族ビニル系化合物に由来する構成単位と、スルホン酸(塩)基を含み、脂肪族ジエン系化合物に由来する構成単位の少なくとも一方を含む。
【0009】
このようなスルホン酸基含有重合体は、例えば、下記(1)又は(2)の方法によって得られる。
(1)スルホン酸(塩)基を有する単量体を単独重合、あるいは他の単量体と共重合する方法(この方法によって得られた(共)重合体を、「スルホン酸基含有重合体(1)」ともいう。)
(2)スルホン酸(塩)基を含まない単量体を(共)重合した後、得られた(共)重合体をスルホン化する方法(この方法によって得られた(共)重合体を、「スルホン酸基含有重合体(2)」ともいう。)
【0010】
上記(1)の方法におけるスルホン酸(塩)基を有する単量体(以下、スルホン酸基含有単量体ともいう。)としては、スルホン酸(塩)基を有し、かつ、重合性不飽和基を有する化合物が用いられる。具体的には、スチレンスルホン酸などのスルホン酸基含有芳香族ビニル系化合物;下記一般式(1)で表されるイソプレンスルホン酸(即ち、2−メチル−1,3−ブタジエン−1−スルホン酸)などのスルホン酸基含有脂肪族ジエン系化合物;ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチル−1−プロパンスルホン酸、2−ヒドロキシ−3−アリロキシプロパンスルホン酸、及びこれらの塩などが挙げられる。
【化1】

なお、塩としては、ナトリウム、カリウム、リチウムなどのアルカリ金属の塩、アンモニウム塩などが挙げられるが、入手の容易さなどの観点から、好ましくはアルカリ金属の塩(特に、ナトリウム塩)である。
これらのうち、スルホン酸基含有芳香族ビニル系化合物又はその塩、スルホン酸基含有脂肪族ジエン系化合物又はその塩が好ましく、スチレンスルホン酸又はその塩、2−メチル−1,3−ブタジエン−1−スルホン酸又はその塩などがより好ましい。
なお、上記(1)の方法において、スルホン酸基含有単量体は、1種単独あるいは2種以上を併用して用いることができる。
【0011】
上記(1)の方法に用いられる他の単量体としては、上記スルホン酸基含有単量体と共重合することができるものであればよく、特に限定されないが、例えば、分子内に1個の重合性不飽和基を有する化合物が挙げられる。具体的には、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、m−メチルスチレン、ビニルナフタレンなどの芳香族ビニル系化合物;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸−ヒドロキシエチルなどの(メタ)アクリル酸アルキルエステル;(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などのモノあるいはジカルボン酸またはジカルボン酸の無水物;(メタ)アクリロニトリルなどのビニルシアン化合物;(メタ)アクリル酸、塩化ビニル、塩化ビニリデン、ビニルメチルエチルケトン、酢酸ビニル、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸グリシジル、N−2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−ビニルピロリドン、及びN−ビニル−ε−カプロラクタムなどが挙げられる。
これら他の単量体は、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0012】
スルホン酸基含有重合体(1)は、上記スルホン酸基含有単量体を単独で、あるいは上記他の単量体と混合して、重合反応溶媒に添加し、公知のラジカル重合開始剤の存在下に、反応温度20〜200℃(好ましくは40〜150℃)で、0.1〜20時間反応させることにより、製造することができる。
上記重合反応溶媒は、反応を円滑に行うために用いるものであり、例えば、水、有機溶剤、または、水と有機溶剤(水と混合可能なもの)との混合物などが挙げられる。有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、ブタノールなどのアルコール類;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素;n−ペンタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ヘプタン、オクタンなどの脂肪族炭化水素;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンなどのエーテル類などが挙げられる。
重合反応溶媒の使用量は、全単量体の合計100質量部に対して、50〜10,000質量部であることが好ましく、70〜1,000質量部であることが更に好ましく、100〜500質量部であることが特に好ましい。上記使用量が50質量部未満であると、重合が円滑に進まないおそれがあり、10,000質量部を超えると、生産性が低下するおそれがある。
