説明

水系金属防食剤および水系金属防食方法

【課題】金属の防食性能に優れ、かつリン化合物および亜鉛化合物の使用量を低減することが可能な水系金属防食剤を提供する。
【解決手段】オルトリン酸およびその塩のうち少なくとも1つと、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸およびその塩のうち少なくとも1つと、下記式(1)に示す有機リン酸およびその塩のうち少なくとも1つと、亜鉛塩と、を含む水系金属防食剤である。


(式中、R,Rは、それぞれ独立して、H基、OH基、COOH基、または炭素数1〜4のアルキル基を示し、R,Rのうち少なくとも1つはCOOH基である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水系において金属部材等の金属の腐食を効果的に防止し得る水系の金属防食剤および水系の金属防食方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼、紙パルプ、石油石化コンビナートや一般化学などの大型工場では機器やプロセス流体の冷却に広範囲かつ大量の冷却水が使用されている。こうした冷却水系では、コスト面より、配管だけでなく熱交換器も鉄系金属で構成する場合が多い。またコンビナート等の大型工場では、その補給水は地域の工業用水等であることが多く、冷却水のスケール化を防止するために、低濃縮(1〜4倍濃縮程度)運転で操業するケースが多い。そのため、冷却水中の塩化物イオン、硫酸イオン、シリカ、有機物など各種水質成分の濃度が低く、硬度成分も10〜250mg/リットル(CaCOとして)程度であることが多いため、金属類、特に鉄系金属に対する水の腐食性が高い。
【0003】
このような水質の水系で使用される金属防食剤としては、コスト等の観点からリン化合物と亜鉛化合物との沈澱被膜型の防食方法を利用する場合が多く、水溶性ポリマ系等のスケール分散剤と併用して冷却水を処理する場合が多い。
【0004】
亜鉛化合物とリン化合物を含む防食剤としては、例えば特許文献1には、亜鉛化合物とリン化合物、および、少なくとも(メタ)アクリル酸および/またはその塩の単量体単位、(メタ)アクリルアミド−アルキル−および/またはアリール−スルホン酸および/またはその塩の単量体単位および置換(メタ)アクリルアミドの単量体単位からなる水溶性共重合体を含有する防食剤が記載されている。
【0005】
リン化合物を含む防食剤としては、例えば特許文献2には、一般式Y−(CHR−CH−P(=O)(OX)−(CH−CHR)−Yで示されるホスフィン酸誘導体(式中、Rは−COOX’または−CONH−C(CHCHSOX’であり、同一分子中にこれら2種の基が混在していてもよい。またYは水素、−SOX’’または−PHOOX’’から選ばれ、X、X’、X’’は水素またはアルカリ金属原子である。なおmおよびnはそれぞれ0または正の整数であり、m+nは1〜100の整数である。)と、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸とを有効成分として含有する水系における鉄系金属の腐食防止剤が記載されている。
【0006】
また、特許文献3には、モノ、ビス、およびオリゴマーホスフィノコハク酸付加物を含むホスフィノコハク酸組成物をシステムに添加することを含む、水系システムにおける腐食を防止する方法であって、前記ホスフィノコハク酸組成物が、36〜49モルパーセントのビスホスフィノコハク酸付加物、および、27〜35モルパーセントのオリゴマーホスフィノコハク酸付加物を含む方法が記載されている。
【0007】
冷却水系は水を一部蒸発させながら水を循環させるので、蒸発の進行による水質の一定以上の劣化を防止するため、冷却水の一部をブローによって排出する操作を繰り返すが、ブロー水と共にリン化合物を海や河川や湖沼へ排出、放流すれば富栄養化の原因になる可能性がある。富栄養化を防止するためリン総量規制が強化されており、リン化合物の使用を極力低減させることが望ましい。
【0008】
また、防食剤として使用される亜鉛化合物は、PRTR法(「Pollutant Release and Transfer Registration」に関する一種の廃棄物規制法)の指定化学物質であり、亜鉛の多量流出は環境に対して悪影響を及ぼす可能性がある。さらに水質汚濁防止法の排水基準強化に伴い、亜鉛の基準値は、以前の上限5(mg−Zn/L)から2(mg−Zn/L)と厳しくなっている。
【0009】