上記ラジカル重合開始剤としては、例えば、過酸化水素、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過酸化物、アゾ系開始剤などが挙げられる。
ラジカル重合開始剤の使用量は、全単量体の合計100質量部に対して、0.1〜20質量部であることが好ましく、0.2〜10質量部であることが更に好ましい。上記使用量が0.1質量部未満であると、重合が円滑に進まないおそれがあり、20質量部を超えると、得られるスルホン酸基重合体の純度(収率)が低下するおそれがある。
【0013】
得られたスルホン酸基含有重合体(1)は、ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)が、3,000〜1,000,000であることが好ましく、さらに好ましくは5,000〜500,000、特に好ましくは10,000〜400,000である。上記重量平均分子量が3,000未満であると、潤滑剤としての効果が低くなり、切研削作業時の工具の摩耗が激しく、工具寿命が短くなる。一方、上記重量平均分子量が1,000,000を超えると、非常に粘調なポリマー溶液となり配合時の取扱いが困難になるため好ましくない。
なお、上記重合体の分子量は、反応条件、特に、重合反応溶媒の量、重合開始剤の種類及びその量、反応温度などを制御することにより調整することができる。
また、スルホン酸基含有重合体(1)中、スルホン酸基含有単量体に由来する構成単位の割合は、上記重合体(1)を構成する全構成単位に対して、好ましくは2モル%以上、より好ましくは5モル%以上、さらに好ましくは10モル%以上である。上記割合が2モル%未満であると、スルホン酸基含有重合体の粒子径が、自己乳化後に大きくなる為、分散性が低下し、十分な潤滑性を有する金属用油剤が得られない。
【0014】
上記(2)の方法で用いられるスルホン酸(塩)基を含まない単量体は、芳香族ビニル系単量体及び脂肪族ビニル系単量体のうち少なくとも一方、好ましくはガラス転移温度の調整の観点から両方を含むものであり、また、適宜、他の単量体を含むことができる。
上記芳香族ビニル系単量体としては、スチレン、ビニルナフタレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、m−メチルスチレンなどが挙げられる。中でも、スチレンが好ましく用いられる。
芳香族ビニル系単量体は、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
芳香族ビニル系単量体を用いる場合、その使用量は、全単量体の合計100質量%中、好ましくは3〜98質量%、より好ましくは5〜95質量%、さらに好ましくは10〜90質量%、特に好ましくは30〜80質量%である。上記使用量が3質量%未満であると、分散性が低下することがある。一方、上記使用量が98質量%を超えると、スルホン酸基含有物質が低減する為、粒子形態をとり得ないことがある。
上記脂肪族ジエン系単量体としては、1,3−ブタジエン、1,2−ブタジエン、1,2−ペンタジエン、1,3−ペンタジエン、2,3−ペンタジエン、イソプレン、1,2−ヘキサジエン、1,3−ヘキサジエン、1,4−ヘキサジエン、1,5−ヘキサジエン、2,3−ヘキサジエン、2,4−ヘキサジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−エチル−1,3−ブタジエン、1,2−ヘプタジエン、1,3−ヘプタジエン、1,4−ヘプタジエン、1,5−ヘプタジエン、1,6−ヘプタジエン、2,3−ヘプタジエン、2,5−ヘプタジエン、3,4−ヘプタジエン、3,5−ヘプタジエン、シクロペンタジエン、ジシクロペンタジエン、エチリデンノルボルネンなどのほか、分岐した炭素数4〜7の各種脂肪族あるいは脂環族ジエン類が挙げられる。中でも、1,3−ブタジエン、イソプレンが好ましく用いられる。
脂肪族ビニル系単量体は、1種単独で、あるいは2種以上を併用して用いることができる。
脂肪族ジエン系単量体を用いる場合、その使用量は、全単量体の合計100質量%中、好ましくは5〜95質量%、より好ましくは10〜90質量%、特に好ましくは20〜80質量%である。上記使用量が5質量%未満であると、スルホン酸基含有量が低下する為、好ましくない。一方、上記使用量が95質量%を超えると、分散性が低下することがある。
【0015】
上記他の単量体としては、重合性不飽和基を1個以上(好ましくは1個)有する化合物であればよく、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸−ヒドロキシエチルなどの(メタ)アクリル酸アルキルエステル;(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などのモノあるいはジカルボン酸またはジカルボン酸の無水物;(メタ)アクリロニトリルなどのビニルシアン化合物;エチレン、プロピレンなどのα−オレフィン類;(メタ)アクリル酸、塩化ビニル、塩化ビニリデン、ビニルメチルエチルケトン、酢酸ビニル、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸グリシジル、N−2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−ビニルピロリドン、及びN−ビニル−ε−カプロラクタムなどが挙げられる。
これら他の単量体は、1種単独でまたは2種以上併用して用いることができる。
他の単量体の使用量は、全単量体の合計100質量%中、好ましくは0〜50質量%、さらに好ましくは0〜30質量%、特に好ましくは0〜10質量%である。上記使用量が50質量%を超えると、スルホン基含有重合体(2)中に導入されるスルホン酸(塩)基が少なくなり、目的とする効果が十分に得られないなどの問題が生じうる。
【0016】
スルホン酸基含有重合体(2)は、これら単量体を(共)重合して得られる(共)重合体(以下、ベースポリマーともいう。)又は該(共)重合体の水素添加物(以下、水添ベースポリマーともいう。)を、スルホン化することにより得られる。
上記ベースポリマーとしては、脂肪族ジエン系単量体の単独重合体、芳香族ビニル系単量体の単独重合体、脂肪族ジエン系単量体と芳香族ビニル系単量体との共重合体、脂肪族ジエン系単量体と他の単量体との共重合体、芳香族ビニル系単量体と他の単量体との共重合体、脂肪族ジエン系単量体と芳香族ビニル系単量体と他の単量体との共重合体が挙げられる。なお、上記例示物中、共重合体は、ランダム型でもよいし、またAB型あるいはABA型などのブロック型でもよい。
上記ベースポリマーの具体例としては、イソプレン単独重合体、ブタジエン単独重合体、スチレン単独重合体、イソプレン−スチレンランダム共重合体、イソプレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、ブタジエン−スチレンランダム共重合体、ブタジエン−スチレンブロック共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体などが挙げられる。
【0017】
上記ベースポリマーは、上記単量体を、ラジカル重合開始剤あるいはアニオン重合開始剤の存在下に、必要に応じて公知の溶剤を使用して、通常、−100〜150℃、好ましくは0〜130℃の温度において、(共)重合することにより得ることができる。
上記ラジカル重合開始剤としては、過酸化水素、ベンゾイルパーオキサイド、アゾビスイソブチロニトリルなどが挙げられる。
上記アニオン重合開始剤としては、n−ブチルリチウム、ナトリウムナフタレン、金属ナトリウムなどが挙げられる。
【0018】
上記ベースポリマーは、そのまま、あるいは、該ベースポリマー中の残存二重結合の一部又は全部を水素添加し、水添ベースポリマーとした後、後述のスルホン化に供することができる。また、上記ベースポリマーをスルホン化した後、水素添加することもできる。
水素添加の際には、公知の水添触媒が使用可能で、例えば、特開平5−222115号公報に記載されているような触媒、方法を用いることができる。
水素添加は、ベースポリマー中の脂肪族ジエン系化合物に由来する二重結合の80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上の水素添加率で水素添加されるように行われる。
得られたベースポリマーあるいは水添ベースポリマーは、ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)が、3,000〜1,000,000であることが好ましく、さらに好ましくは5,000〜500,000、特に好ましくは10,000〜400,000である。上記重量平均分子量が3,000未満であると、潤滑剤としての効果が低くなり、切研削作業時の工具の摩耗が激しく、工具寿命が短くなる。一方、上記重量平均分子量が1,000,000を超えると、スルホン化時にゲル化を起こすため好ましくない。
【0019】
スルホン酸基含有重合体(2)は、上記ベースポリマー又は水添ベースポリマーをスルホン化することにより得られる。スルホン化の方法としては、公知の方法、例えば日本化学会編集、新実験講座(14巻 III、1773頁)、あるいは、特開平2−227403号公報などに記載された方法を用いることができる。
具体的には、スルホン酸基含有重合体(2)は、ベースポリマー又は水添ベースポリマー中の二重結合部分あるいは芳香族環を、スルホン化剤と適宜溶媒とを用いてスルホン化し、さらに必要に応じて水又は塩基性化合物を作用させることにより得ることができる。
スルホン化の際には、二重結合が開環して単結合になるか、あるいは、二重結合を残したまま水素原子がスルホン酸(塩)と置換する。芳香族環の場合には、主としてパラ位がスルホン化される。