しかし、従来の水系金属防食剤および水系金属防食方法では処理水中のリン、亜鉛濃度が高いため、冷却水ブロー排水等の処理水を河川等に直接放流すると富栄養化の原因になったり、排水基準を満たさない可能性があるため、何らかのさらなる処理が必要であった。特に、大型工場では、冷却水の使用量が多く、これに比例して冷却水処理薬剤の使用量も多くなるため、リン化合物、亜鉛化合物の使用量を少しでも少なくすることは、恒久的な課題である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2003−082479号公報
【特許文献2】特許第3372181号公報
【特許文献3】特許第4180383号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述のようにリン化合物および亜鉛化合物の使用量は極力低減することが望ましい。しかし、リンおよび亜鉛成分の量の不足は腐食障害に直結するため、冷却水処理薬剤等の水系金属防食剤には十分なリン化合物および亜鉛化合物を配合しなければならないという矛盾があった。
【0012】
本発明の課題は、金属の防食性能に優れ、かつリン化合物および亜鉛化合物の使用量を低減することが可能な水系金属防食剤および水系金属防食方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、オルトリン酸およびその塩のうち少なくとも1つと、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸およびその塩のうち少なくとも1つと、下記式(1)に示す有機リン酸およびその塩のうち少なくとも1つと、亜鉛塩と、を含む水系金属防食剤である。
【化1】


(式中、R,Rは、それぞれ独立して、H基、OH基、COOH基、または炭素数1〜4のアルキル基を示し、R,Rのうち少なくとも1つはCOOH基である。)
【0014】
また、前記水系金属防食剤において、前記オルトリン酸およびその塩のうち少なくとも1つの全リンとしての含有量をA、前記2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸およびその塩のうち少なくとも1つの全リンとしての含有量をB、前記式(1)に示す有機リン酸およびその塩のうち少なくとも1つの全リンとしての含有量をCとした場合、前記A,B,Cの関係が、A≧(B+C)であることが好ましい。ここで、「全リンとしての含有量」とは、各リン化合物の含有量を全リン含有量に換算して表したもの、という意味である。
【0015】
また、前記水系金属防食剤において、前記A,B,Cの関係が、A≧C≧Bであることが好ましい。
【0016】
また、前記水系金属防食剤において、さらに、(メタ)アクリル酸系水溶性ポリマおよびマレイン酸系水溶性ポリマのうち少なくとも1つを含むことが好ましい。
【0017】
また、本発明は、オルトリン酸およびその塩のうち少なくとも1つと、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸およびその塩のうち少なくとも1つと、下記式(1)に示す有機リン酸およびその塩のうち少なくとも1つと、亜鉛塩と、を処理対象の水系中に添加する水系金属防食方法である。
【化2】


(式中、R,Rは、それぞれ独立して、H基、OH基、COOH基、または炭素数1〜4のアルキル基を示し、R,Rのうち少なくとも1つはCOOH基である。)
【0018】
また、前記水系金属防食方法において、前記オルトリン酸およびその塩のうち少なくとも1つの全リンとしての添加量をa、前記2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸およびその塩のうち少なくとも1つの全リンとしての添加量をb、前記式(1)に示す有機リン酸およびその塩のうち少なくとも1つの全リンとしての添加量をcとした場合、前記a,b,cの関係が、a≧(b+c)であることが好ましい。ここで、「全リンとしての添加量」とは、各リン化合物の添加量を全リン添加量に換算して表したもの、という意味である。
【0019】
また、前記水系金属防食方法において、前記a,b,cの関係が、a≧c≧bであることが好ましい。
【0020】
また、前記水系金属防食方法において、さらに、(メタ)アクリル酸系水溶性ポリマおよびマレイン酸系水溶性ポリマのうち少なくとも1つを添加することが好ましい。
【0021】
また、前記水系金属防食方法において、前記オルトリン酸およびその塩のうち少なくとも1つ、前記2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸およびその塩のうち少なくとも1つ、ならびに前記式(1)に示す有機リン酸およびその塩のうち少なくとも1つを全リン濃度の合計量として0.1〜5(mgPO3−/L)になるように、前記亜鉛塩を亜鉛濃度として0.1〜2(mg−Zn/L)になるように処理対象の水系中に添加することが好ましい。