上記スルホン化剤の好適な例としては、無水硫酸、無水硫酸と電子供与性化合物との錯体のほか、硫酸、クロルスルホン酸、発煙硫酸、亜硫酸水素塩(Na塩、K塩、Li塩など)などが挙げられる。
上記電子供与性化合物としては、N,N−ジメチルホルムアミド、ジオキサン、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテルなどのエーテル類;ピリジン、ピペラジン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミンなどのアミン類;ジメチルスルフィド、ジエチルスルフィドなどのスルフィド類;アセトニトリル、エチルニトリル、プロピルニトリルなどのニトリル化合物などが挙げられる。中でも、スルホン化が安定に進行する観点から、N,N−ジメチルホルムアミド、ジオキサンが好ましい。
スルホン化剤の使用量は、ベースポリマーあるいは水添ベースポリマー中においてスルホン化の対象となる構成単位1モルに対して、通常、無水硫酸換算で0.005〜1.5モル、好ましくは0.01〜1.0モルである。なお、スルホン化の対象となる構成単位は、通常、脂肪族ジエン系単量体に由来する構成単位(以下、脂肪族ジエンユニットともいう。)と、芳香族ビニル系単量体に由来する構成単位(以下、芳香族ビニルユニットともいう。)のいずれかである。例えば、スルホン化が、芳香族ビニル系単量体の単独重合体に対して行われる場合には、芳香族ビニルユニットがスルホン化対象の構成単位となり、芳香族ビニル系単量体と脂肪族ジエン系単量体との共重合体に対して行われる場合には、通常、脂肪族ジエンユニットがスルホン化対象の構成単位となり、芳香族ビニル系単量体と脂肪族ジエン系単量体との共重合体の水素添加物に対して行われる場合には、通常、芳香族ビニルユニットがスルホン化対象の構成単位となる。
上記溶媒としては、スルホン化剤に不活性な溶媒が用いられる。具体的には、クロロホルム、ジクロロエタン、テトラクロロエタン、テトラクロロエチレン、ジクロロメタンなどのハロゲン化炭化水素;ニトロメタン、ニトロベンゼンなどのニトロ化合物;液体二酸化イオウ、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素が挙げられる。
これらの溶媒は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
スルホン化の際の反応温度は、通常、−70〜200℃、好ましくは−30〜50℃である。
【0020】
上記スルホン化剤(及び溶媒)を用いた反応では、ベースポリマーあるいは水添ベースポリマーに無水硫酸などのスルホン化剤が結合してなる中間体(例えば、ベースポリマーのスルホン酸エステルなど)が得られる場合がある。この場合、得られた中間体に水又は塩基性化合物を作用させることにより、スルホン酸(塩)基を有する(共)重合体が得られる。
上記塩基性化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどのアルカリ金属水酸化物;ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムメトキシド、ナトリウム−t−ブトキシド、カリウム−t−ブトキシドなどのアルカリ金属アルコキシド;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウムなどの炭酸塩;メチルリチウム、エチルリチウム、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、アミルリチウム、プロピルナトリウム、メチルマグネシウムクロライド、エチルマグネシウムブロマイド、プロピルマグネシウムアイオダイド、ジエチルマグネシウム、ジエチル亜鉛、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウムなどの有機金属化合物;アンモニア水、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、ピリジン、アニリン、ピペラジンなどのアミン類;ナトリウム、リチウム、カリウム、カルシウム、亜鉛などの金属化合物を挙げることができる。中でも、アルカリ金属水酸化物、アンモニア水が好ましく、特に水酸化ナトリウム、水酸化リチウムが好ましい。
これらの塩基性化合物は、1種単独で使用することも、また2種以上を併用することもできる。
塩基性化合物の使用量は、使用したスルホン化剤1モルに対して、2モル以下、好ましくは1.3モル以下である。
【0021】
上記(1)又は(2)の方法によって得られたスルホン酸基含有重合体(すなわち、上記スルホン酸基含有重合体(1)、上記スルホン酸基含有重合体(2))中、スルホン酸(塩)基の含量は、0.1〜5.5mmol/gであることが好ましく、さらに好ましくは0.2〜5mmol/gであり、特に好ましくは0.3〜5.0mmol/gである。上記含量が0.1mmol/g未満では、防錆性が劣り、一方、5.5mmol/gを超えると、皮膚への刺激が強くなり、取り扱い上好ましくない。
なお、スルホン基含有重合体の構造は、赤外線吸収スペクトルによってスルホン基の吸収より確認でき、これらの組成比は、元素分析などにより知ることができる。また、核磁気共鳴スペクトルにより、その構造を確認することができる。
【0022】
次に、本発明の水系金属用油剤について説明する。
本発明の水系金属用油剤は、上記スルホン酸基含有重合体(上記スルホン酸基含有重合体(1)又は上記スルホン酸基含有重合体(2))、水、及び必要に応じて添加される他の添加剤を含む。なお、本発明の「水系金属用油剤」は、水系媒体と、上記スルホン酸基含有重合体とを含んでいればよく、溶液状(ソリューション型)と乳濁液状(エマルジョン型)のいずれの形態も含むものである。上記スルホン酸基含有重合体は、水溶性である場合と、水分散性(非水溶性)の場合があるため、各々に適した方法によって、水系媒体中に供給して、本発明の水系金属用油剤とする。
具体的には、本発明の水系金属用油剤は、スルホン酸基含有重合体が水に溶解する場合には、そのまま水溶液として、スルホン酸基含有重合体が水に溶解しない場合には、スルホン酸基含有重合体を水中に乳化分散させることにより(以下、この乳化を「再乳化」ともいう。)得ることができる。
上記再乳化の方法としては、一般的な方法が採用でき、スルホン酸基含有重合体の有機溶剤溶液中に攪拌しながら水を添加する方法、攪拌しながらスルホン酸基含有重合体の有機溶剤溶液を水中に添加する方法、水とスルホン酸基含有重合体の有機溶剤溶液を同時に添加して攪拌する方法など、特に制限はない。
上記再乳化に使用する有機溶剤としては、例えば、トルエン、キシレンなどの芳香族系溶媒;ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族系溶剤;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン系溶剤;テトラヒドロフラン、ジオキサンなのエーテル系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶剤;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール系溶剤;などが使用される。これら溶剤は、単独で使用しても、2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0023】
なお、再乳化に際しては、界面活性剤を併用することもできる。この界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシソルビタンエステル、ポリオキシエチレンアルキルアミンエーテルなどの非イオン系界面活性剤;オレイン酸塩、ラウリン酸塩、ロジン酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩などのアニオン系界面活性剤;オクチルトリメチルアンモニウムブロマイド、ジオクチルジメチルアンモニウムクロライド、ドデシルピリジジニウムクロライドなどのカチオン系界面活性剤;などが挙げられる。これらの界面活性剤は、1種単独で使用してもよいし、あるいは2種以上を併用してもよい。
上記界面活性剤は、スルホン酸基含有重合体の有機溶剤溶液中に溶解あるいは分散させて使用してもよいし、あるいは、水中に溶解あるいは分散させて使用してもよい。界面活性剤の使用量は、スルホン酸基含有重合体100質量部に対し、通常、15質量部以下、好ましくは10質量部以下である。
また、系内のpHを調整するために、水酸化ナトリウム、水酸化リチウムなどのアルカリ化合物、塩酸、硫酸などの無機酸を添加することもできる。また、少量であれば、水以外の有機溶剤などを併用することもできる。
スルホン酸基含有重合体は、再乳化後に、通常、10〜1,000nm、好ましくは10〜500nmの粒径を有する。
また、再乳化により得られたエマルジョン(スルホン酸基含有重合体の再乳化物及び水系媒体を含むエマルジョン)は、固形分濃度が、通常、5〜65質量%、好ましくは10〜55質量%である。該固形分濃度は、使用条件、保存条件などにより、適宜定めることができる。
【0024】
本発明の金属用油剤は、上記スルホン酸基含有重合体を一種単独で、あるいは2種以上を含むことができる。2種以上を含む場合には、例えば、スルホン酸基含有重合体(1)とスルホン酸基含有重合体(2)の組み合わせや、ランダム型とABブロック型、ABブロック型とABAブロック型、ABAブロック型とABAブロック型の組み合わせなど、いずれの組み合わせでもよい。
なお、2種以上のスルホン酸基含有重合体を含む場合、まず、それぞれのスルホン酸基含有重合体を含む水系油剤とし、これら水系油剤を任意の割合で混合することにより本発明の水系金属用油剤とすることができる。