【0022】
また、前記水系金属防食方法において、前記オルトリン酸およびその塩のうち少なくとも1つ、前記2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸およびその塩のうち少なくとも1つ、ならびに前記式(1)に示す有機リン酸およびその塩のうち少なくとも1つを全リン濃度の合計量として0.1〜5(mgPO3−/L)になるように、前記亜鉛塩を亜鉛濃度として0.1〜2(mg−Zn/L)になるように、前記アクリル酸系水溶性ポリマおよびマレイン酸系水溶性ポリマのうち少なくとも1つを0.1〜100(mg/L)になるように処理対象の水系中に添加することが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明では、オルトリン酸およびその塩のうち少なくとも1つと、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸およびその塩のうち少なくとも1つと、上記式(1)に示す有機リン酸およびその塩のうち少なくとも1つと、亜鉛塩と、を含むことにより、金属の防食性能に優れ、かつリン化合物および亜鉛化合物の使用量を低減することが可能な水系金属防食剤を提供することができる。
【0024】
また、本発明では、オルトリン酸およびその塩のうち少なくとも1つと、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸およびその塩のうち少なくとも1つと、上記式(1)に示す有機リン酸およびその塩のうち少なくとも1つと、亜鉛塩と、を処理対象の水系中に添加することにより、金属の防食性能に優れ、かつリン化合物および亜鉛化合物の使用量を低減することが可能な水系金属防食方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の実施の形態について以下説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0026】
本実施形態においては、オルトリン酸およびその塩のうち少なくとも1つと、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸(PBTC)およびその塩のうち少なくとも1つと、上記式(1)に示す特定の有機リン酸およびその塩のうち少なくとも1つと、亜鉛塩と、を含む水系金属防食剤により、冷却水処理系等の水処理系全般において、金属部材等の金属の腐食を防止するために適用することができる。
【0027】
本発明者らは、ある特定の有機リン酸塩とオルトリン酸塩を用いれば総リン使用量および併用する総亜鉛使用量を最小限に抑えられることを見出し、環境負荷低減および排水基準に対する法令を遵守可能な水系金属防食剤および水系金属防食方法を完成させた。
【0028】
本実施形態に係る水系金属防食剤および水系金属防食方法は、オルトリン酸およびその塩のうち少なくとも1つ、PBTCおよびその塩のうち少なくとも1つ、上記式(1)に示す特定の有機リン酸およびその塩のうち少なくとも1つ、亜鉛塩の防食性能の相乗効果により、配管や熱交換器等における鉄系金属等の金属の腐食を効果的に防止する。
【0029】
オルトリン酸の塩としては、特に制限はないが、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等が挙げられる。
【0030】
2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸(PBTC)の塩としては、特に制限はないが、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等が挙げられる。
【0031】
【化3】


(式中、R,Rは、それぞれ独立して、H基、OH基、COOH基、または炭素数1〜4のアルキル基を示し、R,Rのうち少なくとも1つはCOOH基である。)で示される化合物において、アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基等が挙げられ、親水性等の点からメチル基が好ましい。式(1)に示す化合物の塩としては、特に制限はないが、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等が挙げられる。式(1)に示す化合物の具体例としては、例えば、下記に示す化合物(RがOH基、RがCOOH基)が挙げられ、親水性等の点から好ましい。