本発明の金属用油剤に配合できる他の添加剤としては、例えばパラフィン系およびナフテン系炭化水素等の鉱物油、菜種油、パ−ム油、大豆油、牛脂等の動植物油脂、前記油脂類の分解脂肪酸、カプリル酸、2−エチルヘキサン酸、イソノナン酸等の脂肪酸、前記脂肪酸メチルないし多価アルコールエステル等の脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンノニフェニルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルアルコール、スルビタンモノオレアート等の界面活性剤、塩素またはイオウ含有リン酸エステル、塩素化パラフィン、塩素化ジフェニル、塩素化高級脂肪酸、ロート油等の極圧添加剤、オレイン酸トリエタノールアミン、アジピン酸ジジエタノールアミン塩類の防錆剤、t−ブチルヒドロキシトルエン、ジフェニルアミン、フェニルナフチルアミン等の酸化防止剤、シリコーン、中鎖脂肪酸等の消泡剤、防腐剤、防黴剤等が挙げられる。
上記他の添加剤の配合割合は、本発明の水系金属用油剤の全量を100質量%として、好ましくは0.1〜70質量%、より好ましくは、1〜20質量%である。
本発明の水系金属用油剤は従来の圧延油、切削油、研削油、引抜き加工油、プレス加圧油、防錆油等と同様の方法で使用できるが、とくに切削油、研削油としての利用が好適である。
【実施例】
【0025】
以下に本発明に関して実施例を挙げて説明するが、本発明はこれら実施例により何ら制限されるものではない。
[スルホン酸基含有重合体]
下記の方法により、スルホン酸基含有重合体A〜Gを得た。各スルホン酸基含有重合体の組成、スルホン酸基含量等を表1に示す。
なお、スルホン酸基含量は、以下の手順(a)または(b)で測定した。
(a)水分散液の場合
スルホン酸基含有重合体を水分散液の形態で用いる場合、スルホン化物の再乳化物を、80℃で一晩真空乾燥し、この乾燥物を、トルエン/イソプロピルアルコ−ル(重量比=95/5)溶液に溶解し、溶解後、硫酸塩、水酸化物等の不溶物をフィルターで除去したのち、溶剤を除去してスルホン酸基含量測定サンプルを得た。サンプル中のイオウ含量を元素分析から求め、スルホン化物中のスルホン酸基の量を算出した。
ここで、スルホン化物の再乳化物は、次のようにして得た。
スルホン酸基含有重合体50gを、テトラヒドロフラン/イソプロピルアルコール(質量比:90/10)からなる溶媒450gに溶解した。フラスコに、水500g、アニオン/ノニオン系界面活性剤(三洋化成社製;製品名:サンデットEN)1gを入れ、さらに1時間攪拌した。その後、800gの水を加え、全溶剤および水の一部を共沸により除去することにより、再乳化されたエマルジョン(再乳化物)を得た。このエマルジョンの固形分濃度は、20%であった。
(b)水溶液の場合
スルホン酸基含有重合体を水溶液の形態で用いる場合、スルホン酸基含有重合体の20質量%水溶液を調製し、透析膜(半井化学薬品社製;製品名:Cellulose Diolyzer Tubing−VT351)により、低分子物を除去し、精製したサンプルを得た。このサンプルを陽イオン交換樹脂(オルガノ社製、アンバ−ライトIR−118(H))でイオン交換し、完全に酸型にした後、そのスルホン酸量を電位差滴定から求めた。
【0026】
(スルホン酸基含有重合体A)
ガラス製反応容器にジオキサン100gを入れ、無水硫酸6.0gを内温を25℃に保ちながら添加し、2時間攪拌して、無水硫酸−ジオキサン錯体を得た。
次に、スチレン−イソプレンのランダム共重合体(スチレン/イソプレン=50/50(モル比)、Mw:20,000)100gのシクロヘキサン溶液(濃度:25%)中に上記無水硫酸−ジオキサン錯体の全量を、内温を25℃に保ちながら添加し、さらに2時間攪拌を続けた。これに、水酸化ナトリウム3.6gを50gの水に溶解した水溶液およびメタノール50gを添加し、80℃で1時間攪拌した。攪拌後、減圧下で溶剤を留去してスルホン酸基含有重合体Aを得た。
(スルホン酸基含有重合体B)
スチレン−イソプレンのランダム共重合体の代わりにスチレン−ブタジエンブロック共重合体(スチレン/ブタジエン=80/20(モル比)、Mw:10,000)を用い、溶媒、スチレン化剤等の配合量を適宜変更したこと以外、実施例1と同様にして、スルホン酸基含有重合体Bを得た。
(スルホン酸基含有重合体C)
スチレン−イソプレンのランダム共重合体の代わりにスチレン単独重合体(Mw:50,000)を用い、溶媒、スチレン化剤等の配合量を適宜変更したこと以外、実施例1と同様にして、スルホン酸基含有重合体Cを得た。
(スルホン酸基含有重合体D)
スチレン−イソプレンのランダム共重合体の代わりにスチレン−ブタジエンブロック共重合体(スチレン/ブタジエン=20/80(モル比)、Mw:100,000)の水素添加物(水添率:100%)を用い、溶媒、スチレン化剤等の配合量を適宜変更したこと以外、実施例1と同様にして、スルホン酸基含有重合体Dを得た。
(スルホン酸基含有重合体E)