【化4】

【0032】
亜鉛塩としては、亜鉛の塩であればよく特に制限はないが、例えば、塩化亜鉛、硫酸亜鉛等が挙げられ、コストと製剤性等の点から塩化亜鉛が好ましい。
【0033】
本実施形態に係る水系金属防食剤の組成としては、特に制限はないが、オルトリン酸およびその塩のうち少なくとも1つの全リンとしての含有量をA、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸およびその塩のうち少なくとも1つの全リンとしての含有量をB、上記式(1)に示す有機リン酸およびその塩のうち少なくとも1つの全リンとしての含有量をCとした場合、A,B,Cの関係が、A≧(B+C)であることが好ましい。これにより、金属の防食性能がより向上する。これについては、防食機構上の観点から、カソード防食を亜鉛塩、アノード防食をリン系化合物で行う必要があるが、オルトリン酸塩を有機リン酸塩の当量以上配合したことにより、アノード防食がより強固になったことなどから、金属の防食性能がより向上したものと推測できる。
【0034】
また、A,B,Cの関係が、A≧C≧Bであることが好ましい。これにより、金属の防食性能がさらに向上する。
【0035】
例えば、本実施形態に係る水系金属防食剤の配合組成は、防食性やスケール防止性等の観点から、防食剤配合品の総重量に対して、上記式(1)で示す化合物およびその塩のうち少なくとも1つが好ましくは0.1〜10重量%、より好ましくは1〜5重量%であり、オルトリン酸およびその塩のうち少なくとも1つが好ましくは0.1〜10重量%、より好ましくは1〜5重量%であり、亜鉛塩が好ましくは0.1〜10重量%、より好ましくは1〜5重量%である。上記配合する各成分の総含有量が1重量%未満の場合には薬剤使用濃度が著しく多くなり、50重量%を超える場合には時に薬剤の安定性が損なわれる可能性がある。
【0036】
また、本実施形態に係る水系金属防食剤において、さらに、(メタ)アクリル酸系水溶性ポリマおよびマレイン酸系水溶性ポリマのうち少なくとも1つを含むことが好ましい。(メタ)アクリル酸系水溶性ポリマおよびマレイン酸系水溶性ポリマのうち少なくとも1つは、主にスケール分散剤としての機能を有する。
【0037】
スケール抑制、分散等を目的として併用してもよい(メタ)アクリル酸系ポリマやマレイン酸系ポリマなどの水溶性ポリマとしては、具体的には、ポリアクリル酸、ポリマレイン酸、アクリル酸と2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸との重合体等が挙げられ、これらは単独で用いても混合して用いてもよい。また、これら水溶性ポリマの中にはスケール分散性能とともに防食性能を有しているものもあり、それらのものを併用すれば、より水処理剤としての防食性能が向上することは言うまでもない。
【0038】
(メタ)アクリル酸系水溶性ポリマおよびマレイン酸系水溶性ポリマのうち少なくとも1つの配合組成は、効果、コスト、製剤性等の点から、防食剤配合品の総重量に対して、好ましくは0.1〜50重量%、より好ましくは0.1〜20重量%である。
【0039】
本実施形態に係る水系金属防食剤は、アゾール系化合物などの銅防食剤、菌類抑制剤など、他の成分を含んでもよい。
【0040】
処理対象の水系における被対象金属である熱交換器が銅系の材質である場合には、銅や銅合金等の銅系金属用の防食剤であるアゾール系化合物を本実施形態に係る水系金属防食剤に配合するのが好ましい。そのようなアゾール系化合物としては、例えば、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、アミノトリアゾールなどが挙げられ、ベンゾトリアゾールまたはトリルトリアゾールが製剤性等の点から好ましい。これらは単独で用いても混合して用いてもよい。
【0041】
アゾール系化合物の配合組成は、効果、コスト、製剤性等の点から、防食剤配合品の総重量に対して、好ましくは0.1〜2重量%、より好ましくは0.1〜1重量%である。
【0042】
さらに、スライムや微生物腐食等の発生を防ぐため、菌類抑制剤を、本実施形態に係る水系金属防食剤に配合することが好ましい場合もある。そのような菌類抑制剤としては、例えば、次亜塩素酸塩類、次亜臭素酸塩類、有機硫黄窒素化合物類、有機臭素窒素化合物類などが挙げられ、これらは単独で用いても混合して用いてもよい。特に製剤性等の点から有機硫黄窒素化合物類が好ましく、その具体例としては、2−メチル−3−イソチアゾロン、5−クロロ−2−メチル−3−イソチアゾロン、4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−3−イソチアゾロンなどが挙げられ、これらは単独で用いても混合して用いてもよい。
【0043】
菌類抑制剤の配合組成は、効果とコスト等の点から、防食剤配合品の総重量に対して、好ましくは1〜30重量%である。
【0044】
また、本実施形態に係る水系金属防食剤には溶剤として水等を含んでもよい。水の含有量は、好ましくは5〜95重量%、より好ましくは20〜80重量%である。
【0045】
本実施形態に係る水系金属防食方法は、オルトリン酸およびその塩のうち少なくとも1つと、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸およびその塩のうち少なくとも1つと、上記式(1)に示す有機リン酸およびその塩のうち少なくとも1つと、亜鉛塩と、を処理対象の水系中に添加する方法である。
【0046】
例えば、オルトリン酸およびその塩のうち少なくとも1つを水系に0.1〜10mg(PO/L)添加し、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸およびその塩のうち少なくとも1つを水系に0.1〜10mg(PO/L)添加し、上記式(1)に示す有機リン酸およびその塩のうち少なくとも1つを水系に0.1〜10mg(PO/L)添加し、亜鉛塩を水系に0.1〜2mg(Zn/L)添加するとよい。
【0047】
本実施形態に係る水系金属防食方法において、オルトリン酸およびその塩のうち少なくとも1つの全リンとしての添加量をa、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸およびその塩のうち少なくとも1つの全リンとしての添加量をb、式(1)に示す有機リン酸およびその塩のうち少なくとも1つの全リンとしての添加量をcとした場合、a,b,cの関係が、a≧(b+c)であることが好ましい。これにより、金属の防食性能がより向上する。
【0048】
本実施形態に係る水系金属防食方法において、a,b,cの関係が、a≧c≧bであることが好ましい。これにより、金属の防食性能がさらに向上する。
【0049】
本実施形態に係る水系金属防食方法において、オルトリン酸およびその塩のうち少なくとも1つ、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸およびその塩のうち少なくとも1つ、ならびに式(1)に示す有機リン酸およびその塩のうち少なくとも1つを全リン濃度の合計量として0.1〜5(mg−PO3−/L)になるように、亜鉛塩を亜鉛濃度として0.1〜2(mg−Zn/L)になるように処理対象の水系中に添加することが好ましい。これにより、金属の防食性能に優れ、かつリン化合物および亜鉛化合物の使用量を低減することが可能となる。また、リン化合物および亜鉛化合物の使用量を低減することにより、リン化合物および亜鉛化合物との反応生成物であるリン酸亜鉛のスケール化を抑制することができる。
【0050】
本実施形態に係る水系金属防食方法において、さらに、(メタ)アクリル酸系水溶性ポリマおよびマレイン酸系水溶性ポリマのうち少なくとも1つを添加することが好ましい。
【0051】
例えば、(メタ)アクリル酸系水溶性ポリマおよびマレイン酸系水溶性ポリマのうち少なくとも1つを水系に0.1〜100(mg/L)添加するとよい。
【0052】
特に、オルトリン酸およびその塩のうち少なくとも1つ、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸およびその塩のうち少なくとも1つ、ならびに式(1)に示す有機リン酸およびその塩のうち少なくとも1つを全リン濃度の合計量として0.1〜5(mg−PO3−/L)になるように、亜鉛塩を亜鉛濃度として0.1〜2(mg−Zn/L)になるように、アクリル酸系水溶性ポリマおよびマレイン酸系水溶性ポリマのうち少なくとも1つを0.1〜100(mg/L)になるように処理対象の水系中に添加することが好ましい。これにより、金属の防食性能に優れ、かつリン化合物および亜鉛化合物の使用量を低減することが可能となる。また、リン化合物および亜鉛化合物の使用量を低減することにより、リン化合物および亜鉛化合物との反応生成物であるリン酸亜鉛のスケール化を抑制することができる。
【0053】
また、本実施形態に係る水系金属防食方法において、アゾール系化合物などの銅防食剤、菌類抑制剤など、他の成分を添加してもよい。例えば、アゾール系化合物を水系に0.1〜10(mg/L)添加するとよい。
【0054】