スチレン−イソプレンのランダム共重合体の代わりにスチレン−イソプレンランダム共重合体(スチレン/イソプレン=20/80(モル比)、Mw:100,000)の水素添加物(水添率:100%)を用い、溶媒、スチレン化剤等の配合量を適宜変更したこと以外、実施例1と同様にして、スルホン酸基含有重合体Eを得た。
【0027】
(スルホン酸基含有重合体F)
スチレンスルホン酸ナトリウム(東ソー社製 スピノマ−NaSS;純度88.9%)280gを水645gに溶解させて、スチレンスルホン酸ナトリウム溶液を得た。また過硫酸アンモニウム0.5gを水40gに溶解させて、開始剤溶液を得た。
予め窒素置換した重合容器に、水100gを仕込み、攪拌しつつ、85℃に昇温した後、スチレンスルホン酸ナトリウム溶液、開始剤溶液をそれぞれ4時間で添加して重合を行なった。添加終了後、2時間のエージングを行ない、分子量30,000のスルホン酸基含有重合体Fを得た。
(スルホン酸基含有重合体G)
1リットルのビーカーに80質量%濃度のアクリル酸水溶液206.2g、40質量%濃度のイソプレンスルホン酸ナトリウム278.3g、N−2−ヒドロキシエチルアクリルアミド32.1gを入れて混合し、混合物を得た。次に内容積1.5リットルの耐圧容器に水300g、30質量%濃度の過酸化水素水30gを仕込み、内温を90℃とした。内温が90℃となった時点で、耐圧容器に上記混合物を添加し始め、耐圧容器の内温を90〜100℃に維持しながら、4時間攪拌し、スルホン酸基含有重合体Gを得た。
得られた水溶液中のスルホン酸基含有重合体Gの分子量は15,000であり、アクリル酸成分に由来する構造単位が70モル%、イソプレンスルホン酸ナトリウム成分に由来する構造単位が20モル%であり、N−2−ヒドロキシエチルアクリルアミド成分に由来する構造単位が10モル%であった。
【0028】
【表1】

【0029】
[実施例1]
スルホン酸基含有重合体A(50g)を、テトラヒドロフラン/イソプロピルアルコール〔(質量比)=90/10〕450gに溶解した。フラスコに、水500g、アニオン/ノニオン系界面活性剤(三洋化成社製;製品名:サンデットEN)1gを入れ、内温を50℃に保ち、この中に、上記スルホン酸基含有重合体Aを含む溶液を攪拌しながら、1時間かけて滴下し、さらに1時間攪拌した。その後、800gの水を加え、全溶剤および水の一部を共沸により除去することにより、スルホン酸基含有重合体Aの再乳化物を含む水系組成物1(エマルジョン;水系金属用油剤)を得た。
得られた水系組成物1中、スルホン酸基含有重合体Aと水との割合(スルホン酸基含有重合体A/水)は、50/50(質量比)であった。また、本実施例において使用した水は、硬度100〜200である。
[実施例2]
スルホン酸基含有重合体Aの代わりに、スルホン酸基含有重合体Bを用いたこと以外は実施例1と同様にして水系組成物2を得た。
[実施例3]
50gのスルホン酸基含有重合体Cを、50gの水(硬度:100〜200)と混合することによって、水系組成物3を得た。
[実施例4]
スルホン酸基含有重合体Aの代わりに、スルホン酸基含有重合体Dを用いたこと以外は実施例1と同様にして水系組成物4を得た。
[実施例5]
スルホン酸基含有重合体Aの代わりに、スルホン酸基含有重合体Eを用いたこと以外は実施例1と同様にして水系組成物5を得た。
[実施例6]
スルホン酸基含有重合体Cの代わりに、スルホン酸基含有重合体Fを用いたこと以外は実施例3と同様にして水系組成物6を得た。
[実施例7]
スルホン酸基含有重合体Cの代わりに、スルホン酸基含有重合体Gを用いたこと以外は実施例3と同様にして水系組成物7を得た。
[実施例8]
硬度100〜200の水の代わりに、硬度500〜1,000の水を用いたこと以外は実施例1と同様にして水系組成物8を得た。
【0030】
[比較例1]
水系金属用油剤として、三和油化工業社製の「イーグルケンSE−40A」(エマルジョンタイプ、水の硬度:100〜200)を用いた。
[比較例2]
水系金属用油剤として、ユシロ化学社製の「ユシロEC321LF」(エマルジョンタイプ、水の硬度:100〜200)を用いた。
[比較例3]
水系金属用油剤として、三和油化工業社製の「イーグルケンHC−1000−II」(ソリューションタイプ、水の硬度:100〜200)を用いた。
【0031】
[評価方法]
水系組成物(水系金属用油剤)に対し、下記の方法により、各種物性(一次性能;リーマ加工、バニッシングドリル加工、外形施削加工、二次性能;外観、防錆性、腐敗性、発泡性、オイル分離性)を評価した。
一次性能の評価結果を表2、二次性能の評価結果を表3に示す。
【0032】
<一次性能>
一次性能の評価には、水系組成物(水系金属用油剤)の希釈液(希釈倍数は表中に記載)を用いた。なお、希釈に用いた水は、実施例1〜7、比較例1〜3では硬度100〜200であり、実施例8においては、硬度500〜1,000である。
(切削性1:加工材にアルミDC材を用いたリーマ加工)
水系組成物の希釈液を供給しつつアルミDC材にリーマ加工(直径:10mm、面粗度:12.5Z)を行いムシレ(欠損)の発生及び加工材表面の光沢を目視にて評価した。