水系金属防食剤が菌類抑制剤を含有するか否かによって、配合量などの観点から、本実施形態に係る水系金属防食剤の使用濃度は異なってくるのが通常である。したがって、本実施形態に係る水系金属防食剤が菌類抑制剤を含有していない場合は、水系において該防食剤を20〜300mg/Lの濃度範囲内に希釈、保持して使用すればよく、本実施形態に係る水系金属防食剤が菌類抑制剤を含有している場合は、水系において該防食剤を50〜1000mg/Lの濃度範囲内に希釈、保持して使用すればよい。
【0055】
本実施形態に係る水系金属防食剤および水系金属防食方法は、従来よりもリン使用量および亜鉛使用量を大きく低減しつつ、従来レベルの防食効果を損なわない。本実施形態に係る水系金属防食剤および水系金属防食方法により、処理対象となる水系から排出される冷却水ブロー水等の処理水を河川等に直接放流しても富栄養化を引き起こす可能性がほとんどなく、排水基準に抵触しない環境負荷低減型の金属防食剤の提供を実現でき、従来より格段に環境負荷を低減可能な金属防食方法を提供することができる。
【0056】
本実施形態に係る水系金属防食方法において、本実施形態に係る水系金属防食剤を用いればよいが、本実施形態に係る水系金属防食剤の各成分を別々に処理対象となる水系に添加しても同様の効果を得ることができるのは勿論のことであり、処理対象となる水系に各成分を添加した段階で本実施形態に係る水系金属防食方法の範囲に含まれることになることは言うまでもない。
【0057】
本実施形態に係る水系金属防食剤および水系金属防食方法は、金属部材等の金属の腐食を防止するために、冷却水処理系、排水処理系、工業用水処理系、純水処理系等の各種水処理系全般に適用することができるが、冷却水処理系、特に大型工場での冷却水処理系で有利に用いることができる。被対象金属としては、鉄、SUS等の鉄系や、銅系等の金属が挙げられる。
【実施例】
【0058】
以下、実施例および比較例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0059】
<実施例および比較例>
各成分を表1に示す実施例および比較例に示す添加濃度となるように試験水中に添加し、相模原市水を用いて、工業用水腐食試験法(JIS−K 0100)に従い、水温35℃、撹拌回転速度:150rpmで、7日間の金属試験片(軟鋼(SS400)、30mm×50mm×1mm)腐食後の質量減によって軟鋼の腐食速度:MDD(mg/dm・dayを表す)を測定した。
【0060】
【表1】

【0061】
なお、表1中の略号は以下の通りである。
PO:オルトリン酸
PBTC:「Bayhibit AM」(2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸、50%溶液、ランクセス社)
HPA:「Belcor−575」(ヒドロキシホスホノ酢酸、BWA社)
ZnCl:塩化亜鉛
AA/AMPS:「Acumer2000」(アクリル酸/2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸の共重合体、重量平均分子量 4500、ローム&ハース社)
【0062】
また、表1中の各リン化合物の濃度は、全リンとしての濃度(mg−PO3−/L)、亜鉛塩の濃度は亜鉛(Zn)としての濃度(mg−Zn/L)である。なお、実施例1において、リン化合物としては、HPOを2.06mg/L、PBTCを1.42mg/L、HPAを2.46mg/L添加している。この場合、全リンとしては、表1の通り、HPOでは2.0mg−PO3−/L、PBTCでは0.5mg−PO3−/L、HPAでは1.5mg−PO3−/L、となるように添加していることになる。
【0063】
また、試験に用いた相模原市水の性状は以下の通りである。
pH(25℃):7.3
電気伝導率(μS/cm):177
酸消費量[pH4.8](mg−CaCO/L):47
全硬度(mg−CaCO/L):63
カルシウム硬度(mg−CaCO/L):44
塩化物イオン(mg−Cl/L):8
イオン状シリカ(mg−SiO/L):32
鉄(Fe)(mg−Fe/L):<0.05
【0064】
表1からわかるように、実施例1〜9では、比較例1〜15に比べて、金属の防食性能に優れ、かつリン化合物および亜鉛化合物の使用量を低減することが可能であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オルトリン酸およびその塩のうち少なくとも1つと、
2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸およびその塩のうち少なくとも1つと、
下記式(1)に示す有機リン酸およびその塩のうち少なくとも1つと、
亜鉛塩と、
を含むことを特徴とする水系金属防食剤。
【化1】


(式中、R,Rは、それぞれ独立して、H基、OH基、COOH基、または炭素数1〜4のアルキル基を示し、R,Rのうち少なくとも1つはCOOH基である。)
【請求項2】
請求項1に記載の水系金属防食剤であって、
前記オルトリン酸およびその塩のうち少なくとも1つの全リンとしての含有量をA、前記2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸およびその塩のうち少なくとも1つの全リンとしての含有量をB、前記式(1)に示す有機リン酸およびその塩のうち少なくとも1つの全リンとしての含有量をCとした場合、前記A,B,Cの関係が、A≧(B+C)であることを特徴とする水系金属防食剤。
【請求項3】
請求項2に記載の水系金属防食剤であって、
前記A,B,Cの関係が、A≧C≧Bであることを特徴とする水系金属防食剤。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の水系金属防食剤であって、
さらに、(メタ)アクリル酸系水溶性ポリマおよびマレイン酸系水溶性ポリマのうち少なくとも1つを含むことを特徴とする水系金属防食剤。
【請求項5】
オルトリン酸およびその塩のうち少なくとも1つと、
2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸およびその塩のうち少なくとも1つと、
下記式(1)に示す有機リン酸およびその塩のうち少なくとも1つと、
亜鉛塩と、
を処理対象の水系中に添加することを特徴とする水系金属防食方法。
【化2】


(式中、R,Rは、それぞれ独立して、H基、OH基、COOH基、または炭素数1〜4のアルキル基を示し、R,Rのうち少なくとも1つはCOOH基である。)
【請求項6】
請求項5に記載の水系金属防食方法であって、
前記オルトリン酸およびその塩のうち少なくとも1つの全リンとしての添加量をa、前記2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸およびその塩のうち少なくとも1つの全リンとしての添加量をb、前記式(1)に示す有機リン酸およびその塩のうち少なくとも1つの全リンとしての添加量をcとした場合、前記a,b,cの関係が、a≧(b+c)であることを特徴とする水系金属防食方法。
【請求項7】
請求項6に記載の水系金属防食方法であって、
前記a,b,cの関係が、a≧c≧bであることを特徴とする水系金属防食方法。
【請求項8】
請求項5〜7のいずれか1項に記載の水系金属防食方法であって、
さらに、(メタ)アクリル酸系水溶性ポリマおよびマレイン酸系水溶性ポリマのうち少なくとも1つを添加することを特徴とする水系金属防食方法。
【請求項9】
請求項5〜8のいずれか1項に記載の水系金属防食方法であって、
前記オルトリン酸およびその塩のうち少なくとも1つ、前記2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸およびその塩のうち少なくとも1つ、ならびに前記式(1)に示す有機リン酸およびその塩のうち少なくとも1つを全リン濃度の合計量として0.1〜5(mgPO3−/L)になるように、前記亜鉛塩を亜鉛濃度として0.1〜2(mg−Zn/L)になるように処理対象の水系中に添加することを特徴とする水系金属防食方法。
【請求項10】
請求項8に記載の水系金属防食方法であって、
前記オルトリン酸およびその塩のうち少なくとも1つ、前記2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸およびその塩のうち少なくとも1つ、ならびに前記式(1)に示す有機リン酸およびその塩のうち少なくとも1つを全リン濃度の合計量として0.1〜5(mgPO3−/L)になるように、前記亜鉛塩を亜鉛濃度として0.1〜2(mg−Zn/L)になるように、前記(メタ)アクリル酸系水溶性ポリマおよびマレイン酸系水溶性ポリマのうち少なくとも1つを0.1〜100(mg/L)になるように処理対象の水系中に添加することを特徴とする水系金属防食方法。

【公開番号】特開2012−31448(P2012−31448A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−170049(P2010−170049)
【出願日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【出願人】(000004400)オルガノ株式会社 (606)
【Fターム(参考)】