ムシレ;
○:ムシレ(欠損)が発生しない
×:ムシレが発生する
光沢;
○:光沢がある
×:光沢がない
(切削性2:加工材にアルミホイールを用いたバニッシングドリル加工)
水系組成物の希釈液を供給しつつ加工材にアルミホイールを用いたバニッシングドリル加工(加工径:12〜32mm、加工深さ:20〜40mm、回転数:2000rpm)を行い、ムシレ(欠損)の発生及び加工材表面の光沢を目視にて評価した。
ムシレ;
○:ムシレ(欠損)が発生しない
×:ムシレが発生する
光沢;
○:光沢がある
×:光沢がない
(切削性3:加工材にデフシャフトを用いた外形施削加工)
水系組成物の希釈液を供給しつつ加工材にデフシャフトを用いた外形施削加工を行い、ムシレ(欠損)の発生及び加工材表面の光沢を目視にて評価した。また、加工に用いた刀具の寿命を、比較例2を基準にして評価した。
ムシレ;
○:ムシレ(欠損)が発生しない
×:ムシレが発生する
光沢;
○:光沢がある
×:光沢がない
【0033】
<二次性能>
(外観)
水系組成物(水系金属用油剤)の外観を目視にて、「透明」(水溶性)又は「乳濁」(水分散性)で評価した。
(防錆性)
鋳鉄切り粉(FC−25)を水系組成物に10分浸漬した後、濾紙を敷いたシャーレに取り出し、フタをした。室温下で8、24、48時間経過後の発錆状態を目視にて評価した。
◎:発錆なし
○:発錆点が数点 (1〜9個)
△:発錆点が十数点 (10〜20個)
×:濾紙の1/2面以上に発錆
(腐敗性)
水系組成物100mlに対し、トウモロコシ粉2g、鋳鉄切り粉5g、腐敗液1ml及び機械油5mlを混合したものを40℃雰囲気下に静止し、経日的なpH変化・細菌数によって、腐敗性を評価した。なお、腐敗の進行と共に、pHは酸性へと変化する。
また、14日経過後の腐敗臭、オイル分離を、目視にて評価した。
(発泡性)
100ml栓付シリンダーに水系組成物80mlを入れて栓をし、片手で30回激しく振り、静置直後と5分後の泡の量(ml)を測定した。
(オイル分離性)
100ml栓付シリンダーに水系組成物80ml及びバラトラNo.2(モ−ビル石油製)5mlを入れて栓をし、片手で30回激しく振り、静置経時後(1時間後、3時間後)の分離するオイル層とクリーム層の量(ml)を測定した。また、下層液部の透明度を目視にて評価した。さらに、下層液部が透明になるまでの時間を測定した。
なお、20時間経過しても、下層液部が透明にならない場合を「×」として評価した。
【0034】
【表2】

【0035】
【表3】

【0036】
表2及び表3から、本発明の水系組成物(水系金属用油剤)は、一次性能(切削作業性)、及び二次性能(防錆性、耐腐敗性、低発泡性、オイル分離性)の両方に優れることがわかる(実施例1〜7)。また、本発明の水系組成物は、高硬度の水で希釈した場合であっても上記性能を維持することができることがわかる(実施例8)。
一方、特定のスルホン酸基含有重合体を含まない水系組成物は、良好な二次性能を有するものの、切削作業において欠損が発生し、刀具の寿命も実施例に比して短く、一次性能に劣ることがわかる(比較例1〜3)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スルホン酸(塩)基を有し、かつ、芳香族ビニル系化合物に由来する構成単位及び/又は脂肪族ジエン系化合物に由来する構成単位を含むことを特徴とする水系金属用油剤用(共)重合体。
【請求項2】
上記(共)重合体は、スルホン酸(塩)基を有する単量体を(共)重合してなるものである請求項1に記載の水系金属用油剤用(共)重合体。
【請求項3】
上記スルホン酸(塩)基を有する単量体は、スルホン酸(塩)基を有する芳香族ビニル系化合物及び/又はスルホン酸(塩)基を有する脂肪族ジエン系化合物である請求項2に記載の水系金属用油剤用(共)重合体。
【請求項4】
上記(共)重合体は、芳香族ビニル系化合物及び/又は脂肪族ジエン系化合物を含む単量体を(共)重合してなる(共)重合体をスルホン化してなるものである請求項1に記載の水系金属用油剤用(共)重合体。
【請求項5】
上記(共)重合体は、芳香族ビニル系化合物及び/又は脂肪族ジエン系化合物を含む単量体を(共)重合してなる(共)重合体の水素添加物を、スルホン化してなるものである請求項1に記載の水系金属用油剤用(共)重合体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の(共)重合体を含むことを特徴とする水系金属用油剤。

【公開番号】特開2010−116430(P2010−116430A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−288551(P2008−288551)
【出願日】平成20年11月11日(2008.11.11)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】